○ スマホ画面
ツイッターの様なSNSのページ。
様々な人の投稿で画面が移り変わる。
オシャレなカフェの写真を載せている女性や、浜辺でビキニ姿の女性等。
○ 琢磨の部屋・リビング
そのスマホを見ているのは三好琢磨(21)。メガネを掛けて、いかにもオタクっぽい風貌。
右足は包帯で巻かれ、壁に寄りかかって座っている。
スマホ画面にはアヒル口に上目遣いの女子。『ニキビ出来た。ブチャイクなあたし』と書き込み。下にスクロールすると、『そんな事ない』や『可愛いですよ』とコメント。
琢磨「……」
琢磨、フリックで入力。
琢磨のM「確かにブサイクだな」
投稿を知らせる音。
琢磨「(スマホ見て)?」
スマホ画面には『ブスにブスって言われ
たくねえし』のコメント。
アヒル口女のM「ブスにブスっていわれたく
ねえし」
琢磨、フリックで入力。怒りの顔。
琢磨のM「俺の顔見た事ねえだろ」
アヒル口女のM「心がブス」
琢磨のM「ブスって言いながら写真を載せる
お前の方が心が汚れてるよ」
アヒル口女のM「黙れブス」
琢磨のM「ブスなら写真をネットに載せる
な! 大体写真なんか白くボカしてニキビ
すら見えねえよ! 可愛いが作れるのはカ
ラーフィルムが普及する前の1950年代
以前なんだよ! 昭和初期でやれ!」
琢磨「あ……」
スマホの画面には『ブロックされていま
す』と表示。
○ 撮影スタジオ・中
カメラマンの前でポーズをとる天音ルカ(20)。
カメラのシャッターが下りる度にポーズを変える。キメ顔。
○ カフェ・中
席に座るルカ。その側にカメラマン。
マグカップに口付けするルカ。カメラマンがシャッターを切る度キメ顔。
× × ×
一口サイズに切られたケーキを口に入れ
ようとするルカ。カメラに向かいキメ顔。
○ ルカの部屋・リビング(夜)
ソファの上で横になっているルカ。
風呂上がりで頭にタオルを巻いている。
スマホで連写自撮り。写真をチェックする。
○ スマホ画面
ルカのSNSページ。先ほど連写した写真が掲載。『ローズの花びらを浮かべて長風呂。のぼせた〜』と書き込み。
○ ルカの部屋・リビング
スマホを見ているルカ。
投稿を知らせる音。
ルカ「おっ」
スマホ画面には投稿者『エビフライ』か
ら『すっぴんでもキレイ』と書き込み。
ルカ「(含み笑い)フフン」
また、投稿を知らせる音。
ルカ「んん?」
コメント欄には『風呂上がりとかどうで
も良くて、スッピンでもキレイでしょ!
って押し付けたいんだろ! 自己愛のゴ
リ押しでサーバーに無駄な負荷をかける
な!』
ルカ「自己愛のゴリ押しでサーバーに無駄な
負担をかけるな?」
ルカ、コメントをした投稿者のページを
見る。
投稿者名は『ウォーキンレースマン』。
ルカ「何こいつ……」
色んな人に、悪口のコメントを残してい
る履歴多数。
○ 琢磨の部屋・リビング(夜)
琢磨、スマホを見ている。
ルカのSNSページ。プロフィール欄には『天音ルカ アイドル TV「イマドキ女子」出演 某有名雑誌掲載多数 世界平和』と書かれている。
琢磨「リア充ムカつくんだよ……」
琢磨の後ろにはトロフィーやメダルが多
数飾られている。
○ ルカが通う高校・教室(2年前)
休憩時間。生徒達が弁当を食べてたり、
談笑しているグループ等。
T「高校時代」。
窓際の席にルカ。その姿はメガネを掛け
ていて暗い雰囲気。
ルカ、読書をしている。本の表紙は『自
由英作文100選』。
談笑しているグループがルカの方を見て
笑っている。その中に藤咲成美(18)
の姿。成美、ルカに近づく。
成美「静香、勉強熱心ね」
と、本名で呼ぶ。
ルカ「ああ、はい」
成美「英語喋れるんだ」
ルカ「……イエス」
成美「ちょっと見せてよ」
と、本を取ろうとする。
ルカ「ダメっ」
と、本を抱きしめる。
成美「(態度が鼻につき)何?」
日比野彩香(18)が近づいて、
彩香「なになに、どうしたの?」
成美「貸してくれないの。大切な本みたいで」
彩香「(バカにして)本ばっか読んでるから
目が悪くなるんでしょ」
と、ルカのメガネを取る。
ルカ「ちょっと」
彩香、メガネを見て、
彩香「これ度強くね?」
成美「貸して貸して」
成美、メガネをかける。
成美「(周りを見渡し)ホントだ。きっつ」
彩香「めっちゃ可愛いじゃん。似合うよ成美」
生徒達が近づいて、「可愛い」や「似合
う」の声。
彩香「そのまま貰っちゃえば?」
成美「(冗談っぽく)そうしよっかな」
ぽっちゃり体型の堂愛美(18)が来て、
愛美「ちょっと返しなよ」
彩香「(キレて)はぁ?」
成美「(メガネ外し)はいはい。静香の大切
な友達が言うならね〜」
と、メガネをルカに返す。
ルカ「(成美の後はメガネ付け辛い)……」
彩香、愛美に顔を近づけて舌打ち。
成美、彩香たち離れる。
愛美「(心配そうに)静香、大丈夫?」
ルカ「(無理して)ただの戯れ合いよ」
ルカ、メガネを手に持ったまま。
○ 琢磨の高校・グラウンド
競技服で競歩をしている琢磨。
○ 同・テニスグラウンド
テニスに励む部活生。
そこから琢磨を見つめる三田那月(18)。女性の部活生Aも琢磨を見て、
部活生A「歩き方キモいね」
那月「名前なんて言うのかな?」
部活生A「知らないの? 三好琢磨。競歩で
有名だよ」
那月、琢磨を見つめる。
○ 同・グラウンド
ランニングする部活生を抜いていく琢磨。
○ 同・教室
授業中。琢磨は一番後ろの席。机の上に教科書を立て、スマホを隠している。
スマホは競歩選手の動画。
琢磨「(動画を凝視)」
○ 同・進路相談室(夕)
琢磨と母親の三好友美(40)と担任の紺野英子(38)が話をしている。
英子「××大学なら競歩の推薦でいいかもし
れませんが、今のパフォーマンス。あっ、
成績じゃ別の大学は厳しいと思います。体
育以外はオールワンですから」
と、英語の部分だけヤケに発音が良い。
友美「(モジモジして)全く恥ずかしい話で
す」
琢磨「競歩で××大学に入れればいいじゃん。
別に滑り止めとかいらねえし」
友美「たくちゃん」
琢磨「たくちゃんって言うなよ」
英子「三好くん、競歩ばかりしてもダメよ。
スタディー。あっ、勉強もしないと。文武
両道よ」
琢磨「(格好良いな)……文武両道……?」
○ 同・教室
授業中。英子が黒板に英語を書いている。
英子、振り返ると一番前の席に座るヤンキーっぽい男子を見て、
英子「ちょっと、授業中に紙飛行機作らない」
ヤンキー男子の机の上には紙飛行機。
不服そうにしながら紙飛行機を潰す。
琢磨、一番後ろの席で首を伸ばしている。
琢磨「(手を挙げ)先生」
英子「(振り向き)はい」
琢磨「文字が見えないので文字大きくしてく
れませんか?」
英子「えっ? それは出来ません」
琢磨「見えないので勉強が捗りません」
英子「三好くん、アナタが良くても相手が悪
ければ自分の意見を通す事は出来ないのよ。
交渉事はウィンウィンの関係じゃないと」
琢磨「じゃあ、席を前にして下さい」
英子「えっ?」
琢磨、ヤンキー男子の横に来て、
琢磨「一番後ろがいいよね?」
ヤンキー男子、潰した紙飛行機を見て、
ヤンキー男子「お、おう。後ろがいい」
琢磨「(先生を見て)ウィンウィンです」
英子「……」
× × ×
英子が英語の授業を行っている。
琢磨はメガネを掛けている。席は一番前。
英子「動詞には動作動詞と状態動詞がありま
すね」
琢磨「(手を挙げ)はい! 動作動詞と状態
動詞の違いとは何ですか?」
英子「うん、それを今から説明しますからね。
動作動詞はマルマルする。ですね。イート
やドリンクや」
琢磨「(手を挙げ)はい! じゃあ状態動詞
とはどういった事ですか?」
英子「(我慢して)うん、それを今から説明
しますから。状態動詞とはマルマルしてい
る。ですね。ビーロングや」
琢磨「(手を挙げ)はい!」
英子「(キレて)シャラップ!」
○ 同・全景(夕)
夕焼けに照らされる学校。
○ 琢磨の帰宅途中の道(夕)
琢磨、教科書を広げながら競歩のスピードで歩いている。
追い抜かれた、男子高校生。
男子高校生「(びっくり)」
○ 琢磨の家・外観(夕)
戸建の家。琢磨スピードを落とすことなく、家の中へ入っていく。
○ 同・琢磨の部屋(夜)
机に向かって勉強をしている琢磨。
部屋の外から友美の声が聞こえる。
友美の声「たくちゃんご飯よ〜」
琢磨「たくちゃんって言うなよ」
机の上のストップウォッチの音が鳴る。
琢磨、音を止め、立ち上がる。
部屋の中をグルグルと歩き出す琢磨。
○ 琢磨の高校・進路相談室
琢磨と友美と英子が話している。
英子、琢磨の成績の資料を見て、
英子「初めてです」
友美「え?」
英子「こんな短期間でオールファイブ。オー
ル5を取る人なんて」
友美「(モジモジして)何か恥ずかしいです
ね」
英子「しかし、三好君の素行に少々問題が」
友美「え? たくちゃんが何か問題を?」
琢磨「たくちゃん言うな」
英子「授業の妨害や危険な速度で通学してい
るという苦情が来ております」
琢磨「は? 俺は極めて普通だよ。ノープロ
ブレムだ」
英子「そのせいで授業中の幅寄せや、パワー
アップして輪廻天性した二宮金次郎など
様々なアダ名が付いています」
友美「えっ、いじめられてるんですか」
英子「いや、そうゆう訳ではないんですが」
琢磨「そ、そんな事ねえよ!」
と、勢い良く立ち上がる。椅子が倒れる。
ビックリする友美、英子。
琢磨「俺は、俺は……(言いたいが言えず)」
教室を出て行く琢磨。
友美「たくちゃん!」
進路相談室を出て行った琢磨の声。
琢磨の声「たくちゃん言うな!」
○ 同・ルカの部屋(夜)
『世界の歴史大辞典』を読んでいるルカ。
ルカの母親の天野依子(42)の声が聞
こえる。
依子の声「静香〜。勉強で疲れたでしょう。
ココアいる〜?」
ルカ「いや、今集中してるから!」
依子の声「そう。わかった〜」
ルカ、母親の足音が離れていくのを聞い
ている。
ルカ「……」
ルカ、本を持ち替える。
『女子力アップバイブル』の本。
ルカ、表紙のカバーを外し、『自由英作
文100選』に取り替える。
ルカ「よし」
と、積まれた本のカバーを取り替える。
積まれた本のタイトルは『女の品格』や
『イケメン男子の落とし方』など。
○ ルカの高校・教室
ルカと愛美が話している。
愛美「静香、どうする?」
ルカ「え? 何を?」
愛美「進路だよ。進路」
ルカ「ああ……進路ね」
成美の話し声が聞こえる。
成美の声「私は××大学かな」
ルカ「(成美の方を見て)?」
成美と彩香が話している。
彩香「成美、頭良いもんね〜」
成美「そんな事ないよ〜」
ルカ「……△△大学」
愛美「え?」
ルカ「△△大学に行く」
と決心した顔。
愛美「すごい! アタシもそこ目指す!」
ルカ「絶対に受かろう」
愛美「でも、静香成績良いもんね。体育以外
オール5でしょ?」
ルカ「(狼狽して)う、うん。まあ……」
愛美「私だけ落ちちゃったら恥ずかしいな」
ルカ「だ、大丈夫だよ。受かるよ絶対!」
○ 同・進路相談室
ルカと依子と男性の担任が話している。
担任「落ちるよ。絶対」
ルカ「えっ」
依子「先生、うちの子は毎晩徹夜で頑張って
るんですよ」
担任「いや〜、お母さんの気持ちは分かるん
ですけど、オール2ですからね」
ルカ「(俯く)……」
担任「非常に授業態度は良いんですがね」
依子「どうにかならないですか?」
担任「ん〜、就職も視野に入れても……」
と担任、依子を見て「?」の表情。
依子、お金を積みますので、入学させて
下さいのジェスチャー。
担任「(訳わからず)えっ、え?」
依子、ゆっくりジェスチャーをするが声
が漏れている。
依子「お金を、積みますので、入学させて下
さい」
ルカ「なに裏口入学の交渉してるのよ!」
依子「あれっ? 声出てた?」
ルカ「私は自分の力で頑張りたいの!」
と、教室を出て行く。
依子「……何でもしますから、ダメですか」
担任「……じゃあ勉強して下さい」
依子「……」
○ △△大学・校内(朝)
合格発表の日。ルカと愛美が落ち着かない様子で立っている。
掲示板に掛けられた白い布が外される。
悲鳴が交錯する。
愛美「(指をさして)あ! あった! あっ
た!」
と、喜ぶ。愛美、隣を見て硬直する。
ルカ「(呆然)……」
愛美「あ、あった?」
ルカ「……ない」
愛美「……」
○ ルカの部屋
ルカ、荷物をダンボールの中へ放り込んでいる。
ルカ「愛美が△△大学? ふんっ、私は落ち
たんじゃなくて蹴ったのよ」
と、服を強く雑に投げ込む。
ルカ「大学なんてチャラ男と女が行くところ
でしょ! 私は仕事して国に税金を納める
のよ! 私の方が高尚じゃない!」
部屋の外から依子の声。
依子の声「静香〜? どうしたの〜?」
ルカ「なんでもない!」
○ 街中
ルカが買い物袋を下げて歩いている。
イケメンの男、吉瀬亮太(28)とすれ違う。吉瀬、立ち止まり振り向く。
吉瀬「ちょっとちょっと君〜」
ルカ、気付かず歩く。
吉瀬、ルカの手を握って、
吉瀬「ちょっと待って」
ルカ「(振り向き)えっ? 何?」
吉瀬、手を話して、
吉瀬「ちょっとメガネ外してもらえる?」
ルカ「えっ、嫌です。てか、誰ですか?」
吉瀬「フレームの所汚れてるよ」
ルカ「えっ、いつの間に」
と、メガネを外す。
吉瀬「やっぱり……」
ルカ「(メガネ見て)汚れてないじゃないで
すか」
吉瀬「ああ、汚れてないよ」
ルカ「え?」
吉瀬、名刺を取り出して渡す。
ルカ、メガネをかけ直して、
ルカ「(名刺を見る)……」
名刺には『芸能事務所XYZ 吉瀬亮太』
と書かれている。
ルカ「芸能事務所……いや、私就職決まった
ので。まあ、事務ですけど」
吉瀬「事務? いや、モデルとしてスカウト
してんだけど」
ルカ「……ええ!?」
○ 琢磨の大学・校門・前
大学生らが中へ入って行く。
○ 同・講義室
一番前の席で講義を聞いている琢磨。
年配の男性教授が教卓に立っている。
教授「今日はこのへんで終わりにします。で
は次項」
荷物をまとめ、出て行く学生達。
琢磨は講義内容をノートに書き込んでい
る。
琢磨の側で大学生達が話している。
男子大学生A「よし、カラオケ行こうぜ」
女子大学生「いーねー」
男子大学生B「(琢磨を見て)あいつ誘って
みる?」
琢磨、気付いていないフリ。
琢磨「(ペンを動かしている)……」
男子大学生A「いや、どうせ来ないだろ」
女子大学生「早く行こ行こ」
と、男子大学生AとBを引っ張っていく。
琢磨、手を止め、去った大学生達を見る。
琢磨「……!?」
大人っぽくなった那月が琢磨を見ている。
那月「……」
琢磨、目をそらす。焦ってノートに何か
を書き込みだす。
那月「(琢磨を見ている)」
琢磨、手を止め恐る恐る那月の方を見る。
那月の姿は無くなっている。
琢磨「……」
琢磨のノートは、ペンでグチャグチャに
なっている。
○ 同・グラウンド(夕)
琢磨、競歩をしている。
何か考えてる様子でいつもよりスピードが遅い。
琢磨「……?」
琢磨、テニスグラウンドを見る。
○ 同・テニスグラウンド(夕)
那月が楽しそうにテニスをしている。
先輩らしき男とハイタッチをする那月。
○ 同・グラウンド(夕)
琢磨、立ち止まっている。
琢磨「……」
後ろから走ってきた男子大学生Cがぶつ
かる。
男子大学生C「いきなり立ち止まんなよ」
琢磨「(小さく)すんません」
走っていく男子大学生C。
琢磨、もう一度テニスグラウンドを見つ
める。
琢磨「……」
○ 美容室・外観
オシャレな外観の美容室。
○ 同・中
鏡の前で、髪のチェックをしているルカ。
ルカ、髪をカラーリングしてキレイになっている。
後ろで腕を組んで立つ吉瀬。
吉瀬「キレイになったじゃん」
ルカ「(嬉しそうに)そうですかね」
吉瀬「これで君も正式にウチのモデルだ」
ルカ「?」
吉瀬、名刺を取り出す。
吉瀬「はい、これ」
ルカ「(名刺見て)誰の名刺ですか?」
吉瀬「ウチの社長が芸名をつけてくれた」
名刺には『天音ルカ』と書かれている。
吉瀬「今日から君は天野静香じゃない。天音
ルカとして生きるんだ」
ルカ「天音ルカ……(喜びが込み上げる)」
○ 商店街・焼き鳥屋・前
取材クルーが取材をしている。
カメラの前にルカ。吉瀬も取材クルーに
混ざっている。
焼き鳥屋の店長が焼き鳥をルカに渡す。
店長「はい、どうぞ」
ルカ「美味しそ〜。(口にして)ん! 美味
しい! このタレが焼き鳥に絡みついて抜
群ですね!」
吉瀬、手をバツにして、
吉瀬「ストーップ! 一旦ストップで!」
ルカ「……」
吉瀬「さっきより良くなったけどさ、アイド
ルなんだろ? そんな固いコメントなんて
世間は求めてないんだよ。わかる?」
ルカ「はい……」
取材クルーが迷惑そうに見ている。
弱々しいプロデューサーが来て、
プロデューサー「もういいんじゃないです
か? ここだけでテイク15ですよ。お店
にも迷惑掛けますし」
吉瀬「……よし、じゃあ再開」
ルカ、焼き鳥を持って構える。
プロデューサー「はい、スタート!」
ルカ「(可愛子ぶって)頂きます」
吉瀬「ストーップ!」
プロデューサー「んああもう!」
焼き鳥店長と取材クルーも頭を抱える。
○ 琢磨の大学・講義室
一番前の席で講義を受けている琢磨。
琢磨「……」
琢磨、振り向く。視線の先に那月の姿。
那月、視線に気付いて琢磨を見る。
那月「(微笑む)」
琢磨、目を逸らす。
教授の声「それでは次項」
× × ×
講義室を出て行く学生達。
琢磨は残ったまま。那月が近づいて、
那月「すみません、ちょっと分からない所が
あって、教えて欲しいんですけど」
琢磨、平静を装い、
琢磨「えっ、あ、ああ、良いですよ」
那月「ありがとう」
那月、隣に座ってノートを開く。
琢磨「(緊張)」
那月「ここなんですけど」
琢磨、ノートを見て、
琢磨「あっ、ここは0分の0の不定形だから
分母分子を微分して計算したらいいですよ」
と、ノートに書き込む。
那月「すごーい。頭良い」
琢磨「い、いや普通ですよ」
那月「三好琢磨さん、ですよね?」
琢磨「えっ?」
那月「私、那月って言います。三田那月」
琢磨「何で、俺の名前を知ってるんですか?」
那月「私、高校一緒だったんですよ」
琢磨「(驚いて)そ、そうなんですか」
那月「いつもグラウンドで変な歩き方してま
したよね? それからずーっと気になって
見てました」
琢磨「えっ」
那月「(焦って)気になってたっていうのは
琢磨さんの事じゃなくてその歩き方という
か何というか」
琢磨「そ、そうですよね。普通の人から見た
ら変な歩き方ですよね」
那月「競歩? ですよね。大会でも優勝した
事あるとか」
琢磨「まあ、昔から色々と努力してきました
から。まあ、どれくらい歩いてきたかとい
うと日本から」
男子大学生Aの声が琢磨の話を遮る。
男子大学生Aの声「那月」
琢磨「へ?」
男子大学生Aが扉の前に立っている。
那月「(男子学生Aに)ごめん、今行く」
琢磨「……」
那月「琢磨さん、教えてくれてありがとう」
琢磨「と、友達かな?」
那月「……うん、友達だよ」
那月、講義室を出て行く。
琢磨「……」
○ 同・校内(夕)
スマホを扱いながら歩く琢磨。
琢磨「……」
スマホには琢磨のSNSのページ。『あ
の人の事考えて、競歩に集中できない』
投稿を知らせる音。
琢磨「?」
『恋ですか? 割り切らないとダメにな
りますよ』とコメント。
琢磨「(ため息)」
○ カフェ・前
雑誌の取材のスタッフが撮影の用意をしている。
ルカ、空に向けてピースサイン。それをスマホをで撮影。
ルカ、スマホで文字を入力している。
SNSのページには『今日もキレイな青
空。一週間頑張るぞ』と書き込み。
カメラマン「ルカさん、じゃあここに座って」
ルカ「はーい」
と席に座りマグカップに口をつける。
カメラマンシャッターを切る。
カメラマン「いいですね〜。違うポーズもい
きましょうか」
ノリノリでポーズを変えるルカ。
吉瀬の声「ちょっと待って」
と吉瀬がキレイな女性を連れて来る。
ルカ「?」
吉瀬「この人で写真撮ってみて」
ルカ「えっ?」
カメラマン「(戸惑いつつも)あ、はい。じ
ゃあここに」
女性「はい、失礼します」
ルカ、席を離れ、キレイな女性が座る。
カメラマンがキレイな女性を撮影。
ルカ、吉瀬に近づいて、
ルカ「あの女の人誰ですか?」
吉瀬「そこら辺歩いてた」
ルカ「歩いてたって」
カメラマン「いいね〜! 絵になるね〜!」
カメラマン、ノッてきて、体勢を変えな
がら連写。
カメラマン「いいよ〜。もっとちょうだい!」
ルカ「……」
○ 駅・前(夜)
ルカ、スマホを扱いながら歩いている。
SNSのページには、ゲツヨルの台本を持ったルカの顔写真と、『次のお仕事は全国放送のゲツヨルに出演決定〜』と書き込み。その下には『すごい』や『おめでとう』とコメント。
ルカ「(嬉しそうに)フフン」
メールの受信音が鳴る。
ルカ「?」
メール画面には、吉瀬から『ゲツヨルの
収録キャンセルになったから』と来てい
る。
ルカ「……」
○ 公園・前(夜)
琢磨、俯いてとろとろと歩いている。
那月の声「あ〜楽しかった」
琢磨、立ち止まる。
琢磨「(驚く)」
那月、居酒屋の前で立っている。酔っ払
っている様子。
琢磨「な、なつ……」
と、名前を呼ぼうとする。
男子大学生Aの声「那月」
男子大学生Aが居酒屋から出てきて、
那月に抱きつく。
琢磨「(驚く)!」
男子大学生Aと那月見つめ合う。
男子大学生A「次、どこ行く?」
那月「どこでもいいよ」
男子大学生A「じゃあ、ゆっくり休める所に
行こうか」
那月「どこ連れてく気?」
男子大学生A「どこでも良いんだろ?」
那月「いこいこ〜」
と、那月の肩を抱いて歩いていく男子大
学生A。
琢磨「(呆然)」
琢磨、握りこぶしを作って震える。
琢磨「割り切れるかよ! 3・14159」
と、円周率を唱えながら競歩で歩き出す。
○ 横断歩道・前〜中腹(夜)
琢磨、円周率をボソボソと唱えながら競歩。
琢磨「(小さく)3809525……」
信号は赤信号。
琢磨、気づかず歩いていく。
車のヘッドライトが琢磨を白く包む。
○ ルカの部屋・リビング(夜)
テーブルに手作りのご飯を並べる。
スマホで撮影。文字を入力するルカ。
ルカの声「今日は久々のオフ。手作り料理作
っちゃった」
ルカ「よし」
テレビの音声が強調されて、
司会者の声「月曜の夜はゲツヨル! 本日は
アイドル特集でーす」
ルカ「(テレビ見て)?」
テレビには、吉瀬が連れてきたキレイな
女性がひな壇に座っている。
ルカ「えっ? なんで……」
テレビに映るキレイな女性が楽しそうに
笑っている。
ルカ「……」
スマホから投稿を知らせる音が鳴る。
ルカ、スマホを確認する。投稿者『エビ
フライ』から『ゲツヨル、ルカちゃん出
ないの?』とコメント。
ルカ「(迷って)……」
ルカ、文字を入力する。
『報告遅れちゃった。体調崩しちゃった
から、譲ったの』とコメントを返信。
ルカ「(ため息)」
ルカ、うずくまる。
○ 琢磨の部屋・リビング
部屋の中が乱雑になっている。
壁にもたれている琢磨。右足には包帯。
琢磨「……」
琢磨、スマホを手に取る。
SNSのページには様々な人の画像。
どれも笑顔で写っている。
琢磨「……」
スマホ画面にはアヒル口に上目遣いの女
子。『ニキビ出来た。ブチャイクなあた
し』と書き込まれている。
○ ルカの実家・玄関
ルカが入ってくる。
ルカ「ただいま〜」
依子が来て、
依子「静香、どうしたの?」
ルカ「……うん、まあ、仕事が忙しいからち
ょっとセーブしたっていうか」
依子「そう……夕飯食べる?」
ルカ「うん……」
○ 同・ルカの部屋(夕)
ルカ、スマホを見ている。
吉瀬からのメール画面。『仕事が入ってた連絡するから』の文面。
ルカ「(ため息)」
ルカ、立ち上がり窓を開ける。
窓から見えるのは夕焼け。
ルカ「(夕焼けを見つめる)……」
ルカ、夕焼けに手を伸ばす。それをスマ
ホで撮影する。
○ 夕焼けの景色
茜色の空が広がっている。
ルカの声「今日も1日幸せな日だった。この
夕焼けを見てる皆んなも幸せなのかなあ」
コメントを知らせる音が鳴る。
○ ルカの実家・ルカの部屋(夕)
ベッドで横になっているルカ。
ルカ、スマホを見る。
スマホの画面には投稿者『エビフライ』
から『ルカちゃん、私も幸せな1日でし
た。ルカちゃんもずっと幸せであります
ように』とコメント。
ルカ「(寂しそうに)幸せなのか……」
また、コメントを知らせる音。
スマホ画面には、『ウォーキンレースマ
ン』からのコメント。
ルカ「あっ、またこいつ」
『幸せなやつばかりじゃねえんだよ』と
コメント。
ルカ「(図星)……」
コメントを知らせる音。投稿者『エビフ
ライ』から『いつも突っかかってくるね。
暇なの?』とコメント。
エビフライのM「いつも突っかかってくるね。
暇なの?」
エビフライの声は愛美の声。
○ 琢磨の部屋・リビング(夕)
琢磨、スマホでフリック入力。
琢磨M「ああ、暇だよ。暇で暇でしょうがな
いんだよ。夕日を撮ってると見せかけてネ
イルを見せるアピールがあざといんだよ!」
○ ルカの実家・ルカの部屋(夕・以下カットバックで)
ルカ、自分のネイルを見る。オシャレなネイルが施されている。
エビフライM「こんな風にしか見ないから男
は嫌いなのよ」
琢磨、不服そうな顔で、フリック入力。
琢磨M「女が男女平等なんていうけど声掛け
ただけで不審者扱いしたり、男なら男らし
くしなさいとかムカつくんだよ! 自分の
都合の良い事ばっか主張してんじゃねえ!」
エビフライM「この人絶対童貞だ」
琢磨M「ああ、童貞だよ。童貞が面白いか?
女は面白い男が好きなんだろ? じゃあ何
で俺が童貞なんだ!」
ルカ「(スマホを見つめている)」
琢磨、文字を高速でフリック入力してい
る。
○ 琢磨の小学校・校門・前〜中(回想)
ランドセルをかるった小学生時代の琢磨。生徒たちを追い越しながら校門の中へ競歩で歩いていく。
琢磨M「小学校から競歩を頑張ってきた。初
めたのは何かで一番になれば女子にモテる
と思ったからだ」
○ 同・グラウンド
体育の時間。生徒たちは体育服になっている。徒競走をしている生徒たち。
スタートラインに立つ琢磨。
先生が笛を鳴らす。一斉に走りだす生徒
たち。一歩遅れた琢磨。
琢磨、競歩で生徒たちをごぼう抜き。
ゴールテープを切る琢磨。ドヤ顔。
琢磨M「競歩は他の競技と比べて競技人口が
少ない。短距離やマラソンをしても俺は埋
もれていくだけだ。虎視眈々と優勝を狙っ
て競歩の練習を来る日も来る日も続けてき
た。苦しい練習だった」
○ 琢磨の中学校・グラウンド・表彰台
表彰台の一番上に立つ中学生の琢磨。
首から金メダルを下げている。メダルを食べようとしている。
琢磨M「その結果、大会で優勝を積み重ねた。
中学でも22分台の好タイムで優勝」
○ 琢磨の高校・進路相談室
琢磨と友美と英子が座って話している。
英子が琢磨に話しかけている様子。
琢磨M「高校に進学してからも俺の快進撃は
止まらなかった。担任には文武両道という
言葉を教えてもらい勉強も頑張った」
○ 同・教室
琢磨が一番前の席で授業を受けている。
手を挙げる琢磨。英子に何か質問をしている。面倒くさそうに答える英子。
もう一度、手を挙げる琢磨。
英子、琢磨を無視して他の生徒に当てよ
うとしている。
立ち上がり、手を挙げる琢磨。
『シャラップ』と言ってる英子。
一番後ろの席では、ヤンキー男子が紙飛
行機を量産している。
琢磨M「分からない事は分かるまで聞いた。
先生は迷惑だったみたいだ。変なあだ名も
付けられていたらしい。モテる為にやって
きたのにあだ名を付けられるのは不服だっ
た。でもこれで学校じゃベスト5に入るま
でになった」
○ 琢磨の大学・講義室
琢磨、講義を受けている。視線を那月に移す。那月、講義を真剣に受けている。
ニヤける琢磨。隣の学生が不審そうに見ている。
琢磨M「大学に入ってからは初めて好きな人
が出来た。それまでそういう男と遊んでる
女なんて軽蔑してた」
○ 同・グラウンド
琢磨、競歩の練習をしている。イケイケな男女が集団で楽しそうに歩いている。
琢磨、見て見ぬフリをしながら競歩を続
ける。
琢磨M「競歩に励んでいる俺に見向きもせず、
ゲスな男と2ケツしたりカラオケいったり。
俺が童貞なのは女の見る目が無いだけだと
思ってた」
○ 同・更衣室・前
中から出てくる琢磨。琢磨、那月を見つける。遠くで手を振る那月。笑顔で手を振り返す琢磨。
男子大学生Aが那月を呼ぶ。那月、男子大学生A元へ走っていく。
琢磨、手を下ろし、悲しげな顔。
琢磨M「でもその子は俺に興味を持ってくれ
た。これが恋なのかと感動した。でも同時
に恋は憎しみを生むと知った」
○ 琢磨の帰宅途中の道(夜)
琢磨、ゆっくり歩いている。琢磨、何かを見て立ち止まる。驚愕の表情。
琢磨M「何も頑張っていない。人生に何も目
的や意義を見出していない。何ら成績を残
していない男が」
○ 居酒屋・前(夜)
那月に抱きつく男子大学生A。那月も男子大学生Aの体に手を回す。
○ 琢磨の帰宅途中の道(夜)
琢磨、驚愕したまま。
琢磨M「ただただ自分の欲求の赴くままに遊
んでいるであろうチャラ男が平然とその子
をホテルに誘って」
○ 居酒屋・前(夜)
イケメン男子、那月の肩を抱いて路地に消えていく。
琢磨M「夜風に吹かれて行きやがった」
○ 琢磨の帰宅途中の道(夜)
怒りに震える琢磨。
琢磨M「俺はそれをやる為に何年競歩をやっ
て来たと思う? 日本からアメリカ西海岸
まで何往復分歩いてきたと思う? 2往復
だぞ?」
○ 横断歩道・中腹(夜)
琢磨、何かを唱えながら歩いている。動作はスローモーション。横断歩道に入ると車のヘッドライトが琢磨を包む。
琢磨M「なのに俺は今でも童貞なんだ。結局
女は中身が無くてもイケメンが好物なんだ。
そしてその夜」
○ 琢磨の部屋・リビング(夜)
壁に寄りかかった琢磨。右足にはギブス。
琢磨M「俺の全てだったこの足が複雑骨折」
○ 病室・診察室
医者と琢磨が話をしている。
医者、首を横に振る。
琢磨、医者に泣きつく。
琢磨M「医者からはもう競歩は諦めろって。
結局俺は、目的や意義も無くした。成績は
残ってもしょうがないものだって気づいた。
欲求の赴くままに生きるチャラ男の方が俺
より生きていた」
○ 琢磨の部屋・リビング(夕・回想終わり)
琢磨、スマホを手に持ったまま、横になり涙を流している。
琢磨「どうだ……笑えるだろ……」
○ ルカの実家・ルカの部屋(夕)
ベッドに座ってスマホを見ているルカ。涙を流している。ルカ、文字を入力。
○ 琢磨の部屋・リビング(夕)
横になっている琢磨。投稿を知らせる音。
琢磨、スマホを見る。
スマホ画面には『あなたの気持ちは痛いほど分かります』とコメント。
琢磨「……リア充に簡単に分かられてたまる
かよ……」
○ 公園
スマホを見ながらベンチに座るルカ。
スマホ画面にはSNSのページ。公園の画像。
ルカ「……」
スマホから投稿を知らせる音。
スマホを見るルカ。コメントの投稿者は
『ナルミ』。『もしかして静香?』とコ
メント。
ルカ「(焦って立ち上がり)!」
周りを見渡すルカ。投稿を知らせる音。
ルカ、スマホを見る。『そこ高校の近く
だよね?』
ルカ、焦りながらその場から立ち去る。
○ 琢磨の家・リビング
壁にもたれ掛かって座る琢磨。
琢磨、スマホを見ている。
琢磨「この公園」
× × ×
(フラッシュ)
夜、公園の前をとろとろと歩く琢磨。
× × ×
ルカのSNSページには沢山の書き込み。
『天音ルカって名前何ww』や『テレビ
の収録て地方のケーブルテレビじゃん』
や高校時代のルカの写真が載せられてい
る。
琢磨「……」
『エビフライ』の書き込み。『人のペー
ジ炎上させて面白い訳?』とコメント。
投稿を知らせる音。
コメント投稿者は『アヤカ』。『あんた
愛美でしょ』とコメント。
琢磨「?」
○ ルカの部屋
ルカ、スマホを見ている。
ルカ「愛美……?」
愛美のSNSページを見ると、写真多数。
綺麗になった愛美とイケメンの男が写っ
た写真。
ルカ「(ショック)何で愛美が……」
○ 大学・講義室
琢磨がいつも座る所は空席になっている。
○ 同・グラウンドが見渡せる場所
琢磨、ルカのSNSページを見ている。
書き込みには『高校時代はイジメられていた』や、『社会人デビュー』など書き込み。
琢磨「(ムカつく)……」
○ ルカの部屋
ルカ、ウォーキンレースマンのSNSページを見ている。
ルカ「……」
○ 病院・待合室(1ヶ月後)
琢磨が座っている。包帯は簡素な物に変
わっている。松葉杖は椅子に立てかけている。
スマホ画面を見る琢磨。ルカのSNSペ
ージは6月で更新が止まっている。
琢磨「(顔を上げる)」
壁に掛かったカレンダーは7月。
コメントを知らせる音。
琢磨「?(スマホを見る)」
スマホ画面には公園を背景にピースサイ
ン。
琢磨、立ち上がり走っていく。
○ 公園・中
ベンチに座るルカ。
琢磨、公園に入ってくる。
ルカの後ろ姿。
琢磨「(ルカを見つける)」
琢磨、ルカに近づこうと歩き出す。
琢磨「痛っ!」
琢磨、足を抑えて倒れる。
ルカ「(琢磨に気付いて)大丈夫ですか!?」
ルカ、琢磨に近づく。
琢磨「だ、大丈夫です」
ルカ「こっちに座ってください」
ルカ、琢磨をベンチに座らせる。
琢磨「すみません」
ルカ「大丈夫ですか?」
琢磨「あ、はい。病院に松葉杖忘れちゃって」
ルカ「え? (少し笑って)歩けないのに忘
れるんですか?」
琢磨「ま、まあ」
ルカ「(微笑んで)おかしいですね」
琢磨「松葉杖、忘れるくらい会いたかったん
です」
ルカ「(驚いて)え?」
琢磨「……天音ルカさんですよね」
ルカ「(思い巡らせて)もしかして、ウォー
キンレースマン?」
琢磨「はい」
ルカ「(驚いて)えっ……」
琢磨「すみません。悪口ばっか言って」
ルカ「いや、でも何で……」
琢磨「あの書き込みを見て、苦しんでるのは
俺一人じゃないんだって気づいたから」
ルカ「……」
琢磨「みんなそれぞれ苦しい事とか悩みを持
ってます。じゃあシェアしちゃえばいいじ
ゃないですか。それだけで楽になれる」
ルカ「……」
琢磨「でもシェアするには弱さを誰かに見せ
なきゃいけません。無理して演じる必要な
んてないんです」
ルカ「認めたくない。人に劣ってる事なんか」
琢磨「劣ってなんかない。完璧な人間なんて
居ないんです。まずは僕にシェアしてくれ
ませんか」
ルカ「……」
ルカ、急に立ち上がる。
琢磨「(驚く)!?」
ルカ「ありがとう!」
足早に離れていくルカ。そして立ち止ま
り、
ルカ「またここで話そう!」
琢磨「は、はい!」
ルカ、公園を出て行く。
○ 同・前
ルカ、スマホを操作しながら嬉しそうに歩いている。
○ 公園・中
琢磨、ベンチに座ったまま。
スマホを取り出して操作する。
琢磨「んん?」
スマホの画面はルカのSNSページ。
『私は天野静香だ! SNS辞めます!
現実で頑張ってやる!』と書き込み。
琢磨「(みるみる笑顔に)よし!」
○ 同・前
ルカ、嬉しそうにスキップして歩く。
通りすがりの人がルカを不審気に見るがルカは気にしていない。
○ 同・中
ベンチに座っている琢磨、表情が硬くなっている。
琢磨「歩けねえよ……」
と小さく笑う。
公園にポツンと座っている琢磨。
終わり
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