逃亡者~関ケ原から生き延びた武将・宇喜多秀家~ 歴史・時代

天下分け目の関ケ原の戦いに西軍として参加した宇喜多秀家。しかし小早川秀秋の裏切りに寄り西軍は総崩れ。一旦、自決を図ろうとした秀家だったが、落ち武者として生き延びるようと決意する。
大川晃弘 31 0 0 08/02
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第一稿

※登場人物
 宇喜多秀家(28) 武将
 明石全澄(31) 宇喜多の家臣
 矢野五右衛門(47) 地侍
 百姓
 落ち武者

〇南天満山・山中
  T『慶長5年(西 ...続きを読む
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※登場人物
 宇喜多秀家(28) 武将
 明石全澄(31) 宇喜多の家臣
 矢野五右衛門(47) 地侍
 百姓
 落ち武者

〇南天満山・山中
  T『慶長5年(西暦1600年)9月15日南天満山』
  鎧甲冑姿の使者、怪我を負いながら必死に走っている。

〇同・山頂・宇喜多秀家の陣
  T『西軍 宇喜多秀家の陣』                    
  陣幕が四方に張られ、その中心に鎧甲冑姿の宇喜多秀家(28)、床几に座っている。その周
  りに明石全澄(31)はじめ数人の家臣たち。そこへ使者が飛び込んでくる。
使者「申し上げます!先ほど小早川秀秋様の軍勢1万5000が、大谷吉継様の陣を襲撃!寝返
 った模様です!」
宇喜多「(立ち上がり)何!秀秋が!」

〇関ケ原・合戦図
ナレーション「慶長5年、徳川家康率いる東軍と石田三成、宇喜多秀秋ら率いる西軍が激突した
 関ケ原の戦い。一進一退の攻防を繰り広げていたが、小早川秀秋が突如寝返ったことにより西
 軍は壊滅状態となった」

〇南天満山・山頂・宇喜多秀家の陣
  宇喜多、腰の脇差を抜き出し、
宇喜多「おのれ!秀秋め!何故じゃ!」
  飛び出そうとする宇喜多。明石ら家臣、宇喜多の体を押さえる。
明石「殿!何をなさるおつもりですか!」
宇喜多「放せ!裏切者と刺し違えてやる!」
明石「お止め下さい!ここは逃げましょう!」
宇喜多「何!貴様、逃げ落ちて生き恥をさらせと申すか!」
明石「殿にはお家再興のお役目がございます。郷里に残してきた奥方様、そして死んでいった者
 たちのためにも逃げ延び、その機を待つのです!」
  宇喜多、脇差を捨て崩れ落ちる。

〇関ケ原・合戦場
  T『関ケ原』
  人の身長ほどもあるススキが生い茂る。
  そこら中に累々と横たわる足軽の屍。
  宇喜多と明石ら数名の家臣、周囲を警戒しながら歩を進める。
明石「すぐに落ち武者狩りがやってきます。一刻も早くここを脱しましょう」
  宇喜多、キョロキョロしながら怯えている。そして数メートル先の揺れているススキに気が
  つき、
宇喜多「明石、あそこに敵が潜んでおる!」
  歩を止める一行。
明石「それがしが見て参ります」
  明石、身を屈めながら前進する。
  揺れていたススキの所を確認すると宇喜多らの元へ戻ってくる。
明石「何もおりません。ただ風で揺れていただけでございます」
宇喜多「そ、そうか…」

〇伊吹山・山道
  T『伊吹山 9月17日』
  ざんばら髪でボロボロの甲冑姿の武士、逃げている。それを追う長槍や刀を持ち武装した百
  姓たち。武士、転倒する。あっという間に百姓たちに囲まれ袋叩きにされる。
百姓「この野郎!よくもおら達の田畑を荒らしやがったな!」
矢野の声「(叫ぶ)止め!」
  百姓たち、振り返る。
  長槍を持った矢野五右衛門(47)、武士の前に立ちはだかる。
武士「どうか…お命ばかりはお助けを…」
矢野「ここで我々が見逃したとて、落ち武者狩り一行は後から迫ってくる。逃げ延びるのは苦難
 の道であるぞ。であればいっそ死して楽になれ」
  その言葉に震え上がる武士。
  矢野、長槍を構える。
矢野「案ずるな、苦しまぬようにしてやる」
  矢野、長槍で武士の左胸をひと突きに刺す。武士、苦しむ間もなく絶命する。
  百姓たち、屍となった武士に群がり身ぐるみ一切を剥がす。

〇同・山道
  宇喜多、山道脇の切り株に座り休んでいる。明石ら家臣たちも座り込み憔悴している様子。
  宇喜多、汚れた顔を拭き烏帽子を頭に被る。明石、その様子を見て
明石「かような時であっても身だしなみを整えられるとは。殿らしゅうございますな」
宇喜多「たとえ今は落ち武者の身であっても、余は宇喜多家の当主。その誇りを忘れてはならん
 と思うてな」
家臣「殿、気配が!」
宇喜多「!」
  すると物陰から武装した落ち武者狩り一行が飛び出し宇喜多一行を取り囲む。
  明石ら家臣たち、宇喜多の前に立ち武器を構える。睨み合う両者。だが落ち武者狩り一行の
  方が人数が上回る。
  そこへ矢野がやってきて、
矢野「わしはここ白樫村一帯を納める地侍・矢野五右衛門と申す者、先の関ケ原で敗れた西軍の
 残党狩りをしておる。高貴な方とお見受けするが、もはや逃げられますまい。さあ、お覚悟
 を!」
  睨み合う落ち武者狩り一行と宇喜多の家臣たち。
宇喜多「いかにも!余は西軍の副大将・宇喜多秀家である」
矢野「何と!」
宇喜多「すまぬが家臣たちに水を分けてもらえぬか?さすれば大人しく徳川方に余の首を差し出
 そう」
明石「殿!」
宇喜多「明石、もはやこれまでじゃ。矢野殿、欲を言えば乾飯など頂きたいが、それはちと贅沢
 かの?ハハハ」
  宇喜多、豪快に笑う。
  その態度にあっけにとられる矢野。
  すると宇喜多、突然土下座をする。
宇喜多「頼む。余の首の代わりに家臣たちの命は助けてくれ」
明石「殿!」
  明石ら家臣たち、泣き崩れる。
  矢野、宇喜多の態度を見て
矢野「この者たちを屋敷に連れてまいる」
宇喜多「!」

〇同・洞窟前・(夜)
  月夜の明かりに風で僅かに揺れている
  ススキが照らされている。

〇同・洞窟内(夜)
  T『矢野邸・裏山の洞窟 9月21日』
  宇喜多、敷かれた筵に座り、ボンヤリと月を眺めている。
  そこへ矢野がやってくる。
矢野「まだ起きていらっしゃいましたか?」
宇喜多「月夜が綺麗でな。歌を詠んでおった」
矢野「ほう、ぜひお聞かせ願えますかな?」
宇喜多「山の端の月の昔に変わらねど、我が身のほどは面影もなし」
矢野「お見事でございます」
宇喜多「そなたがここへ匿ってくれたおかげで、秋の夜長に月を愛で、歌を詠むほど心の安泰を
 取り戻すことが出来た」
矢野「それはいかがでございましょう?」
宇喜多「ん?」
矢野「恐れながら歌を詠むことで、心の安泰を保とうとなされているのでは?」
宇喜多「そなたには叶わんな」
矢野「よろしければ宇喜多様のお心をお聞かせ願えませんか?」
宇喜多「余は太閤殿下のご寵愛を受けて育ったが故、人を疑うということを知らぬでな。関ケ原
 での秀秋の裏切りが解せず、怒りに我を忘れ死を決意した。そこに恐れなどなかった」
  宇喜多、外に目を向ける。
  ススキが月明りに照らされ、かすかに風で揺れている。
宇喜多「だが家臣の者に説得され、生き延びようと決心した途端、恐怖に襲われた。あそこで揺
 れているススキに敵が潜んでいるのではと、未だ震えが止まらぬ」
矢野「命乞いをすることもなく御身を名乗られた宇喜多様、実に清々としておられました」
宇喜多「死など恐れなかった。むしろ敗残者として生き永らえることの方が怖い」
矢野「私があなた様を匿おうと思ったのは、命を惜しまぬ潔さからでございます。その高貴なお
 姿からきっと背負われている物の多きお方、危険を犯しても匿い生かしておくべきと決心致し
 ました。」
宇喜多「そなたのおかげで生きる覚悟が出来た。さよう、余はお家再興という役目を背負ってい
 る。余のために死んでいった者、郷里に残した妻子、その者たちのために生き延びようぞ!」
矢野「そのお心しかとお受け止め致しました。この矢野五右衛門、命に代えてもお助け致しま
 す」
宇喜多「かたじけない、このご恩は一生忘れぬ」
  すると強い風が吹き外のススキが激しく揺れる。
  宇喜多、一瞬ビクッとするが
宇喜多「ただの風じゃ」
  宇喜多と矢野、笑い合う。

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