ペインの大使 恋愛

都心に勤めるOL由里とビルの窓ふき清掃員の勝との出会い。 シナリオセンターの課題作でした。
別句通 30 0 0 03/22
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第一稿

人  物
・林崎由里(31)総合職OL
・勝 光俊(28)ビル清掃員    
・宮下(54)会社員
・女性清掃員 40代

○株式会社丸光製作所本社・全景
都心の ...続きを読む
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人  物
・林崎由里(31)総合職OL
・勝 光俊(28)ビル清掃員    
・宮下(54)会社員
・女性清掃員 40代

○株式会社丸光製作所本社・全景
都心の中の中層ビル。

○同内部・法務部
広めのオフィスで社員が黙々と仕事。キーボードを叩いている林崎由里(29)のもとに宮下(54)が近づいてくる。
宮下「アキツ電工もあきれたもんだよ。米国法人経由で訴訟起こしやがって!」
由里は画面を見ながらにっこり微笑む。
由里「訴訟しやすいからでしょう」
宮下「馬鹿な連中だ。結局向こうの弁護士業界の餌食になるのが関の山だよ」
昼のチャイムが鳴る。

○公園
ビル群を背景にした公園。
めいめいくつろいでいるサラリーマンやOLたち。
由里はベンチに座りサンドイッチの包みを広げ、傍らにコーヒーの入る紙カップを置いている。
汚いTシャツにジャージ姿の勝光俊(26)が首にタオルをかけ由里の近くを歩いている。
由里が傍らの紙カップを掴もうとするが指でひっかけ倒れてしまう。
由里「あっ!やばっ」
コーヒーがどくどくこぼれ由里のスカートと皮製のバッグが濡れ始める。
由里「熱っ!どうしよー……」
由里はとっさにベンチから立ち上がり、スカートに手をやる。
勝が由里に気づき、互いに目が合う。
勝は由里に近づき首のタオルをといて由里に渡す。
勝「これ、使っていいっスよ」
由里「あ、ありがとうございます……」
由里はすかさずタオルでスカートと皮バッグの濡れた部分を丹念に拭きとる。
由里ははっとする。
由里「すいません!」
由里が振り返ると勝の姿は無い。
由里はタオルをじっと見つめ、乾いている部分の匂いを嗅ぐ。
由里「臭い……」
由里の頬が紅く染まる。

○(株)丸光電子工業内部・法務部
由里がもくもくとキーをたたく。
宮下が由里を見る。
宮下「おい、林崎君、昼休み何かいいことあったのか?」
由里「え?なんでですか?」
宮下「なんかさっきからにやにやしてるよ」
由里「えー?そ、そんなこと無いですよ」
席の下のバッグにはコーヒーのしみこんだタオルが入っている。

○公園
昼休みのサラリーマンやOLたち。
由里が昨日と同じベンチに座っている。バッグには洗ったタオルとリボンのついたギフト用の封筒。
由里が腕時計を見て辺りをきょろきょろする。
由里は少しうなだれる。

○丸光電子工業内部・法務部
由里が分厚い英文ファィルをめくる。
宮下がオフィスに入り、由里に近づく。
宮下「おい、アキツのやつら訴え取り下げてくるかもしれねえぞ」
由里「え?本当ですか」
宮下「ああ、勝ち目無いと悟ったんだろ。突然和解交渉したいなんてほざきやがって」
由里の目が窓のほうに向く。
窓の向こうで勝がハーネスにロープを付けて窓の清掃をしている。
由里が驚き勝を見続けるが勝はきづかない。
宮下「おい、林崎君。聞いてるか」
由里「え、ええ……」
宮下「今度内々で向こうの法務担当と一席設けましょうってことでさ」
由里「今度は向こうが守勢ですね」
由里が窓を見るとロープが垂れて勝の姿は無い。
由里は窓のほうに向かい下を覗く。
はるか下に窓を拭く人影が見える。
由里は口元をほころばせて席に戻る。
× × ×
由里が画面を見つめキーを叩く。
宮下が仏頂面で立っている。
宮下「おい、林崎君。アキツ電工の件、シカゴの弁護士に報告しちまったろう」
由里は顔色がひく。
由里「え、ええ……」
宮下「ばか。段取りミスったな!」
由里は顔面蒼白で俯く。
宮下の白い目線。
由里は眉をひそめ俯いている。
窓の外で勝が窓にモップをかけている。
由里がそれに気づく。
勝も由里のほうを見る。
由里は松下の肩越しに少し笑顔を送る。
宮下「ん?」
勝は由里に満面の笑みを返す。
由里ははにかんでとっさに顔を伏せる。勝は上に上がっていく。
窓ガラスには”ガンバレ”とモップで描いた文字から洗剤のしずくがたれる。

○同内部・女子トイレ
由里と便器清掃している女性清掃員が会話している。
清掃員「ああ、外の窓拭きは高所作業専門にやってる会社ですよ」
由里「……ありがとうございます」
由里は頭を下げ出て行こうとする。
清掃員「住む世界違うから。しょせんあの人達は夢追ってるだけのフリーター」
由里「え?」
由里が振り返ると清掃員は作業に夢中。

○公園(夕)
由里と勝が歩いている。
由里「さっきはありがとうございます。元気出ました。これ渡しそびれたんですけど」
まぶしそうな顔で洗ったタオルとギフト封筒を渡す。
勝「あ、どうも。さっき社内会社で叱られてヘコんでたんですよね?」
由里「バレました?ホントうるさい上司で」
× × ×
勝「俺、海外協力隊で働いてたいんで、日本ではフリーターしてしのいでるんですよ」
由里「NGOとかですか。偉いな……」
勝「偉くなんかないすよ」
由里「私なんか司法試験すぐに挫折しちゃったから就職に走っちゃいました」
勝「そのほうがいいです。夢や自由の代償は大きいですよ」
由里「そんなことないです。夢捨てたら人生とは言えない。ただ生きてるだけですよ」
勝「……それはともかく、こんないい物いただいちゃってすいません」
勝はギフトの封筒を眺める。
由里「いえ、ただのハンカチなんですよ」
勝は封筒を鼻に近づける。
勝「いい香り。大事に使います」
由里「え、と……少し待ってて下さい」
由里は公衆トイレへ向かう。
勝のそばで子供たちがはしゃいでる。
 × × ×
トイレから戻ってくる由里。
すました顔の勝。
由里「なんですか?」
勝「あ、別に」
前から子供連れの母親がやってくる。子供の足にはハンカチが巻かれている。
由里はびっくりして足のハンカチを見る。
由里「あ……あれは……」
勝「しまった……」
母親「大切な物、ありがとうございました」
子供「お兄ちゃんありがとう」
勝「ついさっき、この子が転んで足すりむいてたから、もらったハンカチを……その」
親子が立ち去る。
由里が微笑み勝を見つめる。
勝(涙ぐむ)「アフガンに行ってたとき……地雷ふんで片足が無かった子供がいたんです。なのにその子は俺のために1キロ近くも歩いて水をくんできてくれた……」
由里「そうだったんですか……私なんて自分のことばかり考えて今まで生きてきた」
勝「実は年内にまたアフガン行くんです」
由里が寂しげな顔で勝を見つめ返す。
由里「ねえ?怖くないの?政情の安定しない国へ行って」
勝「尊大かもしれないけどこんな自分でも大きな役に立つことがあるんです……」
由里は勝の前に立ち背を向ける。
由里「一人の女の役にも立ってみたいと思いません……?」
由里は振り返り勝と見つめ合う。

○空港ロビー・国際線カウンター前
T”数ヶ月後”
由里と大きなザックを背負う勝。
勝「もう時間だろ。そろそろ行かないとロースクールに遅れるぜ。未来の先生」
由里「わかってるよ。’隊長殿’。ご無事で」
勝「隊長? 誰が」
一瞬の沈黙後、二人は互いに吹き出す。
由里はタオルを勝の首にかけるとその端を自分の首の後で結んで接吻する。了

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