登場人物
祖父
イブキ
シュテ
クシャ
イバ
長老
赤鬼
はり
桃太郎
村長
犬吉
猿丸
雉雄
代官
おかめ
翁
★は同時に言う
本文
1945 年編・上
蝉時雨SECI 。上手下サスのみON でオープン。サス内では祖父が上方を見つめている。
イブキ じいちゃん。
上手よりイブキ入ってくる。蝉時雨SE ボリュームダウン。
祖父 おぉー、イブキか。
イブキ イブキか、じゃないよ。自分で呼びつけといて。
祖父 スマンスマン。年を食うと物忘れがひどくなってのう。イブキのお雛様を飾ったのは
今年じゃったっけ?
イブキ 俺は男だよクソジジィ…で、なんか用?
祖父 将棋をせんか?
イブキ は?
祖父 将棋じゃ、将棋。お前も強くなったろう。
イブキ しょーがないなぁ。
祖父立ち上がろうとする。
イブキ いいよ、俺がとってくる。
イブキ上手より将棋盤をとってくる。しばらく適当に打つ。
祖父 ほほぅ。なかなかやるのう。
イブキ だろー?
祖父 では、儂も切り札を出そうかの。
イブキ えっ!?
祖父 食らえ!必殺『全テ無二還レ』じゃ!
祖父、将棋盤をひっくり返す
イブキ ちょ、おい!何ガキみたいなことしてくれてんの!?
祖父 悪かったのう。お詫びに昔話をしてやろう。
イブキ え、いらない。
祖父 むかーし、むかーし、あるところにじいさんとばあさんがおってな。
イブキ 昔話って思い出的なヤツじゃなくてそっちかよ。
祖父 おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に…
イブキ しかもこれ以上ないぐらいよく知ってる話なんだけど!じいちゃん、俺もう行くぞ(立ち上がりかける) !
祖父 まあ待て。お前が知っとるのは桃太郎が島を去るとこまでじゃろ?
イブキ てか、それで終わりでしょ?
祖父 開けて吃驚玉手箱。その続きがあるのじゃよ。
イブキ マジで?
祖父 桃太郎が去った後の鬼ヶ島には人間が移り住んでいたのじゃ。
イブキ へぇ。
祖父、懐から拍子木を取り出して一度打つ。イブキ驚く。
祖父 鬼ヶ島は山の中、ここに一人の若人がおった。
祖父が拍子木を二度打つと上手下サス、下手下サスとCF。同時にせみ時雨SE とトンビSE
もCF 。
植民島編・上
下手下サスには手拭いを頭に巻いたかぶったシュテが座っている。草が擦れるSE 。下手を
見るシュテ。下手からクシャが現れる。
シュテ 汝なりや。
クシャ 寝を寝ざれかし。
シュテ わずかばかりいこひにき。な気色悪しくなりそ。
クシャ(タメイキ)
シュテ いかほど取りたるぞ。
クシャ つゆなし。
祖父、上手下で拍子木の音を一度鳴らす。シュテとクシャがストップすると同時に上手下サスCI 。祖父、イブキがいる。
イブキ うん、何語?これ。
祖父 日本語じゃよ、当時ののう。
イブキ ぜんっぜんわかんないんだけど。
祖父 仕方のない孫じゃのう。どれ、現代風に改めて語ってやろう。
祖父、拍子木を二度鳴らす。
早戻しでシュテが警戒するとこまで戻る。
シュテ てめーか。
クシャ 寝てんじゃないよ。
シュテ ちっと休んだだけさ。目くじら立てんなよ。
クシャ(タメイキ)
シュテ 収穫はどんなもん?
クシャ さっぱりさ。
シュテ やっぱり?
クシャ そっちはどうだ?
シュテ 辛うじて一本だな。
シュテ、キノコを取り出す。
クシャ これっぽっちじゃなあ。
シュテ 出汁もとれねえよ。
クシャ この時期に茸狩りってのも無茶だったかねぇ。
シュテ ったく。取りあえず下山しよう。人間に見つかったらことだ(手拭い取りながら) 。
クシャ、頷く。シュテ・クシャ、下手へ去る。下手下サスFO 。
祖父、拍子木を一度鳴らす。上手下サスCI 。
祖父 手拭いの下から現れたるは一対の角、ヒトならざる若者どもは山を下り畦道を行く!
祖父、拍子木を二度鳴らす。奥のSSCI 。下手からシュテ・クシャ歩いてくる。
シュテ 苦労して山に入ったっつーのに茸一個かぁ。せめて斧でもありゃあな。
クシャ 仕方ないさ。斧は許可されてないんだから。
シュテ つれーなあ…ん?(上手手前を見て)ありゃあ、イバじゃねぇか?
クシャ おやおや目聡いですねぇ、
シュテ あ?
クシャ シュテ君は茸よりもっといいものを収穫できるかな?
シュテ 茶化しやがって。お口にチャック!!
クシャ(笑う)
シュテ 全く…行くぞ。
クシャ はいはい。
シュテ・クシャ上手へ去る。SS 、中央大サスCF 。中央大サスにはイバがいる。川の水音CI 。
イバ、下手を見る。
イバ シュテ!
シュテ・クシャ下手より現れる。
クシャ ひどいな、僕もいるんだよ。
イバ ははは、ごめん、シュテの後ろだったから・・
シュテ おい、これなんだ?(魚籠を指して)
イバ え、お魚よ、お魚。
シュテ 魚!?
イバ 父上に少しでも精をつけてほしくて・・
シュテ 狩が禁止されてるのを知らねえわけじゃねえだろ?
イバ でも・・。
クシャ イバだってそのくらい気を付けてるさ、でしょ?
イバ も、勿論よ。
シュテ ホントかよ。
クシャ(小声で)素直に心配だって言ったらいかが?
シュテ それ以上言ったらてめえの口漬けモンにして食ってやっかんな。
イバ で、二人は何してたの?
シュテ え?あー、キノコ狩り?
イバ こんな時期に?
シュテ 最近は山に入るのも自由にいかねえからよ。
シュテ ま、密猟だね。
イバ なによ、私のこと言えないじゃない!
シュテ 俺たちは慣れてっからいいんだよ!
イバ どうだか。
シュテ これでもアウトローには定評があるからな。
クシャ 誰から?
シュテ 俺から。
クシャ それは随分信頼のおけるデータだね。
シュテ おい、てめえ喧嘩売ってんのか?
声 (下手から)おい!そこの鬼ども!
イバ 人間!?
クシャ 走れ!
シュテ なんで・・?
クシャ いいから!
三鬼と黒子の追いかけっこ。照明とか使いながら。最後は中央大サスにて。
イバ はあ、はあ。
シュテ 巻いたか?
クシャ どうやらね。
シュテ しつっけー野郎だ。
クシャ あんなところで話し込んだのは迂闊だったね。
シュテ そう、それだよ、なんであいつぁ俺たちを追ってきたんだ?
イバ 知らずに走ってたわけ!?
シュテ え、あ、いや・・。
クシャ 鬼が集会を開くのは禁じられてるのさ。鬼が反乱を企てるのを防ぐためにね。
シュテ 集会ってほどでもねえだろうさ。
クシャ 口実としては十分さ。
シュテ くそっ、なんでこんなことになるんだ!
クシャ 僕らの爺さん世代のせいさ。
シュテ は?
クシャ 僕らの爺さん世代が戦を起こしたせいで、鬼は野蛮なものだと人間に思わせてしまったんだ。野蛮だったのは彼らだけなのに。
シュテ 俺らの爺さんが?
クシャ ああ。僕たちは前の世代とは違う!戦なんてまっぴらごめんなんだ!
イバ ちょっと待って!
★クシャ ん?
★シュテ あん?
イバ そんなのおかしいよ、私のおじい様はもう死んじゃったけど野蛮なんかじゃなかった。
クシャ 君のお爺さんがそうだからって全ての鬼が賢明だったわけじゃないさ。特に赤鬼なんて・・
シュテ 赤鬼?
クシャ 先の戦で鬼を率いていたやつさ。この島を支配し、最終的には本土をも手中に収めようとしたらしい。
シュテ まじかよ、やば・・
イバ ホラ!らしい、なんでしょ?確実な情報ってわけじゃないじゃない!
クシャ じゃあなんで人間は僕たちの権利をここまで奪っていくんだ?
イバ そんなの・・・。
鐘の音SE
クシャ もうこんな時間か。
クシャ、はけかける。
イバ 待って!まだ話は終わってないわ!
クシャ ほーう、そうして夜までここにとどまる気か?それはいいや、夜間外出禁止令を破った間抜けな鬼の死体を明日見れることになるだろうよ。
イバ、黙り込む。クシャ、上手へ去る。
シュテ おい。
イバ ・・・なによ。
シュテ おめえんちこっちだよな。送ってやるよ。立て。
イバ、シュテ下手へ歩いていく。
祖父、拍子木鳴らす。SSCF 、上手下サスCI 。祖父のセリフの途中でイバとシュテは下手か
ら中央大サスへ。
祖父 イバが住むは神の社。奉ずるは鬼の神、鬼神なり。宗教の名は百鬼道なり。
祖父、拍子木鳴らす。上手下サスCO 。
イバ じゃ、ここまでで大丈夫だから。
シュテ ああ。
間。
シュテ やっぱり、お前がこの神社継ぐのか?
イバ わかんない。今父上も大変な時期だし。
シュテ まあ、養生するっきゃねえよな。
イバ それもあるんだけど…
シュテ なんだよ。
イバ …潰されちゃうかもしれないんだ、ここ。
シュテ は!?なんで?
イバ 人間が言うには、私たちの文化は未熟で、野蛮なんだって。
シュテ 野蛮?
イバ そう。だから、人間たちが正さなきゃいけないんだってさ。
シュテ 正すってどうやって?
イバ 例えば…学校。
シュテ 学校?なんだそれ?
イバ もう何人か行かされてる子もいるわ。人間みたいな考え方になるようにね。
シュテ 人間みたいに?
イバ 今日のクシャ見たでしょ?ああいう風に、鬼が悪者だと思わせられるの。
シュテ あー、それなんだけどよ。
イバ なに?
シュテ あいつが言ってた先の戦とか赤鬼とかって何なんだ?
イバ 先の戦ってのは百鬼の乱のことよ。
祖父、拍子木鳴らす。上手下サスCI 。イバ・シュテストップ。
祖父 百鬼の乱とはこれなんぞ?人間の勇者が鬼を征伐した戦なり。我らの知る名で桃太郎。されど我らの知らぬこともあり。赤き鬼が鬼の頭領なり。
祖父、拍子木鳴らす。上手下サスCO 。
シュテ はーそうなんか。
イバ というかなんで知らないのよ・・。
シュテ うちはお袋も親父もいねえからよ。
イバ そうだったね・・・。
シュテ で?それとおめえの神社と何が関係あんだよ。
イバ 詳しくは私にもよくわからないんだけど、人間たちは百鬼道が百鬼の乱の原因になったと考えてるみたいなの。
シュテ それでこの神社つぶそうっての?
イバ そうみたいよ、残念だけど。
シュテ …大丈夫なのか?
イバ わかんない。でも、できるだけのことはしたいの。
シュテ ま、あんま気を張んねえことだな。なんかあったら言えよ。
イバ うん、ありがとう。
シュテ じゃ、そろそろ行くわ。
イバ 気をつけてね、人間に見つかったら・・
シュテ 言ったろ?アウトローには定評があんだよ、じゃあな。
シュテ、下手へ去る。
イバ ありがとう…シュテ。
照明、明滅。イバに黒子が近づいていき、捕らえる。暗転。
中央下サスCI 。イバがいる。上手サスCI 。能の「翁面」をかぶった翁がいる。
翁 こはなんぞ?
下手サスCI 。能の「おかめ面」をかぶったおかめがいる。
おかめ 子鬼ぞ子鬼ぞ。
翁 なにゆえ子鬼がここにおる?
おかめ 罪故にぞ。
翁 罪とはなんぞ?
おかめ 悪しき神を奉りし罪ぞ。
翁 おお然り然り。こは鬼神を奉りし子鬼ぞな。
おかめ 左様左様。赤鬼の崇めし神ぞ。
翁 鬼を欺き、
おかめ 人を喰らい、
翁 本土へ乗り込み
おかめ かの地を支配せんとした
翁 傲岸不遜
おかめ 悪逆非道の
翁 赤鬼ぞ?
おかめ 赤鬼じゃ。
翁 なんとなんとそれでは
おかめ この子鬼を捨て置けば
翁 鬼神への信仰を盾に
おかめ 鬼を操り
翁 人を襲い
おかめ 今再び
翁 血で血を洗う
おかめ 戦を始めんとするやもしれぬ。
翁 恐ろしや恐ろしや。
おかめ くわばらくわばら。
翁 災いの芽は
おかめ 摘み取るが道理。
翁 しからば
おかめ 今こそ
翁・おかめ ご裁断を!
中央サスCI 。「尉面」をつけた代官がいる。
代官 そこな子鬼を、死罪に処せ!
★翁 はーはっはっはっは・・・。
★おかめ ほーほっほっほっほ・・・。
翁とおかめが笑いながらイバを連れ去る。代官はける。シュテ、クシャ、長老が中央大サスの位置に入る。中央大サスCI 。
シュテ …はぁ?なんだよ、嘘だろ?イバが、人間に、殺された?どうなってんだよ!?おい!長老!
シュテ、長老につかみかかる。
クシャ 落ち着け!シュテ!
クシャが羽交い締めにして無理やりとめる。
シュテ ふざけんな!なんで、なんでなんだ!あいつが何したっつーんだよ!
クシャ いい加減にしないか!今、お前がすべきことはなんだ!
クシャ、シュテを組み伏せる。シュテ、暫く嗚咽。
シュテ …教えろよ。
間
シュテ 何でアイツが死ななきゃならなかったのか。何で人間が俺たちを支配してんのか。百鬼の乱っつーのが一体何なのか。全部、知ってる、いや見たんだろ?あんたは。
間
長老 …シュテ、そしてクシャよ。今から言うことを決して他言しない、そう誓えるか?
クシャ はい。
シュテ 誓うよ。
長老 そして!今から何を聞いても今まで通りの生活を続けると誓えるか?
シュテ …何言ってんだ?
クシャ どういう意味ですか?
長老 誓えるか?誓えんのか?
シュテ 誓わねーと教えてくれねーんだろ?
長老、頷く。
シュテ わかった。だが、代わりにあんたもこれ以上隠し事はなしだ。
長老 クシャはどうなのじゃ?
クシャ 僕も誓います。
長老 ・・いつかかような日が来ることは覚悟しておった。
シュテ どういう意味だ?
長老 人間に虐げられし鬼の中から、真実の光を見出さんとする若き鬼が現れる日、ということよ。
クシャ 真実、ですか?
長老 左様。時にクシャよ、わぬし、近頃人間の教育を受けておるそうじゃな。
クシャ ・・ええ。
長老 人間は鬼と人の出会いがいかなるものであったと言っておる?
クシャ この島に住む鬼のもとへ、人間が文明の光、つまり農耕を与えたことが始まりと習いました。
長老 ふむ。
クシャ それにより、この島は大いに発展したと。
長老 では問うが、それ以前の鬼の暮らしは満ち足りたものではなかったのか?
クシャ は、それは・・。
長老 わぬしらもよう知っておろうが、この島は豊かな自然で覆われておる。農耕などに頼
らずとも、人間がこの島に来る前の鬼たちは満ち足りた生活を送ることはできていたのじゃ。
クシャ そうなのですか・・
長老 じゃが、時がたつにつれ、鬼たちの暮らしにも陰りが見え始めた・・・子じゃ。
クシャ 子?
長老 鬼が産む子の数はその親の世代の数より少なくなっておったのじゃ。
クシャ 何故ですか?
長老 わからぬ。じゃが、この狭き島に住み続けるうちに、鬼たちの生きる力のようなもの
は弱り続けておったのかもしれぬ。
クシャ はあ。
長老 それゆえ、鬼たちは人間と交わることを選んだ。新しき血を取り入れるためにな。
クシャ ・・人間がそれを承服したのですか?
長老 うむ。鬼が人間を守護することと引き換えにな。
シュテ まるで生贄じゃねえか。
長老 そうかもしれん。じゃが、それにより鬼の一族は再び栄えることができた。
クシャ それがどうして戦ということになるのです?
長老 全ては40年前、赤き鬼が鬼族の頭目であった時代に始まったのじゃ・・。
長老鼓叩く。中央大サス、SSCC 。
桃太郎編
SS にて赤鬼が寝巻きを着て酒を飲んでいる。そこへはり入ってくる。
はり またお酒ですか?
赤鬼 あ、いや、これを飲まんと眠れなくてな。
はり 体に悪いから1日に徳利三つまでって決めたじゃないですか。
赤鬼 安心せい。我の身体が丈夫なのはよう知っておろう?
はり 確かにあたしたち人間よりよっぽど頑丈なんでしょうけど、でも、もう年なんですから。
赤鬼 おう!わこぜより四百は年上だ。
はり もう!
はり、赤鬼の左腕を叩く。
赤鬼 いでっ!何をする!
はり 昔だったらこんな怪我しなかったでしょう?
赤鬼 むう…待て、何故我が怪我をしたと知っとんだ?
はり 何年一緒にいると思ってるんですか?その位わかります。
赤鬼 いやはや、かなわんなあ。
はり …今日は一体何をしたんですか?
赤鬼 熊だ、熊。
はり 熊?
赤鬼 どうも冬眠の機を逃したらしい。皆の畑を荒らしたんで木を切るついでに倒してきたのよ。
はり あんまり無茶しないでください。
赤鬼 なぁに、鬼の我を受け入れてくれた皆の為ならこの位軽い軽い。それに…
はり それに?
赤鬼 皆、今は大変な時期ゆえな…
はり そうですね…向こうの五作さんも…
赤鬼 まっこと不思議な病よ。身体が火のように熱くなるとは。
はり ウチの子たちまであの病にかかったら…
赤鬼 心配するな!現に我の子らは誰も死んどらんだろう?
はり でも、もしものことがあったら!
赤鬼 そん時は我が都まで泳いで薬でもくすねて来るさ。
はり まあ!こんな時に冗談いわないでください。
赤鬼 冗談ではないさ。だから、今日はもう休め。
はり …ええ。じゃあ、また明日。
赤鬼 うむ。
長老鼓叩く。下手下サス、SSCC 。下手下サス内に長老がいる。
長老 この晩語らうは、この夫婦のみにあらず。
長老鼓叩く。下手下サス、中央サスCC 。
犬吉 五作の奴がくたばったとよ。
猿丸 これで五十か。
雉雄 うちのかかぁも死んじまっただぁ。
犬吉 うちの坊主もだがね。
猿丸 村長のとこも一昨日(おとつい) 孫娘がのうなったそうじゃ。あんなめんこい子がのう。
雉雄 村長?そうじゃ、村長はどこだ?
猿丸 今、オババんとこに行っとる。
犬吉 神卸か?
猿丸 んむ。直来ようて。
扉開くSE 村長が入ってくる。
村長 皆の衆揃っとるようじゃの。
雉雄 へい。ただ、五作は…
村長 言わずともよい。わかっておる(地図を取り出し、バツを付ける)。
雉雄 さいですか…。
猿丸 村長、オババはなんと?
村長、無言で身を乗り出す。村人ABC 、続いて身を乗り出す。
村長 こん村の中に、災いの種がある、というとった。
犬吉 村ん中ですか?
村長 んむ。
雉雄 災いの種っちゃあ、一体なんなんですか?
村長 そこまではわからんかった。ただ、村ん中にあるんは確かじゃ。
猿丸 早く突き止めんとこん村はおしまいです。
村長 そうじゃなあ…この地図を見よ。むごいことじゃ、どの家も一人は死人が出とる。
沈黙
猿丸 だども、鬼の一族のもんは誰も死んぢょりませんね。
村長 それは面妖な。まさか…
雉雄 まさか…なんですか?
村長 災いの種…?
雉雄 赤鬼さんらが災いの種っちゅーんですか?
犬吉 馬鹿こくでねぇ!赤鬼さんはオラたちを守ってくれてるでねえか!
村長 何故、あれは我らと交わろうとしたのかのかのぅ?
猿丸 あいつハナから俺達が油断するのをまってたんだ!
犬吉 油断させて、どうするんだ?
猿丸 それは、その・・。
村長 もしや、病で弱らせ・・。
猿丸 んだ!島を乗っ取ろうとしとるんだ!
雉雄 んだと!?許せねぇ!
犬吉 だども…
村長 (被せるように、但し、静かに) 所詮姿形も、崇める神も違う者同士、わかりあえんということじゃのう。
猿丸 やられる前にやっちまえ!
雉雄 んだ!一族郎党皆殺しじゃあ!
犬吉 …んだ!
村人たち 、立ち上がりフレームアウト。一人になったところで村長が笑みを浮かべる。
長老鼓叩く。下手下サス、中央サスCC 。
長老 謀の夜は終わり、東の山より日が出づる。村長らが向かうは赤鬼の家なり。
長老、鼓を打つ。下手下サス、中央大サス、上手下サスCC. 上手下サスには村長と三人の村人。中央大サスには赤鬼夫婦。赤鬼ははりと少し言葉を交わすそぶりを見せた後、村人らが話してる間に下手へ去っていく。
犬吉 (声を潜めて)つっても、どうすりゃええんだ?
猿丸 鬼どもは力がつええ。俺たちじゃとても・・。
村長 ふうむ。
雉雄 どうすんですか?
村長 んむ。まずは人間同士で話をつけるのがよかろう。
上手下サスの面々、中央大サスに行ってはりを捕らえる(下手下サスFO )。
長老鼓を鳴らす。中央大サス、下手下サスCC 。
長老 囚われたる鬼の妻、連れられるままに至るは村長の屋敷、いかなる詮議ぞ行われん。
長老鼓を鳴らす。中央大サス、下手下サスCC 。
中央大サスにて跪くはりを見下ろす村長。隣に控える雉雄と猿丸。
村長 久しいのう。おはりや。
はり これは一体どういうおつもりですか?
村長 なあに、一つ二つ話したき儀があっての。
はり …なんでしょう?
村長 (猿丸、雉雄に向かって) ぬしら、暫し席を外しとれ。
猿丸、雉雄フレームアウト
村長 …近頃随分多くの者が病によって死んでしもうた。
はり はい。
村長 だけんど、鬼の一族のもんは誰も死んどらん。
はり ええ。
村長 (一呼吸) 鬼どもが病を広めたのではないか?
はり はっ?!
村長 やはり鬼と人とは…
はり 待ってください!そんなはずありません!
村長 オババの神卸によればこん村の中に災いの種があるというのでな。
はり だからって何故私たちが病の原因ということになるのですか!?
村長 その様子では此度の事、ぬしは何の関わりもないのであろう。
はり 私も、夫も、子供たちもです!
村長 残念じゃが、赤鬼が病を広めたのは既に疑うべくもないことじゃ。
はり どうしてですか!?
村長、懐から禍々しい文字が書かれた人形を取り出し、はりの前に放る。
はり これは…?
村長 赤鬼がよく行く山に埋められておったものじゃ。村人全員の名が書いておる。
はり 夫が、村を呪ったとでもいうのですか…?
村長 ワシも信じとうはなかったがの。
はり 嘘、嘘よ…。
村長 のう、おはりよ。ワシはぬしを信じる。ぬしと子供たちは此度のことは何も知らなんだろう。じゃけんど、赤鬼はこの村の安寧のためにいてはならん存在となってしもうた。あやつを捨て置くわけにはゆかん。どうか協力してくれんか?
はり 協力?
村長 この毒を(懐から包みを取り出す) やつの夕餉にでもに混ぜ込むだけでよい(言いな
がら下りて包みをはりに渡す) 。さすればぬしと子供らの身の安全は村長たるワシが
必ずや保証しようぞ。
沈黙
はり お断りします。
村長 なんと!?
はり 私はあの人を、人じゃないけど、信じています。この人形も(人形を手に取る) きっと、何かの間違いです。
村長 なんとまあ。
はり ですから、どうか父(とと) 様も…
村長 おはりや。
はり はい?
村長 (笑みを浮かべ) 鬼などという下等なケダモノの妻など、ワシの一族には不要なのじゃ。
はり え?
村長 (突如狼狽し、倒れ) だ、だれか助けとくれ!
猿丸、雉雄入ってくる。
猿丸 何事ですか(入りながら) !?
雉雄(村長を見て) 村長!
村長(猿丸と雉雄の下へ向かいながら) み、見るのじゃ(はりが持つ人形を指差しながら) !
猿丸 あれは!
村長 はりのやつが隠しもっておった!やはり鬼どもが災いの種だったのじゃ!
はり ち、違います!これは村長が…
村長 騙されてはならんぞ。あやつめ、ワシが気を許して近づいた途端あの毒を飲ませようとしたのじゃ(はりの足下に散らばった毒を指差し) !
雉雄 ちっきしょーめ!
雉雄持っていた槍ではりの頭をぶつ。
はり きゃっ!
村長 こ、殺してはならんぞ。あれをエサに赤鬼を誘き出すのじゃ。
猿丸、雉雄、逃げるはりにせまる。ただ、はりはふらついている。
赤鬼 うおおおお!
赤鬼、飛び込んでくる。
赤鬼 どけぇ!
赤鬼、はりのもとへ。
赤鬼 はり!無事か!?
はり あ…な…た?
赤鬼 そうだ!我だ!
はり よ…か…た。
赤鬼(振り返りつつ) 村長!はりに何をした!
猿丸 そ、それ以上近づくでねぇ!
雉雄 オラたちも病にすっ気か?
赤鬼 何…言っとるんだ?
村長 ぬしが災いの種、病の原因じゃというのは調べがついとるんじゃ。おとなしく観念せい。
赤鬼 馬鹿なことを言うでない!
村長 所詮、鬼風情が人間様に混じろうとしたのが間違いだったのじゃよ。
赤鬼 村長?
村長 ぬしはこの島にいてはならんのじゃ。ぬしだけではない。ぬしの眷属も、そこに転がっとる女もな。
猿丸 そうだ!そうだ!
雉雄 一族郎党根絶やしにしてやんべ!
赤鬼 根絶やし?根絶やしだと?!そいつがわぬしらの意志か!?
猿丸 いてまえー!
赤鬼、一瞬で猿雉を打ち倒す。
赤鬼 去れ!この島は元々鬼の棲みし島。わぬしらが出て行くが筋というものだ。
村長 なんじゃと!?
赤鬼 我が一族の者の伴侶は見逃してやる。だが、それ以外の人間は日が沈むまでにこの島を出ていくがよい。さもなくば鬼の真の恐ろしさ、思い知ることになろうぞ。
村長 ぐっ…ぬしら、行くぞ!
村長はける。猿丸、雉雄もそれに続く。
赤鬼 今日よりこの島は鬼のための島…鬼ヶ島だ!
長老、鼓を鳴らす。中央大サス、下手下サスCC 。
長老 島より出づる船が数艘。人間どもは本土へ行く。されどよそ者が住む土地はなかりき。
長老、鼓を鳴らす。中央大サス、下手下サスCC 。
中央大サスには村長、犬吉、雉雄がいる。
村長 そうか。
犬吉 はい。もう皆旅は疲れた、と。
雉雄 村長、なんとかなりませんか?
村長 しかしのう、ワシら百姓は土地がなければ陸(おか) の上の魚じゃ。どうにか土地を見付けねば話にならん。
雉雄 チキショウ!赤鬼がオラたちをおんださなきゃこんな目には!
犬吉 島に…帰(けぇ) りてぇ。皆もそう言ってます。
村長 そうじゃろうのぅ。まあ、待て、手は打ってある。
犬吉・雉雄 え!?
猿丸 村長!
猿丸 上手より入ってくる。
猿丸 連れてきました!日本一の勇者です!
犬吉 な、なんだべそれ!?
村長 先頃立ち寄った村で聞いた噂じゃった。とてつもない剣の才を誇り、都を騒がす妖を退治したとして名を挙げた男。その名は…
BGM 桃太郎の唄(子供の歌声で)
桃太郎上手より入ってくる。
桃太郎 日本一の桃太郎、参、上!
雉雄 ま、まだガキでねぇか!
村長 人は見かけによらぬものよ。
桃太郎 どうもこんにちは!妖怪退治は僕におまかせ!桃太郎です。
村長 そ、そうか。桃太郎殿。聞いてくれるかの、ワシらの故郷を奪った恐ろしい鬼の話を。
桃太郎 はい!
長老、鼓を鳴らす。下手下サスCI 。
長老 村長はかく語りき。島に病をもたらせし赤鬼は、己(おの)が欲望のために島より人を追い出せり。すべての咎は鬼にあるなり、と。
長老、鼓を鳴らす。下手下サスCO 。
桃太郎 なんてひどい。絶対許せませんね!そんな妖怪を野放しにはしておけません!早速退治に向かいましょう!
村長 あー、これこれ待たれい。ここにいる者らは鬼には適わぬとはいえ、中々の腕っ節はあるし、島のことは誰よりもよう知っとる。供として連れていかれるがよい。
桃太郎 いいんですか!?ではではお名前をお聞かせください。
犬吉 犬吉です。
猿丸 猿丸と言います。
雉雄 雉雄だ。
桃太郎 犬君、猿君、雉君か。はい、これ僕のばあちゃんお手製の吉備団子!友情の証だよ(言いながら吉備団子を犬猿雉に渡す) !よし、行くぞ。エイエイオー!
犬猿雉 エイエイオー!
桃太郎一行走り去る。上手下サスに桃太郎一行(猿丸除く)が車座になっている。
桃太郎 じゃあ、鬼一族の中でとんでもない力を持っているのは純血の鬼だけなんだね?
犬吉 へい。人間と鬼の間のガキどもはオラたちと同(おんな) じぐれぇの力しかありません。
桃太郎 なるほどねぇ。
雉雄 なんで、赤鬼とその周りのもんさえ倒してくれれば、あとはオラたちと島の皆でなんとかなります。
桃太郎 ふーん、なんとか赤鬼たちだけ誘き出せればいいんだけどねぇ。
猿丸 桃太郎さん!
猿丸、上手からサス内へ
猿丸 赤鬼は、山に城さ作って、そこに籠っとるみてえです。
桃太郎 そりゃいいや!勝機が見えたぞ。どの山だい?
猿丸 あん山です。
桃太郎 そうか(ユラリ、と立ち上がる) 。
雉雄 オラたちも一緒に…
桃太郎 いや、結構。僕はね、団体行動が得意じゃないんだ。犬君たちは皆を呼んでくるといい。
犬吉 え?
桃太郎 皆が来る頃には片が付く。
桃太郎、去る。
猿丸 …あん人ならできっかもしんねぇな。
雉雄 んだば、行くベ。
犬吉 んだ。鬼どもに見つかんねえようにな。
犬猿雉、去る。
上手下サス、中央大サスCF
中央大サスには赤鬼がいる。桃太郎サス内へ入る。
桃太郎 お前が最後だ。流石に他の木っ端野郎とは風格が違うな。
赤鬼 人間はこの島に来るなと言ったはずだ。
桃太郎 罪のない人々の故郷を奪っといてほざくな。即刻この島を人間に明け渡せ。
赤鬼 左様なこと、承伏できると思うてか!
赤鬼、突然桃太郎に攻撃をしかけるが、かわされる。
桃太郎 いきなり攻撃とは無礼なヤツだ。
赤鬼 我らの島を分捕りに来たわぬしには言われたくないわ!
桃太郎と赤鬼は舞台上を走り回って戦う。最後、赤鬼は中央サスに着く。赤鬼、辺りを見渡す。桃太郎、花道にいる、弓を持っている。矢をつがえ、放つマイム。赤ホリで赤鬼に命中したこと表現。
赤鬼 がっ!
桃太郎 年貢の納め時だ。悪しき鬼よ。
赤鬼 我が悪だと?我らの怨嗟の声も、慟哭の叫びも聞かず、何故それがわかる!
桃太郎 言い訳は地獄の閻魔にでも語るがいいさ。
赤鬼 この、外道がぁ!
桃太郎、さらにもう一本矢を放つ。
桃太郎 鬼退治、あ、完、了!とっとっとっとっと。
花道サス、中央大サスFO 。中央下サスFI 。桃太郎はとっとっとっていいながら手前サスへ。
桃太郎 と、いうわけで、
中央下サスには桃太郎を村長と犬猿雉が囲んで立っている。犬猿雉の手には財宝が。
桃太郎 赤鬼は間違いなく退治しました。死体は山に埋めときましたから掘り返して確認なさってもよいでしょう。
村長 いやはや、まっことありがたいことでございます。おかげでこうして皆戻ってくることができました。
桃太郎 これからは平和に暮らしてってください。
村長 ええ。必ずそういたします。こちらは心ばかりのお礼でございます。
犬猿雉、財宝を差し出す。
桃太郎 そんな…見返り目当てでやったことではありませんから。
村長 ワシらの気が済まんのです。鬼たちが隠しもっておった財宝ですから、分け前とでも思ってくだされ。
桃太郎 そうですか…では、ありがたくいただいときましょう!
村長 是非是非。
桃太郎、財宝を袋に詰める。
桃太郎 僕はこれからも日本中の妖怪を退治して回るつもりですから、ここにはもう来れないでしょう。ですが、皆さんのことは決して忘れません!では!
村長 うむ。達者でいてくだされ!
犬猿雉 さよ~なら~!
桃太郎去っていく。
BGM 桃太郎の唄
村長 (桃太郎が去ったのを確認し) では、始めようかの。
猿丸 はい。準備はできています。
犬吉 人間様に逆らったらどうなっか、鬼どもに思い知らせてやんべ!
雉雄 んだんだ!
村長 ここはもう鬼のための島、鬼ヶ島などではない。さながら、人ヶ島とでもいおうかの。カーッカッカッカッカッカッカッ!
植民島編・下
長老、鼓を鳴らす。長老、クシャ、シュテが中央大サスに。
長老 …そうして、桃太郎は島を去ったが、代わりに人間たちが島へ移住し、鬼たちを、支配するようになったのじゃ。もちろん、武器は全て取り上げた上でな。
シュテ …じゃあ、先に手ぇ出したのは人間ってことかよ。
長老 そうじゃ。
シュテ だったらどうして俺たちは人間に支配されなきゃなんねえ。宗教も、文化も、思想も何もかも捨てて、人間の狗になんなきゃいけねぇ。鬼にだって正義はあったんじゃねぇか!
長老 正義?…くっ、クハハハハ!
シュテ 何がおかしい。
長老 青いのう。シュテよ。正義?そんなものはなぁ、負け犬には存在しないのじゃよ。
シュテ あんた、てめーが何言ってんのかわかってんのか?
長老 わかりすぎるほどわかっておるわ!どれほど美しき理想を掲げようと、どれほど血のにじむような努力をしようと、負ければそれでオシマイなのじゃ。
シュテ バカ言ってんじゃねぇ!現にあんたは百鬼の乱の真実を知ってんだろーが!
長老 その真実とやらもワシが死ねば全て露と消える。歴史というのはな、紙の上に記されて始めて歴史たりうるのじゃ。では、筆を握るのは誰じゃ?勝った者じゃ。ワシの語る真実が、連中にとって都合の悪いものならそれは後世に伝わらぬ。
シュテ 紙の上になんぞのらなくても俺は知っている!俺が伝える!そうやって伝え続ければいいじゃねぇか!
長老 所詮蟷螂の斧に過ぎぬというておる!大いなる流れに、左様に小さき一石を投じたところで、さざ波すらたたぬわ。
シュテ っめえ!
クシャ シュテ!
シュテ、クシャを見る。
クシャ もうやめよう。
シュテ なに…言ってんだよ…。
クシャ 無駄だ。僕たちになんとかできる問題じゃない。大体、こんな話をしてるのが人間にバレてみろ、僕たちは終わりだ。
シュテ ざっけんな!ここで戦わないでいつ戦うんだよ!
クシャ 戦う?人間は僕たちに武器を持つことを禁じているのに。斧一本だって自由に使えないんだぞ。
シュテ イバが、イバが殺されてんだぞ!
クシャ だから言ってるんだ!僕たちにできるのはここで吠えて犬死にすることじゃない。イバの死を無駄にしないためにも、この平和を繋ぐことなんだ!
シュテ 平和?平和だと!?赤鬼が本当に守ろうとしたものも忘れて、イバの死まで忘れて手に入れる平和か?そんな空っぽな平和なら俺はいらねぇ!
クシャ 現実を見ろ!手に取ることもできない正義だの誇りだのを追いかけて、目の前の平和を手放すことに何の意味があるんだ!
言葉に詰まるシュテ。シュテ、クシャと長老を睥睨する。
シュテ よくわかったよ。てめーらと話したって何の役にも立たねーってことがな。
シュテ、去ろうとする。
長老 待て!他言はせぬという誓いはどうした!
シュテ 話が通じねぇヤツ相手に守る誓いなんざあるかよ!
シュテ、はける。
長老 スマン、スマンのう。シュテよ。
F
O 。闇に。
中央下サスFI 、中にはシュテ。
シュテ 頼む、話だけでも聞いてくれ!…どうしたんだよ!俺が間違ってんのか?…てめぇ!イバのダチじゃなかったのかよ!…鬼の正義はどうなる!?人間に尻尾振って、それでいいのかよ!…どうして、皆どーしてなんだぁぁぁ!
崩れ落ちるシュテ。中央下サス、中央大サスCF
中央大サスにはクシャがいる。
ノックのSE 。
クシャ ・・・はーい。
扉開くSE 。シュテ中央大サスに入ってくる。
クシャ シュテ…。
シュテ …俺、島を出るよ。
クシャ 正気か!?大体港は全部人間に押さえられてるんだぞ。
シュテ この日のために船を作っておいた。この時間なら川を下れば人間には見つからねぇ。
クシャ 本当に、行くんだな。
シュテ ああ。
クシャ だったら、僕と君の縁もこれまでだ。君のとばっちりを受けるのはごめんなんでね。
シュテ そうか、だよな。
クシャ 『だよな』?なんだ、僕を誘いに来たんじゃないのか?
シュテ お前が協力してくれるんならこの島を出ようなんて思わねぇさ。ただ、最後にツラ見ときたくてよ。
クシャ ツラ?
シュテ 一応、ダチ、だったからな、俺たち。
クシャ そうだね、僕と、君と…
間。
シュテ だが俺は絶対帰ってくる!この島変える方法を引っ提げてな。だから、またな。
クシャ 縁は切ったはずだぞ。
シュテ またヨリ戻したくさせてやるさ。
シュテ去る。いつまでもその背中を見続けるクシャ。
祖父、拍子木を打つ。
祖父 じゃが、その若い鬼が島に戻って来ることはなかったという。めでたし、めでたし。
イブキ いや微塵もめでたくないんだけど!
1945 年編・下
中央大サス、上手下サスCC 。
イブキ 後味悪過ぎんでしょ。鬼の正義とやらはどうなったのさ。
祖父 若い鬼の心の中にはいつまでも残るぞ。
イブキ いや、なんつーかさぁ、普通昔話って、もっと因果応報じゃない。何このどっちつかずなカンジ。
祖父 ま、ま、所詮儂の即興じゃから。
イブキ 即興かよ!じゃあすげーよ!
祖父 おおー、夕陽が綺麗じゃのう。
イブキ あ、ホントだ。てか、もうこんな時間かあ。
祖父 飯はまだかのう?
イブキ あらやだ、さっき食べたでしょ、おじいちゃん。
祖父 わしゃまだぼけとらん!
イブキ へーい、じゃ、お袋に飯できてるか聞いてくるよ。
イブキ去る。
祖父イブキの去った方を見る。将棋盤の隠し蓋を開ける。
中央サスFI シュテが一人でたっている。波音FI 。シュテ、自ら角を折る。波音、中央サス
FO 。
祖父、将棋盤の中から一対の角を取り出し、見つめる。
空襲警報のSE
幕
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