〇病院・外(夕)
道を歩いている烏間。
大谷の声「すみません」
大谷健司(32)が声をかける。
烏間「はい?」
振り向く烏間。
大谷「烏間敏明さんですか」
烏間「…はい」
大谷「捜査一課の大谷と言います」
思わず敬礼する烏間。
烏間「お疲れ様です!」
大谷「ちょっと佐野間伊月さんのことで。話いいですか」
烏間「はい?」
〇公園・中(夕)
噴水の前で向かい合う大谷と烏山。
大谷「彼女もあなたも不憫ですよね。こんなことに巻き込まれて」
烏間「俺は別に…」
大谷「でもなんで佐野間さんはあの河川敷にいたんでしょうか」
烏間「は?」
大谷「今回、捕まったのは早川紫織さんですが、あそこにいたってことは佐野間さん自身も何か絡んでる可能性は否定できないですよね」
烏間「彼女を疑ってるんですか」
大谷「…どうでしょうか」
烏間「彼女はまじめでそんなことする人じゃありません!」
大谷「烏丸さんもよくご存じでしょう。犯人に近い人たちはみんなそういうんです。では」
烏間「…」
大谷「まあいいや。何かあったらこの番号までお電話を」
電話番号を烏間に渡し、去っていく大谷。
大谷をにらみつける烏間。
〇警察署・捜査一課
一課に戻ってくる大谷。
大谷「戻りましたー」
佐伯「大谷」
佐伯信孝(45)が大谷を呼び止める。
大谷「はい?」
佐伯「弁護士の彼女どうだ?」
大谷「まだ難しいっぽいすね」
佐伯「そうか面接許可出たら事情聴取行くからな」
大谷「うっす」
佐伯「とりあえず今は目の前のものに集中するぞ」
大谷「…うす」
そういって取調室へ歩いていく佐伯。
大谷、佐伯についていく。
〇病院・中庭(夕)
ベンチに一人で座っている伊月。
反対側の窓に映る自分の姿。
5歳のころの伊月と今の伊月が重なって
見える
伊月「あの頃と何も変わってないじゃん私…(ため息をついて)少しは強くなったと思ったのにな」
〇交番・中
T「次の日」
机に伏せっている烏間。
巡回から戻ってくる平山。
平山「シフト、変わらなくてよかったのか」
烏間「大丈夫ですよ。多分…」
平山「で、彼女さん疑ってる刑事って誰なんだよ」
烏間「確か大谷っていう…」
平山「あいつか」
烏間「平山さん、知り合いですか」
平山「捜査一課にいたころの腐れ縁よ」
烏間「え、捜査一課?」
平山「話してなかったか?」
烏間「初耳です」
平山「そんなことよりそんな大事なことになってるなら、彼女さんの冤罪晴らすほうが警官として先にすべきじゃないのか」
烏間「でも何をどうすべきなのか…」
平山「会いに行きゃいいだろ。その目で先生とやらに聞いて来いよ。被害者の女の子は誰なのか」
そういうと交番から烏間を追い出す平山。
平山「あとで飯、おごれよ」
烏間「すみません…」
駆けだしていく烏間。
手を振って見送る平山。
〇警察署・取調室・中
大谷「だから、お前がやったんだろうが!」
大谷と向かい合っている紫織。
背後で大谷と紫織のやり取りを見ている佐伯。
紫織「…証拠はあるの」
大谷「遺体が見つかった」
紫織「…どこから」
大谷「k…」
佐伯「それは答えられない」
紫織「私に利益な情報は教えないってこと?」
面白そうに佐伯を見る紫織。
佐伯「…」
紫織「見つかるといいわね。私が犯人たる確たる証拠が」
微笑む紫織。
顔を見合わせる佐伯と大谷。
〇大衆食堂・中
大谷「どうなってんですか」
うどんをすする大谷。
佐伯「どうなってるって俺に言われてもな…」
困ったように定食の味噌汁を飲む佐伯。
大谷「おかしいと思いませんかだってここまで何も吐かないなんて…」
烏間の声「おかしいんですよ」
烏間の声に顔を上げる大谷と佐伯。
二人の前に立つ烏間。
烏間「ご一緒しても?」
大谷「あ、どうぞ…」
佐伯「こちらは?」
大谷「今回の第一発見者、佐野間伊月さんのお友人で横浜交番にお勤めの烏間さんです」
佐伯「どうも」
烏間「どうも。ちなみに伊月はなんもやってないですよ。この件に関しては特に」
大谷「え?なんでそう言い切れるんですか」
烏間「大谷さんたちって今、早川紫織の担当してます?」
顔を見合わせる大谷と佐伯。
佐伯「何か情報をお持ちなんですか」
烏間「確実な証言になるかわかりません。俺と彼女を合わせてもらえませんか」
再び顔を見合わせる佐伯と大谷。
〇警察署・取調室・中
手錠で遊んでいる紫織。
ノックされるドア。
前を向き直る紫織。
中に入ってくる烏間。
紫織「あら珍しい」
× × ×
マジックミラー越しに烏間と汐里の様子を見ている佐伯と大谷。
大谷「本当によかったんですか。行ってみればやつも容疑者ですよ」
佐伯「(苦笑いして)ちょっとこっちにも色々
あってな」
大谷「なんすか、それ」
佐伯のスマホになるメッセージ着信音。
送り主は平山。
〇交番・中
上機嫌で掃除をしている平山。
平山「やっぱ持つべきは友達だよな」
通りがかる小学生に定規減であいさつする平山。
不審がる小学生たち。
〇警察署・取調室・中
紫織と向き合っている烏間。
烏間「俺はずっとあなたと話したかったのか
もしれない」
紫織「うれしいわ。なんで?」
烏間「あの時の授業、どういう意味ですか」
紫織「授業?」
顔をしかめる紫織。
× × ×
大谷・佐伯「授業?」
同時に顔をしかめる佐伯と大谷。
佐伯「早川は先生か何かやっていたのか」
大谷「だいぶ前に。もう退職しています」
佐伯「何の」
大谷「法科大学の教授です。何でも犯罪心理学専攻だったとか」
佐伯「そこに烏間と佐野間は…」
大谷「えっと(名簿を見て)…いました!二人とも彼女の授業を受講してました!」
佐伯「だからか…今回ちょっと厄介そうだな」
二人を見つめる佐伯。
大谷「…」
× × ×
烏間「覚えてないですか。心理学のサイコパスの授業」
紫織「あ、善悪の?」
烏間「人は見かけによらないってやつです」
紫織「うん。で、どうだった?」
烏間、鉄格子のはめられた窓に視線を移
す。
烏間「でも人って見かけによると思うんです」
紫織「へえ…なんで」
烏間「だって、自分のことなんて自分にすらわからないし、人に見かけで判断しないでほしいなんてふざけたこと言ってみてくださいよ。きっと9割の人が自分を評価してくれなくなりますよ」
紫織「言ってることがよくわからない」
烏間「要は自分のことは自分がよくわかってるってことです」
紫織「…」
烏間「話してみませんかきちんと」
紫織「…」
烏間を意外そうに見る紫織。
紫織「烏間君って思っていたより自分の意見キチンと言える子だったんだね」
烏間「…なんですかそれ」
紫織「でもだめよ。簡単に答えを教えてもらおうとしたら。もっとちゃんと私を追い詰めないと」
そういってニヤリとする紫織。
固まる烏間。
〇病院・病室・中
烏間「失敗したー」
椅子に座って頭を抱えている烏間。
捜査資料を読んでいる伊月。
伊月「だからさ、あの人に真正面から切り込んでいくこと自体が間違いなんだよ」
烏間「だって、そんなこと言ったって!」
伊月「ああいう相手はね、心理戦が大好きなの。ばれたくない秘密をばらされるのか、ばらされないのか。そういった駆け引きするのが大好きなの」
烏間「そんなこと言ったって寝込んでたじゃん!」
伊月「だてに寝込んでたわけじゃないわよ」
写真を烏間の前に並べる伊月。
烏間「なんだよこれ…」
伊月「超極秘ルートで手に入れた早川紫織と被害者白川泉ちゃんのツーショット写真」
烏間「…まじか」
伊月「ちなみに、二人に親子関係はなく、過去にこれといったつながりもなかった。でも探ってみたら彼女、泉ちゃんの幼稚園によく通っていたみたい」
烏間「子供いないのに?」
伊月「いないのに!ボランティアって称してお手伝いにも行ってたって。怖いよねえ」
烏間「そんなのどうやって調べたんだよ」
目の前のPCをたたく伊月。
伊月「ちなみに幼稚園にも電話で日にち確認済み」
烏間「ほんとに大丈夫かよ…」
伊月「見てなさい。絶対彼女を有罪にして、罪を認めさせてやるから!」
烏間「ふつう逆だろ」
〇裁判所・廊下
スーツを着て歩く伊月。
〇法廷・中
T「公判」
裁判長が中に入ってくる。
裁判長「では始めます。検察側、罪状を」
検察「はい。本件は白川泉ちゃん5歳に対し被告人・早川紫織が殺害及び…」
検察の言葉を聞かず、紫織の顔を見てい
る伊月。
検察「検察側としては被告人に執行猶予なしの懲役15年を要求します」
裁判長「弁護人、何か言いたいことは」
伊月「言いたいこと?」
立ち上がる伊月。
伊月「申し訳ありません。状況の整理、把握のため被告人に質問の許可をいただいていいでしょうか」
裁判長「…どうぞ」
伊月「貴方は私に白か黒か判断しろといった。そのうえで質問します。いいですね」
紫織「もちろん」
伊月「白川泉ちゃんを殺害しましたか」
紫織「さあ?」
裁判官を見る伊月。
無表情の裁判官。
伊月「…では、質問を変えましょう。被害者とは面識がありましたでしょうか」
紫織「…なかったんじゃない?」
伊月「そこははっきり答えるんですね」
紫織「私も仕事してるし、そんな子供といつあったかなんて覚えてないわよ」
伊月「覚えてるはずです。だってあなた、いずみちゃんの幼稚園、ボランティアで数回行ってますもの」
ボードを持ち込む伊月。
伊月「裁判長、こちらは事実をさらに明確化するために用意したものです。持ち込みを認めていただけますか」
裁判長「認めます」
伊月「あなたは泉ちゃんに会おうとあの日幼稚園に遊びに行ったのではないでしょうか」
紫織「私が?何のために」
伊月「あなたは大学の教授を辞めてから幼稚園で読み聞かせのボランティアを始めた。その中で一番頼って慕ってくれる園児が泉ちゃんだったそうですね」
紫織「…」
伊月「実は、先生誰かかばっていたりして?」
ぎくりとする紫織。
伊月「やっと人間っぽい表情になりましたよ先生」
× × ×
(回想)幼稚園・廊下・中
廊下を歩く紫織。
物置小屋で物音がする。
紫織、こっそりのぞき込む。
泉の首を絞めている園長。
× × ×
紫織「…」
伊月「昔大学でご自身が離されていたことを覚えていますか。人は見かけによらない。今日、いい人だった人も明日には悪い人になる可能性があると」
紫織「言ったかもね」
伊月「園長先生だったんじゃないですか。泉ちゃんの殺害をしたのは。そしてその事実を知ったあなたは事実を隠そうとした。円を守るために」
裁判官「そんなことして何になる?園長が悪いなら捕まえ起訴することこそが…」
伊月「そんなのきれいごとです。園長が捕まれば殺人者がいた幼稚園とレッテルが張られ経営はできなくなる。そうしたら子供たちは大好きな先生と離れ離れになる。だからあなたは…」
紫織「…嘘よ」
伊月「なんて?」
紫織「全部私!私がやったの!泉ちゃん殺しもそう、死体の遺棄もそう。園長みたいなヘタレにできるわけないわ!」
伊月「(満足げに)そうですか」
紫織「…え」
伊月「(裁判官に向かって)罪を認めるそうです」
裁判官「弁護人はそれでいいのですか」
伊月「依頼者の望んでいない弁護を私はするつもりがありません。以上です」
席に着く伊月。
思わず顔を見合わせる検察と裁判官。
〇同・外
法廷から出てくる伊月。
烏間「伊月!」
烏間の声に振り向く伊月。
伊月「来てたの」
烏間「心配してきてやったんだろうが」
伊月「そっか…ありがと」
元気のない伊月。
伊月の顔を見て首をかしげる烏間。
〇同・中庭
並んで歩いている伊月と烏間。
伊月、ふと立ち止まる。
烏間「…どうした?」
伊月「これでよかったのかな」
烏間「何が」
伊月「わからないんだ。あの人がほんとはどうしてほしかったのか」
烏間「自分のしたことが間違えてたと思ってる?」
伊月「それは思っていないかな…だって多分これが自分の正義だから」
烏間「じゃあ、いいんじゃないか」
伊月「でも、どうすれば全員が後悔なく終わるのかとは思うよね。少なくとも早川さんはもやもやしてるかもだし」
烏間「…そんな裁判ないだろ」
伊月「…」
烏間「被害者と加害者が理解しあうときなんて100億年かけてもきっと来ないし、むしろみんながみんな幸せな結末ってのはきっと一番残酷な終わり方だよ」
伊月「ハッピーエンドはないってこと?」
烏間「ないから人はフィクションにハッピーエンドを求めるんだろ」
伊月「…そっか」
平山の声「烏間―!」
階段の下から叫んでいる平山の姿。
烏間「あ、俺、仕事抜け出してんだった」
伊月「ダメじゃん」
烏間「とにかく元気になったようでよかったよ!またな」
階段を駆け下りていく烏間。
どこかすっきりした様子で帰路につく伊月。
〇弁護士事務所・中
伊月「ただいま戻りましたー」
中に入る伊月。
宮野「いいところに。ちょっと」
伊月を呼ぶ宮野。
伊月「何か」
宮野「今回の弁護、負けたんだって?」
伊月「あ…はあ。すみません」
宮野「怒ってるわけじゃないの。こういうと
きもあるわ。でも、ちょっと調査費用は自
腹でお願いできる?」
伊月「え?入院費は…」
宮野「それもかな。申請下りないから」
そういって事務所を出ていく宮野。
伊月「やっぱハッピーエンドがいい!」
請求書を机に思いっ切りたたきつける伊
月。
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