<登場人物>
野火止 シグマ/シンゴウレッド(20)(30)ヒーロー
曾々木 ナオト/シンゴウイエロー(24)(34)同
進藤 ルリ/シンゴウブルー(22)(32)同
野火止 ゴウ(9)野火止の息子
クラク少佐 幹部怪人
オイマワシ 一般怪人
ハバヨセ 同
ナビ 声のみ
<本編>
○基地・ロッカールーム
進藤ルリ(22)を抱きしめる野火止シグマ(20)。ともにアンダーシャツ姿。
野火止「俺は、ルリさんが好きだ」
シグマの手をゆっくり振りほどくルリ。
ルリ「バッカじゃないの?」
野火止「わかってる。そういう関係にならない方がやりやすいって事くらい。でも、もうこの気持ちは止められない。後戻りできない」
ルリ「じゃあ聞くけど、私と世界、どっちかしか守れないとしたら、どっちを守る?」
野火止「それは……」
鳴り響くサイレン音。
野火止&ルリ「(離れて)!?」
そこに駆け込んでくる、黄色いジャケットを着た曾々木ナオト(24)。
曾々木「ルリ、シグマ。出動だ」
野火止&ルリ「オーライ!」
ロッカーから、それぞれ赤と青(曾々木と色違い)のジャケットを取り出し、羽織る野火止とルリ。
○市街地
市民を襲う怪人・オイマワシと戦闘員達。オイマワシは文字通り、人々を追い回す。
オイマワシ「フハハ、逃げろ逃げろ人間ども」
曾々木の声「そこまでだ、アオリ魔(=怪人達の総称)」
振り返るオイマワシや戦闘員達。そこに駆けつける野火止、曾々木、ルリ。
オイマワシ「来たか、忌まわしいシンゴウジャーども」
ルリ「来るに決まってんじゃん。バッカじゃないの?」
曾々木「右に同じ」
野火止「そんじゃ、行きますか」
ブレスレット型変身(&通信)アイテムを操作する野火止、曾々木、ルリ。
野火止&曾々木&ルカ「交通変身、Go!」
それぞれシンゴウレッド、シンゴウイエロー、シンゴウブルーに変身する野火止、曾々木、ルカ。
レッド「破壊をストップ。シンゴウレッド」
イエロー「悪意に注意。シンゴウイエロー」
ブルー「平和へ前進。シンゴウブルー」
レッド&イエロー&ブルー「(決めポーズをとり)交通戦隊シンゴウジャー」
オイマワシ「(戦闘員達に)かかれ~!」
レッド達に向かっていく戦闘員達。
イエロー「シンゴウジャー発進、Go!」
レッド&ブルー「オーライ!」
駆け出すレッド、イエロー、ブルー。ブルーを一目見やるレッド。
○メインタイトル『戦隊内恋愛』
○市街地
戦闘員達と戦うブルー。戦闘員達は蛇行しながらブルーに向かってくる。
ブルー「ナビゲーションシステム、連動」
ナビの声「ルートを探索します」
戦闘員達に向け駆け出すブルー。
ナビの声「三歩先、左です」
三歩進んだ後、左に飛ぶブルー。戦闘員の攻撃を鮮やかに避け、同時に誘導棒のような武器(=ロードロッド)を手にする。
ブルー「ロードロッド」
ロードロッドで戦闘員達を次々と倒していくブルー。
ブルー「まっすぐ走れ、バッカ野郎」
× × ×
戦闘員達と戦うイエロー。背後からも戦闘員が迫る。
イエロー「バックモニター、起動」
イエローのゴーグルに背後の様子が映し出される。
イエロー「そこか!」
銃型に変形したロードロッドを手にするイエロー。
イエロー「ロードロッド、銃態」
背後に居た戦闘員達を次々と狙撃するイエロー。
イエロー「距離は十分に取らないとね」
× × ×
戦闘員達と戦うレッド。両手にロードロッドを手にしており、手旗信号のような動きで次々と倒していく。
レッド「おら、おら、おら~!」
その時、レッドの死角からオイマワシが攻撃を繰り出す。
オイマワシ「くらえ、シンゴウレッド!」
レッド「!?」
オイマワシの攻撃が当たるかに見えたその時、レッドの動きが急停止し、オイマワシの奇襲は失敗に終わる。
オイマワシ「何!?」
レッド「自動ブレーキ、発動」
レッドの元に集まるイエロー、ブルー。
レッド「へっ、どんなもんだ」
ブルー「コッチも全部終わったよ」
イエロー「あとはお前だけだ」
オイマワシ「さすがだな、シンゴウジャー。だが、儂はそう簡単にはいかんぞ」
オイマワシと戦い始めるレッド、イエロー、ブルー。息の合った連係プレーでオイマワシを追い詰める。
オイマワシ「くっ、どこまでも邪魔なシンゴウジャーめ」
イエロー「そりゃあ、お前達の邪魔をするのが、俺達の座右の銘だからな」
レッド「よし、とどめだ。ドウコウ砲」
巨大バズーカ(=ドウコウ砲)を構えるレッド、イエロー、ブルー。
レッド「フィニッシュシーン、Go!」
ドウコウ砲から放たれたエネルギー弾がオイマワシを直撃する。
オイマワシ「おぉ、忌まわしいシンゴウジャーめ……!」
倒れ、爆発四散するオイマワシを背景にガッツポーズを決めるレッド、イエロー、ブルー。
レッド「任務完了」
変身を解く野火止、曾々木、ルリ。
曾々木「じゃあ、周辺を見回って、何も無かったら戻るぞ」
野火止&ルリ「オーライ」
一陣の風とともに、クラクションのような音が通り抜けていく。
野火止「!?」
周囲を見回す野火止。何もない。
ルリ「? シグマ、どうした?」
野火止「いや、今何か聞こえたような……」
ルリ「え? いや、何も聞こえなかったけど……ナオトさんは?」
曾々木「(注意深く耳を澄ませ)気のせいじゃないか?」
野火止「(首を傾げ)そっか……」
物陰から野火止を見る人影。
○基地・外観(夜)
○同・トレーニング室(夜)
何種類もの筋トレ器具がある部屋。
ベンチプレスをする野火止。アンダーシャツ姿で、傍らにジャケットが置かれている。
野火止「九、十……」
バーベルをラックに戻す野火止。体を起こす。
野火止「ふぅ~」
ルリの声「シグマ」
振り返る野火止。入口近くに立つルリから、炭酸のエナジードリンクの缶を放られる。キャッチする野火止。
ルリ「ナイスキャッチ」
野火止「わざわざ差し入れに?」
ルリ「いいや。出動あった日に、補助なしでベンチプレスやってるバカが居るって聞いたから、様子を見に」
野火止「へぇ、心配してくれたんだ。ルリさん、優しいじゃん」
ルリ「知ってる。でも、今日くらい休めば? 休むのも仕事の内だぞ?」
野火止「そうなんだけど……何か、妙な不安感があって……」
と言いながら缶の蓋を開ける野火止。勢いよく溢れ出す炭酸。野火止の顔にかかる。
野火止「!?」
ルリ「(笑いながら)バッカじゃないの?」
野火止「やったな、ちくしょう」
と言いながら、つられて笑う野火止。
野火止「じゃあさ、ルリさん。あと一セットで終わるから、補助やってよ」
ルリ「図々しい奴。別にいいけど……この部屋、寒くない? (野火止のジャケットを指し)借りるよ」
野火止のジャケットを羽織るルリ。その間、ベンチプレスを再開する野火止。
ルリ「ん? 何か入ってる?」
野火止のジャケットの内ポケットから出てくる「交通安全」と書かれたお守り。
ルリ「コレ……」
野火止「ルリさん、覚えてる?」
ルリ「もちろん。シグマが入ったばっかの時に、私があげた奴でしょ? まだ持ってたんだ。バッカじゃないの?」
野火止「バカじゃないよ。そりゃあ、最初は『何で交通安全なんだよ』って思ったけど」
ルリ「悪かったね」
野火止「でも(ジャケットに目を向け)いつもそこで、肌身離さず戦って、結果こうして無事なんだから、ご利益あったんだよ。きっと」
ルリ「そっか……」
沈黙。野火止の、回数をカウントする声だけが響く。
ルリ「……ごめんね」
野火止「何が?」
ルリ「この間の答え」
野火止「……」
ルリ「正直、シグマの気持ちは嬉しいよ? でも、私達はそれ以前に戦う仲間だから。私達は目と目を見つめ合う関係じゃなくて、背中を預け合う関係だから」
バーベルをラックに戻す野火止。ソレを見て、羽織っていた野火止のジャケットを脱ぎ元の位置に戻すルリ。
ルリ「だから、ごめんね」
出て行こうとするルリ。
野火止「俺、世界とルリさん、両方守ってみせるから」
ルリ「え?」
野火止「どっちも大事だから、どっちも守る。だから……」
ルリ「いや、待って。今の話、聞いてた?」
野火止「うん、聞いてた」
ルリ「だったら……」
野火止「でも、どんな逆境でも決して諦めない。それが、ヒーローってもんでしょ?」
ルリ「……バッカじゃないの?」
野火止「俺、本気だから」
出ていくルリ。
野火止「俺、絶対諦めないから!」
曾々木の声「なるほど、そんな事がねぇ……」
○同・司令室・中(夜)
作戦机を囲む曾々木とルリ。
ルリ「だからさ、ナオトさんからも何とか言ってやってよ」
曾々木「そう言われても、別にウチは『恋愛禁止』って訳じゃあるまいし」
ルリ「そんな事言わないでよ。私とシグマがそういう関係になったら、やりづらいでしょ? 困るでしょ? 迷惑でしょ?」
曾々木「確かに、困るな」
ルリ「だったら、今からでも『恋愛禁止』のルールを作れば……」
曾々木「それは出来ない」
ルリ「何で?」
曾々木「……そっか、伝わってなかったか」
ルリ「?」
○同・同・前(夜)
歩いてくる野火止。
ルリの声「じゃあ聞くけど、私と世界、どっちかしか守れないとしたら、どっちを守る?」
野火止「え?」
壁に耳を当てる野火止。以下、室内の様子と適宜カットバックで。
曾々木「世界だ」
ルリ「即答?」
曾々木「もちろん、優先順位の話だ。世界を守った後で、たっぷりと愛してやる」
ルリ「どいつもこいつも、バッカじゃないの?」
曾々木「それに『右を踏めば左が上がる』なんて話でもあるまい。世界を守る事イコール、ルリを守る事でもあるだろ?」
ルリ「それは……まぁ」
曾々木「そういう訳だ。まぁ、今すぐどうこうって話でもあるまい。頭の片隅にでも入れておいてくれ」
野火止「……」
その場を立ち去る野火止。
○(夢の中)採石場
杖を持った怪人・クラク少佐の攻撃による爆発に巻き込まれるブルー。
ブルー「きゃあ!?」
クラク少佐「では、弔いの意を込めて」
響き渡るクラクションのような音。
近くで戦闘員と戦っているレッド。膝をつくブルーと、そこに向けて杖を構えるクラク少佐の姿に気付く。
レッド「危ない!」
ブルーに向けて駆け出すレッド。しかし寸前で体が急停止する。
レッド「!? 自動ブレーキ……こんな時に」
クラク少佐「さぁ、死んでください。ハイビーム!」
クラク少佐の杖から発せられる光線を受けるブルー。
ブルー「きゃあああ!」
倒れ、ダメージで変身が強制解除されるルリ。
レッド「ルリさ~ん!」
ルリの元に駆け寄り、抱き起こすレッド。意識のないルリ。
レッド「ルリさん、ルリさん!」
反応のないルリを抱き寄せ、そのままキスをしようとするレッド。
○基地・野火止の部屋(朝)
ベッドで横になる野火止。目を覚ます。
野火止「夢、か……。っていうか、どういう夢だよ」
掛け時計を見て飛び起きる野火止。
野火止「って、ヤベっ!」
○同・司令室・中(朝)
扉を開け、駆け込んでくる野火止。
野火止「すみません、遅れま……」
何やら神妙そうに話している曾々木とルリ。野火止に気付くと、距離を置く。気のせいか、頬が紅い両者。
曾々木「遅いぞ、シグマ」
野火止「……すみません」
ルリに駆け寄る野火止。
野火止「(小声で)ルリさん、二人で何話してたの?」
ルリ「(小声で)別に、何も」
野火止「(小声で)いや『何も』って雰囲気じゃ……」
振り返る野火止。曾々木も野火止達を見ている。
思案した後、口を開く野火止。その時、鳴り響くサイレン音。
野火止「!?」
曾々木「アオリ魔出現。出動だ」
ルリ「オーライ!」
野火止「……オーライ」
○市街地
逃げ惑う人々。
怪人・ハバヨセが市民を壁際に追い詰めている。
ハバヨセ「Yo、Yo。泣けYo、叫べYo、喚けYo。助け呼べYo、Say」
レッドの声「止めろ!」
ハバヨセを蹴飛ばし、市民を解放するレッド。
レッド「さぁ、早く逃げて」
一礼し、逃げていく市民。入れ替わるようにやってくるイエローとブルー。
イエロー「おい、一人で突っ走るな」
レッド「いや、でも……」
ハバヨセ「Yo、Yo。来たなシンゴウジャー。謝るなら今の内だYo、Say」
ブルー「そうは行かないよ。さぁ、シグマ」
レッド「破壊をストップ……なんてやってる場合じゃねぇ!」
一人駆け出すレッド。
イエロー「おい、言った傍から……」
ブルー「何を焦って……バッカじゃないの?」
追うように駆け出し、ハバヨセと戦うレッドに合流するイエローとブルー。息が合わず、ちぐはぐな攻撃(レッドとイエローの攻撃のタイミングがバッティングしたり、レッドが過剰にブルーを庇ったり等)。その様子を離れた所から見ているクラク少佐(ただしこの時点では顔はわからない)。
クラク少佐「そろそろ、頃合いですか」
その場を立ち去るクラク少佐。
× × ×
ハバヨセの攻撃を受け、吹っ飛ばされるレッド、イエロー、ブルー。
ハバヨセ「Yo、Yo。どうしたお前達、そんなもんかYo、Say」
レッド「んな訳あるか!」
駆け出すレッド。
ブルー「ちょっ、シグマ。落ち着け!」
イエロー「ダメだ。今のアイツに何言っても右から左に聞き流されちまう」
ブルー「じゃあ、どうすんの?」
イエロー「無理やり合わせるしかあるまい」
ブルー「……だね。オーライ」
レッドに加勢するイエローとブルー。
○基地・外観(夜)
○同・司令室・中(夜)
ハバヨセとの戦い、イエロー視点の映像が映し出されたモニターを見ている野火止、曾々木、ルリ。この映像ではただただレッドが邪魔に見える。
野火止「……」
映像を停止する曾々木。
曾々木「これが、レコーダーに残っていた記録だ。どうだ、シグマ? 客観的に見て」
野火止「……すみませんでした」
ルリ「(小声で)まさか、あの話が戦い影響してる、なんて言わないよね?」
野火止「……」
ルリ「(小声で)本当、バッカじゃないの?」
曾々木「とにかく、今回は怪人を取り逃がす結果となった。こんな事が続けば、俺達の信用は右肩下がりだ。二度とこんな事がないように。いいな」
野火止&ルリ「オーライ」
曾々木「じゃあ、解散」
出ていこうとする野火止。
曾々木「シグマ、ちょっといいか?」
足を止め、振り返る野火止。
曾々木「今晩、付き合え」
○飲み屋街(夜)
人通りの多い街並み。
並んで歩く野火止と曾々木。
野火止「(来た道を振り返り)あれ、いつものカレー屋じゃないんですか?」
曾々木「あぁ。着いてからのお楽しみだ」
野火止「オーライ」
○廃倉庫・外観(夜)
人気のない立地。
○同・中(夜)
野火止に背を向けて立つ曾々木。
野火止「……隠れ家的な店、って訳でもなさそうですね」
曾々木「……」
野火止「そろそろ、何か言ってくれてもいいんじゃないですか?」
曾々木「……なぁ、シグマ。俺はお前が右も左もわからない頃から、面倒見てきたよな?」
野火止「何ですか、今更」
曾々木「俺に感謝してるよな?」
野火止「そりゃあ、もちろん」
曾々木「だったら、邪魔するなよ」
野火止「だから、その事は謝って……」
曾々木「道譲れよ」
野火止「?」
曾々木「勝手に追い越すんじゃねぇよ」
振り返る曾々木。
野火止「……何の話ですか?」
曾々木「決まってんだろ? ルリの事だ」
野火止「……」
曾々木「どういう経緯かは知らねぇが、お前も知ってんだろ? 俺の気持ち。でもな、俺の方が先なんだよ。人の道、勝手に割り込むんじゃねぇよ!」
野火止「人の道? ナオトさん、その道は皆が通れる公共の道路ですよ? 勝手に私物化しないでもらえます?」
曾々木「何だと?」
野火止「そもそも、ナオトさんがルート選択ミスったから、俺に先を越されたってだけの話じゃないですか」
野火止の胸倉をつかむ曾々木。
曾々木「やんのか?」
野火止「オーライ」
曾々木「……いい度胸だな」
野火止「ナオトさんだって、そのつもりでココに連れてきたんでしょ?」
曾々木「ふん」
手を離し、距離を取る曾々木。互いに袖をめくり、ブレスレット型変身アイテムを操作する野火止、曾々木。
曾々木「交通変身」
野火止「Go!」
それぞれレッド、イエローに変身する野火止、曾々木。互いに距離を詰め、パンチを繰り出す。互いのパンチをくらい、互いに吹っ飛ぶレッドとイエロー。互いにロードロッドを手にする。
イエロー「ロードロッド、銃態」
レッドに向け発砲するイエロー。その攻撃を両手に持ったロードロッドで後方に弾くレッド。背後で爆発が起きる。
レッド「はあああ!」
イエロー「うおおお!」
接近戦に突入するレッドとイエロー。
○基地・外観(朝)
○同・司令室・中(朝)
作戦机で待つルリ。扉が開き、傷だらけで曾々木に肩を借りながら入ってくる野火止。尚、曾々木も野火止程ではないが傷はある。
ルリ「シグマ!?」
野火止を席に座らせる曾々木。そこに駆け寄るルリ。
ルリ「大丈夫? ナオトさん、何があったんですか? まさか、アオリ魔?」
曾々木「そんなんじゃない。何でか知らんが、シグマに喧嘩売られてな。返り討ちにしてやっただけだ。なぁ、シグマ?」
野火止「……」
ルリ「シグマ、本当なの?」
野火止「……」
ルリ「バッカじゃないの?」
曾々木「本来なら懲戒ものだが、シグマは大事な右腕だ。三日間の謹慎程度にしておいてやろう。なぁ、シグマ?」
野火止「……」
○同・野火止の部屋
退屈そうにベッドに寝転がる野火止。尚、以降のシーンの野火止は私服姿。
野火止「くそっ……あの野郎」
目を閉じる野火止。
○(夢の中)採石場
クラク少佐の攻撃による爆発に巻き込まれるブルー。
ブルー「きゃあ!?」
× × ×
ルリの元に駆け寄り、抱き起こすレッド。意識のないルリ。
○基地・野火止の部屋
飛び起きる野火止。頭を抱える。
野火止「またこの夢……何なんだよ」
○同・トレーニング室
ベンチプレスをする野火止。
野火止「三、四……」
鳴り響くサイレン音。
野火止「!?」
バーベルをラックに戻し、起き上がる野火止。ジャケットを取ろうと手を伸ばすも、そこにジャケットはない。
野火止「……そっか」
元の姿勢に戻り、ベンチプレスを再開する野火止。
野火止「五、六……」
○採石場
戦闘員を率いて暴れるクラク少佐の元に駆け付ける曾々木とルリ。
曾々木「見つけたぞ、アオリ魔」
クラク少佐「ようやく来ましたか、シンゴウジャー。今日はお二人だけですか?」
ルリ「ちょっと、免停中でね」
曾々木「安心しろ。俺達だけで片付ける」
ブレスレット型変身アイテムを操作する曾々木、ルリ。
曾々木&ルリ「交通変身、Go!」
それぞれイエロー、ブルーに変身する曾々木、ルリ。
イエロー「シンゴウジャー発進、Go!」
ブルー「オーライ!」
駆け出すイエローとブルー。
○基地・外観
○同・司令室・中
入ってくる野火止。
野火止「誰もいないな、と……」
モニターの電源を入れる野火止。採石場で戦うイエロー視点のライブ映像。苦戦している様子。
イエロー「ぐあっ!?」
野火止「手間取ってんな……」
モニターに映るクラク少佐の姿。
クラク少佐「私を、今までの怪人さん達と同じだと思わない事ですよ」
野火止「? アイツ……」
○(フラッシュ)採石場
夢の中。
クラク少佐の攻撃による爆発に巻き込まれるブルー。
ブルー「きゃあ!?」
○基地・司令室・中
ハッとする野火止。
野火止「まさか……」
飛び出していく野火止。
○採石場
大爆発と共に吹っ飛ばされるイエローとブルー。
イエロー「うわあああ!?」
ブルー「きゃああ!?」
倒れるイエローとブルーに歩み寄るクラク少佐。
クラク少佐「もう終わりですか? 思っていたよりも短いドライブでしたよ」
ブルー「くっ……強い……」
イエロー「今までの怪人と、訳が違う……」
クラク少佐「この程度の強さなら、残しておく必要もないでしょう。スクラップになりなさい」
近くの崖を撃つクラク少佐。巨大な岩がイエローとブルーに向かって落ちてくる。
イエロー&ブルー「!?」
思わず目を背けるイエローとブルー。しかし何も起こらない。恐る恐る顔を上げると、巨大な岩を受け止めているレッドの姿。
ブルー「シグマ!?」
レッド「おりゃあ!」
岩を安全な場所に放り投げるレッド。イエローとブルーの元へ振り返る。
レッド「ルリさん、大丈夫? ナオトさんも」
イエロー「俺はついでか」
ブルー「でも、謹慎処分中じゃ……」
レッド「後で教えてよね。始末書の書き方」
イエロー「……しょうがない奴だ」
ブルー「その前に、アイツ倒しておかないとね」
立ち上がり、レッドと共にクラク少佐と対峙するイエロー、ブルー。
クラク少佐「ようやくお揃いですか。シンゴウジャーの皆さん」
レッド「破壊をストップ。シンゴウレッド」
イエロー「悪意に注意。シンゴウイエロー」
ブルー「平和へ前進。シンゴウブルー」
レッド&イエロー&ブルー「(決めポーズをとり)交通戦隊シンゴウジャー」
イエロー「シンゴウジャー発進、Go!」
レッド&ブルー「オーライ!」
クラク少佐に向けて駆け出すレッド、イエロー、ブルー。見事な連係プレーで、優勢に進める。
クラク少佐「なるほど、ギアを上げてきましたか」
レッド「さっさと決めるぜ。ドウコウ砲」
ドウコウ砲を構えるレッド、イエロー、ブルー。
レッド「フィニッシュシーン、Go!」
ドウコウ砲から放たれたエネルギー弾がクラク少佐に向かう。
クラク少佐「そうはいきませんよ。ハイビーム!」
クラク少佐の杖から放たれた光線が、ドウコウ砲のエネルギー弾をも押し返し、レッドら三人に直撃する。
レッド&イエロー&ブルー「!?」
爆発が起き、吹き飛ぶレッド、イエロー、ブルー。ブルーは比較的クラク少佐の近くに吹き飛ばされる。
レッド「な……ドウコウ砲が通じない……?」
何とか立ち上がるも、やってきた戦闘員達に襲われ苦戦するレッド。
その間にブル―へ歩み寄るクラク少佐。
ブルー「くっ……ナビゲーションシステム、連動」
ナビの声「ルートを探索します、ルートを探索します……」
クラク少佐「では、一人ずつ参りましょうか」
ロードロッドを構えるブルー。持つ手が小刻みに震えている。
ブルー「お願い、早く……」
ナビの声「ルートが見つかりません」
ブルー「そんな……」
クラク少佐「さすがはシンゴウジャーの装備、とでも言うべきでしょうか」
杖から光線を発するクラク少佐。その攻撃による爆発に巻き込まれるブルー。
クラク少佐「正確な探索結果ですよ」
ブルー「きゃあ!?」
クラク少佐「では、弔いの意を込めて」
響き渡るクラクションのような音。
近くで戦闘員と戦っているレッド。膝をつくブルーと、そこに向けて杖を構えるクラク少佐の姿に気付く。
レッド「危ない!」
野火止M「このままじゃ……」
○(フラッシュ)同
夢の中。
ルリの元に駆け寄り、抱き起こすレッド。意識のないルリ。
野火止M「このままじゃ、ルリさんが……」
○同
戦闘員と戦っているレッド。その眼前、膝をつくブルーと、そこに向けて杖を構えるクラク少佐の姿。
野火止M「そうはさせない!」
レッド「うおおお!」
戦闘員達を振りほどき、ブルーに向かって駆け出すレッド。変身を解除し野火止の姿になる。
クラク少佐「さぁ、死んでください。ハイビーム!」
クラク少佐の杖から発せられる光線。ブルーを庇って攻撃を受ける野火止。
野火止「ぐあああ!」
ブルー「シグマ!?」
口から血を吐き、ブルーに倒れ掛かる野火止。
ブルー「(悲鳴)」
○病院・病室(夜)
壁にかけられた野火止のジャケット。
ベッドで横になる野火止。その傍らに座るルリ。
野火止「ん……」
ルリ「シグマ? わかる、シグマ?」
野火止「ルリ……さん?」
ルリ「良かった……何であんな無茶したの? バッカじゃないの?」
野火止「すみません」
野火止の手に交通安全のお守りを握らせるルリ。
ルリ「コレも。ちゃんと肌身離さず持っとけよ。もう、バッカじゃない……」
こらえきれず、野火止に抱き着いて泣くルリ。
窓際に飾られた写真立てには野火止、曾々木、ルリの3ショット。ただし服装は、首から下がそれぞれ変身後(レッド、イエロー、ブルー)のスーツ。
○同・外観
○同・病室
リンゴの皮をむくルリと、その様子をベッドの上で見守る野火止。
野火止「ルリさん、こんな所に居て大丈夫なの?」
ルリ「大丈夫、大丈夫」
野火止「そもそもこの間のアオリ魔達、あの後どうなって……?」
ルリ「けが人はそんな事気にしないの。はい」
リンゴを野火止に食べさせるルリ。
突如、テレビの電源が入り、画面にクラク少佐が映る。
クラク少佐「皆様、いかがお過ごしですか?」
野火止&ルリ「!?」
○同・各所
待合室のテレビや病室の心電図など、様々なモニターに映るクラク少佐。
クラク少佐「先日の発表通り、私達アオリ魔は明朝、首都を制圧させていただきます」
○同・病室
テレビを観ている野火止とルリ。テレビに映るアオリ魔達。クラク少佐を先頭にハバヨセら怪人達、多数の戦闘員達が大通りを埋め尽くしている映像。
クラク少佐の声「お逃げになる方は、どうぞお急ぎください」
テレビの電源が消える。
ルリ「まぁ、こういう事」
しばしの沈黙の後、体を起こそうとする野火止。それを押しとどめるルリ。
ルリ「シグマ。……告白、本当に嬉しかったよ」
野火止「え?」
ルリ「でも、ごめん。私にはさ、命かけて戦う恋人を待てる強さは無いし、恋人が待ってるのに戦いに命をかける強さも無いの。だから、ごめん」
立ち去ろうとするルリの腕を掴む野火止。震えているルリの腕。
ルリ「離して」
野火止「手、震えてるよ」
ルリ「戦わなきゃ、町が大変な事になるの」
野火止「どうせ勝てない。結果は一緒だ」
ルリ「だとしても、どんな逆境でも決して諦めない。それがヒーローで……」
野火止「だったら、諦めんなよ!」
立ち上がり、ルリを抱きしめる野火止。
野火止「自分が生き延びる事、諦めんなよルリさん!」
ルリ「シグマ……」
野火止「前にルリさん言ってたよね? 『私と世界、どっちかしか守れないとしたら、どっちを守る?』って」
ルリ「うん、言った」
野火止「俺は今、ルリさんを守りたい。世界よりもまず、ルリさんを。世界を守るなんて、その後で十分だ」
ルリ「でも、じゃあどうする気?」
野火止「……」
ルリのジャケットを脱がす野火止。
○大通り
片道二車線以上の道路同士の交差点。四方からクラク少佐やハバヨセら怪人が率いる、道路の幅いっぱいに広がる戦闘員達の集団がやってくる。
その交差点の中心に立つ曾々木。
曾々木「(周囲を見回し)右を見ても左を見てもアオリ魔、か……」
クラク少佐「おや、お一人ですか?」
ハバヨセ「Yo、Yo。黄色だけの信号に何が出来るのか、教えてくれYo、Say」
曾々木「あぁ、教えてやるよ」
ブレスレット型変身アイテムに手をかける曾々木。
○病院・病室
誰もいない室内。ハンガーにかけられた野火止とルリのジャケット。
曾々木の声「交通変身、Go!」
○電車・中
並んで座る私服姿の野火止とルリ。二人とも、手には大きな荷物。
曾々木の声「悪意に注意、シンゴウイエロー」
○駅
走り出す電車。
曾々木の声「シンゴウジャー発進、Go!」
○電車・中
並んで座る野火止とルリ。野火止の手を握るルリ。
ルリ「……これで良かったのかな? 私達、世界を裏切って……」
野火止「大丈夫。この先何があっても、ルリさんは俺が守るから」
ルリを抱き寄せる野火止。
○走る電車
○野火止家・外観
地方の街並み。
古民家を改造したような二階建ての家。一階部分には「シグマジム」の看板。
○同・シグマジム
そこまで種類は多くないが、筋トレ器具の並んだ室内。
男性客を指導する野火止(30)。
野火止「八……はい頑張って、九……」
受付業務をするルリ(32)。
ルリ「ありがとうございました」
出ていく客と入れ違いで、ランドセルを背負った野火止ゴウ(8)が入ってくる。
ゴウ「ただいま」
ルリ「こら、ゴウ。お店から入るなって言ってるでしょ」
ゴウ「だってこっちの方が近いんだもん」
と言って奥に入っていくゴウ。
ルリ「まったく……」
目が合う野火止とルリ。思わず笑み。
○同・外観(夜)
○同・居間(夜)
扉を開け、隣の部屋(=寝室)で眠るゴウの姿を確認する野火止。静かに扉を閉める。
険しい表情でテレビを観ているルリの隣にやってきて腰を下ろす野火止。
野火止「ゴウのヤツ、やっと寝たよ……ん? どうかした?」
ルリ「シグマ……(と言ってテレビを指す)」
テレビ画面に映るクラク少佐。
クラク少佐「私達アオリ魔による王政も、今日で一〇周年を迎えました」
野火止「!?」
クラク少佐「しかし、改革はまだ道半ばです。今後は主要都市だけでなく、各地方自治体にも積極的に介入し……」
顔を見合わせる野火止とルリ。
ルリ「まさか、この町も……?」
野火止「大丈夫……大丈夫だよ」
ルリを抱き寄せる野火止。
○商店街
並んで歩く野火止とゴウ。野火止は両手に買い物袋を持っている。
ゴウ「パパ、俺も一個持つ」
野火止「お、サンキュー」
ゴウに買い物袋を片方手渡す野火止。
ゴウ「(前方に何かを見つけ)ねぇ、パパ。何か変な人居るよ」
野火止「変な人?」
ゴウの指す先に目を向ける野火止。こちらに向かってくるアオリ魔の戦闘員。
野火止「!?」
持っていた買い物袋を落とす野火止。
野火止の目の前までやってくる戦闘員。息をのむ野火止。野火止に一枚のチラシを手渡し、立ち去る戦闘員。
野火止「(息を吐く)」
チラシに目を落とす野火止。
野火止「!?」
男性客の声「『来月より、当地域の制圧を開始する事が決まりました』」
○野火止家・前
チラシを手に立ち話をする野火止と男性客。
男性客「『お逃げになる方は、どうぞお急ぎください』か。先生はどうすんだ?」
野火止「逃げられる場所があるなら、逃げたいですけどね」
男性客「だよな。こんな田舎にまでアオリ魔が来るようじゃ日本はおしまいだし、海外に出るったって今はどこも抽選待ちだろ? 俺は諦めるよ」
野火止「諦めるなんて、良くないですよ」
男性客「でも俺はよ、先生と違ってこの町で生まれ育ったんだ。死ぬんだって、この町がいいんだよ」
野火止「あ……すみません、よそ者が」
男性客「いいんだよ。先生達は何も悪くないんだから。悪いのはアオリ魔と、シンゴウジャーだよ」
野火止「え……」
男性客「あれ、先生若いったってさすがに知ってるだろ? シンゴウジャーとかいう戦いの直前に逃げ出したヤツら」
野火止「……もちろん、知ってます」
男性客「アイツらが戦って勝ってくれてりゃ、俺達がこんな思いせずに済んだのによ」
野火止「……じゃあ、トレーニング始めましょうか?」
曾々木の声「あの……」
振り返ると、そこに車椅子に乗った曾々木(34)の姿。ただしこの時点ではまだ顔はわからない。
野火止「!?」
○同・シグマジム
受付に立つルリ。入ってくる男性客。
男性客「どうも」
ルリ「あ、いらっしゃい。あれ(外を見て)主人、外に居ませんでした?」
男性客「居たけど、何か車椅子のお兄さんの手助けに行っちゃったよ」
ルリ「仕事ほっぽらかして人助けか……バッカじゃないの?」
○田舎道
曾々木の車椅子を押して歩く野火止。
野火止「よくココがわかりましたね」
曾々木「俺達をナメるな、と言いたいが……」
ここで初めて曾々木の顔がわかる。
曾々木「一〇年もかかったんだ。偉そうなことは言えまい」
しばしの沈黙。
野火止「ナオトさん、あの……一〇年前は、その……」
曾々木「謝る必要はない」
野火止「ナオトさん……」
曾々木「謝られた所で、許すつもりはないし、許される事でもあるまい。あの時お前達が逃げなければ、こんな事になっていなかったかもしれないんだからな」
野火止「……」
曾々木「もし反省しているなら、態度で示せ」
ジャケットとブレスレット型変身アイテムを野火止に渡す曾々木。
曾々木「もう一度戦え」
野火止「無茶言わないで下さいよ。今更戦うなんて……」
野火止の体を叩く曾々木。
曾々木「今もトレーニングは続けているんだろう? だったら今、戦う力において、シグマの右に出る者はいまい」
野火止「お断りします。俺はもう、ヒーローじゃない」
曾々木「そうか、残念だ。なら……」
青いジャケットを取り出す曾々木。
曾々木「他のヤツに頼むとするか」
野火止「!?」
曾々木「もう一度聞くが、どうする?」
野火止「……」
曾々木「……まぁ、いい」
○通学路
下校する小学生達。
曾々木の声「一度ゆっくり考えておけ」
考え事をしながら歩く野火止。
少女の声「止めてよ」
顔を上げる野火止。少女のランドセルを取り上げている少年達。
少女「ねぇ、返してよ」
少年「へん、嫌なこった」
野火止「まったく……」
ゴウの声「おい、止めろよ!」
少年達と少女の間に割り込むゴウ。
少年「やべぇ、野火止だ」
逃げていく少年達。
ゴウ「まったく……。(少女に)大丈夫?」
少女「うん、ありがとう」
その様子を見守る野火止。笑みを浮かべると、来た道を戻っていく。
○野火止家・外観(夜)
○同・シグマジム(夜)
ベンチプレスをする野火止。
野火止「一八、一九……」
疲労からかバーベルを上げきれず、ラックに戻せず苦悶の表情の野火止。
野火止「ぐ、ぐっ……」
そこにやってきて、野火止を補助し、バーベルをラックに戻すルリ。
野火止「あっ」
ルリ「危なっ。こんな時間に一人で無理して、バッカじゃないの?」
野火止「はは、ごめんごめん」
ルリ「……怪しい」
野火止「え?」
ルリ「いや、さっきまで『喜べ、海外に逃げられる事になったぞ~』って言ってた人がこんなにテンション下がってたら、さすがに怪しむじゃん」
野火止「別に、何もないよ」
ルリ「まさか……」
野火止の顔を覗き込むルリ。
野火止「な、何……?」
ルリ「裏金でも積んだ?」
野火止「……そんな金、持ってると思う?」
ルリ「知ってる。そんな事より、荷造り手伝ってよ」
野火止「はいはい」
○バスステーション
高速バスが停まっている。
スーツケース等の荷物を抱えるルリ。その傍らには野火止とゴウ。
ゴウ「パパは一緒に行かないの?」
野火止「パパは、フェリーで後から行くから」
ゴウ「じゃあ、皆でフェリーで行けばいいじゃんか」
ルリ「早く行けるに越した事は無いじゃん。(野火止に)じゃあ、私荷物預けてくる」
野火止「おう」
添乗員の元に行くルリ。
野火止「なぁ、ゴウ。パパが居ない間、ママの事守ってくれよ」
ゴウ「うん、わかった」
野火止「いい子だ。じゃあ特別に、プレゼントだ」
ゴウに何かを手渡す野火止。
× × ×
発車する高速バスを見送る野火止。耳元のワイヤレスイヤホンから音が漏れている。
野火止「(ブレスレットに向け)オーライ」
踵を返す野火止。ジャケットを羽織る。
○高速道路
渋滞に巻き込まれ、全く動けていない高速バス。
○高速バス・中
並んで座るルリとゴウ(ゴウが通路側の席)。ゴウの脇、後ろの席の乗客用の車椅子がややはみ出ている。
ルリ「(窓の外を見て)全然動く気配ないじゃん。まぁ、考える事は皆同じか」
ゴウ「ねぇ、ママ。これ、車椅子?」
ルリ「こら、ゴウ。(後ろの座席へ振り返り)すみません」
後ろの席に座る曾々木。
曾々木「構わん」
ルリ「!?」
○地下施設
歩いている野火止。ワイヤレスイヤホンに指を当て、ブレスレットを口元に近づける。
野火止「はい。コチラ、野火止」
ルリの声「バッカじゃないの?」
○高速バス・中
ブレスレットを手に持ち通話するルリ。隣と後ろでゴウと曾々木も聞いている。
以下、適宜カットバックで。
ルリ「全部ナオトさんに聞いた。一人で戦いに行くって」
野火止「そっか、聞いちゃったか……怒ってる?」
ルリ「当ったり前じゃん」
野火止「でもほら、おかげで抽選関係なく海外に行ける訳だし……」
ルリ「嘘はいいから。私だって、シグマがそんな取引で動くような人じゃない事はわかってるから。ねぇ、何で? 何でそんな無茶な事引き受けたの?」
野火止「世界を守るため、かな」
ルリ「は?」
野火止「ルリさん、覚えてる? 俺、昔言ったよね? 『世界とルリさん、両方守ってみせるから』って」
ルリ「覚えてるよ。でも、本気で私を守る気があるなら、今すぐ帰ってきてよ。そばにいてよ」
野火止「大丈夫だよ。ルリさんを守ってくれる人なら、ソッチにも一人居るから」
ルリ「え……?」
ルリの視線の先、ゴウ。
野火止「なぁ、ゴウ?」
ゴウ「うん。俺、パパと約束したから」
と言って、交通安全のお守りをルリに見せるゴウ。
ルリ「ゴウ、それ……」
野火止「俺が世界を守って、ゴウがルリさんを守る。完璧でしょ?」
ルリ「……完璧? どこが? まだ大事な事があるじゃん」
野火止「大事な事?」
ルリ「必ず、帰ってきてよ」
野火止「……わかった」
ルリ「出来るだけ早く、帰ってきてよ」
野火止「わかった」
ルリ「……愛してる(と言ったが、電波が悪くよく聞き取れない)」
野火止「え、ごめん。電波悪くてよく聞き取れなかったんだけど」
ルリ「……こう言ったんだよ。シンゴウジャー発進、Go!」
野火止「(ふっと笑い)オーライ!」
通話を切るルリ。涙。
○地下施設
通話を切る野火止。その場を立ち去ろうとする。
ハバヨセの声「Yo、Yo。待てYo」
振り返る野火止。倒れている戦闘員達とフラフラながら立ち上がるハバヨセ。
ハバヨセ「この程度で勝ったつもりになってんじゃないYo、Say」
野火止「悪いけど、俺はお前らのボスまで最短ルートで行きたくてね。お前ら下っ端の相手なんて、時間の無駄なんだよ」
ハバヨセ「言ってくれるじゃないかYo、Say」
ブレスレットを操作する野火止。
野火止「交通変身……」
○高速バス・中
ゴウを抱きしめるルリ。
ルリ「ゴウ……」
○高速道路
渋滞が解消され、動き出す高速バス。
(完)
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