デスマッチ ミステリー

世の中に数多とあるマッチングアプリ。その中の一つ「デスマッチ」に登録する女子大生・美林桜(20)。「希望の殺し方」の欄に「絞殺」と記して……。 一方、埼玉県警の国館士(45)は、女子大生の絞殺体が発見された事件の捜査をしていた。
マヤマ 山本 3 0 0 03/02
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第一稿

<登場人物>
美林 桜(20)女子大生
国館 士(45)埼玉県警の刑事
天堂 順(25)大学院生、学生起業家
穂高 千(20)桜の友人、故人
蔵野 武(30)国館の後輩刑 ...続きを読む
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<登場人物>
美林 桜(20)女子大生
国館 士(45)埼玉県警の刑事
天堂 順(25)大学院生、学生起業家
穂高 千(20)桜の友人、故人
蔵野 武(30)国館の後輩刑事
稲田 早(25)連続殺人犯
川奈 神(35)国館子飼いのハッカー
西城 (20)桜の同級生
武上 (50)警視庁の刑事

住民
巡査
鑑識係
男A~D
女A~D
高校生A、B



<本編> 
○町
   様々なカップルのインタビュー映像。
   T「Q.出会ったきっかけは?」
女A「マッチングアプリです」
    ×     ×     ×
男A「マッチングアプリです」
    ×     ×     ×
男B&女B「マッチングアプリで~す」
    ×     ×     ×
女C「最初から話が合うし、凄くいいと思う」
    ×     ×     ×
男C「おかげで、初めての彼女ができました」
    ×     ×     ×
男D&女D「マッチングアプリ、最高!」

○美林家・外観(夜)
   一戸建て。

○同・桜の部屋(夜)
   六畳ほどの部屋。
   ベッドに寝転がりながら、スマホを操作する美林桜(20)。マッチングアプリ・デスマッチの登録作業中。名前の欄に「美林 桜」、年齢の欄に「20」、職業の欄に「学生」等と記載される個人情報。希望の殺し方の欄では「絞殺」を選択する。最後に「完了」のボタンを押す前、写真立てに目をやる桜。そこには桜と穂高千(20)のツーショット写真。
桜「千ちゃん……」
   意を決し、完了ボタンを押す桜。登録完了の画面が出た後、トップページに飛び「デスマッチ」の文字が出る。

○メインタイトル『デスマッチ』

○林A・外観
   警察車両が多数停まっており、規制線も張られている。
国館の声「首にはロープで絞められた跡」

○同・中
   多くの捜査官が動き回っている。
   木の下にある千の遺体を見下ろす国館士(45)と蔵野武(30)。
国館「そして頭上の木の枝にも同じサイズのロープが括りつけられていたような跡」
   周囲を見回す国館と蔵野。
国館「しかし、肝心のロープや踏み台は見つからず、足跡も一つではない」
蔵野「という事は?」
国館「解剖結果を待たないと言い切れないが、殺人事件だろうな」
蔵野「よしっ。バチクソ上がってきた~」
国館「蔵野。散々言い尽くした事だが、喜ぶのは止めろ」
蔵野「すんません。でも自分、殺人事件の捜査をするために刑事目指したようなもんなんで。国館さんだってそうでしょ?」
国館「一緒にするな。困り果てた奴め」
   歩き出す国館。
蔵野「え、どこ行くんですか?」
国館「まずは被害者の身元を洗いざらい調べ尽くす。行くぞ」

○大学・外観

○同・部室
   国館、蔵野の元に集まる桜、西城(20)ら学生達。
西城「え、穂高が?」
国館「今朝、遺体で見つかりました」
   絶句する学生達。
蔵野「今我々は、殺人事件として捜査しています。何か穂高千さんとトラブルになっていた人、ご存知ありませんか?」
   顔を見合わせる学生達。
国館「ではどなたか、穂高さんと仲の良かった人は?」
西城「それなら……」
   全員の視線が桜に集中する。
国館「お名前は?」
桜「美林桜です。千ちゃんとは幼馴染で、親友です」
蔵野「(小声で)バチクソかわいい……」
国館「(蔵野を小突き)どんな些細な事でも構いません。知っている事があれば教えていただけませんか?」
桜「……いえ、特に何も」
国館「……そうですか」
西城「あっ」
蔵野「何か?」
西城「いや、ウチのサークルに、天堂順さんって先輩が居るんですけど」
   ざわつく学生達。
国館「その天堂さんが、何か?」
西城「女癖の悪い人で、最近だと穂高に手ぇ出してたとか……」
蔵野「その天堂さんは、今どちらに?」
桜「学生起業家なので、あまり大学には……」
蔵野「そうですか。なら……」
天堂の声「が、しかし、けれども、But、However」
   振り返る一同。そこにやってくる天堂順(25)。
天堂「来てるんだな、これが」
西城「天堂さん。珍しいですね」
天堂「まぁね。で、コチラの方々は?」
   警察手帳を見せる国館と蔵野。
国館「埼玉県警の国館です」
蔵野「蔵野です。えっと、貴方が……」
天堂「噂の、天堂順です」

○同・研究室・前
天堂の声「何もない所ですが、どうぞ」

○同・同・中
   向かい合って座る国館、蔵野と天堂。
天堂「で、お話とは?」
国館「穂高千さんの件は、もうご存知で?」
天堂「胸を痛めています」
蔵野「穂高さんとの関係は?」
天堂「遊び相手ですね」
国館「真剣な交際ではなかった、と」
天堂「ですね。が、しかし、けれども、But、However。それは彼女も了承済み、そういう関係でした」
蔵野「男女の関係ではあった?」
天堂「他の遊び方があったら、ご教授願いたいですね」
国館「でも、彼女は貴方の望む距離感を守り切ってはくれなかった。違いますか?」
天堂「(笑って)確かに。いつしか恋人を気取ってくるようになりましたよ」
蔵野「それで?」
天堂「別れましたよ。当然でしょう? 僕はただ、遊びたいだけなんですから」
国館「その際、揉めませんでした?」
天堂「納得してくれたかはわかりませんが」
国館「議論は尽くした、と?」
天堂「そう自負してます」
蔵野「本当は一向に納得してもらえず、揉めに揉めていたんじゃないのか?」
天堂「で、殺した?」
蔵野「どうなんだ?」
天堂「僕が殺された側だとしたら、納得しそうな理論ですね」
蔵野「……。ちなみに、昨夜の一一時から一時の間、どこに居た?」
天堂「へぇ。本当に、怪しくない人間にもアリバイって聞くんですね」
蔵野「いいから、答えろ」
天堂「一〇時半過ぎから五時くらいまで、駅前の雀荘でポン・チー・ロンしてました。後輩達に聞いてもらえれば、わかるかと」
蔵野「(国館に)すぐ裏取りに行きますか?」
国館「その前に、もう一つ」
天堂「何でしょう?」
国館「学生起業家という事ですが、どういう会社か、お聞きしても?」
天堂「マッチングアプリ、ってわかります?」
蔵野「(国館に)趣味とかを登録する事で、男女の出会いを手助けするアプリです」
国館「お前、俺の事舐め切ってるだろ?」
蔵野「だって国館さん、ガラケーだし」
国館「フューチャーフォンな。(天堂に)しかし今どき『マッチングアプリ』だけでは、世の中勝ち切れないのでは?」
天堂「おっしゃる通りです。が、しかし、けれども、But、However。我が社のアプリは『男女』をマッチングさせるものではないので」
国館「というと?」
天堂「例えば『フリーランスのITエンジニアと開発案件』、『長期休暇中だけアルバイトをしたい学生と雇いたい企業』、『作詞家と作曲家』『フットサルチーム』『お笑いコンビ』。他、等、and so on、etc.、etc.」
国館「なるほど。一口に『マッチングアプリ』と言っても、多種多様。一緒くたにはしきれない、という事ですね」
天堂「この分野には、まだまだ金脈が残っていますよ」
国館「それを掘り尽くそうと?」
天堂「もちろん」
国館「なるほど。野望を成し遂げられる事、お祈りします。では」
   席を立つ天堂と蔵野。
蔵野の声「あの男、バチクソ怪しいですよね」

○同・廊下
   並んで歩く国館と蔵野。
国館「何故そう思い込む?」
蔵野「だって、仮にも、自分と関係を持った女性が殺されたっていうのに、あの態度ですよ?」
国館「なら、調べ尽くせばいい。それが俺達の仕事だ」
蔵野「じゃあ、まずはアリバイ確認、成立したとしても、その穴を見つけてトリックを見破って……く~、コレコレ」
国館「だから……」
蔵野「わかってますよ。じゃあ自分、車回してきますね」
   駆け出していく蔵野。
   立ち止まる国館。
国館「隠し事をするのは勝手だが、隠し通すのは大変だぞ? 覚悟しとけ」
   再び歩き出す国館。
   物陰から姿を見せる桜。
桜「……」

○美林家・外観(夜)
桜の声「ただいま」

○同・桜の部屋(夜)
   ベッドに倒れ込む桜。
桜「ふ~……」
   おもむろに起き上がり、スマホを操作する桜。デスマッチのアプリを起動し、数件届いているメッセージ(「僕も是非殺したいです」「撲殺ではダメですか?」「美しく殺せる自信があります」等)に目を通す。
桜「(ため息交じりに)何か違うな……」
   デスマッチを終了し、ニュースを閲覧するアプリを起動する桜。検索ワードに「埼玉 女子大生 殺人」と入力すると「連続殺人の可能性浮上」という見出しを見つける。
桜「連続殺人……?」

○埼玉県警・外観(夜)
国館の声「そういう事だ」

○同・会議室(夜)
   ホワイトボードの前に立つ国館と蔵野。
国館「警視庁と千葉県警から連絡があった。手口が同一の事件がこの一か月以内に一件ずつ起きている、と」

○(フラッシュ)それぞれの事件現場
   サワ ウララ(30)、ハシ ハジメ(55)の遺体。
国館の声「まずは一か月前、千葉県内で事務員の女性『サワ ウララ』三〇歳の、二週間前に東京都内で工場経営の『ハシ ハジメ』五五歳の、ともに絞殺体が発見されている。そして、今回の穂高千」

○埼玉県警・会議室(夜)
   ホワイトボードの前に立つ国館と蔵野。
国館「もちろん、コレだけで連続殺人とは言い切れないが、念頭に入れて捜査する必要はあるな」
蔵野「振り出しですか。(嬉しそうに)いや~、バチクソ困りましたね」
国館「本当に困り果てた奴の顔じゃないぞ?」
蔵野「困ってるのは本当ですよ。天堂のアリバイも立証されちゃいましたし」
国館「とりあえず、まずは被害者の共通点を探し尽くすぞ」

○大学・外観
西城の声「先月と先々週?」

○同・部室
   桜、西城らの前に立つ蔵野。
西城「刑事さん、穂高の事件調べてるんじゃなかったんですか?」
蔵野「まぁ、色々ありまして」
西城「どうだったかな~。ちょっと調べてみますね」
   散り散りになる学生達。蔵野に歩み寄る桜。
桜「あの……」
蔵野「はい」
桜「ニュース、観ました。連続殺人って」
蔵野「まぁ、その可能性も含めて捜査中、ですかね?」
桜「そうですか……。ところで、この間いたもう一人の刑事さんは?」
蔵野「あ~……さっきまでいたんですけど、今は別行動中というか……」
桜「そうですか。ちょうど良かった」
蔵野「え?」
桜「(蔵野にささやくように)あの、折り入ってお願いが……」

○マンション・外観
天堂の声「すみませんね、こんな部屋で」

○同・天堂の会社
   自宅兼会社。
   向き合って座る国館と天堂。
天堂「会社とは名ばかりなもので」
国館「いえいえ、お構いなく」
天堂「それにしても、よくココがわかりましたね」
国館「拝み倒して聞き出しました、大学から」
天堂「今日の要件はさしずめ、他の二つの事件時のアリバイ、でしょうか?」
国館「さすが、話が早い。ですが、それだけとも言い切れなくてですね」
天堂「というと?」
国館「美林桜さんとのご関係は?」
天堂「ただの先輩後輩、ですね」
国館「しかし、美林さんはかなりの美人とお見受けします。天堂さんの性格からして、何もしないとは思い込めません」
天堂「確かに、声はかけました。が、しかし、けれども、But、However。取りつく島もありませんでしたよ。まぁ、良くあることです」
国館「そうでしたか」
天堂「しかし、何故美林の話を? 今度は彼女を疑っているんですか?」
国館「我々は、あらゆる可能性を調べ尽くしているだけです」
天堂「つまり、僕が犯人である可能性もまだ捨てきれてはいない?」
国館「さぁ、どうでしょう?」

○林A・前
   住民に天堂の写真を見せる国館と蔵野。
住民「う~ん……見てねぇな」
国館「そうですか」
蔵野「やっぱりバチクソ疑ってんじゃないですか」
国館「可能性が捨てきれない以上はな。でも事件があった日、(千の写真を見せ)この女性は見たんですよね」
住民「あぁ。見た見た。もう一人居た。……あ~、そういえば女の人だったかもな」
蔵野「女?」
国館「それは、この人ですか?」
   桜の写真を見せる国館。
蔵野「ちょっ、国館さん……」
住民「いや……違うな」
国館「そうですか」
蔵野「そうですよ、国館さん。桜ちゃんな訳ないじゃないですか」
国館「桜『ちゃん』?」
蔵野「いや……別に。続けて下さい」
国館「それでは、この人では?」
   稲田早(25)の写真を見せる国館。ただし防犯カメラの映像から切り取ったものの為、画質は荒い。
蔵野「え、誰?」
住民「あ~……っぽいかも」
国館「そうですか。ありがとうございます」
蔵野「え、この女、誰?」

○埼玉県警・外観
国館の声「東京の事件と千葉の事件」

○同・会議室
   複数の早の写真を見ている国館と蔵野。
国館「その両方の事件当日、現場付近でこの女が目撃されている」
蔵野「バチクソ初耳なんですけど」
国館「メールに書いてあったぞ。隅々まで読み通せ」
蔵野「って事は決まりですね。この女が犯人で」
国館「何故そう思い込む?」
蔵野「だって……え、違うんですか?」
国館「少なくとも、二人目の被害者は中年男性だ。女一人で首にロープをくくり、木の枝を通し、吊り上げるなんて荒業、不可能だと言い切れる」
蔵野「じゃあ、他に共犯者が……」
国館「どの現場も、残っていたゲソコンは、被害者のものを除くと一つだけ。犯行自体は単独だ」
蔵野「じゃあ、この女は無関係ですね」
国館「何故そう思い込む?」
蔵野「え~。何、どっち? 自分、頭バチクソおかしくなってきた……」
国館「この事件が連続殺人で、未だに共通点が見つからない以上、この女がカギを握っている可能性は高い。この女と、被害者三人の関係性を調べ尽くすぞ」
蔵野「でも、どうやって?」
国館「少しは考え抜け。手ならある」

○同・鑑識課・前
   「鑑識課」と書かれた表札。

○同・同・中
   多くの職員が鑑識作業を行っている。
   そこにやってくる国館と蔵野。一人の鑑識係を捕まえる。
国館「よう。何かわかったか?」
鑑識係「あ、国館さん。残念ながら」
国館「本当に調べ尽くしてんのか?」
鑑識係「ひどいな~。やってますよ」
   机の上に並べられた、スマホなどの千の遺留品の前にやってくる国館、蔵野、鑑識係。
国館「あの謎の女、あるいは他の被害者。何か一つくらい繋がり見えないのか?」
鑑識係「今のところは。警視庁と千葉県警の鑑識からも特にコレといった情報は……」
国館「その警視庁と千葉県警からのメール、俺にも見せろ。見落としがないか、俺が隅々まで読み通す」
   と言ってパソコンの方に歩いていく国館とそれを追う鑑識係。
鑑識係「ちょっと、勝手に動き回らないでくださいよ~」
   誰もいなくなった隙を狙い、遺留品のスマホを持ち出す蔵野。
蔵野の声「あの、大丈夫なんですか?」

○路地裏(夜)
   並んで歩く国館と蔵野。国館の手には遺留品のスマホ。
蔵野「バレたら、バチクソ怒られるんじゃ……?」
国館「怒られる、なんて生易しいもんじゃないだろ。怒鳴り倒され、処分の限りを尽くされる」
蔵野「え~」
国館「だから、隠し通す。覚悟決めろ」
蔵野「……はい。で、そのスマホ、一体どうするんですか? 国館さん、スマホ使えないですよね?」
国館「使えない事は無い。使いこなせないだけだ」
蔵野「(小声で)一緒じゃん」
国館「言いたいことがあるなら、言い切れ」
蔵野「いえ、何でもないです」
国館「それから、コレは俺が使いこなすんじゃない。俺のペットだ」

○川奈の隠れ家・前(夜)
   ドアの前に立つ国館と蔵野。ドアをノックする国館。
川奈の声「はい……」
   ドアを開ける川奈神(35)。国館の顔を見るなり驚き、慌ててドアを閉めようとするが、その隙間に靴の先をねじ込む国館。
国館「久しぶりだな。神(ゴッド)」
蔵野「ごっど? 誰?」
川奈「国館さん、何でココが……?」
国館「俺から逃げ切れるとでも思ったか?」
川奈「でも国館さん、僕はもう足洗って……」
国館「立ち話をしに来たんじゃない。邪魔するぞ」
川奈「ちょっと、待ってくださいよ……」
   強引に部屋の中に上がり込む国館とそれを追って中に入る川奈。
蔵野「えっと……お邪魔しまーす」

○同・中(夜)
   様々な機器が広くない室内に密集している。その中に居る国館、蔵野、川奈。
国館「何が『足洗った』だ。未練断ち切れてないじゃねぇか」
川奈「生きててすみません……」
蔵野「(思い出したように)あっ!」
国館「何だ、いきなり」
蔵野「バチクソ思い出したんですよ。この人、ちょい前に流行ってた『ハッキング系YouTuber』とかいう人ですよね?」
川奈「その呼び方は止めて下さい……」
蔵野「まだ生きてたんだ」
川奈「生きててすみません……」
国館「知り尽くしてんなら話は早い。おい、神。お前の手を借りたい」
川奈「お、お断りします」
国館「まぁ、そういうなよ神。俺とお前の仲じゃないか」
川奈「でも……」
国館「本当はウズウズしてんだろ? 俺が来てワクワクしてんだろ?」
川奈「だから、そんな事は……」
国館「ほれ」
   川奈に遺留品のスマホを見せる国館。
川奈「あ……」
   国館から奪い取るようにスマホを手にする川奈。すぐに傍の機器に繋ぎ、操作し始める。
蔵野「凄っ。バチクソ本物だ……」
川奈「(ハッとして)ち、違う。違うんです。僕はもう……あ~、生きててすみません」
国館「自分に素直になれ、神。心の底では、欲してたんだろ?」
川奈「……」
国館「(スマホを指し)コイツで遊び倒せ。じゃあ、またな」
   出ていく国館と蔵野。
   しばらく無言でスマホを凝視する川奈。やがて再び機器類に繋ぎ操作し始める。

○同・前(夜)
   ドアに耳を当て、中の様子に聞き耳を立てる蔵野とその脇に立つ国館。無言でうなずく蔵野。それを見て満足そうにその場を後にする国館。

○美林家・外観(夜)

○同・桜の部屋(夜)
   ベッドに腰掛け、スマホを操作する桜。デスマッチのアプリでメッセージを読んでいる。その中に「絞殺、経験豊富です。by首都圏で話題の連続殺人犯笑」というメッセージを見つける桜。
桜「コレ……」
   差出人のプロフィールを見る桜。「25歳」「女性」の文字。
桜「女性……」

○林B・外観(夜)
早の声「いいねぇ、苦しいねぇ」
   何かが地面に落ちる音。

○同・中(夜)
   アズマ ヒロシ(15)の遺体を見下ろす早。
早「いい顔だったよ。ご馳走様」
   遠くからやってくる巡査。
巡査「誰か居るのか?」
   その場を後にする早。
巡査「待ちなさい。まったく……(遺体に気付き)うわっ!?」

○同・同(朝)
   規制線が張られ、武上(50)ら多くの捜査員が捜査している。そこにやってくる国館と蔵野。
国館「失礼」
武上「誰だ? 部外者は立ち入り……」
   警察手帳を見せる国館と蔵野。
国館「埼玉県警の国館です」
蔵野「同じく、蔵野です」
武上「おっと、失礼。(警察手帳を見せ)以前メールでご連絡しました、警視庁の武上です。随分とお早い到着ですね。まだ例の連続殺人とは断定できていないのに」
国館「刑事の勘、というヤツですよ。で、断定できたんですか?」
武上「第一発見者はパトロール中の警察官でした。暗かったとはいえ、遺体の脇で例の、全ての現場で目撃された女によく似た女性を見た、と証言しています。そして、殺しの手口は同様」
国館「『まだ断言はできないが、おそらくそうであろうと睨んでいる』。そんな所でしょうか?」
武上「刑事の勘、というヤツです」
蔵野「となると、やっぱり例の女が犯人?」
武上「(答えず)気になるのは、東京で二度目の事件が起きた事、ですかね」
国館「確かに。てっきり全ての都道府県で事件を起こし遂げるつもりかと思ってましたが、これまでは偶然、別々の地域で事件を起こしていただけか。あるいは……」
武上「連続殺人である事が判明した以上、場所にこだわる必要が無くなったか」
国館「どちらにせよ、犯人は東京周辺に在住する可能性が高いですね」
蔵野「で、やっぱり例の女が犯人?」
国館「被害者の身元は?」
蔵野「バチクソ無視してません?」
武上「持っていた学生証によると、アズマ ヒロシ。一五歳。中学生ですね」
国館「男子中学生を相手に、女一人でこの殺し方。どう考え抜いても、不可能だ」
武上「同感です。第一発見者の警察官も、他に怪しい人物は見ていないと。そちらでは何か情報掴んでいませんか?」
国館「いえ、まだ。もし掴んだら、共有の限りを尽くしますよ」
   同時に鳴動する国館の携帯電話と蔵野のスマホ。
国館&蔵野「失礼」
   それぞれ携帯電話とスマホを確認する国館と蔵野。

○喫茶店・外観
蔵野の声「早速連絡もらえるなんて、バチクソ嬉しいよ」

○同・中
   向かい合って座る桜と蔵野。
蔵野「あ、もちろん奢るから。好きなもの食べて」
桜「ありがとうございます」
蔵野「……で、桜ちゃん。話って何?」
桜「あの、私……」
   桜と蔵野の近くの席で大声で話す男子高校生達。
高校生A「そういえば、知ってる? あの連続殺人事件」
高校生B「知ってる知ってる。マジ漫画みたいだよな」
高校生A「じゃあ、そろそろ名探偵登場?」
高校生B「どうも、明智小五郎です」
高校生A「え、そっち? 古くね?」
高校生B「うるせぇな。文句言うなら奢ってやんねぇぞ」
高校生A「ウソです、ごめんなさい~」
   と言いながら席を立つ男子高校生達。
蔵野「……バチクソ不謹慎なガキどもだな」
桜「いえ、いいんです。ちょうど、その話がしたかったので」
蔵野「どんな話?」
桜「……私、恐いんです」
蔵野「恐い?」
桜「千ちゃんは、連続殺人の被害者なんですよね? もしかして、次は私が殺されるんじゃないか、って……」
蔵野「何か心当たりが?」
   首を横に振る桜。
蔵野「じゃあ、大丈夫だよ。桜ちゃんが狙われる理由なんて……」
桜「じゃあ、千ちゃんが狙われた理由は何だったんですか?」
蔵野「それは……まだ捜査中で」
桜「それがわからないなら、私が狙われないとは言い切れないじゃないですか」
蔵野「まぁ、それはそうなんだけど……」
桜「犯人は男なんですか? 女なんですか?」
蔵野「え?」
桜「それだけでもわかれば、警戒のしようがある、というか……」
蔵野「そうか……(小声で)そういう事なら、いいよな」
桜「え?」
蔵野「あ、気にしないで。コレ、あくまでも機密事項だから他言無用ね」
桜「はい」
蔵野「犯人は女の可能性がある。だから、怪しい女を見つけたら、教えて。俺、桜ちゃんのためなら、すぐ駆けつけるから」
桜「その女の人って、何歳くらいですか?」
蔵野「画像は荒かったけど……多分、若い。桜ちゃんより、ちょい上くらいじゃん?」
桜「若い女……」
蔵野「ところで、この後どうする? ボディーガードがてら、一緒に映画でも……」
桜「(席を立ち)わかりました、ありがとうございます。気を付けます。では、ごちそうさまでした」
   店を出ていく桜。
蔵野「……あれ?」

○同・外
   スマホを操作する桜。デスマッチのアプリで「一度お会いしたいです」とメッセージを送る。
桜「来い」
   歩き出す桜。

○埼玉県警・外観

○同・会議室
   入ってくる蔵野。待ち構える国館。
国館「どこに行っていた?」
蔵野「いや……ちょっと昼食を」
国館「俺相手に隠し事か。墓場まで隠し通す覚悟があるんだろうな?」
蔵野「いや、その……。っていうか、国館さんだってどっか行ってたじゃないですか」
国館「神の所だ」
蔵野「何かわかったんですか?」
国館「お前には関係ない」
蔵野「バチクソ関係ありますよ」
国館「とにかく、話は後だ。行くぞ」
蔵野「行くって、どこに?」
国館「東京と千葉の被害者三人の周辺を調べ尽くす」
蔵野「それなら、警視庁と千葉県警の方に連絡すれば……」
国館「自分で調べた事じゃないと、信じきれないもんでな」
蔵野「はいはい」

○各地
   自宅や工場、学校などで聞き込みをする国館と蔵野。

○埼玉県警・外観(夜)

○同・会議室(夜)
   ホワイトボードに捜査情報を記入する蔵野と、ソレを見ている国館。
蔵野「こんなもんですかね」
国館「最初の被害者、サワ ウララ、三〇歳。妊娠六ヶ月」
蔵野「しかし相手の男性は既婚者。しかもそれを隠して被害者と関係を持っていた」
国館「騙された事への絶望。筆舌に尽くしがたいな」
蔵野「二人目の被害者、ハシ ハジメ」
国館「都内で工場を経営していたが、資金繰りに苦しみ抜き、多額の借金を抱え込むことになる」
蔵野「バチクソな額の生命保険をかけていて、それで借金をチャラにしたみたいです」
国館「四人目の被害者、アズマ ヒロシ」
蔵野「いじめを受け、中学は不登校」
国館「過去に何度か自殺を試みたが、いずれも未遂。死に切れなかったという訳か」
蔵野「そして三人目の被害者、穂高千も、男に遊ばれ、捨てられた。コレで何がわかったんですか?」
国館「全員、自殺に踏み切る理由はある」
蔵野「確かに。じゃあ今回の事件、全部自殺なんですか? それじゃあ、バチクソつまんないじゃないですか」
国館「何故そう思い込む?」
蔵野「出た。って事は、自殺じゃないって事ですか?」
国館「少なくとも全員、自殺に踏み切れない理由がある」
蔵野「踏み切れない理由?」
国館「サワ ウララは胎児を宿していた。ハシ ハジメは保険金を支払ってもらわなければならなかった。アズマ ヒロシは何度も自殺に失敗していた」
蔵野「確かに。え、じゃあ、どういう事?」
国館「つまり全員『誰かに殺されたい』人間、という事だ」
蔵野「それが被害者全員の共通点」
国館「同時に、殺し方の謎も解き明かせた。単独犯には難しいと思ったが、毎回、その場に共犯者が居合わせていたんだ。被害者という名の、な」
蔵野「被害者本人が、共犯者……。でも、そんな都合のいい人探し出すの、バチクソ難しくないですか?」
国館「それが、割と簡単にできる時代になり果てたらしい」
   遺留品のスマホを操作する国館。
蔵野「あ、それ、遺留品の……」
国館「神が遊び倒したおかげで、色々わかってな。コレだ」
   スマホの画面に表示された、デスマッチのアプリのアイコン。
蔵野「デスマッチ?」

○(回想)川奈の隠れ家・中
   向かい合う国館と川奈。国館の手には遺留品のスマホ。画面にはデスマッチのアプリのアイコン。
国館「何だ、このアプリは? 俺が読み通した捜査資料には載ってなかったぞ?」
川奈「それはそうですよ。アンインストールされていましたから。それも、自動的に」
国館「自動的に?」
   デスマッチのアプリを起動する国館。ログイン画面が表示される。
国館「おい、神。IDとパスワードは?」
川奈「このスマホの持ち主、穂高千さんでしたっけ? この人のアカウントは既に削除されていましたよ。おそらく、アンインストールと同時に、自動的に。このアプリ作った人、相当頭いい人ですよ」
国館「で、IDとパスワードは?」
川奈「国館さん、話聞いてます? 削除されたアカウントを復旧させるには、何重にも張り巡らされたセキュリティーの網を潜り抜ける必要が……」
国館「お前がどれだけ大変な思いをし尽くしたかは聞いてない。結果だけ教えろ」
川奈「……」
   遺留品のスマホを操作し、ログインする川奈。
国館「それでいい」
川奈「生きててすみません……」
   メッセージの受信箱を選択する国館。そこには「是非殺させて下さい」「撲殺ではダメですか?」「どのような殺害方法がいいか、一度会ってお話しませんか?」などのメッセージが並ぶ。
国館「コレは一体、何をするアプリなんだ?」
川奈「一種のマッチングアプリですね」
国館「マッチングアプリ?」
川奈「一般的には、趣味とかを登録する事で、男女の出会いを手助けするアプリで……」
国館「お前も、俺の事舐め切ってるのか?」
川奈「生きててすみません……」
国館「で、誰と誰を選び抜いてマッチングさせるつもりだ? このアプリは」
川奈「プロフィール、見てみて下さい」
   アプリ上に登録された千のプロフィールを見る国館。「殺されたい」の文字。
国館「コレは……」
川奈「『誰でもいいから殺したい人』と『殺されたい人』をマッチングさせるアプリみたいですね」
国館「殺されたい人……?」
川奈「僕は気持ちわかりますけどね。自殺する度胸はないけど、いっそ誰かが殺してくれればな、と思う時が……」
国館「お前の話は聞いてない」
川奈「生きててすみません……」
国館「で、殺されたい人が、この数多の殺人希望者の中から、誰に殺されたいかを選び抜く」
川奈「マッチングが成立すると……」
国館「事件発生」
川奈「どうやら、殺した側が『殺害完了』の旨を報告すると、自動的に相手のアカウント削除とアプリのアンインストールがされる仕組みみたいです」
国館「穂高千とマッチングが成立したのは、誰だ?」
川奈「名前はわかりませんが、絞殺のみ承る二五歳の女性だそうで」
   早の写真を取り出す国館。
国館「絞殺、二五歳、女性……。おい、神。何とか素性まで調べ尽くせ」
川奈「じゃあ……」
   何かを要求するように手を差し出す川奈。
国館「この期に及んで、金を搾り取ろうとでも言う気か?」
川奈「違いますよ。端末です」
国館「端末?」
川奈「犯人のアカウント情報を手に入れるには、何とかコンタクトを取らないとどうしようもないんですよ。かといって、この方のアカウントから連絡する訳にもいかないじゃないですか?」
国館「確かに。殺し遂げたハズの相手だからな」
川奈「しかもこのアプリ、同じ端末から別のアカウントでログインできないようにロックがかけられているんです」
国館「それで、別の端末か」
   携帯電話を取り出す国館。
国館「コレで、やり遂げられるか?」
川奈「ガラケーじゃ無理ですよ」
国館「フューチャーフォンな」
川奈「生きててすみません……」
国館「なら、仕方ない……」

○同・同(夜)
   向かい合って立つ国館、蔵野、川奈。川奈の手には蔵野のスマホ。
国館「という訳だ」
蔵野「え、ちょっと待って、ウソでしょ?」
国館「犯人はおそらくあの女。そして、被害者本人が共犯者だった。互いが協力しきっているからこそ成立する殺人で……」
蔵野「そうじゃなくて。自分のスマホでそのデスマッチってヤツのアカウント作ってんですか? バチクソ恐いんですけど」
国館「そっちか。誰に頼むのが適任か、考え抜いた末の判断だ」
蔵野「そんな勝手な……。(川奈に)アンタ、スマホ持ってないの?」
川奈「普通のスマホは持ってません」
蔵野「普通じゃないスマホ、って何?」
川奈「生きててすみません……」
国館「まぁ、そういう訳だ。いいじゃないか。コレで事件が解決すれば『首都圏をまたにかけた連続殺人事件を解決した刑事』って肩書を、生涯名乗り通す事が出来るんだぞ?」
蔵野「……まぁ、そういう事なら」
川奈「(フォルダの中身を見ながら)へぇ、こんな趣味をお持ちなんですね……」
蔵野「(川奈に掴みかかろうとしで)やっぱ返せ」
川奈「生まれてきてすみません……」
国館「(蔵野を抑えながら)それは許す」

○美林家・外観(夜)

○同・リビング(夜)
   ザッピングしながらテレビを観ている桜。各局、ニュース番組で連続殺人事件を取り上げて、盛り上がっている。
桜「……」
   テレビの電源を消し、スマホを操作し始める桜。デスマッチのアプリを起動する。桜のプロフィール欄に書かれた「殺されたい」の文字。
   メッセージの受信箱を開く桜。最新のメッセージには「では明日、よろしくお願いします」の文字。
蔵野の声「あ~、スマホがバチクソ恋しい……」

○埼玉県警・会議室
   並んで立つ国館と蔵野。
蔵野「国館さん。自分のスマホ、いつ頃戻ってくるんですか?」
国館「神が情報を探し尽くしたら、だな」
蔵野「だから、それが具体的にどれくらいなんですか?」
国館「一年になるか、二年になるか」
蔵野「……さすがに冗談ですよね?」
国館「一応、冗談のつもりだが、そうじゃないとも言い切れないな」
蔵野「ウソでしょ……。でも、結局国館さんの勘もバチクソ外れてましたね」
国館「何の話だ?」
蔵野「天堂順や、桜ちゃんの事、疑ってたじゃないですか。でも結局、犯人はあの女の単独犯」
国館「何故そう思い込む?」
蔵野「え、だって……」
国館「穂高千に関しては、まだ一つ、気になる事がある」
蔵野「何ですか?」
国館「前に話しただろ? 『被害者たちには自殺に踏み切れない理由がある』と」
蔵野「言ってましたね」
国館「だが唯一、その理由がない人間が居る」
蔵野「あ~……それが、穂高千?」
国館「彼女は何故、あのアプリを使って、自分を殺す相手を探したのか。そこまでして他殺に拘り抜いた理由は何なのか」
蔵野「確かに、謎ですね」
国館「何故そう思い込む?」
蔵野「え~。何か目星がついてんなら先に言ってくださいよ」
国館「あくまでも俺の仮説だが、彼女の拘りは『他殺』ではなく、あのアプリを使う事だったんじゃないか?」
蔵野「デスマッチを使う事が、拘り?」
国館「彼女が死のうとした理由と、デスマッチ。言い換えれば、あのマッチングアプリ」
蔵野「マッチングアプリ……あっ」

○マンション・外観

○同・天堂の会社
   遺留品のスマホに映るデスマッチの画面を天堂に見せる国館と蔵野。
天堂「確かに。弊社で作ったアプリです」
蔵野「やっぱり、そういう事か」
国館「穂高千はそれを知り尽くしていたからこそ、あえてこのアプリを使う死に方を選び抜いたんですね」
天堂「へぇ、じゃあ例の連続殺人犯は、弊社のアプリを使っていただいている方だったんですね」
蔵野「随分と他人事だな。アンタ、自分が何を作ったかわかってんのか?」
天堂「ただのマッチングアプリですよ」
蔵野「『ただの』じゃない。人を殺すマッチングアプリだ」
天堂「確かに人は死んでいます。が、しかし、けれども、But、However。それだけで僕を裁けます? どんな罪で?」
蔵野「そんな事は……殺人、殺人教唆、何かあるハズで」
天堂「もし、仮に、万が一、If、Suppose。このアプリを作った僕が罪なら、包丁を作る職人はどうなんです?」
蔵野「は?」
天堂「鉄パイプを仕入れている会社は? ロープを販売する店は? その気になればハサミでもネクタイでも灰皿でも人は殺せますよ?」
国館「つまりこのアプリ自体に非は一切ない、と。わかり切っていた事ですが、議論の余地はなさそうですね。なら、本題です」
蔵野「え、本題は別だったんですか?」
国館「今回の連続殺人事件の犯人の情報を開示してください」
天堂「なるほど。お断りします」
蔵野「なっ……?」
天堂「もちろん、令状を持ってこられれば、適切に対処しますよ」
国館「……まぁ、いいでしょう。我々も打てる手を出し尽くした訳じゃない」
   国館の携帯電話に着信。
国館「噂をすれば。(電話に出て)どうした、神。何かわかったか?」
川奈の声「犯人の名前は、稲田早」
国館「稲田早、だな。よくやった、ほめちぎってやろう」
川奈の声「でも急いだほうがいいですよ。今まさに、次の相手に会っている所みたいですから」
国館「何!?」
川奈の声「相手の名前はですね……」

○駅前
   待っている桜。
国館の声「美林桜!?」
   そこにやってくる早。
早「あなたが、美林桜さん?」
   頭を下げる桜。

○マンション・天堂の会社
   携帯電話で通話中の国館と、その様子を見守る天堂、蔵野。
国館「で、場所はどこだ!?」
川奈の声「それはですね……」
   電話が切れる。
国館「おい、神。神!」

○川奈の隠れ家・中
   様々な機器類に繋がれ、火花を散らす蔵野のスマホを見つめる川奈。
川奈「あ~、オーバーヒートしちゃいましたか。預かり物なのに……、生きててすみません……」

○マンション・天堂の会社
   天堂に詰め寄る国館と蔵野。
国館「筒抜けで聞こえていたでしょう? あなたの後輩の美林さんの身に危険が及んでいます。情報の開示を」
天堂「……仕方ありませんね」
   渋々、パソコンに向かう天堂。
蔵野「反省の色がバチクソ見えねぇな」
天堂「反省とは、何を?」
蔵野「こんなアプリを作った事だよ」
天堂「刑事さんは、このアプリの良い所を全く見ようとしていませんね」
蔵野「良い所?」
天堂「例えば『誰でもいいから殺したかった』と言って、死にたくないと思っている人が殺されたとしたら、どう思います?」
蔵野「バチクソひどい」
天堂「では、その殺した相手がもし『死にたい』『誰かに殺されたい』と思っている人だったとしたら?」
蔵野「……」
国館「天堂さんは、それを良い事だと思い込んでいるんですか?」
天堂「良い事かどうか、は置いておいて、需要と供給は一致していると考えています」
蔵野「需要と供給?」
国館「人を殺したい人に、殺されてもいい人を供給する。あるいは、殺されたい人に、殺してくれる人を供給する、と?」
天堂「もちろん、それもあります。が、しかし、けれども、But、However。それだけじゃありません。『殺人事件』というもの自体にも需要があるんですよ」
国館「というと?」
天堂「話題が欲しい一般人、目玉になるニュースが欲しいマスコミ、それに(蔵野を見て)殺人事件の捜査がしたい刑事さん」
蔵野「……」
天堂「どうです? 少しはこのアプリの良さがわかっていただけました?」
国館「……いいや。肝心な事が一つ抜け落ちている」
天堂「何でしょう?」
国館「『殺されたい』と言った人は果たして、死ぬ直前までそう言い切れていたのか。最期の最期は、『やっぱり生きたい』と願っていた可能性は、否定しきれないだろう?」
天堂「……それで言うと、一体どうしてなんでしょうかね?」
国館「何が?」
天堂「美林が、殺されたい理由ですよ」

○林C
   ロープを準備する早を見ている桜。
早「美林さんは? 何で死にたいの?」
桜「……幼馴染の親友が、死んだんです」
桜の声「千ちゃん、何やってんの?」

○(回想)大学・部室
   スマホを操作する千の元にやってくる桜。
千「あ、桜。順さんが作った新しいアプリ」
桜「……千ちゃん、まだあの先輩と付き合ってるの? 止めた方が……」
千「いいの。桜には関係ないでしょ」
桜「それは……(スマホの画面を見て)で、デスマッチ?」
千「そう。『誰でもいいから殺したい人』と『殺されたい人』をマッチングさせるアプリなんだって」
桜「登録したの? 先輩に言われて?」
千「自分の意思でね。サクラがいないと……あ、桜じゃなくて『サクラ』ね。殺したい人が集まらないから」
桜「それ、もし千ちゃんが殺されたら……」
千「大丈夫だよ。断ってればいいだけなんだから。桜は心配性だな~」

○(回想)美林家・外観(夜)
   電話の着信音。
桜の声「え、天堂先輩にフラれた?」

○(回想)同・桜の部屋(夜)
   通話中の桜。
桜「ねぇ、千ちゃん。バカな事、考えてないよね?」
千の声「私ね、やっぱり順さんが好きなんだ。だからね、順さんが一生忘れられないような死に方、したいんだ」
桜「千ちゃん、今どこ? すぐ行くから……」
千の声「桜、今までありがとう。バイバイ」
   通話が切れる。
桜「千ちゃん。千ちゃん!」

○林C
   早の背後に立つ桜。
桜「だからもう、死んだ方がいいかな、って」
早「へぇ、いい親友だったんだね。私の手で殺したかったな~」
桜「そういう稲田さんは、何で絞殺専門なんですか?」
早「人がもがき苦しんでる顔を見るのが、たまらなく好きなの」
桜「(小声で)……それだけ?」
早「長さ、これくらいで足りるかな?」
   振り返って桜にロープを見せる早。
早「ん~、もうちょっと短い方がいいかな」
   再び桜に背を向ける早。鞄の中に手を入れる桜。
国館の声「おい、まだか?」

○マンション・天堂の会社
   天堂の作業を見守る国館と蔵野。
天堂「まったく、パソコンがわからない人ほど、こういう作業が簡単に出来ると勘違いするから、困りものですよね」
国館「……どうせ俺は、アプリというものが何なのかさえ、わかり切ってない。だが、一つだけ果たすべきことがある」
天堂「果たすべきこと?」
国館「このアプリを、デスマッチを、潰す」
蔵野「国館さん……」
天堂「いいんですか? それは、殺人事件そのものが減る、という事ですよ?」
国館「何の問題がある?」
天堂「実は今や、怨恨以外の殺人事件の大半は、このアプリを通じたものになっている、とのデータもありましてね。もちろん、多分、きっと、おそらく、Maybe、Perhaps、という話ですが」
蔵野「何だって!?」
天堂「ただでさえ人口は減り、殺人事件も減ると考えられる中、このアプリまで無くなれば、殺人事件数を維持できなくなります。そうなれば、刑事さんたちは廃業では?」
蔵野「それは……」
国館「だとしたら願ったりかなったりだ、潰し切らないとな。このアプリを」
蔵野「!?」
天堂「たとえ自分たちが廃業になってでも、この世界から殺人事件を無くしたい。そうおっしゃるつもりですか?」
国館「当前だ。それこそ、俺達警察官がやり遂げるべき事。だから俺は、お前みたいな奴を潰すことに全力を尽くす」
天堂「素晴らしい考えですね。が、しかし、けれども、But、However。全ての警察官が、そう思っているとは限らないのでは?」
国館「何?」
   どこからともなく包丁を持ってくる蔵野。背後から国館を刺す。
国館「!?」

○林C
   包丁で刺されている早。その脇には返り血を浴びている桜。
早「な……んで……」
桜「決まってるでしょ? 私は、千ちゃんを殺した相手と出会うために、あのアプリを始めたんだから」
早「そん、なの……規約、違反……」
   絶命する早。
桜「大丈夫。あのアプリを作った人が望んでいるのは、コレだから」

○マンション・天堂の部屋
   国館の遺体の前に立つ天堂と蔵野。持っていた包丁を落とす蔵野。荒い息。
蔵野「俺は悪くない。俺は殺人事件を華麗に解決する刑事になりたいんだよ。だから殺人事件が無くなったら困るんだよ」
   笑い出す天堂。
蔵野「何がおかしい?」
天堂「いえ。テストがあまりにも上手くいったもので」
蔵野「『テスト』? アンタ、俺に何した?」
天堂「新しいアプリのテスト、ですかね?」
   パソコンの前にやってくる天堂。画面には開発途中のアプリ「怨結び(えんむすび」。
天堂「殺意を抱きそうな人と、殺意を抱きそうなシチュエーションを……」

○林C
   早の遺体を見下ろす桜。
天堂の声「マッチングさせただけです」
                  (完)

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