人物
宮本文子(80)
宮本洋一(29)文子の孫
宮本進(59)(5)文子の子供
〇宮本家・居間
昭和の時代に建てられたと思われる一軒家。
柱や畳は古臭く、薄汚れている。
柱には子供の身長を測定したと推測される印。
部屋の中はダンボール箱がところ狭しと置いてあり、古びた服などが散乱している。
その段ボールに囲まれて、宮本文子(80)が着古した子供のセーターを見ている。
窓の外には、小さな庭が見える。
文子「これ、持っていきたい。けんじさん」
洋一の声「誰が着るの?それ」
文子「だってこれから必要になるかもだし」
洋一の声「必要って?」
文子「男の子がいいの、一人目は」
ジーパンにトレーナーの宮本洋一(29)が文子をみる。
恰好から、洋一も片づけと格闘している様子。
洋一「…いいんじゃない?持っていけば」
文子「やったあ」
洋一「やっぱ、男の子がよかったの?」
文子「けんじさんみたいな男の子なら、嬉しいから」
洋一「そう」
文子「まあ、女の子でもいいけど」
洋一「その願い、叶うよ。きっと」
文子「え?」
〇(回想)宮本家・居間
54年前。
柱や畳は綺麗になっている。
柱の印は先ほどより少なく2個程度。
襖にはクレヨンの落書きがある。
その横には3段のカラーボックスが置いてあり、おもちゃや本が入っている。
壁には、子供が描いたと思われる絵や、手作りと思われる幼稚園バックが架かっている。
文子の目の前に、先ほどと同じ柄の新品セーターを着ている宮本進(5)。
進は、手の中に何か持ってニコニコしている。
進 「お母さん。これ、きれいだから!」
手の中をみると、赤い椿の花びら
文子「わあ、進ちゃん、ありがとう。こんな綺麗な花びら、初めてみた」
進 「すごいでしょ?さっき、庭でみつけたの。あとね、あとね。これも可愛いからあげる」
ポケットから、進が何かを出してくる。
文子「今度はどんなもの?うれしいなあ、お母さん」
進 「コロコロしててとっても可愛いの」
ポケットからダンゴ虫を出してくる 進。
進 「はい、これ」
大事そうにダンゴ虫をわたそうとする進。
文子「え?え?まって、まってー進ちゃん!」
〇元の宮本家
先ほどの段ボールに囲まれた部屋。
ボタンの入った箱をひっくり返した文子。一つのボタンがころころと転がっていく。
そのボタンは、子供が好きそうなキャラクターである。
転がったボタンをセーターとチノパンツ姿の宮本進(59)が拾う。
進の髪には白いものが混じっている。
進 「ったく。これじゃ、終わらないだろ」
文子「あら、ありがとう」
進、先ほどの古びた子供のセーターを見つける。
進 「こんなの、持っていけないだろ。施設の部屋は広くはないんだから」
文子「だって、けんじさんはいいって」
進 「…おやじはもう死んだんだよ、とっくに」
文子「変ね?さっき、可愛い子がいたのよ?」
洋一が、ボタンを拾いながらやってくる。
洋一「こっちにも落ちてたよ、ほら。これ学生ボタンじゃない?」
文子「けんじさん、大丈夫よ。この親切な人が手伝ってくれてるの」
進 「・・・」
文子「そういえば、お名前は?」
洋一「進っていうんだよ。前に進むで進」
文子、進の顔をまじまじとみて
文子 「いい名前ねえ。とっても好きになれそうな名前」
進、何も言わず、文子に背を向けて庭を見る。
赤い椿が咲いている。
文子も進につられて庭をみて、椿に気が付く。
文子「綺麗ねえ。なぜだかわからないけど、私、椿の花が一番すき」
進の背中、泣いているのか震えている。
洋一「父さん…」
冬の光の中で、椿の花がぽとりと落ちる。
文子、その椿を幸せそうな笑顔でみつめている。
コメント
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。