○高校・全景
○高校・教室
授業を受けている今川弘之(15)
× × ×
休み時間になり寝たふりをしている弘
之
○高校・中庭
一人、ベンチに座り弁当を食べている弘之
○高校・教室(夕)
放課後になり生徒達が賑やかに話している
一人、教室を立ち去る弘之
○甘味処たから(夕)
店内はたくさんの客で騒々しい
愛想よく配膳をしている弘之
○甘味処たから(夜)
店内に客はいない
店の店主(45)と向かい合いお茶をすすっている弘之
店主「弘之君」
弘之「はい」
店主「どう? 学校は」
苦笑いする弘之
弘之「授業は大丈夫なんですけど……友達が……」
店主「いないの? 友達」
俯く弘之
弘之「はい……」
笑う店主
店主「まだ高校に入って一か月じゃない。できるよ、そのうち」
弘之「でも周りにはもうグループができてて……」
店主「あのさ……確かに友達が多いに越したことはないよ。でも一番大事なのは自分が心から信頼できる友達を作ることだと僕は思うな」
弘之「そんなもんでしょうか?」
店主「うん、そんなもん。だから焦らず慎重にいきなさい」
二人同時に茶をすする
○高校・音楽室(日替わり)
弘之の隣の席にいる男、中井武士(16)がクイーンのフラッシュのメロディーを口ずさんでいる
ボソリと呟く弘之
弘之「フラッシュ」
武士「え?」
慌てて目をそらす弘之
武士「おーい、お前に聞いてるんだ。今、何
か言っただろ?」
弘之「(観念したように)その曲、クイーンのフラッシュだろ?」
武士「知ってるのか?」
コクリと頷く弘之
弘之「うん、その曲結構好きだから」
武士「クイーンは好きか?」
弘之「うん」
ニコリと笑い手を差し出す武士
武士「俺の名前は中井武士。君は?」
弘之「今川弘之」
武士と握手をする弘之
武士「嬉しいよ、クイーンの事話せる奴、全然いなかったからさ」
チャイムが鳴り教師が入ってくる
武士「また後でな」
前を向く武士
授業が始まる
× × ×
授業が終わり武士に声をかけようか悩んでいる弘之
一呼吸入れると隣の方を向く
弘之「あ……あの!」
しかし、武士はもういない
溜息をつく弘之
○高校・中庭
ベンチに座り弁当を食べている弘之
武士「よっ」
武士がパンを片手に持ちながらやってくる
武士「教室にいなかったから焦ったぞ。いつ
もここで食べてるのか?」
弘之の横に腰かける武士
弘之「うん。でもどうして僕のところに?」
武士「え? 音楽の時間に言ったじゃん。また後でって」
弘之「あ……ああ、そうだったね」
嬉しさで思わず笑みがこぼれる弘之
パンを頬張りながら弘之に話しかける武士
武士「なあ弘之、フラッシュの他にはどんな
曲が好きなんだ?」
弘之「べただけどウィ・ウィル・ロック・ユーとか好きかな」
武士「まじかよ。あの曲、俺も好きだぜ」
足を踏み鳴らし始める武士
弘之もそれに合わせて足を踏み鳴らす
次第にウィ・ウィル・ロック・ユーのリズムになる
そのリズムに合わせて二人で歌う
武士「最高だな!」
弘之「うん!」
二人で笑いあう
○高校・正門前(夕)
自転車を押している弘之
武士の声「おーい、弘之。一緒に帰ろうぜ」
後ろから声をかけられ振り返る弘之
少し離れたところで武士が手を振っている
手を振り返そうとする弘之
武士の横に美人の女子生徒がいること
に気付き途中でやめる
そのまま自転車に乗り立ち去る
その様子を首を傾げながら見ている武
士
○高校・教室(日替わり)
席についている弘之の前に武士が現れ
る
その表情は少し怒っている
武士「おい! 何で昨日無視したんだよ」
慌てる弘之
弘之「え? 昨日、僕を呼んでたの? 気づかなかった」
武士「とぼけんなよ!」
弘之の胸ぐらをつかむ武士
武士「本当のこと言えよ」
弘之「いや……それは……」
口ごもる弘之
溜息をつく武士
弘之から手を離す
武士「悪かったよ」
弘之「え?」
武士「俺と関わりあいになりたくないんだろ? 安心しろ。もうお前の前には現れないから」
立ち去ろうとする武士
思わず叫ぶ弘之
弘之「彼女!」
怪訝そうな顔で振り返る武士
武士「あ?」
弘之「武士君は彼女と一緒にいたから……それで邪魔したら悪いと思って……」
武士「彼女? 何のこと言ってんだ?」
弘之「いたじゃないか。僕を呼びかけた時、君の隣に」
少し考え込む武士
武士「ああ」
笑い出す武士
弘之「な……何?」
武士「いや、なんでも。それよりさ、今日家に来いよ」
弘之「え?」
武士「無理にとは言わないけど」
弘之「行く!」
武士「そうこなくっちゃ。楽しみだなあ」
不敵な笑みを浮かべながらその場を立ち去っていく武士
○武士の家・前(夕)
武士の家は豪邸
唖然とする弘之
弘之「す……すごい」
武士「まあ入れよ」
家の中へと入っていく武士
慌ててその後を追う弘之
○武士の家・リビング(夕)
ソファーに座っている弘之
テーブルには武士の用意した高級菓子が
弘之「武士君って金持ちだったんだね」
武士「親がバイオリニストでさ。結構有名な
んだ。今は公演で海外に行ってる」
弘之「じゃあ一人で住んでるのか……大変だね」
ドアが開く
武士「あ! お帰り!」
ドアの方を見る弘之
そこには武士の彼女の姿が
彼女「あ……昨日逃げた人だ」
武士「こら、お客様に向かって失礼だぞ」
彼女「うるさい」
武士を睨み付ける彼女
彼女「中井絵里です。よろしく」
弘之に向かって頭を下げる中井絵里(15)
弘之「中井……も……もしかして武士君の妹?」
武士「正解!」
笑いながらその場に崩れ落ちる武士
怪訝そうな表情をする絵里
絵里「何?」
武士「いやな……こいつが昨日逃げた理由、俺とお前がカップルだと思ったからだってハハハハハ」
笑い出すえ絵里
絵里「私とタケ兄がカップルって……しかもそれで逃げ出したの? ハハ……ハハハハハ」
顔が真っ赤になる弘之
絵里「君面白いね。名前は?」
弘之「今川弘之です」
絵里「弘之ね。私、着替えてくるからちょっと待ってて」
リビングを出ていく絵里
弘之に親指を立てる武士
溜息をつく弘之
× × ×
三人でテーブルを囲んでいる
弘之「じゃあ二人は双子だったんだ」
武士「そう。まあ、俺の方が早く生まれたけどな」
絵里「そんなので威張んないでよ。ねえ?」
弘之に同意を求める絵里
弘之「うん、そうだね」
絵里「今度は弘之のこと教えてよ。部活はしてるの?」
弘之「部活はしてないけどバイトはしてる」
絵里「何のバイト?」
弘之「甘味処」
首を捻る絵里
絵里「かんみ……?」
弘之「ようは和菓子屋だよ」
絵里「あー和菓子屋ね」
武士「すまんな。何を隠そう俺の妹はアホなのだ」
絵里「うるさい」
武士の肩を殴る絵里
痛そうに肩をさする武士
絵里「で……でもバイトって大変じゃない?」
弘之「そんなことないよ。店主はすごく優しい人だし、僕の仕事はレジ打ちや配膳だからさ」
絵里「ふーん。ねえ何でバイトしてるの? 何か買いたいものでもあるの?」
弘之「いや……特にないけど」
絵里「え―、じゃあ何でバイトしてるの?」
武士「そこまでだ、絵里」
絵里「何よ?」
武士「弘之が困ってるじゃないか」
絵里「だって理由もなく働くなんておかしいもん」
武士「おかしくない。大した理由もなく働いている奴は大勢いる。これだから働いてない奴は……」
絵里「あんたもそうでしょ!」
二人のやり取りを見て笑う弘之
○甘味処たから・中(日替わり)
たからで働いている弘之
店の扉が開く
弘之「いらっしゃいま……」
呆然とする弘之
店の中に武士と絵里が入ってくる
武士「よっ」
片手をあげる武士
弘之「な……何でここに」
絵里「弘之の働いてるところが見たかったから」
弘之「じゃあ事前に連絡してくれれば……」
武士と絵里、笑いながら互いに顔を見合わせる
武士・絵里「それは……サプライズ! だから」
呆気にとられる弘之
店の奥から店主が出てくる
店主「弘之君、どうかした?」
弘之「いや、それが……」
武士「弘之の友達の中井武士です」
絵里「同じく友達の中井絵里です」
しみじみと二人を見る店主
店主「へえ……君達が弘之君の友達……」
ポンと手を叩く店主
店主「そうだ! 弘之君、仕事はいいからお
友達の相手をしてあげなさい」
弘之「さすがにそれは……」
店主「いいよ、今日そんなに忙しくないしさ。
君達も弘之君と喋りたいだろ?」
武士・絵里「はい!」
店主「だってさ」
弘之「じゃあお言葉に甘えて」
× × ×
三人でわらび餅を食べている
絵里「このわらび餅、美味しい!」
武士「普段は洋菓子しか食べないけど和菓子もなかなかいけるな」
弘之「そうでしょ? ここの和菓子は絶品なんだ」
わらび餅を食べ終える三人
お茶をすすっている
武士「なあ、弘之。お前、この後暇か?」
弘之「うん、特に用はないけど」
武士「だったらさこの後商店街のライブハウスに行かないか?」
弘之「行きたいけど母親に聞いてみないと」
武士「ぜひ来てほしいな。なんたってそこで演奏するのはあのクイーン」
驚く弘之
弘之「え? ク……クイーン?」
武士「……のコピーバンド」
弘之「何だ、コピーバンドか……」
絵里「コピーバンドだからって侮っちゃいけないよ? 商店街のおっさん達で構成されてるからって侮っちゃいけないよ?」
弘之「今のところ侮る要素しかないんだけど」
絵里「すっごい似てるんだから! 特にフレディ・マーキュリーのあの髭!」
弘之「歌はどうなの?」
顔を見合わす武士と絵里
絵里「まあまあ、それはいいじゃない」
武士「そんなことより早く親に電話してくれよ」
弘之「分かった」
ポケットから携帯を取り出し母親に電話する弘之
弘之「あ……もしもし、弘之だけど、実は友
達に遊びに行こうって誘われてて……うん、
ちょっと遅くなると思う。うん、ご飯はい
いや。分かった、じゃあ」
電話を切る弘之
武士「どうだった?」
笑う弘之
弘之「行ってもいいって」
二人でガッツポーズをする武士と絵里
○ライブハウス・外観(夜)
○ライブハウス・中(夜)
観客は少ない
最前列を陣取る三人
弘之に囁く絵里
絵里「そろそろ始まるわよ」
ギターの音が鳴り響く
クイーンのコピーバンドがステージ上に現れる
歓声をあげる三人
そのまま演奏が始まる
○ファミレス・外観(夜)
○ファミレス・中(夜)
三人でご飯を食べている
興奮している弘之
弘之「すごかったね。本当にそっくりだった!」
武士「だろ?」
絵里「ねえ、歌はどうだった?」
苦笑いする弘之
弘之「歌は……まあまあ」
そんな弘之を見て笑う武士と絵里
○学生生活を楽しむ三人
× × ×
図書館で勉強をしている三人
× × ×
一緒にご飯を食べている三人
× × ×
映画を見に行く三人
× × ×
中井家で談笑している三人
○高校・中庭・放課後(夕)
三人で歩いている
弘之「ねえ、駅前に新しいカフェができたん
だって。この後行ってみない?」
申し訳なさそうに手を合わせる絵里
絵里「ごめん、私、ちょっと用事あるんだ」
弘之「え? あー、そう」
絵里「ほんとごめん。また今度誘って」
その場を立ち去る絵里
その後ろ姿を眺めながら溜息をつく弘之
弘之「絵里の奴、最近付き合いが悪いなー」
弘之の肩に手をのせる武士
武士「しょうがない。俺達だけで行こうぜ」
弘之「うん……」
○カフェ・外観(夕)
武士が話しているが弘之は上の空
武士「おい! 聞いてんのか? 弘之!」
弘之「え? ああ……ごめん、ごめん。何だ
っけ?」
溜息をつく武士
武士「お前、絵里のこと考えてただろ」
動揺する弘之
弘之「べ……別にそんなこと……」
弘之を睨み付ける武士
武士「いいから本当のことを言え。俺に隠し
事をするな」
ためらう弘之
弘之「本当に何でもないから」
武士「そうか……」
じっと弘之を見つめる武士
目をそらす弘之
武士「彼氏ができたんだと」
弘之「え?」
目を大きく見開く弘之
武士「大丈夫か?」
弘之「悪いけど今日は帰るよ」
立ち上がる弘之
慌てる武士
武士「帰るって……まだ来たばっかりじゃないか」
弘之「実はこの後バイトがあるんだ」
武士「でもまだ時間あるだろ?」
弘之「ごめん」
その場を立ち去る弘之
○甘味処・たから
浮かない顔つきでバイトをしている弘
之
× × ×
営業終了
弘之に話しかける店主
店主「弘之君、今日なんかあった?」
驚く弘之
弘之「え? 何でですか?」
苦笑いする店主
店主「質問してるのはこっちなんだけど……まあいいか」
弘之の目を見る店主
店主「悩んでる顔してたからさ。もしよかったら相談に乗るよ」
椅子に座る店主
弘之「分かりました」
店主と向かい合う形で椅子に座る弘之
弘之「実は……失恋をしました」
主人「失恋……ああ、この前来た女の子か」
弘之「え? どうして分かるんですか?」
笑う店主
店主「あの時の君を見てたら分かるよ。こう見えてもね、僕は昔、恋愛マスターって呼ばれてて……って僕の話はどうでもいいか」
弘之「は……はあ」
店主「告白して振られたの?」
弘之「いえ、何もしてません。ただ、絵里に彼氏がいることが分かって」
顎に手をあてる店主
店主「なるほど……それじゃあ奪えば?」
弘之「はい?」
店主「略奪だよ。弘之君さえその気になればいけると思うけどなあ」
弘之「でも、倫理的にどうなんですか、それ……」
店主「関係ないよ。君がその子のことを本当に好きなんだったら」
しばらく黙り込む弘之
弘之「やっぱり辞めときます。僕にとって大事なのは彼女の幸せですから。それを邪魔したくない」
笑う店主
店主「そっか、そっか。それじゃあ、その気持ちを押し通すしかないね」
弘之「はい」
店主「君はまだ若いんだから……今は苦しくてもいずれはいい経験になるよ」
頭を下げる弘之
○弘之の部屋(夜)
携帯の着信音が鳴る
画面を見ると中井武士の文字が
弘之「もしもし」
武士の声「なあ、これから会えないか?」
弘之「無理だよ。夜遅いし」
武士の声「そこをなんとか! 頼む!」
弘之「今日じゃないと駄目なの?」
武士の声「ああ」
弘之「分かった」
武士の声「ありがとう。それじゃあ学校近くの市民公園まで来てくれ」
電話が切れる
○弘之の家・廊下(夜)
音をたてないように階段を降りる弘之
玄関で靴を履きそっと扉を開ける
○市民公園(夜)
武士はすでに到着している
武士「よう」
弘之に向かって手を上げる武士
弘之も同じ様に手を上げる
武士「ついてこい」
歩き出す武士
その後を追う弘之
○坂道(夜)
坂道を歩いている二人
弘之の息は切れている
弘之「ねえ、まだ着かないの? っていうかどこに向かってるわけ?」
弘之の言葉を無視して進み続ける武士
溜息をつく弘之
× × ×
武士「着いた」
顔を上げる弘之
そこには展望台が
○展望台(夜)
展望台から見渡せる綺麗な夜景
その場に座り込む武士
弘之も隣に座る
武士「俺な、悩みごとがある時はよくここに来るんだ」
弘之「そっか」
武士「(言いずらそうに)その……絵里のことはあまり気にするな」
笑う弘之
武士を見つめる
弘之「ありがとう」
しばらく景色を眺めている二人
武士の携帯から着信音が
画面を弘之に見せる武士
画面には中井絵里の文字が
武士「絵里からだ」
電話にでる武士
武士「はい、もしもし」
絵里の怒鳴り声が聞こえる
絵里「ちょっとタケ兄! こんな時間に抜け出して……今どこにいるの?」
弘之に向かっておどけた表情をする武
士
それを見て笑う弘之
武士「そんなにわめくな。今な、弘之と一緒にいるんだよ」
絵里の声「え? 弘之と?」
武士「今、かわるから」
携帯を弘之に渡そうとする武士
それを拒否する弘之
少し揉みあいになった後、弘之の手に携帯が渡される
絵里の声「もしもし、もしもーし」
慌てる弘之
弘之「あ……えっと……あの……」
絵里の声「(怪訝そうに)何よ?」
一呼吸置く弘之
弘之「武士から聞いたんだけど、絵里さ、彼
氏ができたんだって?」
絵里の声「あ……うん」
弘之「おめでとう」
絵里「ありがとう」
弘之「今度、のろけ話でも聞かせてよ」
絵里の声「(笑いながら)いいよ、でも嫉妬で
爆発しちゃうかもよ」
笑う弘之
絵里の声「バカ兄貴にさっさと帰るように言っといて」
弘之「分かった」
絵里の声「それじゃあまた明日。おやすみ」
弘之「おやすみ」
電話が切れる
弘之「(携帯を弘之に返しながら)はやく帰ってこいだって」
携帯を受け取る武士
武士「そうか。じゃあもう少しだけ夜景見たら帰るか」
弘之「うん」
夜景を眺める二人
○再び三人で行動するように
絵里は時々彼氏の元へ
武士と二人で遊ぶ弘之
○高校・中庭
ベンチに座っている武士と弘之
武士「実はな、今日は絵里の誕生日なんだ」
驚く弘之
弘之「え? そうなの? 絵里の奴、何で教えてくれなかったんだろう……」
笑う武士
武士「あいつは誕生日を何とも思っていないからな。でも、俺は違う。誕生日は一年に一回しかない大事な日だと思っている」
弘之「うん」
武士「だから、俺の家でサプライズパーティーをしようと思う」
弘之「サプライズって……絵里は知らないってこと?」
武士「そうだ!」
弘之「うーん、誕生日は彼氏と過ごすんじゃないのかなー」
武士「夜には帰ってくるだろ。あ! ちゃんと親には連絡しとけよ。今日は遅くなるって」
不安そうな顔をする弘之
弘之「それは別にいいんだけど……」
武士「何だよ?」
弘之「(言いずらそうに)夜に帰ってくるとは限らないんじゃない?」
武士「どういう事だ?」
弘之「だから……その……盛り上がっちゃって……最後までいくかもしれないだろ?」
武士「まどろっこしいな。はっきりと言えよ!」
弘之「エッチするかもしれないだろ!」
武士「な!」
一瞬固まる武士
武士「そんなの考えたこともなかった」
顎に手をあて考え込む武士
首を横に振る
武士「いや、あいつに限ってそんなことはない。兄である俺が保証する!」
弘之「でも……」
武士「うるせーな、グチグチ言ってても仕方ないだろ! ほら! 行くぞ!」
立ち上がり歩き出す武士
弘之「ま……待ってよ!」
その後を追う弘之
○百円ショップ(夕)
パーティーグッズを買う二人
○スーパー(夕)
食材を買う二人
○武士の家・台所(夕)
二人で料理をしている
○武士の家・リビング(夜)
部屋は飾り付けされており料理も並んでいる
ソファーに深くもたれかかる二人
苛立っている武士
武士「遅い……遅すぎる」
弘之「やっぱり……今頃……」
武士「そんなわけないだろ! くそ……こう
なったら電話してやる」
携帯を手に取り、電話をかけようとする武士
その時、扉の開く音が聞こえる
ドアが開き絵里が入ってくる
その目は赤くはれている
きょとんとする武士と弘之
武士「ど……どうしたんだ、絵里」
武士の質問には答えず駆け足で自分の部屋に入っていく絵里
武士「俺、様子見てくる」
弘之「じゃあ僕も……」
武士「いや、まずは俺一人で」
弘之「……分かった」
絵里の部屋へ向かう武士
× × ×
心配そうに待っている弘之
武士が戻ってくる
弘之「どうだった?」
溜息をつく武士
武士「浮気されてたって」
弘之「そんな……」
怒りで体が震えている武士
弘之「絵里と話をしてもいいかな?」
武士「ああ、頼む」
立ち上がる弘之
○絵里の部屋(夜)
ベッドでうつ伏せになっている絵里
コンコンとドアをノックする音が聞こえる
弘之の声「弘之だけど……中、入ってもいい
かな?」
返事をしない絵里
少ししてドアが開き、弘之が入ってく
る
弘之「大丈夫?」
ベッドに座り直す絵里
隣をポンポンと叩く
絵里「座れば?」
弘之「それじゃあ……失礼します」
絵里の横に座る弘之
絵里「タケ兄からどこまで聞いた?」
弘之「浮気されたってことだけ」
絵里「詳しいことは知らないんだ?」
弘之「うん」
黙り込む絵里
弘之も同じ様に黙り込む
絵里「詳しいこと聞きたい?」
弘之「いや」
絵里「どうして?」
弘之「辛いことを無理に話す必要はないと思うから」
絵里「そっか」
再び黙り込む二人
しばらくして絵里が口を開く
絵里「ご飯、食べてたんだ」
弘之「うん」
絵里「高校生からしたら結構デカめのレストランで。私のために奮発してくれたんだと思ってすごく嬉しかった……でもね……」
間を置く絵里
絵里「そこで彼氏の浮気相手と鉢合わせしたの。その女の人、すごい怒ってた。私のことを指さしてこの女は誰だって」
唇を噛みしめる絵里
絵里「頭がパニックになった。私の方が聞きたかったわよ。あんた誰なのって」
溜息をつく絵里
絵里「彼に問い詰めたらしどろもどろでさ。
ああ、この人は浮気してたんだって確信したわ。それで言ったの。もう、あなたとは終わりって」
泣き出す絵里
弘之を見る
絵里「私、どうしてあいつの事好きだったんだろ?」
言葉をかけられない弘之
黙って絵里の肩を叩く
絵里「ごめん……一人にしてもらえる?」
弘之「分かった」
立ち上がる弘之
部屋を出る前に一瞬絵里を見る
再び視線を戻し部屋を出ていく
○武士の家・リビング(夜)
弘之に詰め寄る武士
武士「どうだった?」
首を振る弘之
武士「そうか……」
弘之「帰るよ」
武士「え? 何で?」
弘之「絵里には一人の時間が必要なんだと思う」
武士「分かった……今日は色々と悪かったな」
少し笑う弘之
弘之「それじゃ」
武士の家を出る弘之
○高校・教室(朝)(日替わり)
自分の席にいる弘之
武士がやってくる
弘之「おはよう」
武士「おう」
弘之の前の席に座る
弘之「絵里の様子は?」
武士「全然駄目だ。浮気されたことがよっぽどショックだったんだろうな。学校も欠席してる」
弘之「そっか」
心配そうな顔をする弘之
○甘味処・たから(夕)
バイトをしている弘之
表情は落ち込んでいる
奥から弘之を見つめる店主
× × ×
バイト終わり
店に客はいない
店主が弘之に声をかける
店主「また悩んでるねえ、弘之君」
弘之「え? 何で分かったんですか?」
店主「顔を見れば分かるよ。仕事中、ずっと辛そうな顔してたから」
弘之「すいません……」
店主「謝ることはないさ。悩むのは悪いことじゃないんだから」
椅子に座る店主
店主「で、今度は何で悩んでるの?」
向かいに座る弘之
弘之「絵里って子、覚えてます?」
店主「ああ、君がフラれた」
弘之「い……いや、フラれてはないです。告白も何もしてないので」
店主「そうだっけ? まあいいや。で……彼女がどうしたの?」
弘之「彼氏が浮気したんです。それで絵里の奴、すごく落ち込んでて……」
店主「それは可哀そうに……」
弘之「僕……絵里に聞かれたんです。どうして彼の事好きになったんだろうって」
店主「それでなんて答えたの?」
弘之「何も答えられませんでした」
店主「そっか……」
弘之「彼女はすごくいい人なんです。友達のいなかった僕に明るく接してくれたし、一緒にいるとすごく楽しかった」
店主の顔を見つめる弘之
弘之「僕は分からないんです。彼女はすごくいい人なのに何であんな男を選んだのか……」
店主「それはね……自分にふさわしいと思い込んでしまうからじゃないかな?」
弘之「自分にふさわしい?」
店主「恋は盲目っていうだろ? 相手がどんなに酷い奴でも彼女はそれに気づかない」
微笑む店主
店主「浮気が判明して逆に良かったかもしれないな」
弘之「そんな……」
店主「なあ、弘之君」
弘之「はい」
店主「君は彼女の事が好きなのかい?」
弘之「い……いや、今はもう……」
店主「正直に答えてごらん」
弘之「……好きです」
店主「聞こえないな、もっと大きな声で言いなさい」
弘之「僕は中井絵里が大好きです!」
笑顔になる店主
店主「遠慮せず自分の思うように行動しなさい」
弘之「は……はい」
店主「喋りすぎて喉が渇いたな。お茶持ってくるね」
立ち上がり店の奥に消える店主
弘之「遠慮せず自分の思うように……か」
ぼそっと呟く弘之
高校・中庭(日替わり)
弘之、武士、絵里の三人は昼飯を食べている
弘之「よかった、学校来れて」
絵里「まあ、ずっと学校休むわけにもいかな
いしね」
弘之「もう大丈夫なの?」
絵里「うん。心配してくれてありがとう」
武士「一日寝たら嫌な事をケロっと忘れる、こいつはそういう女だ」
絵里「うるさい」
武士の肩を思いきり殴る絵里
武士「いたっ……お前、本気で殴ったな」
笑う三人
絵里の表情が急に険しくなる
弘之「どうしたの?」
絵里「う……ううん、何でもない」
武士「あれ……浮気男じゃねえか」
そこには女⒂と歩いている元カレ⒂の姿が
武士「あれ……どういう事だよ」
立ち上がる武士
武士を止めようとする絵里
絵里「いいから」
武士「いいわけねえだろ。あの野郎、絶対に
許さねえ!」
元カレに向かって大声で叫ぶ武士
武士「おい! お前! ちょっとこっちに来い!」
武士の方を向く元カレ
絵里の姿を発見し気まずそうに頭を掻
く
元カレ「(女に向かって)ごめん、先に行ってて」
女「なんでよ」
元カレ「いいから」
渋々その場からいなくなる女
元カレは武士達のところへやってくる
元カレ「なにか用でしょうか?」
武士「なにか用だと?」
元カレの胸ぐらをつかむ武士
絵里「やめて」
弘之「落ち着いて」
慌てて武士を止める二人
武士「俺の妹がどんだけ苦しんだか分かってんのか? それなのにお前はのうのうと新しい女を作りやがって!」
溜息をつく元カレ
元カレ「僕はちゃんとやり直そうとしましたよ。なのに彼女が拒絶した。そうだよな?絵里」
悲しそうな顔をする絵里
武士「それはお前が浮気してたからだろうが!」
元カレ「だいたいね、僕は被害者ですよ? 絵里にももう一人の女にも捨てられて!」
武士「なに?」
元カレ「おかげで新しい女を作るハメになった……でも……」
絵里の方を見てニヤリと笑う元カレ
元カレ「絵里、俺が出会った女の中で一番綺麗なのはお前なんだ。もう一度やり直さないか? お前みたいな上玉を手放したくない」
元カレを睨み付ける絵里
武士「てめえ!」
元カレに向かって殴りかかろうとする武士
それよりはやく弘之が元カレを殴る
呆気にとられる武士と絵里
元カレは体勢を崩し、その場に倒れる
馬乗りになる弘之
かなり興奮している
弘之「(男を殴りながら)絵里がなあ、どんだ
け辛い思いしたか分かってんのか! それ
をお前は……絵里は……絵里はな……お前
の物じゃないんだよ!」
ハッとする絵里
元カレ「うるせえ!」
抵抗する男
揉みあいになるうちに元カレが馬乗り
になる
弘之を殴る元カレ
武士に蹴られ吹っ飛ぶ元カレ
武士「助太刀するぜ」
二人で元カレをボコボコにする
騒ぎを聞きつけた教師がやってくる
教師「お前等! 何してるんだ!」
元カレ「助けて! 先生! 助けて!」
二人を止めに入る教師
○生徒指導室
教師と向かい合って座っている武士と弘之
教師「お前達は一週間の停学処分だ。ちゃん
と反省しろよ」
弘之・武士「……はい」
沈痛な面持ちの二人
○生徒指導室・前
武士・弘之「失礼しました」
部屋を出る二人
互いに顔を見合わせて笑いあう
○弘之の部屋(夜)
部屋でボーっとしている弘之
弘之の母の声「弘之―、お友達が来てるわよ」
弘之「友達?」
○弘之の家・前(夜)
玄関を開ける弘之
絵里「よっ」
片手をあげる絵里
○展望台(夜)
腕を伸ばす絵里
絵里「やっと着いた!」
弘之を見て不思議そうな顔をする
絵里「あれ? あんまり驚かないんだ」
苦笑いする弘之
弘之「一回、武士と来た」
絵里「なーんだ、驚かそうと思ったのに」
二人で座る
絵里「今日は本当にありがとう」
弘之「礼を言われる覚えはないよ。僕が勝手にやったことだから」
絵里「そういうわけにはいかないよ。一週間の停学処分もくらってるんだし」
笑う二人
一緒に夜景を眺める
× × ×
立ち上がる弘之
弘之「そろそろ帰ろう」
絵里「待って!」
弘之「うん?」
勢いよく立ち上がる弘之
弘之にキスをする
○武士の家・リビング(夜)
リビングに入ってくる絵里
ソファーに座っている武士
武士「こんな夜中に何してたんだ?」
絵里「実は……弘之と会ってた」
武士「そうか……」
複雑な表情をする武士
○弘之の部屋(夜)
ボーっとしている弘之
弘之の母の声「友達が来たわよー」
弘之「ええ……」
困惑する弘之
○弘之の家・前(夜)
玄関を開ける弘之
武士「よう」
片手をあげる武士
○展望台(夜)
夜景を眺めている二人
武士「お前にとっちゃ変な感じだろ? さっき絵里と来たから」
弘之「まあね」
武士「やっぱり男とこういうところに来るのは嫌か?」
弘之「そんなことないよ。武士とならどこにだって行ける」
弘之の顔をじっと見つめる武士
弘之「な……何?」
武士「好きだ」
弘之「え?」
武士「お前の事が好きだった。初めて声をかけてくれた時からずっと好きだった」
呆然とする弘之
武士「ごめん、気持ち悪いよな。こんなこと急に言われても」
涙目になる武士
弘之「そんなことない、親友の事を気持ち悪いなんて思うわけないだろ」
武士「親友か……」
泣き出す武士
武士の体を強く抱きしめる弘之
弘之「ごめん……でもありがとう。僕の事をふさわしいと思ってくれて」
号泣する武士
弘之は武士の事をずっと抱きしめてい
る
× × ×
立ち上がる武士と弘之
武士の目は真っ赤にはれている
武士「あー、これでスッキリした」
弘之に向かって笑いかける
武士「妹のことを泣かせたらぶっ殺すからな」
弘之「ああ」
二人で肩を組み歩き出す
《了》
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