惚れチョコ コメディ

男は魔法のチョコを食べて、娘のことを好きになってしまう。 しかし実はそのチョコは…
鹿野純一 4 3 0 10/21
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第一稿

・登場人物表
本田寛(32)(42)…会社員
本田綾羽(7)(17)…寛の娘
小日向陽子(32)(42)…寛の幼馴染
本田かなみ(32)…寛の妻


○病院・病室
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・登場人物表
本田寛(32)(42)…会社員
本田綾羽(7)(17)…寛の娘
小日向陽子(32)(42)…寛の幼馴染
本田かなみ(32)…寛の妻


○病院・病室
  病院着を着た本田かなみ(32)がベッドにいる。
  かなみは、傍らで眠っている本田綾羽(7)の髪を撫でている。
  ベッドの横の椅子に座って、本田寛(32)が林檎の皮をむいている。
かなみ「…ねえ、お願いしてもいい?」
寛「…お願い?」
かなみ「あのね、私が死んだら…」
寛「何言ってんだよ。ただの胃潰瘍で」
かなみ「…思ったの今回病気して。人間いつ死ぬかわかんないでしょ?」
寛「…まあね」
かなみ「わたしがもし早く死んじゃったらさ、綾羽のこと、すっごく、すっごく幸せにしてあげて」
寛「当たり前だろ」
かなみ「任せたよ。で、もう一つは」
寛「うん」
かなみ「…私が死んだあと、誰も好きにならないで」
寛「……」
かなみ「ごめん、わがままで」
寛「…俺は最初から最後まで、お前だけって決めてるから」
かなみ「…ありがとう」

○月浜海水浴場
  よく晴れた日。寛は遺灰を海に巻く。
  傍らには綾羽と、少し離れたところに小日向陽子(32)がいる。
寛「じゃあ、綾羽…」
  綾羽はジッと海を見つめている。
寛「…先に行ってるよ」
綾羽「……」
   × × ×
  車の外でタバコを吸っている寛。
寛「これから、どうしたらいいんだろうな」
  憔悴する寛。陽子は声をかけられない。
綾羽「お父さん」
  綾羽がやってきて、寛に抱きつく。
寛「…ごめん、ごめんな綾羽。俺が必ず、お前を幸せにする。絶対に」
  強く抱きしめ合う寛と綾羽。

○宇志見町の風景(朝)

○本田家・外観(朝)
  中流家庭向け住宅街にある一軒家。
  表札に「本田」と書かれている。

○同・和室(朝)
  和室の棚には、写真が並べられている。
  寛、かなみ、綾羽が写っているいる写真。
  途中からは寛と綾羽の写真になり、綾羽は写真ごとに成長していく。
  寛(42)は仏壇に手を合わせる。
  写真立ての、かなみの遺影は笑顔。

○同・リビング(朝)
  綾羽(17)が、ソファで幸せそうに寝ている。綾羽の顔は、かなみとそっくり。
  スーツを着ている寛が声をかける。
寛「綾羽、起きろ!」
綾羽「んー、ちょっと無理」
寛「こづかい減らしていいのか?」
綾羽「いいもーん。減ったことないし」
  寛は綾羽の体を起こす。
寛「遅れるぞ」
綾羽「…洗面台持ってきて」
寛「自分で行ったほうが早い」
綾羽「おっしゃる通り」
寛「顔洗ってこい」
綾羽「はーい」
  綾羽は気だるそうに出て行く。
  寛は「やれやれ」といった表情。

○美容室それいゆ・外観(夜)
  小さな美容室。

○同・店内(夜)
  陽子(42)が寛の髪を仕上げている。
  店内は陽子と寛だけ。
陽子「はい、お疲れ様でした」
寛「ん。ありがと」
陽子「これどうぞ」
  陽子は、包みに入ったチョコレートを寛に渡す。
寛「なんだこれ」
陽子「チョコレートよ」
寛「はあ」
陽子「このチョコね、食べて最初に見た人を好きになっちゃうんだって」
寛「なんだそれ、バカバカしい」
  寛は惚れチョコを陽子に突っ返す。
陽子「寛さあ、恋してる?」
寛「はあ?」
陽子「心臓の形がわかっちゃうぐらい、ドキドキするようなやつ」
寛「ガキじゃあるまいし」
陽子「心配なの。幼馴染が独り身なのは」
寛「お互い様だよ」
陽子「…もうそろそろいいんじゃない?かなみだって許してくれるわよ」
  笑顔だった寛の顔が曇る。
陽子「…ごめん、なんでもない」
寛「……」
   × × ×
  寛はレジで、陽子に散髪代を払う。
陽子「毎度ありがとうございます。…ねえ、なにか食べに行かない?」
寛「悪い、今日は映画の日なんだ」
陽子「…そっか」
  陽子はハンガーにかかっていた寛のコートを手に取る。
  陽子はそのポケットにこっそり惚れチョコを入れ、寛に渡す。
陽子「どうぞ」
寛「ん」
  寛はコートを受け取って着る。

○本田家・リビング(夜)
  寛と綾羽は、ポップコーンをつまみに、プロジェクターで映画を見ている。
  映画は、カップルが濃厚なキスをするシーンに。
寛「……」
綾羽「…ねえ」
寛「…ん?」
綾羽「お父さんさ、最近キスしてる?」
寛「なんだ急に」
綾羽「陽子ちゃんとか、どうなのかなって」
寛「幼馴染だよ、ただの」
綾羽「陽子ちゃんは、お父さん好きだよ」
寛「ないよ、ないない」
綾羽「ふーん、そっか」
  綾羽は密かに嬉しそうな表情。
寛「勘弁してくれよ、どいつもこいつも」
綾羽「…ちょっとトイレ」
  寛は映画を一時停止。
  立った綾羽はポケットからチョコを取り出す。
綾羽「あ、これスーツに入ってたよ」
寛「ああ…それチョコだから食べていいぞ」
綾羽「…いい、やめとく」
寛「なんで。チョコ好きだったろ」
綾羽「子供の頃ね、今はあんまり好きじゃないの」
寛「まだまだ子供だろ」
綾羽「ああいいからそういうツッコミ。はい」
  綾羽は寛にチョコを渡して部屋を出る。
  寛はチョコを包みから出す。
  マーブル模様のチョコは、魔法の玉のようにも見える。
陽子の声「食べて最初に見た人を好きになっちゃうんだって」
  寛はチョコを口に放り込む。
  画面に映画のヒロインが映っている。
陽子の声「心臓の形がわかっちゃうぐらい、ドキドキするようなやつ」
  寛は胸をおさえる。反応はない。寛は苦笑する。
  綾羽が戻ってくる。
綾羽「ごめんごめん」
寛「ああ」
  寛は綾羽を見る。目が離せなくなる。
  心臓の音が聞こえる。寛は胸を手で押さえる。
綾羽「ん?どうしたの」
寛「…なんでもないよ」
綾羽「…続き見ない?」
寛「あ、うん…そうだな」
  寛は映画を再生する。画面を見つめる綾羽。
  その横顔をチラチラ盗み見る寛。
綾羽「…なんかついてる?」
寛「いや…に、似てきたよな、かなみに」
綾羽「そりゃあまあ、親子ですから」
  綾羽は寛を覗き込むように、ニヤリと笑って見る。
  寛は綾羽の顔を見れない。
綾羽「…なんかあった?」
寛「…別に?」
綾羽「…そう」
  寛と綾羽は映画を見る。
  寛はポップコーンに手を伸ばす。綾羽もポップコーンを取ろうとして、寛と指が触れる。
  綾羽は気にせずに画面を見続けるが、寛は固まって動けなくなる。

○同(朝)
  ソファで幸せそうに寝ている綾羽。
  寛はジッと見ている。
寛「…綾羽、綾羽」
  綾羽は起きそうにない。
  寛はおっかなびっくり、綾羽のおでこを叩く。
寛「綾羽、起きなさい」
  ペシペシおでこを叩かれ続け、綾羽は目を覚ます。綾羽はすごい可愛い声で
綾羽「んー?」
  と言って首をかしげる。
  寛は綾羽の可愛さに、ため息を漏らす。
綾羽「なんでおでこ?」
寛「…学校遅れるぞ」
綾羽「…はーい」
  綾羽は眠そうに起き上がり、部屋を出て行く。
  寛は胸のドキドキが止まらない。
寛「すっごいかわいい…」

○家電企業「ウイン」・外観
  大きなビル。

○同・営業部
  寛がオフィスに入ってくる。
  後輩がしょげた顔でついてくる。
後輩「すいません、俺のせいで…」
寛「俺が頭さげてすむなら安いもんだよ。若いうちは失敗が大事だぞ」
  寛は後輩の肩を叩く。後輩は胸打たれた様子で
後輩「ありがとうございます」
  寛は席につく。
  女子社員がニッコリと笑いかけながら、パソコン作業の寛にお茶を出す。
女子社員「どうぞ」
寛「ありがとう」
  寛の携帯が鳴って出る。
寛「はい、本田です。どうしました源さん。…そうですか!すぐに資料をお送りします」
  寛が通話を切ると、携帯が綾羽の写真の待ち受け画面になる。
寛「はうっ!」
  寛は変な声が出て、口を抑える。部署の人間が訝しげに寛を見る。
  寛は何事もなかったかのようにパソコンに向かう。

○本田家・浴室(夜)
  シャワーを浴びている寛。
寛「どうなってんだ俺は!」

○同・リビング(夜)
  お風呂上がりの寛がリビングに入ってくる。
  綾羽がこたつで寝ている。
寛「おい、2階で寝なさい」
  綾羽に反応はない。
寛「…先あがってるぞ」
  寛は部屋を出る。眠り続ける綾羽。
綾羽「……」
  寛が部屋に戻ってくる。その目はどこかギラついている。
寛「綾羽、本当に寝てるのか」
  綾羽は寝息をたてている。寛は綾羽に顔を近づけていく。
寛「……」
  寛は自分の頬を思いっきり叩く。何度も叩く。
  寛は逃げるように部屋から出ていく。
  綾羽が目を覚ます。
綾羽「ん?」
  綾羽はアクビをして、再び寝てしまう。

○美容室それいゆ・外観(夜)
  陽子が客1を見送る。
陽子「またお願いします」
  近くにいた寛が、様子をうかがいながら陽子に近づいてくる。
陽子「お、どうしたの?」
  寛は陽子をグイッと店内に押し込む。

○同・店内(夜)
  店内には寛と陽子だけ。
陽子「ちょ、ちょっと何」
寛「あのチョコなんなんだ!どっから手に入れた!」
陽子「は?」
寛「チョコだよ。お前が渡したやつ」
陽子「ああ…なに、誰かに恋でもできた?」
寛「いや…」
陽子「良かったじゃん。おじさんだって恋ぐらいしないと。相手は?」
寛「……」
陽子「それぐらい教えてよ」
寛「…誰にも言わないか?」
陽子「言う相手がいない」
寛「絶対に、絶対に言わないか」
陽子「しつこい」
  寛は小声で何か言う。
陽子「え?聞こえない」
寛「…綾羽だ」
陽子「…は?」
寛「娘を…好きになった」
陽子「…あんた何言ってんの?」
寛「お前あれどういうチョコなんだ。なんかヤバイ薬入ってんだろ」
陽子「…あれただのジョークグッズだよ」
寛「は?」
陽子「ドンキで売ってるやつ」
寛「何言ってんだよ。本当のこと言えよ。それじゃまるで…俺がただの変態みたいだろ」
  陽子は黙って頷く。唖然とする寛。
寛「嘘だろ、嘘だって言ってくれ…」
陽子「……」 
  寛は意識を失って倒れる。
陽子「ちょっと寛!寛!」

○(寛の悪夢)診察室
  寛が医者と向かい合っている。
医者「娘を…好きになったと」
寛「…ええ」
医者「実の娘を」
寛「…その通りです」
医者「なるほど。具体的には」
寛「ふっ、と思うことがあるんです。その肩に、指に触れてみたいって」
  寛は苦しそうに話す。
医者「ほう」
  医者はカルテに何か書き込む。
寛「先生、教えてください。俺は一体どういう病気なんでしょうか」
医者「んー、そうですねえ。簡単に言うと、変態です」
寛「変態、なるほど…えっ変態?」
医者「変態です」
寛「変態!?」
医者「変態…です!」
  医者は寛のカルテに、大きく「変態」と印字された判子を押す。

○(寛の悪夢)ウイン・営業部~白い空間
  寛はデスクに座って一点を見つめている。
  周囲の社員は寛に冷たい視線を向けながら、ヒソヒソ囁きあっている。
  お茶を持った女子社員がやってくる。
女子社員「どうぞ、お茶です」
  女子社員はお茶を寛にぶっかける。
  唾も吐きかける。
女子社員「この変態が」
  寛は微動だにしない。
  後輩が現れ、
後輩「失望しました」
  後輩が一礼して去っていく。
  周囲が白い空間になる。寛とデスク以外何もなくなる。 
  戸惑う寛の前に、冷たい目の綾羽が立っている。
寛「綾羽…」
綾羽「近寄らないで、気持ち悪い」
寛「違うんだ、待ってくれ」
  様々な「気持ち悪い」という声が聞こえてきて、寛を追い詰める。
  気づくと綾羽の姿はない。
寛「やめろ、やめてくれ!綾羽、どこだ綾羽!」
  (悪夢終了)

○マンション・陽子の部屋(朝)
  1Kぐらいの広さ。
  寛がソファからガバッと起き上がる。
寛「綾羽!」
  朝の日差しが窓から差し込んでいる。陽子はベッドで寝ている。
寛「……」

○同・玄関(朝)
  寛がフラフラとスーツに着替え終わる。陽子は寛にカバンを渡す。
陽子「会社行ける?」
寛「ああ…」
陽子「綾羽ちゃんには、うちに泊まったって伝えておいたから」
  綾羽の名前を聞いた寛は辛そうな顔。
寛「綾羽…」
陽子「…多分さ、一時的な思い込みだよ。すぐ治まるって」
寛「…そうだな。色々悪かった」
陽子「…うん」
  力ない様子で、寛は陽子の部屋を出る。

○ウイン・営業部
  女子社員が寛にお茶を出す。
女子社員「お茶どうぞ」
  寛はビクッとなる。
女子社員「…どうしました?」
寛「いや…別に」

○公園(夜)
  寛はブランコに座っている。携帯が鳴る。着信は綾羽から。
寛「…もしもし」
綾羽の声「お父さん、まだ?」
寛「…いや、もう近くだよ」
  寛はブランコから立つ。

○本田家・リビング(夜)
  夕食を食べている寛と綾羽。
綾羽「しょうゆ取って」
  綾羽が手を出す。
  寛は綾羽に醤油瓶を渡そうとするが、綾羽の指が目に入る。
  寛は綾羽の手の手前に醤油瓶を置く。綾羽は醤油瓶を手に取り、
綾羽「…ありがと」
寛「……」
綾羽「…お父さんもやるよね」
寛「ん?なにが?」
綾羽「陽子ちゃん家にお泊りなんてさあ」
寛「お前、何か勘違いしてるぞ」
綾羽「だってさ、お父さん恋してる目だよ」
  動揺した寛は聞こえないふりをする。
寛「…ん?」
綾羽「娘の目はごまかせませんぜ」
  苦笑いする寛はごまかすように
寛「…そっかあ、陽子な、うん。陽子のことバレてたか」
綾羽「当たり前じゃん」
寛「ははははは、そうかそうか」

○同・浴室(夜)
  綾羽がシャワーを浴びている。

○同・トイレ~洗面所(夜)
  寛がトイレから出てきて、洗面所へ。
  洗濯カゴに綾羽のブラジャーが見えるが、見ないようにする。
  寛が手を洗う。鏡で自分の顔を見てつぶやく。
寛「俺は…変態じゃない」
  浴室から綾羽の声。
綾羽の声「お父さん」
寛「どうした」
綾羽の声「シャンプー取って」
寛「…ダメだ」
綾羽の声「え?」
寛「自分で取りなさい」
綾羽の声「いや寒いじゃん」
寛「ダメなもんはダメなの!」
  寛は逃げるように洗面所から離れる。

○ドンキホーテ・店内
  寛がお菓子コーナーにやってくる。
  寛は「惚れチョコ」と書かれた、チョコの袋を手に取る。
寛「…これか」

○ウイン・営業部
  寛はマーブル模様の惚れチョコを食べる。
  女子社員が寛にお茶を出す。
女子社員「お茶どうぞ」
  寛は女子社員をジロッと見つめる。
女子社員「…なんですか?」
  寛は胸をおさえる。何も聞こえない。
  寛はがっかりした表情で
寛「いや、なんでもないよ」
  女子社員は怪訝そうに離れる。

○商店街(夕)
  寛は買い物しながら惚れチョコを食べ、八百屋のおばさんなど女性を次々、ジロッ、ジロ
  ッと見つめていく。
   × × ×
  人気の少ない通り。寛は建物と建物の隙間に消える。
寛の声「全然好きにならない!クソッ!」
  通りがかった人がビクッとなる。
  寛が隙間から出てきて、通りがかった人と目があう。
  互いになんとなく会釈して立ち去る。

○美容室それいゆ・店内(夕)
  寛は惚れチョコを食べ、陽子をジロッと見る。
  寛は胸をおさえるが、反応はない。
寛「ハア…」
陽子「ハア、じゃねえよ。失礼なんだけど」
寛「あ、いや…」
陽子「だからジョークグッズだって言ったでし
ょ!?」
寛「そうだよな、俺の頭がおかしいだけだもんな」
陽子「そうは言わないけどさ…」
寛「いいんだよ。俺が狂ってるだけだから」
陽子「……」
  寛がスンスン泣き出す。
陽子「ちょっと勘弁してよ」
寛「なんでこんな目に合わなきゃいけないんだ。俺は立派な父親でいたいんだ!」
陽子「わかったから、落ち着いて!」
寛「ちくしょう…」
陽子「あのさ…綾羽ちゃんと距離をとったら?」
寛「……」

○高校・外観(夕)

○同・教室(夕)
  綾羽と教師が1対1で向き合っている。
  教師は、綾羽の成績が書かれた紙を見ている。
教師「本田は地元の大学志望だよな」
綾羽「はい」
教師「…なあ、東京の大学受けてみる気はないか」
綾羽「え?」
教師「今高2だろ?本田の成績なら、これから
対策しても十分にいけると思う」
綾羽「結構です」
教師「なんで地元にこだわるんだ」
綾羽「私にとっては、家族が一緒にいることが一番大事なんです」
教師「俺は、優秀でいい人間には、上を目指してほしいと思ってる」
綾羽「私は確かに勉強はできます。でも、別にいい人間じゃありません」
教師「まあ、今すぐ決めることはない。考えといてくれ」
綾羽「いえ、考える必要ありません」

○本田家・リビング(夜)
  寛が部屋にこっそり入ってくるが、綾羽が気づき
綾羽「おかえり。今日はカレーだよ」
寛「あ…悪い、夜飯食べてきた」
綾羽「…そっか。もしかして陽子ちゃんと?」
寛「違うよ。仕事でな」
寛は綾羽と目を合わせようとしない。
綾羽「…今日はなんの映画?」
寛「え?」
綾羽「映画の日じゃん」
寛「…悪い、ちょっと疲れてるから」
綾羽「なんで?なんかあった?」
寛「え?…なにもないよ」
綾羽「ウソ。最近ずっと私の事避けてる」
寛「そんなことは…」
綾羽は涙ぐむ。
綾羽「私邪魔かな?」
寛「はあ?」
綾羽「陽子ちゃんとうまくいったら私はもう邪魔?」
寛「邪魔だなんて…思うわけない」
綾羽「じゃあなんで…」
寛「俺はお前を誰よりも愛してる。誰よりもだ」
綾羽「…信用できない」
寛「…今日はもう寝るよ」
  寛は行こうとする。綾羽は寛の手を掴む。
綾羽「待ってよ」
寛「あっ」
  寛は変な声が漏れる。寛は綾羽の手を振り払い、
寛「触るんじゃない!」
  寛は部屋を出て行く。
綾羽「……」

○ウイン・営業部
  やつれた様子の寛が一点見つめしている。
  女子社員が寛の顔に手を振りかざす。
女子社員「課長。大丈夫ですか、課長」
  寛の反応はない。

○美容室それいゆ
  客2の髪を切っている陽子。
  店の電話が鳴る。
陽子「ちょっと失礼します」
  電話に出る陽子。
陽子「はい、美容室それいゆです。…なんだ寛?今お客さんいるから…え?」

○高級イタリアン(夜)
  寛と陽子がディナーをとっている。
  陽子は嬉しそう。
陽子「どうしたの急に」
寛「いや…たまにはこういうのもいいかと思ってさ」
陽子「ふーん」

○歩道橋(夜)
  酔った様子の陽子。
  寛の肩にもたれながら階段を上がっていく。
寛「酔いすぎだぞ」
陽子「そんなことないですう」
陽子は寛に完全に寄りかかる。
陽子「どうする?うち寄ってく?」
寛「……」
  寛はバッと土下座する。
陽子「…どうしたの?」
寛「頼みがあるんだ」

○本田家・リビング(夜)
  テーブルの上にはラップをした夕食が置かれている。
  綾羽はそれを見つめている。
  携帯が鳴る。寛からだ。
綾羽「お父さん?おそ…」
寛の声「あ、綾羽。悪い、突然出張が決まってな」
綾羽「は?」
寛の声「一週間ぐらい家空けるから」
綾羽「なにそれ。急に?」
寛の声「ああ。じゃあ、いない間家のこと頼むな。じゃ」
綾羽「あ、ねえ。お父さん…」
  電話は切れる。
綾羽「…出張」

○美容室それいゆ(夕)
  お客さんはいない。
  陽子が雑誌を読んでいる。
陽子「……」
  綾羽も雑誌を読んでいる。
陽子「珍しいね。遊びに来るなんて」
綾羽「そう?迷惑だった?」
陽子「全然?お客さんもいないしね」
綾羽「良かった」
陽子「で、何の用?」
綾羽「用って?」
陽子「またまた」
綾羽「…陽子ちゃん、なんか隠してることない?」
陽子「…別に?」
綾羽「…そっか、それならいいの」

○マンション・外観(夕)

○同・入り口(夕)
  綾羽が郵便受けの中を探る。
綾羽「絶対なにか隠してる」
  鍵を見つけて取り出す。

○同・陽子の部屋・玄関(夜)
  綾羽が入ってくる。
綾羽「…失礼します」
  綾羽は玄関の鍵を閉める。

○同・リビング(夜)
  綾羽が部屋を物色している。
  玄関から、鍵を開ける音が聞こえる。
  綾羽は慌ててクローゼットに隠れ、隙間から部屋の様子をうかがう。
  買い物袋を持った寛と陽子が部屋に入ってくる。
寛「本当に料理作れんの?」
陽子「長いことお一人様なんで」
寛「俺の採点厳しいからな」
陽子「何様よ」
  クローゼットの中の綾羽は、怒りに満ちた表情。
綾羽「(呟く)うそつき…」
寛「なんか手伝おうか」
陽子「大丈夫。座ってて」
寛「ああ、悪い」
  陽子はキッチンに立ち、寛はソファへ。
陽子「でも…どうするの?」
寛「ん?」
陽子「ずっとこのままってわけにもいかないでしょ?」
寛「まあ、いつまでも出張で押し通すのもな。でも本当のことなんか言えないよ」
綾羽「(呟く)…最低」
陽子「…いっそさ、私のこと好きになったらいいのに」
綾羽「?」
寛「約束したんだ、かなみと。誰も好きにならないって」
陽子「綾羽ちゃんはいいの?」
寛「…やめてくれよ」
綾羽「??」
陽子「実の娘を好きになる方がおかしいじゃない」
寛「それはお前が」
陽子「チョコのせいにしないでよ。ずっと好きだったんだよ。その思いに気づかないフリしてた
だけ」
寛「いや…」
綾羽「(呟く)お父さんが…私を好き?」
陽子「変だよ、娘を…」
寛「わかってるよそんなの!じゃあどうしたらいいんだよ。嫌いになろうと思って嫌いになれ
るのか!?」
綾羽「(呟く)なに?どういうこと?」
  綾羽は呼吸が荒くなり、視界が狭まる。
  寛と陽子の声が遠くに聞こえる。
寛「俺だって…自分が嫌になる」
  陽子は寛を後ろから抱きしめる。
陽子「ごめん…」
  寛が振り返り、陽子と見つめ合う。2人の顔が近づく…その時、ドン、と大きい音が鳴る。
  寛と陽子は音が鳴ったクローゼットに恐る恐る近づく。
  クローゼットを開けると、綾羽が白目をむいて気絶している。
寛「え、なんで…うそだろ」
陽子「綾羽ちゃん!しっかりして」
寛「綾羽!綾羽!」

○(回想)大学病院・病室
かなみ「綾羽、綾羽起きて」
  かなみが寝ていた綾羽(7)を起こす。
綾羽「なに?」
かなみ「綾羽、これ食べる?」
  かなみは板チョコを差し出す。
  綾羽は板チョコを奪おうとするが、かなみはかわす。
かなみ「1個だけ、お願い聞いてくれる?」
  綾羽は頷く。
かなみ「これ預かってほしいの」
  かなみは、封筒を綾羽に渡す。
綾羽「なにこれ」
かなみ「手紙。あのね、1年後にお父さんに渡してほしいんだ」
綾羽「自分で渡さないの?」
かなみ「…綾羽にお願いしたいの」
綾羽「いいよ」
かなみ「ありがとう。お父さんに渡すまで、中は見ないでね。絶対に」
綾羽「…うん、わかった」
かなみ「任せたからね。はいどうぞ」
  綾羽は板チョコをもらい、嬉しそうな表情。
   (回想終了)

○本田家・和室(夜)
  綾羽(17)が鏡を見ている。
  かなみの遺影と自分を見比べる。
綾羽「……」
  綾羽は机の引き出しから手紙を取り出す。
綾羽「……」

○美容室それいゆ
  綾羽がやってくる。待っていた陽子が
陽子「いらっしゃい。さ、どうぞ」
  綾羽は椅子に座る。
綾羽「お父さん、その後どう?」
陽子「…落ち込んでる、すごく」
綾羽「…そっか」
陽子「…今日はどんな髪型にしますか」
  綾羽は写真を渡す。
綾羽「これでお願い」
陽子「…本当に?」
綾羽「うん」
陽子「…わかりました」
  陽子は綾羽の髪を切る準備をする。
陽子「ねえ、一つ聞いていい?」
綾羽「うん」
陽子「綾羽ちゃん、私のこと嫌いだよね」
綾羽「お互い様だよ」

○陽子の部屋・リビング(夜)
  陽子がベッドで寝ている。
  ソファで寝ていた寛はこっそり起きて、出かける支度をする。

○本田家・外(夜)
  寛はドアの鍵を音が鳴らないようにゆっくり開けて、ドアもこっそり開く。

○同・玄関(夜)
  寛は中に入り、廊下を静かに歩く。

○同・和室(夜)
  寛が襖を開けて入ってくる。
  寛はかなみの仏壇に手を合わせる。
寛「ごめん、ちょっと遅くなった」
綾羽の声「お父さん」
  寛が声のした方を向くと、綾羽がいる。
寛「綾羽…」
綾羽「絶対、帰って来ると思った。お母さんの命日だもんね」
寛「その髪…」
  綾羽の髪型は、遺影のかなみと同じ。
綾羽「あ、これ。陽子ちゃんに切ってもらったの。お母さんに似てる?」
寛「…そろそろ行くよ」
  行こうとする寛に綾羽が抱きつく。
寛「あっ…」
綾羽「ねえお父さん」
寛「…なんでしょう」
綾羽「私の事好き?」
寛「そりゃあ。大事な娘だ」
綾羽「そういうんじゃなくて」
寛「綾羽、もういい、もういいから」
綾羽「今日だけ…今日だけ私のことお母さんだと思っていいよ」
寛「え?」
  綾羽は抱きしめる手に、力を込める。
  寛は綾羽を押し返す。
寛「…そんなの、いいわけない」
綾羽「なんで?」
寛「だって…親子なんだから」
綾羽「別にいいじゃん。誰が見てるわけでもないし」
寛「…かなみが見てるよ」
  寛はかなみの遺影を見る。
  綾羽は遺影の入った写真立てをパタンと倒す。
綾羽「これで大丈夫」
寛「いやいや」
  寛は写真立てを立てる。
  綾羽はもう一度倒す。
綾羽「もういいから。私だけ見て」
  綾羽はポケットから惚れチョコを出す。
寛「お前それ…」
綾羽「…これのせいなんでしょ。聞いたよ」
  綾羽は惚れチョコを食べる。
綾羽「これで私も同じ」
寛「……」
  綾羽は寛に近づく。寛は後ずさる。
  綾羽は寛に抱きつく。
  寛は我慢ができずに、綾羽を思い切り抱きしめる。
  綾羽は目を閉じて、唇を寛に向ける。
  寛はためらうが、綾羽に唇を近づける。
綾羽「ちょっと待って」
寛「ん?」
  綾羽は思いっきりえづく。
綾羽「オエッ」
寛「……」
綾羽「ごめんごめん」
  綾羽から寛に唇を近づけるが…
綾羽「ちょっと待って」
  綾羽は近くにあったゴミ箱に吐く。
綾羽「オエッ」
寛「なあ、無理してるんだろ」
  綾羽は口をぬぐい
綾羽「そんなことない。いけるいける。さあ!」
寛「いや…やめよう」
綾羽「嫌だ」
寛「もういいから」
綾羽「絶対やだ」
寛「綾羽…」
綾羽「こうでもしないと帰ってきてくれないでしょ?」
寛「え?」
綾羽「もう嫌なの!私の前から大事な人がいなくなるの」
寛「……」
  バンッ!と襖が開く。
  息を切らした陽子が入ってくる。
陽子「何やってるのよ」
綾羽「何しにきたの?」
陽子「おかしなことになってないか見に来たの」
綾羽「陽子ちゃんには関係ない」
陽子「綾羽ちゃん、あなたがしようとしてることは間違ってる」
綾羽「陽子ちゃんにとられるぐらいなら、こうしたほうがマシ」
  綾羽は陽子をジッと見据える。
陽子「その目、本当にかなみにそっくり」
綾羽「あんたがお母さんの話しないでよ!」
  綾羽は陽子につかみかかる。
陽子「ちょっと落ち着いてよ!」
  綾羽と陽子による一進一退のキャットファイト。
  綾羽が陽子を突き飛ばす。
  陽子は背中を打つ。
陽子「いたっ!」
寛「陽子!」
  寛が陽子に駆け寄る。
寛「大丈夫か!」
  綾羽は、寛が陽子を介抱するのを見ている。
綾羽「……」
  綾羽は部屋を飛び出す。
寛「綾羽!」
  寛が後を追いかけようとする。
  陽子が寛の手をとっさに掴む。
寛「陽子、ごめん」
  寛は陽子の手を払って、部屋を出る。

○道(夜)
  綾羽は泣きながら走っていく。

○別の道(夜)
  寛は走りながら綾羽を探している。
寛「綾羽!綾羽!」
  しかし綾羽の姿は見当たらない。
寛「……」
  寛の横に車が止まる。
  運転席の窓から陽子が顔をのぞかせる。
陽子「乗って」
寛「……」
  寛は車に乗り込む。

○陽子の車・車内(夜)
陽子「どこか心当たりないの?」
寛「そんなの…」
  考える寛。
寛「いや…わかった、あそこだ」

○月浜海水浴場(夜)
  自転車を降りてやってくる綾羽。
  暗い海をジッと見つめる。
   (以後、回想)

○月浜海水浴場
  よく晴れた日。寛(32)は遺灰を海に巻く。
  綾羽(7)と陽子(32)もいる。
寛「じゃあ…」
綾羽「お父さん、ちょっと先行ってて」
寛「…ああ、わかったよ」
  綾羽は1人になる。ポケットから封筒を取り出す。
  迷うが中の手紙を取り出して読む。
綾羽「……」
かなみの声「あなたがこれを読んでいるということは、私が死んで一年ぐらいが経っていると思
います」

○病室(夜)
  暗い部屋でスタンドライトの灯りを頼りに、かなみが手紙を書いている。その文字に合わ
  せてかなみの声が流れる。
  かなみは手紙を書きながら、涙ぐんでいる。
かなみの声「あなたはバカみたいに真面目だから、私の最後のわがままを、全部守ってくれたと思う。今も誰とも付き合わないで、綾羽につきっきりでしょ?でも、もういいの。私のわがま
まは終わり。綾羽にもあなたにも、新しいお母さんが必要だと思う」
  かなみはペンを止める。涙があふれる。涙を拭ってまた書き始める。
かなみの声「それが陽子だったら嬉しい。陽子なら、あなたも綾羽も幸せにしてくれると思う。
まあ、向こうが嫌って言うかもしれないけどね。もしうまくいったら、どうか私のことは忘れて。これが本当に最後のわがまま。ちゃんと守ってね」
  かなみは手紙を書き終える。ペンを置くと、顔を覆って泣く。

○月浜海水浴場
  手紙を読んでいる綾羽。
綾羽「……」
  綾羽は手紙と封筒をビリビリに破いて、海に撒く。
  (回想終了)

○月浜海水浴場(夜)
  綾羽(17)が顔を覆って泣く。
綾羽「ごめん、お父さん、お母さん…」

○陽子の車・車内(深夜)
  陽子の運転で車が進む。
陽子「どう?GPS、動いてない?」
寛「ああ、携帯、やっぱあの海岸にあるみたいだ」
陽子「急ごう」
  車が猛スピードで道路を進む。

○月浜海水浴場(深夜)
  にやってくる寛と陽子。綾羽の携帯が落ちているのを見つける。
寛「綾羽のだ…嘘だろ…綾羽!」
  叫ぶが反応はない。
寛「綾羽、どこだ、綾羽!」
  狂ったように綾羽の名前を呼び続ける寛。陽子は自分の携帯を取り出し、警察に電話する。
陽子「もしもし、警察ですか。今海にいるんですが…」
  すると、後ろから綾羽が近づいてくる。
綾羽「…陽子ちゃん」
陽子「うわっ!え、なんで?」
綾羽「…ごめん、ちょっと出づらくて」
  陽子は電話を切って
陽子「寛!ねえ寛!」
綾羽「お父さん!」
  叫び続ける寛に陽子と綾羽の声が届かない。
  寛は海の中へ入っていく。
陽子「ちょっと何やってんの!」
綾羽「お父さんってば!」
  寛は海の中で転ぶ。すると、姿が見えなくなり、声も聞こえなくなる。
  綾羽と陽子は顔を見合わせて、海へと駆けだす
   (以後、回想)

○月浜海水浴場
  浜で寝ている寛(32)の頬を、綾羽(7)が叩く。寛は目を覚ます。
  かなみと綾羽が寛を見て笑っている。
寛「俺寝てた?」
かなみ「ずっと寝てたよ」
寛「そうか…そうだったのか」
  寛は綾羽の顔を見て
寛「かわいいなあ綾羽は。俺に似なくて本当良かったよ」
かなみ「そんなことないよ。ほらよく見て」
寛「ん?」
  かなみと寛は綾羽の顔を見る。
かなみ「目と鼻は私だけど…」
  声が聞こえてくる。
綾羽の声「お父さん、お父さん!」
  (回想終了)

○病院・病室
ベッドに寝ている寛。綾羽が声をかけている。
綾羽「お父さん、お父さんってば…目さましてよ…」
  綾羽は寛の胸にうずくまる。すると、寛の手が動く。
綾羽「お父さん?!」
陽子「お医者さん呼んでくる」
  近くにいた陽子が動き、病室を出る。
寛「ごめんな、綾羽」
綾羽「お父さん、ごめん、私のせいで…」
  寛は泣いている綾羽の顔を指で撫ぜる。
寛「…お母さんの言った通りだ」
綾羽「?」
寛「目と鼻はお母さんだけど、耳は俺に似てる。綾羽は、俺の娘だ。お母さんとは、似てるけ
ど全然違う」
綾羽「…うん」
寛「お母さんは、もうどこにもいないんだな。やっと気づいたよ」
  寛と綾羽は抱き合って泣き合う。医者を連れて戻ってきた陽子は、寛と綾羽の様子を見て、
  医者が部屋に入るのを止める。
陽子「……」
  寛と綾羽は抱き合い続ける。

○喫茶店・店内
  寛と陽子がお茶をしている。
寛「ごめんな、色々巻きこんじゃって」
陽子「いいのよ、幼馴染でしょ」
寛「助かるよ、そう言ってくれると」
陽子「…初めて会ったときからね、かなわない気がしてた」
寛「え?」
陽子「かなみが転校してきて、寛すぐ好きになったでしょ。その時なんか思ったの。私はこの子に一生かなわないなって」
寛「…そんなこと思ってたのか」
陽子「でもまさか、死んでからもかなわないとは思わなかった」
寛「陽子…」
陽子「なんてね、冗談。大丈夫。私たちはこれまで通りよ」
寛「これまで通り…」
陽子「そ、これまで通り。何も変わらない」
寛「…ああ、そうだな」
陽子「迷惑かけたんだから、ここのお茶代ぐらいおごってよ?」
寛「当たり前だろ、それぐらい出すよ」
陽子「よーし、じゃあお昼食べちゃお」
  陽子は店員を呼ぶ。
陽子「すいませーん、注文いいですか」
寛「あんまり高いのは勘弁してくれよ?」
陽子「えー、どうしよっかなあ」
  楽しそうな寛と陽子。

○本田家・和室
  寛が仏壇に手を合わせている。
  寛はかなみの遺影に話しかける。
寛「いろいろあったけど、なんとか戻ってこれたよ。これからは父親として、綾羽の幸せだけを考えて生きていける」
遺影の中のかなみは笑っている。
寛「どうなるかと思ったけど、綾羽とも元通りだ。これまで通り。前と何も変わりない。何も…」
  寛は自分に言い聞かせるように言う。
寛「何も…」

○同・リビング(夜)
  綾羽がプロジェクターで映画を見ている。
  後ろから、ポップコーンとお菓子を持った寛が現れる。
寛「はい、どうぞ」
綾羽「ありがと」
  綾羽は映画を巻き戻す。
寛「戻さなくて大丈夫だぞ」
綾羽「これぐらいやりますよ、お父さん」
  綾羽は映画の続きを再生する。
寛「悪いな」
綾羽「いえいえ」
  綾羽はお菓子の中にあったチョコを口に入れる。
寛「チョコ、食べれるのか」
綾羽「ああ、うん。もう大丈夫」
寛「…そうか、よかったな」
綾羽「うん」
  綾羽は微笑んで、もう一つチョコを食べる。
  寛はチラッと綾羽を見る。
  綾羽の端正な横顔。
  寛の心臓の音が徐々に高鳴っていく。
  綾羽は寛に微笑む。
  寛は無理やり笑顔を作って、綾羽に微笑み返す。
                          (了)

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