登場人物
陸 (33) 男、天然でバカ。
直人 (32) 男、皮肉屋。
ゆず子(33) 女、サバサバしてる。
沙紀 (32) 女、THE 女子。
Twitter: @naokiisonline
たこ焼きパーティー
○スーパーマーケット店内
沙紀と陸がたこ焼きパーティーの買い出しをしている。
沙紀 「たこ焼き用のソース?普通のソースと変わらないでしょそんなの。しかも150円も高いよ?」
陸 「いや、専用に作られているんだから絶対違うはずだ。こっちにしよう。」
沙紀 「そんなに言うならわかった。そうだ、うちにほんの少しだけ普通のソースあるけど、目隠しして食べ比べたら当てられるの?」
陸 「もちろん当てられるよ。ランチを賭けてもいい。」
沙紀 「自身満々ね。じゃあ後は青のりだけ買ったら、たこ焼きに必要な買い物は終わりかな。あ、あと佐藤の牛乳買いたいの。あれは脂質控えめなのに味も美味しくてまるでアボカドみたいな存在なの。」
陸 「な、なるほど。あれ、俺らのカートがないな。この辺に置いたはずなのに。」
沙紀 「確かに。どこいったんだろう。」
辺りを見回す二人。
近くにいるおばさんのカートの中身がふと目に入ると、自分たちの買ったものと同じものが入っていることに気づく。
沙紀 「ねえ、あの人のカート見て。あれ絶対私たちのカートでしょ!」
陸 「本当だ!でも人のカートを盗む人なんているのか?万引きくらいたちが悪いぞ!でも確かに中身がまるっきり同じだ。」
沙紀 「どうする?」
陸 「ちょっと本人に聞いてみようか。」
二人、おばさんに近寄る。
陸 「すみません。言いにくいんですけど、このカートは僕らのカートなんじゃないかなと思うんですけど。」
おばさん「え、これは私のですよ。何を言っているんですか。」
陸 「でも僕らはこのカートの中身と全く同じものを買って、ちょうどカートを見失ってしまったんです。だからカートを取り違えたとかないかなと思っ・・・」
おばさん「まさかあたしがカートを盗んだとでも言うの!?誰がそんなひどいことするのよ。そんなの万引きくらいたちが悪いわ。」
陸 「(嬉しそうに)そう!僕もまったく同じこと言いました。」
沙紀 「(陸にあきれて)お母さん、では本当にカートを取り違えたわけではないんですね?」
おばさん「そんなわけないでしょう。(陸の手元を見て)あ、それたこ焼き用ソース?どこにあったのかしら?ひとつ欲しいわ。」
陸 「あっちの3番目の列にありました。」
おばさん「ありがとう。普通のソースと専用ソースじゃ全然違うからね。それじゃ。」
おばさん去っていく
陸 「あのおばさんとは違う形で出会っていたら友達になれたと思う。」
沙紀 「(あきれ顔)」
○歯科医院 治療室
直人が親知らずを抜いたあと。
歯医者「痛みはないですか?」
直人 「はい、大丈夫です。抜いたところが違和感ありますけど。」
歯医者「初めての抜歯、緊張されましたか?」
直人 「緊張なんてしないですよ。」
歯医者「今回抜いた歯は持ち帰ることもできますが、どうしますか?」
直人 「自分の抜いた歯を持ち帰る人がいるんですか?なんか気持ち悪いですね。」
歯医者「中には記念にと言って持ち帰る方もいますね。その場合はもちろん消毒殺菌してお渡ししてます。」
直人 「僕はいらないです。ありがとうございます。」
歯医者「あちらでお会計になるので、ソファでお待ちください。」
直人が受付に移る。
衛生士「では桜田直人様、今回は1万500円になります。」
直人 「はい、これでお願いします。」
衛生士「こちらお釣りと、診察カードです。治療前にお話したように、メンテナンスで1週間後に診察が必要となります。これは当院でなくても大丈夫なので、いつも通われているお近くの歯科医院で予約をお取りください。」
直人 「(この人綺麗だな。めっちゃタイプだ。)」
衛生士「・・・どうかされました?」
直人 「(なんとか知り合いになれないかな。でも歯医者で連絡先聞くわけにはいかないよな。いや、もしかしてそういうのって意外と世間ではあるのかな?)」
衛生士「桜田様?もしかしてガラス越しだから、私の声聞こえにくいですか?」
直人 「いや、すてきな声だと思います。」
衛生士「?」
直人 「え、ああ、メンテナンスの予約はすでにとってあるので大丈夫です。ありがとうございました。」
直人が歯科医院を出る。
直人 「(焦って出てきちゃったけど、どうにかしてあの人と連絡できないかな。そうだ、この歯科医院を紹介してくれたゆず子に電話してみよう)」
直人が電話をかける。
直人 「もしもし、ゆず子?今、この間紹介してくれた歯医者で歯を抜き終わったんだけど、たしかここの歯医者がゆず子の知り合いなんだっけ?」
ゆず子「そうだよ。どうかした?」
直人 「ここで働く衛生士の人も知り合いだったりしない?実はさっきお会計してくれた人がタイプで、連絡先聞けないかななんて思って。」
ゆず子「歯医者の友達以外は誰も知らないよ。だから残念だけど連絡先は聞けないね。」
直人 「そうか。じゃあどうしたらいい?もうあの人とは一生会えないかもしれない。」
ゆず子「そんなの知らないよ。もう一本は抜けばいんじゃない?」
直人 「そんなポンポン抜けるか!庭の雑草じゃないんだぞ。」
直人 「(何かを思いついてニヤリと笑う)そうだ!ありがとうゆず子!また電話する」
○歯科医院 受付
直人が受付に戻ってくる
直人 「すみませーん。」
さっきと違う衛生士が出てくる。
直人 「先ほど歯を抜いたものなんですけど。」
衛生士2「どうされましたか?」
直人 「あ、あの先ほど抜いた歯をやっぱり持ち帰りたいなと思うんですけど、まだ捨ててないですかね?」
衛生士2「確認します。」
直人 「ちなみにさっき担当してくれた衛生士の方はいらっしゃいますかね?その方の方が話が早いかもしれません。」
衛生士2「いえ、彼女はシフトで上がるところです。私がすべて引き継いでいますので、私で対応させていただきますね。」
直人 「(くそ!タイミングが悪かった。)」
衛生士2「確認したところまだ処分していないので、持ち帰れるように手配しますね。少々お待ちください。」
直人 「(あの人がいないんじゃ歯なんかいらないよ。でも今更言えないからもらって帰ろう)」
歯医者が奥から歯を持って出てくる。
歯医者「お待たせしました。こちらが先ほどの歯になります。やっぱり持ち帰ることにしたんですね。」
直人 「はい、せっかくなので記念にしたいと思いまして。」
歯医者「先ほどは抜いた歯は気持ち悪いとおっしゃっていたので、てっきり不要なのかと思いました。」
直人 「え、その、緊張して変なこと言ってただけですよ笑」
歯医者「緊張なんてしない、ともおっしゃっていたような。」
直人 「(もの覚えのいい野郎だ)とにかく、ありがとうございました。では。」
○駅前
ゆず子が一人で待っている。
直人が遅れてやってくる。
直人 「ごめんお待たせ!」
ゆず子「大丈夫。結局お目当ての人の連絡先はゲットできたの?」
直人 「できなかった。代わりにこれ、自分の歯をゲットした。」
ゆず子「自分の歯を持ち帰ったの?わたしだったらいらないなー。気持ち悪いもん。」
直人 「仕方なかったんだよ。まあとにかく、沙紀の家に向かうか。あいつらたこ焼きの準備してくれてるみたいだし。」
ゆず子「ところで私を見て何か気づかない?」
直人 「特に気づかないな。新しい靴?」
ゆず子「違う、髪型変えたの!15cmも切ったのになんで気づかないの?」
直人 「言われてみれば変わってるかも。」
ゆず子「だいぶ違うはずだよ。」
直人 「そもそも15cmって言われても、俺みたいに髪が短めの人には『何センチ切る』っていう考え方がないんだよ。髪を切るor切らないの2択だけ。で、切る時は大胆に切るから、そんな少しのカット気づかないよ。」
ゆず子「少し?15cmは少しじゃないわよ。あんたが15cm切ったらハゲよ?」
直人 「仮の話でもハゲっていうな。最近普通に気にしてんだから。そうじゃなくて、元の髪が長いから、その場合15cm切っても気づきませんってこと。」
ゆず子「他の人だったら一瞬で気づくよ。」
直人 「いや、みんな俺と同じで気づかないね。」
○沙紀の部屋
ゆず子と直人が沙紀の家に到着。
沙紀と陸はすでに中でたこ焼きの準備をしている。
沙紀 「(玄関のドアが開いた瞬間)あーゆず子髪切った!」
直人 「まだ見てもないだろ、なんでわかるんだよ。」
沙紀 「バッサリいったね~。15cmくらい?」
直人 「超能力か。」
ゆず子「(それみろ、と言う顔)」
陸 「直人、さっそくだがこれ、たこ焼きの生地を混ぜるのを手伝ってくれ。」
直人が生地を混ぜ始める。
陸 「聞いてくれよ。今日沙紀と買い物中にカートから目を離したら、知らない人にカートを取られたんだよ。」
直人 「そんなことあるの?ひどいな。じゃあその人は、たこ焼きの材料一式入ったカートを持って行ったってこと?」
陸 「そういうこと。多分あの人は、買い物がめんどくさいから人のカートを盗んでその材料で食べるものを決めているのかもしれない。」
直人 「待ってそれいい考えかもしれない。すき焼きのカゴとか、マーボウ豆腐のカゴとかあらかじめ食品が入ったかごをスーパーに用意しておけば、もしかしたらそれをそのまま購入していい人がいるかもしれない。時短になるよ。」
陸 「いやーおれはこだわり強いから。自分で何でも選びたいな。例えば、たこ焼きのソースはたこ焼き専用ソースを使うとかね。」
直人 「たこ焼き専用ソースはしてやられてるよ。たいした違いないよ。」
陸 「お前もそっちサイドか。」
たこ焼き完成。みんなで食べ始める。
沙紀 「じゃあこれは普通のソース、たこ焼き専用ソース、どっちでしょう。」
沙紀が目隠しをした陸にソースのかかったたこ焼きを食べさせる。
陸 「これはたこ焼き専用。」
ゆず子「正解!」
陸 「よっしゃー!こくが違う。沙紀もこれでわかったろ、たこ焼き専用ソースがちゃんと違うってことを。」
沙紀 「なんなのもう。私は違いがほとんどわからない。」
直人 「ほんとだ、確かに甘味も違う。これに気付けない人がいるなんて悲しいね〜。」
ゆず子「人が髪切ったのは気づかないくせに。」
直人がなにか探し物をしている。
直人 「あれ、歯がない。」
沙紀 「ん?歯?」
直人 「そう。今日歯医者で歯を抜いたんだけど、その時歯を持ち帰ったんだよね。それをこの小さな袋に入れてもらったんだけど、今見たらないんだよ。」
ゆず子「どっかに落としたんじゃない?」
一同、周りを探し出す。しかし見つからない。
陸 「歯はどこに置いたの?」
直人 「たこ焼き作り始める前にポケットから出して、この棚の上に置いておいたんだけど、包んでた袋だけ地面に落ちてた。」
沙紀 「やっぱり見つからないね。まあいいんじゃない?そのうち出てくるでしょ。急に歯が見つかるもなんか怖いけど。」
陸 「そうだね。でもこんなに探してもないなんておかしいなぁ。」
たこ焼きを見つめて何かを考え込むゆず子。
ゆず子「まさかとは思うけど、たこ焼きの中に入ってないよね?」
一同、黙り込む。
ゆず子「ほら、あんた歯を置いた棚のすぐ横で生地を混ぜてたでしょ?何かが触れて落ちるとボールの中に入ることも可能じゃない?」
直人 「その可能性あるね。」
沙紀 「あるね、じゃないわよ!嫌だよ誰かの歯が入ったたこ焼きなんて。」
直人 「大丈夫!歯医者で殺菌してもらってるから綺麗だよ。」
沙紀 「いや、歯はどれだけ殺菌しても歯だから!綺麗にはならん!」
ゆず子「嘘でしょ、もう何個か食べちゃった。」
陸 「まあそんな大したことではないだろ、歯も殺菌されているし、友達の歯なんだから。もしたこ焼きから歯が出てきたら、出せばいいだけ。」
沙紀 「できるか!アダムスファミリーじゃないのよ!口に入れるのが嫌なのよ。」
陸 「魚の骨を取り除くのと同じだよ。」
直人 「陸はもう少し嫌がれよ!自分ですら自分の歯が入ったたこ焼きは抵抗あるぞ。」
陸 「何言ってんだよ俺らは歯ブラシを共有したこともあるんだからそれくらい大丈夫だろ?」
直人 「は?おれがいつ歯ブラシをお前と共有したんだよ?」
陸 「昔一度、おれが酔っ払ってお前に『歯ブラシ貸してくんね?』って言ったら、お前が『いいよ』っていうから使った。」
直人 「なんでもいいって言うに決まっているだろ!酔っ払っている俺に質問するな!」
ゆず子「二人そんなに仲が良かったのね。」
直人 「やめろ。歯科用品で共有していいのは、歯磨き粉まで、以上!」
沙紀 「あとフロスね。」
ゆず子「そんなことより、たこ焼きどうするの。私は食べたくないわ。」
陸 「おれは食べるよ。歯が入ったたこ焼きが自分に当たるとは限らないしね。」
直人 「おれも責任持って食べるよ。」
沙紀 「私も若干抵抗あるけど、捨てるのももったい無いし食べるわ。」
一同、たこ焼きを再び食べ始める。
ゆず子は代わりにサラダを食べている。
みんなたこ焼きを食べるのに慎重なこともあり、ほとんど無言。
沙紀 「ありえないくらい静かだけど、このたこパ大丈夫そう?」
直人 「うちのじいちゃんの葬儀ですらもう少し盛り上がってたな。」
ゆず子「残りのたこ焼きはあと3つね。今の所まだ歯は見つかってないけど。」
直人 「おれが食べる!」
直人は3つのたこ焼きを次々と食べた。
ゆず子「どう?」
直人 「・・・入ってない。」
沙紀 「ないんかい!いやいいんだけど、私たちの緊張を返して欲しいわ。楽しい食事になるはずだったのに。」
ゆず子「嘘でしょ?じゃあ歯はどこいったんだろう?」
直人が安心して額の汗を腕で拭う。
その時、シャツの腕まくりした部分に固いものを感じる。
直人 「ん?なんだ?」
ゆず子「どうしたの?」
直人が腕まくりをほどくと、歯がぽろっと落ちてきた。
直人 「あ。こ、こんなところに!あは、あははは。」
沙紀 「・・・」
陸 「・・・」
ゆず子「・・・」
沙紀 「あんた皿洗いね。」
直人 「承知しました。」
○翌日、スーパーマーケット店内
沙紀が一人で買い物中。
沙紀 「(昨日結局牛乳を買い忘れたから買わなきゃ。)」
またカートを見失ってしまった沙紀。
あたりを見回すと昨日のカートを横取りした疑惑のおばさんを見つける。
カートの中を遠目で見ると、自分のと同じものが入っていた。
沙紀 「(あの人、今度こそ許さない。)すみません!それあそこにあった私のカートではないですかね?この佐藤の牛乳、私くらいしか買いませんよ。」
おばさん「またあんたじゃないの?こりないわね。これは私のカートです。私はずっとこの牛乳飲んでるわ。これは脂質控えめなのに味もよくてまるでアボカドみたいな存在なの。」
沙紀 「それは全く同意です。でも現に私のカートがないんですよ。そこに全く同じものを買ったカートがたまたまある、それも二日連続で!」
おばさん「なんて失礼な人。証拠もないのに決めつけて。」
沙紀 「今言ったのが何よりの証拠です。」
揉めてるのを聞きつけて店員が来る。
店員 「お客様、どうされました?」
おばさん「このお姉ちゃんがね、私がカートを盗んだと言ってくるのよ。」
沙紀 「ええ、だってその通りですもの。じゃあ私のカートは今どこにあるっていうんですか?全く。」
店員 「カート、、昨日ならそういえば放置されたカートが一台ありました。閉店後に見つけて、中に商品と一緒にお客様のものと思われるハンカチが入っていたので、持ち主を探していたんですよ。」
おばさん「ほら、あんたのカートはそれじゃないの?」
沙紀 「そんなわけないです。よく探しましたし。」
店員はポケットからハンカチを出す。
店員 「これなんですけど。」
沙紀 「(私のハンカチーーー!!そういえば昨日持って行って、家着いたらなくなってたわ。)」
沙紀 「それは、あの、えー、、私のハンカチです。」
店員 「たこ焼きの材料買われてました?」
おばさん「(勝ち誇った顔をしている)」
沙紀 「で、でも、今日もカートがなくなってますよ!」
おばさん「そうだ、じゃああんたはこれも買っているってこと?」
おばさんがカゴの下の方をあさると、お年寄り用おむつが出てくる。
沙紀 「・・・」
店員が他の客に話しかけられる。
他の客「すいません。このカート、あっちの通路の真ん中で放置されてました。邪魔なので預かってもらえますか?」
そのカートの中身は沙紀が買い物したものだった。
沙紀 「・・・。ごめんなさい、私の勘違いでした。」
おばさん「分かればいいのよ。」
沙紀 「(やや不満そうな顔しながら)私たち、違う形で会っていたら友達になれたかもしれないですね、あはは。」
おばさん「私は結構。それじゃ」
おばさんが去っていく。
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