シーン1 白石クリーニングの潮時
昔ながらの小さなクリーニング店。上手に入口と受付カウンターがある。カウンターの前にはスプリングワゴンや引取用のハンガーラック。
正面奥には突っ張り棒にかかったクリーニング済の服が並んでいる。下手はしみ抜き等の作業場で暖簾で仕切られている。下手手前には作業台がある。
足に包帯を巻いた一三、太陽の肩を借りながら上手より登場。太陽はオタクのニート風である。
太陽 じいちゃん、鍵
一三、ポケットから小銭入れを出して太陽に渡す。
太陽、小銭入れから鍵を出しドアを開け中に入っていく。
一三、椅子に座る。太陽、入り口のカーテンを開け、郵便物を回収してくる。
太陽 転居先不明で結構戻ってきてるよ。
と、郵便物を一三に渡す。
一三 困ったなぁ。
太陽 廃業のお知らせでしょ? 店舗移転の通知じゃないんだから、届かなくても問題ないんじゃないの?
一三 長いこと預かったままの商品があるんだよ。
太陽 廃業と同時に捨てちゃえば?
一三 そうはいかんよ。大事な預かり物なんだから。
太陽 大事なんだったらすぐとりに来るでしょ、いらないんだよ、きっと。
一三 持ち主のところに返したいんだ。人それぞれ事情があって取りに来れんのかもしれんだろ。
太陽 そんなの付き合ってたらキリがないよ。こんなに沢山あるんだから。
日傘をさし買い物かごをぶら下げたスネ子が通りかかり、店に入っていく。
スネ子 あら、お店開いてたのね。よかった。足、どうしちゃったの?
一三 ちょっとふらっとして階段を踏み外してしまって、やっぱり年ですなぁ。
スネ子 気をつけてくださいよ! 早速だけど、お店開けたんなら、お願いしたものがあるんだけど、いいかしら?
一三 いいですよ。
太陽 じいちゃん、店、閉めるんだよね?
スネ子 じいちゃんって、あなたもしかして、利恵ちゃんの?
一三 はい。孫の太陽です。
スネ子 すっかり大きくなって! いくつになったの?
太陽 二十五です。
スネ子 早いわねぇ~。利恵ちゃんが生きてる頃は一緒に来て遊んでたのに、亡くなってからは来なくなったものね。
一三 太陽、挨拶して!
太陽、頭を下げる。
一三 すみません、愛想もくそもないもんで……。退院の手続きで来てもらったついでに送ってもらったんです。
スネ子 せっかくだから足が治る間だけでもいてもらえば?
一三 はぁ~。
スネ子 あ! まさか閉店は、この土地売るためじゃないんでしょうね? 孫のためにお金をって!
一三 そうじゃないんですよ。もう私もこの通り年を取ってしまったんでね。そろそろ潮時ですわ。
スネ子 引退だなんて足が治ればまだまだ仕事出来るでしょ?
一三 このご時世ですからね。個人のクリーニング屋なんてダメですよ。値段も宣伝も大手にはかないません。
スネ子 一三さんには技術があるじゃない! 大手からも依頼されるくらいの技術が! 廃業なんてもったいないわ。
一三 ……実のところ、一人でやっていく気力がなくなってしまったんです。
スネ子 もったいないわ、本当に。(太陽に)あなた今、何してるの?
太陽 今は……。
スネ子 時間があれば廃業する前に見せてもらいなさいな、一三さんの仕事を
太陽 継ぐ気はありませんから。
スネ子 どんだけおじいちゃんがすごい人かわかるってことよ。ここはただのクリーニング屋じゃないの。一三さんはしみ抜きにかけちゃ右に出る人いないのよ。頼って来る人はいくらでもいるんだから。
太陽 ……はぁ。
スネ子 余計なお世話だったわね。一三さん、辞める前にしみ抜き、本当にいい?
一三 もちろんです。孫の言ったことは気にしないで下さい。
スネ子 足がよくなってからでいいから。
一三 はい。
太陽 そんなの引き受けたらいつまでたっても辞められないんじゃないの?
一三 いいんだよ。
太陽 だったら廃業するなんて言わなきゃいいのに。言ってることとやってることが違うよ。
一三 違わないよ、廃業はする。ただその前にやらなきゃいけないことがあるだけなんだ。
太陽 だったらちゃんと期日を決めなきゃ
スネ子 ここはじいちゃんの店なのよ。あなたがとやかく言うことじゃないでしょ! 期日ならちゃんと手紙にも表にも『近日閉店』と書いてるわ。
一三 すみません、みっともないところを見せて……。そうだ、スネ子さんに、相談があるんですがね。
と、あて先不明の郵便物をスネ子に見せる。
スネ子 この人たちの住所を知りたいってことね。
一三 はい。お預かりしたままの商品があるお客様なんです。
スネ子、郵便物の名前を見る。
スネ子 小島豊子ちゃん……ああ、隣に住んでたぽっちゃり顔の!
一三 はい。
スネ子 あの人は転勤で札幌行っちゃったのよ……確か、住所移転のはがきがあったはず。上野はとこ‥‥ああ、この子は家の店子だった子ね。
一三 そう、美人のはとこちゃん。
スネ子 女優を目指してたけど結局オーデションも全然受からなくって花開かずで。そんなこんなしてるうちに、お母さんの介護が必要になっちゃって実家に帰ったのよ。
一三 そうでしたか。
スネ子 富川正雄! こいつ、クリーニング出すものがよくあったわねぇ。
太陽、スネ子をにらむ。
一三 住所わかりますか?
スネ子 住所は変わらないと思うわ。でも、この頃見かけないわね。
一三 そうなんですよ。
スネ子 あとは……鈴木美穂……鈴木美穂……誰だっけ?
一三 それが私も思い出せなくって……。
スネ子 (郵便物を繰って)佐伯千秋、楠本良治……田中真紀子、合田鉄平……この辺はわかるわ。
一三 助かります。
スネ子 郵便局に転居届くらい出していけば転送されるのに、ほんとにこの頃の人は気が利かないわよね。
太陽 転居届は半年しかやってくれませんから。
スネ子 あっそ! それじゃぁ後でね。
一三 ありがとうございました。
スネ子、店を出てハケル。
太陽 ペラペラしゃべって、どんだけ人のプライバシーを侵害してるんだつうの! 大丈夫なの? あのおばさん。
一三 この商店街の主だったんだ。長年、ブティックをやっていたんだけどこの頃店終いしてね。おせっかいなところもあるけど、面倒見のいい人なんだよ。
太陽 でも住所を教えてもらうなんていいのかなぁ。それって個人情報でしょ。
一三 個人情報の前に家の顧客情報だよ。
太陽 そこまでする必要あるの? とっとと処分しちゃえばいいのに。
一三 お客様からの預かり品だから勝手に処分はできないんだ。法律で決まっとる。
太陽、ラックの前に行きぶら下がってる服を見る。
太陽 そんな法律……ばかばかしい。全員探してたらいつまでたっても廃業できないじゃないの。
一三 気持ちなんだよ。捨てるのは私が嫌なんだ。太陽、よかったら手伝ってくれないか?
太陽 無理!
一三 そうか……。
太陽 無駄なことはやりたくないんだ。そもそも取りに来るのを忘れてるってことは、いらないってことでしょ? それをわざわざ返さなくてもいいんじゃないの? 無駄だよ。
一三 無駄、か……。
こはながやってくる。
一三 いらっしゃい。
こはな おじさん、店閉めるんだって? お手紙見てびっくりしちゃった。ごめんね~。ずっと預けっぱなしで……。
一三 いいんだよ。太陽、奥にあるピンクのセーター、取ってくれるか?
と、ラックの奥を指さす。
太陽、探す。
こはな 預けた時は四月だったから、半年以上たってるよね? 私ってばすっかり忘れちゃって……
一三 こはなちゃんはいつものことだから
こはな おじさんてば!
太陽 これ?(見せる)
一三 ああ、それだ。持ってきて!
太陽、ピンクのセーターを持ってきて、一三に渡すと奥に戻り二人の様子を見る。
こはな 新しいバイトの人?
一三 孫なんだ。
こはな へぇ~。こんにちは。相田こはなです。よろしく!
太陽、聞こえないふりをして作業場の方へ行く。
一三 カレーの染みもきれいに落ちたよ。
こはな ほんとだ! きれいになってる。これで今年の冬も着ることが出来るね
一三 お婆ちゃんが編んでくれた大事なセーターだから大事にしないとね。
こはな あーあ、おじさんの店がなくなると、これから服を汚せなくなるな。
一三 ハハハ。
こはな また汚しちゃったらどうしよう? いつまで営業するんだっけ?
一三 ここに預かってるものがなくなればすぐにね。まだこんなにあるんだ。
こはな 私みたいにずぼらな人、ほかにもいるんだ!
一三 そうだよ。
こはな じゃ私、これまでずいぶん迷惑をかけたから、何かやれることがあれば手伝うわ。
一三 嬉しいねぇ~
こはな ずいぶんとお世話になったもの! それくらい当然よ。その代わり、閉店までに汚れた服、沢山持ってくるからお願いします。
一三 閉店サービスするよ!
こはな ほんと?! うれしい。
太陽 ……(小さな声で)ったく!
こはな でも、全部引き取り手が見つかれば閉店になるってことよね?
一三 そうだよ。
こはな 閉店してもらいたくないから、やっぱ引き取らないにしようかな?
一三 こはなちゃんは悪知恵が働くね。
こはな じゃ、また。
小花、去る。
一三、作業場の方へ来る。
一三 人が挨拶するのに黙って逃げるなんてダメじゃないか。こはなちゃんに悪いことしたよ。
太陽 じいちゃんは無料でクリーニングやる羽目になったじゃないか。
一三 話をすり替えるな。もともと閉店サービスするつもりだったんだよ。
太陽 今更サービスなんて必要あるの?
一三 気持ちだよ。
太陽 気持ち気持ちってね~
一三 こはなちゃんは小さい頃、母親を亡くしたんだよ。
太陽 だから?
一三 継母からも意地悪されて、誰からも箸の使い方を教えてもらわなかったから上手く食べれれないんだ。
太陽 カレーはスプーンで食べるんじゃないの?
一三 たかがシミだと思うだろうけど、いろんな人生があるってことさ。じゃ、店番、たのんだよ。私は奥で作業するから……。
太陽 店番? なんで僕が……。人と喋るの苦手なんだよ。
一三 (下手作業場の方へ歩きながら)さっき、スネ子さんに嚙みついとったくせに……。
太陽 あれはじいちゃんがいたから……。
一三、下手へハケル。
太陽、仕方なくカウンターの前の椅子に座る……が落ち着かない。
と、電話が鳴る。
太陽 じいちゃーん、電話!
太陽、なかなか取れない。
太陽 じいちゃーん、電話!
と、奥にハケル。
暗転。
シーン2 会話
仕切りののれんをしばって、入り口が見えるようにしている。
作業台のほうに電話がある。
一三、着物の色掛け作業をしている。ぼんやりと見つめる太陽。
一三 仕事は順調なのか?
太陽 ……辞めたんだ。
一三 そうか。
太陽 ……人とうまく喋れないんだ。言いたいことが言えなくて、言わなくてもいいことを言うらしい。それで首になったんだ。
一三 小さい頃から無口だったもんな。じいちゃんとは普通に話せるのに。
太陽 じいちゃんは家族だから……。
一三 スネ子さんともしゃべっただろ?
太陽 じいちゃんがいたからさ。すごく腹が立ったから、言わなくてもいいことをいったかもしれないけど……。
一三 怒りだけを口にするのはちょっといただけんな。
太陽 ……わからないんだ、その加減っていうか……。
一三 じいちゃんに似たんだな。
太陽 そうなの?
一三 私は人と喋ることが苦手だから、職人の道を選んだんだよ。もっとも、最初は着物の手描き職人だんだけど。
太陽 手描き職人?
一三 手描き友禅とか知らないか……。
太陽 (スマホに向かって)手描き友禅について教えて。
スマホの声 こちらが見つかりました。
一三 機械とはうまく喋れるんだな。
太陽、夢中で画面を見ている。
太陽 ああ、振袖とか! すごいね、じいちゃん。
一三 なれの果てがこれだがな。おかげで口下手も無くなった。
太陽 どうして治ったの?
一三 商売やってたら自然とな。婆ちゃんのお陰かもしれん。
太陽 へぇ~。
一三 今は、買い物行っても機械相手に支払えば店員とは喋らんでいいし、クリーニングだってインターネット通販で受け付ける。人と喋らんでも十分生活が出来る時代だからなぁ。
太陽 まぁね。
一三 喋る機会が減ってるから、太陽みたいに上手く喋れん人間になっても仕方がないことだよ。
太陽 そうはいっても、多くの人は普通に会話出来てるわけで……。
一三 そうでもないぞ。お客さんの中には何もしゃべらない人だっている。「お願いします」や「ありがとうございます」の一言だって言わん。
太陽 ……ほんとは、どう喋ればいいのか、何を喋ればいいのかわからないんだ。さっきの女の子だっていきなり挨拶されてびっくりして……悪かったと思ってる。
一三 慣れだよ、慣れ。毎日お客さんと接してれば喋りたくなくても会話するようになるさ。相手が誘導してくれるんだ。
太陽 誘導?
一三 漫才師じゃあるまいし、意味もなく一人でベラベラ喋ってると思ってるのか?
太陽 それは……。
一三 言葉のキャッチボールって言うだろ? 仕事していないんだったらちょうどいいじゃないか。閉店するまでここに顔出してみろ。そしたらきっとわかると思う。
太陽 出来るかな……。
一三 いるだけでいい。お前にこのクリーニング店の最後を見届けてほしいしな。……一緒にいて欲しいんだ。じいちゃんの家族はお前だけだから。
太陽 じいちゃん……。
一三 どれ、きれいになったかな? (太陽に)これをそのハンガーにかけてくれるか?
太陽 あ、うん。
と、着物をハンガーにかける。
一三 さてと、次は発送業務だ。手伝ってくれるか?
太陽 うん。
一三 そのダンボールをもってきてくれ。
と、入り口のほうへ向かう。
太陽、ついていく。
一三、書類を持って作業台の前に座る。太陽、作業台にダンボールを置く。
一三 まずは村瀬さんから。赤いカーディガンあるだろ?
太陽、突っ張り棒にかかってる商品の中を探す。
太陽 これ?
一三 ああ。宅急便でお返しするから、梱包してくれ。丁寧にな。
太陽、衣装を入れ宅急便ラベルを貼る。
太陽 村瀬さん終了。
一三 あとで、集荷に来るから入口に置いてくれ。
太陽、入口の方へ持っていく。
一三 次は安西佳代さん……。
太陽、突っ張り棒にかかってる商品の中を探す。
一三 男物の服が十点あるはずだ。
太陽 これ?
と、商品をもってきて箱に入れる。
太陽 ずいぶん沢山あるね。
一三 亡くなったんだよ、その服を着ていた息子さん。だから今までずっと取りに来れなかったんだ。
太陽 へえ~。着る人がいない服が戻ってくるなんて、結構つらいよね。
一三 処分するも辛い、残しておくのも辛い。辛いよ、本当に。
太陽 じいちゃんも婆ちゃんの服、捨ててないよね?
一三 まあな。そういえば利恵の服はどうした?
太陽 母さんのものは引っ越すときに婆ちゃんが処分してくれた。
一三 そうか。婆ちゃんは強かったな。
太陽 うん。でも皆が皆、婆ちゃんみたいに強くないし……。
一三 なかなか決められないもんだな。いっそ誰かに決めてもらえば楽ってこともあるけど……。実のところ、安西さんから引き取りますって連絡が来てほっとしたよ。
太陽 お客様にとっては大事な思い出だもんね。
スネ子が袋を抱えてやってくる。
一三 いらっしゃいませ。
スネ子 住所、持ってきたわ。
一三 早速すみませんねえ。
スネ子 今、富川さんの娘さんに会ったのよ。洋子ちゃん、覚えてる?
一三 確か、外国に行ったって聞いてたような……。
スネ子 それがね、お父さんを病院に入れるために帰ってきたみたいなの。駅前に出来た大きな介護施設あるでしょ?
一三 ローズ・ビレッジとかいう?
スネ子 独りじゃ生活できないくらいボケちゃってたみたいなのよ。
一三 あの富川さんが?
スネ子 転んで入院してたらしいの。
一三 どおりで顔を見ないはずだ。
スネ子 それで、入院中に(頭をさし)きちゃったらしいわ。ほら、社交的じゃなかったでしょ? 口やかましくて近所の人にも嫌われてたから皆、気が付かなかったのね。
一三 (溜息)そうですか……。でも施設に入れば安心ですね。
スネ子 そう言うわけだから、クリーニング出してるものは処分していいって。
一三 処分してくれって……(太陽に)一番端のコート、持ってきてくれないか?
太陽、持ってきて、引取用のハンガーラックにかける。
太陽 これ?
スネ子 あ! 富川さんがよく着てた……刑事ドラマの主人公バリに着こなして、スーパーも図書館もこのコート姿。富川さんのトレードマークだったわよね。
一三 とても大事に使ってて季節が変わるごとにクリーニング出してたんです。
スネ子 そうだったの!
一三 ここまで颯爽と歩いてきて店の中でパッと脱いでカウンターに置いて……思い出すなぁ。
スネ子 大事にしてたんだ。
一三 お嬢さんがイタリアで買ってくれたみたいで……ほんと大事に使ってましたよ。
スネ子 あらいやだ、まだ生きてるってのに私たちったら!
一三 確かに!
スネ子 でも、その話、聞かせてあげたいわ、洋子ちゃんに。
一三 ほんとですよ。
スネ子 いろいろ聞くと、捨てるに忍びなくなるのよね。私も洋服作っていたから大切にしたい気持ちはよくわかる
太陽 キリがないよ。
スネ子 ほんとよね。でも、年を取ると思い出にすがりたくなるのよ。どんなに思い入れのあるものでも、いらないものはいらないのに……。
一三 でもクリーニング屋のものではないわけですから、勝手にはね。
太陽 ほら、また堂々巡り。それじゃ片付かないよ。処分していいと言われたものは捨てないと。いちいち感情に浸ってたってしょうがないと思う。
一三 ……
スネ子 一三さんはお客様を大事にしてきた分、愛着もあるし気になっちゃうのよね。若い子にはわからないかもしれないけど……。
太陽 わかるとかわからないとかじゃなくて……無駄でしょってことです。もし、コートの持ち主が誰かわからなかったら同じように思います?
スネ子 そうねぇ~。
太陽 じいちゃんは?
一三 誰かが使っていたのは確かなことだ
太陽 たちまちゴミ屋敷になってしまうよ
スネ子 でもどんどん捨てればいいってのは違うと思うわ。今はやりのSDGs精神に合わないし。
太陽 それは……。
スネ子 だから、そうならないように連絡とって何とかしなくちゃ。とりあえず、これ(一三に紙を渡す)わかった人の住所と電話番号!
一三 助かります。
スネ子 (太陽にむかって)あ、言っておくけど、私だって他の人にはこういうことしないわよ。信頼おける一三さんだから教えるんだからね!
太陽 はぁ
スネ子 あなた、個人情報漏洩だなんだってぎゃーぎゃー言いそうだから、一応釘をさしておかないと!
太陽 言いませんよ、ぎゃーぎゃーなんて
スネ子 一三さん、この人たちには私の方からも一言電話しておくわね
一三 何から何まですみません
スネ子 じゃ、また
スネ子、去ろうとして引き返す。
スネ子 あらいやだ、肝心なこと忘れてた。これなんだけど……落ちるかしら?すぐに出せばよかったのだけどすっかり忘れてしまってて……
と、ワンピースをカウンターに置く。
一三 ずいぶん時間が経ってるみたいだけど、やるだけやってみますね
スネ子 助かるわ。おいくら?
一三 閉店サービスです。
と、預かり証を渡す。
スネ子 だめよ! 最後だからちゃんと取ってもらわないと!
一三 いいんですよ。
スネ子 餞別よ! じゃ、また来るわ。
スネ子、去る。
一三 ありがとうございました。
太陽 なんかいちいち頭にくる。
一三 そう言いなさんな。いい人なんだから。それより上手く会話に加わってたじゃないか。
太陽 えっ?
一三 キャッチボール、してたと思うよ、うん。あれでいいんだ。
太陽 (照れて)さ、安西さんのやつ、早く詰めないとね。集荷に間に合わなくなっちゃう。
と、梱包作業の続きをやる。
一三 あ、すまんがさっき仕上げた着物、持ってきてくれるか? あ、あとこれも奥に持って行ってくれ。
と、スネ子のワンピースを渡す。
太陽 はい。
と、作業場へ行きハンガーにかけた着物をもって戻ってくる。
一三 たとう紙も持ってきてくれ。ダンボールの傍にあるはずだ
太陽 たとう紙?
太陽、スマホで検索する。
太陽 あ、なるほど。わかった。……なんだかすっかりスタッフじゃないか?
と、取りに行く。
一三 何でもかんでも調べれば出てくるなんて便利なもんだ。
一三、着物をたたむ。
一三 婆ちゃんがいればちょっちょいっとやってくれたんだがなぁ。
太陽 ……ごめん、何も出来なくて。
一三 いてくれるだけで十分さ。そうだ、さっきスネ子さんからもらった住所に手紙送ってくれるか。
太陽 わかった。メールがあればすぐなのにいちいち手紙なんて面倒くさいね。
一三 面倒面倒……、無駄の次は面倒か……。
太陽 だって……。
宅配員の瑞希が集荷にくる。
瑞希 ちわぁ~ 集荷に参りました~。
一三 ご苦労さん。
瑞希 お久しぶりです! 元気になりましたか?
一三 ああ、おかげさまで。
瑞希 一人で頑張りすぎたんですよ。あんまり無理しないようにしないと……。
一三 ありがとね。
瑞希 あれ? もしかして、……太陽?
太陽、驚く。
瑞希 私よ私! 宮下瑞希。同じ優彩団地に住んでた!
太陽 えっ? 宮下瑞希……泣き虫ミトン?
瑞希 そう! 泣き虫ミトン!
太陽 すっかり別人だよ! すっかり痩せちゃってもうミトンじゃないね。
瑞希 ふふ。
一三 知り合いかね?
瑞希 中学時代の同級生なんです。昔、同じ団地に住んでて……。
一三 ほう!
瑞希 ここでバイトしてるの?
太陽 いや……まぁ。
一三 孫なんだよ。
瑞希 ええええええ!
太陽 お母さんの実家なんだ。
瑞希 そうだったんだ! おじいちゃんの手伝いで来たの?
太陽 ……まぁね。
瑞希 (一三に)私、小さい頃いじめられっ子でいつも団地の公園でピーピー泣いてたんです。
一三 信じられんな。
瑞希 で、いつも太陽君が励ましてくれてたんです。たまには一緒に泣いてくれたこともあって。
一三 こいつが?
瑞希 はい。まさかこんなところで会うなんてビックリ!
太陽 こっちもだよ。まさかミトンがこんな仕事してるなんて……。
瑞希 こんなにスリムになったのは、この仕事のお陰なの。二十キロのダイエットにも成功したんだから!
太陽 ハードな仕事なんだね。偉いよな
瑞希 お父さんは元気?
太陽 うん、まぁ。そっちは?
瑞希 うちは高校の時に離婚した。私は今、この近所で婆ちゃんと住んでるだ。古い家だけど私の部屋もあるし平和でいいよ~
太陽 へぇ~。
瑞希 あのころは親が喧嘩ばっかりで居場所がなかったけど、今は私も仕事してるから自由にやってる。
太陽 なんかすごく生き生きしてるね。
瑞希 うん! 仕事は大変だけどあちこちお客様のところ回って、私には向いてるのかも。
太陽 こんな仕事についてるなんて意外だな。
瑞希 あ、ごめん……今仕事中だからさ、ゆっくりしてられないんだわ。
太陽 あ、そうだね。
瑞希 いつまでいるの?
太陽 ……わからない。
一三 暫くいてくれるといいんだが……。
瑞希 ほんと! じいちゃん一人で大変なんだから孝行しなさいよ! (一三に)今日の発送荷物はこれ全部ですか?
一三 うん。
瑞希 かしこまりました。
と、機械で伝票を読み取っていく。
一三はさっきの続きをするべく、着物をたたむ。
瑞希 全部で五個ですね。
と、箱を何個か持ち上げ上手にハケ、手ぶらで戻ってくる。
瑞希 これ、私の連絡先。よかったら連絡頂戴!
と、紙を太陽に渡す。
太陽 あ、うん。
瑞希 (残りの箱を持ち上げて)じゃ、お預かりします
一三 明日もまた何個か出ると思うから
瑞希 かしこまりました。ありがとうございました~
瑞希、荷物を持って出ていく。
太陽、ぼっとみる。
一三 太陽の知り合いとは驚いたよ。
太陽 彼女、昔はすごく大人しかったんだ。いっつも泣いてばかりで……。
一三 いつも元気のいい子でね、全然想像つかないね。
太陽 さっき、親が喧嘩ばっかりで居場所がなかったって言ってたよね?
一三 ああ。
太陽 皆にからかわれて、それで泣いてたと思ってたけど、ほかにも理由があったんだ……。
一三 言いたくないこともあるからな
太陽 でも、人って変わるんだね。
一三 ああ。
太陽 なんで変わることが出来たんだろう?
一三 今度聞いてみればいいじゃないか。
太陽 ……うん
一三 この着物は、早坂さんだ。
太陽 (ノートをめくり)早坂美代子さん……。
一三 そう。発送準備をしてくれるか。
太陽 うん。
と、送り状の伝票を書く。
電話が鳴る。
太陽、急いで作業台の方から電話機を持ってきて一三に渡す。
一三 もしもし、白石クリーニング店です はい……小島さん! はい……スネ子さんから……はい、そうなんです。……わざわざすみません。じゃ送らせていただきますんで……はい……どうもどうも……(電話を切る)。
太陽 お客さん?
一三 小島豊子さん、赤いコートとダウンジャケット。
太陽、奥へ探しに行く。
一三 すっかり忘れてて、引っ越してから無くしたと思ってたらしい。
太陽、持ってくる。
一三 それそれ。大事にしてたものだからって喜んでいたよ。
太陽 普通、大事なら忘れないと思うけど
一三 季節が変われば忘れるもんだよ。さて、そろそろ昼か。
太陽 何気に忙しいね。
一三 昼飯、出前でも取るか?
太陽 そこらでなんか買ってくるよ。じいちゃんは何が食べたい?
一三 なんでもいいよ。
太陽 じゃ、行ってくる。
太陽、上手にハケル。
一三は下手にハケル。
暗転。
シーン3 見えてきたもの
正面奥の突っ張り棒にかかった服は1/3に減っている。
カウンターの横にはダンボールが何個も積まれている。
一三の声 ありがとうございました。
一三、お見送りした後の様子で、上手から入って来る。
太陽、ダンボールを抱えて、カウンターの横に置く。
太陽 ずいぶん片付いたね。
一三 お前とスネ子さんのお陰さ。すっかり手伝わせてしまったな。
太陽 じいちゃんは人を使う才能があるかも。まんまと乗せられてしまったよ。
一三 バイト代はずまんとな。
太陽 いいよ。……でも、正直いって意外だった。処分してくれっていう人、もっと多いかと思ってた。
一三 服には着る人の思い出があるのさ。魂が入ってるんだよ。一度入った魂はなかなか抜けないものなんだ。だから愛着が出てくる。
太陽 服に対する愛着かぁ。
一三 見るだけでそれを着た時を思い出したり、これを着る日を夢見てワクワクしたり……たかが服一枚だけど時間を飛び越える気がするんだ。
太陽 でもそれは、いい思いとは限らないんじゃない? 愛着じゃなくて執着、はたまた怨念に代わる可能性だってあるんじゃない?
一三 人それぞれ、時間とともに思いは変わる。私もそこまで予測できんからなぁ。
太陽 あとはお客様次第か。確かに個人的な事情まではわからないもんね。
一三 あのドレスだって出しにきたときは新婚で幸せそうなお嬢さんだったんだよ。けど、すぐに離婚してな……。
太陽 そういうドレスだったら引き取る気持ちにもなれないかもね。どうするんだろ?
一三 あ! 鈴木美穂さん! 離婚したから苗字が変わってるんだ! やっと思い出した。
太陽 ねえ、いちいち探すのも面倒だし、ネットに写真をアップして引き取り手さがしてみたら?
一三 私にそんなことが出来ると思うか?
太陽 そうだよねぇ。
瑞希が配達にやってくる。
瑞希 こんにちは。お荷物でーす。
太陽 やぁ!
瑞希 がんばってる?
太陽 うん。
瑞希 これ、お届け物。まだあるんだ。
と、荷物を取りにハケル。
一三 誰からだ?
太陽 小島豊子さん、上野はとこ……まだあるみたい。
瑞希、荷物を持ってくる。
一三 今日はずいぶん荷物があるねぇ。
瑞希 お店、辞めちゃうからじゃないですか? みんな焦って出してるとか?
太陽 そんなバカな……。
一三 そう言えば、鈴木美穂って知ってる? このあたりに住んでた
瑞希 鈴木美穂?
太陽 結婚してすぐに離婚したみたい。
瑞希 それ、鳥取美穂でしょ? よく知ってるよ。高校の同級生だったから。
太陽 ウエディングドレスを預かったままなんだ。
瑞希 そう。ちょっと待って……
と、スマホで電話する。
瑞希 今、仕事中かな? あ、出た! もしもし、私。寝てた? はぁ何時だと思ってるのよ! そんなことより、あんたウエディングドレス、クリーニングに出しっぱなしでしょ?……捨てていい?……ちょっと待って、おじちゃんに代わるから(電話を一三に渡す)捨てていいって。
一三 はい。どうも白石クリーニング店です。いきなりすみません……わかりました。ではこちらで処分させていただきますね。電話、変わります
瑞希 うん……じゃまたね(電話を切る)というわけで、処分でOK!
太陽 あっさりしてるなぁ。
瑞希 なにが?
太陽 全てが。貰う? そのドレス
瑞希 まさか! 離婚したドレスなんて縁起でもない。
太陽 だよな。
瑞希 他にわからない人とかいる?
太陽 じいちゃんどう?
一三 今のところは……
瑞希 私でよければ遠慮なく言ってくださいね。今日の荷物はありますか?
太陽 これ、お願い。
瑞希 了解。あ、こっちの伝票、受取のサインしてくれる?
太陽 うん。
瑞希 一、二、三、四、五、……今日は七個ですね。
作業をして瑞希、荷物を運びだす。
太陽も手伝う。
瑞希 ありがとうございました~。
一三 よろしく。
瑞希、去る。
一三 あっさりしたもんだなぁ、今の子は
太陽 一つ片付いたからよかったじゃないの。しかしまぁこうもあっさり覆されるとはね。
一三 何がだ?
太陽 服に対する愛着心だよ。
一三 ……確かに。
太陽 ところでさっき届いた荷物はクリーニング商品だったの?
一三 みてごらん。
太陽、箱を開けてみる。
太陽 感謝状?! 手紙とお菓子が入ってるよ。
一三 小島豊子さんか。
太陽 「感謝状 白石一三様 クリーニング人生お疲れ様でした。一三様のお陰でどれだけの衣装がよみがえったことでしょう。その功績を讃え大好きだった和菓子を贈りここに深く感謝の意を表します 小島豊子」
一三 嬉しいねぇ~。
太陽 こっちは……田中真紀子さん……手紙と写真が入ってる。
一三 おお、七五三の着物、ひ孫に着せたんだ。(写真を見せて)これは息子の七五三で着た着物だったんだよ。もう五十年以上前の着物だから黄変やら焼けがすごくてね。
太陽 ん?(スマホで調べる)なるほど。経年劣化の症状ね。
一三 便利な世の中だ。
太陽 じいちゃん、みんなから愛されていたんだね。確かに大手の安いクリーニング店とは違うのかもしれない。付き合いが濃いよ。
一三 婆ちゃんが築き上げてきた人脈だよ
太陽 見直したよ、じいいちゃん。(箱を開けながら)これは水原クリーニング店って書いてあるよ。(開ける)
一三 昔からの付き合い業者だよ。廃業は伝えたのに、なんだろう?
太陽 すごい立派な花だ!
スネ子がやってくる。
一三 いらっしゃい。
スネ子 どう? はかどってる?
一三 おかげさまでずいぶん片付きました
スネ子 真紀子ちゃんから連絡なかった?
一三 はい。今日、発送予定です。
スネ子 櫻井さんも宮田さんも後で取りに行くって言ってけど。
一三 はい、すでにいらしてお持ち帰りなさいました。
スネ子 それはよかった。で、処分する商品は増えたかしら?
一三 それが、思いのほか皆さん引き取ってくださって、富川さんのコートにウエディングドレスだけなんです。
スネ子 意外と少ないわね! でも、それが本来のあるべき姿かもしれないわ。
太陽 そうですよ! 持ち主に戻るのが一番です。
スネ子 あら、ずいぶん変わったわね?
太陽 あ、……まぁ
一三 実のところ私もびっくりしました。意外とみんな喜んでくださって。
スネ子 でも、この店だからよ。客の質が違うもの!
一三 はははは。
太陽 だったらすぐに取りに来ればよかったのに、みんな矛盾してますよね。
スネ子 確かにそうだけど、人は忘れる生き物だから。いいじゃない? 結果オーライで!
太陽 まぁそうですけど。
スネ子 なんだかどんどん片付くと、店終いが早まるわね。手伝うのも善し悪しね。
一三 ありがたいことですよ。助かりました。
スネ子 よかったら、その処分品、私に頂けないかしら? リメイク教室をやってるのよ。
一三 リメイク教室ですか!
スネ子 要らなくなった服で犬の服を作ったりウエディングドレスなららミニドレスに作り替える。そんな感じ?
太陽 まさにSDGsだ!
スネ子 富川さんのことは嫌だけど、富川人形でも作ってあのコートを着せてプレゼントしようかしら。
一三 富川さん、喜びますよ、きっと!
スネ子 娘さんは嫌がるかもね。
太陽 喜ぶと思うけど……。
スネ子 そう?
太陽 そうすると、残ってるのは振袖か……
一三 あれはいいんだ。
太陽 そうなの?
一三、ふらっとしたかと思うと苦しみだし、意識を失う。
スネ子 一三さん、どうしたの?
太陽 じいちゃん! じいちゃん! しっかりして!
スネ子 救急車! 早く!
太陽 救急車、救急車……(電話をする)
暗転。
救急車の音。
シーン4 じいちゃんとの別れ
明転。
がらんとしたクリーニング店。
振袖がかけられている。
ぼうっと眺める太陽。
スネ子がやってくる。
スネ子 こんにちは。
太陽 スネ子さん……
スネ子 大変だったわね。大丈夫?
太陽 なんとか……。あ、コートとウエディングドレスですよね?
と、箱をスネ子に渡す。
スネ子 おじいちゃん、最後の時をわかっていたのね。
太陽 まさかこんなに急に逝ってしまうなんて思わなくて……。
スネ子 ほんとよ。
太陽 あ、ちょっと待ってください。
と、奥に商品を取りに行き持ってくる。
太陽 最後にお預かりした商品です。
スネ子 仕上げてくれてたんだ。
太陽 はい。
スネ子 これで終わりね。すごく寂しいわ。
太陽 自分もです。もっとじいちゃんと過ごしたかったです。
スネ子 そうね。この振袖!
太陽 お母さんのものです。じいちゃんがずっととってたみたいで……。
スネ子 おじいちゃんの手描き友禅よ。見事でしょ?
太陽 じいちゃんの作品なんだ。
スネ子 すごいアーティストよ。昔は銀座で個展やったり有名な女優さんにも着物を依頼されていたらしいわ。
太陽 知らなかった。
スネ子 なぜクリーニング屋さんになったのかはわからないけど、昔は高級なお客様も沢山ついてたのよ。
太陽 ……。
スネ子 口数は少ない人だったけど、嫌な事一つ言わず、なんでもハイハイって引き受けてくれてね。……これからあなたはどうするの?
太陽 まだ決めてなくて……。
スネ子 そう。慌てることはないわ。ゆっくり考えるといいわよ。おじいちゃんだって見事な転職を果たして立派な一生を送ったんだもの、道はいくらでもある。
太陽 ありがとうございます。
スネ子 おじいちゃんがあなたをここに呼んだ理由、知ってる?
太陽 足を怪我したからでしょ? まさかクリーニング店を継がせるためとか?
スネ子 人と関わる練習をさせるためだったのよ。あなたが口下手だって知ってたから。
太陽 えっ?
スネ子 今の時代、人と関わらずに生きていけるかもしれないけど、それじゃ寂しいからって……。
太陽 ……じいちゃん……。
私服姿の瑞希がやってくる。
瑞希 こんにちは。
太陽 はぁ?
スネ子 ?
瑞希 いやだ、二人とも! 「こんにちは、集荷に参りました~」
スネ子 やだ、見違えちゃったじゃないの。あまりにも綺麗で!
太陽 仕事の時と感じが違う。
瑞希 おじいちゃん、残念だったね。太陽がいる間に挨拶をとおもってね……。
太陽 ありがとう。
瑞希 提案なんだけど、店を閉じる前に一三さんをしのぶ会しない? 白石クリーニング店にお世話になった人誘ってさ。
スネ子 それ、いいわね! やろうやろう。
太陽 ……(涙して言葉がでない)
瑞希 なに泣いてるの!
太陽 じいちゃんが羨ましい。こんなに他人に慕われて。
スネ子 あなたはこれからでしょ! 元気出して。おばさんたちが応援してるから。
太陽 はい。
瑞希 そうよ! 一三さんの孫なんだからしっかりしてよ!
太陽 ありがとう、スネ子さん。ありがとう、ミトン。
スネ子 そうと決まったらさっそく、あそこの喫茶店でミーティングしましょ。
太陽 えっ?
スネ子 ぐずぐずしないの! 早くカギ閉めて。
スネ子と瑞希、去る。
追いかけて太陽去る。
暗転。
がやがやとにぎやかな話し声が聞こえてくる。
(終わり)
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