○(56年前)道
東貫徹(10)が男とぶつかる。
男「クソガキ!どこ見てやがる!」
東「すいません!」
と走り去る。
○路地裏
数名の少年のもとに東がやってきて、ポケットから万年筆を取り出す。
少年1「バカ!こんなもん金になるか!」
と東を殴りつける。
少年2「まあまま。初めてなんだしよ」
倒れている東。地面を転がる万年筆。
○(現在)東の美術店・陳列室
美術品の並べられた棚。空きが目立つ。棚には一本の万年筆。
裕子(31)が美術品を眺めている。
その脇に東(66)が立っている。
裕子「なんであげちゃうんですか。社会貢献、みたいな?」
東「そんな大層なものでは……。ここにある品物は、ひと様に言えぬことをしてまで集めたものでございます。本当の価値が分かるお方の元にあるべきだと。思えばとんだ思い上がりでございます」
裕子「それで私みたいなズブの素人にまで」
東「美を感じる心はどなたもお持ちでいらっしゃいます。今はそう信じております」
裕子、棚の万年筆をそっと手に取る。
裕子「大事なものですか」
微笑む東。
○同・前
荷物を抱えて裕子が歩き去る。
入口の前で深く頭を下げている東。と、頭を上げて店内に入る。
○同・陳列室
東が店内を歩いていき、万年筆を手に取ってじっと眺める。ポケットからノ
ートを取り出し、万年筆で書き込む。
ドアベルが鳴る。
入口に清田(44)が立っている。
清田「どーよ爺さん、どーよ調子は」
東、ノートと万年筆を棚に置き、清田に向き直る。東の不敵な笑み。
○同・奥の部屋
いくつものモニターが取り付けられたパソコンを東が操作している。
モニターに数名の女性とその部屋が映し出され、音声が流れる。
清田「おー!これだよ!これぞリアル!」
○(回想)同
美術品を手にモニターを眺めている東。
モニターには東の横顔。
○(回想戻り)同
東「恐縮でございます」
清田が膨らんだ茶封筒を東に投げ渡す。
清田「爺さん、あんたの映像も買えないか」
東「何故でございましょう」
清田「どんな死に方するか見てえのさ」
東「悪党が死んだためしはございませんで」
○同・陳列室
万年筆。その脇の開きっぱなしのノートには「初志貫徹」と書かれている。
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