『夢離48,421㎞』
〈登場人物〉
イチグロ カズロウ(27)・・・風俗店受付勤務
キウチ タキオ(27)・・・フリーター
〇渋谷・風俗店・店内(夜)
雑誌を読んでいる受付のイチグロカズロウ(27)。
「ピロピロピロウ」と入店音。
客・キウチタキオ(27)入ってくる。
タキオ「あのー、すいませーん…」
店内BGMは寺尾聰さんの『ルビーの指環』
カズロウ、ワイヤレスイヤホンをして雑誌を読んでいるの
で、タキオに気づいてない。
タキオ「(反応ないので)すいませーん」
カズロウ、タキオに気づく。
イヤホンは外さず、雑誌を見ながら、
カズロウ「禁止事項読んで、女の子決めて。名前あれなら番号で言って。今2番と14番の子お休みで3番、8番埋まってて、13番は今終わるから、10分ほど時間かかる」
タキオ、女の子一覧を見て、
タキオ「…じゃあ9番の…キラキラネーム?」
カズロウ「うち、女の子の名前、全員キラキラネームで付けさせてるから」
タキオ、硬直している。
カズロウ「誰?」
タキオ「えっと…。じゃあ、キラキラネーム、手を洗うと書い
て…手洗(てぃあら) ちゃんで…」
カズロウ、受付から出て、タキオの前に来る。
カズロウ「本番禁止。盗撮禁止。あと手洗ちゃん、新人の子だから強くしないでね」
タキオ「…はい」
カズロウ「付き当たりのトリカブトの絵が張ってある部屋だから」
タキオ、何かに引っかかり動こうとしない 。
カズロウ、それを見て、
カズロウ「あ、トリカブト分からない?葉っぱはヨモギに似てて、花自体は…」
タキオ「カズロウ!?」
カズロウ「は?」
タキオ「カズロウだろ!カズロウイチグロっ!イチグロカズロウ!」
カズロウ「えっ!?…なんで?」
タキオ「おれだよ!おれおれっ!おれだよおれ!!」
カズロウ「ハンバーグだよ」
タキオ「…なにそれ?」
カズロウ「ハンバーグ師匠」
タキオ、長い髪を上げて、顔をよく見せる。
カズロウ「…んんっ!…タキオ?キウチタキオ?」
キクチ「そう!タキオキウチ!キウチタキオ!!」
カズロウ/タキオ「おおおおー!!」
タキオ「何してんだよ!」
2人、お互いを察し、呼吸を合わせるように
カズロウ/タキオ「風俗の受付!」
2人、笑ってる。
カズロウ「タキオこそ何やってんだよ!」
2人、またお互いを察し、呼吸を合わせるように
カズロウ/タキオ「フリーター!」
2人、笑ってる。
タキオ「よく分かったなー!」
カズロウ「分かるよ!え、ちょっと、飲み行こうよ!」
タキオ「おおお…。いくかっ!…あっ!手洗ちゃん…」
カズロウ「ああ、手洗ちゃん。でも実際全然キラキラしてないよ。次の客回す時も身体全く洗わないし。手洗うって書くクセに不潔だろ?」
タキオ「でもせっかくだし…」
カズロウ「…じゃあ終わるの待ってるよ。おれもうすぐ上がりだし」
タキオ「おおうっ」
タキオ、緊張の面持ちでトリカブトの部屋へ向かう。
その姿を懐かしそうに見ているカズロウ。
【場面転換】
舞台上が代々木公園に変わっていく中、『Doctor‐X』のメインテーマに似た曲が流れ、田口トモロヲさん似のナレーターが入る。
ナレーター「イチグロ・カズロウとキウチ・タキオ。高校時代に音楽デュオ『病は気から』を結成するも、音楽業界に全くほんとにかすりもせずに解散。その後、カズロウはノーベル文学賞を目指し作家に。タキオは男性向けの英国風ファッションブランドを立ち上げる。しかし、これも各業界に全く噓なくかすりもせず、お互い現在、27歳。
これは、そんな2人が紅白歌合戦・NHKホールを目指すが、あえなく挫折し、金の為に地方やネットの賞金だけは高い雑な企画に手を出し、音楽をないがしろにし、遂には昨今の芸能人のような事件を起こし、逮捕され、罵り合い、最後は面会室でデュエットをするという、大人気ドラマ『Doctor‐X』とは全く関係の無い話」
タイトル『夢離48,421㎞』
〇代々木公園・けやき並木通り(早朝)
舞台転換が終わり、カズロウとタキオが通勤中のサラリーマンもチラホラ通る場所で、寝そべっている。2人の先にはNHKホールが見える。
だいぶ酔っている様子の2人。
カズロウ、耳を澄ましている。
カズロウ「やっぱりな」
タキオ「なに?」
カズロウ「聞こえるわ。波の音が」
タキオ「え?海ないから。ここ代々木公園」
カズロウ「ノットイエット!見てみ?聞いてみ?」
タキオ、カズロウのように耳を澄ませる。と…
タキオ「まじ?…何か聴こえてきたっ!」
カズロウ「これが想像力の余白だよー」
2人「おお!」などと、興奮し合っている。
タキオ「…作家ダメだった?」
カズロウ「いや、俺としてはこれ売れるな、賞取れるなって作品は何本か書けたんだけど、 全部パクリだって言われてさ」
タキオ「そうなんだ」
カズロウ「このまえ日本人がノーベル文学賞取ってたじゃん?あれとほとんど同じ内容だったぜ」
タキオ「まじか。ほんといつ作ったじゃなくて、どのタイミングで世に出したかだよな―」
カズロウ「タキオは?自分のファッションブランド」
タキオ「おれもほぼそんな感じだよ。最後はパクリだって言われて、消滅」
カズロウ「そっかー。お互い、叶わねえな」
タキオ「…まだ実家?どこだっけ?渋谷?」
カズロウ「ちげーよ!松戸!千葉の!それ別名な!千葉の渋谷は松戸!柏じゃねえからな!」
タキオ「よく分かんねーよ!あ、おれ実家出たから」
カズロウ「まじ!?川口?」
タキオ「あ、川口からは出てない。川口の実家出て、東川口で一人暮らししてる」
カズロウ「なんだよそれ!実家の近くで1人暮らしするって、それ1人暮らしか!?」
タキオ「家賃もメシも自分でやってるし、確定申告は2月末には終わらせてるし、たまに裁判傍聴するし、その帰りには傍聴者同士で意見交換し合うし、そもそも親と3年近く会ってねえし!」
カズロウ「最後の方全然関係ねえし!ってか親には会ってやれよ!近いんだから!」
タキオ「色々あるんだよ」
沈黙
カズロウ「覚えてる?」
タキオ「何を?」
カズロウ、立ち上がり、一生売れないパントマイムアーティストのような動きをする。
タキオ、それを見て、
タキオ「…当り前だろ」
カズロウ、変なメロディーで歌いだす。
カズロウ《「愛しい」だなんて言い慣れてないケド 今なら言えるよ 君のために》
タキオ《となりで笑って いてくれるのならば これ以上他に何も要らないよ》
カズロウ/タキオ《出逢えたことから全ては始まった 傷つけあう日もあるけれども 「いっしょにいたい」とそう思えることが まだ知らない明日へとつながってゆくよ》
《》は引用:Every Little Thing 『fragile』の歌詞
歌い終わる。(全て本家・Every Little Thingさんの『fragile』と歌詞は全く同じだが、メロディーは異なって歌っている)
達成感のある2人。
カズロウ「…ちゃんと覚えてんじゃん」
タキオ「そりゃそうだろ。俺たちの代表曲だから」
カズロウ「ふらっとJAL乗ればマイル溜めちゃえる」
タキオ「でもこれELTのfragileと全く同じ歌詞で、結局お蔵だもんなー」
タキオ「だからそれもタイミングだよなー」
カズロウ「…タキオさ、またやらね?」
タキオ「えっ?…えー!」
カズロウ「やろうぜ!!このままの生活続けててもしょうがねえだろ!」
タキオ「いや、そうだけど、また始めたってぜってぇ売れないぜ」
カズロウ「そんなの始めなきゃ分かんないぜ。何かある気がすんだよ!」
タキオ「何があんだよ?」
カズロウ「だって今おれら、出逢った頃のような気持ちじゃん!」
タキオ「ELTの曲みたいに言うな!」
カズロウ、ふと立ち上がり、
カズロウ「…これはおれたちの歌詞だぁああ!!!」
といい、タキオを見つめる。
タキオ「…だな」
カズロウ「…おう」
タキオ「…じゃあさ、今の仕事、何日で辞める?」
カズロウ「えっ?…そんなの…。今辞めて、ここで曲作ってや
るよ!」
タキオ「(溜息)。…やるかぁー!」
カズロウ「おう!…..決めた!『病は気から』第2章の夢は紅
白、NHKホールだ!」
タキオ「第2章ってEXILE TRIBEか。ってか今更紅白とかダセえだろ」
カズロウ「おまえ紅白なめちゃいけない。一気に認知度上がるぜ!巣鴨のじいさんばあさんにも知られるんだぜ!不登校だったクラスメイトからも連絡来るぜ!そしたらライブのチケットバンバン売れて、皆がおれらの音楽を聴いてくれんだよ!そのための夢だ!」
タキオ「…じゃあ、地元のレンタルビデオ屋で14年間返し忘
れてるホームアローン2の延滞料金の請求も来るのかな…?」
カズロウ「…それは来ない!3年以上経てば店側も忘れてる!
お客様の勝利だ!安心しろ!」
タキオ「なら決まりだ!」
2人、朝の代々木公園で熱い抱擁をする。
【場面転換】
熱い抱擁をしているカズロウとタキオ。
その中で、次の場面転換が行われている。
その中で、田口トモロヲさん似のナレーター入る。
ナレーター「こうして『病は気から』は紅白・NHKホールを
第2章の夢にし、再結成した。互いにバイトは辞め、曲作
りに明けくれた。
だがそんな日は3日と続かなかった。すぐに金の底は突き、生活の為、カズロウはキャバクラのキャッチ。タキオは4つのバイトを掛け持ちした。2人の曲作りの時間はどんどん無くなっていく。そして音楽から遠のいてく。現在、2人が一緒に顔を合わせる活動は…」
場面転換が終わり、仮説ステージが立ち上がっている。
〇秋田県・某所・ゆめときぼうときのうとオトン広場(昼)
広場には『立春隠し芸大会』の看板。
多くの地元観客民が賑わう中、
仮設ステージにカズロウとタキオが立っている。
司会者「夢持つ若者応援企画!優勝したら賞金100万円とあきたこまち干支1週分!立春隠し芸大会ぃいい!!」
大盛り上がりの地元観客民!
司会者「さあ次の挑戦者は、歌手志望のカズロウさんとタキオさん!」
カズロウ「あの、歌手志望じゃなくて、歌手なんですけど…」
司会者「どんな隠し芸をぉお!」
カズロウ「え…あ、自分はぐるぐるバッドを10回まわりながら、ファンタグレープを飲んで、10回周り終わった後に、都内にある成城石井の店舗名をげっぷをせずに全部言い切りたいと思います」
大盛り上がりの地元観客民!
タキオ「僕は音楽はラジオ体操第1をかけながら、動きはラジオ体操第二をやって、その最中に三代目 J SOUL BROTHERメンバー7人のwikipediaに乗っているプロフィールを全て言います」
大盛り上がりの地元観客民!
司会者「ではやってもらいましょう!100万円とあきたこまち目指して!どうぞ!」
「タンタンタタタタタタンっ!」とラジオ体操第1が流れる。タキオ、ラジオ体操第2をやりながら、
三代目 J SOUL BROTHERSのNAOTOさんの生年月日から言い始める。
カズロウ、ぐるぐるバットを10回しながらファンタグレープを飲み終え、成城石井の都内店舗を芦花公園店から言い始める。
やっている間に次の場面転換が行われる。
〇汐留ではないが汐留近くの都内・報道スタジオ(夕)
初のTV局スタジオで、緊張の面持ちのカズロウとタキオ。
新人アナウンサーが、2人をインタビューしている。
アナウンサー「ニュースsomeday!今日は苦しい生活の中でも夢を追いかけている若者特集! 略してー、『苦しくても自分の為に夢は捨てずに、日々に耐えろ!そしてその夢つかめ平成生まれ!いやデジタルネイティブ世代です!待て待てーい!昭和もまだまだ若い血潮は流れてるわよ!』のコーナー!
本日は音楽デュオ『病は気から』のカズロウさんとタキオさんに来て頂きました!」
カズロウ/タキオ「よろしくお願いしますっ!」
アナウンサー「早速2人の夢を聞いていきましょう!」
カズロウ「僕達の夢は紅白に出る事です!」
アナウンサー「これまた大きな夢ですね!でも夢もですが、日々の生活も大変なのではないですか?」
タキオ「そうですね。今は音楽1本では食べて行けてないので、僕はバイトを4つ掛け持ちしてます。でも2人で直接会って、音楽を作る時間は必ず取るようにしてます。(カズロウに)なっ?」
カズロウ「えっ?(嘘じゃん)。…あ、…へい!」
タキオ「…(嘘突き通す芝居しろよ)。そうなんです!音楽やりたいからこの道選んだのに、結局バイトの方に時間費やすみたいな生活は本末転倒だと思うんで!(とカズロウをけん制する)」
タキオに苛立つカズロウ。
アナウンサー「そうですよね!アーティストですって言ってるくせに実際は、バイトしてる時間が9割5分みたいな人、多いですよね。それよりも2人がこれまで最もあっ、これは辛いなとか思った出来事ってありますか?」
タキオ「えっと…。(カズロウに)なんかある?」
カズロウ「うーん(振るなよ、クソ)。…あ、ついこの前のことなんですけど、300円ちょっとするカップラーメン買ったんですよ。結構高級じゃないっすか!それ家で食おうとして、お湯入れて、机まで運ぼうとしたら、スマホの充電器の線に足引っかかって、全部こぼしたんすよ! 300円のカップ麺なんて滅多に買わないっすよ!もうまじ辛かったすね!」
タキオ「…(エピソードしょうもないアイドルかよ)。あ、でも
やっぱり新曲制作に勝る苦しさは無いですね!それに比
べたら他のことは耐えられますね!」
アナウンサー「はぁー。じゃあ音楽を除いて、辛い、これはもう死にたいなくらいな、若者らしい辛い出来事って?」
タキオ「えっ、音楽除いてですか…?それは…」
フロアⅮが、アナウンサーへ「借金いくらとか、業界人のヤバい話聞け!」と書かれたカンペを出す。
それが目に入るカズロウとタキオ。
呆然としてる中、場面転換が行われている。
〇赤坂ではないが赤坂近くの都内・公道(夕)
坂を走っているカズロウとタキオ。
先頭にはマラソンタレント。後方には最近ドラマではなぜかあまり見ない大御所俳優さんや芸人さん、グラドルさんがいる。
スタジオにいるMCが中継で実況している。
MC「さあ始まりました!72時間耐久赤坂5丁目付近でフル
以上マラソン!出場者の皆さんには3日間ぶっ通しで走って頂き、最終的に万歩計の歩数の多さと水、トイレの使用回数が最も少ない人が、優勝賞金30万円と東京のお米・ひがしのみやこ米3カ月分を贈呈されます!でも皆さん決して無理だけはせずに、死ぬ気で優勝目指して、全身全霊で戦って下さいね!」
水とトイレを我慢しながら、マラソンタレントを追いかけるカズロウとタキオ。
その光景の中、場面転換が行われる。
ナレーターも入る。
ナレーター「2人は目の前の生活とお金を優先し、音楽と紅白出場という夢からは完全に遠のいていた。
そんな中、カズロウが薬物所持、恐喝、飲酒運転の3つの罪で逮捕された」
〇刑務所・面会室(昼)
パイプ椅子に座っているカズロウ。後ろには看守。
タキオ、入ってくる。
ガラス越しのカズロウと目が合う、タキオ。
タキオ「…」
カズロウ、立ち上がり、
カズロウ「…この度は私の反社会的な行為により、大変ご迷惑と心配をおかけしました。誠に申し訳ございませんでした」
タキオ「…なんだよ?所属事務所と弁護士が考えたような形式的すぎる謝り方は?おまえフリーで弁護士もいないだろ」
カズロウ「…いやぁーー!どんなテンションで会えばいいのか分かんなくてさ、もうここは思いっきり落ち込んで、反省してる姿見せようと思ってさ!どうだった?」
タキオ「…見えねーよ」
カズロウ「まじ!?気持ちはそうなのになー。やっぱ言葉と動きと表情がついていかねーわ。そう考えると芝居って難しいな!やっぱミュージシャンは音楽だけやるべきだよな!」
タキオ「…おまえ何してんだよ」
カズロウ「…ああ!同時に3つはダメだよな!薬物、恐喝、飲酒運転!一つでも結構罪重いのに…」
タキオ「何してんだよ!!」
カズロウ「…いやあ、色々参っちゃっててさ!なんかさ、周りの奴はバリバリ働いて、皆で楽しく仕事の愚痴タネにして酒飲んで、彼女とデートして、バリとか行っちゃって。なのにおれは金はねえ、女は出来ねえ、楽しい事は無いし、それに夢叶いそうもないじゃん? そういうの発散したくて…」
タキオ「全部自分のせいだろ?責任だろ?叶うわけねえじゃん!バイトと、賞金と副賞だけは立派な地方の祭りしか出てないんだから!金と目の前の生活の為に音楽捨てて!」
カズロウ「…でも最低限の生活が出来なかったら音楽すら作れなくないか?確かにその比率?分量は間違ってたかもしれないけど、バイトも賞金も少なくとも音楽作るために必要な・・・」
タキオ「言い訳!?お前の中に音楽は全く無かったよ!あとそうやって笑ってごまかして、逃げるのやめてくれないか!」
カズロウ「…それはお前もだろ。俺のやることに金魚のフンみたいに付いてくるだけで・・・」
タキオ「どういう意味?」
カズロウ「歌詞も曲もおれが作って、おまえはそれを歌うだけ。音楽に対して何もしてないのはお前だろ?」
タキオ「なんだよ?」
カズロウ「作ってくれるの待つだけ。せめて何か意見やアイディア出せよ!それにおまえだってバイトばっかして、4つ掛け持ち?おれと変わらないだろ?」
タキオ「それは…おれは作れない分、お前が曲づくりに集中できるように、おれが稼ごうと思って…」
カズロウ「全然そうなってないから!現におれもバイトめっちゃしてるし、そんな時間なかったよ!」
タキオ「…なんでおれに声掛けたんだよ?」
カズロウ「…なんでだろうな?失敗だったな」
タキオ「なんで誘ったんだよ!何が紅白だよ!」
タキオから目をそらすカズロウ。
タキオ「紅白出て、巣鴨で声掛けられて、不登校の奴からも連絡来て、ライブに沢山来て、 皆がおれらの音楽聞くんじゃなかったのか?」
沈黙するカズロウ。
タキオ「そんな事して紅白出れると思ったのかよ!NHKは特に出演者にクリーンなイメージ求めんのに!」
沈黙するカズロウ。
タキオ「48、421㎞。何の距離か分かるか?おれらの家からNHKホールまでの片道足した距離だよ。遠いよな、緑黄色社会は4人で8、4㎞だぜ。…教師なら学校の近くに住め、生徒を守るために。小説家になりたいなら神保町住んで、古本沢山読め。武道館目標ならその横に家建てろ!」
カズロウ「何言ってんだよ?」
タキオ「何がNHKホールだよ!!ただでさえ夢から遠いのに、住んでる場所からも遠かったら叶うわけねえんだよ。本当に叶えたかったら、そんな願掛けみたいな事までしないと夢って叶わねえんだよ」
カズロウ「…ごめん」
タキオ「…だから東川口に住んでるおれも悪い。ごめん」
カズロウ「…ほんとにごめ…」
タキオ「今の雑談な。ちなみに緑黄色社会の距離、あれ予想だから。知ってたらやばいだろ」
カズロウ「…うん」
タキオ「…おまえはもう2度と人の前でお金を取って、何かを与えるために歌うべきではないと思う。夢与える筈が、沢山の人の色々を奪ったんだから」
カズロウ「…そうだな」
タキオ「だから最後に一緒に歌ってくれ、ここで」
カズロウ「え?どういう事だよ…」
タキオ「歌詞書いてきたから、今、曲にしてくれ」
タキオ、手書きで書いた歌詞を出し、ガラス越しでカズロウに見せる。
カズロウ「いやでも…」
タキオ「待ってるから。曲浮かぶまで。(看守に)いいですよね?」
看守「自分、未熟者なんで…」
葛藤しているカズロウ。
タキオ、待っている。
カズロウ、脳みそを音楽に動かし始める。
× × ×
カズロウ、歌詞を見ながら曲を考えている。
タキオ、待つ。
× × ×
タキオ、待つ。
カズロウの動き、止まる。
カズロウ「…できた」
タキオ「…おつかれ」
カズロウ「…おう」
タキオ「…じゃ歌うぞ」
カズロウ「え?ここで」
タキオ「そうだよ。作って歌わないって、何の為の音楽だよ」
カズロウ「…。でも歌っていいの…(看守を見る)」
看守「自分、未熟者なんで」
タキオ「やるぞ」
× × ×
カズロウとタキオ、立っている。
看守、2人のアコースティックギターを持ってくる。
カズロウとタキオ、ギターを持ち、ピッチを確認してると、
タキオ「これ、なんて読むの?」
カズロウ「え?」
タキオ「夢に離れるって書いて」
カズロウ「むり。夢に離れるで夢離(むり)・・・」
吹き出すタキオ。
タキオ「その通りだな・・・」
カズロウ「ごめん」
2人、イントロを弾き始める。
『夢離48,421㎞』
(Aメロ)
夢は無理無理無理叶わない
夢は無理無理無理口に出すだけ
それは定説 日本列島一般論 そしておまえもそう思う
じゃあなぜ持つ 夢はある 中には叶った奴もいる
イチロー 安室に 真田広之
アインシュタイン サルバドールダリ ピエール瀧
(ピエールさんは色々あったよ)
(Bメロ)
ってか赤本ないのか 攻略本ないのか 指定校推薦やヒントをくれる仙人はいないのか
人には夢叶うまでの距離がある 1人ひとり違うだけ でもね
(サビ)
おれのは遠すぎたフルマラソンより距離あった
人生3週目でちばテレビ(たまにTOKYO MX)
1週でNHKに出たいんだ 朝ドラ紅白出たいんだ
家から夢まで 片道2人の総距離 48、421キロ
(Cメロ)
距離の近さを才能という 天性と呼ぶ
なら才能天性遠い奴は 夢持たずに年末ジャンボを買うしかないのか
NOT定説 死ね一般論 動け動け考えろ 動け動け言葉出せ oh oh oh oh my god !おおきな
(大サビ)
おおきな勘違いトライアスロンすればいい
人生3週分考え動け(歩きスマホはやめれ)
1週間を夢に注げ 血も涙も出せ 死にたくもなれ
抱きたい女は 鎖骨がエロスな体重48、421キロ
叶っても 薬物恐喝飲酒運転は 絶対だめさ
(2度と戻れない)
歌い終わる。
タキオ、舞台上から去る。
カズロウ、ただ1人になる。
その中で、場面転換が行われる。
〇刑務所・庭(昼)
数年後。
ベンチに1人座る、カズロウ。受刑番号46番が隣に座る。
46番「あついね」
カズロウ「そうっすね」
46番「さむいね」
カズロウ「どっちすか?」
46番「分かんない。立春だもん」
46番の対応に困るカズロウ。
46番「模範囚!ようやくだな」
カズロウ「…はい」
46番「溜まってんじゃないの?」
カズロウ「はい?」
46番「インスピレーションとか、イマジネーションとか」
カズロウ「え?」
46番「え?ギター豆」
46番、カズロウの手を見ている。カズロウの右手にはギター豆がある。
カズロウ「あ。…全然消えなくて」
46番「一生消えないよ」
カズロウ「…ですね」
46番「やらないの?」
カズロウ「もう…」
46番「せっかくここ来たのに」
カズロウ「どういう事っすか?」
46番「そういうの経験したからこそ、やれる事があるんじゃないの?」
カズロウ「え?」
46番「皆そうだけどさ、地上出たら、ここの事全部消して生きていくの?おじさんとの事も忘れるの?悲しいなー」
カズロウ「…」
46番「おれが出たら聴かせてよ。カーペンターズとかサイモン&ガーファンクルみたいの聴きたいな」
カズロウ「その2つ、全然路線違いますよ」
46番「頼むな。あと13年おれはここいるんだけどさ」
カズロウ「え、そんなにっすか!?なにしたんですか」
【場面転換】
〇代々木公園・けやき並木通り(昼)
ギター1本で路上ライブをしているタキオ。
看板には「『病は気から』のキウチタキオです!」の文字。
だが誰も足を止めない。巡回中の警官が来て、
警官「君、許可取った?」
タキオ「え、えっと…」
警官「だめだよ。片付けて」
タキオ「ああ。え、どうやったら…」
警官「撤収!」
タキオ、片付け始める。NHKホールが目に入る。
するとNHKホールから楽器を持った4人組が出てくる。
タキオ「?」
マスクや帽子を被っているが、緑黄色社会だ。警官、自転車に乗り、去っていく。
タキオ「…あの!」
タキオ、追いかける。追いかけながら呼び止める為、声を出す。声に反応する緑黄色社会のメンバー。走っているタキオを見ている。警官、タキオに気づき自転車を止める。
警官「なに!?ほんとミュージシャンってルール守ら…」
タキオ「…すいません!この場所でどうやったら歌えますか?」
おわり
【引用】:Every Little Thing 『fragile』
コメント
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。