○映画館・外観
大きな映画館が立っている。
○同・物品販売コーナー
映画のパンフレットやグッズが並べられた物品販売コーナーのレジに
立っている、従業員の行山未来(24)。
と、未来が顔を上げると、奥のほうから磯山美麗(25)がやって来
る。おしゃれなショートパンツにシャツ、そして真っ黒なサングラと
いう出で立ちの美麗。
見とれる未来。
美麗は物品コーナーからパンフレットを取り、レジの前に置く。
その本は『ゾンビ映画特集』
未来「(小声で)これ読むんだ……」
美麗「なに?」
未来「あ、いや……1300円になります」
美麗、千円と三百円をレジに置く。
未来「レシートは」
美麗「いらない」
本を取り、立ち去る美麗。
その背中を見つめる未来。
未来「運命の人だ……」
○タイトル表示
『ゾンビズム』
○居酒屋・カウンター席(夜)
カウンター席に隣同士で座る未来と、その友人の冴島新太(24)。
二人ともゾンビが描かれたシャツを着ている。
そのシャツを気味悪げに見つめる店長・五十嵐義彦(50)。
未来と新太「カンパーイ」
ビールの入ったグラスを突き合わせる未来と新太。
そのせいでビールが少し床にこぼれる。
それを見て舌打ちする義彦。
ビールを飲む二人。
未来「うまい!」
新太「未来ィ」
未来「ん?」
新太「どうよ最近、仕事は」
未来「館長が来年やめるって」
信太「まじで!?よかったじゃん。パワハラの人でしょ」
未來「で、俺次の館長なれるかも」
信太「すごくね!大出世じゃん!」
未来「やっと、って感じよ」
未来「新太はどうなの?映画監督の夢、叶いそう?」
新太「このまま助監で終わりそう。おまけに激務薄給だし」
未来「マジか」
新太「もう辞めたいよ」
未来「がんばれ!世界に名を馳せるゾンビ映画界の巨匠になるんだろ?」
新太「うーん…」
未来「そいやさ、こないだ運命の人に会ったんだ」
○同・テーブル席(夜)
合コンをしている男女たち。
そのなかに美麗もいる。
美麗は、同席している小日向修一(26)をちらちら見ている。
修一、美麗の視線に気づき軽く微笑む。
美麗、それに気づき照れて視線を逸らす。
男A「じゃあ、それぞれ好きなものを言っていこう!」
男A、美麗をみて、
男A「美麗ちゃんから!」
美麗を見つめる男たち。
美麗「あたしは……映画かな」
修一「いいね!俺も好き!」
女A「あたしも好き!タイタニックとか」
女B「ローマの休日!」
男A「美麗ちゃんは何が好きなの?」
美麗「あったっしは、ええと……(小声で)ゾンビの……」
修一「あれ見ろよ」
修一、カウンター席にいる未来と新太を指さす。
美麗、未来の顔を見てびっくりし、顔を伏せる。
修一「二人のシャツ」
修一、未来たちの着ているゾンビのシャツを見て、
修一「ああいう映画観る奴の気がしれないね」
女A「わかる!気持ち悪いだけじゃん」
女B「人食べてさあ」
男B「え?俺結構好きよ」
女A「えーきもー」
男A「ちょいちょい!美麗ちゃんの好きな映画を聞いてんだから!」
男女たちが美麗を見つめる。
美麗「……トイストーリー」
男A「かわいい!」
女A「あれいいよね!」
修一「ピクサーにハズレなしよな!」
盛り上がる男女。
美麗、苦笑する。
○同・カウンター席(夜)
修一たちの悪口に気づかず、未来と新太は話している。
新太「やべーじゃんその人! 告白しろよ!」
未来「いやーでもリア充感ぷんぷんなんだよ、俺なんか絶対無理……」
新太「未来!」
未来を見つめる新太。
新太「当たって砕けろ!」
新太、未来の肩を叩く。
新太「たとえ臓器が砕け散ろうとも!」
新太の言葉に嫌悪感を示す義彦。
未来「ウオッシャァァァ」
シャツを脱ぎ胸を叩き始める未来。
新太「その意気だ!」
新太もシャツを脱ぎ胸を叩き始める。
未来と新太「ウオォォォォ!」
義彦「出てってくれ」
胸を叩くのをやめる二人。
○同・テーブル席(夜)
未来たちを冷たく見つめる修一たち。
○映画館・物品販売コーナー
従業員服を着てレジに立つ未来。
未来「当たって砕けろ、当たって……」
そこへ、映画館の入り口から美麗がやって来る。
未来、それに気づき、美麗に近づこうとする。
しかし、美麗の隣には修一の姿。
未来、立ち止まる。
美麗と修一は仲良さげに話している。
未来N「そりゃそうだよな」
うなだれてレジへ戻る未来。
○同・ロビー
修一と美麗が館内に飾られた映画のポスターを見ている。
美麗、その中のひとつのゾンビ映画のポスターを見ている。
修一の声「これにしない?」
修一、恋愛映画のポスターを指さす。
美麗「う、うん!いいね!」
美麗と修一、受付にチケットを買いに行く。
○同・上映室
スクリーンには恋愛映画が映っている。
隣同士で座りそれを見ている修一と美麗。
修一は号泣している。
美麗は素の表情である。
両手で涙をぬぐう修一。
修一、ちらっと美麗のほうを見る。
慌てて泣くふりをする美麗。
○同・ロビー
涙を拭きながら上映室を出る修一と、その隣を歩く美麗。
修一「素晴らしい映画だ」
美麗「うん」
未来の声「当たって砕けろ当たって砕け……」
その声に顔を上げる修一と美麗。
未来が二人のほうへ向かってくる。
未来、美麗に抱き付く。
美麗「ぎゃあっ」
未来「付き合ってください!」
修一「なんだコイツ!」
修一、美麗から未来を引きはがそうとする。
未来「僕もゾンビ映画が好きで!気が合うかもと思って!あとそれから!」
修一「こいつっ」
修一、未来を殴る。
未来、吹っ飛び倒れる。
美麗と修一、小走りで去っていく。
○同・従業員控室
館長の横村明(33)と未来が向かい合って立っている。
明「ガッカリだよ」
未来「……あの、館長」
明「何だ」
未来「……何もないです」
明「言い訳も出ねえか」
俯く未来。
明「今日中に、いまの仕事の引き継ぎを済ませておきなさい」
未来「クビ、ですか?」
涙目の未来。
その顔に少し同情して、
明「いや。清掃部門に異動しなさい。接客はキミには向いてない」
未来「……」
明「それがイヤなら、クビだ。わかったね」
○居酒屋・カウンター席(夜)
ゾンビが描かれたシャツを着て座る未来と新太。
新太「どうだった」
未来「砕けた」
新太「そか……。まあぶつかっただけ偉いよ」
未来「後悔しかない」
新太「人生に後悔はつきもんよ」
ビールを飲む新太。
新太「ところでさ」
未来、新太のほうを見る。
新太「仕事辞めたんだ」
驚く未来。
新太「もう耐えれない。普通の仕事する」
未来「そんな……」
新太「好きなことで食べてけない。やっと気づいた」
未来「……」
新太「お前も……」
未来「……何だよ」
新太「……」
未来「何だよ」
新太「気づけ」
未来「……」
二人をじっと見つめる義彦。
○映画館のトイレ(夕)
便器を清掃する未来。
○同・更衣室(夜)
従業員たちが私服に着替えながら談笑している。
未来も、従業員服を脱ぎ、ゾンビのシャツに着替える。
従業員たち、未来のゾンビシャツに対し馬鹿にした表情。
未来、あえて彼らから目を逸らす。
未来N「……映画観て帰るか」
○同・上映室(夜)
スクリーンにはゾンビ映画。
それを楽しそうに見ている未来。
スクリーンに『END』の文字が出て、スタッフロールが流れる。
室内が明るくなる。
未来、立ち上がる。
その時、観客席の後ろのほうに座る美麗に気づく。
美麗も未来に気づく。
見つめ合う二人。
やがて、美麗、部屋から走り去る。
未来「あ、ちょ、待って!」
追いかける未来。
○同・ロビー
明の横を通り過ぎる美麗と未来。
○歩道(夜)
走る美麗と追いかける未来。
美麗「なんで追いかけてくるの!」
未来「僕も、好きなんだよ!ゾンビ映画!」
美麗「だから何っ」
未来「ぞ、ゾンビ映画好きの女性って初めてで!」
美麗、立ち止まる。
未来、美麗の背中にぶつかり転ぶ。
美麗、未来のほうを振り返る。
美麗「そうよ。気持ち悪いでしょ?」
未来「んなことないよ。親近感わいたし」
美麗「嬉しくないの」
未来「(立ち上がり)なんでよ!」
美麗、未来のゾンビが描かれたシャツを見る。
美麗「自分の好きなものが……周りに認められないなら……好きじゃなくな
るほうを選ぶ」
立ち去る美麗。
未来「ゾンビ好きで何が悪ィんだ!」
美麗の背中に叫ぶも、美麗は無視して歩き去る。
○居酒屋・カウンター席(夜)
カウンター席に座る未来。
新太「お待たせ」
未来の隣に座る新太。
未来「お疲れ」
新太「何しょぼくれてんの」
未来「別に」
新太「あ、そいやさ。決まった」
未来「ん?」
新太「新しい仕事」
未来「マジ?」
新太「事務職なんだけど、こないだから働き始めた」
未来、新太がゾンビのシャツではなく無地の白いシャツを着ていることに気づく。
未来「ゾンビシャツは?」
新太「あれ、同僚に飲み会で馬鹿にされてさ。評判悪いんだよ」
未来「関係ないだろ、着ろよ」
新太「職場で嫌われたくないじゃん」
○映画館・売り場(夜)
チケットを買おうとする未来。
その時、誰かに肩を叩かれる。
振り返ると、サングラスをつけた美麗の姿。
○喫茶店・店内
対になって座る未来と美麗。
美麗「話したくなって。あんたと」
未来「……」
美麗「……今までそういう友達とか、いなかったから。
その、ゾンビの話が出来るひと」
未来、笑顔になる。
未来「なんのゾンビ映画が好きなの?」
美麗「……ゾンビーノ」
未来「おお!マニアックだね!俺も好き!
でも一番はショーンオブザデッドかな」
美麗「わかる!笑えるよねあれ!」
盛り上がる美麗と未来。
× × ×
ゾンビで盛り上がる美麗と未来。
美麗「こんなにゾンビのこと話せたの初めて」
未来「楽しいでしょ?」
美麗、小さく頷く。
美麗「でも……やっぱりダメなの。私は……」
未来「周りを気にして、好きなことを言えない人生なんてつまんないよ!」
美麗「……」
未来「自分をさらけ出すのだ!」
美麗「いやーよ」
未来「……」
美麗「ごめんね」
未来「じゃあさ、周りもゾンビ好きにさせちゃうとか」
美麗「え?」
未来「世間を気にするなら世間を変える」
美麗「どういう……」
未来「映画館を作るんだ。ゾンビ映画しか流さない映画館」
美麗「つ、作る?」
未来「小さい頃から夢だったんだ。映画館の館長になる、って。
そして、毎日毎日自分の好きな映画ばっかり流す」
美麗「自己満じゃん」
未来「それだけじゃない。
今は規制規制で面白いゾンビの映画も流せなくなってる。
そういう日本未公開の映画なんかも流すんだ」
美麗「……」
未来「一緒に作ろう」
美麗「楽しそうだけど……でも無理」
立ち上がる美麗。
美麗「さよなら」
立ち去る美麗。
○バー・店内(夜)
カウンター席に座る美麗と修一。
美麗は赤ワイン、修一は白ワインを飲んでいる。
美麗「おいしい」
修一「だろ?」
微笑む修一。
修一「実は今日、君に告白しようと思ってたんだ」
○ビル街(夜)
建物のあちこちに
『映画館に利用させてくれる建物募集!』
というチラシを貼る未来。
修一の声「でも、やめた」
未来、警官たちに尋問される。
○バー・店内(夜)
修一、美麗の顔をじっと見つめる。
修一「あの男といたろ。ゾンビ男」
美麗「……」
修一「たまたま喫茶店の前を通って、見ちゃったんだ」
美麗「あれは……」
修一「どういうつもり?」
美麗、俯く。
修一、ワインを飲み干す。
修一「俺より、あんな男がいいのか」
美麗、黙っている。
立ち去る修一。
じっと赤ワインを見つめる美麗。
美麗「……マスター」
カウンター内にいる男性マスター、美麗のほうを見る。
美麗「このワインを見て、ゾンビが血を吐く姿を想像する私は、
変人なのかしら」
マスター、頷く。
美麗「……」
○歩道(夜)
とぼとぼと歩いている美麗。
そこに、電柱に貼られた未来の建物募集のチラシを見つける。
○映画館・従業員控室
明に辞表届を渡す未来。
明「どうして」
未来「映画館を作るんです」
明「意味がわからんのだが」
未来「わかんなくてもいいです。誰にも理解されなくても」
心配げな明。
未来「今までありがとうございました」
立ち去る未来。
未来の背中を見つめる明。
○歩道
早歩きで進む未来。
そこへ、未来のケータイの着信音が鳴る。
ケータイを取り出す未来。
未来「もしもし」
女の声「映画館を作りたいんでしょ?」
未来「どちらさま…」
女の声「建物、提供する」
未来、驚きの表情。
女の声「今から言う場所に来て」
○住宅街
歩いている未来。
未来、遠くのほうに美麗が立っていることに気づく。
美麗、未来に片手を挙げる。
未来「君かァ」
美麗「映画館、作るんでしょ」
未来「あるの?」
美麗、横に建てられた一軒家を指さす。
美麗「部屋のなかに巨大なホームシアターがあるの」
未来「これを……映画館にしていいの」
美麗「うん」
未来「君の家?」
美麗「父の別荘。けど今は誰も使ってない。廃墟みたいなもん」
未来「そ、そうか。サンクス」
美麗「私、気づいたの」
未来「……」
美麗「私はおかしいんだって」
小さく笑う美麗。
それを見て微笑む未来。
○美麗の別荘前
別荘を見つめながら、頭にタオルを巻く美麗と未来。
○同・ホームシアター室
巨大なホームシアターの部屋。
美麗と未来はスクリーンの前にパイプイスを並べる。
○同・リビング
ソファを置いたり、ゾンビ映画のポスターを貼ったりと、
どんどん改装していく美麗と未来。
ポスターは全てゾンビ映画のポスターである。
○同・別荘前
別荘の外壁にゾンビの絵をペンキで塗装していく美麗と未来。
別荘の前を歩く人々がそれを見て気味悪げな顔をしている。
それを見て少し落ち込む未来。
美麗、落ち込んでいる未来を見て、
美麗「ちょっと!」
と叫ぶ。
未来、美麗のほうを向く。
美麗「他人になんて思われようが関係ない、そうでしょ?
やられてもやられても起き上がる。
それがゾンビ・イズム、ゾンビズムよ!」
未来、頷き、塗装を始める。
○会社・社内
社員たちがパソコンに向かい作業している。
そのなかに新太もいる。
新太、パソコン画面に映されたネットニュースのタイトル
『ゾンビ映画館現る!』
を見つける。
それをクリックする新太。
そこには、外壁にゾンビや臓器や血が描かれた未来らの作った
映画館。
その前にピースサインで立つ未来と美麗。
驚く新太。
○未来らの映画館・ロビー
掃除をしている美麗と未来。
そこへチャイムが鳴る。
○同・玄関
扉を開ける未来。
そこには、五人の男女が。
男A「ニュース見て飛んで来たんだ!」
男B「俺たちもゾンビが好きでさ」
女A「何か手伝わせて!」
五人の男女を見つめる未来。
未来「もちろん!」
○修一の自宅・リビング
ソファに座りテレビを観ている修一。
テレビでは、アナウンサーが未来らの映画館を紹介している。
修一、外壁のゾンビの絵に眉をひそめる。
修一「悪趣味だな」
アナウンサー「この映画館を準備中のお二人にお話を伺いたいと思います」
映画館から、ゾンビのメイクをした未来と美麗が出てくる。
飲んでいたジュースを吹き出す修一。
○未来らの映画館・外観
未来と美麗の他にも数人が外壁の塗装に参加している。
みんなゾンビメイクをしている。
× × ×
外壁の塗装がどんどん完成に近づいていく。
○同・館内・ロビー
ゾンビメイクを担当しているお手伝いスタッフの三島幸香(23)
が、お手伝いのスタッフたちにゾンビのメイクをしている。
幸香もゾンビのメイクをしている。
○住宅街・坂
坂を走り上る修一。
○未来らの映画館・ロビー
未来と美麗を含むスタッフたちが昼食を食べている。
昼食はトマトスープにウインナーが入ったものである。
そこへ、扉の開く音がし、修一が入って来る。
美麗、修一を見て驚く。
修一「美麗ちゃん!」
立ち上がる美麗。
その反動でスープを落としてしまう。
未来を含む他のスタッフも修一を見つめる。
修一「早くここから出よう」
美麗「……」
修一「ここは君がいるべき場所じゃない。(周りを見て)気持ち悪い」
美麗、修一をじっと見つめる。
美麗「……アー」
美麗、ゾンビ歩きをして修一の首元に噛みつく
修一「ギャアッ」
美麗を振りほどく修一。
他のスタッフたちもゾンビ歩きで修一のもとへ向かってくる。
修一、慌てて立ち去る。
○ビル街
『ホラー映画館、明日開館!』
と書かれたチラシを配る未来と美麗とその他スタッフたち。
彼らはもちろんゾンビメイクをしている。
ドン引きして受け取らない者、
面白がって受け取る者、
率先して受け取る子ども等、様々である。
チラシを受け取る人々のなかに、明もいる。
○未来らの映画館・化粧室(夕)
水で洗いメイクを落とす美麗。
○未来らの映画館・ロビー(夕)
夕陽が暮れていくのを、ゾンビメイクのまま窓から見つめている。
タオルで顔をこすりながら化粧室から出てくる美麗。
未来「落としたの?」
美麗「かゆくて」
美麗、未来の隣に立つ。
美麗「かゆくない?」
未来「あんまり」
美麗「そう」
未来「いよいよ明日だね」
美麗「早かったね」
美麗「なんかゾンビと話してるみたい」
未来「気持ち悪い?」
美麗「全然」
美麗、小さく笑う。
○未来らの映画館前
玄関先には『本日開館!』と書かれた看板が立っている。
映画館の前に立つ未来と美麗、その他スタッフたち。
全員ゾンビメイクをしている。
未来「来ないなあ……」
美麗「あれ見て!」
住宅街のなかの坂から、上って来るたくさんの人々。
未来「来たァ!」
彼らはどんどん未来らの映画館に入って来る。
そのなかには明もいる。
未来、明に気づく。
未来「館長!」
明、片手を挙げる。
未来「どうして」
明「実は大のゾンビマニアでね」
新太の声「未来!」
新太の声に振り返る未来。
そこには新太が立っている。
新太「スゲーこと始めたな」
未来「みんなのおかげで、なんとか」
新太「大変だったろ。頬もこけてる」
未来「これメイクだよ」
新太、未来の顔を触る。
新太「ホントだ」
未来「ゾンビメイク」
新太「すっげえ」
新太、未来の隣に立つ美麗に気づく。
美麗、軽く会釈する。
美麗「初めまして」
新太「あっ、どうも。未来の友人の、新太と申します」
美麗「美麗です。初めまして」
新太「未来。このひとがこの前話してた……」
未来、小さく頷く。
新太「おおー!確かにスタイル抜群!」
美麗「どうも」
新太「顔はちょっとアレですが……」
美麗「これメイクです」
○居酒屋・カウンター席(夜)
会社員の男性二人がビールを飲んでいる。
二人は居酒屋に備え付けられたテレビを観ている。
そのテレビには、未来らの映画館の模様が中継されている。
会社員A「大盛況だね」
会社員B「店長、こういうの興味ないの」
義彦「全く」
会社員A「とかいって、映画ちょっと観たらハマるかもよ」
義彦「ないね」
会社員B「そうだ。今確かテレビでゾンビ映画やってるんだ」
会社員A「マジで?チャンネル回してよ」
義彦「や、だ、ね」
会社員B「ちょっとだけ」
義彦「……しゃあねえ」
義彦、リモコンを持つ。
会社員A「10チャンネル」
義彦、10チャンネルを押す。
テレビにゾンビ映画が流れ始める。
義彦、何気なくそれを見つめる。
しかし、だんだんと義彦はその映画を食い入るように観始める。
○未来らの映画館前(夜)
客の受付をしている未来。
○住宅街・坂(夜)
坂を走って上る義彦。
○未来らの映画館前(夜)
未来が客と無駄話をしていると、
その客を押しのけ義彦が未来の肩を掴む。
未来「店長?」
義彦「お、俺も!観たい!」
未来「へ?!」
義彦「まだ席はあるか?」
○同・ホームシアター(夜)
スクリーンにてゾンビ映画が上映されている。
それを楽しげに観る観客たち。
そのなかに、新太、明、義彦もいる。
新太、義彦もいることに気づき驚く。
新太「店長!ゾンビ嫌いなんじゃ」
義彦「シッ、映画に集中できん」
義彦の反応に微笑む新太。
○同・映画館前(夜)
客たちが映画館から去っていく。
彼らに笑顔で頭を下げる未来と美麗とスタッフたち。
義彦の声「兄ちゃん!」
未来、顔を上げる。
そこには義彦が立っている。
義彦「最高だったよ」
未来「ありがとうございます」
義彦「また来るよ」
笑顔で去る義彦。
新太の声「未来!」
新太が未来を抱きしめる。
新太は泣いている。
未来「どした」
新太「感動したよ」
未来「ゾンビ映画で?」
新太「違う、お前の行動にだ」
新太、未来のシャツで涙を拭く。
新太「好きなことをやる。今日、そう感じた。
働きながら友人たちとゾンビ映画作るよ。
作り続ける。そして、いつか有名な映画監督になってやる」
未来、新太の肩を叩き、
未来「その意気だ、当たって砕けろ!」
新太、微笑む。
新太「じゃ、また」
去っていく新太。
入れ違いに、明がやって来る。
未来「館長」
明、未来に手を差し伸べる。
明「いい映画館だな」
未来、明と握手する。
明「がんばれよ、館長」
未来「はいっ」
微笑み合う二人。
○同・屋上
打ち上げをしているスタッフたち。
そのなかに、未来と美麗もいる。
二人ともゾンビメイクをしたまま。
未来「お疲れ様」
二人、赤ワインの入ったグラスを突き合わせる。
未来「なんかこれ、ゾンビが吐いた血みたいじゃない?」
美麗、ふふっと笑って、
美麗「変人ね」
終わり
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