<登場人物>
一休(7)/小松一久(17) 僧侶/高校生
蜷川新右衛門(27) 侍
桔梗屋利兵衛(46)
外観和尚(50)
<本編>
○スキー場
「進入禁止」と書かれた看板。その先に続く足跡。
小松M「俺の名前は、小松一久」
× × ×
急な傾斜をスノーボードで滑り降りる小松一久(17)ら四人組の男女。
小松「ひゃっほ~い」
小松M「バンド仲間とスノボに行った俺は、少しはしゃぎすぎて……」
バランスを崩し、木に激突する小松。
小松「うわああ!?」
ブラックアウト。
○安国寺・外観
りんや木魚の音。
小松M「気が付いたら……」
○同・本堂
ドラムセットのように配置されたりんや木魚をドラムのように叩く一休(7)。
小松M「一休さんに転生していた」
最後にりんをシンバルのように叩く一休。ため息。
○メインタイトル『一休さんに転生した俺は、少し焦った方がいいのだろうか?』
○安国寺・入口
柱の陰に隠れ、中を覗き見る蜷川新右衛門(27)。ただし、この時点ではまだ顔はわからない。蜷川の視線の先、池の脇で掃き掃除をする一休の姿。
○同・庭
池の脇で掃き掃除をする一休。
一休「異世界転生って、アニメじゃねぇんだから。っていうか、だとしたら普通『勇者に転生して魔王と戦う』とか、そういうファンタジー系が相場だろ」
池を覗き見る一休。水面に映る自身の姿(特に髪型)を恨めしそうに見つめる。
一休「何だよ『一休さん』って。何で仏教系アニメなんだよ。世代でもねぇのに。……まぁ、いいや」
箒を置き、寝転がる一休。
一休「一休み、一休み」
近くの木に吊るされたてるてる坊主が一休に視線を向ける。
一休「(視線に気づき)……何見てんだよ」
目を背けるてるてる坊主。
一休「さて、これからどうすっかな……」
和尚の声「一休や。どこの居るんじゃ」
一休「やべっ」
立ち上がり、掃除を再開する一休。そこにやってくる外観和尚(50)。
和尚「これ、一休。そんな所に居ったのか」
一休「当たり前じゃないっスか。ちゃんと掃除してますよ。サボったりしないで」
白い目で一休を見るてるてる坊主。
和尚「何を一人で言っておる? それより、そろそろ、時間じゃろ?」
一休「時間?」
和尚「桔梗屋さんの所に行くんじゃろ? さっさと支度をせんか」
一休「あ~、そうでしたそうでした。行きます行きます。……ききょうや?」
何か心配そうな表情を浮かべるてるてる坊主。
○同・入口
笠をかぶる等、外出時の服装に着替えた一休が出てくる。
一休「桔梗屋、ねぇ……。行きゃわかんのかな? あ~、スマホ無ぇとマジ不便」
と言いながら歩いていく一休。
その背中を見送り、柱の陰から姿を見せる蜷川。
蜷川「動き出したな、一休」
一休を尾行し始める蜷川。
○町
一人歩く一休。
一休「どうやったら元の世界に戻れんのかな? 本編観りゃ、何かわかったり……YouTubeに動画転がってねぇかな? ……って、今スマホ無ぇんだよ」
距離を取って一休を尾行する蜷川。
一休「せめて登場キャラだけでもわかりゃいいんだけどな~。Wikipediaでも見て……って、だから今スマホ無ぇんだよ!」
○桔梗屋・前
歩いてくる一休。
一休「桔梗屋、桔梗屋……」
利兵衛の声「一休さん」
一休「え?」
顔を上げる一休。進行方向の先、水路脇に立つ大きな店、桔梗屋がある(水路にかかる橋を渡らないと店にはたどり着けない)。店の前には桔梗屋利兵衛(46)が立っている。
一休「(看板の文字が左→右で書かれているため)『屋梗桔』……? ダメだ、読めねぇ」
利兵衛「(一休を見つけ)お待ちしておりましたぞ、一休さん」
一休「えっと……桔梗屋さん? 今日は一体どういう……」
利兵衛「あ~、止まって止まって」
一休「はい?」
利兵衛「よく読んでください」
得意げに指さす利兵衛。利兵衛の指す先、橋の手前(一休側)には看板があり「このはし渡るべからず」と書かれている。
一休「『このはし渡るべからず』?」
利兵衛「この橋は渡ってはいけませんよ」
一休「(周囲を見回し)他の橋は?」
利兵衛「この近くに、他の橋もありません」
一休「は?」
利兵衛「さぁ、どうします? 一休さん」
と言い意地悪な笑みを浮かべる利兵衛。
一休M「ウゼぇ、ダリぃ。バックレようかな」
背を向ける一休。
一休M「いや、待てよ……」
再び振り返り看板を見やる一休。
一休M「『このはし渡るべからず』……つまり『進入禁止』みてぇなもんだよな」
○(フラッシュ)スキー場
「進入禁止」と書かれた看板。
一休M「あの時と一緒」
× × ×
木に激突する小松。
一休M「って事は、同じ事をすれば……?」
○(イメージ)桔梗屋・前
橋に向かって駆け出す一休。
一休「うおおお!」
橋の底が抜け、真っ逆さまに落ちていく一休。
一休「うわああ!?」
ブラックアウト。
○(イメージ)病院
ベッドで目を覚ます小松。
小松「ん……」
周囲にいる小松の仲間たち。小松が目を覚ましたことに気付き、駆け寄る。
小松「帰ってきたぜ、みんな~!」
○桔梗屋・前
橋の前に立つ一休。太ももをドラムのように叩きながら思案中。周囲には一休のとんちみたさに人が集まり始めている。その中に蜷川の姿。
一休M「うん、あるある。全然あるぞ」
シンバルのように太ももを強く叩き、にやりと笑う一休。それを見守る利兵衛や周囲の人々。人々からは期待の声。
利兵衛「む?」
一休「よっしゃ。行ってやらぁ」
堂々と橋の真ん中を渡っていく一休。
一休M「来い、来い、来い……」
無事に渡り終え、利兵衛の前にやってくる一休。
一休「……あれ?」
橋の中央に戻り、足で橋を叩く一休。びくともしない橋。
一休「お~い、お~い」
利兵衛「どういう事ですか、一休さん。『このはし渡るべからず』と書いてあったじゃないですか?」
一休「いや、それは……あれ、話が違ぇぞ?」
利兵衛「話が違うのはコッチのセリフですよ。何のとんちもなく渡るなんて、そりゃないですよ、一休さん」
周囲の人からも不穏な目。
一休「とんち?」
蜷川の声「な、なんと。そういう事か!」
看板の前に立つ蜷川。
蜷川「この『はし』渡るべからず。つまり、一休さんは橋の『端』ではなく、中央を歩いたから問題ない、という答えなんですね!?」
周囲の人たちから納得の声。
利兵衛「な、なんと……」
一休「あ~……うん、そうなんですよ」
利兵衛「うぅ……またしても一休さんにしてやられてしまったわい」
拍手を送られる一休。ふと気づいて周囲を見回すと、蜷川の姿はもう無い。
一休の声「あの人、何者だったんだ……?」
○町
何かを探すように歩く三〇世紀の警察官のような男達。物陰に隠れ、その様子を見やる蜷川。
蜷川「……勘づかれたか。時間がないな」
男達に見つからないよう、その場を立ち去る蜷川。
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