ハンドボールはじめました。 スポーツ

城蘭高校サッカー部GKの神田秀悟(16)は、GKの人数過多により「キーパー、クビ」と言い渡される。そんな失意の神田へ、GK不足に悩むハンドボール部が接触する。
マヤマ 山本 77 0 0 02/22
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第一稿

<登場人物>
神田 秀悟(16)ハンドボール部員
恵比寿 理人(16)神田のチームメイト
大塚 玲(16)ハンドボール部マネージャー
中野 良人(16)神田の友人、サッカー ...続きを読む
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<登場人物>
神田 秀悟(16)ハンドボール部員
恵比寿 理人(16)神田のチームメイト
大塚 玲(16)ハンドボール部マネージャー
中野 良人(16)神田の友人、サッカー部員
大黒 才也(16)ライバルチームの選手
上野 一寿(17)神田のチームメイト
高田(16)同
馬場(16)同
布袋(17)ライバルチームの選手
豊田(17)サッカー部員
真中通(32)サッカー部監督
丸井緑(37)ハンドボール部監督



<本編>
○城蘭高校・校門
   「城蘭高校」と書かれた看板。
   下校する生徒達。

○同・グラウンド
   練習しているサッカー部。
神田M「ゴールキーパー」
   シュートを止める豊田(17)。
神田M「それは、チームのゴールを守る最後の砦」
   脇でキャッチング練習をしている神田秀悟(16)。
神田M「そしてそこが、俺の居場所」
   ベンチに座る真中通(32)。
神田M「……だった」
真中「おい、神田。ちょっと来い」
神田「はい」
   真中の元に来る神田。
真中「お前、キーパー、クビ」
神田「……え!?」

○同・ハンドボールコート
   メインタイトル「ハンドボールはじめました。」

○同・外観
   チャイムの音。

○同・屋上
   弁当を広げる生徒達。

○同・グラウンド
   サッカーの練習をしている神田と中野良人(16)。
中野「行くぞ、秀悟」
   神田にセンタリングを上げる中野。
神田「オーライ」
   シュートを打つ神田。
   ゴールポストに当たり、転がっていくボール。
神田「ダメか……」
中野「おしいおしい」
神田「やっぱり無理だよ。ずっとゴールキーパーやってた俺が、いきなりフィールドプレイヤーなんて」
中野「確かに。いきなり『キーパー、クビ』ってのは、監督もひでぇよな」
神田「そりゃ、三年生が引退してフィールドプレイヤーが減った事も、その割にゴールキーパーが多すぎだって事もわかるよ?」
中野「確かに。レギュラーの豊田先輩に、背の高い大久保、クラブ上がりの三鷹に留学生のジョージ。そして、何の取り柄も無い秀悟。多すぎだよな」
神田「どうせ、俺は何の取り柄も無いよ」
中野「悪ぃ悪ぃ。でもさ、逆にチャンスじゃねぇの? フィールドプレイヤーの方がレギュラーのチャンスがある、ってのは事実な訳だしさ」
神田「でも、俺はゴールキーパーがやりたいんだよ」
中野「何でそんなにこだわるかな~?」
神田「ゴールキーパーにはゴールキーパーの魅力っていうのがあるんだよ」
中野「わかったわかった。とりあえずさ、ボール取ってきてくれよ」
神田「あ~、そうだね。ボール、ボール……どこ行ったんだろ?」
玲の声「あの~」
   振り返る神田と中野。
   ボールを持って立つ大塚玲(16)。
神田「(ボールを受け取って)あ、ありがとうございます」
玲「あの、サッカー部でゴールキーパーやってる神田君、だよね?」
神田「そうだけど……(誰?)」
玲「私、ハンドボール部でマネージャーやってる大塚玲って言います」
中野「(神田を肘でつつきながら)おいおい、秀悟も隅に置けねぇな~」
神田「いやぁ……」
玲「そ、そういう事じゃなくて、神田君に折り入ってお願いがあるんだけど……」
神田「お願い?」

○同・校門
   下校する生徒達。

○同・グラウンド
   サッカー部が練習している。
   列に並んでいる神田。後ろを向く。
   敷地の隅にあるハンドボールコート。
   ハンドボール部が練習している。
神田の声「助っ人?」

○(回想)同・同
   向かい合って立つ玲と神田、中野。
玲「そう、助っ人。夏休みの終わりに、ハンド部の一年生大会があるんだけど、ゴールキーパーやる人がいなくて……」
神田「それで、俺が助っ人……」
玲「どうかな?」

○同・同
   列に並ぶ神田。考え事をしている。
神田の声「少し、考えさせてもらえる?」
   神田の後ろに並ぶ中野。神田の背中をつつく。
中野「おい、秀悟」
神田「え? あ……」
   いつの間にか列の先頭にいる神田。
   ドリブルし、シュート。枠を外れる。
   ボールを拾う神田。
   ベンチに座る真中。
真中「おい神田。まだ不満なのか?」
神田「え? いや、別に……」
真中「キーパーに未練残したままの中途半端な奴は、練習やっても無駄なんだよ。やるからには、覚悟決めてやれ。いいな」
神田「……はい」
   列の最後尾に並ぶ神田。

○同・同(夕)
   帰るサッカー部員達。
   片付けやグラウンドの整備をする神田や中野、その他の部員達。
中野「なぁなぁ、秀悟、決めたのか?」
神田「何を?」
中野「ハンド部の助っ人の話だって」
神田「あぁ……。そんな急に決められる訳ないよ」
中野「確かに」
   ハンドボールコートを見る神田。
   誰かが練習しているのが見える。
神田「(小声で)まだ誰かいる」
中野「え?」
神田「ごめん、ちょっとここ任せた」
   ハンドボールコートへ向かう神田。
中野「え? お、お~い……」

○同・ハンドボールコート(夕)
   覗き見る神田。
   一人で練習する恵比寿理人(16)。
   ジャンプシュートを決める。
神田「おお~」
   神田に気付く恵比寿。
恵比寿「……何だ、お前?」
神田「あ、俺、神田って言います。確か、二組の……恵比寿君……だったっけ?」
恵比寿「そうだけど……何か用?」
神田「用って言うか……あ、あの、良かったら、俺がキーパーやろうか?」
恵比寿「……は?」
神田「俺、サッカー部でキーパーやってたんだ。少しは役に立つと思うんだけど?」
恵比寿「……勝手にしろ」
神田「うん!」
   意気揚々とキーパーの位置に着く神田。
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
   一歩も動けない神田。ゴール。
神田「(驚いて)速……」
恵比寿「……おい、ボール」
神田「え?」
恵比寿「(ゴールの中のボールを指して)球拾いくらい、やってくれんだろ?」
神田「あ、あぁ、ごめん」
   ボールを拾い、恵比寿に投げる神田。
   再び構える神田。
神田「次こそ」
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
   全く止められない神田。
   このやり取りが数回続く。
    ×     ×     ×
   ゴールに入っているボール。
   その場に座り込む神田。
神田「またダメか……」
恵比寿「……おい、ボール」
神田「あ、うん」
   ボールを拾い、恵比寿に投げる神田。
   帰り支度を始める恵比寿。
神田「もう終わり?」
恵比寿「……まぁな」
神田「凄いね、恵比寿君。全然止められなかったよ」
恵比寿「当たり前だ。サッカー部のキーパーだかなんだか知んねぇけど、ハンドボールなめんじゃねぇぞ?」
神田「そんなつもりはないけど。……ねぇ、恵比寿君。ハンドボールって、楽しい?」
恵比寿「……は? そんな事、サッカー部のお前には関係ねぇだろ」
   歩き出す恵比寿。コートの出口まで来て立ち止まる。
恵比寿「お前は?」
神田「え?」
恵比寿「サッカー、楽しいのか?」
神田「う~ん……まぁ、普通かな?」
恵比寿「なら、俺も普通だ」
   コートから出て行く恵比寿。
   キーパーの位置からコートを見渡す神田。目を閉じる。

○(イメージ)総合体育館・試合用コート
   キーパーの位置に着く神田。
   ハンドボールの試合が行われている。
   相手チームにいる恵比寿がジャンプシュートを放つ。

○城蘭高校・ハンドボールコート(夕)
   シュートを止める動きをする神田。
   笑顔の神田。
神田「……決めた」

○同・外観

○同・屋上
   フェンス際に並んで立つ神田と中野。
神田「結論、出したよ」
中野「何の?」
神田「ハンド部の助っ人の話」
中野「あぁ、あれね。やんの?」
神田「やっぱり、助っ人は出来ないよ。両立するのも大変そうだし、結局どっちも中途半端になりそうだし」
中野「確かに。夏はサッカー部も色々忙しそうだからな」
神田「だから俺、サッカー部辞めて、ハンド部に入部しようと思う」
中野「……え?」

○同・ハンドボールコート
   青空が広がっている。
上野の声「集合!」
   ベンチの前に立つ丸井緑(37)
   緑の周囲に集まる神田達ハンドボール部員。
緑「あら、見慣れない顔ですね」
神田「はい。今日入部しました、一年一組の神田秀悟です。よろしくお願いします」
緑「なるほど、大塚さんの言っていたサッカー部のゴールキーパーですね。来てくれると思っていましたよ」
神田「はぁ……」
緑「監督の丸井緑です。よろしく。君の指導は上野君に任せますから。いいですね?」
   神田の隣に立つ上野一寿(17)。
上野「はい」
緑「残りはフットワーク練習です。以上」
一同「はい」
    ×     ×     ×
   フットワーク練習をする部員達。
   コートの脇に立つ神田と上野。
上野「では、改めて。部長の上野だ。キーパーをやっている。よろしく」
神田「よろしくお願いします」
上野「これから、ハンドボールのキーパーの動きをみっちり仕込むから、覚悟しておくように」
神田「はい」
    ×     ×     ×
   ゴールの右隅にシュートが決まる。
上野「違う!」
   キーパーの位置に着く神田とその後ろ(=ゴールの中)に立つ上野。
上野「右に飛ぶ時は、左足で踏み切るんだって言ってるだろ? それで、自由になってる両手と右足を使って相手のシュートを止めるんだ。わかったか」
神田「はい」
   ゴールの右隅に放たれたシュートを止める神田。
上野「そうだ!」

○同・同(夕)
   コートを出るハンドボール部員達。
   ヘトヘトの神田。
神田「あ~、やっと終わった……」
   麦茶の入ったコップを差し出す玲。
玲「お疲れ」
神田「(コップを受け取って)ありがとう」
玲「まさか入部してくれるなんてね」
神田「迷惑だった?」
玲「そんな事ないって。ありがとう」
神田「いや、そんな……」
   神田の後ろを通る恵比寿。
玲「(恵比寿に麦茶の入ったコップを差し出して)理人、お疲れ」
恵比寿「だからいらねぇって」
   恵比寿の後を追いかける玲。
   神田の元にやってくる高田(16)と馬場(16)。
高田「残念だったな、神田氏」
神田「え? 何が?」
馬場「神田君が玲ちゃん目当てで入部してきたのはお見通しなのだ」
神田「そんなんじゃないよ」
高田「神田氏の気持ちもわかる。確かに、玲ちゃんはかわいい」
馬場「けど、玲ちゃんは恵比寿君と幼なじみにして、公認のカップルなのだ」
神田「公認のカップルねぇ……」
   肩を落として戻ってくる玲。持っていた麦茶を自分で飲む。

○同・屋上
   フェンス際に並んで立つ神田と中野。
神田「いや~、面白かったよハンドボール」
中野「そっか……」
神田「サッカーと比べると、シューターとキーパーの距離が近いからさ、何て言うか、迫力があるって言うのかな? まぁ、その分止めるのは難しいんだけどね」
中野「楽しそうだな」
神田「うん、楽しい。やっぱり俺、ゴールキーパーが好きなんだなって再認識したよ」
中野「そっか……」
神田「それからさ、サッカーと違って……」
   寂しそうに神田を見る中野。

○同・ハンドボールコート
   練習するハンドボール部員達。
   シュートが決まる。
   キーパーの位置に着く神田とその後ろに立つ上野。
上野「神田、ずれてるぞ!」
神田「はい」
上野「常にゴールの中心とボールの線上にポジションを取るんだ。わかったか」
神田「はい」
   シュートを止める神田。
上野「よし、今のはいいぞ!」
神田「はい」

○同・校門(夜)
   出てくる神田。追いかけてくる高田と馬場。
高田「お~い、神田氏~」
神田「あ、高田君に馬場君」
馬場「これからコンビニ行くんだけど、良かったら一緒に来るのだ」
神田「うん」
   並んで歩きながら談笑する神田、高田、馬場。

○同・ハンドボールコート
   練習するハンドボール部員達。
   シュートを放つ高田。
   止める神田。
神田「よし」
   シュートを放つ馬場。
   止める神田。
神田「よし」
   シュートを放つ恵比寿。
   神田は止められず、ゴール。
神田「あぁ……」
   神田の後ろに立つ上野。
上野「まぁ、恵比寿クラスを止められるようになるには、もう少しかかるかもな。焦らずにいけ。わかったか」
神田「はい」

○同・教室
   誰もいない。
   「夏休みだぜ!」と書かれた黒板。

○他校・ハンドボールコート
   練習試合をする一年生チーム。
   キーパーの位置に着く神田。
神田「恵比寿君、ポストそっち行ったよ」
   シュートを放つ相手チームの選手。
   止める神田。
   コートの外で試合を見ている玲。
玲「神田君、ナイスキー!」
   ベンチに座る緑とその脇に立つ上野。
緑「上野君から見て神田君はどうですか?」
上野「サッカーでのキーパー経験が長いだけあって、勘の良さやシューターとの駆け引きの上手さはなかなかですね」
緑「そうではないかと思っていましたよ」
上野「飲み込みも早いですし、今度の大会も組み合わせ次第ではいい所まで行けるんじゃないでしょうか?」
緑「なるほど、そうですか」

○城蘭高校・校門(夜)
   並んで歩いてくる神田、高田、馬場。
高田「いよいよ明日だな、馬場氏、神田氏」
馬場「俺、もうすでに緊張してるのだ」
神田「俺も。……あ、部室にシューズ忘れてきた。ごめん、先帰ってて」
馬場「了解なのだ」
高田「じゃあ、また明日」
   中に入って行く神田。

○同・部室前(夜)
   やってくる神田。
   周囲を見回している玲。
神田「大塚さん、どうかした?」
玲「あ、神田君。お疲れ。理人に活を入れてやろうと思ってたんだけど……逃げられたみたい。……あ、神田君に入れてあげようか? 活」
神田「入れるって、どうやって?」
玲「背中を思いっっっきりバシーンって叩くの。大塚家の伝統」
神田「(苦笑しながら)へぇ……え、遠慮しとこうかな……」
玲「そっか……残念」

○道路(夜)
   並んで歩く神田と玲。
神田「大塚さんと恵比寿君って、幼なじみなんでしょ?」
玲「うん。家族ぐるみの付き合いっていうのかな。そもそも、理人に最初にハンドボール教えたの、うちのお父さんだしね」
神田「へぇ、大塚さんのお父さんってハンドボールやってたんだ」
玲「うん。中学、高校、大学とね」
神田「そっか~」
玲「神田君は? いつからサッカーやってたの?」
神田「近所のクラブチームに入ったのが、小学二年生だったかな……」
玲「まさか、その時からキーパー?」
神田「うん」
玲「凄いね。恐くないの?」
神田「ボールが飛んでくるだけだからね、それほどでもないよ。それに、ゴールキーパーにはゴールキーパーの魅力っていうものがあるからね」
玲「魅力?」
神田「ゴールキーパーってさ、チームのピンチを救うのが仕事じゃない? チームのピンチに颯爽と現れてチームを救う、なんて何かヒーローになった気分になれるんだ」
玲「ヒーロー、か。何か格好いいかも」
神田「それに、ピンチを防いで、味方とか応援団から『ナイスキー』って言われると、ここが俺の居場所なんだな、って心底思えるんだよ」
玲「居場所、か……。(意地悪そうに)でもさ、それって、神田君は『チームにピンチになってほしい』って思ってるって事?」
神田「そういう訳じゃないけど……。でも、例えば、同点で迎えた後半残り0秒で相手のPK。こういう絶体絶命のピンチでシュート止めたら……っていうのは、ゴールキーパーやってる人なら、誰もが一度は夢見るシチュエーションだよ」
玲「そんな事考えてるんだ。何か面白いね」
神田「そう? あ、でも、ハンドボールにはPKなんてないよね」
玲「7メートルスローっていうのはあるよ。ゴールから7メートルの所からシューターがシュートを打つの。ディフェンスはいないから、キーパーと一対一」
神田「そっか、PKと同じだね。7メートルスロー、か……。覚えとかなくちゃ」
   交差点までくる神田と玲。
玲「じゃあ、私こっちだから」
神田「うん。気をつけてね」
玲「ありがとう。じゃあ、今日はお疲れ。明日、頑張ってね」
   別れる神田と玲。

○試合会場・グラウンド
   ハンドボールコート六つに、運営側のテントやウォーミングアップのスペースなどがある広大な敷地。

○同・アップ場所
   ストレッチをする神田、高田、馬場、恵比寿ら一年生達。
神田「一回戦の相手の……朋仙だっけ? やっぱり強いの?」
高田「県内屈指の強豪校だな」
馬場「でも、だからって一年生も強いチームだとは限らないのだ」
大黒の声「おいおい、そこのお前。それ正気で言ってんのか?」
   やってくる大黒才也(16)。
大黒「さすが、イセエビのチーム。威勢だけはいいんだな」
神田「イセエビ?」
恵比寿「……相変わらずだな」
高田「恵比寿氏、知り合いか?」
馬場「誰なのだ?」
大黒「おいおい、ハンドボールをやってて、この大黒才也様を知らないなんて、お前らどんだけレベル低いんだよ」
神田「大黒……」
大黒「まぁ、一回戦でこの俺様と当たっちまった事には、同情してやるけどよ」
恵比寿「……勝手に言ってろ」
大黒「じゃあ、また後で。せいぜい楽しませてくれよな。イセエビ君」
   その場を後にする大黒。
   大黒の背中を見ている神田。
神田の声「大黒?」

○(回想)道路(夜)
   並んで歩く神田と玲。
玲「うん。理人が中学時代、一回も勝てなかった相手。明日の相手チームって、その大黒って人のいるチームなんだよね」
神田「あの恵比寿君が……」
玲「だから『今度こそ勝つんだ』って、燃えてるみたい。理人って、あれで結構負けず嫌いだからね」
神田「そうなんだ……」

○試合会場・試合用コート
   整列する城欄と朋仙の選手。
   余裕の表情の大黒。
   大黒を睨む恵比寿。
   心配そうに恵比寿を見ている神田。
   朋仙のスローオフで試合開始。恵比寿をかわし、シュートを放つ大黒。
恵比寿「ちっ」
   止められない神田。
高田「恵比寿氏が、あんなにあっさり……」
馬場「シュートももの凄いのだ……」
   ボールを恵比寿に渡す神田。
神田「ドンマイ」
恵比寿「うるせぇ。……次こそ」
   城蘭の攻撃。恵比寿が突破を計ろうとするも、大黒に阻止される。
神田M「恵比寿君は、このチームの精神的な柱だ」
   朋仙の速攻。大黒がドリブルからシュート。
   やはり止められない神田。
大黒「楽勝だな」
神田M「その恵比寿君が、この男の前では手も足も出なかった」
   動揺する高田、馬場ら一年生達。
神田M「これで俺達は、完全に飲まれた」
    ×     ×     ×
   シュートを放つ大黒。ゴール。
   朋仙の選手にかわされる高田。
神田M「この試合は、わずか十五分ハーフ」
   パスミスをする馬場
神田M「それがとても長く感じた」
   強引にシュートを放ちに行く恵比寿。
   大黒に止められる。
神田M「誰もが早くその場を去りたかった」
   コートの外で応援する上野ら先輩達。
神田M「積み上げてきたものが、音を立てて崩れていくようだった」
   大黒以外の選手も次々とシュートを決める。
神田M「自分の無力さを知って」
   うなだれる神田。
神田M「この場所に立つ事を、初めて恐いと思った」
   ベンチに座る緑と涙目の玲。
神田M「まるで、悪夢だった」

○同・テント
   試合結果の書かれた紙。二七対三で朋仙が城蘭に勝った旨が書かれている。

○城蘭高校・校門
   登校してくる生徒達。

○同・屋上
   入口付近に並んで座る神田と中野。
中野「二七失点ねぇ……」
神田「そんなに点取られたの、初めてだよ」
中野「確かに。サッカーじゃありえねぇ点数だもんな」
神田「正直、ちょっと自信持ち始めてた時期だったから、その分、ものすごく落ち込んでるんだよね……」
中野「で、ハンド部の練習サボっちまったって訳か」
神田「うん……」
中野「なぁ、秀悟……」

○同・屋上入口
   屋上へと続く階段をのぼる玲。
   開いているドアから神田が見える。
玲「あ、神田君だ」
   玲が神田に声をかけようとして、
中野の声「サッカー部に戻ってくるつもりはねぇか?」
玲「え?」
   驚き、反射的にドアの影に隠れる玲。

○同・屋上
   入口付近に並んで座る神田と中野。
神田「何だよ、いきなり」
中野「いきなりじゃねぇよ。前々から思ってた事だ」
神田「そんなの無理だよ、今更。大体、俺はサッカー部じゃゴールキーパーをクビになってるし……」
中野「事情は変わったんだよ」
神田「え?」
中野「大久保と三鷹は、殴り合いの喧嘩して両方退部。ジョージはホームシックで国に帰っちまったよ」
神田「そうなの?」
中野「豊田先輩も故障明けで万全じゃないし正直、キーパーが足りねぇんだよな」

○同・屋上入口
   ドアの影に隠れている玲。
中野の声「予選も近いし、今更別のキーパーを育てるってのも厳しいんだよな」
神田の声「だからって……」
中野の声「それに何より」

○同・屋上
   入口付近に並んで座る神田と中野。立ち上がる中野。
中野「俺は、お前と一緒にサッカーやりてぇんだよ。っていうか、そもそもそのために一緒に城蘭来たんじゃねぇか」
神田「それは……そうだけど……。ちょっと考えさせてよ」
   屋上から出て行く神田。神田の後を追いかける中野。
中野「おいおい、ちょっと待てって」

○同・屋上入口
   ドアの陰に隠れている玲。出てくる神田と中野。
中野「監督が明日、紅白戦やるって言ってんだ。来てくれるよな? な?」
   神田と中野の姿が見えなくなる。
玲「神田君が、サッカー部に……?」

○同・ハンドボールコート
   フットワーク練習をする部員達。
   ベンチに座る緑とその脇に立つ上野。
緑「一年生大会ですが、私はあのような結果になるんじゃないかと思っていました」
上野「え? 何でですか?」
緑「ディフェンス面はともかく、一年生達はオフェンス面が不安ですからね」
上野「そうですね。取れたのは三点だけ。それも全部、恵比寿の個人技でしたから」
緑「それに、攻撃でミスが多いから、相手の速攻になって点を取られる。その繰り返しでしたね」
上野「なるほど。では一年生達には、オフェンス面の強化を意識するよう、伝えておきます」
緑「お願いします。……ところで、神田君は今日も来ていないようですが?」
上野「はい。学校には来ていたようですが」
緑「なるほど、そうですか」

○同・部室前(夕)
   周囲を見回す玲。
   制服で部室から出てくる高田と馬場。
高田「じゃあな、玲ちゃん」
馬場「また明日なのだ」
玲「お疲れ」
   その場から去る高田と馬場。
   やってくる恵比寿。
玲「理人、お疲れ」
   無言で部室に入ろうとする恵比寿。その腕を掴む玲。
玲「ちょっと、話があるんだけど」
恵比寿「……何だよ」
玲「実は、神田君が……」

○同・グラウンド
   サッカー部が練習をしている。
   やってくる神田。
   神田に気付く中野。神田に駆け寄る。
中野「秀悟、やっぱり来てくれたか」
神田「まだ、戻るって決めた訳じゃないんだけど」
中野「いいっていいって。(真中に)監督、神田が来ました」
   ベンチに座っている真中。
真中「お前は練習に戻れ。神田、来い」
   一礼して練習に戻る中野。真中の元に来る神田。
真中「サッカー部辞めてからは、ハンド部でキーパーやっていたんだってな」
神田「はい」
真中「なら、勘は鈍ってなさそうだな。聞いているよな? 今日紅白戦だって」
神田「はい」
真中「アップしとけ」
神田「はい」

○同・ハンドボールコート
   練習するハンド部員達。
   グラウンドを見ている高田と馬場。
   サッカー部が紅白戦をしている。
高田「あれ、神田氏か?」
馬場「本当なのだ。神田君、サッカー部の練習に出てるのだ」
   高田と馬場の後ろからグラウンドを見る玲。
高田「あ、あ、神田氏、右、右」
馬場「あ~、点取られちゃったのだ」
玲「神田君……」

○同・グラウンド(夕)
   六対一と表示された得点表。
   片付けやグラウンド整備をするサッカー部員達。
   ベンチの前に立つ真中と神田。
真中「六点か。随分と取られたもんだな」
神田「……はい」
真中「……戻る気はあるのか?」
神田「え?」
真中「サッカー部に戻ってくる気はあるのかどうか聞いているんだ」
神田「……もう少し、考えさせて下さい」
真中「まぁ、いいだろう。中途半端な気持ちで戻ってこられても迷惑だからな」
神田「はい」
真中「……今週の土曜日、練習試合がある」
神田「え?」
真中「戻ってくる気があるなら、来い」
神田「……はい」
真中「話はそれだけだ。今日はご苦労だったな。もう帰っていいぞ」
神田「はい。失礼します」
   一礼してその場を去る神田。

○同・手洗い場(夕)
   水道の水を飲んでいる神田。
真中の声「戻ってくる気があるなら、来い」
   顔を上げる神田。足音に気付き振り返る。
   神田の後ろに立っている恵比寿。
神田「恵比寿君……」
恵比寿「ちょっと相手しろよ」

○同・ハンドボールコート(夕)
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
   止められない神田。
神田「くそっ」
恵比寿「練習サボってたような奴に、止められる訳ねぇよな」
神田「……もう一本」
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
   止められない神田。
神田「……もう一本」
恵比寿「お前、キーパーが自分の居場所だとか言ってたらしいな」
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
   止められない神田。
神田「そうだよ」
   やってくる玲。
玲「理人……神田君……」
恵比寿「居場所ってのはな、与えてもらうもんじゃねぇ、自分の手でつかみ取るもんなんだよ」
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
   止められない神田。
神田「……もう一本」
恵比寿「一度手に入れた居場所は、自分の手で、死に物狂いで守るもんなんだよ」
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
   止められない神田。
神田「……もう一本」
恵比寿「サッカー部で居場所がなくなったからハンド部に逃げてきて、サッカー部に居場所が出来たらまた戻るなんて言ってるような奴にはな、一生、居場所なんて手に入れられねぇよ!」
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
神田「そんなんじゃないよ!」
   止める神田。
   驚く玲。
玲「止めた……」
神田「俺は、そんなつもりはないよ。真剣にハンドボールやってたんだ」
   恵比寿のいる場所に転がって行くボール。拾う恵比寿。
恵比寿「問題は、お前がどう思ってるかじゃねぇ。周りがどう受け取るかだろ? お前がやってる事は、端から見ればそういう事なんだよ」
神田「それは……」
   ボールをゴールへ投げる恵比寿。
恵比寿「そんな中途半端にやられたらたまんねぇんだよ。サッカーやりたきゃ、さっさとハンド部辞めてサッカー部入れ」
   動かない神田。ゴールに入るボール。
神田「……わかったよ」
   コートから出て行く神田。
玲「ちょっと、神田君! (恵比寿を睨み)理人、どういうつもり?」
恵比寿「別に。あんな奴、無理に頼んでまで部にいてもらう必要もねぇだろ」
玲「もう、理人のバカ!」
   神田を追いかける玲。

○同・部室前(夕)
   歩いてくる神田。後ろから追いかけてくる玲。
玲「待ってよ、神田君。理人の言う事なんて気にしなくていいから。ね?」
神田「大塚さん……。恵比寿君の言う通りなのかもしれない。俺は、ハンド部にいるべきじゃない。いても迷惑なだけだよ」
玲「そんな事無いって」
神田「色々ありがとう。ハンド部に誘ってくれた事も含めて。……じゃあね」
   その場を去る神田。
   神田の背中に向かって声をかける玲。
玲「今週の土曜日から新人戦が始まるから」
   遠くなる神田の背中。
玲「神田君も登録メンバーに入ってるから」
   さらに遠くなる神田の背中。
玲「待ってるから!」

○道路(夜)
   一人で歩いている神田。

○(回想)城蘭高校・部室前(夕)
   遠くなる神田の背中に声をかける玲。
玲「待ってるから!」

○道路(夜)
   一人で歩いている神田。

○(回想)城蘭高校・校門(夜)
   並んで歩きながら談笑する神田、高田、馬場。

○(回想)同・ハンドボールコート
   シュートを止める神田。
   神田の後ろに立つ上野。
上野「よし、今のはいいぞ!」

○道路(夜)
   一人で歩いている神田。

○(回想)城蘭高校・ハンドボールコート
   練習試合。相手チームの選手の放つシュートを止める神田。
玲の声「ナイスキー!」

○(回想)道路(夜)
   並んで歩く神田と玲。
神田「ここが俺の居場所なんだな、って心底思えるんだ」

○同(夜)
   一人で歩いている神田。
恵比寿の声「居場所ってのはな、与えてもらうもんじゃねぇ、自分の手でつかみ取るもんなんだよ」

○城蘭高校・ハンドボールコート(夕)
   ジャンプシュートを放つ恵比寿。
恵比寿の声「一度手に入れた居場所は、自分の手で、死に物狂いで守るもんなんだよ」
   シュートを止める神田。

○道路(夜)
   一人で歩いている神田。
   立ち止まり、自分の手を見つめる。

○総合体育館・外観

○同・試合用コート
   トーナメント表が貼ってある。城蘭の初戦の相手は朋仙である旨が書かれている。

○同・外
   周囲を見回す玲。
   後ろからやってくる高田と馬場。
高田&馬場「玲ちゃん」
玲「あ、お疲れ」
高田「神田氏は来そうか?」
玲「う~ん、どうだろう……?」
馬場「ここは俺達、ベンチウォーマー組に任せて、玲ちゃんは自分の仕事に戻るのだ」
玲「そうだね。じゃあ、任せた」
   中に戻る玲。一度振り返り、周囲を見回す。

○城蘭高校・外観

○同・グラウンド
   集まっているサッカー部員達と相手チームの選手達。
   周囲を見回す中野。何かに気付く。
中野「秀悟!」
   やってくる神田。
中野「いやぁ、良かった良かった。来てくれると思ってた」
神田「あぁ……」

○総合体育館・アップ場所
   ストレッチをしている恵比寿。
   やってくる大黒。
大黒「また会ったな、イセエビ」
恵比寿「……」
大黒「おいおい、だんまりかよ?」
恵比寿「……うるせぇ」
大黒「あの時の威勢の良さはどこに行っちまったんだ? せっかく俺様が朋仙に誘ってやったのに、それを断ってまで城蘭入ったあの時みたいによ」
   恵比寿の後ろからやってくる上野。
上野「おい、恵比寿。どうかしたか?」
恵比寿「……別に」
   大黒の後ろから来る布袋(17)。
布袋「おい、大黒。何やってるんだ?」
大黒「何でもないっスよ」
   対峙する上野と布袋。
布袋「朋仙高校ハンド部主将の布袋です」
上野「城蘭のキャプテンをやってる上野だ」
   握手する上野と布袋。
布袋「今日は良い試合にしましょう」
上野「お手柔らかに。(恵比寿に)行くぞ」
   その場を去る上野と恵比寿。
布袋「……大黒、雑魚は相手にするな」
大黒「は~い」

○同・試合用コート
   ベンチの前に立つ緑と、その周囲に集まる城蘭の選手。
緑「相手にとって不足はありませんね。一年生の敵をとってあげましょう。以上」
一同「はい!」
上野「行くぞ!」
一同「おう!」
   ベンチに座る緑と玲。
玲「神田君、とうとう来ませんでしたね」
緑「そうですね」
    ×     ×     ×
   朋仙のスローオフで試合開始する。
   布袋のシュートが決まる。
   ベンチから見守る緑と玲。
玲「ドンマイ」

○城蘭高校・グラウンド
   城蘭のキックオフで試合開始する。
   ベンチに座って試合を見守る中野。
   キーパーの位置に着く豊田。

○総合体育館・試合用コート
   十二対十二の同点を示す得点表。
   ベンチから声を出す玲。手にはストップウォッチ。
玲「前半、ラスト十秒!」
   シュートを放つ大黒。
   飛びついて止める上野。着地の際に足をひねる。
玲「ナイスキー!」
   笛が鳴る。
   上野以外、ベンチに引き上げる両チームの選手。恵比寿もいる。
玲「理人、やったね。同点だよ」
恵比寿「この程度で喜んでられるか」
玲「後半もこの調子で……(上野の異変に気付いて)上野先輩?」
   ゴール前でひねった足を抑えて動けない上野。
玲「上野先輩!」
    ×     ×     ×
   ベンチに座る上野。ひねった方の足を冷やしている。
   その様子を見ている緑、玲、その他部員達。
緑「おそらく、捻挫だと思います。この試合はもう出られないでしょう」
上野「みんな、すまない」
高田「そんな……」
馬場「どうするのだ?」
   うつむく玲や部員達。
緑「では、後半のキーパーですが……」
神田の声「遅くなりました!」
   振り返る玲や部員達。
玲「神田君!」
   やってくる、息を切らした神田。
神田「遅くなって申し訳ありません」
緑「君なら戻ってきてくれると思っていましたよ」
神田「本当に、何ていうか……言わなくちゃいけない事はたくさんあると思うんですけど何から言ったらいいか……」
緑「神田君。私達も聞きたい事はたくさんありますが、残念ながら今は時間がありません。早く着替えて下さい」
神田「え?」
    ×     ×     ×
   コートの隅で着替える神田と、その脇に立つ玲。
玲「本当に心配したんだから。神田君、どこ行ってたの?」
神田「サッカー部のみんなに、『戻らないから』って伝えに行ってたんだ」
玲「わざわざ? まぁ、神田君らしいといえばらしいけどね」
神田「けど、まさかいきなり試合に出る事になるなんて……」
玲「でも、神田君が来てくれてよかった。神田君が来た時、まさに絶体絶命のピンチを救うヒーローみたいな感じだったよ」
神田「そんな、大げさだよ……」
玲「そんな事ないって。……でも、よかったね。また居場所ができて」
神田「まだだよ」
玲「え?」
神田「まだ、みんなからの信頼を取り戻した訳じゃない。それができて、初めて俺の居場所だから」
玲「信頼、か……。大変だよ? 信頼されるようになるまでは」
神田「わかってる。だから今から、信頼をつかみ取りに行ってくるよ。自分の手でね」
玲「……そっか。よし、頑張ってこい」
   神田の背中を思い切り叩く玲。
神田「痛たた……。あ、ありがとう」
    ×     ×     ×
   城蘭のスローオフで試合開始。
   キーパーの位置に着く神田。
   シュートを放つ大黒。
   止められない神田。
神田「くそっ」
   ボールを恵比寿に渡す神田。
神田「ごめん。次は、止めるよ」
恵比寿「……期待してねぇよ」
   城蘭のスローオフで試合再開。
   恵比寿のパスは布袋にカットされる。
   布袋の速攻、ドリブルからシュート。
   止める神田。
   ベンチに座る玲、高田、馬場。
玲&高田&馬場「ナイスキー!」
   ボールを恵比寿に渡す神田。
恵比寿「(小声で)ナイスキー」
   笑顔の神田。
    ×     ×     ×
   シュートを放つ恵比寿。
   歓喜に沸く城蘭ベンチ。
   シュートを放つ大黒。
   歓喜に沸く朋仙ベンチ。
   シュートを放つ布袋。
   布袋のシュートを止める神田。
   歓喜に沸く城蘭の選手達。
    ×     ×     ×
   二十五対二十五の同点を示す得点表。
   ベンチに座る玲、上野。
玲「ラスト一分!」
上野「ディフェンス一本だ!」
   ジャンプシュートを放つ大黒。
   止められない神田。
   歓喜に沸く朋仙ベンチ。
   天を仰ぐ城蘭ベンチ。
   二十六対二十五に変わる得点表。
   恵比寿にボールを渡す神田。
神田「ごめん」
恵比寿「まだ終わってねぇ」
   城蘭のスローオフで試合再開。
   大黒をかわし、強引にシュートを放つ
   恵比寿。ゴール。
   歓喜に沸く城蘭の選手達。
   歓喜に沸く城蘭ベンチ。
   朋仙のキーパーからボールを受け取る
   布袋とその隣に立つ大黒。
布袋「しぶとい奴らだ」
大黒「俺がとどめさしてやるっスよ」
   朋仙のスローオフで試合再開。
   ベンチから見守る玲。
玲「ラスト十秒!」
   ディフェンスをかわし、シュート体勢に入った大黒。反則でそれを止める恵比寿。倒れる大黒。
大黒「うおっ」
   笛が鳴る。
   手に持つストップウォッチを見る玲。
玲「後半残り時間0秒、同点、7メートルスロー……」
神田の声「こういう絶体絶命のピンチでシュート止めたら……っていうのは、ゴールキーパーやってる人なら、誰もが一度は夢見るシチュエーションだよ」
   シューターの位置に着く大黒。
   キーパーの位置に着く神田。心臓の音。視線をベンチに向ける。
   祈るような目で神田を見ている高田、馬場。
神田M「もしこの場面で点を取られても、人は『仕方ない』と言うかもしれない」
   祈るような目で神田を見ている上野。
神田M「けれど、その一言で片付けてしまえるなら、ゴールキーパーは必要ない」
   普段通りに神田を見ている緑。
神田M「少なくとも今、みんなは俺に期待をしてくれている」
   祈るような目で神田を見ている玲。
神田M「俺もその期待に答えたいと思っている」
   コート上の恵比寿と目が合う神田。
   小さく頷く恵比寿。
神田M「だからこそ、俺は今ここに立っている」
   深呼吸し、構える神田。
神田M「ここに、俺の居場所がある」
   笛が鳴る。
   シュートを放つ大黒。
神田M「止める」
   見守る城蘭ベンチ。
神田M「チームのために」
   見守る城蘭の選手達。
神田M「勝利のために」
   見守る観客。
神田M「そして、ここに自分がいる理由を」
   飛びつく神田。
神田M「証明するために」
   シュートを止める神田。
   歓声。
   歓喜に沸く城蘭ベンチ。
   神田に駆け寄る城蘭の選手達。
   選手達にもみくちゃにされながらも、
   まだ放心状態の神田。
   手を差し出す恵比寿。
恵比寿「……信じてたぜ」
神田「ありがとう」
   ハイタッチする神田と恵比寿。二人とも笑顔。

○城蘭高校・外観

○同・部室前
   並んで歩く高田と馬場。
高田「朋仙、決勝も十点差で勝ったらしい」
馬場「結局、朋仙と一番競った試合したのはウチだった、って事なのだ」

○同・ハンドボールコート
   脇でストレッチをする神田の元にやってくる玲。
玲「神田君、お疲れ」
神田「あ、大塚さん」
玲「私、今でも思い出すんだよね、あの7メートルスロー。未だに鳥肌たつもん」
神田「俺も、あのボールの感触は忘れられそうにないよ」
玲「良かったね、神田君。あの試合以来、みんなの信頼も得られた訳だし、晴れてここが居場所になったって事だよね」
神田「まだまだだよ」
玲「まだなの?」
神田「俺の居場所ができたのは事実だけど、一度手に入れた居場所は、今度は死ぬ気で守らないとね、自分の手で」
玲「そっか……でも、神田君ならきっと大丈夫だよね。頑張って」
   神田の背中を思い切り叩く玲。
神田「痛たた。あ、ありがとう」
恵比寿の声「おい、神田」
   振り返る神田と玲。
   神田の後ろに立つ恵比寿。手にはボールを持っている。
恵比寿「ちょっと相手しろよ」
神田「うん」
神田M「ゴールキーパー」
   互いに位置に着く神田と恵比寿。
神田M「それは、チームのゴールを守る最後の砦」
   二人の様子を見守る玲。
神田M「そしてここが」
   構える神田。
神田「さぁ、来い」
神田M「俺の居場所」
                  (完)

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