「隠れ家カフェとメンタルヒーリング」
ゆうき
えみ
店主
・道
えみ まじで良いお店らしくて、教えてくれたその人も、コーヒーの概念変わったって言ってた
ゆうき そんなにすごいの?
えみ 何か、いわゆる「隠れ家カフェ」みたいな感じなんだけど、カフェだけじゃなくて、メンタルヒーリング? みたいなこともやってるらしくて
ゆうき へえ~
えみ ゆうきコーヒー好きでしょ?
ゆうき うん
えみ だよね!絶対連れていきたいって思ってたんだ~
・店
ゆうき ここ?
えみ うん。…開けていいのかな?
ドアが開く。
店主 いらっしゃいませ
えみ あ、ここって、「カフェ・ラ・プラス」ですか?
店主 はい、そうでございます
えみ よかった~
店主 ご予約はされていますか?
えみ はい、3時から二人で予約してます、佐藤えみです
店主 えみさん、ですね。お友達のお名前もお伺いして良いですか?
ゆうき あ、高橋ゆうきです
店主 ゆうきさん。では、当店は先払いをお願いしておりますので、料金から頂戴します
えみ あ、はい
席に着く二人。
店主 えみさん、ゆうきさん。ようこそ、お越しくださいました。この店のことは、どこでお知りになったんですか?
えみ 私たちも普段カフェで働いてるんですけど、お客さんが「ここめっちゃいいよ~」って教えてくれて、で、調べてみたらめっちゃお洒落で、完全予約制って書いてあったので、予約してきてみました!
店主 そうなんですね。当店では、コーヒー豆を選んで、挽いていただくところまでお客様に体験してもらっています。ただの飲み物としてのコーヒーではなく、豆と向き合い、自分と向き合うことで、ここでの時間を特別なものにできるからです。今の世の中って、小さなストレスが多いじゃないですか。命に係わるとか、そういう大きなストレスではないけれど、なんだかモヤっとする、そういうこと、ありませんか?
えみ あります~めっちゃあります。ずっとそうだよね?
ゆうき そうだね
店主 ゆうきさんも何か、そういう心当たりありますか?
ゆうき うーん、そうですね…
えみ この子、失恋したんです
ゆうき ちょっとやめてよ~
店主 そうなんですか?
ゆうき 失恋っていうか、告白して振られただけです
えみ こんな可愛い子に告白されたのに振るなんてありえなくないですか?「彼女いるんで」って言われたらしいんですよ
店主 ああ
えみ つらいよね~めっちゃ好きだったもんね?
ゆうき まあね…
店主 えみさんは、何かモヤモヤしていることとか?
えみ えみは、彼氏いるんで、そういう甘酸っぱいのとかはないけど…仕事が大変だなあとか、お金ないなあとか
店主 ああ~
えみ 服とかすぐ買っちゃうんですよ。それで全然お金なくて
店主 それも難しいですよね
えみ そう!買わなきゃいいじゃんって言う人いるけどさ、じゃあ何のために働いてんのって話じゃん?
店主 わかりますよ。では、これからお二人に、先ほど選んでいただいた豆を挽いていただこうと思います。この、豆の一つ一つに、そういった日々の小さいストレスとか、モヤモヤした気持ちが宿っていると思って、思いっきり挽いてください
えみ 悩みをぶっ潰すみたいなね
店主 そうですそうです
ゆうき でも、それ後で飲むんですよね?
店主 そうです。小さなストレスは、捨てても意味がないんです。無視しても、また出てくるんです。そうではなく、飲み込んでしまう、弱い自分と向き合うということが、最も効果的なメンタルヒーリングになるんです
ゆうき へえ…
店主、コーヒーミルを持ってくる。
店主 どうぞ
えみ、豆を挽き始める。
店主 どんなに些細なことでも、知らないうちに蓄積しているのがストレスです。悲しみや怒りと呼ぶには足りないような感情、小さなモヤモヤも全て砕くようなつもりで挽いてください
えみ、一心不乱に豆を挽き続ける。次第に涙ぐんでくる。
ゆうき えみ大丈夫?
えみ …うん、ごめん。大丈夫
店主 我慢しなくていいんですよ。涙を流すことも、メンタルヒーリングになりますから
えみ …なんか、仕事のこととか、人間関係とか。いろいろ考えてたんです。家族とか、彼氏とか。自分はたぶん、そういうのに恵まれてる人なんだと思うけど…でも、やっぱり、嫌なこととか、なんでこうなるんだよってことも多くて…
店主 あなたは悪くないんですよ
えみ ありがとうございます…
えみ、豆を挽き続ける。
えみ ゆうき?
ゆうき ん?
えみ ゆうきは何考えてる?
ゆうき 私は…何だろう…
店主 何でもいいんですよ。振られちゃった相手のことでも
ゆうき うーん…確かに振られてショックだったけど…それは仕方のないことだと思うんだよね
えみ ゆうき優しすぎだよ、もっと怒っていいのに
ゆうき だって、私が勝手に好きになっただけだし…
店主 でも、もしそれであなたが傷ついたのなら、そのストレスの原因は、その人にあると言っていいと思いますよ
ゆうき …
店主 完璧な人なんていないんです。だから、私たち一人一人が、小さなストレスを潰していくしかないんです
ゆうき、豆を挽き始める。次第に吹っ切れてくる。
ゆうき はぁ、はぁ…
店主 少しは楽になりました?
ゆうき はい、少しは…スッキリしたかも
えみ 良かったじゃん!あ、お手洗いってありますか?
店主 はい、あちらの角にございます
えみ、席を離れる。
店主 えみさんとは仲良しですか?
ゆうき え?…はい
店主 何だか、振り回されているように見えますけど
ゆうき 自由人なんですよ、えみは。私とは全然性格違うけど、仲良しです
店主 憎くはないんですか
ゆうき え?
店主 いつも自由で、ゆうきさんを振り回して。好きなことをしゃべって、好きなことにお金を使って。彼氏もいて
ゆうき そんな、まあちょっとうらやましいところはありますけど…
店主 実際、不平等だと思いませんか?ゆうきさんのほうがよっぽど可愛いのに
ゆうき いや…不平等だなとは、思います
店主 そうでしょう
ゆうき …なんでああいう子ばっかり得をしているのか、理解できない
ゆうき、豆を挽く手に力が入る。
しばらくして、コーヒーが提供される。
えみ すっごい美味しい!こんなコーヒー初めて!
店主 当店は焙煎、抽出にもこだわっていますので
えみ ゆうき、どう?
ゆうき、コーヒーを飲む。
少しの沈黙。
ゆうき ごめん…
えみ ゆうき?
ゆうき 美味しくない
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