山のつどい 舞台

これは、ある一つの山で起きた日々の出来事である。
佐藤そら 29 1 0 08/01
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第一稿

   山の中、日中。
ナレ「ここはとある山でございます。その山には口うるさい鳥、鳥香(とりか)と鳥凛(とりん)、物知りじいさんの鳥次郎が棲んでおりました」
山「わたしは、しがな ...続きを読む
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   山の中、日中。
ナレ「ここはとある山でございます。その山には口うるさい鳥、鳥香(とりか)と鳥凛(とりん)、物知りじいさんの鳥次郎が棲んでおりました」
山「わたしは、しがない山でございます。近頃は環境問題があちらこちらで指摘され、その影響はこのわたしにも……。なんだか今日は後頭部に寒気がする。そして、呼吸もなんだか苦しいような。どうやら、呼吸が苦しいのは、このご時世あまりよろしいことではないようです。これは風邪でもひいたかな?」
鳥香「大変大変! 山さん大変よ! 山さんハゲてるわ!」
山「なんだって? 鳥香さん、その話は本当かい!?」
鳥凛「後頭部がいかれちゃってるわ。山さんは、そういうタイプのハゲ方なのね!」
山「なんだって? 鳥凛さん、わたしは後頭部が削れてるのかい!? どおりで寒気がするわけだ」
鳥香「ハゲとか、ありえないんですけどー」
鳥凛「ありえないのは、鳥香さんの存在じゃなくて? 意味分かんないんですけどー」
山「なんてことだ、木がない! いつの間にか木が削られている。ただでさえ、温暖化のせいで体力が落ちているというのに」
鳥香「原因として考えられるのは、やはり鳥凛さんの存在ね。それくらいしか考えられないわ」
鳥凛「あら? わたしのせいだとおっしゃるの? その小さい脳みそでは、それくらいしか思いつかないのね。鳥香さんこそ原因のひとつだと思いますけど」
鳥香「何をー! 今日こそ息の根を止めてやりますわ」
鳥凛「いつもそんなことを。やれるものならやってみなさいよ」
鳥次郎「どうしたんじゃ?」
山「おや、鳥次郎さんじゃありませんか」
鳥香「山さんがハゲって話をしてるのよ」
鳥凛「原因が鳥香さんって話をしてるのよ」
鳥次郎「ハゲ!? わしも気になる。山さんの後頭部に木がないということか。こりゃ一大事じゃ。これはやがて、わしらにも影響するぞ。今のうちに山を移動しなければ」
鳥香「わたし達もハゲるということ?」
鳥凛「鳥次郎さんには、もうその影響が!?」
鳥次郎「いや、ハゲるということではないが、棲めなくなるというか、生きていけなくなるのじゃ」
鳥香「これは山さんのせいじゃなくて?」
鳥凛「わたし達にまで害が来るなんて許せないわ!」
鳥次郎「これは山さんのせいではない。このハゲるという現象は、人間によって行われるのじゃ」
鳥香「原因は、あの気持ち悪い人間なの?」
鳥凛「人間は頭がおかしいというのは本当のようね」
鳥次郎「これは森林伐採といってな。人間が自分達の暮らしを豊かにするために木を切っておるのじゃ」
鳥香「まぁ、最低ね!」
鳥凛「本当! 鳥香さんと同じで最低だわ!」
鳥香「あら、わたしは人間よりも鳥凛さんの方が最低だと思いますけど」
鳥凛「まぁ! わたしは、鳥香さんはもっと最低で、それが鳥香さんの思う最低よりも、もっと上の最低と考えさせて頂きますわ」
鳥次郎「人間の脳はどこまでもいかれておる。共生する気のない人間の考えが、わしには理解できん。しかしな、これには山の神、『じじろの精』が関係しておるのじゃ」
山「じじろの精? それは、わたしの中に棲んでいると言われる、あの目に見えない気持ちの悪い狂った妖精のことかい?」
鳥次郎「そうじゃ。じじろの精は、神様であるが、今では汚染物質になっておる。じじろの精が増殖し過ぎてなぁ。少量では害のなかった『じーろホルモン』が大量に分泌されて、人間の脳を汚染してるんじゃよ。まぁ、いわゆる環境ホルモンというものじゃな。じじろの精は、一体何を考えておるのじゃ。これが本当の、お山の大将じゃ」
山「じじろの精は増殖して、人間の脳を犯して、己の手で自分の棲む山を破壊に導く。神なのに自分の棲む山に害を与えるのかい? なんのために?」
鳥次郎「滅亡じゃ。始まりがあるということは、終わりがあるということだ。じじろの精は自らの手で地球を破滅させ、新しい地球を形成しようと企んでいるのかもしれん」
鳥香「凄くイライラするわ。そいつこそ息の根を止めるべきよ。そんなことをして、なんの利益になるというの? 滅亡するのは鳥凛さんだけで十分よ」
鳥凛「やってられない。鳥香さんといると本当にイライラする。鳥香さんが本当はじじろの精じゃなくて?」
鳥香「まぁ、失礼! 鳥凛さんこそ、鳥の皮を被ったじじろの精じゃなくて?」
鳥次郎「何もかもが、じじろのせいじゃ。そう、だからじじろの精なんじゃ」
山「最近なんだか息苦しい。これは一体誰のせい?」
大気「わたしのせいだとでも?」
山「その声は大気さん!」
大気「あなたさんは、大気が汚れているから息苦しいとおっしゃるんですか?」
山「そんなことは一言も……」
鳥香「じゃあ、わたしのせいとでも? これこそ鳥凛さんのせいよ」
鳥凛「あら、鳥香さんのせいでよくってよ」
鳥次郎「ダーティーか。これも人間のせいじゃ。自分達の発展のために大気を汚しておるのじゃ」
山「また人間!」
鳥次郎「しかし厳密に言えば、人間の頭を犯す、あのじじろの精じゃ。じじろの精の異常発生で、発生し過ぎたために何故か死亡するじじろが出てきた。そしてそのじじろの死骸が蒸発して、大気を汚染しておるのじゃ。だから近頃の人間は、マスクというものをしておるのかな? わしもほしい」
大気「蒸発? では、わたしの中に死骸のじじろが!?」
山「自ら増えて死んでいく。これはまったく意味が分からない!」
鳥次郎「じじろの精に、わしもその訳を聞きたい。インタビューしてみたいが、どうにも姿が見えんからな。見えないものが結局一番怖いのじゃ」
土壌「なら、おいらが減っていくのもじじろのせいかい?」
山「おやおや、その声は土壌さん!」
土壌「ドジョウが出てきてこんにちはって、おいらは、根は生えるけども、髭の生えるドジョウじゃねぇよ」
木「近頃は足元がふらつくね」
山「おやおや、その声は木さん!」
木「仲間の木達が、日々人間とやらに連れていかれ、更には土砂崩れで流されていく」
土壌「おいらのせいだとでも言うのかい? こっちだって文句が言いたいね」
山「木さんがなくなって、土壌さんが流されて、そしたらわたしはつるっぱげ!」
大気「そしたらわたしは、酸素を含まなくなってしまう」
鳥香「そしたらわたしは、棲めなくなってしまうわ!」
鳥凛「わたしだって棲めないわ。まっ、鳥香さんは棲まなくていいと思いますけど」
鳥香「何よ。鳥凛さんなんて、そこらへんで野垂れ死ねばいいわ」
鳥凛「鳥香さんの方が先に力尽きるわよ」
鳥香「まぁ、わたしは鳥凛さんの死を見届けて差し上げますわ」
鳥次郎「何もかもが、じじろのせいじゃ。そう、だからじじろの精なんじゃ」
ナレ「そうこうしているうちに、またある日のことでございます。『パチパチ。パチパチ。』と山の中で音が聞こえてきました。なんだか焦げ臭い。それは登山客の一本の煙草から始まったのでございます」
鳥香「大変大変! 山さん大変よ! 山さん燃えてるわ!」
山「なんだって? 鳥香さん、わたしが燃えてるってのは本当かい?」
鳥凛「大変大変! 山さん大変よ! 山さん燃えてるわ!」
鳥香「あら、鳥凛さん、わたしの真似はやめて頂ける? わたしが最初に教えたんですから」
鳥凛「まぁ、心の狭い方ねぇ。鳥香さんがちゃんと伝えられないから、わたしがお話して差し上げてよ」
鳥香「余計なお世話よ」
山「おいおい、今はピーチクパーチク言ってる場合じゃないだろよ。おまえ達いい加減にしなさい。いよいよ噺家さんの首が、もたないじゃないか」
鳥次郎「おーい! 鳥香、鳥凛! 何をしておる。早く逃げるのじゃ。そうしないともうすぐ火の手がこっちにまで回ってくる」
鳥香「鳥次郎さん! えっ、この山を出るというの?」
鳥凛「何よそれ、山さんを見捨てる気?」
鳥次郎「このままでは、わしらも丸焼きだぞ? わしは行くぞ。早くするのじゃ」
鳥香「最低ね。逃げるなんて、やってられないわ!」
鳥凛「本当、あのジジイ意味が分からないわ」
山「鳥香さん、鳥凛さん、何をしている。早くお逃げなさい! もっと素敵な山へとお行きなさい! どうせわたしはもうハゲかけた山だから」
鳥香「何を言ってるのよ! これじゃ山さん、ハゲどころか、完全なるつるっぱげ」
鳥凛「そうよ。わたし達が山さんを見捨ててここを離れるなんてできるわけがないでしょ? あなたより素敵な山なんて何処にもないわ!」
鳥香「鳥凛、火を消すわよ」
鳥凛「鳥香、望むところよ」
山「おまえ達、なんて嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
ナレ「鳥香と鳥凛は、己の羽を使って羽ばたきました。この山に居たいから。君と一緒にここで過ごしたいから。ところが、バタバタ、バタバタと羽ばたくにつれ、その火は勢いを増し、余計に強くなったのです」
鳥香「お願い、消えて!」
鳥凛「消えてよぉ!」
川「あたいも協力するよ! いいかい、こういう時には水が必要なのさ。あたいの量では、ちょいと足りないかもしれないね。干上がるまで使っておくれよ」
山「川さん! なんてありがたい!」
雨雲「お困りのようだね」
鳥香「その声は、雨雲さん! わたし達の羽ばたきではどうやら火は消せないの」
鳥凛「助けて! 助けてよ! わたし達の山をなんとかして!」
雨雲「あんたらに心打たれたぜ! わたしがお助けいたしましょう」
山「雨雲さん! なんてありがたい!」
雨雲「あたぼうよ!」
ナレ「山には大量の雨が注がれました。みんなの心はワンチーム。火は一気に勢いを失い、瞬く間に消えていったのです」
雨雲「いやー本当によかった。わたしもこんなに素敵な仲間にめぐり会えてよかったよ。感動した! こりゃ照れるねぇ、雨雲だっていうのに照れてどうするんだよってな」
川「あたいは干上がるところだったよ」
土壌「まったく、おいらは流されるところだったよ」
山「土壌さん! 大丈夫かい?」
土壌「木さんが助けてくれたから、とどまっていられたけどよ。木さんがなくなってしまったら、おいらはすぐにいなくなってしまうからな」
木「こちらこそ、土壌さんがいないと貧血で倒れてしまう。山さんもこれでハゲきらなくってよかったさ」
鳥香「それにしてもハゲは進行したわね」
鳥凛「本当に。いつもより増してハゲ散らかしてるわ」
鳥香「でもね、わたし達は気付いたのよ」
鳥凛「木はまた生えてくるってね」
山「鳥香さん、鳥凛さん!」
鳥香「はぁ、それにしても疲れたわ。鳥凛さんが働かないから」
鳥凛「あら、鳥香さんのおかげで火が消えたわけじゃなくってよ」
鳥香「無駄な動きをしている鳥に言われたくなくってよ」
鳥凛「鳥香さんのせいで火が強くなったわ」
山「おいおい、何故またそうなる?」
鳥香「もとはといえば、山さんのせいじゃない。いつも山さんのせいで事件ばかり起きるのよ」
鳥凛「そうよ、無駄な動きを増やしてる要因は全て山さんにあるわ。あーもう、こんな山でなんてやってられない。鳥香さんとも」
鳥香「わたしだって鳥凛さんとはやってられないわ。今日の火事で丸焼きになればよかったのに」
鳥凛「鳥香さんこそ、丸焼きになって人間とかいう気持ち悪い生き物に喰われればよかったのに」
鳥香「鳥凛さんなら照り焼きにされるわよ」
鳥凛「あら、鳥香さんなら食べたらまず過ぎて人間が吐くわよ。人間の人格をもっとおかしくするんじゃなくて?」
鳥香「あーやってられない。本当に息の根が止まればいいのに」
山「また始まってしまった。ありゃ? あれはもしや鳥次郎さんではないかい? ここへ戻って来たのかい?」
鳥次郎「おーほっほっほ。平和じゃのう」
鳥凛「何もせずによくそんなことが言えるわね」
鳥香「本当! 何もしてないのに、よくも堂々と戻って来れたものね」
鳥凛「鳥次郎さんこそ、丸焼きになるべき鳥よ!」
鳥香「そうよ。この山を捨てた鳥に言われたくないわ」
鳥凛「燃えてしまえばいいのに!」
鳥次郎「そりゃ、最高の褒め言葉じゃ」
山「いや、解釈おかしい!」
ナレ「こうして、山の平和は保たれたのでございます。皆同じ一つの山で支え合って、全力で毎日を生きているのでございます。相変わらず今日もこの場所で、山のつどいは行われております。ところで皆さん、じじろの精って、なんでしょうね?」
終わり

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