【登場人物】
前島 優佳(16、21) 元美少女戦士。現就活生
佐田 彩(16、21) 優佳の親友。
ニーナ(?) 戦士サポート妖精
小原さくら(16)女子高生
室井瑞希(15)女子高生
竹井 朱莉(15)女子高生
岡野大樹(28)優佳の先輩社員
石井梨華(32)元美少女戦士
高木雄二(回想時16)高校時代の優佳の彼氏
和田今日子(回想時30)優佳の担任
宮本凛(回想時18)
間宮幸助(回想時28)サラリーマン
間宮涼子(回想時26)幸助の妻
男子生徒
女子生徒
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○ビルの一室・面接会場
無機質な部屋。面接官4人と就職活動生3人が向かい合って座っている。
一番左に座る優佳。
男性面接官(46)「では自己紹介と自己アピールをお願いします」
優佳、緊張した口ぶりで答える。
優佳「はい、栄進大学・経済学部から参りました前島優佳と申します。大学では経済学を学ぶとともに、英語の習得に力を入れました。2年生の時、夏季休暇の2か月間を利用しオーストラリアへ留学し、語学学校へ通いました。その中で様々な国籍の友人と積極的にコミュニケーションを取り、実用的な英語の習得とともに、他国と日本の違いを肌で感じとることができました」
(回想)
○オーストラリア・クラブ(夜)
アジア系の友人数人と騒ぐ優佳。
スラング英語が飛び交う。
優佳、現地男性にナンパされクラブを出ていく。
(回想終わり)
優佳「また、私は困っている人を放っておけない性格です。大学ではしばしば友人たちに頼りにされていました」
(回想)
○大学・教室(朝)
教室の後ろの席に一人座る優佳、
スマホのバイブが鳴り、鞄の中からスマホを取り出す。
メッセージ『FROM浜口綾乃 優佳ごめん!代返お願い!』
優佳「もううううう……」
教材で顔を隠す優佳。
教授「浜口―」
優佳「はい(声色を変える)」
教授、教室を見回す。
教授「……浜口―」
優佳「……はい」
教授、優佳を凝視。教授と目が合い気まずい表情の優佳。
生徒の視線が優佳に刺さる。
(回想終わり)
男性面接官「わかりました。えー、英語を学んだとのことですが、TOEICのスコアは?」
優佳「え?あ、受けたこと、ありません……で、でも!これから受講します!」
男性面接官「では、弊社の志望動機を英語でお話しいただけますか?」
優佳「え?あ、えーっと……アイウォントゥーワークヒア……ビコーズ……あー」
首をかしげる面接官。
優佳「へへへ……すいません」
面接官、表情を変えず資料に目を落とす。
男性面接官「……えー、では、困っている人を放っておけないとのことでしたが、ボランティア等の活動歴がおありで?」
優佳「……いえ、ありません……」
男性面接官「……そうですか。ありがとうございました」
優佳「ありがとうございます……」
男性面接官「では、次の方」
優佳の隣に座る就活生が明朗に話し出す。
気まずい表情の優佳。
○同・廊下
優佳、面接会場から退出する。
優佳「失礼いたしました……」
優佳、ため息をつき歩き出す。
○カフェ・窓際の席(夕)
テーブルの上に置いたスマホを見つめる優佳。
企業からの選考結果のメールが届いている。
優佳、意を決しメールを開く。
メール『厳正なる面接選考の結果、誠に残念ではありますが、今回は採用を見送らせていただきます』
優佳、スマホを鞄に投げ入れる。
優佳「はああああああ!」
彩がカフェへ入ってくる。
彩「優佳―、ごめん!お待たせ!」
優佳「ううん」
優佳、作り笑顔で返事をする。
× × ×
コーヒーを飲みながら向き合う二人。
彩「……調子どう?」
優佳「全然だめ」
彩「そっか……」
優佳「はあー……もうだめだ。こんなにだめだとさ、人間性を否定されてるような気になってくるよ。お前は世の中に必要のない人間だ!って」
彩「そんなことないよ!その企業とはご縁がなかったってだけだって!」
優佳「彩はいいよね。春のうちに内定もらってさ。希望の業種に行けたわけだし。あーどうしよう!だってもう秋だよ?絶望的じゃない?彩は昔からなんでも上手くやるよね本当に……」
彩「そんなこと……」
優佳「あーもう!ごめん!私今すごい僻み言ってるね」
彩「気にしないで」
優佳「嫌だ嫌だ!本当にごめん。あ、ケーキ頼もうかな」
彩「そ、そうだね!食べよう食べよう!はい、メニュー」
メニューを優佳に手渡す彩。
彩「あ、そうだそうだ!優佳、彼氏とは仲良くやってる?すごいラブラブだもんね!年上で余裕ある感じだし!今度私の彼氏と4人で鍋パでもしない?息抜きにさ!」
優佳「……別れた、昨日」
優佳、メニューから目を上げずに答える。
彩「え!?」
優佳「……奥さんいた」
彩「え!」
優佳「……妊娠中の」
彩「……」
優佳「……」
無表情でメニューをめくる優佳。
テーブルを見つめる彩。
○マンション・外観(夕)
マンションに入っていく優佳の後ろ姿。
○同・優佳の部屋(夕)
鍵を開けて玄関で立ち止まる優佳。
脱いだ服や食器類がそのままになっている散らかった部屋を見渡し、ため息をつく。
奮い立たせるようにカーテンレールに干したままのバスタオルと着替えを取り、バスルームに入る。
× × ×
優佳、バスルームからパーカーとジャージ姿で出てくる。
玄関先にある姿見鏡を使い、重い前髪をちょんまげにする。
おでこには大きな傷跡。
優佳「……よし」
優佳、部屋の片づけを始める。
脱いだままの服を洗濯機にぶち込み、カーテンレールに干された洗濯物を引きちぎるように取る。シンクにたまった食器を洗う。
テーブルの上の郵便物をまとめていると、昨日別れた彼氏の電子タバコがあることに気づき、手が止まる。
優佳「うわあああああ~~~!忘れてんじゃねーよおおおお!もう~~~~!」
優佳、そのままベッドに倒れこむ。
× × ×
薄暗い部屋の中でテレビの音が響く。
優佳「ふはははは……」
中途半端に散らかったままの部屋の中で缶酎ハイとスナック菓子をつまみながらテレビを見ている優佳。
テーブルの上に置いてあるスマホのバイブが鳴る。
優佳、スマホの画面をのぞき込む。
メッセージ①『FROM卓也 優佳の部屋に電子タバコ忘れてるよな』
メッセージ②『FRM卓也 捨てておいてもらえる?』
メッセージ③『FRM卓也 本当にごめん』
優佳、スマホからテレビに視線を戻す。
テレビの音量を上げる。
優佳「ふはははは……はあ」
優佳、ベッドに飛び込む。
優佳「はあああああ」
優佳、ベッドの上でのたうち回る。
× × ×
ベッドに飛び込んだままの形で寝落ちしている優佳。
ニーナ「優佳?あなた優佳で合ってるわよね?」
優佳、いきなりの優しく高い声に目を覚まし、勢いよく起き上がる。
ベッドの淵に人形のように佇むニーナ。
ニーナ「私の声が聞こえているってことはあなた、優佳ね」
優佳「……ニーナ?え?ニーナ!」
ニーナ「久しぶりね」
優佳「え!本当にニーナなの!?久しぶり!」
ニーナ「また会えて嬉しいわ。……にしても、なんだかあまり良い状況ではなさそうね」
ニーナ、部屋全体を見渡す。
優佳「え?あ、いや、これは……そうだね。ちょっとね。……ていうか、そんなことより、何?どうしたの?何かあってここに来たんでしょ?」
ニーナ「そう。そうなの。残念なお知らせよ。あなたが5年前に戦ったブラックコスモが復活したの」
優佳「え!そんなはずない!だって、私あの時ちゃんとコスモボックスに封印したはずじゃ……」
ニーナ「ええ。あなたはよくやったわ。……でも、封印が破られたの。きっと、ボックスの中で力を蓄えていたのね。今はまだ封印が破られてから間もないし、ブラックコスモは弱小化したままだけど、きっとすぐに元の力を取り戻すわ。5年前みたいにまた……人々は悪夢の中を彷徨い続けることになる」
優佳「そんな……」
(回想)
○体育館(夜)
並ぶベッドの上でうなされる人々。
奔走する医師・看護師。
それぞれのベッドの傍らで泣き、手を握る付き添いの人々。
立ちすくむ優佳、目には涙が浮かぶ。
優佳、肩に乗っているニーナ(他の人間からは見えていない)と目を合わせうなずく。
優佳、体育館の外へ走り出す。
(回想おわり)
ニーナ「仕方がないことよ。封印を破られるなんて誰も予想できなかったもの。もう一度言うけどあなたはあの時、本当によくやった。一度は世界を救ったんだもの。それであなたには」
優佳「わかった!私、またがんばるよ!」
ニーナ「え?」
優佳「就活中だし高校生の時みたいに体力もないからちょっと大変かもしれないけど……でもやっぱり私はこの世界の人々を助けたい!誰にも感謝されなくても……それでも私は!」
ニーナ「優佳、違う」
優佳「え?」
ニーナ「戦うのはあなたじゃないわ。あなたじゃもう無理なのよ」
優佳「……無理?」
ニーナ「あなたはもう21歳でしょ?その、いろいろと知りすぎていると都合が悪いから。だから、あなたには……」
優佳「……ううう」
泣き出す優佳。
ニーナ「え……何?優佳、どうして泣くの?」
優佳「う、う、う、ニーナ、ごめんなさい。あの、その、私はもう誰にも必要とされないんだって思うと辛くなって……。社会にも、彼氏にも……世界にも……。誰にも知られていなくても5年前に世界を救ったていうことだけが私の誇りだったからああ!面接で世界救いましたって言えないの、すごく悔しかった!2か月も留学させてもらって、英語も満足に話せない上に、世界を救うことでさえ、できなくなっちゃったら……私、もう……もう、本当の役立たずじゃないのおおおお!」
引いた表情で優佳を見るニーナ。
ニーナ「もう、何なのよ。大丈夫?落ち着いて」
優佳、鼻をかみ、早口で話し出す。
優佳「ニーナ、聞いてくれる?私今終活中なんだけど、本当に上手くいかなくて。面接官のおじさんたちってろくに世界も救えないくせして、私の評価をTOEICのスコアとかボランティア歴で計ろうとするの。形として残っているものでしか私を見てくれない。それにね!何十分もかけてエントリ―シート書いて、面接までこぎつけたら、着慣れないスーツ着て、おじさんの圧迫感を感じながら自己アピールとかしないといけないんだけどね、それってすごく緊張するし、大きい負担じゃない?私たちはそんな苦労をかけて臨んでるのに、不採用の通知はメール1本なのよ。そんなことがあっていいと思う?ねえ、ニーナ。それに私、バイト先の店長と付き合ってたんだけどね、うまくいってると思ってたら、不倫だったの。私はそんな状況でバイトなんてできないからバイト辞めたんだけど、卓也くん…店長は……仕事も続けてるし結婚生活も続けてるの。失ったものと言えばこの電子タバコくらいなの。すごく不公平だと思わない?そりゃあ電子タバコのひとつやふたつ、痛くもかゆくもないでしょうよ。」
優佳、電子タバコを床に投げつける。
優佳「うわあああああん」
ニーナ「……これで終わり?」
優佳「……あ、うん。ごめん。ありがと」
ニーナ、冷静に話し出す。
ニーナ「じゃあ……時間もないし私の話を続けるわね。あなたは役立たずなんかじゃない。面接官や卓也くんにとってどうなのかは知らないけど、少なくとも世界にとってはね。今日、私がここに来たのはあなたに重要な任務を任せるためよ」
優佳「え?任務?もう私戦えないんじゃ……?」
ニーナ「そうよ。あなたはもう戦えない。でも、新しく戦士を選ぶことができるの。世代交代。あなたにしかできないことよ」
優佳「私にしか……?」
ニーナ「そうよ」
優佳、ティッシュで乱暴に顔を拭く。
優佳「どういうこと?」
ニーナ「心配はいらないわ。戦士を選ぶって言ってもあなたが街でスカウトしてくるわけでも、オーディションの審査員をするわけでもないのよ。私が候補者を何名かピックアップする。あなたが実際に戦ってきた経験を踏まえて、その中からふさわしい子を選ぶっていうだけの話。まあ儀式みたいなものよ」
優佳「ふさわしい子……」
ニーナ「そうよ。あなたも前の戦士・梨華から選ばれたのよ。梨華とあなたの間は15年空いていたから、今回と少し状況は違ったけどね」
(回想)
○マンション・リビング(朝)
てきぱきと洗濯物をベランダから取り込む石井梨華(32)。
ニーナ、宙に浮いて梨華の視界に入り込む。
ニーナ「だから!新しい戦士の選出をお願いしているの!」
梨華「ニーナ、ごめん!あと少しだけ待ってくれる?あの子が寝てる間にいろいろと済ましておかなきゃ……」
ベビーベッドの中で赤ちゃんが泣きだす。
梨華「あーもう起きちゃった」
梨華、ベビーベッドに駆け寄り赤ちゃんを抱き上げてあやす。
梨華「起きちゃったねえ。よしよしよし」
呆れた顔で梨華を見つめるニーナ。
梨華「その、一番運動神経が良い子!その子で良いと思う!」
ニーナ「え?」
ニーナ、空間にバスケットボールの試合でシュートを決める優佳の映像を映し出す。
ニーナ「この子?」
梨華「そう。その子。えーっと、優佳ちゃん?決定。あとはお願い」
梨華、赤ちゃんをあやした状態のまま答える。
ニーナ「……」
ニーナ、ぷかぷか浮きながら梨華と赤ちゃんを茫然と眺める。
(回想おわり)
優佳「……へえ。知らなかった……私の適正を見抜いて先輩が選んでくれたっていうことなのね」
ニーナ「……え、ええ。そう、そうよ」
優佳「ちょっと嬉しい……」
ニーナ「……あ、あなたはちゃんと選ばれた子なのよ」
優佳「でも、ちょっと待って?戦士って私で何代目なの?」
ニーナ「えーっと、確か23代目。大昔からあるのよ。そうやって密かに平和は守られてきたの」
優佳「えええ!……ていうことはブラックコスモって何回も復活しているってこと?」
ニーナ「いいえ。ブラックコスモはあなたの代で発生した新規の悪」
優佳「新規の悪……」
ニーナ「そう、新規。あなたの前の戦士が戦っていたのはトランプの中に人々の希望を閉じ込めてマジックで消しちゃうっていうとんでもない奴だったわ。確か、名前はデスジョーカー」
優佳「デスジョーカー……」
ニーナ「デスジョーカーも2度復活をして梨華の代で根絶できたの。その前はシャドウスパイダー、その前はバイオクラッシュ」
優佳「へえ」
ニーナ「だいたいのことは理解できたかしら」
優佳「うん」
ニーナ「他に質問は?」
首を横に振る優佳。
ニーナ「じゃあ、説明を続けるわね」
優佳、散らかったテーブルからリモコンを掘り出し、テレビを消す。
優佳「ニーナ、ごめん。私にはできない」
ニーナ「何を言っているの?……このまま、ブラックコスモに世界を乗っ取られてもいいってこと?悪夢にうなされて苦しむ人を優佳は見捨てるってこと?」
優佳「そうじゃない。私じゃなくて、ニーナが選べばいいじゃん」
ニーナ「……え?」
優佳「私、戦士として世界を救ったっていうのは確かに誇りだし、すごく貴重な経験だったと思ってる。だけどやっぱり、つらいことのほうが多かったの。犠牲にすることもたくさんあったし。5年前も……今も……。自分が選んだ子にそんな思いをさせたくないの。私はその子の人生に責任を負えないから。だからニーナが選んでよ」
ニーナ「……あなた、臆病者ね。あなたのそのくだらない責任感のせいで世界は悪夢に魘されることになるわ」
優佳「だから、ニーナがやればいいんじゃないの?」
ニーナ「私が選ぶことはできないのよ。私は戦士をサポートするために生まれてきた妖精なの」
優佳「そんなの……何で妖精が選んじゃダメなのよ……」
ニーナ「そんなの知らないわ。考えたこともない」
優佳「だったら!」
ニーナ「嫌よ。サポート以外のことはしないの。できないの」
優佳「全然納得できないんですけど」
ニーナ「とにかくあなたがやらなきゃいけないの!それに、あなたは自分のことを戦士OGか何かと思っているかもしれないけど、あなたはまだ現役戦士よ」
優佳「……ど、どういうこと?戦えないのに?」
ニーナ「ええ。戦士の魂はまだあなたに宿っているから。次の戦士を選ばない限りずっと戦えないだけで現役戦士よ。次の戦士を選んでその子に魂を受け渡すまでが、戦士としての仕事なの。その証拠にあなたは私のことがまだ見えているでしょ?私は戦士にしか見えない、戦士をサポートするためだけに生まれた妖精だから。ここであなたが選出を拒否すると世界はダークコスモのものになるし、あなたは誇りにしていた戦士の責務を全うせずに放棄することになるわ」
優佳「何それ……」
ニーナ「あなたにしかできないって言ったでしょ」
優佳「でも……」
ニーナ「まだ何か不満があるの?もうあなたの話は聞くのはうんざり。独り言だと思ってもらって構わないけど説明だけさせてもらえる?」
優佳「……」
ニーナ「私がピックアップした3人の女の子の資料がフェアリーズアイの中に入っている。フェアリーズアイはまだ持っているわよね?使い方は覚えている?」
優佳「まあ……」
ニーナ「3人とも都内の高校に通う女子高生。体力があって正義感が強くて素直で口が堅い。あと、ご両親が緩い。これは割とと重要なの。夜に出てもらうことも多いから。あなたはここから一人選ぶの」
優佳「……」
ニーナ「3日後のこの時間にもう一度ここに来るわ。その時に答えを聞かせて。説明は以上」
優佳「……」
ニーナ、机の上に移動。優佳に背を向けてしゃべりだす。
ニーナ「……確かに人間の女の子にとっては大切な時期よね。青春とか言うんでしょ?戦士になることで何かを犠牲にするかもしれないけど、そんなの取るに足らない問題よ。悪いけど、私は世界を救う戦士のサポートのためだけに生まれてきた妖精だからそんな個人的な問題は理解できないの。多分、理解する機能がないの。世界を救うよりも良いことは無いし、世界が滅ぶよりも悪いことはないわ」
優佳「でも……」
ニーナ「それじゃあ行くわね。また3日後」
キラキラと音を立てて消えるニーナ。
優佳「えええ……」
茫然と空間を見つめる優佳。
× × ×
机の引き出しの奥からピンクのコンパクト(フェアリーズアイ)を取り出し、ベッドに腰掛ける。
(回想)
○学校・体育館(夕)
ユニフォーム姿でバスケットのシュート練習をする優佳(16)。おでこ全開、前髪も後ろ髪もぴったりとまとめたポニーテール。
足元にフェアリーズアイが落ちていることに気づき拾う。
優佳「ん?なにこれ」
ニーナ「優佳ちゃん、こんにちは」
優佳、声がした後方へ振り向く。
宙に浮くニーナに驚き尻餅をつく。
優佳「え!?」
ニーナ「驚かせてしまってごめんなさい」
優佳「……い、いえ」
ニーナ「今、世界は危機に直面しているの。そして、あなたは世界を救う戦士に選ばれた」
優佳「え?」
ニーナ「私はあなたのサポート役。ニーナっていうの。妖精よ」
優佳「え、なにこれ!しゃべれるの?かわいい!」
優佳、ニーナに駆け寄り頭をなでる。
ニーナ「お褒めの言葉ありがとう。これからがんばりましょうね」
優佳「うん!いいよ!戦士ね!きゃーかわいい!」
体育館の中心でニーナを撫でまわす優佳。
ニーナ「あのね、私は戦士以外の人からは見えないの。だからもし今誰かがここへ来たらあなたはとても変な人よ」
優佳、ニーナを撫でまわす手を止める。
優佳「……」
ニーナ「優佳、これからよろしくね」
(回想おわり)
優佳、フェアリーズアイを開き新しい戦士の情報を空間に映し出し、流し見る。そのままベッドに寝ころぶ。
おでこの傷跡に触る。
(回想)
○街中(深夜)
眠っている市民を襲おうと民家に侵入しようとするブラックコスモ。
優佳(16)、ブラックコスモに攻撃を仕掛け阻止する。
不意打ちにブラックコスモの攻撃を受け、吹き飛ばされる優佳。おでこから出血。
優佳「痛あああ!やばい!もー!最悪!」
優佳、攻撃姿勢に戻り、ブラックコスモへ向かっていく。
× × ×
その場が納まり、すぐに手鏡で傷を確認する優佳。
優佳「うわあああ、結構ざっくり切れてる!痕残りそう……ニーナあああ、これって治せない?」
ニーナ「無理ね」
優佳「ええええ!うそ!?何でよ!サポートしてくれるんじゃないの?」
ニーナ「その傷があってもなくても世界は救えるから」
優佳「そんな……」
○学校・教室(朝)
彩、席に座っている優佳に後ろから声をかける。
彩「優佳!おはよう!」
振り向く優佳。
優佳「おはよう」
彩、優佳の顔を見て表情を曇らせる。
彩「え……どうしたの?その傷」
優佳「ちょっとね」
彩「もしかして……(大声で)高木に暴力ふるわれてる!?」
クラスメイトの視線が優佳と彩に集まる。
優佳「ち、違う違う!」
彩「つらかったね。気づいてあげられなくてごめん……」
優佳「いや、だからこれは!」
彩「隠さなくてもいいよ。あいつ、最低!絶対許さない!」
優佳「違うって……」
彩「優佳、あんまりひとりで抱え込んじゃダメだよ……何でも相談して」
彩、優佳を優しく抱きしめる。
優佳「彩、本当に違う。違うって……」
○体育館
バスケのユニフォーム姿の優佳と高木祐二(16)。向かい合って立っている。
高木「その傷さ、俺が暴力ふるってるって噂になってんだけど……」
優佳「え!?」
高木「お前の友達にすげえ目で見られるしさ」
× × ×(フラッシュ)
彩の嫌悪感たっぷりの様子で睨みつける顔。
× × ×
優佳「え!?」
高木「ごめん。俺、部活に集中したい」
優佳「え!?」
優佳を残し、出口へ向かう高木。
優佳「えええ……」
体育館に一人残される優佳。
○教室(朝)
優佳、教室のドアを開け自分の席に向かう。
クラスメイトたち、こそこそと噂話をしながら優佳を見る。
優佳の席に駆け寄る彩。
彩「おはよう優佳!前髪作ったんだ……」
優佳「うん」
眉下のぱっつん前髪の優佳、半分諦めた表情で席に座っている。
彩「似合ってるよ」
彩、優佳を強く抱きしめる。
優佳「あはは……ありがとう」
優佳、困った顔で笑う。
彩、優佳から離れ優佳の顔を心配そうに見つめる。
(回想おわり)
優佳、傷痕に触りながら目を閉じ大きく息を吐く。
ベッドから面倒くさそうに起き上がり電気を消す。
○マンション・優佳の部屋(夕)
リクルートスーツを着た優佳、疲れた表情で帰宅。早々、ベッドにダイブする。
テーブル上に置きっぱなしのフェアリーズアイに目をやる。
優佳「あー……」
優佳、起き上がり、フェアリーズアイを手に取る。戦士候補の映像を空間に映し出す。
(映像1)
○学校・教室
T『候補者①さくら(16)』
窓際の席でひとり本を読む小原さくら(16)。
教室に入ってきた女子生徒A(15)がさくらの席に駆け寄る。
女子生徒A「さくらー、聞いてよ!彼氏が部活の後輩と二人で出かけてたの」
さくら「え、なにそれ。許せない」
女子生徒A「でしょ!?それに見てよ、これ!その後輩のツイッター」
女子生徒A、さくらの目の前にスマホの画面を向ける。
ツイート①『Haruka はあ、どうしよう。好き』
女子生徒A「ねえ、これ、時間的にもデートした帰り道にツイートしてるし。完全に彼のことだよね」
女子生徒A、さくらの机に突っ伏せる。
さくら「……彼、何組だったっけ」
女子生徒A「え……C組だけど……」
さくら「その子は?」
女子生徒A「確か1年A組の子……」
さくら、読んでいた本を閉じ立ち上がる。
さくら「行ってくる」
女子生徒A「え、ちょ、ちょっと待って」
さくら、教室の出口に向かって歩き出す。
追いかける女子生徒A。
女子生徒A「ちょ、ちょっと、何するつもり?」
さくら「まかせて。二人とも立てないようにしておくね」
女子生徒A「え!?」
教室を出ていくさくらの後ろ姿を見つめる女子生徒A。
(映像1 おわり)
優佳、静かに映像を消す。
優佳「さくらちゃん……えぐめの正義感」
フェアリーズアイを操作。
(映像2)
○カラオケBOX
T『候補者②瑞希(15)』
マイクを持ち立ち上がる室井瑞希(15)。
瑞希「盛り上がっていくよー!」
一同「イエ――――イ!」
制服のまま盛り上がる男子3人・女子3人。
端でひとり携帯をいじる男子生徒A。
瑞希、男子生徒Aに気づく。
瑞樹「ちょっとそこ!盛り上がり足りないよ!ほらほら!」
男子生徒Aのそばに行き、腕を持って無理やり立ち上がらせる瑞希。
男子生徒A「わかったわかった!」
瑞希、男子生徒Aの肩を組み歌いだす。
盛り上がる一同。
(映像2 おわり)
優佳、のフェアリーズアイの音量を下げる。
優佳「瑞希ちゃんか、明るいなあ……若いなあ……」
優佳、フェアリーズアイを操作。
(映像3)
○校庭・テニスコート
T『候補者③朱莉(16)』
テニスコートに日が照り付けている。
朱莉、前方から絶え間なく打たれる球を汗だくになりながらひたすら打ち返す。
ボールをラケットで打つ音がリズムよく響く。
(映像3 おわり)
優佳、ベッドから起き上がりため息をつく。
優佳「……朱莉ちゃん部活してるのか」
(回想)
○一軒家・優佳の部屋(深夜)
音を立てないよう窓から自分の部屋に入る優佳(16)。そのままベッドにもぐりこむ。
ベッド脇の目覚まし時計は2時を回っている。
優佳「ふう……つーかーれーたあああ」
ニーナ「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
優佳「うん。おやすみニーナ」
すぐに眠りにつく優佳。
ニーナ、部屋の電気を消し、キラキラと音を立てて姿を消す。
○同(朝)
ベッドに光が差し込む。
目覚まし時計は9時10分。
優佳、目を覚まし天井を見つめる。
優佳「……ん?」
慌てて起き上がる優佳。
優佳「うわああああああ!」
○学校・教室(朝)
教室に飛び込む優佳。
授業中の生徒たちの視線が集まる。
和田今日子(30)「前島さん、もう今月遅刻何回目?いい加減にしなさい」
優佳「……すいません」
とぼとぼと席に着く優佳。
○同・体育館(夕)
ボールのバウンド音や部員の掛け声が響く。
優佳「朝練、参加できなくてすいませんでした!」
勢いよく頭を下げる優佳。
宮本凛(18)、腕組をして優佳に向き合う。
凛「また?もう一回やったらレギュラーおろすって言ったよね?やる気ないでしょ?」
優佳「……」
凛「もういいよ」
× × ×
優佳、体育館の脇で練習の見学をしている。
ニーナ、優佳の前にいきなり現れる。
ニーナ「優佳」
優佳「わ!」
練習中の部員たち、優佳に注目する。
気まずい表情であたりを見渡す。
優佳「……すいません」
練習再開する部員たち。
ニーナ「出動よ」
優佳「……」
練習風景をそのまま眺める優佳。
ニーナ「しゅ・つ・ど・う!早く。」
優佳「……わかった」
優佳、凛のところへ走っていき、頭を何度も下げる。
凛、優佳を冷たくあしらう。
優佳、最後まで先輩に頭を下げ、体育館出口へ走っていく。
○学校・教室(夕)
帰り支度をする彩(16)。
優佳、彩の席に近づき話しかける。
優佳「彩、一緒に帰ろう」
彩「あれ?優佳、今日部活は?」
優佳「あー、部活ね……やめた」
彩「え!?そうなの?」
優佳「うん」
彩「……そっか」
優佳「……うん」
彩「……帰ろっ!」
仲良く教室を出ていく優佳と彩。
(回想おわり)
優佳、溜まった涙を拭き、フェアリーズアイをテーブルに置く。
ベッドで仰向けに寝転び大きく息を吐く。
○カフェ・窓際のテーブル(夕)
向かい合って座る優佳と彩。テーブルの上のメニューを一緒に見る。
彩「じゃあ、今日は……チーズケーキにしようかな。優佳は決まった?」
彩、メニューから顔を上げ優佳を見るる。
優佳、彩の声が耳に入らずぼんやりと外を眺めている。
彩「ねえ優佳。大丈夫?ぼーっとしてない?」
優佳「え?」
彩「あ、就活……?ごめん」
優佳「え?あ?違う違う」
彩「違うの?」
優佳「あ、まあもちろん就活も悩んでるけど……」
彩「……ま、いろいろあるよね!あんまり抱え込みすぎないようにね」
優佳「……」
彩「そういえば!卒業旅行だけどさ」
優佳「ふふふ。彩、ありがとうね」
彩「え、何?いきなり。気持ち悪い」
優佳「私があんまり理由とか言いたくなさそうだと思って話題変えたんでしょ?」
彩「……」
優佳「私がバスケ辞めた時も、何にも聞かずにただ一緒に帰ったり、遊んだりして……本当にいつも……」
彩「優佳、あのさ、ずっと謝りたかったことがあるの。優佳のおでこの傷……大きな声で彼のDVだって言っちゃったことあったでしょ?今更だけど……ごめんね。あの頃の優佳、いつも疲れてて元気ないように見えてたから……私、心配で先走っちゃっていろいろやっちゃってさ。大きなお世話だったよね」
優佳「……」
彩「あの時、私的には優佳を助けたぞって気持ちだったんだ。でもなーんか、優佳は悲しそうな顔してたんだよ」
優佳「気づいてたんだ」
彩「その時に私間違っちゃったかもって思ったの」
優佳「彩……」
彩「そりゃあ言えないこともあるでしょ。親友でも家族でも。言いたいことは言う、言いたくないことは言わない。私はただ優佳と一緒にケーキを食べる。それだけでいいよ」
優佳「何それ。ふふふ。私、失ったものにしか目がいってなかったんだ……」
彩「高校で私と出会えて良かったね。で、ケーキ決まったの?」
優佳、きょとんとした顔。
二人で笑いあう。
○帰り道・歩道(夕)
家に向かって歩く優佳。
(回想)
○体育館(明朝)
並ぶベッドの上でうなされる人々。
医師・看護師は疲弊しきっている。
真ん中あたりのベッドでうなされる間宮幸助(28)、急に目を醒ます。
付き添いの間宮涼子(26)、ベッドの脇で男性の手を握り突っ伏している。
幸助「おはよう……」
顔を上げる女性。
涼子「……え」
次々と目を醒ます人々。
各々が抱き合い喜ぶ。
× × ×
入り口で体育館の中を満足げに見守る優佳、肩に乗るニーナにピースサインを送る。
(回想おわり)
はにかみながら歩く優佳。少しずつ早歩きになり、走り出す。
○マンション・優佳の部屋(夜)
部屋着にちょんまげ姿の優佳、
てきぱきと片付ける。
テーブル上の書類をまとめ、手元にあった元カレの電子タバコをゴミ箱にシュート。
優佳「よし」
優佳、小さくガッツポーズ。
そのまま、電気を消す。
○マンション・優佳の部屋(深夜)
テーブルにフェアリーズアイを置き、まっすぐ座る優佳。
空間に映像を映し出す。
(映像3)
○学校・教室(夕)
T『候補者③朱莉(15)』
静かな教室に西日が差す。
朱莉と南田恭吾(15)、向かい合って立つ。
他に生徒の姿はない。
朱莉「あの……好きです。付き合ってください」
南田「ごめん……朱莉とは友達でいたい」
朱莉「そ、そっか!ごめんごめん。ちょっと言ってみただけだよ。これからもよろしく」
南田「おい、なんだよ。びっくりするじゃん。からかうのやめろよ」
朱莉「あははは……ごめんごめん。じゃ、私これから部活だから……じゃあね!」
朱莉、南田に背を向け、教室のドアへ向かって歩き出す。
南田「あ、朱莉!」
朱莉、期待した表情で振り返る。
南田「あのさ、朱莉の友達のさ里奈ちゃんいるじゃん?」
朱莉「……は?」
南田「紹介してくれね?」
朱莉「……」
南田「頼むよー。こんなこと頼めるの朱莉だけなんだよ」
朱莉「……もう!面倒くさいわ!あーもう……仕方ないなあ……里奈に言っとく」
南田「まじで?やった、サンキュー。またみんなで遊び行こうぜ」
朱莉「う、うん」
南田「じゃあな」
軽い足取りで教室から立ち去る南田。
教室に取り残され、茫然と立つ朱莉。
朱莉「あいつ、まじか……」
(映像3 おわり)
優佳、静かにフェアリーズアイの一時停止ボタンを押す。
映像の中の朱莉、目が半開きの状態で一時停止。
優佳「えー……このシーン要る?」
ニーナ、キラキラと音を立てテーブルの上に現れる。
優佳「うわあ!」
ニーナ「お待たせ」
優佳「う、うん」
ニーナ「決まった?」
優佳「……うん」
ニーナ「聞かせてもらえる?」
優佳「この……朱莉ちゃん」
優佳、半目の状態で一時停止している朱莉を指差す。
ニーナ「なぜ?」
優佳「いや……いたたまれなくて」
ニーナ「え?」
優佳「……」
ニーナ「まあ……わかったわ」
優佳「自分で責任とか言ってたくせに、選ぶってなったらあまり深く考えられないもんだね」
ニーナ「実はそれ、よくある話なの。でもね、そうやって偶然に近い形で選ばれた子のはずなのに、途中で放り出した戦士は今までで一人もいないの。そんなものなのよ」
優佳「そんなもの……ね」
半目の朱莉をぼんやり見つめる優佳。
ニーナ「ええ」
優佳「ねえ、ニーナは戦士のサポートをするのが仕事なのよね?」
ニーナ「そうよ」
優佳「それじゃあ朱莉ちゃんに、戦士をすることで悩むことが必ずあるけど絶対に乗り越えられるって伝えてくれる?……私はまだ乗り越えられてないけど……」
ニーナ「わかったわ。伝えておく」
優佳「ありがとう」
優佳、フェアリーズアイを操作し、一時停止中の映像を切る。
ニーナ「あのね……あなたの先輩戦士たちもあなたのように戦士を終えた後に悩みを抱えて生きていたわ。命を懸けて戦ったのに誰からも認められずに、つらい思いをするのね。でもあなたは何だってできるわ。だって世界を救ったんだもん。それよりも良いことなんてないわ。朱莉ちゃんのことは私に任せて」
優佳「ニーナ……」
ニーナ「あと……これは、戦士としての仕事を全うした子に与えられる権利なんだけど……もしあなたが望むなら、戦士に関する記憶を全て消すことができるわ。身体に残った傷を消すことはできないけどね。これから生きていく中で記憶が邪魔になることもあるでしょ?……どうする?」
優佳「……私の唯一の誇りだから。残しておいて。でも、世界を救うよりももっと自分の中で誇りに思えることをこれから見つけていく」
ニーナ「世界を救うよりも誇りに思えること……戦士たちはみんなそう言うわね。そんなものがこの世にはあるのね。散々つらいだの、青春返せだの言うくせに。人間って不思議」
優佳「ふふふ」
ニーナ「じゃあ、これであなたの戦士としての仕事はおしまい。お疲れ様。本当によくやったわ。……じゃあ、お別れよ」
優佳「うん」
ニーナ「ありがとう、優佳」
キラキラと音を立てて消えるニーナ。
テーブルにあったはずのフェアリーズアイも消えている。
優佳「ありがとう」
きれいに片付いた部屋の真ん中にひとり残される優佳。
○オフィス街・半年後(朝)
街路樹の桜が揺れる。
スーツ姿のサラリーマンが行きかう。
岡野大樹(28)に連れられて歩くスーツ姿の優佳。
岡野「さっきの取引先は納期の前日に必ずリマインドをよこすから、それよりも早く上げたほうが良いよ。覚えておいてね」
優佳「……は、はい」
優佳、鞄から手帳を取り出しメモを取る。
岡野「じゃあ次。15分後に次の取引先にアポ入れてるから。ちょっと、急ごうか。今日はこの後あと2件回るから」
優佳「はい!」
優佳、メモを急いで鞄に突っ込み岡野についていく。
人混みの中に消えていく二人。
○オフィス(夕)
壁掛けの時計は6時を指す。
続々と社員たちが仕事を済ませ退勤していく。
岡野「じゃあ、お疲れ」
岡野、片付けを終え席を離れる。
優佳「あ、お疲れ様です」
優佳、一息つきデスクの片づけを始める。PCをシャットダウンし席を離れる。
○駅・構内(夕)
優佳、人混みの中を少し疲れた顔で歩く。
○電車・車内(夕)
優佳、満員電車のつり革につかまり立つ。停車の揺れに煽られながらも無の表情。
○駅・ホーム(夕)
乗り換えの電車を疲れ切った表情で待つ優佳。
優佳以外にも数人同じ電車を待つ。
○電車・車内(夜)
比較的空いている車内。
優佳、電車に乗り込むと、何の気なしに車内を見回す。
端の座席に座り無防備に居眠りをする朱莉を発見する。
優佳「あ……」
発車する電車。
優佳、朱莉の近くまで歩み寄り、向かい側の座席に座る。
朱莉、何も気づかず寝たまま、電車に合わせて大きく揺れている。
優佳、笑いをこらえつつ見守る。しばらくの間、観察を続ける。
朱莉、急に目を覚まし抱えている鞄に目をやると真剣な表情になる。
優佳「お?」
電車は次の駅に到着する。
車内アナウンス『開くドアにご注意ください』
朱莉、ドアが開くと鞄に向かって小さくうなずき、急いで電車を降りる。
○駅・ホーム(夜)
駅のホームを走る朱莉。
停車している車内から朱莉を見つめる優佳、朱莉の鞄に向かってピースマークを送る。
朱莉、自分に向かってピースマークをしている優佳に一瞬気づくが、気にせず全速力で改札に向かう。
○電車・車内(夜)
車内アナウンス『ドアが閉まります』
ドアが閉まり発車する電車。
優佳、笑いがこらえきれずに吹き出してしまう。
周りの目を気にしつつニヤニヤしながら車窓を眺める。
(了)
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