イエローエタニティ 恋愛

「恋は片思いが一番美しい」  高校卒業から、7年後。結婚式前日、高部愛華の元にバラの花籠と差出人のない手紙が届く。相手の気持ちが分からないからこそ、その1つ1つの行動に心を躍らせ、そうして、想いが雪のように降り続け、やがて心の中に白く美しい世界を創り出してしまうからだ、と。  京和音にとって、高部遥人はまさにそうだった。
あさこ 34 0 0 01/07
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第一稿

【人物一覧表】

〇京(かなどめ) 和音(おと) 手紙の送り主。(15)(16)
〇高部(山下) 愛華 和音の親友。(25)(16)
〇高部 遥人 和音の初恋相手。(15) ...続きを読む
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【人物一覧表】

〇京(かなどめ) 和音(おと) 手紙の送り主。(15)(16)
〇高部(山下) 愛華 和音の親友。(25)(16)
〇高部 遥人 和音の初恋相手。(15)(16)

〇男子1 サッカー部で、遥人の友人。
〇女子1 文化祭実行委員。
〇女子2 文化祭実行委員。
〇教師 社会担当。サッカー部の顧問。

〇女子 2―7のクラスメート。
〇男子 2―7のクラスメート



◯住宅街(夕)
   買い物袋を提げ、歩く高部愛華(25)。

◯愛華のアパート・前(夕)
   郵便受けに貯まった郵便物を取る愛華。
   うすいピンクの封筒が足元に落ちる。
愛華「?」
   愛華、封筒を拾い差出人を確認するが書かれていない。
   車のエンジン音がして、アパートの前にトラックが停まる。
   愛華が持っている封筒の宛名と、自分が持っている花籠を交互に見る配達員。
配達員「高部さん?」
愛華「はい」
配達員「これ、高部愛華さん宛てです」
配達員、花籠を愛華に渡す。

◯同・リビング(夕)
   玄関のドアを閉める音。
愛華「ただいまー」
   部屋の中へ入る愛華。
   返事はない。
愛華「まだ帰ってないのか」
   愛華、荷物を下ろす。
   壁掛けのカレンダーは3月。14の数字がハートで囲まれており、その下HappyWedding 
   の文字。
愛華、郵便物をミニテーブルに置く。夕刊の日付は3月13日。
   ×  ×  ×
   愛華、ミニテーブルの前に座り、郵便物を一つずつ確認する。横には、さっき受け取った
   バラの花籠。白みを帯びたバラの中に一輪だけ黄色のバラ。
愛華、うすいピンクの封筒を手に取り、
愛華「高部愛華様……」
   数枚の便箋を取り出す。
   便箋、『親愛なる、高部愛華様 “恋は片思いが一番美しい“あなたはそう言いました』
和音(N)「恋は片思いが一番美しい」

◯(回想)学校・廊下
   数人のグループを作って、戯れる生徒たち。
   その横を、京和音(15)が一人で歩いている。
和音(N)「好きな人のちょっとした一言で気分が上がるし、連絡がくるだけでとても嬉しい。
    相手の気持ちが分からないからこそ、その1つ1つの行動に心を躍らせて、そうして
    想いが雪のように降り続け、やがて心の中に白く美しい世界を創り出してしまうから
    だと。私にとって、彼もまさにそうでした」
   向かいから、高部遥人(15)が男友達と歩いてくる。
  すれ違う和音と遥人。
  ノートに挟んでいた物理のプリントがひらりと落ちるが、気づかずに歩く和音。
   遥人、プリントを拾う。
遥人「あ、ちょっと」
和音「……」
遥人「ねぇ」
   遥人、和音に駆け寄る。和音の腕をつかみ、
遥人「待って」
和音「?」
遥人「これ」
   和音にプリントを差し出す。
和音「あ、ありがとうございます」
   顔を伏せたま受けとる和音。
遥人「何て読むの?」
和音「え?」
遥人「名前」
和音「?」
遥人「読み方難しくて」
和音「か、かなどめ」
遥人「下は?」
和音「おと」
遥人「へー。やっぱ読めないや。きれいな名前だね」
和音「……」
遥人「次物理の授業、でしょ? 頑張って」
   去って行く遥人の背中を眺める和音。
和音(N)「30秒にも満たない会話でしたが、私にはとても大きなものになりました。初恋、で
   した。それからというもの」

◯同・教室前・廊下
   一人で廊下を歩く和音。立ち止まり、遥人を眺める。
   遥人、机に座りながら友達と談笑している。
和音(N)「彼のいる教室の前を通るたび」

◯同・廊下
   友達とふざけ合いながら歩く遥人。
  その横を通る和音。
和音(N)「彼と廊下ですれ違うたび」
   和音に見向きもせず通りすぎる遥人。
和音(N)「いろんな瞬間に」
 振り返り、通りすぎた遥人を眺める和音。
和音(N)「私の心臓は、名前も知らない彼のせいで、飛び出してしまいそうな程に高鳴るので
    した」

◯同・外観・満開の桜の木(朝)
和音(N)「そして、転機が訪れます」

〇同・教室前
   廊下側の窓の上あたりに2―7の札。

◯同・教室内(朝)
   クラス替えで盛り上がる教室。
   和音、窓側の席に座っている。窓の外を眺めながら、誰とも話そうとしない。
   遥人、和音の隣の席に鞄を置く。
遥人「おとさん?」
和音「?」
  振り返り、
和音「!」
遥人「合ってるよね? “おと”で」
和音「……」
和音(N)「彼は私を覚えてくれていました」
遥人「俺のこと覚えてる? 廊下でプリント拾った……」
和音「……はい」
遥人「席隣だね」
和音「あ……」
遥人「みんな、たかがクラス替えくらいでうるさいよね。分かる。窓の外を眺めたくなる気持
   ち」
和音「あ、あの……」
遥人「ああ、俺? 遥人。高部遥人」
和音「ああ」
遥人「よろしく」
   右手で握手を求める遥人。
  ゆっくり、それに答える和音。
和音(N)「嬉しくて嬉しくて、少し恥ずかしくて。でもやっぱり嬉しくて」

◯和音の自宅・部屋(夜)
   教科書とノートを広げ、勉強する和音。ふと、手を止め、ノートの端に『高部遥人』と書
   く。
  右の手のひらを見つめながら、微かに笑う。

◯学校・教室内
   黒板『国語 9:00~9:50』
  和音、机に筆箱を置いて、ノートを見ている。
遥人「やっべ、筆箱忘れた」
  遥人、後ろの生徒に。
遥人「悪いけど、ちょっと貸して?」
男子「やだよ」
遥人「こんなにいっぱいあるんだから1本くらい」
男子1「俺、心配性だから、この数ないと集
   中できなくて」
   二人のやり取りを横目で見る和音。
遥人「えー。1本くらい貸してくれたって……」
和音「あの……」
遥人「?」
和音「これ」
   シャーペン2本と消しゴム1個を、遥人に差し出す和音。
遥人「いいの?」
   うなずく和音。
遥人「京さんのは?」
和音「いっぱいあるから、大丈夫」
  遥人、それらを笑顔で受け取り、
遥人「ありがと」
   思わず、遥人から目を反らす和音。
教師「はーい。5分前だから席着けぇ」   
   和音、筆箱からシャーペンを2本取り出し机に並べる。
  空になった筆箱。
   × × ×
和音(N)「何でもいいから」
   テストに集中する生徒たち。
  和音、テストを解いているが、字を間違える。
和音「……」
  間違えた字に二重線を引き、隣に正しく書き直す。
   和音、遥人を見つめる。
和音(N)「彼と、話したかった」

◯同・教室
   鞄をあさる遥人。
遥人「あー、ロッカーだ」
男子「お前また忘れたのか。仕方ない俺が」
   鞄をあさる男子1。教科書は出てこない。
遥人「お前もロッカーか?」
   頷く男子。
男子1「走ったら間に合うかも」
   教室に入って来る教師。
遥人「ごめん。教科書一緒に見せて?」
和音「う、うん……」
男子1「おい。抜け駆けする気か?」
   机を和音に寄せる遥人。
   ×  ×  ×
   教科書を開き、二人で見ている。
和音(N)「会話とは言えないくらいの言葉のやり取りだけで」
   二人の肘と肘がくっついている。
和音「……」
和音(N)「私にはとても幸せでした」

◯同・外観・青葉の桜の木

◯同・教室内(朝)
教師「えー、今日からこのクラスに入ることになった山下さん」
   教壇に立つ、教師と山下愛華(16)。
   ざわつく教室。
教師「じゃ、自己紹介して」
愛華、咳払いして、
愛華「山下愛華です。引っ越して来たばかりで、まだ慣れないこともありますが、みなさん、よ
   ろしくお願いします」
教師「後ろの席空いてるから、そこに」
愛華「はい」
男子1「先生! せっかくなので、席替えしませんか? 俺、山下さんの隣がいいでぇす」
男子2「俺も俺も!」
女子「ったく、男ってほんとバカなんだから」
教師「まあ、好きにしろ。1限目俺の授業だから。ただし、静かにな」
   盛り上がる生徒たち。
  一緒に喜ぶ遥人の顔を、不安げに見つめる和音。
   × × ×
   黒板に座席が書かれている。
  荷物を机に置く和音。
愛華「京さん? よろしく!」
   愛華、和音の前に座る。
和音「あ、はい」
遥人「あれ? また席近いね」
  遥人、和音の斜め前の席に座る。
和音「……」
   男子1、遠くの方から、
男子1「遥人ぉ! 何で愛華ちゃんの隣がお前なんだよぉ! 愛華ちゃぁん!」
   作り笑いする愛華。
和音(N)「きれいで、明るくて、優しくて。あなたは、私に無いものばかり持っていました」

◯同・教室内
女子「山下さん、一緒に行こう」
愛華「うん」
   女子と一緒に廊下に出るが、和音が1人でいることに気付く愛華。
   教科書とノートを揃える和音。
愛華「ごめん。筆箱置いてきちゃったから先行ってて」
女子「分かった」
   愛華、和音の元へ。
愛華「京さん。一緒に行こう。まだ教室の場所分からなくて」
和音「ああ、うん」

◯同・教室内(日替わり)
   色鮮やかな弁当が、和音の手によって机に広げられる。
   後ろを向いて、和音の机で弁当広げている愛華。
愛華「わあ! すごい」
和音「……」
愛華「自分で作ってるの?」
和音「うん」
愛華「すごい。料理上手なんだね」
和音「お母さん、働いてるから」
愛華「うちもそうだけど、私は作ってもらってるわー。私も京さん見習わないとな」
和音(N)「私の人生で、初めての、そして、たった一人の親友」
愛華「京さんは、何か部活やってるの?」
和音「私は、何も」
愛華「んー、そっかぁ」
和音「……」
愛華「いやね、家もだいたい片付いてきたしちょっと暇になってきてさ。何かしたいなぁって思
   うんだけど」
和音「私なんかより、他の子に聞いた方が」
愛華「ダメダメ。何かすでにグループできちゃってて、話しかけにくいし。ほら、私めっちゃ人
   見知りって感じでしょ?」
和音「?」
愛華「そう、見えない?」
和音「見えない、かな」
愛華「あー。やっぱダメかぁ。もっとお使途やにするべきかな?」
   愛華、弾けるような笑顔。
   つられて、小さく笑う和音。
愛華「ねぇ、今度部活見学して回りたいんだけど、一緒に来てくれない?」
和音「え?」
愛華「無理にじゃないけど、ね?」

◯同・運動場(夕)
   部活をする生徒の掛け声がする。
   和音と愛華、歩きながら、
愛華「なんか最近は運動する元気ないなぁ」
和音「……」
愛華「中学ん時はね、陸上部でバリバリ走ってたんだけど」
和音「そうなんだ」
男子1(声)「愛華ちゃぁぁぁん!!」
   グラウンドの真ん中で、男子1が手を振っている。
  手を振り返す愛華。
男子1「遥人。愛華ちゃんが見てるよぉ」
遥人「集中しろ」
   遥人、男子生徒を小突く。
愛華「高部くんサッカー部なんだね」
   ドリブル練習をする遥人。
   和音、遥人を目で追う。
愛華「ユニホーム着るといつもの倍格好よく見えるね」
和音「うん……」
   和音、ただ黙って遥人を見つめる。

◯同・廊下・和室前(夕)
愛華「やっぱ部屋の中で出来るやつがいいよね」
和音「……」
愛華「お?」
   和室を覗く愛華。
   中には花を生ける生徒。
愛華「華道部か」
講師「何?見学?」

◯同・和室内
   花を生ける愛華。
  それを見ている和音。
講師「へー。なかなかセンスあるわね」
愛華「実は、祖母が生け花の先生やってて」
講師「なるほど」
愛華「よし。できた」
講師「良いじゃない。入部したら?」
愛華「はい。そうします」
講師、和音に向かって、
講師「あなたは?」
和音「私は……」
愛華「彼女も一緒に」
和音「え?」
   いたずらに微笑む愛華。

◯街中(夕)
愛華「ごめんね。ちょっと強引だった?」
和音「ううん。大丈夫」
愛華「まあ、週2だし、暇つぶしにね」    
和音「うん」
愛華「じゃ、私こっちだから。また明日ね」
   手を振り、別れる愛華。

〇学校・教室内・昼休み
   何やら騒がしい廊下。
女子「見た?2組の山田が告ったんだって。みんなの前で公開プロポーズみたいな」
女子「いいよね~。私も彼氏欲しい」
   それを遠巻きに聞いている和音と愛華。
愛華「そんなことする奴ほんとにいるんだね」
和音「私には全然関係ない話だな」
愛華「どうして? おとは好きな人いないの?」
   顔を赤くして、俯く和音。
愛華「おや? おやおやおや。その顔はもしかして」
和音「い、いないよ」
愛華「誰? このクラス? もしかして、初恋?」
和音「っ!」
愛華「図星かぁ」
   和音、さらに顔を赤らめ下を向く。
愛華「初恋ってね、恋の中で一番美しいんだって」
和音「そうなの?」
愛華「うん。好きな人のちょっとした一言で気分が上がるし、連絡が来るだけで嬉しいでし
   ょ? そうやって、想いが雪みたいに振り続けて、心の中に白くて美しい世界を作り上げ
   ちゃうからなんだって」
   愛華の話を聞きながら、遥人のことを考える和音。
和音「愛華は、好きな人いるの?」
愛華「私は……」
和音「……」
愛華「秘密」
和音「えっ。私には聞いたくせに」
愛華「ほら。やっぱりいるんでしょ?」
   和音、顔を真っ赤にして、
和音「いないってば!」
愛華「分かった分かった」
   お腹を抱えて笑う愛華。深呼吸して呼吸を整えて、
愛華「私もね、初恋なんだ」
和音「……」

〇同・グラウンド(夕)
   校門へ向かう和音。
   ふとグラウンドを見ると、遥人の姿が。
   水を飲み、休憩している様子の遥人。
   横には愛華がいて、遥人にタオルを渡す。そのまま仲睦まじげに話している二人。
和音「?」

◯同・教室内(朝)
愛華「おと、昨日の、見た?」
和音「うん。見た」
愛華「最高だったよね! ジュッテと惑星キャンディのネタのコラボ」
和音「とくに、あれ」
   アイコンタクトする和音と愛華。
  愛華、大爆笑。
   和音、静かに笑う。
遥人「朝から楽しそうだな」
愛華「おはよう、高部」
和音「お、おはよう」
愛華「昨日のテレビの話ししてたの」
遥人「もしかして、爆笑天国?」
愛華「そう。高部も見た?」
遥人「見たよ! 俺、惑星キャンディの大ファン」
愛華「マジ? 私たちと一緒じゃん!」
遥人「マジ? 京も?」
和音「うん」
遥人「意外だなぁ。なんか、もっと、クイズ番組みたいなの見てるかと思ってた」
和音「ライブのDVDも持ってるよ」
遥人「マジで? 超羨ましいー」
和音「よかったら、貸そうか?」
遥人「いいの?」
和音「うん」
愛華「えー、ズルい。おと、高部の次私も借りてもいい?」
和音「うん、いいよ。明日持って来るね」

◯和音の自宅・部屋(夜)
   机の前のコルクボードには、時間割表と、和音と愛華が写る写真が飾られている。
   本棚からDVDを探す和音。惑星キャンディのタイトルのDVDが3本。その内の1つを手に
   取るが、少し迷って残りの2本も取り出す。
   息を吹き掛けたり、手ではたいたりして埃を払う。
   ×  ×  ×
   机の前に座り、DVDのケースを拭いている和音。汚れがないか入念にチェックする。
   和音のスマホ着信音。
   遥人からメッセージが。
   スマホ『京は、他にもお笑いよく見るの?』
   和音、メッセージを見てにやけながらベッドに横になる。
   どう返信するか悩みながら、ベッドの上でごろごろする和音。
    ×  ×  ×
   起き上がって、文字を入力する和音。
   スマホ、『ジュッテも好きかな(._.)』
   送信する。
   和音、何か思い出した様子で、
和音「そうだ」
   本棚の上から缶の箱を下ろす。蓋を開けると、包装された状態のままのチャーム(ピンク
   と黄色)。
   それらを手に取り、微笑む和音。

◯学校・教室内(朝)
   席に座っている和音。
  遥人、教室に入ってくる。
遥人「おはよー」
和音「おはよ……」
席に座る遥人。
和音「あ、あの。これ……」
和音、紙袋を差し出す。
遥人「ん?」
和音「昨日言ってた……」
遥人「あー。もう持って来てくれたんだ」
和音「どれがいいか分からなくて、全部持って来た」
遥人「サンキュー」
   遥人、袋を開き中身を見る。
   黄色のチャームを取り出し、
遥人「これって、“何に使うかわからんやつ”でしょ? ネタに出てくる」
和音「うん」
遥人「初ライブの限定品で、もう売ってないよね?」
和音「たまたま家にあって。本当はペアなんだけど、1つしかないから」
遥人「貰っていいの?」
和音「うん」
遥人「やった!」
和音「あ、でも。愛華には内緒ね」
遥人「おっけー! 二人だけの秘密だな」
和音「……」
遥人「ありがと」
   嬉しそうにチャームを眺める遥人。
   それを嬉しそうに見つめる和音。

◯同・校門(夕)
   鞄に付けられた黄色のチャーム。
愛華「あれ? それって、“何に使うかわからんやつ”でしょ?」
高部「ああ。その通り」
自慢気な遥人。
  愛華の隣から顔を覗かせ、高部の鞄を見る和音。
   和音、口角を少し上げて笑う。
愛華「いいなー。それもう売ってないよね。買ったの?」
高部「神様からの、贈り物さ」
   天を仰ぐ遥人。愛華に気づかれないように、和音にウインク。
愛華「は? それってペアじゃなかったっけ? もう片方はどうしたの?」
遥人「神様が持ってるんじゃない?」
愛華「ったく、何言ってんだか」
   呆れた顔で歩みを止める愛華。つられて和音も止まる。
   ふざけながら歩いて行く遥人を眺める愛華。
遥人「来ないのかー? せっかくジュースでも奢ってやろうと思ったのにー」
愛華「バカ! 行くに決まってるじゃない!」
遥人「俺に追い付けたらなー!」
   走り出す遥人。
愛華「行こ」
愛華、和音の手を引いて走る。

◯同・教室内
愛華、廊下側の窓から顔を覗かせながら、
愛華「おとー。先行くよー」
   和音、教科書を鞄に詰め込む。鞄の紐に付けたピンクのチャームを鞄の中に入れて隠し、
   チャックを閉める。
和音「待ってぇ」

◯同・和室(夕)
   花を生ける和音と愛華。
愛華「おとってさぁ」
和音「?」
愛華「お母さん、花好きだったりするの?」
和音「そんなことないけど、何で?」
愛華「いや、“和音”ってバラの名前があってね。もしかしたら、それに因んでるのかなって」
和音「さー。どうだろう」
愛華「もしそうだったら、私たち名前に共通点があるんだよ」
   愛華、手を止める。
和音「え?」
愛華「バラって、愛の花なんだよ。だから私も、“愛“の”華”でしょ?」
   空中で文字を書く愛華。
和音「あー」
愛華「お母さんが、何か花関連にしたかったんだって。そのせいか、私、バラが一番好きなんだ
   よね」
  作業に戻る愛華。
愛華「特に和音はね、花の中心に明かりを灯したような特徴的な花色なんだけど、どんな場面で
   調和するから、まさに“和音”を奏でるみたいって言われてるんだ」
和音「私とは正反対だね」
愛華「そぉ?」
   しばらくして手を止める和音。
和音「和音ってどんななの?」
愛華「見せてあげようか?」
   愛華、スマホを取り出す。
   何回かスワイプした後、スマホを和音に見せる。
   スマホ、一輪の和音の写真。
愛華「これ、何色だと思う?」
和音「白、かな」
愛華「でしょ!私も白だと思ってる。世間的には、黄色なんだけどね」
和音「?」
愛華「花言葉がね、白だと『純潔』『私はあなたにふさわしい』『深い尊敬』だから、こっちの
   花言葉の方が好きで」
   作業に戻る愛華。
和音「じゃあ、黄色は?」
愛華「『友情』『愛情の薄らぎ』、それから『嫉妬』」
   愛華、花の茎をハサミで切り落とす。

◯同・教室内
男子1「はい! 俺、メイド喫茶やりたいです!」
   椅子の上に立つ男子1。
   教壇に立つ、女子1と女子2。
女子1「女子のメイド姿見たいだけでしょ?」
男子1「違う! 断じて違う! 女子じゃなく、“愛華ちゃんの”メイド姿が見たいんだー!」
女子1「はいはい」
女子2「他に何か意見ない? 無かったらメイド喫茶で決まりだけど」
女子3「面白そうだし、賛成!」
男子2「俺もー」
女子2「じゃあ2の7の出し物は、メイド喫茶で!」
   拍手する生徒たち。
   和音も小さく拍手。
女子2「次は係決めて行くね」
愛華、半身後ろに振り返って、
愛華「ねぇ、何にする?」
和音「んー」
愛華「看板とかどう?」
和音「でも私、絵上手くないし……」
愛華「私に任せなさい」
   そう言って、
愛華「はい! 看板は京と山下でやります!」
女子2「おっけー。あともう一人くらい欲しいなぁ」
男子1「俺が!」
女子2「あんたはダメ」
男子1「何で?!」
女子2「繊細な作業できないでしょ?」
男子1「……」
   笑いが起こる教室内。それを遮るように、
遥人「俺がやるよ」
   手を挙げる遥人。
女子2「よし、決まり。よろしくね」
愛華「頑張ろうね」
   愛華、明るく和音に笑いかける。

◯同・図書室
   黙々と作業をする和音、愛華、遥人。
遥人「こんなのどう?」
   紙を和音と愛華に見せるが、何を描いたのか分からないくらい下手な絵。
愛華「ダメ、話しにならない」
   拗ねる遥人。
愛華「おとは? どんな感じ?」
和音「あ、私は……」
   両手で紙を隠す和音。
愛華「高部のよりはマシでしょ」
   愛華、無理やり手をどけると、遥人に引けを取らないレベルの絵が描かれて
   いる。
愛華「ああ」
和音「ごめん……」
   遥人、棒読み気味で、
遥人「いや、俺はかわいいネズミだと思うよ」
和音「ウサギ……(消えそうな声で)なんだ」
遥人「……ウサギ?」
   二人の絵を見て、ため息を吐く愛華。
愛華「二人とも、絵って言うのはね、こういうやつを言うの」
   紙を二人に見せる。
和音・遥人「おー」

◯同・校門前(朝)
   立看板『◯◯高校文化祭』

◯同・教室前
   愛華のデザインの看板。

◯同・教室内
   にぎやかな教室内。
   パンフレットを見ながら、出し物を確認する和音と愛華。
  メイド姿の男子1。
男子1「愛華ちゃんは、まだメイドにならないのかい?」
愛華「お昼から担当だから、私」
   ショックで固まる男子1。
   女子たちの歓声。
  メイド姿の遥人。
愛華「わぁお。なかなかお似合いよ」
遥人「死んだ方がマシだ」
愛華「まあ、頑張って。あんた目的で来る人以外と多いし」
   遥人の腕を叩く。
男子1「愛華ちゃん。俺も頑張る!」
   無視して愛華、和音と肩を組んで、
愛華「さ、私たちは午前中の内に全部制覇するわよ! 行こう」

◯同・教室内
   ワッフルを食べる和音と愛華

◯同・庭
   フランクフルトを食べる和音と愛華。

◯同・庭
   団子を食べる和音と愛華。

◯同・庭・ベンチ
愛華「あー、お腹いっぱい」
   ベンチに座り込む愛華。
和音「私たち、食べてばっかりだもんね」
遥人(声)「おーい」
   制服姿で手を振る遥人。
愛華「店はどうしたの?」
   遥人、駆け寄りながら、
遥人「ちょっと空いてきたから、早めに抜けた。2人は時間通りに戻れば良いって」
愛華「分かった」
   少し空いて、
愛華「そうだ。みんなで写真撮ろ? 高部もそこ座って」
   端につめる、和音と愛華。
   遥人、空いた和音の隣に座る。
愛華「じゃあ行くよー。はい、チーズ」

◯同・外観・葉が落ちた桜の木

◯同・教室内
   教室に入る和音。
   教室には、男子1と遥人が。男子1は寝ている。
   足を止める和音。
遥人「おはよ」
和音「おはよ」
   和音が席に着くのを見て、
遥人「いつもこんなに早いの?」
和音「うん。高部くんは?」
遥人「朝練が早く終わったから」
和音「ああ」
   無言が続く。
   和音の髪のゴムが切れ、髪がほどける。
和音「あ」
   髪に手を当てる和音。
遥人「……」
   和音、切れたゴムを調え結び、髪をくくり直そうとする。
遥人「下ろしてた方がかわいいのに」
和音「え?」
   手が止まる和音。
遥人「髪、下ろした方が似合うと思うけどな。前髪も、ほら」
   遥人、和音の前髪を分ける。
遥人「こうした方がかわいく見える」
   心臓が高鳴る和音。
和音(N)「私は決意しました」

◯和音の自宅・部屋
   文化祭で撮った写真を見ている和音。
和音(N)「彼に想いを告げることを」
   引き出しから便箋を取り出す。
 『高部くんへ』と書き始める和音。
   ミミズが這ったように震えている文字。
   和音、新しい便箋を取り出す。
   深呼吸して、再び書き始める。
  ちょっと書いては消し、またちょっと書いては消しを繰り返す。
和音(N)「何度も何度も書き直して、ようやく書き上がったあの日」

〇学校・教室内(朝)
和音(N)「あなたから衝撃の言葉を聞かされます」
   和音、うすいピンクの封筒を、机の下で持って席に座っている。
愛華「おはよう」
   席に座る愛華。
愛華「私ね、高部と付き合うことにしたの」
和音「……え?」
   封筒を持った手に力が入る和音。
和音(N)「ショックでした」
   嬉しそうに、経緯を話す愛華。
   和音、引きつった笑顔で聞いている。
和音(N)「でも」

◯同・教室内(夕)
愛華「おと、一緒に帰ろ」
和音「私、図書室寄ってくから、先に帰ってて」
愛華「そ。じゃあね」
   手を振る愛華。
   和音、手を振り返さず、愛華を目で追う。
和音(N)「私なんかより、あなたの方が、彼にはふさわしい」
   和音、鞄の紐に付けたピンクのチャームを鞄の中に入れて隠し、チャックを閉める。

◯同・渡り廊下(夕)
   手を繋いで楽しそうに歩く、愛華と遥人。
  それを眺める和音。
和音(N)「彼が幸せなら、それでいいと思いました。そう自分に、言い聞かせました」

〇和音の自宅・部屋(夕)
   スマホを見ている和音。画面、愛華のSNSアカウント。
   投稿されている写真をスワイプする和音。
   時々、和音と愛華のツーショット写真が現れる。
   手を止める和音。
   スマホ、テーマパークで撮った愛華と遥人のツーショット写真。他にも複数の遥人との写
   真。
和音「……」
   和音、遥人との写真に『いいね!』をしていく。

◯同・教室内(朝)
   プリント『学年末テスト スケジュール』
教師「学年末テストの成績は、評定にも影響大きいから、しっかり勉強しとけよ」
   ざわつく教室。
教師「特にサッカー部。点数悪かったらインターハイ出させねぇからな」
男子1「何で担任が顧問なんだ」
   遥人、プリントを見ながら眉をひそめる。

◯同・教室内
和音「え? 勉強を?」
遥人「うん。京、学年1位だろ?」
和音「ああ……」
遥人「とりあえず、土曜まで練習あるから、日曜くらいから。お願いできる?」
和音「うん。わかった 」

◯和音の自宅・玄関(朝)
和音「いってきまーす!」
   ふと、下駄箱の鏡を見る和音。
  髪は結んで、前髪は短く整えられている。
   しばらく考えて、髪をほどく和音。

◯図書館・中
   向かい合わせで座る和音と遥人。
和音「動径rと速度のなす角をθとすると、三角形FAB、は底辺r、高さvsinθの三角形だから、
   面積Sは」
   和音、ノートに『S = 1/2rvsinθ』と書く。
   ノートをのぞき込む遥人。
   和音、遥人の顔が近いことに驚き、急いで体を引いて、
和音「じゃあ、ちょっと休憩しよっか」
   × × ×
   蓋付きのカップに入ったコーヒーを飲む和音と遥人。
遥人「さすが京だな。超分かりやすい」
和音「そうかな?」
遥人「前に、愛華にも聞いたことあるんだけど」
和音「……」
遥人「全然分からなかったからな。そのくせ、俺の理解力がないからだって言い出すんだよ」
和音「……そうなんだ」

〇和音の自宅・外観
   和音(声)「ただいまー」
◯同・部屋(夜)
   姿見の前に立つ和音。鏡に写った自分を見て、髪を触る。

◯カフェ・中
   向かい合わせで座る和音と遥人。
   テーブルに教科書とノートが広がっている。
和音(N)「彼はいつも、あなたの話しばかりしていました」
遥人「それで、あいつ何て言ったと思う?」
和音(N)「聞きたくなかった」
和音「さぁ、分かんないや」
和音(N)「それでも、私は聞き続けました。
   彼に会いたかったから。そんな時間でさえ幸せだったのです」

◯図書館・中
和音(N)「あなたが現れるまでは」
愛華「ごめんね、私まで。物理は全然分かんなくて」
   隣同士で座る愛華と遥人。その向かいに和音が座っている。
   和音、ひきつる笑顔で、
和音「いいよ」
和音(N)「私は初めてあなたを疎ましく思いました」
   仲良く話す愛華と遥人。それを見つめる和音。
和音(N)「私の方が先に、彼を好きになったのに」

◯学校・教室内
   席に座り本を読んでいる和音。
   廊下の窓から、友達とはしゃいでいる遥人を見つめる。
和音(N)「私の方がずっと、彼を見ているのに」
   愛華が現れ、楽しそうに話す遥人。
和音(N)「彼の隣にいるのはいつもあなたで、私はただ、それを見ているだけ」

◯和音の自宅・部屋(夜)
   デスクライトの明かりだけの部屋。
   文化祭の写真を手に取り、眺める和音。
和音(N)「私の中で」
   ペンたてからハサミを取り、和音と愛華の間に刃を当てる。
和音(N)「殺意にも似た嫉妬や欲望が吹き溢れました」
   愛華の所だけ切り落とす。
  和音と遥人だけになった写真を手に取る。
和音(N)「彼が好きで好きで」
   和音、遥人を指でなぞる。
和音(N)「彼が欲しくてたまらない。永遠に私のものにしたい」

〇同・校門(夕)
愛華「おとー」
   小走りで和音に駆け寄る愛華。
愛華「おと。一緒に帰ろう」
和音「今日は、高部君と帰らないの?」
愛華「うん。あいつ部活だし」
和音「……」
愛華「あれ?」
   和音の鞄のチャックに挟まれたチャームに気付く愛華。
愛華「中に入っちゃってるよ」
   愛華、チャックを開けて、チャームを引っ張り出す。
和音「あ」
愛華「これって」
   チャームが、遥人が付けていたものとペアであることに気付く愛華。
   ふと和音を見ると、両目から大粒の涙を流している。
愛華「おとの好きな人って……」
   何も言わず、ただ涙を流す和音。
愛華「ごめん。私、知らなくて……」
   無言で振り返り、速足で去っていく和音。溢れ出す涙を、袖で拭う。

〇和音の自宅・部屋(夕)
   ベッドにうつぶせになっている和音。
   机の前のコルクボードには、時間割表と、愛華の部分だけ切り取られた和音と遥人の写
   真。
   ゴミ箱には、和音と愛華のツーショット写真が重なって捨てられている。
   その一番下には、切り取られた愛華の写真が。

◯(戻って)愛華のアパート・リビング(夜)
   手紙を読んでいる愛華。
   花籠のバラは和音とイエローエタニティ。
和音(N)「彼と出会って私はこんなにも変わってしまったのです」
   便箋『片思いが美しいのは、文字の世界だけ…』
愛華「?」
   便箋が、もう 一枚あることに気づく愛華。
  便箋を後ろに送る。
  便箋『P.S』

◯和音のアパート・リビング
   窓からの明かりだけの部屋。ショートテーブルには、愛華に送られたものと同じ便箋が置
   かれている。
和音(N)「追伸。そろそろ雪解けの季節ですね」

◯同・ベランダ
   缶の箱に、『高部くんへ』と書かれたうすいピンクの封筒と、ピンクのチャーム、そし
   て、和音と遥人の写真が燃やされた跡が。
和音(N)「ご結婚、おめでとうございます」
   焼け残りの上に、桜の花びらが一枚舞落ちる。

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