この町の伝説 SF

ある日、透明人間になってしまった女の子。 彼女は元の普通の人間に戻るために、とある不思議な石を探すが……
アズマカケル 15 0 0 10/25
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第一稿

登場人物

梶原京 (12)(15)・・・・・・少女
谷口拓真(11)(15)・・・・・・少年
樋口 徹 (26)(36)・・・・・・作家
梶原美恵子(43)・ ...続きを読む
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登場人物

梶原京 (12)(15)・・・・・・少女
谷口拓真(11)(15)・・・・・・少年
樋口 徹 (26)(36)・・・・・・作家
梶原美恵子(43)・・・・・・京の母親
本庄紗江(11)(15)・・・・・・高校1年生
一ノ瀬悠斗(15)・・・・・・高校1年生
横山愛花(26)・・・・・・樋口の恋人

医者
看護師
紗江の里親
シャボン玉を吹かす子供たち
とび職A、B
河川敷を通る少年
20歳程のカップル



本文

○児童養護施設・外観(夜)
『児童養護施設 クスノキ』と書かれた
表札。

○児童養護施設・掲示板前(夜)
樋口N「この町には、伝説がある」
掲示板に、『谷口拓真君、行方不明事件』
という見出しと、小学生程の男の子の写
真が載った紙が貼られている。
それをじっと見つめる梶原京(12)。

○同・京の部屋の内~外(夜)
京の部屋に置いてあるデジタル時計、日
にちは7月7日を指している。
京、窓を開け、外へ飛び出す。
施設の隣にそびえたつ明水山。
樋口N「この町で一番高い山、明水山」

○明水山・山の中(夜)
樋口N「その山に落ちている、透明な石」
ゴミが落ちている汚い山の様子。
山を歩く京、透明色の石がまばらに落ち
ているのに気が付く。
京「(その中の一つを眺め)……?」
京、その石を手に、再び歩き出す。

○同・頂上(夜)
京、頂上に着く。
京、右手で石を持っている。
樋口N「石を持ち、山の頂上で7月8日を迎
える」
京の腕時計、12時丁度を指す。
京、突然意識が朦朧とする。
京「え……!」
樋口N「その時、急な眠気が、人を襲う」
京、倒れる。
×   ×   ×
朝になっている。
京、鳥の鳴き声でぼんやりと目覚める。
京「……?」

○同・山中の川沿い(朝)(日替わり)
歩いている京、立ち止まり、川の水で顔
を洗う。
京「(川を見て)……」
川に京の顔は映っていない。
樋口N「すると驚く事に、透明になっている」
呆然としている京。
樋口N「そうこれが、遥か昔から伝わる、こ
の町の、伝説」

○メインタイトル『この町の伝説』

○河川敷・道路(夕)
T『3年後』
人気のない道を歩く京。
その向こうから来る谷口拓真(15)。
京「(拓真に気付き)……?」
×   ×   ×
『谷口拓真君、行方不明事件』という見
出しと、幼い拓真の写真が載っている紙。
×   ×   ×
京「(拓真を見つめ)あれ……」
京、拓真の横に並び、拓真を凝視。
拓真、急に京を見る。
京「(驚き)わっ!」
拓真「……もしかして」
京「……え、嘘、え」
京「(同時に)私が見えるの?」
拓真「(同時に)俺が見えるの?」

○道路(夕)
閑散としている。
京、拓真、並んで歩いている。
京「その他には?ないの?なんかいい情報!」
拓真「う~ん、透明人間同士は、お互い姿が
見える!」
京「それは今分かったじゃん」
拓真「あと、着てる服とかリュックとか、持
ってるものとかも、何故か透明になる」
京「それはとっくに分かってまーす」
拓真「もう俺が知ってるの、それくらいしか
ないって」
京「そっかー」
拓真「にしてもさ!久しぶりに見たと思った
ら、俺と同じって!」
京「……施設以来かな?拓真と話すの」
拓真「そうだな。京はやっぱり、明水山登っ
た?透明な石もって」
京「まあね。施設から拓真が失踪して、丁度
1年後に。それで登った後、透明になった。
もしかして拓真も?」
拓真「登ったよ!俺もその時にこうなった!」
京「……失踪ってそーゆー事ね」
拓真「ああそういえば!、1つ、話してない
事あるかも」
京「何?」
拓真「あるんだよ。元に戻れる方法が!」
京「……それ1番大事でしょ!」

○樋口の家・リビング(夜)
広いが物は散らかっている。
リビングに入る、京と拓真。
ソファに寝転び小説を読んでいる、ぼさ
ぼさ頭の樋口徹(36)。
拓真「樋口さんただいま!」
樋口「おーう」
京「この人、誰?」
樋口「……は?!」
といい、飛び起きる。
樋口「拓真!……そいつ誰だ?!」
拓真「梶原京さん!なんと透明人間!俺の他
にいたんですよ!しかも知り合いで!」
樋口「お前の他に……」
京「あのー、この人誰」
拓真「作家の樋口徹さん。元に戻る方法、教
えてくれたんだ」
樋口「……(拓真に向け)どうも樋口です」
拓真「俺に言わないでくださいよ。右です」
樋口「(右を向き)あー、どうも」
京「……どうも」
拓真「樋口さん、元に戻る方法、京に教えて
あげてください!」
樋口「嫌だよ面倒くさい」
拓真「有難うございます!」
京「典型的な馬鹿かなー」
樋口「拓真、俺今、嫌っつった」
拓真「え、何でだめなんですか?!」
樋口「面倒くさいから」
拓真「じゃあ俺が教えます!」
樋口「ああもう……はい、教えるから、拓真
は静かにしてろ」
京「戻れる方法あるって聞いたんですけど」
樋口「あるよ。単純な事だ。透明になった時
と同じこと、すればいいだけ」
京「同じこと?」
樋口「そう。だから、石あるだろ?」
京「あの透明の」
樋口「そう。七夕の夜にそれ持って、明水山
の頂上に登る。12時になると、何故か意
識を失う。そんで起きたら、普通の人間の
出来上がりってこと」
京「その情報本当?なんか嘘っぽい」
樋口「本当だ。透明人間の伝説は、遥か昔か
らある。調べた。あれで」
樋口、隅にある赤い本の山を指さす。
本には付箋が沢山貼ってある。
樋口「あと俺も、昔透明だったから」
京「え?!え、じゃあ今も……」
樋口「戻ったんだよ、今言った方法で」
京「もっとこう、科学的な?方法とか……」
樋口「ねえよ、これは科学を超えている。ま
あでも、透明人間を研究している機関はあ
るらしいけどな。アメリカとかで」
拓真「そうなんですか?!」
樋口「拓真は静かに」
拓真「はい」
樋口「だがお前らは、ただの透明人間じゃね
え、着てる服、持ってるもの、まとめて透
明にしやがる。こりゃあ科学も降参だな」
京「じゃあ、その……石を……」
樋口「自分で探せよ」
京「ですよねー」
樋口「多分簡単には見つからねえぞ?」
京「(不満げに)えー、その根拠は」
樋口「ちょっと前に大きな山の整理があった
んだよ、それであの石はほとんど無くなっ
た。拓真がずっと探しても未だ見つからず」
拓真「大丈夫。七夕までには見つけ出す!」
樋口「って言ってるけどな」
京「……私も探したいなー」
拓真「京!一緒に明日から探さないか?!」
京「え、まあ……うんそうする」
樋口、一瞬表情が曇る。
拓真「樋口さん、向こうに部屋1つ、余って
るのありますよね」
樋口「ああ、あることはあるが……ん?」
京「泊るの?!」
拓真「だってこの家山に近いし。その方が効
率良いし!」
樋口「拓真、ここ、俺の家」

○同・洗面所(夜)
寝間着姿で並び、歯磨き中の京、拓真。

○同・玄関(朝)(日替わり)
玄関にいる拓真と京。
樋口(声)「おーい!どこ?!」
拓真「玄関です!もう出ます!」
樋口、玄関に行く。
樋口「昼飯」
徹、弁当箱を2つ床に置く。
京「料理するとか意外」
樋口「習ったんだよ」
京「誰に」
樋口「恋人。もう死んでるけど」
京、気まずくなる。
樋口「気にすんな、10年も前だしな」
京「(軽く頷き)……それじゃ」
と、京、拓真、外へ。

○明水山・山の中
地面や草陰から石を探している京、拓真。
拓真、おなかが鳴り、立ち止まる。
拓真、腕時計を見ると、針は12時半を
指している。
×   ×   ×
弁当を食べている京、拓真。
京「拓真はさ、元に戻りたい理由、とかある
の?」
拓真「ある。好きな女の子と、結ばれたい」
京、一瞬箸を持つ手が止まる。
拓真「本庄紗江さん、覚えてる?」
京「ああ確かー、あの子、施設にいたけど、
里親に引き取られてた……」
拓真「そう。ずっと、今でも……」
京「好きなんだ」
拓真「……うん」

○児童養護施設・入口(回想)
里親に引き取られている本庄紗江(11)
その様子を陰から見ている拓真(11)
拓真(声)「実は、俺が施設を抜け出したの
も、あの子に会うためなんだ」

○同・拓真の部屋(夜)
デジタル時計を見ている拓真。時計は7
月7日を指している。
拓真(声)「7月の8日は、本庄さんの誕生
日でさ、誰よりも早く、あの子におめでと
うを言いたくて、七夕の夜、抜け出したん
だ」
拓真、窓を開け、外へ行く。
(回想終わり)

○明水山・山の中
弁当を食べている京、拓真。
京「誕生日ねえ……住所とかわかってたの?」
拓真「全く」
京「それは馬鹿」
拓真「しょうがない!まだ子供だったし」
京「(ぼそっと)今も」
拓真「京は何?その、元に戻りたい理由」
京「……んー、特に」
拓真「ないんだ」
京「そうだねえ!本庄さんに会ったの?」
拓真「本庄さん?」
京「そう本庄さん。通ってる学校とか、行っ
たことないの?」
拓真「たまたま1回、制服姿は見たけど……
それだけ」
京「勿体ないねえ。こーゆー時って、お風呂
とか覗くでしょ普通」
拓真「そーゆーのはダメだろ!なんか……な
んかダメだろ!」
京「そう?」
拓真「でも、一回ぐらい会ってみよーかな。
それ位、ばち当たんないよな……(京に)
いいと思う?!」
京「……いいんじゃない?別に」
拓真「だよな!うん」

○高校・屋上
食事中の制服姿の生徒がちらほら。
隣同士座り食事をとっている、制服姿の
本庄紗江(15)、一ノ瀬悠斗(15)。
悠斗、紗江のリュックにミニーのキーホ
ルダーを付ける。
悠斗「はい、これでおそろい」
悠斗のリュックについてある、ミッキー
のキーホルダー。
紗江「ありがとう」
2人の目の前にいる私服姿の京、拓真。
拓真、体育座りで、顔をうずめている。
悠斗「紗江、唐揚げ1個、君にあげるよ」
紗江「うん!」
悠斗「(唐揚げを箸でもち)はい、あ~ん」
紗江、唐揚げをパクリ。
紗江、悠斗、笑顔。
耳までふさいでいる拓真。

○田舎の商店街(夕)
閑散としている。
歩いている京、元気がない拓真。
京「……まあ、でも、ねえ?、分かんないよ
?すぐ別れるかもしれないし」
拓真「……そうだよな」
京「ん?」
拓真「すぐ別れるよな!そしたら俺のチャン
スだよな!よし!」
京「立ち直り早っ」
拓真「だから絶対元に戻る!」
京「(小さく頷き)そうだね」

○樋口の家・リビング(夜)
夕食をテーブルでとる京、拓真。
ソファに寝転び小説を読書中の樋口。
京、唐揚げを箸でつかむと、手が止まり、
正面の拓真をちらりと見る。
拓真「(食べ終わり)ごちそうさまでした!」
拓真、食器を流しに置き、
拓真「樋口さん、先に風呂失礼しまーす」
樋口「おう」
拓真、リビングを去る。
京、箸でつかんでいた唐揚げを食べる。
樋口「京、つったっけ?」
京「はい」
樋口「お前拓真のこと好きだろ?」
京「(苦笑して)まさかそんなー」
樋口「見てれば分かる」
京「見えてない癖に」
樋口「じゃあそういう空気感を、お前から読
み取れる」
京「それあれですね、読み間違えてますね」
樋口「素直じゃないんだな」
京「……いやいやそんな、ねー」
樋口「まあ、辛いのはのは分かるが」
京「……短い、話です」
樋口「ん?」
京「こんな話を聞いた事があります。とても
短いお話」

○児童養護施設・掲示板前(夜)(回想)
掲示板に貼ってある、『谷口拓真君、行
方不明事件』と書かれた紙。
京(声)「ある日、ある男の子が突然、〝失
踪〟しました」
その紙を見つめる京。

○同・京の部屋の中~外(夜)
京、窓を開け、外へ飛び出す。
京(声)「物心ついた頃から、その子に恋を
していた女の子は、男の子を探しに行きま
した。以上!」
(回想終わり)

○樋口の家・リビング(夜)
椅子に座っている京。ソファで横になっ
ている樋口。
樋口「……短いっつーか、雑だ。雑な話だな」
京「……樋口さん(机上に立ててある写真を
見て)この写真、デズニーランドですか?」
噴水がメインに写っている写真。
樋口「ああ、そうだけど。拓真と2人で行っ
て来いよ。デズニーランド」
京「そういう事言わないでください」
樋口「もういっそ、お前ら元に戻るな」
京「何ですかいきなりそんな」
樋口「石が見つかって、2人で元に戻れたら、
拓真は本庄紗江の元へ行く」
一瞬、沈黙。
京「……この唐揚げ美味しいですねー」
樋口「それでもいいのか、お前は」
京「唐揚げにレモンってかける派ですか?」
樋口「よくないだろ戻るなって!戻ったらお
前ら!……離れ離れだ」
京「私はかけないんですけどー」
樋口「今この状況!2人だけの世界!どう見
てもお前のチャンスだろ?!」
京「……ごちそうさまでした」
樋口「京」
京、食器を流しに置く。
京「……分かってますよその位!というか何
?!何でそんな言ってくるんですか?!私
と拓真が戻ったら、何か困ることでもある
んですか?!」
樋口「……お前こそ何で、そんなこだわる」
京「だって……(ボソッと)だってあの人が
……」
壁に掛けてあるカレンダー、6月16日
までバツ印が書かれてある。

○明水大学病院・美恵子の部屋(日替わり)
室内にいる医者。
医者の話を聞いている梶原美恵子(43)
、その隣に立つ京。
医者「では梶原さん、えー、手術の件ですが、
7月11日で、よろしいでしょうか?」
美恵子「はい、7月の、11日で」
医者「分かりました」
美恵子「あのー」
医者「はい」
美恵子「その、成功率、というのは……」
医者「……あの、失礼な事を伺いますが、親
族の方がお見舞いにいらっしゃらないのは、
何か理由が……」
美恵子「……夫があの世に逃げてから、私は
子供から逃げました。それだけです」
医者「会いたいですか?」
美恵子「会いたい?」
医者「お子さんとです。もしそうでしたら、
手術前に会われたほうがいいかと。あくま
で念の為、ですけど」
美恵子「……あの子今、何してるんだろう」
京・医者「……」
美恵子「たまにそんなこと、考えたりします」

○樋口の家・リビング(日替わり)
拓真(声)「(玄関から)言ってきます!」
カレンダー、6月20日までバツ印がつ
いている。

○明水山・山の中
石を探し歩く京、拓真。
×   ×   ×
(日替わり)
小雨の中、石を探している京、拓真。
疲れた表情の京、元気そうな拓真。

○樋口の家・リビング(夜)
食事中の京、拓真。
樋口、カレンダーの6月23日の所にバ
ツ印を書く。
京、カレンダーを見て、不安げ。
拓真「(京に)大丈夫だよ。きっと見つかる」
京「ごちそうさまでした」
京、食器を流しにおき、リビングを出る。
拓真「(京を目で追い)……?」

○明水山・山の中(日替わり)
石を探している京、拓真。
京「……拓真思ったんだけどさ」
拓真、京の方を向く。
京「石ないでしょ」
拓真「(ムッとして)あるよ。探してればい
つか見つかる」
京「普通ここまで探してないなら、もうない
でしょ」
雨がパラパラと降り始める。
拓真「何だよ、戻りたくないのかよ」
京「そういうことじゃないけど」
拓真「でも……別に戻りたい理由もないんだ
ろ」
京「それは……」
雨足が強くなってくる。
拓真「やめていいから、俺1人でも探すし、
諦めないし」
雨が激しくなってくる。
京「……」
拓真「……避難小屋、あっちあるけど」

○明水山・避難小屋の外
避難小屋に早足で入る京、拓真。

○明水山・避難小屋内
雨を払いながら入る京、拓真。
京、椅子に座る。
拓真、リュックからハンカチを出し、京
に渡す。
拓真「(渡す瞬間に)さっきはごめん」
会釈し、ハンカチを受け取る京。
京「(ハンカチで顔や腕をふきながら)……
私も」
京、ハンカチをたたみ、机に置く。
拓真「京はここにいて」
京「どこか行くの?」
拓真「探しに行く」
京「いや雨、すごいし」
拓真「わかってる」
拓真、出口へ。
京、立ち上がり、拓真についていこうと
する。
拓真、京の両肩を持つ。
京、緊張する。
拓真、そのまま京を椅子に座らせる。
拓真「風邪引いちゃダメだろ」
京「……拓真だって……」
拓真「時間ないから、見つけないと、必ず」
拓真、小屋の出口へ向かう。
京「(窓に映る外の景色を見て)……」
拓真、小屋を出る。

○同・避難小屋の外
雨をものともせず歩く拓真。

○同・避難小屋内
京、窓から見える拓真を見ている。
京「……そんなに戻りたい、か……」
京、ゆっくりと立ち上がる。
机上の濡れたハンカチを見せながら扉が
開く音。
×   ×   ×
机上の乾いたハンカチを見せながら扉が
開く音。
夕方になり、雨も止んでいる。
拓真、小屋に入り、京の不在に気づく。
拓真「京?……」
拓真、リュックから折りたたみ式の携帯
をとりだし、開く。
連絡先の画面には樋口しかいない。
拓真、樋口に電話をかける。
京N「その日、まるで夕立のように」

○樋口の家・書斎(夕)
誰もいない中、机上で鳴る樋口の携帯。

○同・リビング(夕)
樋口、隅にある、付箋で沢山の本を神妙
な面持ちで読んでいる。

○明水山・避難小屋内(夕)
拓真、電話をしまい、小屋を出る。
小屋にくっついている1匹のセミ。
京N「蝉の命のように」

○河川敷(夕)
走って帰宅中の拓真。
その近くにいるシャボン玉を吹かす子供
たち。
割れるシャボン玉。
京N「すぐに割れる、シャボン玉のように」

○樋口の家・リビング(夜)
樋口、引き続き同じ本を読んでいる。
拓真(声)「(帰宅し)樋口さん!京は?!」
樋口、驚き、急いで本から離れる。
拓真、リビングに入ってくる。
拓真「京はいますか?!」
樋口「京?……いや、いないんじゃねえか?」
京N「拓真の前から、私は消えました」
拓真「……」

○同・玄関(朝)(日替わり)
拓真、玄関で靴を履いている。
樋口、弁当を1つ、床に置く。
拓真「ありがとうございます」
樋口「拓真、京がもし、このまま帰ってこな
かったら––」
拓真「京は帰ってきます」
樋口「仮定の話だ」
拓真「そんな仮定、ありえません」
拓真、扉を開け、外へ。
樋口「人の話聞けよガキが」

○明水山・山内
拓真、1人で石を探している。
×   ×   ×
(日替わり)
拓真、雨の中、1人で石を探している。
×   ×   ×
(日替わり)
拓真、強風の中、1人で石を探している。

○道路(夕)
拓真、帰路。
前からとび職らしき男2人が来る。
とび職A「え、じゃあ退院したんすか?」
とび職B「そうでもな、あいつ面白いこと言
ってんだよ」
拓真がとび職2人とすれ違うところで、
とび職A「面白いこと?」
とび職B「幽霊が出るんだってよ、その病院」
拓真、気になり、とび職A、Bの後ろを
つけ始める。
とび職A「うわー嫌っすねそれ」
とび職B「誰もいないところから足音が聞こ
えたり、扉が勝手に空いたりするらしいぜ、
怖くね?」
とび職A「怖っ」
拓真「どこの病院ですか?」
とび職B「確かー、あそこ。明水大の病院」
拓真、走り出す。
とび職B「え?」
とび職A、B、足音の方向を見るが、誰
もいない。
とび職A「今のって……」
とび職A、B「幽霊?!」
駆けている拓真。

○明水大学病院・ロビー(夜)
病院へ駆けてくる拓真。

○同・リハビリステーション(夜)
リハビリ中の患者がちらほら。
拓真、周りを見渡し、京の不在を確認。

○同・ラウンジ(夜)
誰もいない。
拓真、そこへ顔を出し、またすぐ去る。

○同・病棟~美恵子の病室(夜)
拓真、病室の扉を開ける。
中では中年女性が寝ている。
拓真、次の部屋の扉を開けようとしたと
き、先程の中年女性の部屋の前にあるネ
ームプレートに目が止まる。
そこには『梶原美恵子』の文字。
拓真「梶、原……!」
拓真、再び美恵子の病室の扉を開ける。
美恵子、気配に気づき、目を覚ます。
拓真「あ……」
美恵子「京?」
拓真「(小声で)え?」
美恵子「京?……京なの?」
拓真「(後ずさりしながら)……?」
外からノックの音。
看護師「失礼します」
看護師、病室へ入る。
看護師「梶原さん、夜ごはんです」
拓真「……」

○樋口の家・リビング(夜)
黙って夕食を食べている拓真。
樋口、カレンダーの7月6日の所にバツ
印を付ける。
拓真「(それを見て)……」
拓真、ご飯を口にかきこむ。

○明水大学病院・廊下~美恵子の病室(日替
わり)
クリアファイルを持ち、歩く看護師。
京、看護師の後ろをついていく。
看護師「(病室をノックし)先生、持ってき
ました」
看護師、病室の扉を開け、入る。
京、看護師の後ろにくっつき、病室へ。
そこには美恵子、医者、拓真がいる。
京、拓真がいる事に驚く。
拓真、毅然とした表情。
看護師、医者にファイルを渡す。
拓真と京が見合いながら、医者、美恵子、
看護師の会話。
医者「こちらが先ほど説明いたしました、輸
血の同意書と、今回の手術の同意書です。
よろしければサインをお願いいたします」
美恵子、書類にサインをする。
医者「では、手術は4日後の、7月11日、
午後5時から、執り行わせていただきます」
拓真から目をそらしている京。
医者「後ほどまた伺いますので」
ファイルに1枚紙が余っている。
美恵子、それに気づき、
美恵子「それはサインしなくていいんですか」
看護師「こちらは親族の方の同意書と––」
医者「斎藤さん」
看護師(斎藤)「……はい……失礼しました」
美恵子「いえ、いいんです」
医者「失礼しました……それでは、また」
医者、病室を出ようとする。
美恵子「あの」
医者「(足を止め)はい」
美恵子「その紙、取っておいてくれませんか、
一応」
医者「勿論、そうしておきます」
医者、病室を出る。
看護師「梶原さん、では麻酔科の診察に行き
ましょう」
看護師、美恵子を車いすに乗せ、共に病
室を出る。
病室には京と拓真の2人。
拓真「……京、俺に嘘ついたな」
京「嘘?」
拓真「言っただろ、元に戻りたい理由、ない
って」
京「……言ったね」
拓真「お母さんと、会って話、したいんだろ」
京「……まあ」
拓真「だったらつまんねー嘘つくなよ」
京「……騙されるほうが、悪い」
拓真「ふざけるな」
といい、京の腕をつかむ。
京「(照れて)え」
拓真「探すぞ!そんで2人で!元に戻る!」
拓真、京の手を引くが、京は動かず。
拓真「京!」
京「……本当に、戻るの?」
拓真「当たり前だろ」
京「そっか、そうだよね……そうだよね」
京、拓真の手を離し、ダッシュ。
拓真、一瞬驚くが、すぐ京についていく。

○道路(夕)
人気のない田舎道。
駆けている京、拓真。
拓真、走ると同時に樋口と通話中。道を
走る拓真と書斎にいる樋口の通話。
拓真「はい!そうなんですよ」
×   ×   ×
樋口「……そうか、京、見つかったか」
×   ×   ×
拓真「あれ、テンション低いですね」
京、何かひらめいたようで、足を止める。
拓真、つられて足を止める。
×   ×   ×
樋口「いや別に……あれだ、時間ねえから、
早くしろよ!」
×   ×   ×
拓真「はい!」
通話が終わる。とすぐに
京「ねえ拓真、山行くのやめよう。石はもう
あの山にない」
拓真、訳が分からない様子。
京「よーく考えて。山には整理があった。そ
こで透明な石は消えた。でも山の下は?、
あの透明の石が、山の上流の川から、下流
に流れていったとしたら?」
拓真「(考えながら)……山から下った下流
の川は、整理されてないから、石が……!
!」
京「残ってる」
少し間をおき、京、拓真、走り出す。

○河川敷(夜)
静まっている。
息切れしながら河川敷に着く京と拓真。
拓真「行こう!」
京「拓真、よろしく」
拓真「え?」
京「私水入ったら、ほら、透けるし?」
拓真「俺達元から透けてるし」
京「そーゆー問題じゃなくて!」
拓真「大丈夫浅いから!早く行こう!」
拓真、京の腕を引っ張る。
京「ちょっと!……」
拓真「絶対見つけてやる!!」
×   ×   ×
河川敷に揚げられている大量のごみ達。
それらを眺める京、拓真。
拓真「大量!……だな……」
京「川の清掃で、地元に貢献ってやつ?」
京、ごみを見物し始める。
京「これは……長靴。これは……上履き。名
前書いてる、タナカタケシ。これは……何
これ、ベルト?!これは……巾着袋だ。こ
れも名前ある、ヒグチトオル。これは……」
拓真「え?」
京「……ヒグチ、トオル?」
京、巾着袋を拓真に見せる。
巾着袋に縫ってある『ヒグチトオル』の
文字。
拓真「ヒグチ、トオル」
京・拓真「……ヒグチトオル?!?!」
拓真、急いで袋の中身を取り出す。
石が2つ出てくる。それらは透明色。
京「あ、石だ」
拓真「ほんとだ」
京「きれーい」
拓真「透明だ」
京、拓真「……うわぁーーーーー!!」
河川敷上の道路を通る少年、川から叫び
声が聞こえるが、声の方向には何もない。
少年「(川を見て)……うわーーーーー!」
少年、走る。
拓真、京、それを見て、少し落ち着く。
拓真「……え、でも、何で樋口さん?」
京「あー……あの人もほら!」
拓真「あ!そーか、透明だったのか、そうい
えば」
京「うん多分その時の」
拓真「そっか……」
京、拓真、落ち着く。が、
拓真「……やった……やった……俺らやった
よ!……やった!」
と、再び手放しで喜ぶ拓真。
京も嬉しそうだが、どこか繕っているよ
う。

○道路(夜)
誰もいない道を歩く拓真。その少し後ろ
を歩く京。
拓真「ほんと、やっと見つかったな」
京「ね」
拓真「元に戻ったら、俺たちそれぞれ、頑張
ろーぜ」
京「うん頑張ろー……それぞれ、ね」
京、下を向き、歩いていると、頭に拓真
の投げた石入りの巾着袋が当たる。
京「(頭を押さえ)痛っった!」
拓真「なんか暗いぞ!」
京「(ボソッと)何で私こんな男」
拓真「(聞こえず)何ー?」
京、巾着袋を持ち、拓真へ走る。
拓真、笑いながら逃げる。
京「さっさと戻りたいですねー!」
「ねー!」の時に、巾着袋を拓真に全力
で投げる京。

○樋口の家・リビング(深夜~昼)
投げられた巾着袋をキャッチする樋口。
京、拓真、得意気な表情。
樋口、懐かしそうな顔で巾着袋を見る。
樋口「これ……」
机上の時計、日付が7月7日に変わる。
×   ×   ×
机上の時計は7月7日の14時半を指し
ている。
拓真、寝ぼけた表情でリビングに入る。
拓真「樋口さーん、京ー……いないか」
拓真、水を1杯飲んだところで、隅に積
まれた、付箋で沢山の本に気が向く。
拓真「(本に近づき)……」
拓真、その中の1冊を何となく読み始め
る。
拓真、徐々に表情が暗くなる。
拓真「……何だよ、これ……」

○商店街
賑わっている。
散歩中の京、20歳ほどの幸せそうなカ
ップルとすれ違う。
京、一瞬止まるが、またすぐ歩きだす。
京「それぞれ、頑張ろーぜ、それぞれ」

○樋口の家・リビング
拓真、ソファで本を熱心に読んでいる。
隅にあった他の本も拓真の周りに散らか
っている。
玄関のドアが開く音。
樋口(声)「あちーなー。誰かいるかー?」
樋口、リビングに入る。
拓真「俺はいますよ」
樋口「(散らかった本を見て)……拓真?」
拓真「はい」
樋口「……お前それ、読んだのか?」
拓真、ぱたりと本を閉じる。
拓真「……樋口さん、樋口さんの恋人が死ん
だのって、10年前ですよね」
樋口「……ああ、そうだ」
拓真「樋口さんが、元の人間に戻ったのって、
いつでしたっけ」
樋口「……10年前だ」
拓真「巾着袋、見ましたよね」
樋口「……あれは確かに、俺のだ」
拓真「石が、2個入ってたんですけど」
樋口「……」
拓真「樋口さん1人が元に戻るのは!……1
個で十分。そうですよね」
樋口「……お前もう、分かってるんだろ」
拓真「……1度に戻れるのは、1人まで。2
人が戻るには、2年かかる」
樋口「……」
樋口、机上に立ててある、噴水が写った
写真を手に取り、
樋口「……愛花。それはもういない、ある女
性の名前だ」

○田舎道(回想)
横山愛花(26)、イヤホンを付けな
がら歩いてる。
反対の道路から、その凛とした姿に見と
れている樋口(26)。
愛花の後ろから車が、スピード早めで接
近。愛花をよける気配はない。
樋口「……!!」
樋口、愛花に飛び込む。
2人、田圃に落ち、2人の顔は急接近。
愛花「……あなた、私が、見えるの?」
樋口「……え?」
樋口(声)「出会った時、俺たちは互いに、
透明だった」

○デズニーランド・噴水前(日替わり)
賑わっている。
樋口(声)「それから始まったのは、何にも
染まらない、2人だけの世界」
樋口、噴水前の愛花をカメラで撮る。
樋口、愛花、カメラの写真を確認する。
写っているのは噴水のみ。愛花はいない。
樋口、愛花、笑う。

○愛花の家・寝室(日替わり)
樋口、愛花、ベッドで横になっている。
樋口「面白い噂?」
愛花「そうなんかね、七夕の日、透明な石持
って明水山に登ると、元に戻れるんだって」
樋口「透明じゃなくなるってこと?」
愛花「らしいよ、噂だけどね」
樋口「七夕、近いな」
愛花「山デート。してみる?試しに」
樋口(声)「冗談半分。その時はまだ、何も
知らなかった」

○明水山・頂上(深夜)(日替わり)
樋口、愛花、巾着袋から透明な石を2つ
だし、1個ずつ持ち、その場に座る。
樋口「こんなんでほんとに、元に戻んのか?」
愛花「さあどうでしょう!でもね徹、こんな
んで私達、透明になったんだよ」
樋口「ま、そーだな」
愛花の腕時計、23時59分を指す。
樋口、不意に愛花にキス。すぐ離れる。
愛花、照れたような笑顔。
愛花の腕時計、24時丁度を指す。
すると樋口、視界がくらむ。
×   ×   ×
朝。
樋口、目が覚める。
樋口、急いでリュックから鏡を取り出し、
顔を見ると、顔が映っている。
樋口「戻っ……てる」
しかし、周りに愛花はいない。
樋口「……愛……花?、愛花?……愛花?!」
その場で呆然とする樋口。
樋口(声)「俺はその日、自分の色を手に入
れて、愛花を失った」

○本屋・店内(日替わり)
樋口、分厚い本を読み漁っている。
そこには『透明人間』の文字。
本の文字「元に戻るには、透明になった時と
全く同じことをすればよい」
樋口、読み進める……と、驚く。
本の文字を見せながら、
樋口(声)「しかし1度の七夕に、戻れるの
は……1人、のみ」
樋口、一瞬呆然とし、また読み進める。
本の文字を見せながら、
樋口(声)「もし複数人が、1度に戻ろうと
した場合、1人は元に戻れるが、その他は
全て透明のまま……存在自体が、消えて…
…しまう。そうつまり、1度に元に戻れる
のは……1人、のみ」
樋口、その本と周りの本も全てカゴに入
れる。

○河川敷
重い本を持ち、帰宅中の樋口。
樋口、ふと立ち止まり、ポケットにある
巾着袋を思い切り川に投げる。
樋口「(川を見て)……」

○樋口の家・リビング(夕)
買った本を読み漁っている樋口。
『1人のみ』、『透明人間』、というよ
うな言葉が見える度、線を引き、付箋を
貼る樋口。
樋口、ふと手を止め、机上に立ててある
写真を眺める。
噴水のみが写ったデズニーランドの写真。
(回想終わり)

○樋口の家・リビング
噴水のみが写ったデズニーランドの写真。
それを持つ樋口。その隣にいる拓真。
樋口「黙ってて、悪かった」
拓真「何で……何で今までずっと!……」
樋口「……お前ら見てると、戻ってる気がし
たんだよ、10年前、俺と愛花がいた時に」
樋口が見つめる写真、うっすらと愛花の
姿が見えてくる。
拓真「……酷いよ、樋口さん」
樋口「……これからどうするか、どっちが先
に戻るのか……お前が、決めてくれ」
拓真「俺が……」
京(声)「(帰宅し)はー、外あっつ!」
京、リビングに入り、
京「(拓真、樋口を見て)なんか……シリア
ス?やめなよーこんな時に喧嘩なんて」
時計は7月7日15時丁度を指す。
×   ×   ×
時計は7月7日22時丁度を指す。
京(声)「行ってきまーす」
扉が閉まる音。
玄関の方を見つめる樋口。

○樋口の家・玄関前(深夜)
いるのは拓真と京。どちらもリュックを
持っている。
拓真「行くか!」
京「(近くを指し)ねえあれ」
あるのは2人乗りができる自転車。
京「2人乗れるやつだ、樋口さんの?」
拓真「そう、たまに1人で使ってる」
京、自転車の後ろの座席に座る。
拓真「早く行こう!時間ないし」
京、動かない。
拓真「行こうよ」
京「乗せてって。そこのお兄さん」
拓真「(周りを見渡し)そこのお兄さん?」
京「拓真のこと。その位分かってよ」
拓真「え、俺?」
京「乗せてって。いいでしょ?今日七夕だし」
拓真「意味がわからない」
京「だろうね!まあいいから早く」
拓真「……はいはい、乗せますよ」
拓真、渋々自転車に乗り、出発。

○河川敷(深夜)
静かな様子。
拓真、京を乗せ、自転車を運転中。
京「石、持った?」
拓真「持ってる」
京「いつもよりテンション低くない?」
拓真「京こそいつもより、テンション高くな
いか?」
京「最後の日くらい、元気でいようかな、と
か思ったり」
拓真「最後の日か」
京「(ボソッと)透明な2人にしか分からな
い世界の、最後の日?」
拓真「何て?」
京「何でもないです」
拓真「はっきり喋ろって」
拓真、スピードを上げる。
京「(それに過剰に驚き)うわーーーーー!」
拓真「叫ぶなよ。人いたら驚くだろ」
京「気にしなくていいって。叫べば元気にな
るよ?」
拓真「……ほんとか?」
京「さあねー」
拓真「……うおーーーー!」
京「(拓真に合わせ)わーーーーー!」
2人、笑う。
京「七夕の夜、河川敷にいると、どこからと
もなく、叫び声が聞こえる」
拓真「この町に伝説が、1つ増える」
2人、また笑う。
拓真、さらにスピードを上げ、2人はま
た叫ぶ。

○明水山・頂上(深夜)
拓真、手乗り運転で京と共に頂上に着く。
拓真「よーし!間に合った」
京「自転車で正解だね、時間ギリギリ」
拓真、京、座る。
京「石、出してよ」
拓真、巾着袋をリュックから出す。
京、手のひらを出し、拓真、石を1つ巾
着袋からそこに落とす。
京「拓真のは?」
拓真「……」
京「拓真?」
拓真「俺は、元に戻らない」
京「……何言ってんの?」
拓真「この伝説には、裏側があるんだ。1度
に2人は戻れない。だから俺、来年戻る」
京「……(苦笑して)なにどういう事。意味
わかんないんだけど」
拓真「だから今は俺と京!どっちかしか元に
戻れないんだよ!」
京の腕時計、23時55分を指す。
京「ふざけないでよ、え、時間ないよ?!」
拓真「ふざけてない!本当なんだって!」
京「……」
京、拓真のリュックを開ける。
拓真「おい!」
京、拓真のリュックから携帯を取り出し、
樋口に電話をかける。

○樋口の家・書斎(深夜)
黙って椅子に座っている樋口。
テーブルにある透明な石、1つ。
携帯がなり、樋口、応答する。

○明水山・頂上(深夜)
いるのは京と拓真。
京「(電話中)樋口さん!……なんか今ー、
拓真がよくわからない事を……はい……」
京の腕時計、23時57分を指す。
京「(電話中)そうです……はい……え?」
拓真、空を見て、座っている。
京、徐々に表情が険しくなる。
2人が静まり、蝉の声が目立つ。
京、夏風に吹かれ、髪がなびく。
電話中の京、座っている拓真、数秒何も
動かない。
京、電話を切る。
拓真、立ち、京のもとへ。
京、右手で石を投げようとする。
拓真、それを止め、京の右手を握る。
京、拓真の手を離そうとするが離れない。
京「2人で戻るって言ったじゃん!……嘘つ
き」
拓真「……騙されるほうが、悪いんだよ」
京「……ずるい」
拓真「(笑顔で)お母さん、待ってるんだろ」
京「拓真だって本条さん––」
拓真「だから俺は!……来年、戻るから」
京、左手で拓真の手を離そうとするが、
離れず、両手を拓真に握られる。
拓真「諦めろ」
京「(徐々に抵抗を弱め)……」
2人の沈黙で目立つ、蝉の声。
京「……1年後、私ここにいるから……拓真
が戻るのを、私待ってる」
拓真「うん、分かった」
京「……最後に1つ、言いたい事、言わせて」
拓真「言いたい事?」
京「私が施設を、抜け出した理由」
拓真「何年か前の、今日に」
京「そう」
拓真、京の左腕の腕時計を見る。
京「……あの日、七夕の夜、私は  」
拓真「京!」
京「?」
拓真「ダメだ、時間が……」
京、すぐに自分の腕時計を見る。
拓真「七夕が終わる」
京の腕時計、23時59分58秒、59
秒、……24時。(スローモーション)
京「!」
京、急に視界がぼんやりとし、やがて、
視界は真っ暗に。

○明水山・外観
晴れ渡っている。
T『1年後、夏』

○京の家・玄関(朝)
制服姿の京、靴を履く。
京「じゃ、いってきまーす」
美恵子(声)「京!お弁当」
美恵子、玄関に来て、京に弁当を渡す。
京「あーありがと。あれ仕事は?」
美恵子「今日夜勤なの。だからまだ」
京「そっか」
美恵子「(何か思い出し)そうだ。帰りに牛
乳買ってきて、1つ。あとでお金渡すから」
京「りょうかーい。じゃ、行ってくるねー」
京、外へ。

○通学路(朝)
京、イヤホンを付け、1人で歩いている。
京M「拓真には、あれから今まで、会うこと
はなかった」

○高校・教室
授業中。
黒板の端、7月7日と書かれている。
席が窓側の京、窓から晴れ空を見ている。
京M「ただ何となく、あれから1年後の今日
まで、会ってはいけない気がして」

○商店街(夕)
牛乳屋に入ろうとする京。
京M「でもやっと今日、会いに行く。あの時
言えなかった事を、言うために」
京、自分とは違う制服を着た女子生徒を
目の端で捉える。どこかで見覚えがある。
京「……(小さく)本庄、紗江、さん?」
京、紗江の後ろ姿を見る。
紗江のリュック、何もついていない。
×   ×   ×
紗江の、ミニーのキーホルダーがついて
あるリュック。その隣、悠斗のミッキー
のキーホルダーがついてあるリュック。
×   ×   ×
京「……」
京M「あの時言えなかった、私が施設を出た
理由。私が……」
×   ×   ×
拓真「7月の8日は、本庄さんの誕生日でさ、
誰よりも早く、あの子におめでとうを言い
たくて、七夕の夜、抜け出したんだ」
×   ×   ×
京「(苦しそうな顔)……」
京、紗江に向かって駆けだす。

○明水山・頂上(深夜)
誰もいないが、何故か足音が聞こえる。

○京の家・京の部屋(深夜)
京、横になってデジタル時計を見ている。
時計、日にちが7月8日になる。

○明水山・頂上(朝)(日替わり)
寝ている拓真、ぼんやりと目を覚ます。
拓真、急いでリュックから鏡を取り出し、
顔を見ると……顔が映っている。
拓真「……!」
拓真、人の気配を感じる。
いたのは、制服姿の紗江。
拓真「……本条、 さん……?」
紗江「……拓真、君?……昔施設にいた、谷
口拓真君?!」
拓真、何度も頷く。

○通学路(朝)
制服姿で1人、イヤホンを付けながら歩
いている京。
京M「私は2つ、嘘をついた。1つは拓真に。
今日、山の頂上に向かうと、言ったこと」

○明水山・頂上(朝)
いるのは拓真と京。
拓真「でもなんで、ここに?」
紗江「梶原京さん、施設で私達と一緒だった
子、覚えてる?」
拓真「うん」
紗江「昨日その子に会って、この時間にどう
しても、ここに居て欲しいって言われて…
…」
拓真「京が……」

○通学路(朝)
通学中の京、友人に話しかけられ、笑顔。
京M「もう1つは、自分の気持ちに」

○明水山・頂上(朝)
いるのは拓真と紗江。
拓真「そうだ、本庄さん……」
紗江「どうしたの?」
拓真「……誕生日、おめでとう」
紗江、嬉しいような、驚いたような。
京N「嘘なんて大抵、騙される方が悪いのだ」

○通学路・校門前(朝)
京、友人と楽しげに学校へ向かっている。
京M「なんて思ったりした、16歳の、夏」
                 了

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