【登場人物】
お父さん 45歳
お母さん 41歳
ジュン 16歳
ミサ 13歳
タク 10歳
リコ 7歳
HF=ホストファーザー
HM=ホストマザー
HS=ホストシスター(ホストハウスの娘) 12歳
HB=ホストブラザー(ホストハウスの息子) 10歳
○動物園の出口
地球家族6人が動物園の門を出る。
タク「あー、楽しかった!」
ジュン「タクは本当に動物園が好きだな」
ミサ「ねえ、タクの一番好きな動物って、何なの?」
タク「うん、やっぱり、僕はカエルが一番かな」
タク、シャツのボタンをはずして脱ぎ、Tシャツ姿になる。Tシャツには、黄緑色のカエルのキャラクターの絵が大きくプリントされている。
ミサ「なんだ、動物園の動物の中から選ぶのかと思ったら、カエル、というより、ケロッパじゃない」
ジュン「なるほど、確かにタクの一番好きな動物かもしれないな」
ミサ「もう、あの時はどうなるかと思ったんだから・・・」
その時、一台のマイクロバスが止まり、HFが降りてくる。
HF「地球のみなさんですね。ようこそ。お迎えにあがりました」
○マイクロバスの中
地球家族6人とHF、HM、HS、HBが乗っている。
HF「今日はみなさんをお招きできて、私たちは本当にラッキーですよ」
母「そんな大げさな・・・」
HF「大げさではありません。みなさんのプロフィールを読ませていただいて、すぐにホストファミリーに応募しました。当選して本当にラッキーです。というのも、私もご主人と同じで、おもちゃを作る会社で商品開発の仕事をしているんです」
父「ほー、あなたも?」
HF「ご主人のプロフィールに書いてありましたよね。カエルのキャラクター商品を作ったら、大ヒットしたと・・・」
父「あ、昨年の話ですけどね。そんなこと書いたんだったかな?」
HF「お忘れですか? ちゃんと持ってきましたよ。お母さん、カバンに入っているだろ。読んでさしあげて」
HM「あ、はい」
HM、カバンから切り抜きを取り出して読む。
HM「『私はおもちゃを作る会社で商品開発の仕事をしています。最近、息子のおかげで、ケロッパというカエルのキャラクターを使って男の子向けの商品をいろいろと作ってみたところ、国内で大ヒットしました』」
父「あー、思い出しました。書きましたよ」
HF「息子のおかげで、と書かれていますが、どういう意味ですか?」
父「あ、これはですね・・・」
○回想シーン:地球家族の家の居間
父が帰宅。居間に母、タク、リコがいる。
父「ただいま。今日はリコにおみやげがあるよ」
父、リコにカエルの絵の入ったウエストポーチを渡す。
リコ「ありがとう。あ、カエルさんだ」
母「あら、リコ、よかったね。このカエルのキャラクターは、ケロタンじゃなくて、ケロロだったかしら」
父「いや、それらは他社のキャラクターだ。これはうちの会社で新しくデザインしたケロッパだよ。今年はこのケロッパのキャラクターグッズをいろいろと売り出そうと思っているんだ」
母「ケロタンやケロロとそっくりじゃない」
父「よく見るとちがうぞ。ほら、ケロッパは大きな前歯が2本出ているのが特徴なんだ」
母「お父さんったら。カエルに歯は無いのよ」
父「まあ、そりゃそうなんだけど、・・・あれ?」
気がつくと、タクがしげしげとケロッパのポーチを見ている。
タク「これ、すごくいいな。僕もほしい。もうないの?」
父「まだ試作品の段階だから、今はもうないけど、じきに売り出されるよ」
タク「いつごろ手に入る? ねえ、お父さん」
父「そうだな。来週くらいかな」
タク「来週か・・・」
リコ「これあげるよ」
タク「ほんと? リコありがとう」
父「なるほど、そうか!」
母「どうしたの? 何か思いついたの?」
父「うん、ちょっとね」
○回想シーン:地球家族の家の居間(数日後)
父が帰宅。居間に母、タクがいる。
父「ただいま」
タク「お帰り」
タク、ケロッパのウエストポーチをつけている。
父「タクはそのウエストポーチをずいぶん気に入ったようだな。じゃ、これはどうかな」
父、かばんからケロッパがサッカーをしている図柄の帽子とTシャツを出してタクに渡す。
タク「わ、これ僕に? ありがとう」
母「あら、ずいぶん絵のデザインが男の子っぽくなってきたのね」
父「そう、そこなんだ。もともとケロッパは女の子をターゲットとしたキャラクターとして考えたんだ。でも、この間、タクが興味を示しているのを見て、むしろ男の子に人気が出るんじゃないかと思って、私が提案してみたんだよ。その案がとおって、今は男の子向け商品をいろいろと開発中なんだ」
タク「なるほど」
父「タクのおかげで、お父さんの会社は今絶好調だよ」
○マイクロバスの中
地球家族6人とHF、HM、HS、HBが乗っている。
父「・・・というわけなんです」
HF「へえ、タクちゃんというのは・・・」
HF、ジュンを見る。
ジュン「あ、いえ、僕は長男のジュンです。タクは後ろ・・・」
HF、タクを見る。HFとタク、笑顔で向き合う。
母「そんないい話ばかりではないんですよ」
ミサ「そうそう、その後、我が家は大騒ぎだったんですから」
○回想シーン:地球家族の家の居間(数日後)
ミサとジュンが話をしている。
ミサ「ねえ、ジュン、タクの部屋見た?」
ジュン「今日は見てないけど。カエルグッズにはまっているんだろ」
ミサ「ますますエスカレートしているのよ」
タクの部屋が開き、タクが出てくる。
タク「あれ、ふたりともどうしたの?」
ミサ「あ、タクの部屋がケロッパグッズでいっぱいだという話をしてたのよ」
タク「そうなんだ、ほら、見てよ。すごいでしょ。まくらに貯金箱、目覚まし時計、カレンダー、ブックエンド、全部ケロッパだよ」
ジュン「(ミサに)タクは凝り性だから仕方ないよ。そのうちあきるんじゃないかな」
○マイクロバスの中
地球家族6人とHF、HM、HS、HBが乗っている。
ミサ「・・・というわけで、タクは夢中になると止まらなくなるので、タクの部屋がカエルグッズでいっぱいになったんですよ」
HB「すごい! 僕と同じだ!」
タク「同じって、どういうこと?」
HF「順を追ってお話しましょう。何カ月か前のことです。ご主人のプロフィールを読んで、私もカエルのキャラクター商品を作ってみたくなりました。この星には、もともとカエルのキャラクターなど無かったんです。男の子向けの商品をいろいろと作ったところ、これが大当たりで、飛ぶように売れたんですよ」
父「それは良かったですね」
HF「今日はみなさんにそのお礼をしたかったんですよ。貴重なアイデアを提供していただいたお礼に、今晩はごちそうの食べ放題ですよ」
タク「やった!」
HF「確か、リコちゃんのプロフィールには、イチゴが大好きと書いてあったね。イチゴのデザートも食べ放題だよ!」
リコ「わーい!」
父「ありがとうございます」
HF「いえいえ、このくらいのお礼じゃ足りないくらいです。アイデア料をお支払いしなければいけないのかもしれませんが・・・」
父「その必要はありませんよ。絵柄までそっくりというわけでなければ」
HF「もちろん、みなさんのプロフィールを拝見しただけですから、絵は私のオリジナルです」
父「なるほど」
HF「さて、カエルのキャラクター商品を誰よりも気に入ってくれたのが、息子のHBなんですよ。なあ、HB」
HB「うん」
HF「最初はHBの部屋だけだったんですけど、今では、彼は家の中の物をどんどんカエルグッズに替えていきました。居間のごみ箱、ティッシュボックスカバー、クッション、蚊取り機、メモ帳、キッチンにはコースター、マグカップ、鍋つかみ、風呂場ではバススポンジ、シャンプーキャップ、足ふきマット、トイレには便座カバー、ロールカバー。我が家は全部カエルです」
ミサ「すごい・・・」
HF「タクちゃんがカエルマニアだと聞いて、とても嬉しい。我が家をお見せできるのが楽しみですよ」
タク「うん、楽しみだよ」
HF「なにしろ、我が家では、喜んでくれているのがHBだけですからね」
HF、HB、父、タクが顔を見合わせて笑う。他の6人は渋い表情。
母「(ジュンに、小声で)この家に泊めていただいて、タクは大丈夫かしら・・・」
ジュン「うん、危険かもしれない。刺激しすぎると、地球に戻ってから、また夢中になっちゃうかも・・・」
それを聞いていたHMが話に加わる。
HM「確かに、やめておいたほうがいいわ」
HM、HFに話しかける。
HM「地球のみなさんには、別の所に泊っていただきましょう」
HF「おいおい、今さら、何を言い出すんだ」
HM「だって、今の我が家を見たら、きっとタクちゃんを興奮させることになるわ。それに、HBもますますその気になってしまうかも・・・」
ジュン「そうだな。そしてきっと我が家も、カエルグッズでいっぱいにさせられるな」
父「別にいいじゃないか。商品としてすばらしいものばかりなんだから」
母「もう、お父さん」
母、頭数を数えながら、ひらめいたような表情。
母「そうだ、多数決で決めませんか? 泊めていただくかどうか」
父「多数決って、そんな・・・。せっかくもう準備されているのに・・・」
HM「それがいいわ。多数決よ。じゃあ、我が家にお招きするのに賛成の人は?」
HF、HB、父、タクが手を挙げる。
HM「じゃあ、別の所に泊ったほうがいいという人は?」
HM、HS、母、ジュン、ミサ、リコが手を挙げる。
HM「決まったわね。目的地を変更するわよ」
HF「そんな・・・」
ミサ、ふとタクのケロッパのTシャツを見る。
ミサ「待って。私、やっぱり賛成にする」
母「ちょっと、ミサ!」
父「これで5対5だな」
リコ「リコも賛成にする」
ジュン「え?」
HF「賛成の勝ちだ。良かった。我が家に向かいますよ」
父「リコ、えらいぞ」
ジュン「リコ、イチゴに誘惑されちゃだめだよ」
リコ「ううん、ミサの考えていることがわかった」
母「え?」
HF「あ、みなさん、話しているうちに、着いてしまいましたよ」
車がストップする。
○ホストハウスの玄関
地球家族6人とHF、HM、HS、HB。
HFがみんなを誘導する。
HF「さあ、みなさん、お入りください」
HBの後ろをタクが歩く。
HB、タクのTシャツに目が行く。ケロッパの絵を指さす。
HB「これ、何?」
タク「ケロッパだよ。カエルのケロッパ」
HB「え、これがカエル?」
○ホストハウスの広間
HFがタクに話しかける。
HF「今日はカエルマニアのタクちゃんをここにお招きできてうれしいよ。まずは、えりすぐりのレプリカをお見せしよう」
タク「レプリカって?」
HF「本物そっくりの作り物のことだよ。ほら」
HF、カエルの作り物を見せる。
ミサ「うわ・・・」
HF「まずは、これがアカガエルの一種のウシガエル。食用ガエルとして知られているやつ。それから、これがアズマヒキガエル。この色、なんともいえないな、うーん」
ミサ「(なんかとってもリアルでグロテスク・・・)」
カエルが突然鳴いて飛び跳ねる。
ミサ「うわっ!」
HF「びっくりしたかい。ちょっとしたしかけがあってね。そして、最高の自信作がこれ」
HF、大きなカエルの作り物を取り出す。
HF「これは、一番大きなカエル、ゴライアスガエルだ。30センチもあるんだよ。タクちゃん、どうだい。(タクのほうを見て)あれ?」
タク、ぶるぶる震えている。
タク「ごめんなさい。僕、だめです」
タク、こわがりながら走って出て行く。
HF「あれ、あれ、タクちゃん、どうしちゃったのかな」
父「やっぱり、そうだったのか。タクは、もう10歳なんだけど、とてもこわがりなんです」
HF「でも、カエルが大好きなんでしょ?」
父「タクは都会育ちで、本物のカエルを見たことも触ったこともないんですよ」
ジュン「タクにとって、カエルとはケロッパやケロタンやケロロだからな」
HF「そうだったのか。この辺りには本物のカエルがいっぱいいます。僕は、子どもの頃からカエルを捕まえて遊ぶのが大好きだったんですよ」
HB「僕も」
父「地球の都会では、カエルは身近にはほとんどいません。だから、タクだけじゃないんです。『カエルのキャラクターはかわいらしくて大好きだけれど、本物のカエルは大嫌い』という人が、地球には大勢いるんですよ」
HF「それは気づきませんでした。ご主人のプロフィールを読んで、てっきり本物そっくりのカエルを作ればいいのだと思ってしまいました。結果的には、それが流行したんですけどね」
○ホストハウスのキッチン
タクが走って入る。
タクが目にする物は、どれもグロテスクなカエルの絵が入ったものばかり。
タク「うわ!」
タク、部屋を飛び出す。
○ホストハウスの広間
母とミサが話している。
母「さすが、ミサ。こうなることを予想していたのね。どうしてわかったの?」
ミサ「だって、タクのTシャツを見て、HFさん、何も反応しないんだもの」
母「思い通りになったかもしれないけど、ちょっとタクには刺激が強すぎたかな。逆にトラウマにならなければいいけど・・・」
○HBの部屋
タクがドアを開ける。
タクが目にする物は、やはりグロテスクなカエルの絵が入ったものばかり。
タク「もういやだ。カエルはこりごりだ・・・」
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