○(綾子の夢)桜ヶ丘高校・外観(夕)
薄暗さが少し不気味で、人けが少ない。
○(綾子の夢)同・廊下(夕)
制服姿の早川綾子(17)が走っている。
息を切らし、必死の形相で校内を走る。
走りながら時たま振り返り背後を確認。
○(綾子の夢)同・職員室前の廊下(夕)
走ってくる綾子がつまずいて倒れる。
慌てて後ろを振り返る綾子。
曲がり角から
ジャージ姿の前田恭平(29)。
上着ポケットに両手を入れ歩いて来る。
前田が来た角の正面から
教師Aが通りかかる。
綾子が教師Aに向かって
必死に声を張り上げる。
綾子「先生助けて!」
教師Aは綾子のほうを見るが、
そのまま前田の後ろを過ぎ去る。
綾子「待って……」
泣きながら、声を絞り出す綾子。
ポケットからゆっくり銃を出す前田。
そのまま綾子に向け、不気味な笑み。
綾子が叫ぶ。
前田が引き金を引く。
銃声の音。
○(綾子の夢)早川家・綾子の部屋(朝)
ベッドで寝ていた綾子が飛び起きる。
呼吸は荒く、汗だくである。
綾子「(ため息)なんだ……夢か」
深呼吸をするが、やや不安気な表情。
○(綾子の夢)同・外観(朝)
洋風の新築2階建てである。
2階で綾子がカーテンを開けている。
○(綾子の夢)同・LDK(朝)
ダイニングで新聞を読む綾子の父親。
綾子の母親は台所とダイニングを往復。
母親によって食卓に朝食が並ぶ。
制服姿の綾子が入ってくる。
綾子「おはよう」
父親の正面の席に綾子が座る。
母親が煮物をテーブルに置きながら、
母親「おはよう。しっかり食べて行きなさい」
父親が広げた新聞を見ながら唸る。
綾子「何かよからぬ事件? お父さん」
父親「最近はこの辺も物騒だなあ」
綾子「何、この近くで事件?」
父親「2丁目でひき逃げがあったらしい」
母親「すぐ近くじゃない。怖いわね」
綾子「そういえばね、怖い夢見たの」
父親の隣の席に母親が座り、箸を持つ。
母親「あら、珍しいわね。どんな夢?」
綾子「私が殺される夢。体育の小林が事故っ
て、前田っていう臨時の先生が来るの。
でも、実はその人が殺人鬼で……」
母親「ただの夢よ。早く食べちゃいなさい」
母親がテーブルの食事を指して言う。
綾子「でも息が止まる感覚まであったの」
母親「無呼吸で寝てたのよ。それはそれで良く
ないわね。部活頑張り過ぎじゃない?」
綾子「でも滅多に夢見ない私が、夢見る時って、
正夢になりそうで怖いじゃん」
母親「(半信半疑で)気にし過ぎよ~」
父が咳払いをしながら、新聞をめくる。
綾子がふと1面に目をやり、驚く。
○(綾子の夢)新聞・1面
左端に小さく載った記事。
見出し『連続通り魔か』
前田の顔写真だが、名は不明と記載。
○(綾子の夢)元の早川家・LDK(朝)
父の開いている新聞に驚いている綾子。
インターホンの音。
母「あら、こんな朝早く誰かしら。は~い」
母が席を立ち、ダイニングを出ていく。
母の声「綾子! 学校の先生よ~」
母の声に綾子が慌てて叫ぶ。
綾子「駄目ぇぇ!」
綾子が席を立ち、ドアの外を覗く。
○(綾子の夢)同・玄関・廊下(朝)
LDKの扉から慌てた綾子が顔を出す。
母が開けた玄関のドアの向こうに前田。
前田はポケットから銃を取り出す。
綾子に向け、引き金を引く。
銃声音。
○バス車内(朝)
綾子がバスの席でハッとして目覚める。
朝のラッシュで込み合うバス内。
辺りは平然とした様子である。
綾子はホッと肩を撫でおろす。
○桜ヶ丘高校・外観(朝)
登校してくる生徒達が正門をくぐる。
○同・3年H組(朝)
生徒が思い思いに友達と喋っている。
綾子と大川友香(18)が話している。
友香「え、2重に夢見たの?」
綾子「そう。私普段全然夢見ないのにさ」
友香「そうだよね。今までに2回ぐらいしか夢
見たことないんでしょ?」
綾子「これが3回目。しかも、過去2回の夢っ
て地震とか災害の事件で正夢になったし」
友香「正夢…予知夢的な?」
綾子「その時は大した事ない災害だったからま
だ良かったけど、今回は予知夢じゃない事を
祈ってる。2重ってのが気になるけど」
友香「きっと大丈夫だよ。3度目の正直!」
綾子「でも2度ある事は3度あるとも言うし」
不安気な綾子に友香は黙ってしまう。
× × ×
皆着席し、ホームルーム中である。
教卓に担任が立ち、話をしている。
担任「悪い知らせがある。うちの学年を担当し
ている体育の小林先生が、今朝事故に遇われ
て、しばらく入院するそうだ」
教室内がざわめく。
担任「ひき逃げだったらしい」
綾子は目を見開き、動揺を隠せない。
○(フラッシュ)(綾子の夢)早川家・ダイニング
綾子の父親が新聞を読んでいる。
父親「2丁目でひき逃げがあったらしい」
○元の桜ヶ丘高校・3年H組(朝)
友香が困惑する綾子の様子に気付く。
担任「ここから現場は遠いが、そっち方面の生
徒もいるだろうから、気を付けるように」
綾子が友香と顔を見合わせる。
担任「という訳で、しばらく体育は、1年生担
当の十条先生が臨時で教えてくれる」
安心して肩を撫でおろす綾子。
× × ×
担任が出ていく。
生徒達が席を立ち、散らばる。
友香が綾子の前の席に横座りする。
友香「綾子、小林の事故、予知してたの?」
綾子「うん……でも私の夢では、臨時教員は全く
知らない顔の前田って男のはずなの」
友香が安心した様子で、明るい調子で、
友香「じゃあ、現実と想像が半々なんじゃな
い?なら、きっと大丈夫だよ。予知夢は必ず
しも当たるわけじゃないって事だよ」
笑顔の友香に、綾子は微笑んで頷く。
○同・美術準備室・外(夕)
1階の為、校庭から美術室が見える。
窓の外から綾子と友香が見えている。
絵の具とキャンパスを持つ綾子と友香。
隣の教室へ続くドアを通る。
○同・美術室・外(夕)
準備室から綾子と友香が入ってくる。
女子生徒が数人、絵を描いている。
○同・美術室内(夕)
綾子と友香が空いている席に座る。
作成中の絵を設置し、描き始める。
× × ×
静かに絵を描き続ける女子生徒達。
校庭に通じる扉が開き、生徒達が注目。
ジャージ姿の前田が入ってくる。
綾子がハッとし、慌てて席を立つ。
前田がすかさず綾子の首に片腕を回す。
ジャージのポケットから銃を取り出す。
綾子のこめかみに当てる。
生徒達が悲鳴を上げる。
前田「黙れ! こいつが死ぬぞ!」
恐怖に固まる生徒達。
× × ×
2人の生徒がカーテンを全て閉める。
友香含める他の生徒は着席している。
カーテン近くに立つ前田と綾子。
前田はすき間から、外の様子を確認。
前田の左腕に拘束されている綾子。
○(フラッシュ)(綾子の夢)同・職員室前・廊下(夕)
ジャージ姿の前田が不気味な笑み。
○元の桜ヶ丘高校・美術室
前田に銃を突きつけられている綾子。
綾子が恐怖に震えるように、小声で
綾子「そっか、ジャージだったから臨時教師だ
と思い込んだんだ……」
綾子の瞳から涙を零れる。
○同・校門前(夕)
報道陣や野次馬でごった返している。
各報道陣が中継中である。
記者A「こちら桜ヶ丘高校前です。今日未明、
美術室に突然男が現れ、現場に居合わせた生
徒を人質にして立てこもっている模様」
記者B「現在、詳しい情報はまだ分かりません
が、立てこもりの犯人は最近多発している連
続通り魔だという情報も入っています」
記者C「人質は、美術部に所属する少女数で、
大人は含まれてないとの事です」
閉鎖した門を挟み教員が集まっている。
校庭にはパトカーが数台見える。
× × ×
野次馬は増え続けている。
記者Aのロケハンが中継を始める。
記者A「新しい情報です。犯人は、今朝起きた
同校の体育教員小林昇さんがひき逃げされた
事件にも関わっているようです」
銃声が響く。
辺りが騒然とする。
(フェードアウト・暗転)
救急車のサイレン音。
サイレン音に被せて、記者Aが早口で
記者A「銃声を聞いて警察が突入し、犯人の身柄
を確保しました。しかし、1名の女子生徒が
犠牲になってしまっていたとのことです」
サイレン音が中途半端に切れる。
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