青写真を描く 舞台

【青写真を描く】 意味:将来の計画を具体的に考えること。未来の姿を想像すること。 戦争にアンドロイドが投入された時代。戦場に行く必要のなくなった人間の軍人たちは、教官として、各人に与えられたアンドロイドを指揮することで戦争を続けていた。しかし、彼らは全員、教官にとっての「かつての大切な人」で―? 人間のために戦わなければいけないアンドロイドたちと、彼らを戦場に送り込まなければならない人間たち。 残酷な世界で、彼らの行き着く結末とは。
風舞 3 1 0 02/06
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第一稿

【青写真を描く】

登場人物

―教官―
・伏見(ふしみ)→硬派
・真白(ましろ)→礼儀正しい
・源(みなもと)→言動が荒い
・衣織(いおり)→軟派

―アンド ...続きを読む
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【青写真を描く】

登場人物

―教官―
・伏見(ふしみ)→硬派
・真白(ましろ)→礼儀正しい
・源(みなもと)→言動が荒い
・衣織(いおり)→軟派

―アンドロイド―
・イチノセ→一之瀬。好青年
・クオン→久遠。穏やか
・リッカ→六花。思春期女子
・カグラ→神楽。関西弁

―その他―
・父→伏見の父。厳格。(音声)


○5年前。本部

父:お前たちに、一つ問おう。…もし、死んだ者に会えるとしたら…誰に会いたい?

明転
伏見、真白、源、一織、正面を向いて立っている
背後にイチノセ、クオン、リッカ、カグラ、後ろを向いて立っている

源:死んだ奴に、ですか…俺だったら、家族…妹っすかね。あいつにしてやれなかったこと、たくさんあるんで
衣織:僕は恋人…かな。お別れも出来なかったし…伝えなきゃいけないことも、残ってるから
真白:私は…わかりません。会いたい人も、会うべき人も…どちらも、いますから
父:お前はどうだ、伏見
伏見:…え、(顔を上げる)
父:お前は、誰に会いたい?
伏見:………俺は、

暗転

一之瀬:伏見先輩。【青写真を描く】って言葉、ご存知ですか?
一之瀬:未来の姿を想像する、って意味らしいんですけど…僕、この言葉大好きで
一之瀬:なんていうか…こんな、この先どうなるのかも、大人になれるのかどうかもわからない世界ですけど…未来のこと考えられるのって、なんか、すごくいいなぁって
一之瀬:…だから。この戦争が終わったら、また、


○現在。訓練場
シャッター音
明転
上手にイチノセ、窓から写真を撮っている
下手より、クオン

クオン:おはよう、イチノセ
イチノセ:あ、クオンさん。おはようございます
クオン:早いね。また何か撮ってたの?
イチノセ:はい。向こうで桜が咲いてたので、その写真を(カメラの写真を見せる)
クオン:わ、凄い。今年も満開だね
イチノセ:本当はもっと近くで撮りたかったんですけど…あそこまで行くと、ちょっと危なくて
クオン:あぁ
イチノセ:今年はお花見も難しそうですね
クオン:そうだねー…もう1回くらい、見たかったけど

下手より、リッカ
遅れて、カグラ

リッカ:あーもー無理無理無理!!あいつ、マジでキモいって!!
カグラ:ちょ、リッカはん
イチノセ:お二人とも。おはようございます
クオン:どうしたの、リッカちゃん
カグラ:それが
リッカ:ねえ、もう最悪!あいつ、また今日も話しかけてきたんだけど!?
イチノセ:あいつ…?
クオン:もしかして、源教官のこと?
リッカ:そう!毎朝絶対、あたしに話しかけてくるの
イチノセ:何言われたんですか…?
リッカ:「最近、友達と上手くやってるかー」とか、「寝癖ついてるぞー」とか、どーでもいいことばっか。昨日なんて頭撫でられたし!!ねえほんとキモくない!?あんたはあたしの親かつーっの!!
イチノセ:それは
リッカ:あーもーやだやだやだ。思い出しただけで寒気が…

リッカ、上手へ
カグラ、下手に残る

クオン:…カグラちゃん、大丈夫?
カグラ:へっ⁉
クオン:顔、赤いけど
カグラ:い、いやぁ、その
クオン:…?
カグラ:じ、実はな
リッカ:あー…さっき、衣織教官に会ったのよ
イチノセ:衣織教官にですか?
リッカ:そ。訓練前に会えたーって、それで
クオン:あー
カグラ:ちょ、リッカはん
イチノセ:カグラさん、衣織教官のこと大好きですよね
カグラ:だい…っ⁉

 カグラ、机に体をぶつける

カグラ:なっ、ななな、何言うとんの⁉そ、そんな、ウチが好き…とか、そんなこと
イチノセ:え、好きじゃないんですか?
カグラ:やっ、その、そういうわけじゃ
リッカ:もうさぁ…告っちゃえば?
カグラ:告っ!?
リッカ:時間ないよ?するなら今のうちだって
カグラ:そ、そな、適当なこと言わんといてや!そんなん、ウチが出来るわけないやろっ
リッカ:もー…めんどくさいなぁ
イチノセ:僕、呼んできましょうか?
カグラ:やめてぇ〜〜〜!!

 リッカ、クオン、会話

クオン:なんか…いいね、教官と仲が良いって
リッカ:(席に座りながら)そう?
クオン:まあ、悪いままで終わるよりかは
リッカ:クオンは、真白教官だっけ
クオン:うん
リッカ:仲悪いの?そんな感じには見えなかったけど
クオン:悪くはないけど…僕たちはほら、あくまで教官と生徒って感じたから
リッカ:真白教官、真面目だもんねえ
クオン:…リッカちゃんは、違うんだ?
リッカ:何が?
クオン:教官たちと仲良くするの。あまり良く思ってなさそうだなって
リッカ:そうじゃないけど
クオン:…
リッカ:あの人たちはさ…違うじゃん、あたしたちと。あたしたちはロボットで、あの人たちは人間。戦争に行けって命令する側と、される側
クオン:…
リッカ:そんな人たちと仲良くなったって、辛いだけじゃん。きっと、あの人たちに、毎日死に怯えるあたしたちの気持ちはわかんないし、あたしたちにも、命令を出さなきゃいけないあの人たちの気持ちは、たぶんわかんないと思う
クオン:…うん
リッカ:だから…まあ、仕方ないよ。…全部。この時代に生まれてきた、あたしたちが悪いんだから

リッカ、窓に目をやる

リッカ:…少なくなったよね、うちの教室も
クオン:そうだね
リッカ:はーぁ…あたしたちも、あと半年で出兵かぁ。思ったより早かったなぁ
クオン:…怖い?戦争しに行くの
リッカ:そりゃあね。怖くない人なんて、いないでしょ
クオン:…
リッカ:まぁでも。…皆といけるなら、悪くないかな
クオン:そっか

下手より、衣織
遅れて源、真白、伏見の順

衣織:みんな―、おっはよー
カグラ:先生!
衣織:あ、カグラちゃんおはよー…って、さっきも言ったね
カグラ:せ、せやな
源:(模擬刀を持ちながら)おい、リッカ。これ取りに来いって、昨日言ったろ
リッカ:…すみませーん
源:ったく
真白:これより、訓練を始めます。皆さん、準備を
源:ほら、机下げっぞー
生徒組:はーい

全員、机を脇(or幕)へ
BGM(明るめ)
伏見、イチノセを中心に全員配置に着く

イチノセ:よろしくお願いします、伏見教官
伏見:あぁ

(BGMに合わせて動き、掛け声。途中、相手を入れ替えても可)

伏見:止め
リッカ:はああああ、疲れたぁぁぁっ

生徒組、座り込む
BGM、小

源:おいおい、まだ始まったばっかだぞ
カグラ:だってぇ
衣織:真白ちゃん
真白:はい
衣織:今日の一対一、誰がやる?
真白:あ…そうですね、今日は
伏見:俺がやる
衣織:え、伏見君?
伏見:イチノセ
イチノセ:えぇ!?僕ですか!?

伏見、イチノセ、中央へ
その他、中央後ろに固まり、観戦

源:へー、今日の勝負は伏見とイチノセか〜
カグラ:なぁ、どっちが勝つと思う?
リッカ:そりゃあ、
衣織:はいはいはーい!僕、イチノセ君に1票〜
源:俺も俺もー!
リッカ:はあ!?何言ってんの、伏見教官に決まってるでしょ!?
源:いーや、今日は勝てるね。前回惜しかったし
リッカ:いーえ、伏見教官が勝ちますぅ絶対
クオン:カグラちゃんは?
カグラ:うーん、やっぱ伏見先生ちゃうんかなぁ…教官やし
真白:ほら、始まりますよ

BGM、大
激しい応援
イチノセが後ろに転び、刀をつきつけて伏見勝利(途中、イチノセが優勢になる)
歓声

リッカ:ナイス、伏見教官!
衣織:うわぁ惜しかったねー、イチノセ君!
リッカ:よっしゃ、あたしの勝ち〜
源:あーはいはい、わーったよ(リッカの頭を撫でる)
リッカ:え、ちょっ…は!?(源の足を思い切り踏む)
源:いっでッ!!

伏見:…大丈夫か、イチノセ(手を差し出す)
イチノセ:ありがとうございます。…僕もまだまだですね
伏見:そんなことは
イチノセ:次は負けませんよ。絶対、教官から一本取ってみせます!
伏見:(笑って)そうか
真白:伏見さん
伏見:なんだ
真白:午後の訓練は、
伏見:あぁ…本部に呼ばれたんだったか
真白:…
伏見:追ってまた連絡する。それまで休んでてくれ
リッカ:ね、休み時間だって!
カグラ:ちょっと外の空気吸ってこよか〜
クオン:イチノセも、行こ
イチノセ:あ、はい

イチノセ、クオン、リッカ、カグラ、下手へはける
教官組、机直す

源:くっそ…あいつ、マジで踏んできやがった…いってぇ〜…
真白:源さんが、余計なちょっかいかけるからでしょう
源:あ?
真白:嫌だと思いますよ、あれぐらいの年頃なら
源:えっ!?
衣織:気づいてなかったの?
源:おぅ…
衣織:…マジか
源:なんつーか…未だにあいつへの接し方がわかんねえんだよなあ。最後に会ったの、あいつがまだちっちぇ時だったし
衣織:妹だっけ。何個下?
源:七。お前は…彼女だっけか
衣織:…ん、まあね
源:まさか夢にも思わねえよなぁ…死んだ奴に、また会えるなんてよ。…戦争用のロボットだとは思わなかったけど
伏見:…悪い
源:別にお前を責めてるわけじゃねえよ。悪いのは、お前の親父さんだろ
伏見:…
衣織:…ねえ、真白ちゃん
真白:…
衣織:…真白ちゃん?
源:あーお前、ほら、
衣織:あぁ

衣織、真白の左側に回り込み、肩を叩く

衣織:まーしーろちゃんっ
真白:あ…はい、なんでしょうか
衣織:大したことじゃないんだけどさ。…クオン君って、どんな子?
真白:クオン…ですか?
衣織:そうそう。あまり聞いたことないなって思って。知り合いとか、家族とかでもないんでしょ?
源:そうなのか?
衣織:だから、どんな関係だったのかなーって
真白:…
衣織:真白ちゃん?
真白:………クオンは、
伏見:…敵兵、だったか?
源:…は?



衣織:え…?…敵兵…?
伏見:あぁ。真白の家族を殺した、敵兵だったはずだが
源:…お前、それ本当なのかよ
真白:…
源:真白、
真白:…はい
衣織:なんで!?なんでそんな奴に会おうとなんか、
真白:会わなくてはいけないと、思ったからです
源:…どういうことだよ
真白:確かに私は…彼に、全てを奪われました。家族も、仲間も。(右耳をおさえながら)この聞こえなくなった耳も…全部
衣織:…
真白:…憎かった。どうしても、許せませんでした。いくら戦争とはいえ。失くしたものは…もう二度と、戻ってきませんから
衣織:…
真白:でも、それじゃだめだと思ったんです
衣織:だから、クオン君を?
真白:(頷く)憎むだけじゃ、何も変わりませんから。自分と向き合う為にも…私が前に進むためにも、彼を知らなくちゃいけないと…そう、思ったんです
衣織:…
真白:彼と会ってみて…正直、驚きました。思ったよりも、ずっと優しい人だったので。…それで、ようやくわかったんです。彼も、私たちと同じ。ただ大切なものを守りたかった、普通の人なんだって
衣織:…
真白:私のせいで、彼をまた戦場に行かせてしまうのは、少し…心苦しいですが
衣織:…そっか。すごいね、真白ちゃんは
真白:(衣織を見る)
衣織:僕だったら、できないな。いくらその人が優しかったとしても、僕らと同じ境遇にいたとしても。…「神楽」を殺した奴を許すなんて、絶対、できないと思う
源:…そうだな
真白:無理に許す必要は、ないと思います。憎んだ方が、楽な時もありますし
衣織:…伏見君は?
伏見:(顔を上げる)
衣織:どう思う?真白ちゃんの話
伏見:…
衣織:この戦争との向き合い方。僕たちは、どうするのが正解だと思う?
真白:伏見さんは…後輩、でしたか。軍人の
伏見:(写真を見ながら)あぁ。あいつは…「一之瀬」は、俺を庇って死んだ
源:…
伏見:俺は…俺自身が、一番許せないんだと思う。俺たちを利用した、父親も
衣織:…
伏見:…あの時、もう一度会いたいなんて言わなければ
衣織:それは



伏見:…悪い、ちょっと出てくる
真白:伏見さん!

伏見、真白、下手へはける

源:あー…俺も、ちょっくら行ってくるわ
衣織:あ、うん

源、下手へはける
衣織、報告書を書き始める
しばらくして、下手からカグラ

カグラ:あ…先生
衣織:あれ、カグラちゃんじゃん。どしたの?
カグラ:ちょっと忘れ物してもうて。先生は?
衣織:んー…残業?
カグラ:残業?え、何書いとるん?
衣織:こらこら、勝手に見ないの
カグラ:はーい

カグラ、忘れ物を取る

カグラ:な、なあ先生。…一つ、聞いてもええ?
衣織:んー?
カグラ:先生って、好きな人おるん…?



衣織:………何、急に
カグラ:べ、別に…ただ気になって
衣織:そう
カグラ:で、どうなん?
衣織:いるよ
カグラ:え!?誰!?
衣織:内緒
カグラ:えぇ〜っ…なんでぇ、教えてくれやぁ
衣織:やーだ
カグラ:うぅ…あっ。じゃあヒント、ヒントくれへん!?
衣織:えー
カグラ:お願い!な、なっ?
衣織:そうだなぁ…まず、優しくてー
カグラ:うん
衣織:素直で。僕のこと、誰よりもちゃんと見ててくれて
カグラ:うん
衣織:照れるとすぐ真っ赤になっちゃうのが、すっごく可愛くて
カグラ:うん!
衣織:喋り方にちょっと特徴がある子…かな
カグラ:(期待して)先生…その子って
衣織:まあ…5年前に死んじゃったんだけどね
カグラ:…え?
衣織:戦争で、さ。お別れもまともにできなくて
カグラ:…
衣織:大好きって。それさえも、言えなかった
カグラ:そう…なんや
衣織:(カグラを見て)…カグラちゃんもさ。たぶん今、いるんだよね?好きな人
カグラ:へっ!?いや、それは
衣織:伝えたいことがあるなら、早めに言っておいたほうがいいよ。僕みたいに、手遅れになる前にね
カグラ:え、あ…ウチは、
衣織:…
カグラ:…その、
衣織:(紙をまとめながら)………僕、もう戻らないと
カグラ:えっ
衣織:カグラちゃんも。皆待ってるんじゃない?
カグラ:いや
衣織:じゃ、またあとでね
カグラ:先生!

衣織、下手へはける

カグラ:先生…ウチは

カグラ、顔を手で覆う

カグラ:…ウチは、

暗転


〇写真部屋。
明転
青ホリ
壁に写真がたくさん貼り付けてある
中央に伏見
下手より、カメラを持ちながらイチノセ

イチノセ:あ、伏見教官
伏見:イチノセ
イチノセ:珍しいですね、教官がここに来るなんて
伏見:お前は、よく来るのか?
イチノセ:まあ。…ここに来ると、元気がでるので
伏見:?
イチノセ:…壊れるのが、怖くなった時に
伏見:…そうか

伏見、写真を眺める

伏見:この写真は、全部お前が撮ったのか?
イチノセ:はい。好きなんです、こういうの。ちょっと撮りすぎちゃったかなって思ってるんですけど
伏見:…お前は、
イチノセ:はい?
伏見:お前は…何故、こんなに写真を撮ってるんだ?
イチノセ:え?
伏見:好きなだけで、ここまで出来るものなのか?
イチノセ:…それは、
伏見:…
イチノセ:…そうですね、出来ないかもしれません。普通なら

イチノセ、壁の写真に触れる

イチノセ:伏見教官はご存知かもしれませんが…僕たちには、お墓がないんですよ
伏見:墓…?
イチノセ:弔ってもらえないんです、壊れても
伏見:…
イチノセ:…生きた証拠が残らないから、自分たちで残すしかない。先に壊れていった仲間の分も、僕が…最期まで
伏見:…すまない
イチノセ:(笑って)謝らないでくださいよ。教官は、何も悪くないじゃないですか
伏見:…
イチノセ:人間とロボットが違うのは当然です。僕たちは鉄の塊で、骨なんて残りませんから。…単なる、僕たちの我儘ですよ
伏見:…
イチノセ:…教官。僕と写真、撮ってくれませんか?
伏見:写真?
イチノセ:残させて欲しいんです。僕が、教官といたこと
伏見:…構わないが
イチノセ:(ぱっと明るくなって)ほんとですか!?じゃあ、そこ、そこ立ってください!
伏見:あ、あぁ

イチノセ、カメラをセットする
シャッター音
イチノセ、撮れた写真を確認しながら

イチノセ:伏見教官。【青写真を描く】って言葉、ご存知ですか?未来の姿を想像する、って意味らしいんですけど
伏見:…あぁ、知ってる。昔、後輩から聞いた
イチノセ:へぇ。素敵な後輩さんですね
伏見:…そうだな
イチノセ:僕、この言葉大好きで。なんていうか…こんな、この先どうなるのかも、大人になれるのかどうかもわからない世界ですけど…未来のこと考えられるのって、なんか、すごくいいなぁって
伏見:…
イチノセ:…だから。この戦争が終わったら、また…僕と写真、撮ってくださいね
伏見:…ああ


〇後日。訓練場。
舞台に源
下手より、リッカ

リッカ:げっ
源:おーリッカ…つか、なんだよ。「げっ」って
リッカ:別にぃ

リッカ、あからさまに源から距離をとる

源:んだよ
リッカ:…今日は、何も聞いてこないのね
源:あ?
リッカ:いつもキモイこと言ってくるくせに
源:あー…やめたんだよ、そういうの
リッカ:そうなの?
源:真白に怒られた
リッカ:へえ、さすが真白教官ね。わかってもらえて嬉しいわ
源:…悪い、嫌がってんの気づけなくて
リッカ:気づいてなかったの!?…それはそれでキモイわ…



リッカ:…教官はさあ
源:ん?
リッカ:なんであたしのこと、そんなに気にかけてくれるわけ?
源:…え、
リッカ:いやだってさ。意味無くない?どうせ半年後にはさよならだし。メリットなんかないじゃん
源:は…?
リッカ:だから、あんたがあたしに良くしてくれる理由が、その…いまいち、よくわかんないっていうか…
源:…ふざけんな!!
リッカ:(源を見る)
源:メリットだと!?馬鹿なこと言ってんじゃねえよ。妹心配すんのに、メリットもクソもあるわけねえだろうが!!
リッカ:…え?
源:だから…っ

源、はっとする


リッカ:…妹…?あたしが…あんたの?
源:…
リッカ:…ねえどういうこと!?あたしは、
源:…わかった
リッカ:はぁ…?
源:話す。全部…話すから
リッカ:…
源:………あー…どっから話すっかなぁ
リッカ:…
源:…五年前にさ。言われたんだよ、伏見の親父に。「死んだ奴に会えるとしたら、誰に会いたい」って
リッカ:死んだ…人に?
源:そ。あいつの親父、軍のお偉いさんでさ。…そんで俺は、お前って答えた
リッカ:あたし…死んでるの?
源:おぅ。…俺がガキん時に、戦争でな
リッカ:…じゃあ、あたしは…亡くなったあんたの妹の代わりに作られたロボットってこと?
源:まあ…そうなるな
リッカ:………戦争用ってことは?
源:…え?
リッカ:あたしたちが、戦争に行くってことは?知らないで、あたしを選んだんだよね?
源:…
リッカ:教官?
源:いや…知ってた
リッカ:…は?
源:俺だけ…伏見の親父が話してたの、たまたま聞いて
リッカ:…
源:だけど。俺は、それでもお前に…
リッカ:…なにそれ
源:リッカ…?
リッカ:知ってた…?あたしが、戦争に行くのを?知ってて、あたしを選んだんだ!?
源:違う、俺は!!

リッカ、源の頬を叩く

リッカ:最っ低…
源:…
リッカ:何が、大切な妹なの。全部知ってたくせに。わかってて、あたしを選んだくせに
源:…
リッカ:あんたにはわかんの。あたしたちが今まで、どんな思いで過ごしてきたか。辛くても、怖くても、あんたたち人間のために戦わなきゃいけない、あたしたちのこの気持ちが
源:リッカ…俺は
リッカ:いい。もう何も、

上手より、イチノセ、クオン、カグラ

イチノセ:リッカ…さん?
源:イチノセ…!?
カグラ:…源先生…今の話、本当なん…?
源:お前ら…
カグラ:ウチらは、皆…先生の、

下手より、伏見、真白、衣織

衣織:おはよぉ皆〜…って…え、どうしたの。なんかあった?
伏見:源…?どうした?
源:…それが
イチノセ:伏見教官…今の話、本当ですか
伏見:え
源:悪ぃ、伏見…全部、言っちまった
伏見:(源を見る)
イチノセ:なら、僕は

伏見、下手へ走ってはける

イチノセ:伏見教官!!

伏見、途中で写真を落とす
イチノセ、拾う

イチノセ:…これって

暗転


〇写真部屋。
明転
下手より、伏見
遅れて、イチノセ

イチノセ:待ってください!
伏見:…
イチノセ:聞きました、全部…源教官から。本物の、「一之瀬」さんのこと
伏見:…
イチノセ:僕は、
伏見:…違うんだ
イチノセ:え、
伏見:俺は、こんなつもりじゃ

暗転


〇回想。5年前。
明転
上手に、イチノセ、クオン、リッカ、カグラ
下手に、伏見、真白、源、衣織

伏見:父上…今…なんと…?
父:言葉通りの意味だ。そのロボットたちは先日、お前たちが会いたいと望んだ者を元に作られたもの。…そして我が軍は、彼らの軍事利用を決定した。お前たちには、その教官を頼みたい
衣織:待ってください、少佐!!…聞いてません、軍事利用なんて!
父:…
衣織:できません…大切な人なら、尚更、
父:なら。お前たちが守ってやればいい
衣織:は…?
父:教官として、彼らが無事生還できるよう、訓練してやればいい。できないのなら、それまでだ
伏見:そんな…無茶苦茶です、こんなの
父:では。期待している
伏見:父上!!

暗転


〇写真部屋。
明転

伏見:…ごめん…ごめんな、イチノセ…
イチノセ:…
伏見:知らなかったんだ、何も…俺は…
一之瀬:…
伏見:…俺は、
イチノセ:(伏見の近くに寄って)…「伏見先輩」
伏見:(イチノセを見る)
イチノセ:「もう、謝らないでください。嬉しかったです。先輩が僕のこと、こんなにも想っていてくれて」
伏見:イチノセ…?
イチノセ:「でも…だからこそ。先輩が、いつまでも僕のことで苦しむ必要はありません」
伏見:…
イチノセ:「だから…あまり自分を責めないでください」
伏見:…
イチノセ:…って。本物の「一之瀬」さんなら、そう仰ると思うんです
伏見:…「一之瀬」が
イチノセ:(写真を私ながら)…「一之瀬」さんも、写真、好きだったんですね
伏見:ああ
イチノセ:これ、いつの写真ですか?
伏見:出兵の朝だ。…「一之瀬」が、亡くなった日の
イチノセ:教官、すごく笑顔ですね。僕の時は笑ってくれなかったのに
伏見:それは…悪かった
イチノセ:(笑って)冗談です。その代わり、今度撮る時はちゃんと笑ってくださいね
伏見:わかった
イチノセ:…さ、そろそろ戻りましょう。皆さん待っ…

サイレン音

イチノセ:な、なんですか!?
伏見:…戻るぞ、イチノセ
イチノセ:は、はい

伏見、イチノセ、下手へはける
暗転


〇訓練場
明転
下手より、伏見、イチノセ

源:伏見!
伏見:源
カグラ:なぁ、何が起きてるん!?
衣織:カグラちゃん、
真白:落ち着いてください、今

ノイズ音

父:緊急指令、緊急指令。…聞こえるか、伏見
伏見:父上…!?
父:先程、我が軍の前線が突破されたとの通達が入った。他にも、多数の箇所で敵軍からの攻撃が確認されている。このままでは、我々も包囲されかねん
衣織:そんな
父:よって、ただいまより。全軍事ロボットの出兵を命じる
イチノセ:…え?



伏見:待ってください…出兵は、半年後のはずじゃ
父:緊急事態だ。そんな悠長なことは言っておれん
伏見:ですが!
父:総員、直ちに本部へ集合するように。以上だ
伏見:父上!!



衣織:嘘でしょ…こんなことって…



クオン:…わかりました
真白:クオン…?
クオン:僕は、行きます。それが役目ですから
衣織:でも、
クオン:真白教官
真白:(クオンを見る)
クオン:聞きました、全部。昔のこと
真白:…
クオン:ありがとうございます。僕と…「久遠」 と、向き合ってくれて。教官に会えて、本当によかったです
真白:(首を振って)…お礼を言わなくてはいけないのは、私の方です。あなたがいなければ、私は前に進めなかった
クオン:教官
真白:ありがとうございます、私と出会ってくれて。私を救ってくれて…ありがとう
クオン:(笑って)はい。…では、またどこかで
真白:はい。…また

クオン、下手へはける
リッカ、ついて行こうと下手へ

源:リッカ!
リッカ:(足を止める)
源:…ごめん、何もしてやれなくて。自分勝手で、ほんとにごめん…!!
リッカ:…
源:俺は、
リッカ:あたしは
源:…
リッカ:…あたしはまだ、あんたのこと許してない。許すつもりもないし…いくら謝られても、それは変わんないと思う
源:…
リッカ:でも…知ってるから。あんたがあたしを、「妹」を、大切に思ってくれてたこと。あんたに選ばれてここにいる以上、あんただけでも守れるよう、あたしも頑張るから…
源:…
リッカ:だから。…ばいばい、お兄ちゃん

リッカ、下手へはける

カグラ:…ウチも行かんとなぁ
衣織:…待って!
カグラ:先生
衣織:待って…お願い、行かないで
カグラ:…
衣織:…僕は…僕は、君の事が、
カグラ:ダメやよ、先生
衣織:え…?
カグラ:それは、ほんまに好きな人に言う言葉やろ?ウチに言うたらあかんよ
衣織:…それは
カグラ:ウチが好きやったのは、先生やけど。…先生の「好きな人」は、きっと…ウチじゃなかったんね
衣織:…
カグラ:(笑って)そんな顔せえへんといてや。最期くらい、笑って見送ってや
衣織:…うん
カグラ:大丈夫。…全部、わかっとるから
衣織:…
カグラ:さよなら、先生。…大好きやったよ
衣織:カグラちゃん、

カグラ、下手へはける
伏見、イチノセから離れられないでいる

源:…おい、伏見
伏見:………嫌だ
源:は…?
真白:伏見さん、
伏見:…嫌だ。出来ない…
イチノセ:…教官
伏見:もう、これ以上は…っ

源、伏見を殴る

衣織:源君!!
伏見:…っ、源、
源:…てめぇ、ふざけんなよ
伏見:…
源:何自分だけ逃げようとしてんだよ…俺たちが、いったいどんな気持ちで…!!
真白:(源の肩を掴んで)源さん
源:…くそっ
伏見:…
イチノセ:…伏見教官
伏見:(顔を上げる)
イチノセ:僕…「一之瀬」さんがどうして教官を庇ったのか、わかる気がします。こんなに優しい人、なかなかいませんから
伏見:…
イチノセ:僕も、教官には生きて欲しいって…そう、思います
伏見:…やめろ、俺は、
イチノセ:守らせてください。僕に、もう一度。僕が大好きな、あなたのために
伏見:イチノセ…
イチノセ:…教官。最期に一つだけ…お願い、聞いてくれませんか
伏見:お願い…?
イチノセ:もらって欲しいんです、あの部屋の写真
伏見:…
イチノセ: それで、たまにでいいから…僕たちのこと、思い出して欲しいんです
伏見:…
イチノセ:教官は、僕たちのこと…忘れないでいてくれますか
伏見:…
イチノセ:…教官、
伏見:(意を決して)…あぁ、忘れない…絶対、忘れないからっ
イチノセ:教官…
伏見:だから…っ、だから………ありがとう、イチノセ…っ
イチノセ:(笑って)はい、こちらこそ。たくさん、ありがとうござました

イチノセ、伏見を抱きしめる

イチノセ:さようなら、伏見教官。…また、どこかで


〇後日。戦没者墓地
 明転(フェード)
中央に墓
 イチノセが墓の後ろにもたれかかっている
 上手より、伏見
 
伏見:久しぶりだな、イチノセ
伏見:悪いな、あまり来てやれなくて。…今日は、これを返しに来たんだ

伏見、墓の前にカメラを置き、墓の前に背を向けて座る

伏見:聞いたよ、全部。お前たちのこと。…俺たちのために、頑張ってくれたって。おかげで俺たち人間には、怪我人すらいなかった
伏見:あれから、いろいろあった…今回のことで父は失脚したし、戦争での軍事ロボットも禁止された
伏見:…本当、たくさんあったよ。楽しいことも、辛いことも…本当に、たくさん
伏見:…それでも、生きてる。それはお前のおかげだ、イチノセ
伏見:ありがとう。…写真も、大事にする。誰も、お前を忘れたりなんかしないから
伏見:だから…どうか、安心して休んでくれ。イチノセ

 伏見、立ち上がり、墓に手を置く

伏見:また、会いに来るから。今度はきっと、皆で
伏見:またな、イチノセ

 伏見、上手へはける

イチノセ:…はい。きっと、また

暗転(フェード)

終幕

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