・人物
吉岡大樹(22) 大学生
菊池爽太(22) 大学生
前原さあや(20) 大学生
YouTuber1、2、3、4
店員
男(50)
・脚本
○ マンションの一室
YouTuberの1、2、3、4、カメラの前に立っている。
YouTuber1「はい。ということで今日はここタクミの自宅で大喜利をしてもらいます!」
YouTuber2、3、4「(拍手)」
YouTuber1「ルールを説明します! みなさんにはこの部屋の物を使って従来のことわざと同じ意味を持った新しいことわざを作り出してもらいます。例えば、猫に小判、なら、猫に小判と同じ意味の言葉を作って発表してください!」
× × ×
YouTuber2、3、4、部屋の中を物色している。
YouTuber2「(手をあげる)はい!」
YouTuber2、冷蔵庫の前に立っている。
YouTuber1、やってくる。
YouTuber2「棚からぼた餅、でいきます」
YouTuber1「棚からぼた餅」
画面に以下のテロップ。
「棚からぼた餅 思いがけない好運を得ること、労せずしてよいものを得ることのたとえ。たなぼた」
YouTuber2、冷蔵庫からプリンを取り出す。
YouTuber2「じゃーん。冷蔵庫からプリン!」
YouTuber1「勝手に食べたら怒られる奴。でも見つけるとラッキーだよね」
YouTuber2「いただきます!」
YouTuber3「(見て)俺のプリン!」
× × ×
YouTuber4「(手をあげる)はい!」
YouTuber4、後ろ手に何かを隠している。
YouTuber1、やってくる。
YouTuber4「鬼に金棒でいきます」
テロップ「鬼に金棒 ただでさえ強いものに、一層の強さが加わること」
YouTuber4、牛の被り物をしたプーさんのぬいぐるみを見せる。
YouTuber4「プーさんに被り物」
YouTuber1「かわいっ!」
YouTuber3「(見て)それ、丑年限定モデルのぷーさんです」
YouTuber4「ただでさえかわいいのにさらにかわいいっていう」
○ 牛角・店内(夜)
テーブルの上にスマホ。
スマホ画面にYouTuber1らが映っている。
YouTuber1「冷蔵庫にプリン、ぷーさんに被り物、みなさんなかなかうまいですよ」
テーブル席に吉岡大樹(22)、菊池爽太(22)、前原さあや(20)、スマホ画面を見ている。
さあや「最近ハマってるんですよ」
大樹「推しメンはどれなの?」
さあや「この子です(と画面を指さす)」
大樹「これ?」
さあや「そうです。タクミくん」
大樹「え、俺、似てない? タクミくん」
爽太「どこかだよ」
大樹「お前に聞いてねえんだよ」
さあや「(大樹を見て)うーん…」
大樹「じゃあさ、俺とコイツ、どっちが似てる?」
さあや「(大樹と爽太を見比べて)雰囲気的に菊池先輩のほうが似てるかも」
爽太「(え? しゃーー!)」
大樹「…(いじける)」
店員、酒を運んでくる。
店員「ビールと酎ハイになります!」
店員、去る。
爽太「(テンションが上がる)じゃその大喜利俺たちもやってみね?」
大樹「いいよくだらない(と酒を飲む)」
さあや「でも難しいそうじゃないですか?」
爽太「確かに。新しいことわざを考えて、それを実際に披露するってことだよね」
さあや「大喜利とか、そういうのとっさにひらめく人って頭いいですよね。かっこいいって思います」
大樹、思わず酒を飲む手がとまる。
大樹「(目が光る)…何賭ける?」
爽太「え?」
大樹「いやいや、やってもいいけどもさ、何も賭けないと盛り上がらないだろ」
爽太「いや、そこまでガチになんなくても」
大樹「もしかして怖いの? 俺に負けるのが」
爽太「…なんで急にそういう話になんだよ」
さあや「(困惑して)ちょっとどうしたんですか?」
大樹「そっかそっか。怖いんだね。さあやちゃんの前で。真剣勝負が怖いお子様はソフトドリンクに換えてもらったほうがいいんじゃないの」
大樹、爽太のビールグラスを取り上げようとする。
爽太、それを阻む。
二人、一つのグラスを握り締めながらにらみ合う。
爽太「それで何賭けんだよ?」
大樹「全員の飯代でどうだ?」
爽太「ゴチ勝負か」
大樹「決まりだな」
二人、グラスから手を離す。
大樹「…さあやちゃん。ということで今からみんなで大喜利をすることになった」
さあや「えー? ちょっと何なんですかこれ。私もやるんですか?(と焦る)」
大樹「大丈夫。さあやちゃんは特別枠だから」
爽太「俺とこいつの勝負だよ」
さあや「…ならいいですけど」
× × ×
大樹、爽太、さあや、真剣な眼差し。
大樹「ルールを確認したい。ことわざと同じ意味を持った言葉を考え、それを実際にやってみせる」
爽太「一番面白い回答をした奴が勝ち。負けた奴が全員分の飯代をオゴる」
さあや「ただし私は特別枠。大喜利を楽しむだけで勝負には参加しないていい」
三人「(頷く)」
大樹、爽太、さあや、ネタを探すべくきょろきょろと辺りを見回す。
大樹「はい!(と手をあげる)」
さあや「えー早い」
大樹、注文用タブレットを手にする。
大樹、タブレットを操作する。
大樹、タブレットをおく。
爽太「…早くやれよ」
大樹「頼んだもんがくんのを待ってんだよ」
× × ×
店員、肉を持ってやってくる。
店員「特上カルビ5人前になります!」
大樹の前に特上カルビ5人前の皿が置かれる。
爽太「(あ然)ちょ、何してんだよ。これ1万円近くあるぞ」
大樹「それがどうした?」
爽太「いやいや、お前」
大樹「(にやり)背水の陣」
爽太「は?」
大樹「聞こえなかったか。背水の陣だ」
画面に以下のテロップ。
「背水の陣 もう逃げ場はないと覚悟した上で、ものごとに取り組むことのたとえ」
大樹、特上カルビの皿を眺め、
大樹「一度頼んだらもう後戻りできない特上カルビの陣で俺は勝負に臨む」
爽太「(戸惑う)いや、お前それは…」
声「あっぱれ!」
大樹、爽太、声の方を見る。
隣の席の男(50)が二人を見ている。
男「先ほどから会話が耳に入ってきましてね。何やら面白そうな勝負ですな」
大樹「…?」
男「この勝負、私が見届けましょう」
大樹「(誰だ?)」
大樹、特上カルビを網にのせる。
大樹「さ、さあやちゃん、どんどん食べよ」
さあや「え、いいんですか?」
大樹「いいのいいの。遠慮しないで。どうせアイツの奢りだから」
さあや「じゃーいただきます」
爽太「…」
爽太、勢いよく手をあげる。
爽太「はい!」
× × ×
爽太の前に特上カルビ5人前の皿。
大樹「おい、何のつもりだよ」
爽太「…二番煎じ」
テロップ「二番煎じ 前にあったことの模倣で新味のないもの」
爽太「…二番カルビ」
男「喝!」
爽太「(誰だ?)」
大樹、手をあげる。
大樹「(あざ笑う)何を繰り出してくるかと思ったら二番カルビって…とどめをさすか」
× × ×
大樹の前に特上カルビ5人前の皿。
爽太「またかよ…」
大樹「(にやり)二度あることは三度ある」
テロップ「二度あることは三度ある 二度あったことは必ずもう一度ある。物事は繰り返されるものである」
大樹「二度くるカルビは三度くる」
男「あっぱれ!」
大樹「(にやり)」
爽太「…」
大樹、意気揚々と肉を網に乗せる。
大樹「…さあやちゃんも挑戦してみたら?」
さあや「うーん」
大樹「大丈夫。激甘採点だから」
× × ×
さあやの前、肉の乗った白ご飯。
さあや「はい!(と手をあげる)」
大樹「さあやちゃん、どうぞ!」
さあや「弱肉強食」
テロップ「弱肉強食 力の弱いものが強いもののえじきになること。力の強いものが勝ち、栄えること」
さあや、茶碗を手にとって、
さあや「(笑顔で)焼き肉定食」
大樹「…優勝!」
さあや「わーい」
爽太「(ぼそり)ちょっ、ただのダジャレじゃ…しかも四文字熟語だし」
大樹、伝票を爽太の前におく。
大樹「今んとこお前が断トツのビリな」
爽太「…」
爽太、伝票を手にする。
その拍子に小皿のタレをこぼしてしまう。
爽太の着ていた白いTシャツにタレがつく。
爽太「あ!」
爽太、おしぼりでTシャツのタレを拭く。
が、シミになって取れない。
爽太「くそっ! お気に入りなのに…」
大樹「(見て、にやり)…水と油」
テロップ「水と油 しっくりと調和しないこと、たがいに性分のあわないことのたとえ」
シミの付いた白いTシャツ。
大樹「…白Tとタレ」
男「あっぱれ!」
× × ×
大樹の前に焼きたての肉。
大樹「鉄は熱いうちに打て」
テロップ「鉄は熱いうちに打て 物事には時機があり、好機を逸してはならないことのたとえ」
大樹、肉を一口。
大樹「肉は熱いうちに食え」
男「あっぱれ!」
× × ×
大樹、スマホをいじっている。
大樹「二階から目薬」
テロップ「二回から目薬 もどかしいこと、また遠回しすぎて効果がないことのたとえ」
大樹のスマホ画面に牛角の公式Twitter。
大樹、「三番テーブルにカルビ二人前」とリプライを送信。
大樹「Twitterから料理注文」
男「あっぱれ!」
× × ×
大樹の前に大量の肉。
大樹「水を得た魚のよう」
テロップ「水を得た魚のよう 自分の得意の領域、活躍の場を得ていきいきとするたとえ」
大樹、大量の肉にがっつく。
大樹「(もぐもぐ)肉を得た獣のよう」
男「あっぱれ!」
× × ×
さあやの前に肉の乗った白飯。
さあや「弱肉強食」
テロップ「弱肉強食 力の弱いものが強いもののえじきになること。力の強いものが勝ち、栄えること」
さあや、茶碗を手にとり、
さあや「(笑顔)焼き肉定食パート2」
× × ×
大樹とさあや、どんどん食べている。
爽太、一人頭を抱えている。
爽太、Tシャツのシミが気になる。
○ 同・店の外(夜)
夜空に月が昇っている。
○ 同・店内(夜)
大樹とさあや、すっかり満腹だ。
爽太、一人沈み込んでいる。
大樹「食べたね」
さあや「もう食べられない」
大樹「じゃ、そろそろ出ようか」
大樹とさあや、立つ。
爽太、座り込んだままだ。
大樹、伝票を手に取る。
大樹「(伝票を見て)ひぇーーー。すごい金額だ」
大樹、伝票を爽太に差し出す。
爽太、Tシャツのシミを気にしている。
大樹「何? シミのせい? お気に入りのTシャツにタレがついたせいで二番カルビしか出てこなかった?(とからかう)」
爽太「…うるせえ」
大樹「(にやり)泣きっ面に蜂」
テロップ「泣きっ面に蜂 悪いことが重なること、不幸な上にさらに辛いことが加わることのたとえ」
大樹「いや、泣きっ面に伝票か」
爽太「…」
大樹「トイレいってくる。戻ってくるまでに会計済ませとけよ」
さあや「ごちそうさまでーす」
爽太、渡された伝票を見る。
爽太「(金額を見て歯噛みする)」
悔しさで震える爽太。
ふと伝票に書かれた「牛角」の文字が目に入る。
爽太「牛…角…」
爽太、「角牛」の文字をじっと見つめる。
爽太「(何かひらめく)」
× × ×
大樹、戻ってくる。
爽太、上半身裸になっている。
床にはビリビリに破かれたTシャツ。
大樹「(驚く)おい、何やってんだ…」
爽太「…角を矯めて牛を殺す」
大樹「あ?」
爽太「…角を矯めて牛を殺す」
テロップ「角を矯めて牛を殺す 小さな欠点を直そうとして、かえって全体をだめにしてしまうたとえ」
爽太「シミを気にしてTシャツを破く」
大樹「は? お前何いって…」
男の声「あっぱれ!!」
男、やってくる。
大樹「(誰なんだ?)」
男「いやあ、お見事。『シミを気にしてTシャツを破く』とは。まさに角を矯めて牛を殺すということわざそのもの。本日一のあっぱれだ!」
大樹「…」
爽太「ふふふふふ。この勝負、俺のサヨナラ勝ちだな」
爽太、大樹に伝票を渡す。
爽太「さっさと受け取れよ」
大樹「…(仕方なく受け取る)」
爽太「(にやり)9万6千円、ごちそうさんでした」
大樹「…」
さあや、戻ってくる。
大樹、さあやに伝票を渡す。
さあや「(受け取って)え?」
大樹「…前原さん、会計をお願いします」
さあや「え? え?」
大樹「…ルールだから」
さあや「ちょっと、え?! わたしは特別枠っていってたじゃないですか?!」
大樹「…ルールって変わるものだから」
さあや「そんな…」
大樹、出口に向かう。
さあや「(叫ぶ)弱肉強食!」
テロップ「弱肉強食 力の弱いものが強いもののえじきになること。力の強いものが勝ち、栄えること」
大樹、振り返ってさあやを見る。
さあや「焼き肉定食パート3(かわいく舌をぺろり)」
大樹「…前原さん、次が最後のチャンスだ」
さあや、追い詰められる。
○ 駅の構内
大樹、爽太、さあや、歩いている。
爽太、上半身裸だ。
さあや、両手に牛角の紙袋をぶら下げている。
爽太「じゃ、ごちそうさん」
爽太、二人と別れる。
大樹とさあや、歩く。
さあや「私こっちなんで」
大樹「うん」
さあや「お肉、ごちそうさまでした」
大樹「…」
さあや「あとこれも(とこれ見よがしに紙袋をかざす)」
さあや、去る。
大樹、取り残される。
大樹「…」
○ 牛角・店内(30分前)
さあや、追い詰められている。
さあやの視界にある光景が入る。
テーブル席。
空になった皿をぺろりと舐める少年。
少年、皿をぺろぺろ舐めている。
さあや「…(何かひらめいて)」
大樹「これがラストチャンスだ」
さあや「(店員へ)持ち帰りで特選焼き肉セット10人前ください!」
大樹「…?」
さあや「…毒を食らわば皿まで」
大樹「前原さん?」
さあや「…毒を食らわば皿まで」
テロップ「毒を食らわば皿まで いったん悪に手を染めたからには、最後まで悪に徹しようとするたとえ」
さあや「ゴチを食らわば土産まで」
大樹「…」
さあや「ゴチを食らわば土産まで!」
拍手が起こる。
男、感極まった顔で拍手している。
爽太も拍手している。
男「いやあ、素晴らしい。この土壇場でのひらめき。リスクを取って勝負に出る度胸。あなたに最大限のあっぱれを送ろう!!」
大樹「…」
さあや、大樹に伝票を突き返す。
さあや「食事代と特選焼き肉セット10人前。しめて14万8400円。ゴチになります!!」
大樹「(天を仰ぐ)」
○ 夜道(現在)
大樹、とぼとぼと歩いている。
大樹、立ち止まる。
大樹、財布を取り出し、中を見る。
大樹「(ため息)身から出た錆…」
テロップ「身から出た錆 自分の犯した悪行の結果として自分自身が苦しむこと。自業自得」
大樹「いや、身から出た金か」
男の声「喝!」
男の乗った自転車、大樹の前を通りすぎる。
大樹「(叫ぶ)あんた誰なんだよ!」
大樹、思わず男を追いかける。
大樹「おい! あんた誰なんだよ!」
(おわり)
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