人 物
上田 小梅(35)OL
矢作 良子(55)小梅の上司
森田 るみ(35)小梅の同僚
安西 美智子(55)安西の母
安西 博(40)タクシーの運転手
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○新宿オフィッスビル街 俯瞰
○太田生命オフィス 入口
入口の壁に『太田生命』の文字。カウンターを隔て奥に広がるオフィッス。10名ほどのスタッフ席がある。
○同・オフィス内(朝)
数人が出社している。席に座る上田小梅(35)、PCを起動させている。矢作良子(55)が入って来る。
良子「おはよう」
小梅「おはようございます」
良子、小梅のところに寄って来る。
良子「ねえ、小梅ちゃん、お見合いしない?」
小梅「課長、いきなりなんですか」
良子「昨日、高校の同級生から電話があってさ、息子が独身でいるっていうのよ」
小梅「まだ、そんな気には・・・・・・」
良子「何いってんのよ。彼氏いないんでしょ?」
小梅「でも、まだ、ちょっと・・・・・・」
良子「あんたももう若くないんだから。そんなんじゃいつまでも嫁に行けないよ。会うだけ会ってみなよ、ね」
森田るみ(35)、コーヒーを片手に入って来る。
良子「じゃ、日取り決めるから」
良子、去って窓際の席に着く。
るみ「なになに?」
小梅「お見合いしないかって」
るみ「ついに小梅のもとに来たわね!お見合い課長」
小梅「まだタケシのこと、消化できてないから断わったんだけど」
るみ「別れてもう3年でしょ。矢作課長の縁結びパワーは凄いんだから乗らなきゃ駄目よ。それとも一生、結婚する気ないの?」
小梅「そりゃ、私だっていつかは・・・・・・。コーヒーいれてこよ」
小梅、立ち去る。
○目黒雅叙園 カフェラウンジ窓の外
ガラス張りの向こうに見える庭園。流れる滝。
○同・ラウンジ内
窓際の席。可愛らしいワンピース姿の小梅と良子。小梅の対面に安西美智子(55)。お見合いの様子。テーブルにはお水のみ。
良子「こちら、上田小梅さん。会社でも一番真面目な良い子なのよ」
美智子「はじめまして。安西美智子です。良子ちゃんとは高校の同級生だったのよ」
良子「この縁談がまとまれば、根起し仲人百組目よ。必ず成功させなくちゃ。それにしても博君、遅いわね」
美智子「もう来ると思うんだけど」
時計を見る美智子。
× × ×
太った冴えない男、安西博(40)が汗をかきながら近寄って来る。首から一眼レフのカメラをぶら下げている。
美智子「あ、来た来た。(安西を見ながら)こっちこっち」
良子「ずいぶん遅かったわね」
安西「いい被写体があったんで、撮影してたら遅くなっちゃって・・・」
安西、テーブルにつく。汗びっしょり。
小梅、呆れ顔。
美智子「息子の博。博はカメラが趣味なの」
小梅「はじめまして。上田小梅です」
美智子「こんなに汗かいてまぁ。よっぽど急いだのね」
美智子、安西の額の汗を拭く。
ウエイターがコーヒーを運んでくる。
良子「博君と会ったの、中学生の頃だったから、覚えてないわよねえ」
安西「はぁ」
良子「お見合い写真と随分違うわね」
安西「あの写真は5年前のものなんで。その時より30キロくらい太ってます」
良子「カメラマンは自分の写真はなかなか撮らないものなのね」
美智子「お砂糖2杯でよかったわよね?」
安西「いいよ、自分でやるから」
美智子、安西のコーヒーカップに砂糖を入れる。小梅、飲んでいたコーヒーの手が止まる。
○サンマルクカフェ 店内
ランチの客で混雑中。小梅とるみ、ランチしている。
小梅「とまぁ、一事が万事こんな風でさぁ、40にもなってマザコンもいいとこよ」
るみ「さすが矢作課長の同級生!変わってる。でも、小梅がお見合いしただけ進歩だわ」
小梅「お見合い写真とはまるで違う百キロの巨体が現れたのよ。しかも1時間も遅れて。ありえなくない?」
るみ「笑える~。で、感触は?」
小梅「うーん、仕事もさ、最初は商社マンだったらしいけど、転職ばっかりで」
るみ「タクシー会社の事務っていってなかったっけ?」
小梅「それがどっこい、運転手よ、運転手」
るみ「アウト!商社マンだった人がなんでタクシーの運転手なのよ?どうすんの?」
小梅「タケシと比べると全然違うんだよね。スタイルとかさぁ」
るみ「タケシはもういないの。問題は好きになれそうかそうじゃないかよ。グズグズ言っても進まないの、小梅の悪い癖よ」
小梅「お見合いなんてしなきゃよかった。課長になんて言って断わればいい?~面倒臭いよ~」
るみ「嫌ならはっきり断わればいいの。次を紹介してくれるわよ。何たって小梅はお見合い課長の獲物に選ばれてるんですもの」
小梅「え~」
二人、席を立つ。
○新宿西口 地下(夕)
通勤客で人通りが激しい。小梅、歩いている。後ろから、走って良子が来る。
良子「小梅ちゃん」
小梅「(振り返り)あ、課長」
良子「お茶、ちょっといい?」
小梅「はい」
二人、カフェ珈人に入る。
○カフェ珈人 店内(夕)
数人の客がいる。向かい合って座る良子と小梅。テーブルにはコーヒー。
良子「その後、どんな感じ?会社じゃゆっくり聞けないからさぁ」
小梅「一度、お礼のメールはしましたけど、お返事が来ないので、そのまま・・・」
良子「次に会う約束とかしてないの?」
小梅「はい。連絡がないもんで。やっぱりお断りしていただいたほうが・・・」
良子の声「まったく今の若い子は世話が焼けるわ。電話よ、電話。電話してみなさいよ」
小梅「私のほうからですか?いやぁそれはちょっと~普通、男性から連絡するもんじゃないんでしょうか」
良子「小梅ちゃんも古いわね。そんなこと言ってるから、いつまでも嫁にいけないのよ」
小梅「はぁ」
良子「目黒にマンション持ってるし、美智子は、財産全て息子にあげるっていってるの。こんないい条件ないんだから」
小梅「でも、メールのお返事ないですし、私に興味ないのではないでしょうか。きっと、本人にその気がないと思います」
良子「今時は女性から積極的に行くの」
小梅「私にも好みが。マザコンはちょっと」
良子「あなたが躾ければいいのよ。とにかく連絡して頂戴」
○太田生命オフィス内
数人のスタッフと共にPCに向かう小梅。隣の席にはるみ。良子が来る。
良子「小梅ちゃん、ちょっと」
小梅「はい」
小梅、るみにしかめっ面をする。二人、廊下に出る。
○同・廊下
良子、小梅がオフィスから出てくる。
良子「昨日、美智子に電話してみたのよ」
小梅「はあ」
良子「息子さん、もう1回会ってもいいって言っているらしいの」
小梅「本人からは何も連絡ないですよ」
良子「奥手なのよ、こっちから積極的にいかなきゃ駄目。進むものも進まないわよ」
小梅「やぱりお断わりしていただ・・・・・・」
良子「1回会ったくらいじゃ駄目よ。何回か会ってから結論出しても遅くないから」
るみが近寄って来る。
るみ「課長、お電話です」
良子「わかったわね、段取りするから。小梅ちゃんで100組目の成功になるんだから、まとまってもらわないと!」
良子部屋に戻る。小梅、ため息をつく。
○焼き鳥 五平(夜)
小さな店。カウンターに座る良子と小梅。ビール片手に、焼き鳥を突いている。
良子「まさか、博君が少女盗撮で捕まるなんてね。変な男、紹介しっちゃったわねぇ」
小梅「テレビで安西さん逮捕のニュース見た時はびっくりしました」
良子「でね、こういう人がいるんだけど」
良子、バックから写真を取り出す。
良子「私の御客さんのご子息でね、とっても気立てがいいの。いい案件よ。どうかしら」
小梅「この写真、いつの写真ですか?」
小梅、写真を見る。
(終)
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