14時。
バラエティパックの菓子と1リットルのコーラが入ったレジ袋を提げて帰宅する貴之。
レジ袋がかなり重かったようで、テーブルにドンっと置いた途端深いため息をつく。
その後時計を見たりあちこち動き回ったり、落ち着かない様子。
貴之「……もうそろそろ来るよな」
その一言をきっかけに、真琴が軽い足取りで貴之の家の前まで歩く。
手には同じくバラエティパックの菓子と1リットルのコーラが入ったレジ袋。
インターホンを押す真琴。
貴之「はーい、開いてるー」
真琴「おいっすー!今日も遊びに来たぜ!!」
貴之「は!?お前もコーラ買ったの!?」
真琴「は?コーラ買って何か悪いことあんの?」
貴之「テーブルの上見てみ」
真琴「え?(同じコーラを買ったと分かり、笑う)」
貴之「コーラ2リットルも飲めねぇよ!!」
真琴「しかも種類まで同じかよ!!」
貴之「え、まさか……」
真琴「お菓子まで一緒www」
貴之「やべぇよwwwシンクロしすぎだろwww」
真琴「ここまで揃うことってある!?」
貴之「しょうがねぇな……今日は食って飲むか!!」
真琴「うぇーい!!」
真琴、ふと床に置かれたゲームが目にとまる。
真琴「え、待ってこれ、モンクエの新作じゃん!!」
貴之「いいだろ~昨日ようやく買えたんだぜ」
真琴「これやりたい!!」
貴之「菓子とコーラは?」
真琴「ゲームが先に決まってんだろ!!」
貴之「おいバカ、勝手に開けるなって!!」
真琴「うほぉ~パッケージ見るだけで昂るなぁ~これハードどっちだっけ」
貴之「ステプレの方」
真琴「3?4?」
貴之「4。俺がセットするから待ってろ」
ゲーム機(ステレオプレイング4(=PS4みたいなもの))を操作する貴之。
貴之「……うっわ最悪」
真琴「どうした」
貴之「アプデに3時間かかる」
真琴「………………うっわぁ……」
貴之「…………なんか別のゲームすっか。ステプレ使わねぇやつで」
真琴「人狼やろうぜ」
貴之「二人で人狼とか前代未聞なんだけど」
真琴「一人が人狼でもう一人が村人の、どっちが人狼でしょうゲーム」
貴之「それもう役割与えられた時点で答え分かるだろ」
真琴「じゃあ………………大富豪」
貴之「いきなり古典的なのきたな」
真琴「何かふとした瞬間にやりたくならね?大富豪って」
貴之「その感覚は俺にはよくわかんねぇ……えーと、トランプどこにあったかな……」
真琴「あー、こんな時にトランプ持ち歩いてればなぁ……」
貴之「今のご時世、トランプ持ち歩いてるやついなくね?」
真琴「マジシャンとか?」
貴之「マジシャンもさすがに素の時はトランプ持ち歩かねぇだろ」
真琴「マジシャンと言えばさ、鳩出すじゃん」
貴之「おう」
真琴「どうやって鳩持ち歩いてるのか気にならね?」
貴之「……普通に鳥かごに入れてるんじゃねぇの?」
真琴「え!?そうなの!?」
貴之「え!?はこっちのセリフなんだけど!?」
真琴「だって鳩ってさ、逆さにすると動かなくなるらしいじゃん」
貴之「あぁ、その習性を利用してんのが鳩出しマジックらしいな」
真琴「え!?あれ種も仕掛けもないんじゃねぇの!?」
貴之「あのな、全てのマジックには種と仕掛けが存在するから!!」
真琴「…………ショック……」
貴之「お前精神年齢いくつだよ……で、鳩を逆さにしてどうすんだ?」
真琴「逆さにした状態で懐に入れて持ち歩いてんのかと」
貴之「それ動物虐待になりかねないからな!?」
真琴「未熟なマジシャンは懐の中で鳩が暴れるだろうなぁ」
貴之「ベテランマジシャンでもそんなことされたら暴れるだろうよ」
真琴「殿、懐で鳩を温めておきました!!」
貴之「………………え?」
真琴「………………は?」
貴之「…………あ、秀吉のエピソードね!!信長の下駄温めたやつね!!」
真琴「そうそれ!!」
貴之「たまにわかりづれぇんだよお前の一発ギャグ……トランプ見つからねぇなぁ……」
真琴「アプデ終わんねぇなぁ……」
貴之「3時間かかるって言っただろ。そんで何か代わりにやろうぜってなってお前が大富豪やりたいっつって、俺がトランプ探してんだろ」
真琴「いやー、何かの拍子に奇跡が起きて、3時間が10分に縮まったりしねぇかなって」
貴之「あー……まぁ……たまにあるけどそういうの……でもステプレだとその望みはほぼほぼ叶わない」
真琴「最新機種の分際でコノヤロー!!」(ステプレを殴ろうとする)
貴之「わぁぁぁぁやめろ乱暴するな!!最新機種だぞ!!」
真琴「これから毎日こいつの開発会社にクレーム入れようぜ」
貴之「コルセン担当の人がノイローゼになるからやめろ……」
真琴「なぁなぁ、トランプ見つかったー?」
貴之「これから見つけんだよ」
真琴「遅くないですかぁー?」
貴之「お前がステプレに暴力ふるおうとするからだろ」
真琴「サーセン」
貴之「許す」
真琴「ありが平清盛~」
貴之「……んー、ここにねぇってことはどこにもねぇな。悪い、トランプねぇわ。実家にはあるかもだけど」
真琴「じゃあ実家まで取りに行ってよ」
貴之「新幹線で東から西までひとっ飛びしろと……?」
真琴「あ、ごめん!お前の実家遠いの忘れてた!」
貴之「しょうがねぇな、許す」
真琴「ありが平将門」
貴之「トランプがねぇとなると何すっかな……」
真琴、おもむろに両拳を握りしめ、親指を上に向けた状態で構える。
貴之「え、何、何なの、怖い」
真琴「指スマ1!!(両方の親指を上げる)うっわぁ、不意打ちでも勝てねぇ……」
貴之「いやお前、1って言っといて2本出したじゃん。馬鹿なのアホなの?」
真琴「次はお前の番だ」
貴之「は?」
真琴「構えろ…………」
貴之「あ、これ指スマやるって流れなの?」
真琴「え、指スマ知らねぇの?」
貴之「いや指スマ知ってるけど」
真琴「ならば早く構えて数を叫ぶのだ……」
貴之「掛け声はそっちルールだと指スマ?」
真琴「あ、そっちはいっせーのせだった?」
貴之「まぁいいやどっちでも。いっせーのーせ、2」
両方の親指を上げる貴之。突然のことに対応できなかった真琴。
貴之「はい俺の勝ち」
真琴「ぐ、ぐぬぬ…………」
貴之「愚かだなぁ!!不意打ちとはまさにこのことなのだよ……!!」
真琴「くそぉ!!卑怯者がぁ!!」
唐突に腕まくりをする真琴。
真琴「腕を出せぇ!!」
貴之「ほう、我に腕相撲を挑むか……いいだろう!その勝負受けて立つぞ!!」
真琴「うおおおああああああああ!!」
貴之「えっ、ちょっ、待っ、意外と力が強いなお前!?待って待って待って腕もげる!!割と痛いこれ!!」
真琴「親指も出せぇ!!」
貴之「待て待て待て待て、この状態での指相撲はかなりキツイからやめろ、やめっ、……こいつ全然話聞かねぇな!!」
真琴「いっさしごろしはくじゅ!!」
貴之「早い早い10数えるのが早いんだよ!!」
貴之の手の甲が床につく。
真琴「…………勝った……」
その時、携帯のアラームが鳴る。
無表情でそれを止める真琴。
急に人が変わったようになり、今までとは違う表情で貴之を見て手を差し出す。
真琴「時間です」
貴之「ああ、もうそんな時間か……えーと、(財布を出して中を探る)5000円、だったっけ?」
真琴「(札の枚数を確認して)……確かに。ありがとうございました」
貴之「いや、こちらこそありがとう」
真琴「……では」
貴之「あっ、ちょっと」
真琴「はい?」
貴之「次、いつ会える?」
真琴「……確認しますね。えーと……空いてるのは来週の水曜ですね」
貴之「その日に、同じ時間でいいかな」
真琴「かしこまりました。毎度のご利用ありがとうございます」
貴之「……じゃ、また」
真琴「…………」
荷物をまとめて貴之の家を出る真琴。
先程のひょうきんな様子は今の彼には一切見られない。
貴之「……いやぁ、毎回思うけどいいサービスだよな、デリバリーフレンド。略すと語感がデリヘルに似るのが嫌だけどな」
ふと、テーブルの上を見る貴之。
貴之「うっわ、すっかり忘れてた……まぁ来週あいつが来たらそん時に出せばいっか」
コーラを抱えてキッチンに向かう貴之。
冷蔵庫に入れて、戻ってくる。
床に置いたスマホを手に取り、電話をかける。
貴之「……あ、もしもし、母さん?仕送り使い切っちゃってさぁ、また送ってくれないかな。…………え?就活?だいじょーぶだいじょーぶ、ちゃんとやってるって。……お金何に使ってんのかって?就活に決まってんだろ?…………ああ、まぁ、しばらくは帰れないかな、就活で忙しいから……(このあとも何か話してる)」
閉幕。
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