<登場人物>
ボン(12)小学生
花(29)
知らん男(39)花の知人
舎弟(32)知らん男の舎弟
パパ(50)花の客
ボンの父
ボンの母
ボンの妹
警官A~C
<本編>
○大阪駅・外観(夜)
○同・ホーム(夜)
東京行きの寝台列車が停車している。ホームには見送りの人が数人いる程度。
ある降り口の前に立つ少年・ボン(12)。荷物も何も持たず、列車の降り口に向け手を振っている。
ボン「元気でね~」
ボンの視線の先、誰も立っていない降り口。ドアが閉まり、発車する列車。
○同・改札口(夜)
並ぶ自動改札機、窓口にいる駅員、駆けてくるボンに気付く。乗車券を自動改札機に投入し、外に出る。
ボン「(振り返り)ばあちゃん、先に行っちゃうよ~」
そのまま駆けていくボン。後からくる他の客に目をやる駅員。後方客の中に「おばあちゃん」らしき人物はいない。
○同・外(夜)
一人、出てくるボン。周囲を見回す。
ボン「ここが、大阪か~」
笑みをかみ殺すボン。
警官Aの声「ねぇ、君」
振り返るボン。そこに立つ警官A。
警官A「こんな時間に、何やっとるの?」
ボン「(小声で)本物の大阪弁だ……」
警官A「君、聞いとるんか?」
ボン「あぁ……(駅を指し)父ちゃん達が、見送りに行ってて、それ待ち。(駅の方を見て)あ、来た来た。遅いよ~」
駅の方を振り返る警官A。誰もいない。
警官A「?」
向き直ると、ボンの姿は消えている。
警官A「なっ!?」
○スナック・前(夜)
繁華街の中にあるさびれた店。その前でタバコを吸う花(29)。大人の色気満載な女性。
周囲を見回しながら走る警官A。
警官A「(胸のあたりに手を当て)こんくらいの子供、見ぃひんかったか?」
花「さぁ? 知らんなぁ」
警官A「おおきに」
その場を立ち去る警官A。店のドアを開ける花。その中にいるボン。
花「ボン、行ったで」
ボン「……ありがとう」
花に目を奪われているボン。
○メインタイトル『花とボン』
○(回想)走る寝台列車(夜)
東京行きの寝台列車。
○(回想)寝台列車・客席(夜)
トランプで遊ぶボン、ボンの父、ボンの母、ボンの妹。最初は皆、楽しそうにやっているが、徐々にボンの表情は暗くなっていく。
ボンの母「やった、上がり」
ボンの妹「またお兄ちゃんの負け~」
ボン「ちぇっ……んだよ」
ボンの妹「はいはい、次行くよ~(と言ってカードを切り始める)」
× × ×
トランプで遊ぶボン、ボンの父、ボンの母、ボンの妹。ボンの手札が無くなる。
ボン「はい、上がり」
ボンの妹「おぉ、今日初勝利じゃない?」
ボン「じゃあ俺、もう抜けるわ」
ボンの母「え?」
ボンの妹「え~、何で? やろうよ」
ボン「飽きた」
ボンの父「……おい」
ボン「何?」
ボンを殴るボンの父。
ボン「!?」
ボンの母「ちょっと、お父さん……」
ボンの父「何だその態度? 白けさすような事してんじゃねぇぞ!」
ボン「(頬を押さえ)何だよ……俺、旅行中まで殴られなきゃいけないのかよ」
ふて寝するように横になるボン。
ボンの父「おい、聞いてんのか!」
ボンの母「もう、こんな所で止めてよ」
耳を塞ぐボン。
× × ×
目を覚ますボン。父、母、妹は皆寝ている。それを確認し、席を立つボン。
○(回想)同・トイレ・前
出てくるボン。
アナウンスの声「大阪~、大阪~」
ボン「大阪、か……」
ポケットに手を入れるボン。中から乗車券が出てくる。
ボン「あっ……」
○(回想)大阪駅・ホーム(夜)
意を決し降りるボン。高鳴る心臓の音。
周囲を見回すと、他の見送りの客らはボンに気付いていない様子。咄嗟に振り返り、誰もいないドア前へ向け手を振るボン。
ボン「元気でね~」
ボンの声「……っていう感じ」
○スナック・前(夜)
「CLOSED」の札がかかっている。
花の声「ふ~ん。なるほどな~」
○同・中(夜)
カウンターのみの室内。
カウンター席に座りオレンジジュースを飲むボンと、カウンター内に立つ花。他に客はおらず、端に段ボール箱が積み重なっている。
花「自分、家出のボンなんやな」
そう言ってグラスに口を付ける花。その仕草に見とれるボン。
花「で、どないすんの? これから」
ボン「え?」
花「ボンが一人で生きていけるほど、大阪は甘ないで?」
ボン「それは……ねぇ、ここに置いてよ」
花「それは無理や」
ボン「お願いだよ。俺、何でもするから」
花「そんな事言われてもやな……大阪弁もロクに出来へんもん、置く訳にいかんわ」
ボン「(下手なイントネーションで)頼むわ、ここに置いてぇな」
花「下手くそ」
ボン「うぅ……練習するから」
花「(笑って)揶揄って堪忍な。問題はそこやあらへん。周り、よう見てみ」
店内を見渡すボン。
花「この店も、もう終いや」
ボン「あ……」
花「もちろん、店が続いてたとして、アンタみたいなボンを働かせられる訳……」
近づく足音に気付く花。
花「……ボン。ちょっと、静かにしとき」
ボン「え?」
ドアを激しく叩く音。
知らん男の声「おい、花。居るんやろ!」
音にビビるボンと、カウンターから出てくる花。
知らん男の男「開けろや、花。しばくぞ!」
花「あかん。ボン、隠れるで」
ボン「え? え?」
× × ×
半ば強引にドアを開け入ってくる知らん男(39)。
知らん男「おい、花!」
人影は無く、段ボール箱の山と、飲みかけのオレンジジュースのグラスがあるのみ。
知らん男「えらい手間かけさせよって、タダじゃ済まさへんぞ?」
カウンター内を覗き込む知らん男。
知らん男「のう、花!」
誰もいない。
知らん男「ん?」
顔を上げる知らん男。裏口の扉が開いている。
知らん男「逃げよったか。ええ度胸や」
ジュースの入ったグラスを手に取る知らん男。壁に投げつけ叩き割る。
知らん男「逃げ切れる思うなよ」
出ていく知らん男。
それを確認し、段ボール箱の山から姿を見せるボンと花。ボンは花の胸に顔をうずめているような形。
花「よしよし、行ったみたいやな」
ボン「(頬を紅潮させ)……」
花「ん? ボン、大丈夫か? (ボンの体を揺らし)お~い、ボ~ン」
ボン「だ、だ、大丈夫」
花「なら、ええ。(割れたグラスに歩み寄り)まったく、好き勝手散らかして行きよって。ええ迷惑や」
片付け始める花。鼻血を出すボン。花に気付かれぬようにティッシュで鼻血を拭く。
花「? ボン、どないした?」
ボン「え? ううん、何でも。(ごまかすように)ところで今の、誰?」
花「あぁ……知らん男や。気にせんでええ」
ボン「そっか……。大丈夫なの?」
花「何がや?」
ボン「だから、その……」
花「せやな。このままココに居ったら、また戻ってくるかもわからんな」
ボン「じゃあ、早くどっか逃げなきゃ」
花「何や、ボン。ウチの事、心配してくれとるんか?」
ボン「そ、そりゃあ、まぁ」
花「ふ~ん。優しいんやな」
と言って、鼻に詰めやすいように小さく丸められたティッシュをボンに渡す花。
花「なぁ、ボン。ウチと一緒に来るか?」
ボン「え? いいの?」
花「ウチも一人やと、何や寂しくてな」
ボン「俺でいいなら、喜んで」
花「その代わり、ウチの事、守ってくれるか?」
ボン「え? ……も、もちろん」
花「ウチのためやったら、ほんまに何でもしてくれるんか?」
ボン「もちろん、何でもやる」
花「それ、大阪弁で言えるか?」
ボン「(下手なイントネーションで)何でもやったるわ」
花「下手くそ」
笑う花。ボンの手を取る。
花「ほな、行こか」
そのまま出ていく花とボン。
○夜の町
花に手を引かれるボン。
花の声「そういえば、まだ聞いてへんかったな。ボンの名前」
ボンの声「名前は……捨てた。花さんが付けてよ」
花の声「ほな、ボンや」
ボンの声「わかった。俺は、ボンや」
花の声「(笑いながら)下手くそ」
○安アパート・外観(朝)
○同・花の部屋(朝)
目を覚ますボン。上半身裸。隣に目をやると、やはり無防備な花の寝姿。
ボン「!?」
○同・同
パンを食べるボンと花。照明やエアコン等は一切ついていないため、やや暗く、汗ばむ二人。また、ボンの大阪弁は基本的にイントネーションが下手。
ボン「暑いわ……」
花「夏やからな」
ボン「(牛乳を飲み)ぬるいわ……」
花「夏やからな」
ボン「(天井の照明を見上げ)暗いわ……」
花「夏やからな」
ボン「(大げさに)夏、関係あらへんがな!」
花「下手くそ」
と言いながら、牛乳を口にする花。妙にセクシーで、目を奪われるボン。
花「(何かに気付き)!? ボン、ちょっと静かにしとき」
ドアを激しくノックする音。
ボン「!?」
○同・前
「金返せ」「泥棒女」などと書かれた張り紙が大量に、開閉に支障が出るほど貼られているドア。それを激しくノックする舎弟(32)と、その周囲をチェックする知らん男。
舎弟「出てこいや、コラ!」
知らん男「もうええ。電気もガスも動いてへんし、ドア開けた形跡もあらへん。コッチにも戻ってへんみたいやな」
舎弟「せやけど兄さん……」
周辺住民が遠巻きに自分を見ている事に気付く知らん男と舎弟。
舎弟「何や、お前ら。見世もんとちゃうで!」
散っていく周辺住民。
舎弟「せやけど兄さん、そうしたらあの女、どこ行った思います?」
知らん男「……オレンジジュースの男、か」
舎弟「え?」
知らん男「また新しい男作りよったんやろ、あのアバズレが!」
ドアを思い切り蹴り、去っていく知らん男と舎弟。
○同・中
去っていく足音を聞くボンと花。ボンは花を庇うように前に立っている。
ボン「行ったみたい……やね」
花「な? ボン」
庭側のガラス戸前、締め切ったカーテンの下に置かれたボンと花の靴。
花「庭から入って正解やったやろ?」
ボン「防犯上、良くないと思うで」
花「心配いらんて。盗られて困るようなもん、もう残ってへんわ」
ボン「……ねぇ、花さん。あの人に何かしてもうたんかい?」
花「せやな……警察が捕まえてくれへんような事、しただけや」
ボン「それって……」
ボンを抱きしめる花。
ボン「!?」
花「おおきにな、ボン。ちゃんとウチの事、守ろうとしてくれたやろ?」
ボン「え? あ、いや、それは、だって……うん」
ボンを放す花。
花「さて。ここも長い事居られへんやろな。ボン、それ食べ終わったら、さっさと出るで」
ボン「どこ行くの?」
花「せやな……せっかくやし、ボンに大阪を案内したるわ」
ボン「本当に? ありがとう!」
花「……」
ボン「……ほんまに? おおきに!」
花「下手くそ」
○同・庭
出てくるボンと花。フルメイク状態の花を見つめるボン。
花「何や、ボン。ジロジロ見よって」
ボン「え? いや……仕上がってるな、って」
花「それは『すっぴんブサイクやな』いう意味か?」
ボン「(慌てて首を横に振り)どっちも、全然キレイ。……あ、えっと、大阪弁で何て言うんだっけ……」
花「……アホ。ボンがお世辞なんて、十年早いわ」
ボン「?」
○道頓堀
巨大なグリコの看板の前で、同じポーズをとるボンとその写真を撮る花。
○劇場
漫才を客席で見るボンと花。笑う。
○たこ焼き屋・中
向かい合って座り、たこ焼きを食べるボンと花。
ボン「ん……美味っ」
花「ん~、ぼちぼちやな」
ボン「本場のたこ焼きに本場のお笑いに本場のグリコ。さすが大阪や~」
花「グリコは本場とちゃうわ」
ボン「どう? 俺、上達してる?」
花「まだまだや」
ボン「え~。厳しいわ~」
花「にしても、他はともかく、東京のたこ焼きて、大阪とそない違うんか?」
ボン「う~ん、よくわからん。俺、東京のたこ焼きってそんなに食べた事ないし」
花「何やそれ」
ボン「でも大阪の人はみんな言うで? だから、そうなんやない?」
花「……そうか」
たこ焼きを一口食べる花。
花「ほな、味わっとかな」
ボン「? 何か言った?」
花「何でもあらへん。で、ボン。次はどこ行きたいんや?」
ボン「あ、そろそろ漫才ツーステ目が始まるで? 急がな」
花「また戻るんか? 嫌やわ」
○安アパート・前
花の部屋のドアの前に立つ知らん男と舎弟。
舎弟「やっぱり戻ってへんみたいですよ、兄さん。やっぱりもう、高飛びして大阪から離れとるんや……」
庭側に回り込む知らん男。
舎弟「兄さん?」
○同・庭
花の部屋のガラス戸を見る知らん男。カーテンに隙間が出来ている。
舎弟「兄さん、どないしました?」
知らん男「……」
ガラス戸を開ける知らん男。
舎弟「開いた?」
知らん男「(室内の痕跡を見て)そない経ってへんな。多分、こっから出入りしとったんやろ」
舎弟「え? あの女、ナメくさりよって」
知らん男「落ち着けや。花がまだ大阪に居るいう事は、行先も絞られるやろ」
○通天閣・外観
ボンの声「お~」
○同・前
通天閣を見上げるボンと花。
ボン「ほんまもんの通天閣や~」
花「……」
ボン「どう? 今の上手くなかった?」
花「まぁ、発音は悪くなかったんちゃう?」
ボン「やった」
花「せやけど、感動が伝わらんかったな。パッションが足りないんちゃう?」
ボン「厳しいわ~。じゃあさ、花さんが手本見せてぇな」
花「ウチが? ん~……」
しばし通天閣を見つめる花。
花「無理やな」
ボン「ずるっ」
花「ウチは見飽きるほど見とんねん。そないなもんに、今更感動なんて出来へんわ。ボンかて、スカイツリー見て感動せぇへんやろ?」
ボン「あ~……せぇへんかも」
花「……今『懐かしいな』とか、思うんか?」
ボン「いや、さすがに早すぎるわ」
花「ほな、どれくらいで懐かしくなるんやろな……?」
ボン「? 花さん?」
花「(時刻を確認し)そろそろ、ええ時間やな」
ボン「家、帰るの?」
花「帰らへんよ。まぁ、黙って付いてき」
歩き出す花についていくボン。
○住宅街
遠くに見える高級マンション。
ボンの声「え、あれ? 高ぇ~」
高級マンションを見上げながら、花についていくボン。
ボン「あんなマンションに住んでるなんて、超金持ちやんか。花さん、どんな関係なの?」
花「ウチのパパや」
ボン「え、お父さん!?」
花「オトンちゃうわ。パパや」
ボン「え? お父さんじゃないけど、パパって事? ん?」
花「まぁ、ウチにお小遣いくれる人……」
足を止める花。
ボン「? 花さん? どうかした?」
花「あぁ、うん。……何や、ちょっと嫌な予感がしてな」
ボン「嫌な予感?」
花「……なぁ、ボン。一つ、頼まれてくれるか?」
ボン「もちろん。花さんのためやったら、喜んでや」
○高級マンション・外観
インターホンの音。
○同・エントランス
インターホンの前に立つボン。
パパの声「君、誰や?」
ボン「えっと……『花さんいう人から手紙を預かってる』って言えば伝わるって聞いてるんですけど」
パパの声「何やて?」
パパの背後で物音。
舎弟の声「おい、ガキ。今行くから、そこ動くんやないで!」
○同・前
ボンの元にやってくるパパ(50)と知らん男と舎弟。ボンの手には手紙。
ボン「えっと……誰が、花さんのパパさんなんでっか?」
パパ「ワシや」
と言って手を伸ばすパパ。ボンもパパに手紙を渡そうとするが、横からそれを奪うように手にする知らん男と舎弟。
舎弟「(手紙を読みながら手を震わせ)くそっ、こん男の所に来る思うとったのに、あのアマ……」
知らん男「おい、ボン。今花はどこや?」
ボン「いや……し、知らんわ」
知らん男「ほなこの手紙、どこで預かった?」
ボン「駅の近くや。大阪駅の」
舎弟「兄さん、まだ間に合いますよ。急ぎましょ」
知らん男「あぁ」
手紙を放り投げ、駆け出す舎弟と知らん男。しかし知らん男は数歩してから立ち止まる。
舎弟「? 兄さん?」
知らん男「何チンタラしとんねん。さっさと車回してこんかい!」
舎弟「は、はい。すんません」
立ち去る舎弟。近くの自動販売機でオレンジジュースを買う知らん男。それをボンに放って寄越す。
ボン「え?」
知らん男「手間賃や。貰っとき」
立ち去る知らん男。
振り返ると、パパが手紙を拾い上げ、愛おしそうに黙読している。その目には涙。
パパ「花……」
一礼し、知らん男達と反対側に歩いていくボン。隠れていた花と合流する。
花「やっぱり、待ち伏せされとったか。ありがとな、ボン」
ボン「ねぇ、花さん」
花「ん?」
パパを見つめるボン。
ボン「あの男の人、花さんの事好きやったんか?」
花「そら、そうやろな」
ボン「……そっか」
花「さて、これからどないするかな? パパにお小遣い貰うて、安全な場所に逃げるつもりやったんやけど」
ボン「大丈夫。花さんの事は俺が守る。安心しぃ」
花「……大分上手なってきたな」
ボン「ほんまに? やった!」
花「……なぁ、ボン。ほんまにウチの事、守ってくれるんか?」
ボン「もちろんや」
花「前に言うてたよな? 『ウチのためなら、何でもする』て」
ボン「うん、言うた。何でもしたる」
花「ほなコレが、最後の大頼みや」
ボンに耳打ちする花。
ボン「え!?」
○繁華街
ボンを連れて歩く花。その姿に気付く警官B、C。花に近づく。
警官B「すんません。二人は、親子? それとも兄弟?」
花「……」
ボンを置いて駆け出す花。
警官B「待て!」
花を取り押さえる警官Bとボンを保護する警官C。
花「ちょっ、痛いわ。離せや!」
警官B「残念やったな。さっき通報があったんや。『この辺りに小学生を連れまわしとる女が居る』いうてな」
警官C「(ボンに)昨日、夜行列車から連れ出された子で、間違いないな?」
花に目をやるボン。小さく頷く花。
ボン「(頷き返し)うん」
ボンの声「警察に捕まる?」
○(回想)市街地
並んで歩くボンと花。
花「刑務所やったら、アイツらも手出し出来へんやろ? つまり、警察に捕まるんが、世界で一番安全いう事や」
ボン「だとして、一体何の罪で捕まるつもりなん?」
花「誘拐や」
ボン「……え?」
花「小学生を親の許可なく、勝手に家に泊めて連れまわしとるんや。当然やろ?」
ボン「そんな……親は関係あらへん。俺は、俺の意思でここに……」
花「ボン。法律いうんは、そういうもんや」
ボン「そんな……」
花「さっきもう通報はした。あとは警察の前歩いとったら終いや」
ボン「……」
花「せやからボンには、ちゃんと被害者のフリをしてもらわな……」
ボン「嫌や」
花「ボン……」
ボン「花さんを悪者扱いやなんて、絶対嫌や。悪いのはあの男達なんやろ? せやったら……」
ボンの口を塞ぐように抱きしめる花。
花「もう、えぇ。何も言わんで、えぇ。そっから先は、ウチとボンだけの秘密や」
ボン「でも……」
花「未成年者誘拐は、懲役七年くらいなんやて。せやから、出てきた頃には、ボンはちょうど二十歳くらいやろ?」
○繁華街
パトカーに連行される花を、警官Cの傍らで見送るボン。
花の声「そん時は、一緒にお酒飲もな」
ボン「ふざけんなや!」
立ち止まる花。
ボン「自分勝手な事しよって、自己完結して、俺の事何や思てんねん!」
目に涙を浮かべるボン。
ボン「絶対許さへんからな! 覚えときや、この誘拐犯が!」
花「……下手くそ」
パトカーに乗り込む花。
走り去るパトカーを見送るボン。
(完)
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