たのしいばしょ 学園

テニス部を辞めた高橋は、教師に言われるがまま、たまたま目についた民俗学研究部に入部する。民俗学研究部の部長、夏目は高橋に、学校の裏山に、願いをかなえてくれる仙人の屋敷跡というスポットがあることを話してくれた。夏目先輩はなにをお願いしたのか、夏目に興味をひかれている高橋。高橋と夏目の4日間。
TAKERU 9 0 0 09/06
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第一稿

たのしいばしょ



登場人物

・高橋(16) 高校2年生

・夏目(18) 高校3年生 民俗学研究部部長

・姉(21) 高橋姉 大学生

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たのしいばしょ



登場人物

・高橋(16) 高校2年生

・夏目(18) 高校3年生 民俗学研究部部長

・姉(21) 高橋姉 大学生

・父(50) 高橋父 会社員

・山田 学年顧問の偉い先生



9月6日㈫ 雨

高校2年3組の教室

チャイムの音

校舎入り口から出てくる男の子

高橋(声) テニス部はやめた。正確には最後の出席から3か月が経過したから、除籍になった。これで熱血顧問からも、頭の悪い同級生たちともおさらばだ。

男の子とすれ違いざまに、男子生徒がテニスラケットで背中をこづいて、笑って走り去っていく。

校舎近くに立っていた学年顧問山田に呼び止められる

学年顧問 おい、高橋。お前、部活動決めたのか?

高橋 いえ、まだ。まだ辞めたばっかりだし

学年顧問 困るんだよ、校則で決まってるだろ?全員部活動に参加することって

高橋 でも、まだ1週間も経ってないですし

学年顧問 ほら、今日は文化部の活動日だろ、高校生だからって見栄張って運動部はいらなくていいんだから、どこか適当なところ見てきなよ

高橋 はぁ、

学年顧問によって無理矢理校舎に押し戻される高橋



実習棟

女子生徒たちが楽しそうに廊下を歩いている。

それとなく窓ガラスから文化部の様子をうかがいながら、廊下を歩く高橋。そのまま廊下の端まで来てしまう。突き当りの部屋の扉には民俗学研究部の札。

高橋 こんな部活あったかな?

高橋が扉を前に不思議そうにしていると、後ろから学年顧問の声。

学年顧問 おい、高橋、そこにするのか、入部届金曜日までに出せよ!

扉を開ける高橋



民俗学研究部

とびらを開けると古臭い教室。ほこりっぽい。外は明るいのに、カーテンが閉めてあるからか、薄暗い。

明るいところから入ってきたので、目が慣れなくて焦点が合わない。焦点が定まると、窓際の長テーブルに男の子が座っている。男の子の来ているブレザーは、高橋のと少し型が違う。

高橋 あ、ども

沈黙

夏目 写真部は3階だよ。ここは4階、なんだけど

高橋 え、 写真部?

夏目 ん?ここは民俗学研究部だけど・・・ あ、もしかしてここの入部希望者?

高橋 いえ、あの

夏目 なんだ、ちがうの?

高橋 いえ、そう、なんですけど、あの

夏目 どっちなの。あ、あれかうるさいもんね、生徒は必ずどこかの部活に入部しろ、ってね。だから仕方なく、でしょ?

高橋 ええ、はい、あの、でも

夏目 ははは、大丈夫だよ。そういう子たちが集まるのがこういう場所だしね。それに特別な活動もしてないしさ。たまにこの部屋で集まって時間が過ぎるの待つだけだし。まぁ、座りなよ。

夏目に進められるままに、近くにあった椅子に座る高橋。

夏目 僕は部長の夏目。部員は僕を含めて8人。3年生は僕だけなんだけどね、2年生が3人と、1年生が4人。これで君が入ると…2年生は4人になるね。

高橋の緑色のネクタイを指さしながら言う。

夏目 あ、もしかして入る気はない?

高橋 いえ、入ります。あいつうるさいんで

夏目 そっか、よかった。人が多いほうが活気が出るしね。

高橋 いえ、あの夏目先輩

夏目 ん?

高橋 民族学研究部って、なにするんですか?

夏目 そうだね、毎週水曜日にここで集まって、下校時間になる6時を待つだけかな。といっても、実際にここに来るのはほとんど僕だけでね、だいたい一人で参考書読んでるかな。ほら、ほかの部員は運動部が嫌でここに入ったような子たちだからさ。

高橋 ああ受験生ですもんね。

夏目 まぁ僕は、水曜日じゃなくても、ここで勉強してるからさ、君もテスト前なんかは、来るといいよ。

高橋 ありがとうございます。

教室を見回す高橋。ロッカーに民俗学関係の本が積まれてあるのに気づく。よく見るとその上にかかってる黒板には、三柱神社の謎、と書かれている。

高橋 三柱神社って、商店街の中にある神社のことですか?

夏目 いや、そっちじゃなくてね

高橋 あー、違うんですか、こういうのって近所にある都市伝説調べるんだと思いました。ほら、中学のころとか、話題になりましたよね。夜中に賽銭箱に小銭じゃなくて飴玉を入れると願いが叶うって。

夏目 そういうの期待してた?

高橋 うーん、興味はありましたけどね。俺も高校受験の時に試しあことあるし。

夏目 純粋なんだね

高橋 いや、友達がやるって言ったのでついていっただけです。それに、俺第一志望落ちたから、やっぱりあれはただの都市伝説ですね。



真っ暗闇の中で、高橋がポケットからいっぱい飴玉を出して、賽銭箱に入れるシーンが入る。

「俺らの分も」って書かれたしわしわのメモーが一緒に落ちる。



夏目 厳密にいうと、違うとも言い切れないんだよね。

高橋 え?

夏目 商店街にある三柱神社はさ、もともとこの学校の裏手にあった神社を移動させたものだって言われてるんだ。

高橋 裏手って山ですよね?

夏目 そう。裏山だね。昔、この裏山には仙人が住むといわれていてね、頂上にある仙人の家を訪ねて願い事をすれば、願いが叶うって言われてたんだ。それがなかなかご利益があったらしくて、近くの村人だけじゃなく、遠い国から訪ねてくる人も多かったそうだ。

高橋 よくありそうな話ですね。

夏目 それが、ある日遠い国からやってきた娘が現れてね、自分の父親が病に臥せっていて、いまにも死にそうだ助けてやってほしいと。その願いを聞いた仙人は遠距離からでも父親の病気を治すことはできたのに、その娘があまりにも美しかったものだから、家を捨てて、わざわざ娘について異国まで行ったんだって。で、そのまま仙人はかえって来なかった。

高橋 無責任ですね

夏目 そうだよね。で、仙人はいなくなったけど、村人たちは今度は仙人が住んでいた家をあがめるようになってね、ほらちょうどこんな感じで、

黒板にチョークで三角形のテントの形を描く

高橋 テントみたいですね

夏目 うん。3本の柱でね、そこに木の枝やつたを這わしてカベにしていたらしい。仙人なきあとも村人が壁を補修したり、供え物をしたり、大切にしていたみたなんだけどね、明治の土砂崩れですべて流れて行ってしまったらしい。

高橋 聞いたことあります。あります。あの山昔は一回り大きかったって

夏目 はは、それはオーバーな気もするけどね。村の人たちあそこを心のよりどころにしていたそうでね、人が一番集まる街の中心だった商店で、新しく祀るようになったんだってさ。そこで名前を仙人の家の三本柱からとって三柱神社。

高橋 じゃあ、商店街のあそこが、仙人の家になったってわけですね。

夏目 そういうことだね。

高橋 ふーん。でも仙人って出てったきりなんですよね。俺が受験失敗したのもそのせいかな。

夏目 ふふ、それは君の実力不足じゃないかな

むっとする高橋

夏目 冗談だよ。それに、ここだって昔は進学校だったんだよ。年々偏差値が下がってるといってもね。でもね、やっぱり君と同じように考える人たちがいるんだよね。

高橋 どういうことですか?

夏目 仙人がいるのは、商店街じゃない、あの山だってね。あくまでも住んでいた家が流されただけで、魂はその場にあるってことだね。

高橋 山そのものが神様ってことですか?

夏目 そういうことだろうね。

高橋 山の神様は女神だって聞いたことがあるんですけど、仙人ってことは男なんですね

夏目 しかもひとめぼれした女の子に、あっさりついていっちゃうようなね

高橋 うーん、さらにご利益がなさそうですね

夏目 ふふ、でもね、僕らの時は、商店街の神社ともう一つ、裏山のバージョンもあったんだ

高橋 2パターンですか

夏目 うん、裏山にね、仙人が住んでた家の柱の跡が残っているっていうんだ。その穴の中にね、願い事を書いた紙を入れると叶うって言われていたんだ。

高橋 えー、それは初めて聞きました。たしかに、裏山のほうがまだ、効果ありそうですね。 

それでも、俺と先輩は1学年しか変わらないはずなのに、裏山なんて初耳だな。

夏目 学年によってネクタイの色が違うようにさ、教室で広まる噂話も変わってくるんだよ。それに山を登るのは大変だからね、楽そうなほうが残ったのさ。

高橋 そういうもんですかね

夏目 噂話ってそういう場だと思うよ。

高橋 深いですねー。

夏目 そうかな

チャイムが鳴る

夏目 あ、今日はこれで終わりね。じゃあ、また来週、あーでも、べつに来なくても大丈夫だからね。

高橋 いや、また来ると思います。

夏目 そっか、うれしいよ。

校門で

夏目 じゃあ、僕はこっちだから

高橋 おれこっちです。じゃあ、お疲れ様です

夏目 おつかれ

高橋 あの、先輩は行ったんですか?

夏目 ん?

高橋 裏山の

夏目 行ったよ、でも、柱跡がどこかわかんなくてね、それっきりだよ



高橋家

高橋 ただいま

姉 あんた、遅くない?どこ行ってたの?洗濯物たたみなさいよ

高橋 部活だよ。はいれはいれってうるさいから

姉 あー、あの山田でしょ。あいつ本当にしつこいよね、部活動で健全な精神がはぐくまれるなんて嘘だからね。あるのは、陰湿ないじめですよ。あんたテニス部辞めて正解だったよ

高橋 姉ちゃん、高校時代何があったの。

姉 いろいろと、ほら、はやくして



場面変わって夜。高橋風呂上り、リビングにて。ソファーでテレビ見てる父親。

テレビの横の本棚に、学校にあったのと同じ民俗学の本を見つける。



高橋 父さん、あれって

父 テレビ見て笑っている

高橋(大きな声で) 父さん、あれって、

父 ええ

高橋移動して本を手に取りながら

高橋 これってさ

父 ええ、なんだこれ、ああ、俺の弟のだよ

高橋 弟?父さんの?

テレビを見て笑ってる父親を見つめる高橋

父 どうした?おれはそういう神様とか妖怪に興味はないんだ、おれが興味があるのは、株と為替くらいだからな

高橋 女かバラエティー番組かの間違いじゃないのかよ

姉がリビングに入ってくる

姉 あ、なつかしい、それ

高橋 え、あ、これ?

姉 あんた、小さい時もこれ読んでたよ。覚えてない?

高橋 本当に?小さいとき?おれこんなの読めるほど頭よくなかったでしょ

姉 内容はわかってなかったんじゃないかな、でも、すごく真剣に見てたから覚えてるわ

高橋 ふーん。

父 ああ、そうだったな、俺はお前にあいつが乗り移ったんじゃないかって心配になったよ

高橋 あいつって

リビングを出ていく父

姉 父さんの弟だよ。ほら、父さんが大学生の時に死んじゃった。なんか、父さんと弟さんって仲が悪かったみたいでさ、弟の話になると機嫌悪くなるよね。



高橋自室



ベッドの上で、民俗学の本読んでる。

高橋 うーん、旧字体だから何書いてるかわからねぇ、、、

ベッドわきに本置く。



高橋声 父さんと弟は仲が悪かったらしい。頭のいい弟に対して、勉強が苦手でプライドだけ高い父。ばあちゃんは、弟をかわいがっていたようで、弟の死後、父さんがの生活を想像すると少しかわいそうな気分にもなる。まぁ、わが血筋を思うと優秀だという[父の弟]が実在していたことすら信じられないんだけど。



9月7日㈬ 激しい雨



学校放課後

帰宅しようと帰る準備していると、ほかの生徒が高橋の顔にカバンをぶつけて出ていく。

学年顧問 おい、高橋、お前金曜日、出せよ。ここに部長のサインもらってな、

高橋に入部届の紙を渡す。



民俗学研究部、部室前

高橋 失礼しまーす。

ゆっくり扉を開ける高橋、扉の隙間から部長と目が合う



夏目 きょうは木曜日だよ

高橋 あ、あの

夏目 入ってきなよ、暇なんでしょ?

高橋 いや、そういうわけじゃ

夏目 ふふ、

笑いながら、近くの椅子に座るよう促す夏目



高橋 あの、これ書いてほしくて。

夏目に入部届を渡す。



夏目 うん、ちょっと待ってね。



夏目は真剣に問題集をといてる



高橋 すごい難しそうですね

夏目 そうかな

高橋 いや、僕には設問の意味すら分からないです。あれ、でもこれって指導要領から外れませんでした?

夏目 え、そうだったっけ?

高橋 いや、気のせいかな。

夏目 気のせいだよ。

高橋 えー、でも俺この範囲、今年から外れて安心したんですよね。ほら化学式覚えたりめんどくさいじゃないですか。

夏目 高橋君も勉強すきなの?

高橋 いや、俺は楽をしたいだけです。少しでも出題範囲が減ればラッキー、みたいな。

それに俺が狙ってるのは推薦枠なんで。



高橋もカバンから民俗学の本取り出して眺める



夏目 あれ、まじめだね。ここの活動気に入った?

高橋 いや、なんとなくです

夏目 活動時間外に論文読んでるなんて、君は僕よりまじめだよ。

高橋 そんなことないですって。先輩はずっとここで勉強してるんですか?

夏目 ふふ、僕の家の人間はね、僕が勉強している姿を見て笑うんだ。うちの家は代々勉強はからっきしダメで、手を動かすことでしか、金は稼げないってさ。

高橋 へぇー

夏目 変わってるだろ?まぁ、そういう家もあるんだよ。ここだと好きなだけ部室が使えて、好きなだけ勉強できるからね。

高橋 まぁ、俺も普段勉強なんてしないから、急にやりだすとねぇちゃんや父さんは笑うかもしれませんけどね。

夏目 あした雪でも降るのか、ってね

高橋 そう、それです



雷が鳴る。

高橋 すごいですね。

夏目 雨もっとひどくなりそうだし、今日は帰ろうか。

高橋 そうですね。なんか雨が強い日ってうちのばあちゃん不安定になって、ちょっと外に出ようとするだけで、すっげー心配するんですよね。今日も心配して、家でじっとしてるか確認の電話かかってきそうだなー

夏目 それは、なかなかだね

高橋 ですよね、あれかな、雨の日に人を連れ去る妖怪でもいるんですかね?

夏目 どうだろうね。僕は部長だけど、その辺はあんまり詳しくないんだ。



高橋家 玄関

姉が出迎えてくれる。

姉 ねぇ、雨やばくない?

高橋 ヤバイ。明日の朝までに靴乾かないかもしれない。

父も帰宅してくる。

姉 父さんおかえり。早いじゃん。

父 早く入れよ、せまいだろ。電車が運休するからって、早く帰された。

姉 いい会社だねー



リビング 20時くらい 高橋・父がいる

姉が電話で話してる

姉 うん、ばあちゃん大丈夫だよ。父さんも早く帰ってきたし、うん、ばあちゃんも気を付けて。うん、じゃあ土曜日ね。



高橋 ばあちゃんってなんで雨の時だけ俺たちの心配するんだろうね。

姉 さぁ知らない

父ソファから立ち上がり冷蔵庫からビール取り出して、そのまま出ていく

姉 うーん、これは父さんの弟がらみだね。

高橋 この家には知らないことがいっぱいありますね。





9月8日㈭ 雨

学校、部室に行くために廊下を歩いていると、ほかの生徒に足を引っかけられる。



部室

夏目 今日も来たんだ

高橋 いや、あの入部届、昨日返してもらうの忘れたんで。

夏目 あー、ごめんね。(入部届にサインしようとして、)高橋君はなんでここに?

高橋 昨日も言った通り、どこか

夏目 なんで前の部活辞めたの?

高橋 それ、書いてもらうためには答えたほうがいいですか?

夏目 そうだね、

高橋 それは、あの、めんどくさかったから、ですかね

夏目 ふふ、大学受験で推薦枠ねらう可能性があるのなら、もっといい理由を考えたほうがいいよ。

高橋 一年以上先なんでおいおい考えまーす



夏目 学校楽しい?

高橋 どうしたんですか、急に

夏目 いや、僕は楽しくないからね、わざわざこんな部屋に来る人は、同じなのかなって思っただけだよ。

高橋 まぁ

夏目 楽しい?

高橋 あの、学校なんてそういう場所じゃないですか。楽しいって思うやつがいたり、楽しくないって思うやつがいたり。

夏目 それって悔しくない?

高橋 はぁ

夏目 同じ高校生活を過ごしてるはずなのにさ、ほかの生徒たちと同じように楽しいと思えないのは、なんだか損をしている気分になるんだよね。サービスを100パーセント受けられてない、みたいなさ。

高橋 はぁ、でもそれってサービスを受ける側の問題でもあるんじゃないんですか?

夏目 まぁね。人間性の問題なんだろうけどさ、与えられたものをそのまま素直に楽しいって受取れる人間に生まれたかったよ、僕は。

高橋 難しいこと考えるんですね

夏目 ずっとこんな部屋に一人でいると、考えも深みにはまっていくよね。

それで君は?どっちの人間?

高橋 うーん、やっぱり、ひねくれてるほうじゃないですか?

夏目 そうだね、こんな部活に来るくらいだしね。運動部に入って仲間に囲まれて、彼女もできて、そういう高校生活を送る選択だってあるんだしね。

高橋 運動部に夢を見すぎです。

夏目 でも、僕は君と話せて楽しいよ。



高橋 先輩は、何をお願いしに行ったんですか?

夏目 ん?

高橋 神社じゃなくて、わざわざ裏山まで。あそこまで行くの大変そうじゃないですか。そこまでしてかなえたかったことって何か気になります。

夏目 大したことじゃないよ。ほら、頭がよくなりますように、とか、それだけだよ。ただの都市伝説だしね。

高橋 そんなもんなんですかね



高橋家リビング

食器棚とかあらゆる棚の引き出しをあさっている高橋。

姉 あんた何してんの

高橋 単4電池さがしてんの

姉 電池なにに何に使うの?

高橋 電子辞書の電池切れちゃって、あった、ってこれ単三だ

テレビ見ていた父が割って入ってくる

父 勉強でもするのか?熱でもあるのか?



高橋むっとして、父からリモコン奪って、リモコンに入ってた電池抜いていく。



高橋自室



電子辞書見ながら、民俗学の本を読む。



自室に入ってくる姉

姉 本当に勉強してる

高橋 来年受験生だから、なに?

姉 あんた、土曜の準備ちゃんとしてるの?

姉 父さんの弟の法事。親戚みんな集まるんだから、風邪ひくとかやめてね

高橋 本当に熱でも出たと思ったの?

姉 ばーか

高橋 あ、父さんの弟ってなんで死んだんだっけ?

姉 さぁ、裏山に上ったきり帰って来なかったんじゃなかった?なんか、おばあちゃんが言ってた気がする。だから死体もないし、本当はいつ死んだかもわからないんだって。

高橋 裏山?そんなの初めて聞いたよ

姉 だってあんたに聞かれたことないもん。

高橋 何しに行ったの?

姉 私もよく知らないよ、父さんだって話したがらないんだし、そっちこそ急になんなの、意味わかんない。

部屋を出ていこうとする姉

高橋 あ、姉ちゃん。商店街の神社、

姉 え?

高橋 願いかなえてくれるやつ、裏山バージョンもあるの知ってた?

姉 は?知らない、あれ、でも、隣のおばちゃんが話してるの聞いたことあるかも。なんか、自分が受験生の時は、裏山までお願いに行ったって、今の子たちはなんでも簡素化しちゃうのねーって、よくわかんないけど。

高橋 そっか





9月9日㈮くもり

職員室、入部届を渡す高橋

学年顧問 お、高橋、お前やっと入部決めたんだな

高橋 まだ1週間も経ってないですって

学年顧問 テニス部では辛い思いをしたかもしれないがな、部活動もいいってもんだろ。

学年顧問の声を背中で聞きながら、職員室出ていく。

入部届を見て、

学年顧問 民俗学研究部?こんな部活あったか?



民俗学研究部 部室前

扉を開けるが、誰もいない。



高橋 鍵はあいてるんだな



誰も人がいないので、教室の中をゆっくり見て回る。いつも夏目が座っている席に座ってみる。机の引き出しに手を入れると何か入っている。夏目の生徒手帳。開くと、夏目の顔写真。「高橋夏目」生年月日:1974年5月6日と書いてある。



高橋 は?



走って家に帰る。ダイニングのテーブルの上に、明日の法事の案内の紙が置いてある。そこに「高橋夏目30回忌」の文字を見つける。

カバンから出して民俗学の本を開く。最後のページの隅に「高橋夏目」と書いてある。ページの上のほうは破かれている。その前のページに、強い筆跡のあとがうっすら見える。



裏山をのぼる高橋。学校を見下ろす。民俗学研究部があるはずのところに窓ガラスがない。



高橋 なんなんだよ。



高橋 おーい、せんぱーい 夏目せんぱーい

高橋 なつめおじさーん

小さく笑う。



しばらく山を登っていく。頂上付近で足を滑らせて斜面を転がっていく。

開けた場所に落ちる。

15メートルほど先、地面に石畳みのようなものが埋められている。そこに三つの穴があいている。

高橋 いってー

高橋 ここって…

立ち上がろうとうするが、足を骨折したようで立てない。

匍匐前進で近づこうとするが、途中で力尽きる。

近くにあった大き目の石の近くまで行って、それを頼りに立ち上がろうとする。

そのとき、石の下側になにか彫ってあることに気づく。



高橋 なんだこれ



顔を近づけてみると

「たのしいばしょであれ」

と彫ってあった。



カバンから民俗学の本を出す。最後のページの筆跡を確かめながら、ペンでなぞっていく。

「家よ・学校よ・僕の世界よ」という文章になる。

その下に、高橋の筆跡で楽しい場所であれ、と書く。

最後のページを破って丸め、柱あとに向かって放り投げる。

バランスを崩して倒れたところで気を失い、場面が変わる。



法事の場面に高橋の声がかぶさる。



高橋声 あのあと、帰宅しない俺を心配した姉によって捜索願が出されあ。捜索中の消防団員が、裏山の中腹で倒れている俺を発見した。

降り続いた雨により、斜面の状態が悪くなっていたそうで、足を滑らせた俺は、頂上付近から土砂と一緒に滑り落ちたとのことだった。

俺が転がっていた近くの斜面から、古い人骨が発見されたそうだ。DNA鑑定の結果はまだでていないが、今回の30周忌はやっと返ってきた息子とともに無事に行われそうだ。



高橋 おれは夏目先輩がいて楽しかったよ。



終わり。

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