深澤有沙(18)…高校生
綾野日向(18)…有沙のクラスメイト
近藤美子(18)…有沙の友人
篠原真奈(18)…有沙の友人
男子生徒
教師
○服屋・中
レディースコーナー。
近藤美子(18)と篠原真奈(18)、服を選ん
でいる。
美子、色違いのニットを手に取り
美子「麻奈、これどう?」
と、交互に自分の身体に合わせる。
真奈「どっちも捨てがたいなぁ」
美子「だよねー、知ってる」
深澤有沙(18)、適当に服を見ながら、美子
と真奈の様子を伺っている。
有沙「……しょうもな」
そこに美子と真奈が駆け寄ってくる。
美子「有沙、なんか欲しいのあった?」
有沙「え、いや、今日は美子ちゃんのデートのため
の服……」
美子「そんなのいいよ。あ、これは?」
と、服を有沙に合わせる。
真奈「かわいい。似合ってるよ」
有沙、ちらっとメンズコーナーを見る。
綾野日向(18)、服を整理している。
有沙と目が合う。
有沙、慌てて美子と真奈に向き直り、
有沙「えっと、じゃあ、これにしようかな」
× × ×
有沙、商品をレジカウンターに置く。
綾野、それを受け取って畳む。
有沙「バイト禁止じゃなかったっけ」
綾野「バレなきゃいいの」
有沙「私にはできそうにないな」
綾野「できなさそうだよねー、深澤って」
有沙「私は綾野くんじゃないからなぁ」
綾野「そんなにいいもんじゃないよ」
有沙「綾野くんが?」
綾野「うん。あ、二千円です」
有沙、財布から取り出しトレーに置く。
綾野「二千円ちょうどいただきます」
と、受け取ってレジ打ち。
有沙「なんか、ちゃんと仕事してるんだね」
綾野「うわ、ひどい」
有沙「良い意味で言ったつもりなんだけど」
綾野「分かってるよ、ありがとね」
と、レシートを渡す。
有沙、受け取る。
綾野、商品を渡す。
有沙「ありがとうございます」
と、受け取る。
綾野「あのさ」
有沙「ん?」
綾野「ちゃんと着たいものを着たいって言っていい
んだよ」
有沙「え?」
美子の声「有沙ー!」
有沙「やばっ。ごめん、ありがと」
と、美子と真奈に駆け寄っていく。
綾野「どっちだよ」
三人の後ろ姿。
有沙の声「ごめんごめん」
美子の声「有沙って綾野と仲良かったっけ。教室で
あんまり喋ってないでしょ」
有沙の声「まあ、そうだね」
真奈の声「何考えてるか分かんなくない?」
美子の声「それなー」
それを見つめる綾野。
○高校・外観
○同・教室・中
有沙と真奈、机を挟んで対面。
英単語帳を開いている真奈。
真奈「じゃあ、"in contrast"は?」
有沙「えっと……『対照的に』?」
真奈「正解! これなら合格できるでしょ」
有沙「なんでクリスマスに追試……」
と、机に突っ伏す。
美子、教室に入ってくる。
有沙と真奈の近くに座る。
美子「ねえ、まじでだるいんだけど」
真奈「おかえりー、引っかかったかー」
美子、自分の前髪を指差す。
美子「これどう見たってセーフでしょ」
有沙、顔を上げて。
有沙「眉毛にはかかってないもんね」
真奈「ギリギリだけど」
綾野、教室に入ってくる。
制服を着崩している。
自分の席につき、リュックを下ろす。
男子生徒「(綾野に)また遅刻?」
綾野「体育だるいじゃん」
男子生徒「(半ば感心して)……すげえな」
有沙、真奈、美子、それを聞きながら。
美子「あっちのほうがアウトでしょ」
真奈「目、前髪で隠れちゃってるし」
有沙「なんかいいよねー、ああいうの」
美子・真奈「え?」
○同(夕)
有沙と綾野、隣同士の席に座っている。
教師、二枚の答案用紙を見比べて。
教師「深澤さんは合格。綾野くんは……」
綾野「いいよ、分かってるし」
教師「忙しいのは分かるんだけどね」
綾野「そういうのもいいって」
教師「……でも、制服はちゃんと着て」
綾野「はーい」
教室から出ていく教師。
有沙、何となく気まずくなり、帰る準備を始
める。
綾野、リュックから弁当を出す。
開ける。綺麗に詰められている。
有沙「え、今から? ここで?」
綾野「頭使うと腹減らね?」
有沙「あー……」
綾野「すげえ話しづらそうじゃん。店ではあんなに
話してくれたのにね?」
有沙「その言い方、私がホストでも通ってるみたい
じゃん」
綾野「(笑って)やば」
有沙、机を見つめて話すことを考えている。
綾野「(笑って)めっちゃ考えてる」
有沙、顔を上げるが、目は合わさず。
有沙「なんか、話さなきゃって思って」
綾野「上手く話そうとするんじゃなくて、なんだ
ろ、まずは目を見ることから始めたらいいよ」
有沙、思わず綾野と目を合わせる。
綾野「深澤のこと今から嫌うとか難しいし」
有沙「……うん?」
綾野「無理に好かれようとしなくていいんだよ。そ
んな、ね、頑張らなくてもさ」
有沙、何度も頷く。
綾野「……この弁当さ、俺が作ってんの」
有沙「えっ」
綾野「母親しかいないからさ、色々家事とか手伝っ
てんだよね」
有沙「そう、なんだ」
綾野「意外って顔してる」
有沙「なんて言ったらいいか……」
綾野「『すごいね』でいいよ。言っても言われて
も、別に悪い気しないでしょ」
有沙「そっか、すごいね。うん、偉い」
綾野「俺、偉いんだ。ありがと」
有沙「私にないもの、全部持ってる……から、羨ま
しい」
綾野「奇遇だね、俺も」
有沙、恥ずかしくなって机に突っ伏す。
綾野「え、なに」
有沙「なんか、すごい喋りすぎた気がする。怖い。
ペース乱れる」
綾野、箸を置き、有沙の頭を撫でる。
有沙、驚いて勢いよく顔を上げる。
綾野も手を離す。
綾野「あ、ごめん。ごめんごめん。違う、いや、違
わないか。いやでも、ごめん」
有沙、その必死さに笑う。
有沙「別にいいよ。嫌じゃないし」
綾野「……」
有沙、立ち上がり、慌ててリュックを背負
う。
有沙「大丈夫。寝たら忘れるタイプだから」
綾野「それは嘘でしょ」
有沙「どうだろうね」
○同・廊下(夕)
有沙、ドアにもたれかかっている。
頭を軽く触る。
有沙「……」
⚪︎服屋・中
メンズコーナー。
有沙、真奈、美子、服を見ている。
美子「まさか有沙がこっち好きとはね」
有沙「(小声で)こっち、って」
真奈「まあ、好きなものも嫌いなものも分かった
し」
有沙「うん」
納得してないような顔の美子。
× × ×
有沙、商品をレジカウンターに置く。
綾野、それを受け取って畳む。
綾野「言えたんだ」
有沙「あんまり良く思ってなさそうだけど」
綾野「女の子ってそういうとこあるよね、全部一緒
がいい、みたいなね」
有沙「ある。めっちゃある」
綾野「似てるとこばっかりでもつまらないし、頑張
って探す必要ないよ」
有沙「なんか間違い探しみたいだね。違ってるとこ
ろが間違いとは思わないけど」
綾野「自分から見たら間違ってるように見えても、
他の人から見れば正しかったりね」
有沙「あるね」
綾野「(手を止めて)それでさ、その、俺もっと深
澤と自分の違う部分見つけたいからさ、一回ご飯
でもどうかなって」
有沙、頷いて。
有沙「これ着ていこっかな」
有沙と綾野、微笑み合う。
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