娘(5)
父(35)
母(28)
義父の声
義母の声
○マンションの一室・廊下(昼)
赤い頭巾を被った娘(5)の後姿。
ゆっくり、フラフラした足取りでリビングの扉を開け、中に入っていく。
○タイトル
○同・リビング
娘が入ってくる。
娘「マッチいりませんか? マッチを買ってください」
テレビを見ていたTシャツにトランクス姿の父が、娘の姿に驚くも笑う。
娘が父の前に来て、
娘「マッチを買ってくれませんか?」
父「ああ、じゃあマッチ買おうかな?」
娘が怒りだし、
娘「違うの! 買っちゃだめなの!」
父「えっ、なんで?」
娘、手に息を吹きかけ、
娘「ああ、寒いな。凍えてしまいそうだわ」
父「エアコン消そうか?」
娘が、遊びを理解しない父を睨む。
娘「ああ、寒いわ。誰かマッチを買ってください」
リビングから出て行く娘。
父「マッチ売りの少女か?」
父が視線をテレビに戻すが、すぐには思い直し、
父「マッチ売りの少女!」
父が急いで娘の後を追い、リビングから出る。
○同・廊下
娘がお徳用のマッチ箱からマッチ棒を一本取出し、上にかざす。
娘「ああ、とっても寒いからこのマッチで温まるわ」
娘がマッチを擦り、火をつけたところで慌てた父が後ろから火を吹き消す。
マッチ箱を取り上げようとする父。
父「何やってんだよ! ダメだよ。火なんてつけちゃ」
娘「離して、イヤ。殺される」
父「いいから渡しなさい」
必死に抵抗する娘の肘が父の股間を直撃する。
痛みに耐えながらもマッチ箱を取り上げ
父「部屋に入ってなさい!」
娘、父の剣幕に泣きだし、
娘「パパのバカ」
廊下の先の自分の部屋に戻る。
父、お徳用マッチを見ながら、呆れ
父「ったく」
○同・台所・(夕方)
父がエプロンをつけて料理をしている。
父「もうご飯にするよ」
何の応答もない。
父、娘の部屋に向かう。
○同・娘の部屋
おもちゃや幼稚園の道具などが散らばった部屋。
泣きつかれた娘がベッドで眠っている。
父が入って来る。
父「ご飯」
父、突然もしゃがむ。
父「イタっ」
首のとれた人形を手にもつ。
父「やべえ」
慌てる父が眠っている娘の横に、「マッチ売りの少女」の絵本が最後のページを開いて置 いてある。
父がそれを手に取り読みだす。
父「『こうしてマッチ売りの少女は、とても会いたかった大切な人に会えたのでした』」
○病院・霊安室(回想)
泣いている赤ん坊の娘を抱いた父が、横たわった妻の遺体の前で立ちずさんでいる。
○道路・(朝)
赤ん坊の娘を背負ったスーツ姿の父が歩いている。
片手にはビジネス鞄、もう一方の手には赤ん坊用品を詰めた袋。
義父の声「君も大変だったろ。その子は私たちが引き取るよ」
義母の声「あなたもまだ若いんだし、誰かほかにいい人見つけて……ね」
歩いている父の顔が険しくなる。
父の声「この子には寂しい思いはさせません」
○(戻って)マンション一室・和室・(夜)
父が押し入れから段ボール箱を出す。
○同・娘の部屋
寝ている娘の肩を揺らし、起こそうとする。
寝ぼけている娘。
娘「どうしたの?」
父、娘を抱き上げ
父「おいで」
○同・リビング
電気をつけていない中に入って来る二人。
娘「暗いよ。怖い」
父「大丈夫だから」
父、テーブルの前で娘をおろし、マッチを渡す。
父「つけて」
娘、昼間とは違う父の態度に困惑し
娘「でも」
父「大丈夫だから」
娘、マッチを擦るが中々火がつかない。
父「ほら、ちゃんと掴んで」
父、娘の手を掴んでやり一緒に擦る。
すると、火に照らし出された中に写真立てに入った妻の写真が浮かび上がる。
父「お母さんだよ」
娘、妻の顔をじっと見る。
(終わり)
コメント
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。