さるかにヒーロー コメディ

村おこしを村に伝わる「さるかに」戦隊ショーでしようとする幼馴染五人組。ヒロインを一人入れようとするが、そうなると一人漏れてしまうことになる。そんなこんなのある日、「さるかに」の力をつけることになるメンバー。そんな中、リーダーのつもりだったまこっちゃんだけ、力を得られない。漏れるのは、俺なのか。彼は、ヒーローになれるのか。
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第一稿

○  居酒屋(夜)
   小さな居酒屋。カウンター席、テーブル席、座敷もあるが、全体的に小さい。壁に貼ってあるメニュー、居酒屋定番の料理が一通り、並んでいるが、どのメニューの上に ...続きを読む
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○  居酒屋(夜)
   小さな居酒屋。カウンター席、テーブル席、座敷もあるが、全体的に小さい。壁に貼ってあるメニュー、居酒屋定番の料理が一通り、並んでいるが、どのメニューの上にも「村一番の」というフレーズがついている。
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐藤真(24)、高橋英輔(24)、中村章(24)、蜂谷太(24)、遠藤透(24)。店員が注文をとっている。
蜂谷「村一番の揚げ出し豆腐が(とメンバーの顔を見回し)三つ」
店員「村一番の揚げ出し豆腐が三つ、ですね?」
蜂谷「それから、村一番のソーセージ盛り合わせ」
店員「村一番のソーセージ盛り合わせ」
蜂谷「村一番の刺身盛り合わせ」
店員「村一番の刺身盛り合わせ」
蜂谷「それから、村一番のシーザーサラダ三人前」
店員「村一番のシーザーサラダ三人前」
蜂谷「以上で」
店員「以上で、よろしいですか?」
蜂谷「僕はね」
中村「(突っ込む)僕はねって。今までの、一人分かい?」
    × × × ×
   生ビールのジョッキを持ち、乾杯をする佐藤、高橋、中村、蜂谷、遠藤。遠藤は元気なく。
   ジョッキを傾け、勢いよく飲む佐藤、高橋、中村、蜂谷。それぞれ大きく、げっぷするなどして。
佐藤「(咳払いをし、注目を集めて)ところで、今朝さ。テレビでね。見たんだ。地域を元気にしている若者。なまはげ風のヒーロー。でね。俺も考えた。この村を元気にするためのヒーローをね」
   ビールや箸を持つ手を止め、佐藤の言葉に耳を傾ける高橋、中村、蜂谷、遠藤。
佐藤「(重大な秘密を告げるように声をひそめて)ナントカ戦隊ナントカレンジャー」
蜂谷「え。ナントカ、ナントカって」
高橋「そこは考えてないのかよ」
佐藤「そこをみんなで考えるんだ」
蜂谷「そして?」
佐藤「村祭りのステージで、ショーをやる」
蜂谷「出た」 
佐藤のはしゃぎぶりとは対照的に、冷めた目で佐藤を見る高橋、中村、蜂谷、遠藤。
佐藤「何だよ。その反応。もっと熱くなれよ、みんな!」
蜂谷「ちょっと暑苦しいんだよ、マコっちゃん」
高橋「ま、でも、それでビールが美味しく飲めるんだけどね」
佐藤「おいおい。俺は、つまみかよ。とにかく、ショーだ、ショー。何かアイデア無い?遠藤」
遠藤「(ぼんやり遠くを見ていて)え。何?」
蜂谷「おいおい、大丈夫か、遠藤」
中村「遠藤、今日、元気ないよな、何か」
遠藤「何の話だっけ?」
佐藤「ナントカ戦隊ナントカレンジャーの話」
遠藤「???」
蜂谷「突然ふられても分からないだろ」
遠藤「ふ・・・ふられる?」
   突然、落ち込んでしまう遠藤。自分が傷つけたかと心配する蜂谷。
蜂谷「え。何?」
高橋「と、とにかく、村の特産物とか織り込んだ方が良いんだろうな」
佐藤「ん?」
高橋「そのナントカ戦隊のナントカの部分。例えば(と例を示そうとするが、出てこない)」
蜂谷「そうか、例えば(出てこない)」
中村「(考えるが、出てこない)・・・」
遠藤「(考えていない)・・・」
佐藤「じゃ、それは後で考えるとして、もう一つ考えなくちゃいけないことがある」
蜂谷「(うんざり顔で)何?今度は?」
佐藤「この中でヒーローになれるのは、四人だけ」
蜂谷「へ?」
高橋「何だ、それ?」
佐藤「ヒーローものは、やっぱり五人だろ、ゴレンジャーだろ」
中村「ぴったりじゃん」
蜂谷「五人でゴレンジャーで良いんじゃないの」
佐藤「甘い」
蜂谷「へ?」
佐藤「一つにはね、それじゃ女性ファンの心を掴まない。やっぱり、ピンクは女性じゃないと」
蜂谷「・・・」
中村「でも、誰かいるの?ピンクをやってくれそうな人」
佐藤「(きっぱりと)いる」

○  スナック・店内
   ピンクの妖しいネオン。
ソファに座っている佐藤。店内、客が歌うカラオケの歌、響いている。
   佐藤の隣に座る如月弥生(25)。
弥生「いらっしゃいませ」
弥生に見とれている佐藤。

○  居酒屋(夜)
   頭の中で弥生を思い浮かべ、にやにやしている佐藤。
佐藤「えーと。ここからヒーローになれるのは四人。なぜなら、ピンクは女子だから。そして、理由その二。ヒーローものに必要なのは、なーんだ?」
中村「分かった。これだ」
   怪獣の真似をする中村。
佐藤「そうそう」
中村「怪獣。悪役だな」
佐藤、じっと中村を見て
佐藤「ちょっと、待って」
中村「ん?何?」
佐藤「その手つき、もう一遍」
中村「(いやな予感を感じつつ)なんだよ、その手つきって・・・これ?」
   怪獣の真似をする中村。
佐藤「良いっ。中村のその手つき、良い」
中村「何だよ、止めてくれよ」
蜂谷「分かった」
高橋「え。何が?」
蜂谷「分かった。弥生ちゃんだな」
高橋「何、それ?」
蜂谷「ピンク。女子。弥生ちゃんを誘うつもりなんだ」
高橋「誰だよ?」
蜂谷「あのね。今、まこっちゃんがはまってるの。スナックチャップリンにいるんだ」
高橋「何。その、弥生ちゃんが仲間に入って、(中村を見て)この中の一人が脱落するってわけね」
中村「いや、俺を見るなよ」
佐藤「脱落じゃない。栄転だ、栄転」
蜂谷「栄転って・・・」
佐藤「怪獣役に栄転さ」
高橋「でも、その・・・弥生ちゃんって人、やってくれるかどうか分からないんだろ」
   首を振る佐藤。
佐藤「もう、オッケ―を貰ったんだよ、実は」
   驚く高橋、中村、蜂谷、遠藤。

○(回想)スナック・店内
   カラオケのボリュームが異常な音で流れている。
   水割りを飲みながら、弥生と話している佐藤。
音楽のボリュームが大きすぎ、何を言っているか、全然聞き取れない。佐藤、弥生に向かって、大きなジェスチャーで女性の身体のラインを示す動きをし、
佐藤「(叫ぶ)セクシーだから!」
弥生「えぇぇぇ?何?」
佐藤「セクシー!」
弥生「ありがと!」
   佐藤、弥生を指さし、
佐藤「ピンクッ!ピンクッ!」
   首を傾げながらも面倒臭くなり、佐藤に愛想笑いをする弥生。
   手でOKサインをつくり、笑顔で
佐藤「オッケー?」
   弥生良く分からないながら、真似をして手でOKサインをつくり、笑顔で
弥生「オッケー!」
   嬉しそうに微笑む佐藤。

○  居酒屋(夜)
   テーブルを囲み、酒を飲んだり、つまみを食べながら話す佐藤、高橋、中村、蜂谷。一人、酒をあおっている佐藤。
蜂谷「マジで?」
高橋「それで、その弥生ちゃんってきれいなのか?」
蜂谷「うん。きれい。そして、何より胸がでかい」
中村「マジで?」
高橋「じゃ、行かなきゃな。店に」
蜂谷「だけど、あそこ、高いんだよな」
中村「高い。村一番のぼったくりスナックだ」
高橋「って言うか、村に一軒しか無いんだけどね」
蜂谷「あのスナックの存在が村の過疎化の原因だと思うよ」
中村「そうだよな、マジで」
蜂谷「ひでぇママさんだよな」

○(回想)スナック・店内
   橋本ひろ子(52)いる。ものすごく厚い化粧である。

○ 居酒屋(夜)
   テーブルを囲み、酒を飲んだり、つまみを食べながら話す佐藤、高橋、中村、蜂谷。一人、酒をあおっている佐藤。
蜂谷「とても、接客をしているようには見えないよな・・・それに比べて、弥生ちゃんは実に清楚なの・・・こう、体は、豊満。でも、心は」
力強く頷く佐藤。
中村「村おこし戦隊離レンジャーってのは」
佐藤「え」
中村「この村の問題は、過疎化だろ。若者が村を離れちゃう。だから、離れんじゃー。それとこの村が花いっぱいで幸せでありますようにって」
佐藤「悪くないな」
高橋「どんだけ、上から目線なんだよ」
蜂谷「良いじゃん。村おこし戦隊離レンジャーで。決まり、決まり。さ、飲もう」
佐藤「本当にそうだろうか」
   面倒くさい奴だな、という顔で佐藤を見る高橋、中村、遠藤、蜂谷。
佐藤「はたして、それでなまはげヒーローに勝てるだろうか?」
   中村、自分の頭を撫でる。しかし、もう誰も反応しない。
高橋「勝てない、勝てない。なまはげには勝てない」
中村「と言うか、何でなまはげに勝つ必要がある?」
佐藤「インパクトだよ。インパクト」
蜂谷「と言うか、俺たち、一体何と戦うんだ?」
佐藤「え」
蜂谷「戦う相手」
中村「過疎化と戦うんじゃないか」
高橋「それこそ勝てない、勝てない」
佐藤「いや、そこは勝とうぜ」
高橋「それより、あれが相手で良いんじゃないの」
中村「何?」
高橋「言おうかと思ったけど、やっぱり止める」
佐藤「何でだよ。そこまで言って」
高橋「(ちらりと遠藤を見て)俺が今から言う言葉は、聞きようによっては、人を傷つけるかも知れない」
中村「(高橋の言葉の意味に気付き)あ。もう、それじゃ止めておこう」
佐藤「いや、聞きたい」
高橋「まこっちゃんは、空気読まないね。自分のことしか考えないんだから。猿だよ。俺が言おうとしたのは、猿だ。ほら、村の農作物に悪影響を及ぼしている猿だ」
佐藤「良いアイデアじゃないか。何でそれが人を傷つける?」
高橋「鈍いな。まこっちゃん。猿、だぞ。猿。恋人が遠くに去る・・・だろ」
佐藤「だろって・・・そうなのか」
中村「そうなのかって遅いよ」
佐藤「つーか、遠藤、彼女いたんだ」
高橋「遅いよ。まこっちゃん」
蜂谷「つーか、普通にさらっと言えば、傷つけないよ。猿って」
遠藤「つーか、傷ついてないよ、俺」
   と言いながら、目は遠くを見ている遠藤。
佐藤「(わざとらしく明るく)じゃ、その猿だ。猿が悪役だとすると、ヒーローは何だ?」
中村「猿といえば・・・孫悟空とか桃太郎」
高橋「それじゃ、良い奴だしな」
蜂谷「猿が悪役・・・」
   考え込む佐藤、高橋、中村、蜂谷。
遠藤「(ぼそりと)さるかに」
高橋「え?」
佐藤「良いんだよ。遠藤。無理して参加しないで」
遠藤「(少し声高く)さるかに」
佐藤・高橋・中村・蜂谷「(声を揃えて)さるかに!」
佐藤「本当だ。さるかに合戦は猿が悪役だ」
高橋「猿戦隊かにレンジャーだな」
中村「いや、それじゃどっちだか分からないだろ」
佐藤「えーと、あの猿を倒すのは、何だっけ?柿と」
高橋「いや、柿じゃないだろ」
佐藤「柿って出てこなかったっけ?」
高橋「いや、出てくるけど・・・あれは仲間じゃなくて」
遠藤「栗だ」
佐藤「あ、栗か。桃栗三年柿八年で混ざっちゃった」
高橋「何言ってんだ?」
佐藤「栗と・・・」
遠藤「蜂。臼。牛のくそだ」
佐藤「お前、詳しいな、さるかに。(指を追って)栗。蜂。臼。牛のくそ。四人か・・・」
遠藤「いや、それで敵討ちには、当然かにも加わる。かにの子ども達だ」
佐藤「お前、詳しいな、さるかに」
遠藤「いや、誰でも知ってるだろ」
   他のメンバーを見る遠藤。首を振る高橋、蜂谷。
遠藤「あ、そう。俺だけなの?」
   得意になる遠藤。
佐藤「でもまぁ、かに達入れると、五人。レンジャーにぴったりじゃん」
高橋「ま、ぴったりと言うか・・・」
佐藤「よし、決めていこう。まず、リーダーだけど」
高橋「しいて言うなら、リーダーは赤。赤といえばかに」
佐藤「そうだな。誰がやる?リーダー?」
中村「とか言って。まこっちゃん、やりたいんでしょ、リーダー」
佐藤「いやいや、俺、そういう柄じゃないから」
蜂谷「そういう柄じゃない?じゃ、まこっちゃん、何やるつもり?」
佐藤「まず、みんなが決めて。先に」
遠藤「盛り上がってるところ、悪いけど」
佐藤「良いね。遠藤。どんどん入ってきたね」
遠藤「猿役、誰やるの?」
佐藤「お」
高橋「それ、大事」
佐藤「だから、ほら(と中村を見て)」
中村「いや、だから・・・怪獣ならまだしも、猿かよ」
佐藤「ところで、弥生ちゃんにやってもらうやつ、先に決めよう」
蜂谷「そうだな。レディだからな。ピンクだからな・・・ピンクと組み合わせられるやつ・・・蜂・・・臼・・・牛のくそ・・・栗」
中村「どれも、ちょっと・・・だよな」
佐藤「ま、しいて言うなら、栗かな」
蜂谷「ピンクの栗・・・」
中村「ま、良いか」
佐藤「蜂谷は臼で決まりでしょ」
蜂谷「え」
佐藤「えって。他の、やるつもり?」
蜂谷「だって。俺、蜂谷だよ」
佐藤「お前が蜂谷って苗字ってことは、舞台の前で見てるお客さんは分かんないの。でも、蜂谷が見るからに臼だってことは、お客さん、みんな分かる。蜂谷が舞台上にいるのに、臼をやっていなかったら、ミスキャストって言われる」
蜂谷「それ褒められてるのかな?」
中村「(いや、褒めてはないと思う)」
佐藤「結論。蜂谷は、このメンバーの中で、いや、この村で一番、臼に似合う男だ」
蜂谷「それ褒められてるのかな?」
高橋「(いや、褒めてはないと思う)」
蜂谷「俺、やるよ。臼」
中村「やるのかよ」
佐藤「よし。臼は決まりだ。遠藤はどうする?」
遠藤「僕、何でも良いよ」
佐藤「何でも良い?じゃ(と言いかけるが)」
遠藤「(佐藤の言葉を遮り)牛のくそ以外ね」
佐藤「な、何で?何でも良いって」
遠藤「牛のくそ以外」
佐藤「何で?」
遠藤「牛のくそって・・・何か、彼女を思い出す」
佐藤「どういうことだよ、それ?」
高橋「俺も牛のくそ以外で頼む」
佐藤「何でだよ、みんな。考えてみろよ。このレンジャーの中で、一番おいしい役は、牛のくそだよ」
高橋「何でだよ?」
佐藤「だって、子どもはみんな、牛のくそが、と言うか、ウンコネタが好きだろ。舞台に上がった途端、大笑い。決まりだよ」
高橋「じゃ、佐藤がやれよ。な!」
佐藤「え」
中村「一番おいしいんだろ。ゆずるよ」
蜂谷「何たって、言い出しっぺだもんな」
   困る佐藤。
佐藤「(テンション下がっている)じゃ、俺が牛のくそだとして」
高橋「それ、良く考えると、おかしなせりふだよ」
佐藤「え」
高橋「じゃ、俺が牛のくそだとして」
   笑う高橋、中村、遠藤、蜂谷。
佐藤「(笑わず)まだ、決まっていないのが、かに、蜂」
遠藤「あと、やっぱ、かにもだめ」
高橋「何で?」
遠藤「彼女との最後のデート、かにだったから」
高橋「知らねーよ」
佐藤「じゃ、遠藤は蜂ってことね」
高橋「え。え。決まり?」
佐藤「決まり。高橋はかに」
高橋「え。ごめん。言いそびれてたけど、俺、かにアレルギーなんだ」
佐藤「別に食べるわけじゃないから」
高橋「いや、たぶん、蕁麻疹とか出る。もう出掛かってる」
佐藤「そんなわけないだろ」
   と言いかけたところで、佐藤の携帯電話の着信音。恨めし気に、佐藤を見る佐藤。
佐藤「ちょっと、ごめん。メールね」
   携帯電話を見る佐藤。
佐藤「おっ。ピンククリレンジャーからだ」
蜂谷「え?」
佐藤「(にやにやしながら)皆さんで、遊びに来ませんか?・・・だ
って」
蜂谷「良いね~」
高橋「行こう、行こう」
   盛り上がる佐藤、蜂谷、高橋、中村、遠藤。

○  スナック・店内
   ものすごく厚い化粧のひろ子、水割りをつくっている。店内にいる佐藤、高橋、中村、蜂谷、遠藤。彼らの隣に座っている弥生。弥生、立ち上がり、ひろ子から水割りのグラスを受け取って、配り始める。五人の男たちは、皆、弥生の胸に釘付けである。ごくんと唾を飲みながら。水割りが配られたところで、乾杯をする佐藤、高橋、中村、蜂谷、遠藤、弥生、ひろ子。
佐藤「とりあえず、さるかに戦隊・・・なんとかレンジャー結成の乾杯」
ひとしきり、乾杯をし、水割りを口にした後、皆に見つめられながら、口を開く弥生。
弥生「一体、何の集まりですか?」
佐藤「さるかに戦隊・・・の結成祝い」
弥生「何か、楽しそうですね。男五人で」
蜂谷「男五人って」
佐藤「え。何。弥生ちゃん、まるで他人ごとじゃない?」
高橋「(親しみを込めて)クリピンク」
弥生「(呆気なく)何ですか?それ?」
高橋「何ですかって・・・あれ」
佐藤を見る高橋。
佐藤「(慌てて)あれ。弥生ちゃん。引き受けてくれたじゃない?ほら、例の・・・」
   ウィンクめいたものをするが、まるで通じていない弥生。
   高橋、中村、蜂谷、遠藤の冷たい視線。そこに馬鹿でかい音量で、歌謡曲が始まる。歌いだすひろ子。ウンザリした顔の佐藤、高橋、中村、蜂谷、遠藤。

○  通り(夜)
   スナックから出てくる佐藤、高橋、中村、蜂谷、遠藤。全員、千鳥足である。店のドアが閉まった後、ひそひそ声の会話。
高橋「結局、断られてんじゃねーかよ」
蜂谷「おまけにぼったくられるし・・・」
中村「耳もおかしくなるし・・・」
遠藤「最悪」
佐藤「最悪だな、ここ(とスナックを指さして)」
   いや、お前がな、という顔で佐藤を見る高橋、中村、蜂谷、遠藤。

○  道(夜)
   酔った足取りで歩く佐藤。携帯電話の着信音が鳴る。
画面を見る佐藤。電話を取り落としそうになる。

○  携帯電話画面(夜)
   「弥生」「今から逢えませんか」

○  道(夜)
   携帯電話をじっと見つめる佐藤。
佐藤「マジで・・・」

○  居酒屋(夜)
      座敷。テーブルを囲んで座っている高橋、中村、蜂谷、佐藤。
いずれの顔も深刻である。店員が注文をとっているが。
蜂谷「ウーロン茶」
四人とも手を挙げる。
店員「村一番のウーロン茶が四つですね」
蜂谷「(きっぱりと)ウーロン茶。以上」
店員「他には?」
蜂谷「(きっぱりと)以上」
   店員、いぶかしげに去っていく。
   沈黙。誰から口を開こうかという雰囲気。
佐藤「実は、昨日、蜂刺されてさ」
   首を指差す遠藤。
蜂谷「泣きっ面に蜂、だな」
遠藤「笑えないよ」
高橋「でもサ、実は俺もなんだ」
遠藤「え。高橋も刺されたの?」
高橋「ううん」
蜂谷「何だよ。俺もって」
高橋「俺はね。かににはさまれた」
中村「何だよ。何でかににはさまれてんだよ」
蜂谷「何か、高橋君、ボツボツなってるのは、そのせいか?」
   蜂谷の首、赤くなっている。
高橋「そうなんだよ。蕁麻疹」
中村「何でかににはさまれてんの?」
高橋「家で、俺に内緒で沢蟹、食おうとして捕まえてたんだよ。それが脱走してさ」
中村「高橋をはさんだ」
   頷く高橋。
中村「すると、これはもう偶然じゃない」
高橋「え」
中村「俺もなんだ」
   驚く高橋、遠藤、蜂谷。
高橋「何だよ。まさか、中村はえーと」
中村「俺、怪獣っつーか、猿のはずだったろ。でも、栗みたいなんだ」
高橋「栗を踏んづけちゃった、とか?」
   頷く中村。
高橋「まじかよ。俺、今、背筋がぞぞぞっとしたぜ」
   高橋、中村、遠藤、ゆっくりと蜂谷を見る。
高橋「蜂谷はどうなんだ?何か、臼関係でなかったか?」
蜂谷「それがさ、振り返ってみたけど・・・何も・・・」
中村「え~三人とも、何かあるのに、それは無いだろう」
高橋「思い出してみろよ。昨日、臼にぶつかって、転んだとか」
蜂谷「いや、確かにぶつかって転んだんだけど」
高橋「ほら見ろ。それが・・・」
蜂谷「いや、臼じゃなかったんだ。それが。何か玄関に置いてあった、こう、木をくりぬいたやつで、あれは」
高橋・中村・遠藤「(声を揃えて)いや、それが臼だから!」
蜂谷「あ、そうなの?それが臼なの?」
高橋「お前、臼知らないで、臼引き受けたの?」
蜂谷「(今ごろ怒って)この村一、臼に似合う男ってどういうことだよ!」
遠藤「ところで、サ、ちょっとここだけの話なんだけど」
高橋「ん?」
遠藤「昨夜、蜂に刺されてから、俺、ずっと体がおかしいって言うか、ちょっと」
高橋「何だよ。気になるな」
遠藤「あのさ。他の誰にも言わないでくれよ」
立ち上がる遠藤。ズボンを少し下げ、パンツを引っ張り、尻の部分を見てくれというしぐさをする遠藤。おそるおそる覗く高橋。
高橋「!」
驚いて、遠藤を見る高橋。中村と蜂谷も遠藤の尻を覗く。
中村「!」
蜂谷「!」
遠藤「何か、それって蜂の針だよね?」
   恐ろしいものを見たように、頷く高橋、中村、蜂谷。
高橋「まさか、俺たち、本当にさるかにのヒーローになってしまったんじゃないか。遠藤は蜂だ。蜂に刺されて、蜂の力を身につけた。中村は栗。何か変わったことはないか?」
中村「まだ・・・」
と言った途端、頭髪が栗のように立つ。
高橋「うわっ。今来た!」
遠藤「で、蜂谷は?」
蜂谷「確かに!体重が増えた。七百グラムも」
首を捻る高橋。
高橋「それは良く分からんけど。で、俺は。俺は体が赤くなってる」
蜂谷「それは蕁麻疹だろ」
中村「あ」
   中村、高橋の口元を指差す。高橋の口の周りにいつの間にか、泡。
中村「高橋ちゃん。口から泡が」
高橋「ほら・・・俺もかにになってきた」
蜂谷「待てよ。ということは・・・」
高橋「あ。佐藤」
中村「牛の」
遠藤「くそ・・・」
   顔を見合わせる高橋、中村、遠藤、蜂谷。
高橋「でもさ、俺たち、仲間だもんな」
中村「なんだかんだ言って、まこっちゃんのこと、みんな愛してるよな」
蜂谷「時々暑苦しいけど」
遠藤「でも、好きだよね」
高橋「あたたかく迎えてやろうな」
   手を突き出す高橋。その手に手を乗せていく中村、遠藤、蜂谷。決意を固め、それぞれの顔を見る四人。

○  同
遅れて高橋、中村、蜂谷、遠藤のテーブルに来る佐藤。
高橋、中村、蜂谷、遠藤、覚悟して佐藤を見るが、特に佐藤は臭くないようで。
高橋「まこっちゃん。昨夜、どうしたんだよ。つながんなかったぞ、ケータイ」
佐藤「うふふふ。それどころじゃなかったんだよ、諸君。俺に、すげーことが起きたんだ」
蜂谷「そうか。やっぱり、まこっちゃんにも、か」
佐藤「まこっちゃんにも・・・って・・・」
高橋「でも、臭くないな」
佐藤「臭くないって。ちゃんと体洗ってるから」
高橋「まこっちゃん。俺たち、俺たちの体、えらいことになってるんだぜ」
佐藤「え」
高橋「かにレッド」
   と、手を出す高橋。高橋の手はかにのはさみになっている。
   のけぞって、驚く佐藤。
中村「くりブルー」
   中村の頭髪、更に尖がる。のけぞって、驚く佐藤。
遠藤「はちイエロー」
   立ち上がる遠藤。尻から、針が出ている。驚く佐藤。
蜂谷「うすグリーン」
   少し飛び上がる蜂谷。部屋が大きく揺れる。
佐藤「・・・」
高橋「まこっちゃん。まさか、何も変化が無かったのか?」
佐藤「え」
佐藤の声「嘘だろ・・・俺・・・俺は・・・」
蜂谷「でも、まこっちゃんも、何か、報告したいことあるって」

○(回想)通り(夜)
   弥生と、手をつないで歩いている佐藤。

○  居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐藤、高橋、中村、蜂谷、遠藤。
佐藤「(動揺しつつ)お・・・俺も。実は、俺もなんだ」
高橋「何だ。ドキドキさせやがって。やっぱり、まこっちゃんもか」
   頷く佐藤。
高橋「異変が起きてから、皆、連絡取り合ったんだぜ。興奮して。でも、まこっちゃん、連絡つけられなくて」

○(回想)喫茶店(夜)
   楽しそうに、弥生と喋っている佐藤。

○  居酒屋(夜)
   座敷。テーブルを囲んで座っている佐藤、高橋、中村、蜂谷、遠藤。
佐藤「皆、鼻つまんでくれ」
高橋「え」
蜂谷「やっぱり」
佐藤「そうなんだ。かなり臭いぞ。良いか。しっかりつまんで」
鼻をつまむ高橋、中村、蜂谷、遠藤。
佐藤「一瞬だけな。牛のくそピンク!」
おそるおそる鼻をつまんでいた手を放す高橋、中村、蜂谷、遠藤。
佐藤「(勢いで)そうか。脱落者いなく、みんな本物のヒーローになったんだな」
高橋「俺たち、さるかに戦隊だな」
   眩しそうにその会話を聞く佐藤。何か乗り切れていない自分を払しょくするかのように声を出す佐藤。
佐藤「お、おう!」
   手を前に突き出し、手を乗せろという仕草をする高橋。
高橋「ほら、まこっちゃん、こういうの、好きだろ」
佐藤「お、おう!」
   高橋の手の上に次々と手を乗せる蜂谷、中村、佐藤。
手を乗せかねている佐藤。
高橋「どうした、まこっちゃん」
蜂谷「かにじゃなくて、レッドじゃなくて、悔しいのか?」
佐藤「いや、違うよ」
   ためらいつつ、ゆっくりと手を乗せる佐藤。

○(回想)携帯電話画面
   「弥生」「今から逢えませんか」

○(回想)道
   携帯電話をじっと見つめる佐藤。
佐藤「・・・」

○(回想)喫茶店
   向かい合って座る佐藤と弥生。
弥生「マコトさん・・・実は、お願いがあるの」
佐藤「え・・・何?」
弥生「助けて欲しいの」
佐藤「た、助ける・・・?」
弥生「私、こんな、今のような仕事、したくなかった」
   涙をつーっと流す弥生。
佐藤「どうしたんだ?弥生ちゃん。俺ができることなら、何でもするよ」
弥生「ただ、話を聞いて欲しいの・・・私、マコトさんに嘘をついてた」
佐藤「え」
弥生「私、マコトさんのこと、好きよ。それは、本当」
佐藤「・・・」
弥生「でもね。私、ずっと小さい頃から、言うこと聞かせられて・・・好きでもない、男と・・・小さい頃からずっと・・・私、もう、ぼろぼろなの・・・」
佐藤の手を握る弥生。話が重すぎて、呆然としている佐藤。

○  スナック・店内
   ものすごく厚い化粧のひろ子、水割りをつくっている。
弥生の声「あの女は、私の継母になるんだけど、もう私には家族みたいな人は、あの人しかいなくて、小さい頃から育てられたから、それなりに恩みたいなものはあったけど、中学卒業してすぐに、そういうことをさせられて」

○カフェ
泣いている弥生。
   弥生の肩に手を置く佐藤。
佐藤「分かった。俺が話しをつけよう」
弥生「え」
佐藤「あの女に話してくる」
弥生「・・・」
佐藤「そして、弥生ちゃん。俺と一緒に来てくれるか」
弥生「・・・」
佐藤「この村を出よう」
   顔を上げ、佐藤を見る弥生。佐藤に強く抱きつく弥生。
弥生「嬉しい」
佐藤も、弥生を強く抱く。
弥生「でも、無理だと思う」
佐藤「・・・」
   佐藤から身体を離す弥生。
弥生「あの女は、私を離さない。あの女にはヒモもいてね。そいつが見張ってるの。私を」
佐藤「大丈夫だ。俺がそいつも倒してやる」
弥生「マコトさん・・・」
佐藤「弥生ちゃんをそんな目に遭わせた女。許せねぇ」

○  スナック・店内
   ソファでくつろいでいるひろ子、向かい側にだらしなく座り、
煙草をふかす三井博(49)。体格が良い。鋭い目の、柄の
悪そうな男。顔に傷がある、強そうな男。

○  通り(夜)
   携帯電話を見つめる佐藤。誰かに掛けたいそぶりを見せるが、その手を止め、歩き出す。

○  スナック・店内
   ものすごく厚い化粧のひろ子、ひろ子と向かい合う佐藤。佐藤の横におそるおそる立つ弥生。
ひろ子「それで、あんた。ひょこひょこと話をしに来たってのか?」
佐藤「そうだ。弥生ちゃんは俺と、この村を出る。邪魔をするな」
ひろ子「ほぉ。決め台詞は、それかい?なかなか迫力があって良いね。(奥に呼びかける)あんた」
   店の奥からぬっと出てくる三井。
三井「ん?」
ひろ子「この、あんちゃんがね、弥生を連れて出て行くって言うんだよ」
三井「ふうん。このもやしみたいなのがね」
   佐藤をねめ回すように見る三井。
三井「弥生はな。俺が仕込んでやったんだ。可愛い女だ。絶対、おめぇみてーな男じゃ、満足できねーよ」
弥生「そ、そんなことないっ!」
   カッとなって、三井にかかっていく佐藤。しかし、簡単に殴り倒される。悲鳴を上げる弥生。
三井「勝てないンだって。諦めろ」
   立ち上がる佐藤。
佐藤「俺は、牛のくそピンクだ」
   かかっていく佐藤。投げ飛ばされる。
三井「何、わけわかんねーこと、言ってんだ?」
   床に倒れている佐藤、呟く。
佐藤「赤いはさみも持っていないし、髪の毛も尖っていないし、針も出せないし、力もないけど・・・ついでに言うと、身体を臭くすることすらできないんだけど」
三井「おい。頭でも打ったか」
   と佐藤を覗き込む三井。そこで佐藤、いきなり立ち上がるので、三井の額に佐藤の頭が当たり、ひっくり返る三井。
三井「このやろ、やりやがったな」
   立ち上がり、佐藤を殴ったり、蹴ったりする。悲鳴を上げ続ける弥生。そこへドアを開けて、入ってくる高橋。
高橋「あ。まこっちゃん」
佐藤「・・・」
床に倒れている佐藤。じっと高橋を見つめる。
ひろ子「今、取り込み中だよ」
三井「おい」
   と、高橋に声を掛ける。
高橋「みんなを呼んでくる」
パッと走り出す高橋。
ひろ子「まずいね。警察、呼ばれちゃうよ」
三井、舌打ちする。

○  道(夜)
   なぜか横走りの高橋。
    × × × ×
ゼェゼェと荒い息を吐き、ばてている高橋。
高橋「こんな時、かにである意味は全然ねぇ・・・そうだ。電話で知らせよう」
ポケットから携帯電話を取り出そうとするが、はさみになっている手では掴みにくく、電話落とす。
高橋「ちっ」
もどかしそうに、電話を拾い、ボタンを押す高橋。

○  スナック前
   中に入ろうとする高橋、中村、蜂谷、遠藤。
   しかし、スナックのドア開かない。
高橋「開けろっ。開けるんだっ!」

○  スナック・店内
   ドア付近にソファを積み重ねるなどして、バリケードがつくられている。
三井「うるせー入ってきてみろ。こいつの命はねーぞ」
   店の奥で、血まみれの佐藤の首を抑え、人質にとっている三井。ひろ子も傍にいる。ひろ子は弥生を押さえつけている。

○  スナック・前
   身構える蜂谷。
蜂谷「ここは俺だね」
突進し、体をドアにぶち当てる蜂谷。バリケード、簡単に吹き飛ぶ。驚く三井とひろ子。
中村「次は俺だ」
   三井に突進していく中村。
三井「はっ?」
呆気にとられている三井の、隙を狙って、手首を噛む佐藤。三井がナイフを落とした隙に、ぱっと離れる佐藤。佐藤、ひろ子を押し飛ばし、弥生の腕を掴み、引き離す。
佐藤を追おうとした三井に、頭突きをする中村。
三井、悲鳴を上げる。遠藤もジャンプし、ヒップアタックをする。尻から針が出て、三井に刺さっている。ひろ子をはさみで、はさんでいる高橋。嬉しそうに、仲間の活躍を見る佐藤。
佐藤、ゆっくりと崩れ落ちる。
弥生「マコトさんっ」
   倒れている佐藤に駆け寄る弥生。蜂谷、遠藤、中村、高橋もそれぞれ口々に佐藤を呼びながら、駆け寄る。
佐藤「どうだ。見たか。牛のくそピンクの力を」
弥生「マコトさんっ。今、救急車、来るから」
   遠くから救急車の音が聞こえてくる。
佐藤「な。一つ、良いこと言ってよいか・・・」
高橋「もう、喋るな」
佐藤「あのな。とても良いこと、思いついたんだ。言わせてくれ。俺、小さい頃、ヒーローもの見てた時、ひねくれて思ってたんだ。怪獣が大きくなってから、五人で力合わせて合体だかして、ロボになったりするンだけど、それなら最初から強いロボの状態で戦えば良いじゃんって・・・そう思ってた・・・でもさ、違うんだな・・・ヒーローってのも、やられて、傷ついて、それで力合わせて、更に大きくなれるんだな」
高橋「笑えねーよ」
佐藤「笑わせてねーよ」
蜂谷「まこっちゃん、やっぱ、最高だよ」
高橋「俺たちのリーダーはやっぱ、まこっちゃんだ」
高橋「そうだ。赤がリーダーってのも、何か先入観だな。ピンクがリーダーで良いじゃねーか。な」
蜂谷「牛のくそピンクがリーダーで良いよな」
   救急車、到着。
佐藤「おい。みんな」
高橋「ん」
佐藤「俺が戻ってくるまでに、次の敵を探しとけよ」
   担架に乗せられる佐藤。救急車に乗せられていく佐藤。佐藤と一緒に飛び乗る弥生。走り去る救急車。救急車を見送る遠藤、高橋、蜂谷、中村。

○  森
   隙を見て逃げ出したひろ子が、走っている。走っているうちに、ひろ子の姿は怪獣化する。爪が長く伸び、口には牙。月に向かって吼えるひろ子。まるで、続編がありそうな、その雰囲気。
               ―完

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