運命のコイン投げ コメディ

地球に住むお父さん、お母さん、ジュン、ミサ、タク、リコの一家6人が宇宙ツアーに参加し、ホームステイしながらいろいろな星の生活を見て回ります。地球では考えられないような文化や習慣・自然環境があり、驚きの毎日を過ごしながら家族が成長していきます。宇宙を旅するが宇宙SF小説とは違う異色ホームドラマ。アニメならば約10分、1話完結の物語。
トナミKK 26 0 0 03/06
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第一稿

この話は、二見新書『大爆笑ネタ772連発 みんなを笑わせるポケット・ジョーク』に載っているコラムを物語化したものです。この文庫本の著者は私自身ですので、盗作にはあたりません。また、 ...続きを読む
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この話は、二見新書『大爆笑ネタ772連発 みんなを笑わせるポケット・ジョーク』に載っているコラムを物語化したものです。この文庫本の著者は私自身ですので、盗作にはあたりません。また、コイン投げの装置が出てくる有名な話があったように思いますが、思い出せません。その話とはストーリー展開も装置の役割もまったく異なるはずですので、問題ないと判断して投稿しました。


【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー


○空港の出口

上りの階段とエスカレーターが並んでいる。
地球家族6人が階段を上ろうとするが、タクだけ、エスカレーターの列に並ぶ。
ミサ「あれ、タク。どうした、元気ないの?」
タク「疲れたよ。一人だけでもエスカレーターにする」
ジュン「しょうがないな」

○エスカレーター

タクがエスカレーターで上っていると、後ろで女性2人の話し声がする。
タク、耳をそばだてている。
女性1「お昼、何食べようか」
女性2「スパゲティがいいかな」
女性1「カレーもいいね」
女性2「どっちにしようか?」
女性1「じゃ、コイン投げで」
女性2「コイン、家に置いてきちゃった」
女性1「私も」
女性2「じゃ、どうする?」
女性1「何か、コインの代わりになるものは・・・」
女性2「じゃ、こうしよう。私たちの前に、男の子が立ってるじゃない」
女性1「うん」
女性2「男の子がエスカレーターを降りるときに、右足から降りたらスパゲティ。左足から降りたらカレー」
女性1「いいね。そうしよう」
タク「(心の中で)え、なんで僕が。責任重大だよ。どうしよう・・・」
タク、振り返り、女性2人を見るが、すぐまた前を向きなおす。
タク「スパゲティ、カレー、スパゲティ、カレー・・・」
タク、頭の中が混乱する。
タク「両足同時に降りるか。そしたら、カレースパゲティ? いや、そんなものがこの星にあるかな。待てよ。カレーのほうが、カロリーが高いんじゃないか。2人の健康を考えたら、スパゲティにしてあげるほうが親切だろうな。よし、スパゲティだ!」
エスカレーターの終わりに近づく。
タク、右足を踏み出す。
女性の声「あ、スパゲティだ!」
タク、後ろを振り向かずに走り出し、地球家族5人のもとに向かう。
タク「あー、疲れたよー」
ミサ「タク、何言ってんの。エスカレーターに乗って疲れたって、どういうこと?」
タク「だってさ」

○道

地球家族6人が歩いている。
ミサ「ハハハ、優柔不断なタクが、最後に一つに決めることができたのはえらかったわ」
タク「でも、自分のことじゃないから、余計にプレッシャーで」
ジュン「コイン投げの代わりというのが、気になるな。確かにエスカレーターに乗りながらコインを投げるのは難しいだろうけど、コイン1枚くらいは持っていただろうに」
父「見なさい。きっと、あのことじゃないか」
父が指さす先には、片手に乗るくらいの箱を手に持った人。
透明なプラスチックでできた箱で、底の部分は木の板になっており、ねじでつながっている。中にコインが1枚入っている。
周りを見ると、同じものを手に乗せている人がおおぜいいる。
地球家族の注目の先に一人の女性。
女性「表が出れば、まっすぐ帰る。裏が出たら、買い物して帰る」
女性、箱についている黒いボタンを押す。底板に振動が発生し、コインが跳ね上がる。コインが5秒ほど回転し、星のマークが見える向きに倒れる。
女性「表だわ。まっすぐ帰ろう」
それを見ている地球家族。
タク「星のマークがついているほうが、コインの表ということか」
次に、一人の男性が目に入る。
男性「バスで帰ろうかな。それとも歩いて帰ろうかな。表ならバス、裏なら歩き。えいっ!」
男性、箱についている黒いボタンを押す。底板に振動が発生し、コインが跳ね上がる。コインが5秒ほど回転し、何も描かれていない向きに倒れる。
男性「裏だ、うん、歩きだ。歩いて帰ろう」
それを見ている地球家族。
ミサ「何も描かれてないほうが、コインの裏ということね」
地球家族6人が様子を見守る。
母「みんな、何かを決めるときは、コインを投げるのね」
ジュン「あの箱があれば、外でもコインが遠くに飛んで行ってしまわないね。便利だな」

○ホストハウスの玄関

地球家族6人が到着。
リコがドアを開ける。
リコ「おじゃまします」

○居間

HFと地球家族6人。
HF「ようこそ、いらっしゃいました」
母「お世話になります。奥様は?」
HF「急に、友人に誘われて、登山に出かけましたよ。私一人でお世話させていただきます」
テーブルの上には、コイン投げの箱が置いてある。
ミサ「あ、ここにもあった」
HF「あ、はい。何を決めるのにも、これが欠かせません」
HFが箱を手に取る。
父「ずいぶん古いように見えますね」
HF「はい、子供のころから、50年使い続けています」
タク「50年?」
HF「思い起こせば、高校進学、大学進学、就職、結婚。人生の大イベントでも、これを使って決めてきました」
ジュン「いいんですか? そんな大事な決め事に、コインなんか使って・・・」
HF「人生、何よりも肝心なのは、決断のスピードです。考え込んでいたって仕方ありません。優柔不断では、人生損をするばかりです」
地球家族「・・・」
HF「私はこれのおかげで、てきぱきと物事を進めることができ、そして成功をおさめてきました。一代で相当な財産をきずくことができたのも、これのおかげだと思っています」
父「立派なおうちですからね」
地球家族、家の中を見渡す。豪華な部屋である。
HF「さあ、食事はどうしましょうか。向かいの高級ホテルのディナー・フルコースにご案内することもできます。胃が重いようでしたら、スーパーで買ってきたものにしてもいいですけど」
父「あ、そうですね。(母に、小声で)どうする? 高級ホテル、せっかくだから」
母「(父に、小声で)わが家は人数が多いから、なんだか悪いわ。でも、お金持ちそうだし・・・」
HF「迷っていらっしゃるようでしたら、私がこれで決めましょう」
HF、箱を手に取る。
HF「もちろん、人生の節目の大イベントばかりでなく、こうやって日常的に何かを決めるときも、いつもコインを投げます。さあ、表が出ればホテルのディナー、裏ならばスーパーのおそうざい・・・」
HF、ボタンを押す。底板に振動が発生し、コインが跳ね上がる。
地球家族、ドキドキしながら眺める。
コインが5秒ほど回転し、裏向きに倒れる。
HF「裏だ。スーパーで買って来ましょう」
地球家族、残念そうな顔をする。
HF「それと、みなさん、どこで寝ますか? ホテルの最高クラスの寝室を予約することもできますよ。もちろん、この家も広いですから、6人寝ることもできます」
父「(母に、小声で)どうする? せっかくだから」
母「(父に、小声で)どうしましょう」
HF「じゃあ、同じように私がこれで決めましょう」
HF、箱を手に取る。
HF「さあ、表が出ればホテルのスイートルーム、裏ならばわが家・・・」
HF、ボタンを押す。底板に振動が発生し、コインが跳ね上がる。
地球家族、ドキドキしながら眺める。
コインが5秒ほど回転し、裏向きに倒れる。
HF「わが家に泊まってください」
地球家族、残念そうな顔をする。

○翌朝早く、客間

外が明るくなっている。
地球家族6人、目覚めている。
ジュンがコインの箱を持って部屋に入る。
ミサがコインの箱を指さす。
ミサ「ジュン、それって、HFさんのじゃないの?」
ジュン「うん、これのカラクリが気になって、ちょっと拝借してきちゃった。中に何か魔法のようなしかけがあるのか、確かめたくて」
ジュン、右手にドライバーを持っており、箱のねじをゆるめようとする。
母「ちょっと待って、ジュン。それはHFさんが子どもの頃から大事にしているものでしょう」
ミサ「そうよ。いくらジュンが機械に強いからと言っても・・・」
ジュン「ねじを取り外して、中を見たらまた元に戻すだけなんだから、こんなの機械いじりのうちに入らないよ」
ジュン、ドライバーでねじをゆるめる。コインの箱は、透明のプラスチック部分と木の板の部分に分かれる。
ミサ「うーん、でもHFさん、よく貸してくれたわね」
ジュン「あ、HFさんはまだ寝てたから、後で返しておけばいいかと思って・・・」
父「だまって持ってきたのかい? まずいよ」
ジュン「中を見たら、すぐに戻しておくよ」
ジュン、木の板の裏をのぞき込む。
ジュン「あれ?」
全員、のぞき込む。
ジュン「なんのしかけもないや。ボタンを押すと、コインがはじかれる。ただそれだけだ」
ミサ「どうして、このコインで運命の選択をして、これまで成功してきたんだろう・・・」
ジュン「何も無いことだけは確かだ。元に戻そう」
ジュン、ドライバーでねじをしめる。
ジュン「これで、大丈夫だろう」
ジュン、箱の黒いボタンを押す。
コインが2秒ほど回転し、裏向きに倒れる。
ジュン「あれ?」
ミサ「コインが倒れるのが、今までより早いんじゃない?」
ジュン「うそだろ」
ジュン、箱の黒いボタンを押す。
コインが2秒ほど回転し、表向きに倒れる。
ジュン「やっぱり、すぐに結果が出るようになっちゃった」
母「今までは5秒。今は2秒ってとこかしら」
ミサ「どうするのよ」
ジュン「おかしいな。元通りにしたはずなのに」
父「まあ、コイン投げができることに変わりはないから、正直に話せば許してもらえるかもしれない」
ジュン「うん。HFさんが起きたら、謝るよ」
ジュン、立ち上がる。

○居間

地球家族6人が立っている。
HFが入ってくる。
HF「おはようございます」
ジュン「おはようございます」
ジュン、コインの箱を手に持っている。
ジュン「あのー、このコインのことなんですけど」
その時、電話のベルが鳴りだす。
HF「あ、ちょっと待ってくれるかな。なんだろう。こんなに朝早く」
HF、電話をとる。
HF「もしもし。はい。え、本当ですか? はい、はい、すぐにそちらに行きます!」
HF、険しい表情で、電話を切る。
HF「大変だ。妻が山で大怪我をして病院に運ばれた!」
地球家族6人、驚く。
HF「今すぐ病院に行かなければ。みなさんに留守番をお願いするわけにはいかないので、一緒に来ていただけませんか」
父「はい、わかりました」
HF「かばんに、財布に・・・」
HF、ジュンが持っているコインの箱を見る。
HF「これも」
HF、ジュンから箱を奪い取る。

○病院の廊下

HFと地球家族6人が、医者の話を聞いている。
医者「奥様の足は重傷です。今すぐ手術をしないと、一生治らないかもしれません」
HF「手術をすれば、治るのですね?」
医者「きっと治ります。ただ、手術代はかなり高額になります」
医者、HFに紙を見せる。
医者「この金額になるのですが、どうなさいますか? 今すぐの決断が必要です」
HF「・・・」
ジュン「(心の中で)そりゃ、手術するに決まってるだろう・・・」
ミサ「(心の中で)HFさんがお金持ちでよかった・・・」
HF、ポケットからコインの箱を取り出す。
地球家族、それを見て驚く。
HF「表が出れば手術、裏が出ればやめておく・・・」
ジュン「え、どうして!」
ミサ「コインで決めるの? うそでしょ!」
医者「病院内はお静かにお願いします」
HF、黒いボタンを押す。
コインが2秒ほど回転し、すぐに倒れる。
HF、目を見開いて驚く。
HF「あれ?」
ジュン「(心の中で)まずい・・・」
コインは裏である。
ミサ「裏だ・・・」
タク「手術しない・・・」
HF「・・・」
HF、黙ってコインを見つめている。
HF「先生、お願いします」
HF、医者を見る。
HF「手術、すぐに始めてください」
医者「わかりました」
地球家族6人、驚きの表情。

○手術室の前

手術室のランプが光っている。HFと地球家族6人が座っている。
ジュン「(HFに)あのー、コインのことですけど」
HF、コインの箱を見せる。
HF「これのことかな?」
ジュン「すみませんでした。壊したのは、僕なんです」
HF「壊した?」
ジュン「今まで、5秒くらいコインが回転していましたよね。今は2秒くらいで止まってしまいます」
HF「そうか、君だったのか」
ジュン「本当に申し訳ないことをしてしまいました。中身がどうなっているのか気になって分解したら、なぜかもとに戻らなくて・・・」
HF「いや、お礼を言いたい。どうもありがとう」
ジュン「え?」
HF「あの5秒間が長くてしかたがなかったんだ。1秒でも早く決断したいのに。この箱を作った人の、単なる演出効果だったんだよ」
ジュン「そうだったんですか」
ミサ「じゃあ、どうしてさっきは、コインに従わなかったんですか? 裏が出れば、手術はやめておくはずなのに」
HF「言っていなかったかな? いつもコインに従うわけではない。従わなかったことも数えきれないくらいあるよ」
HF、コインの箱をひっくり返して、底に貼ってあるラベルを見せる。
HF「ここに、コイン投げのルールが書いてある」
ジュン「あ、そんなところに注意書きが。気づきませんでした」
HF「『コイン投げの結果に必ず従うべし』とは書いていない。こう書いてあるんだ。『何事も、迷ったときは、コインを投げるべし。コインの結果を見て、何の不安もなければ、その結果に従うべし。少しでも未練があれば、逆のほうを選択すべし』」
地球家族6人「・・・」
HF「どうですか? コイン投げを使えば、すぐに決断できる理由がおわかりになったでしょう」
地球家族6人「・・・」
HF「私が財産を築き上げて幸せをつかむことができたのは、そのつど人生の選択が正しかったからなのか? それは誰にもわかりません。逆を選んでいたら、もっと良い結果になっていたかもしれません。ただ、一つだけ確かなことは、長い時間迷わずに、何事もすぐに決断することによって、気持ちが前向きになり、運がめぐって来るということでしょう。それも、このコイン投げのおかげなのです」
ジュン「よくわかりました」
ミサ「私たちが誤解していました。きのうは、全部コインの決定に従っていたので、必ず従うものだと・・・」
HF「あー、きのうは、小さな迷い事ばかりでしたからね。わざわざコインに逆らうほどのことじゃないでしょう」
地球家族6人「・・・」
HF「みなさんがどんな食事をしようと、どっちでもいいじゃないですか。みなさんがどこで寝ようと、どっちでもいいじゃないですか。ハハハ」
地球家族6人、苦笑い。
その時、手術室のランプが消える。
医者が出てくる。
医者「手術、成功しました」
HF、笑顔になる。地球家族6人も笑顔。

○空港の入口

地球家族6人が歩いている。
ジュン「コイン投げのルールには、納得できたよ」
ミサ「そうだね。最後の『どっちでもいいじゃないですか』には、ちょっとカチンと来たけどね」
母「でも、おおいに時間をかけて迷ったほうがいい時もあると思うけどね」
父「タクは優柔不断すぎるから、あの箱、1個買っておいたほうが良かったんじゃないか? あれ、タクはどこ行った?」
タクの姿が見えない。
目の前に、長い下りの階段がある。
タクが横の下りエスカレーターに乗ろうとしている。
ミサ「なんだ、タクはまたエスカレーターか」

○下りエスカレーター

タクが乗っている。後ろで女性2人の会話が聞こえる。
女性1「今日のお昼ご飯は何にする?」
女性2「また、前の子に決めてもらう?」
タク、驚いて振り向く。
タク「え?」
女性2「あれ? きのうと同じ男の子?」
タク「はい。きのうはスパゲティ食べたんですよね?」
女性1「あ、スパゲティって決めてくれたけど、どうしてもカレーが食べたくて、カレーにしちゃった」
タク、ずっこけるポーズ。

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