<登場人物>
二階 知佳(29)探偵
真下 英雄(33)調査対象者
向井 音(15)真下の隣人、中学生
向井 奏(9)同、小学生
向井 小百合(40)同、音と奏の母
市丸 豪(37)探偵、知佳の部下
<本編>
○アパート・外
二階建てのアパート。
物陰に隠れ、張り込みをする二階知佳(29)。
知佳M「私の名前は二階知佳。探偵だ」
部屋から出てくる真下英雄(33)。
知佳M「現在の調査対象者は真下英雄、三三歳、独身……」
知佳「ん?」
真下に続いて出てくる向井奏(9)。
知佳M「……のはずだ」
知佳「まさか……娘?」
○走る車
真下の車と、その後ろに付く知佳の車。
○真下の車・中
運転する真下と後部座席に座る奏。窓を開け、外の景色に目を輝かせる奏。
奏「うわ~、凄いのです。景色が流れていくのです。風を感じるのです」
真下「そんなに楽しい?」
奏「はい、楽しいのです」
真下「ならいいけど」
奏「奏、バス以外の車に乗った事がほとんどないのです」
真下「……そっか」
○知佳の車・中
運転しながら、イヤホンから流れる音声に耳を傾ける知佳。
奏の声「あ、奏、遊園地の前に行きたい所があるのです」
真下の声「え、そうなの? じゃあ……行く?」
奏の声「はい、行くのです」
知佳「……どういう関係?」
○パンケーキ屋・中
向かい合って座る真下と奏。真下のスマホでパンケーキの写真を撮る奏。
奏「とても映えるのです」
真下「あ、そ」
奏「この写真、あとでお姉ちゃんに送ってあげてほしいのです」
真下「いや、連絡先知らないから」
奏「交換すればいいのです」
真下「そんな事したら、またぶっ飛ばされるわ」
奏「? 何の話なのですか?」
真下「何でもない。じゃあ、食べよっか」
その様子を、隣の席から覗き見る知佳。
○アパート・前
ゴミ出しをする真下。そこにやってくる登校姿の向井音(15)と奏。
音「あ、真下さん」
奏「おはようなのです」
真下「おはよう。家の鍵、ちゃんと持ったか?」
奏「もちろんなのです」
それぞれ、鍵を二本ずつ取り出して見せる音と奏。
音「ウチの鍵も、真下さん家の鍵も、両方ちゃんと持ってるから」
真下「……何で合鍵増えてんの?」
音「それより、真下さん。(小声で)昨日、奏と遊園地で何したの?」
真下「何って?」
音「奏に何聞いても『内緒』の一点張りでさ」
真下「え?」
奏「大丈夫なのです。奏、口は堅いのです」
真下「いやいや、そんな言えない事何もしてないから。誤解を生むような事言わないでよ」
奏「では行ってくるのです。英雄君」
と言って立ち去る奏。
音「『英雄君』?」
真下「いや、知らない知らない。今初めて呼ばれたから」
音「うっわ~……」
軽蔑の眼差し(冗談半分)を送りながら歩き出す音。
真下「いや、だから本当に何もないから。ったく、ウソだろ……魔性の女だな。勘弁しろし」
その後ろをさりげなく、聞き耳を立てながら通り抜ける知佳。
知佳「二人目……」
○同・外観(夜)
○同・真下の部屋(夜)
座卓を囲む真下と向井小百合(40)。小百合は少し酒が入っている様子。
小百合「すみません、お礼が遅くなりまして。奏ったら『内緒』の一点張りなので」
真下「それはいいんですが……合鍵が増えてる件は、お母さんも一枚噛んでますよね?」
小百合「てへっ」
真下「いや『てへっ』って」
小百合「よくわかりましたね」
真下「ああいうのは身分証必要ですからね」
小百合「もちろん、ご迷惑なら今すぐお返ししますので……」
真下「……まぁ、音ちゃんも奏ちゃんもいい子ですし、最悪、ウチは(仕事部屋を指し)こっちも鍵かけられるんで」
小百合「OKって事でいいのですよね? 良かった~。……でも、一つ聞いていいですか?」
真下「何でしょう?」
小百合「何で音と奏は『ちゃん』付けで、私は『お母さん』なのですか?」
真下「はい?」
小百合「私の事も『小百合ちゃん』って呼んでくれていいのですよ?」
真下「……酔ってます?」
小百合「(座卓の上のボトルチョコを手に)ちょこ~っとだけ、なのですよ」
真下「……はいはい」
○同・外(夜)
物陰に隠れ、イヤホンから流れる音声に耳を傾ける知佳。。
真下の声「じゃあ、そろそろおうち帰りましょうね、小百合ちゃん」
小百合の声「あらやだ。じゃあ、そうする~」
知佳「あの女性の連れ子? いや、でも何か引っかかるな……」
○同・外観
○同・真下の部屋・仕事部屋
マスクを着用し、おでこに冷えピタを貼っている真下。手には体温計。
真下「(体温計を見て)勘弁しろし……」
ドアをノックする音。
開けると、そこに立つ小百合。
小百合「お加減、いかがですか?」
真下「まぁ、昨日よりは大分」
小百合「一応、おかゆと、切ったリンゴ、テーブルに置いておきましたので」
真下「申し訳ないです」
小百合「いえいえ、こういう時はお互い様ですから。じゃあ、私は仕事に行ってきますので」
真下「はい、行ってらっしゃい」
ドアを閉め、鍵をかける真下。
ベッドに横になろうとすると、再びノックする音。ため息交じりにドアを開けると、そこに立つ、ガスマスク着用姿の奏。
真下「(奏の姿を見て)うわっ、ビックリした。どうしたの、奏ちゃん?」
奏「心配だから様子を見に来たのです」
真下「じゃなくて、その恰好」
奏「風邪はうつされたくないのです」
真下「そこまでするかね? っていうか、何でそんなん持ってんの?」
奏「元気そうで安心したのです。では、行ってくるのです」
真下「はい、行ってらっしゃい」
ドアを閉め、鍵をかける真下。
ベッドに横になった所で、再びノックする音。
真下「(ため息をつき)もう」
ドアを開けると、そこに立つ音。
音「ちゃんと安静にしてる?」
真下「しようとしてた所を、たたき起こされたんだけどね」
音「それは申し訳。じゃあ、行ってきます」
真下「はいはい、行ってらっしゃい」
ドアを閉め、鍵をかける真下。
音の声「あ、リンゴごちそうさま」
真下「おいコラ。……まったく、もう」
ベッドに横になり、氷嚢を頭に乗せた所で、インターホンが鳴る。
真下「あ~、もう! 今度は誰!」
○同・二階通路
部屋から出てくる真下。宅配業者に扮した知佳が立っている。
知佳「あの、お隣さんにお荷物で……」
真下「あ~、ハイハイ」
一度部屋に戻り、鍵を持って出てくる真下。隣の家に向かいカギを開ける真下。そこには「向井」の表札の下に「宅配業者の方へ 不在時は202の真下さんの家をお訪ねください」と書かれたメモ。
向井家に入り、向井の印鑑を押して荷物を受け取る真下。
真下「じゃあ、コレで。ご苦労様です」
知佳「あの、失礼ですけど、どういうご関係で?」
真下「あぁ。ただの、お隣さんですよ」
知佳の声「という事だそうです」
○雑居ビル・外観
「新居探偵事務所」の看板。
知佳の声「まぁ、あとは裏付けだけしてくれればいいですから」
○同・新居探偵事務所
向かい合って座る知佳と市丸豪(37)。
知佳「それくらいなら、大丈夫ですよね?」
市丸「それはもう。今度こそ、任せて下さい」
知佳「(小声で)……嫌な予感がするな」
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