手からビームでちゃう ドラマ

ここ函館には太古の昔から怪獣が出る。 ビームの出せる光家に生まれた一華は、その怪獣退治の宿命を背負う事に。 だが、手からビームが出てしまう事は、年頃の女の子にとっては辛い事も多く… そんな一華を救おうと幼馴染の蒼志が立ち上がり、函館中を巻き込んだ怪獣との決戦へと突き進んでゆく! 青春エンタメちょいSF な内容です。ちょい長めではありますが、ご一読頂ければ幸いです m(_ _)m
よしの 19 3 0 09/25
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第一稿

登場人物

光一華 (ひかり いちか) (18)手からビームがでる女子高生。
高丘蒼志(たかおか そうし)(19)一華の幼馴染。
戸倉詩歌(とくら しいか) (18)一華の ...続きを読む
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登場人物

光一華 (ひかり いちか) (18)手からビームがでる女子高生。
高丘蒼志(たかおか そうし)(19)一華の幼馴染。
戸倉詩歌(とくら しいか) (18)一華の親友。
※それぞれ小、中学時代あり。

光一閃(いっせん)(46)一華の父。
光一太(いちた) (10)一華の弟。
光愛華(まなか) (38)一華の母。

陣川勝見(65) 函館市長。
戸倉  (45) 詩歌の父。歴史学者。
啄三  (75) 町の漁師を束ねる漁労長。
高丘郡司(72) 蒼志のじいちゃん。
高丘恵子(46) 蒼志の母。
北美原 (38) 一華の担任。
万代茜 (18) 一華と同じ高校に通うJK。

親衛隊・隊長
親衛隊・新入り
おばあさん


<<<<<<<<<<本編>>>>>>>>>>

      (2021.01 修正版)

○ベイエリア・赤レンガ倉庫内
   買い物客や観光客で賑わう館内。
   そこに可愛らしいピンクのリボンを手首に巻いた光一華(18)
   制服の着こなしも下品なく清楚な雰囲気の女子高生。
   学校帰りに寄ったクレープ屋で店員と親しげに話をしている。
一華「わぁーおいしそー!」
   店員からクレープを受け取って喜ぶ一華。
   大きな口を開け、いざ食べようとする。
   と、突然、館内にサイレンが鳴り響く。
一華「もぉー……」
   がっくりと肩を落とす一華。
   電話が鳴って出る。
一華「もしもし……うん。わかった。近いから大丈夫。うん、じゃあね」
   電話を切ると、もう一度ため息。
   持っていたクレープを恨めしそうに見る。
   そんな一華の後ろには仲良さそうなカップルが。
一華「よかったら食べて下さい!」
   持ってたクレープを強引に渡す一華。
   カップルは困惑気味。
店員「今度またサービスするからね」
   店員の労いの声も聞こえず、そのまま深く項垂れる一華。
   それがスタートするような構えになって……ダッシュ!
店員「頑張ってねー!一華ちゃーん!」
   背中で応えて走っていく。

○同・外
   走って出て来る一華。
   外に停めてあった自転車に颯爽と股がると猛スピードで漕いで行く。

○海岸までの道
   町中を走る路面電車。
   その電車を一華の自転車が追い抜いていく。
一華M「私、光一華。地元函館の高校に通う、ごくごく普通の女子高生」

○海岸沿いの道
   一華の自転車が猛スピードでやって来る
   海岸沿いで華麗にストップ。そして上を見上げる。
   視線の先には巨大な怪獣。見た目ド迫力で猛々しい。
   自転車を降りると仁王立ちして怪獣と対峙。
   呼吸を整え、構えを取る一華。集中。
一華「クレープぐらい……食べさせろー!」
   の声と共に、手からビーム発射。
   突き出した右手から青白い閃光が伸びていき怪獣に直撃。
   雄叫びを上げる怪獣。やがて消えていく。
一華「ふぅー…」
   端で見ていたおばあさんが拍手をしている。
   気づいて軽く会釈する一華。
一華M「唯一普通と違うのは、手からビームがでる事」
   野次馬が一華に向かってスマホのカメラを向けている。
   気にせず自転車に股がる一華。
   一華の後を、お揃いのTシャツを着た集団(親衛隊)が追いかける。

○一華の家(夕方)
   坂の上にある一軒家。
   そこに一華が自転車を押しながら登って来る。
   光家の表札が見える。
一華M「私の手からはビームが出る。そしてそのビームで怪獣を倒す。それが、この光家に生まれた宿命なのだ」
   ただいまーと、家に入っていく。

○オープニング
   ナレーションとヒーロー物っぽいアニメーション。
N「ここ函館には太古の昔から怪獣が現れる。古(いにしえ)の時より人々は力を合わせ、その怪獣を倒していた」
   立ちはだかる怪獣を人間のシルエットが囲む。
N「しかし、怪獣退治に追われる日々に人々は疲れ果て、やがて立ち向かう者の数は減っていった」
   怪獣に立ち向かう人間が減っていく中、一つだけシルエットが残る。
N「だがしかし、ここ函館には、たった一人で怪獣に立ち向かうスーパーヒーローがいたのである!」
   人物のシルエットが次々と変わった後、最後に女子高生のシルエット。
   顔が見え、そこに右手を突き出した一華の姿。

タイトル「手からビームでちゃう」

○一華の家(朝)
一華「行ってきまーす」
   手首のリボンを口で結びながら出て来る制服姿の一華。
   自転車に股がると坂道を下っていく。
町の人1「おはよー、一華ちゃん」
町の人2「お、一華ちゃんおはよー」
一華「おはよーございまーす」
   すれ違う町の人に次々と声を掛けられる。
   町の掲示板や商店の窓には一華のポスターが貼ってある。

○高校・教室
   『3ーA』のクラス表示。
   教師が教科書を朗読中。
   教室には一華の姿。
   綺麗に纏まったノートが見え、真面目に授業を聴いている。
   と、そこに怪獣サイレン。
一華「先生!(立ち上がる)」
教師「(頷いて)頼んだぞ」
一華「はい!」
   教室を飛び出していく一華。
   慌ただしく出て行った一華とは対照的に、もの静かな生徒達。
   反応する様子もない。
   やがてサイレンが鳴り止むと、再び教師が教科書に視線を落とす。
教師「じゃあ次、教科書35ページ……」
   何事もなかったかのように続く授業。

○同・外
   昇降口から飛び出して来る一華。
   走りながら電話で話している。
一華「うん、わかった!すぐ行く!」
   と、そこに職員用玄関からヘルメットを抱えた北美原(38)が出て来る。
一華M「この人は担任の北美原先生」
北美原「光!(ヘルメットを投げる)」
一華「はい!(キャッチ)」
一華M「頼もしい相棒でもある」
   2人して駐車場に走っていく。

○海岸沿いの道
一華「はー!!!」
   怪獣にビーム直撃。雄叫びを残しながら消えていく。
   バイクに股がった北美原が拍手している
   (バイクの全部は見えていない)
   見物している野次馬の中に親衛隊。
   望遠のカメラを一華に向けている。
親衛隊「一華ちゃーん!」
一華「(振り返る)」
   振り向いた顔(白目)を容赦なく撮られる(ストップモーション)
一華M「これが私の日常」

○商店街(夕方)
   帰宅中の一華。
   自転車に乗って商店街を通り抜けようとすると、
   町の人が食べ物や飲み物を渡してくる。
町の人1「今日も見事だったね」
町の人2「また頼むよー!」
   自転車のカゴはあっという間に満杯。
   肩にも勝手にぶら下げられる。
一華「ありがとうございます(苦笑)」

○一華の家・リビング(夕方)
   大量のお土産を抱えてリビングに入って来る一華。
   台所にはエプロン姿の光一太(10)
   手際よく夕食の準備をしている。
一太「あ、いっちゃん、おかえりー」
一華M「この可愛らしい子は弟の一太」
一華「ただいまー、いっちゃん」
一華M「と、お互い呼び合っている」
一太「今日も大量だね(土産を見て)」
一華「ねー(どさっと置く)」
   そこに光一閃(46)が帰って来る。
一閃「ただいまー」
一華M「で、これはお父さん」
一華・一太「おかえりー」
一閃「おう一華。今日もご苦労だったな」
一華「うん(笑顔)」
    ×     ×     ×
   夕食を食べている3人。
一太「いっちゃん、おかわりあるから言ってね」
一華「うん。ありがと」
一華M「一太は怪獣退治に追われる私に代わって、家事全般をこなしてくれるスーパー小学生。我が弟ながら惚れてまう」
一閃「一華、醤油取ってくれるか?」
一華「うん」
一華M「お父さんは函館山にある観測所で、怪獣を警戒する仕事をしている」

○函館山・観測所(回想)
   双眼鏡を覗いて警戒している一閃。
   レーダーに怪獣の反応。
一閃「来やがった!」
   卓上のボタンを押すと怪獣サイレンが鳴る。
   そして受話器を取って電話を掛ける。
一閃「もしもし一華か?」

○一華の家・リビング(回想戻り)
   一閃に視線を向けたままモグモグと咀嚼している一華。
   一閃の後ろに飾られている写真が見える。
   若かりし頃の一閃が手を突き出してポーズを決めている。
一華M「ちなみに、元この町のヒーローでもある」

○海岸沿いの道(回想)
   怪獣と対峙する若かりし頃の一閃。
   少し離れた所から見ている光愛華(20代)
   ポニーテールの髪をピンクのリボンで纏めている。
   その愛華に一華(幼児)が抱っこされている。
一華M「怪獣を倒せるのはビームが出せる光家だけ。昔はもっと出せる人もいたらしいけど、いつからか光家だけになったらしい」
   怪獣に向かって力強く手を突き出す一閃。
   ビームが発射され怪獣に直撃。
   雄叫びを上げながら消えて行く。
   愛華に抱っこされたまま、小さな手で拍手する一華。
一華M「私は、お父さんの怪獣退治を見るのが好きだった」

○裏山(回想)
   自宅近くにある裏山で特訓している一閃。
   構えを取って目を閉じる。集中。
   そしてパッと目を開けビーム!
   突き出した手から、青白い閃光がほとばしる。
   物陰から一華(7)が見ている。
一華「(感動)」
   キラキラとしたその目は好奇心に満ち溢れている。
一華M「怪獣倒すのもそうだし、何かビームが出るのが面白かった」
    ×     ×     ×
一華M「そして、ある日」
   目を閉じ集中している一閃。
   そして目を開けビーム!と、そこに一華が!
   間近で見ようとして、誤ってビームが直撃してしまう。
一閃「一華!」
   慌てて駆け寄る一閃。
   倒れている一華の体からは湯気のような物が出ている。
一閃「一華!おい一華!」
   気を失っている一華。やがて目を覚ます。
一閃「一華?大丈夫か?」
一華「……」
   起き上がる一華。特にケガをしている様子はない。
   そして何となく手を翳(かざ)してみると、手からビームがでる。
一閃「……」

○一華の家・一閃の部屋(回想)
   和室で向かい合って座っている一閃と一華。
   床の間には『美威夢(びいむ)』と書かれた掛け軸。
一閃「これまで光家は代々ビームが出る家系として親から子へと、その力が受け継がれて来た。今日起きたのはそれだ。お前に力を与えた父さんは、もうビームが出せない」
   ぽかんとしている一華。
   うまく状況を飲み込めていない。
一閃「お前は女の子だし、元々力を受け継がせる気はなかったが、こうなったからには仕方がない。これからは、お前が怪獣を倒すんだ」
一華「……」
   まだぽかん顔の一華。
   と、怪獣サイレンが鳴る。
一閃「行くぞ一華!」
一華「?」

○海岸沿いの道(回想)
   棒立ちしている一華の目の前に巨大な怪獣。
   身の竦むような雄叫びを上げている。
一華「(怖い)」
一閃「一華!」
   一閃に促され、見よう見まねで手を突き出してみる。
   するとビームが出て怪獣に直撃。
   怪獣は雄叫びを上げながら消えて行く。
一華「……」
   自分の手を不思議そうに見ている一華。
一華M「この時、私はまだ7歳」
   一閃や、見ていた町の人が歓声を上げて駆け寄ってくる。
一閃「よくやったぞ一華!」
一華「……」
   沸き上がる周りの反応とは反対に、
   無表情のまま立ち尽くしている一華。
一華M「こうして私の、終わらない怪獣退治が始まった」

○一華の家・外(回想戻り)
   朝。家から出て来る制服姿の一華。
一華「行ってきまーす!」
   自転車に乗って坂道を下っていく。
一華M「ハッキリ言って、怪獣はめちゃ弱かった」

○海岸沿いの道(回想)
   海岸に現れる怪獣。
   見た目ド迫力で猛々しい。
   が、一華(7)がビームすると、すぐ消えて行く。
一華M「ただ、この怪獣さん。とことん空気を読まない」

○インサート(回想)
   小学校。
   授業中にサイレンが鳴る。
    ×     ×     ×
   遠足に来ている一華。
   お弁当を食べようとした所でサイレンが鳴る。
    ×     ×     ×
   夜。自宅。
   お風呂に入ってる時にサイレン。
    ×     ×     ×
   大晦日の夜。自宅から聞こえる笑い声。
   家族揃って年越し番組鑑賞中。そこに怪獣サイレン。
   顔を見合わせている面々。さっきまでの笑顔が消えている。
   立ち上がる一閃。そして一華。
   雪の降り積もる寒空の中、出て行く二人。
一華M「こんなだから、私はこの町から出た事がない」

○小学校(回想)
   修学旅行の日。
   みんなが乗っているバスを、一人校庭から見送る一華(12)
一華M「だから旅行は勿論。修学旅行にも」
    ×     ×     ×
   部屋で一人寂しく過ごしている一華。
   窓外に見える町を何となく眺める。
一華M「けど、そんな時に限って出なかったり」
   がっくりと項垂れる。
一華M「本当、意地悪」
    ×     ×     ×
   教室。
   帰ってきた子達が写真を見ながらわいわいやっている。
   その輪に入れない一華。
   一人離れて席に座り、ぼーっと外を眺めている。
一華M「ビームが出るようになってから、私は『普通』が出来なくなった」

○商店街(回想戻り)
   町の人に「おはよー」と声を掛けられながら通り過ぎていく一華。
   その顔はどことなく冷めている。
   商店に貼られている一華のポスター。
   右手を突き出してポーズを決めている。
一華M「とはいえ、私はこの町を守っている訳で…」

○写真スタジオ(回想)
カメラマン「はーい!いいよ、いいよー!もっと笑ってみようか?」
   白ホリの前に立たされている一華(7)
   もじもじとしていて、カメラマンのノリに付いて行けてない。
カメラマン「もっとこうビーム出してる感じ欲しいんだよね。今のじゃ全然わかんないからさ」
   カメラマンが「はー!」といった感じで手を突き出す。
カメラマン「こう出してます!って感じ?そういうの欲しいんだよね!」
一華「……」
   言われるがまま手を突き出す一華。
カメラマン「いいね~!じゃあ行くよ!出してます!出してます!もっとー出してます!出してます!」
   言いながらシャッターを切っていくカメラマン。
   無表情のまま、手を突き出している一華。

○町中(回想)
   その写真がポスターとなって駅前や商店に貼られている。

○小学校・校門(回想)
   出て来た一華をマスコミが取り囲む。
   恥ずかしがりながらも、まんざらでもない様子。
   そんな一華をどこか冷ややかな目で見ている同級生達。

○市内のホール(回想)
   お姫様席に座らされている一華。
   『一華ちゃん 怪獣倒してくれてありがとう!』の垂れ幕。
   壇上に町の大人達が勢揃いし、歌って踊って盛り上げる。
一華「……(目をぱちくり)」
   大人達の乱痴気騒ぎに目が点の一華。
一華M「たまに、こんな扱いをされたり」

○海岸沿いの道(回想)
   怪獣と対峙している一華。ビームして倒す。
   見物していた野次馬から拍手が起きる。

○商店街(回想)
   通り過ぎて行く一華に、町の人が飲み物や食べ物を次々と渡してくる。
   苦笑いの一華。
一華M「こうして私は、この町のヒーローになった」

○小学校・教室(回想)
一華M「だから勿論学校でも人気者」
   教室に一華が入って来る。が……。
一華M「という訳にはいかないようで」
   避けるようにして離れていく子供達。
   みんなよそよそしい感じで一華を見ている。
   一人で立ち尽くしてる一華。
一華M「同年代からのウケは、すこぶる悪かった」

○同・校庭(回想)
   子供達が校庭で鬼ごっこ(手つなぎ鬼)をしている。
一華M「基本、人に向かってビームをする事はない」
男の子「タッチ!」
   捕まえて手を繋ごうとする男の子。
   手を出す事を少し躊躇う一華。
男の子「何だよ?早くしろよ」
   仕方なく手を繋ごうとする。
   と、誤ってビームが出てしまう。
男の子「あち!何だよお前?」
   気味悪そうに一華を見る男の子。
   怖がって行ってしまう。
一華「……」

○同・体育館(回想)
先生「はーい。じゃあ、みんな手繋いで」
   先生の号令で一華と手を繋ごうとする男の子。
   するとビームが出て「あち!」となる。
   泣き出す男の子。
子供「先生、一華ちゃんがタカシ君泣かしましたー」
   周りの子は一華を見て怖がっている。
   自分の手をじっと見ている一華。
一華M「私はビームをコントロールする事が出来なかった」

○同・校庭(回想)
   運動会。
   校庭から元気な子供達の声が聞こえる。
一華M「意識したり、感情が高ぶるとダメ」
    ×     ×     ×
   綱引き。
   一生懸命引っ張っているとビームが出てしまい一華の所で切れてしまう。
    ×     ×     ×
   玉入れ。
   玉を投げているとビームが出てしまいカゴを壊してしまう。
    ×     ×     ×
   リレー。
   バトンを受けて走りだす一華。
   「出てる!出てる!」と周りの声。
   バトンを握りしめた一華の手からビームが出ている。
   周りはビームが当たらないように、てんやわんや。
   不満そうな顔で一華を見ている子供達。
   ×     ×     ×
一華「……」
   みんなから離れて、一人隅っこに座っている一華。
   体操服の上着を着ていて、その袖で手を隠している。
子供「先生、一華ちゃん見学するって言ってまーす」
先生「え、どうして?」
子供「ビームでちゃうからって」
   笑っている周りの子。
   その中に一華を見ている女の子(詩歌)がいる。
一華M「けど、こんな私にも友達はいた」

○同・体育館(回想) 
   ある日の体育。
   同級生達が元気に駆け回ってる中、一人だけ制服姿の一華。
   体育館の隅っこで見学していて、そこでも袖で手を隠している。
   そんな一華を見ている戸倉詩歌(7)
   子供達の輪を抜け出して、一華の元に駆け寄って行く。
詩歌「それだとさ、可愛いのしてても意味なくない?」
一華「……」
   一華の袖からピンクのリボンが少しだけ見えている。
   そして座ってる一華に詩歌が手を差し出す。
一華「?」
詩歌「女の子同士なら大丈夫でしょ?」
   戸惑っている一華。
   詩歌は気にする事なく手を近づける。
詩歌「ほら」
一華「うん……」
   詩歌に迫られ手を出す一華。
   そして恐る恐る詩歌の手を握る。
詩歌「あち!」
一華「(哀しい)」
   手をさすっている詩歌。
   が、その目は諦めていない。

○インサート(回想)
   帰り道。
   手を袖に隠して、とぼとぼと歩いている一華。
   詩歌がゆっくりと後ろから近づいていって一華の手を握る。
詩歌「あち!」
    ×     ×     ×
   授業中。
   一華の後ろに座っている詩歌。
   隙を見て、一華の手を握る。
詩歌「あち!」
    ×     ×     ×
   校庭。
   みんなと離れて、一人遊びをしている一華。
   そこに詩歌が近づき、思い切って後ろから抱きつく。
   びっくり仰天の一華。
   四方八方にビームが飛び散る。
詩歌「あちあちあち、あちぃー!!!」

○公園(回想)
   一華と詩歌が向かい合っている。
一華「しーちゃん、もういいよ……」
詩歌「ダメ!諦めんな!」
一華「でも……」
詩歌「いいの?このままだと、ずっと誰とも手ぇ繋げないまんまだよ!」
一華「(唇を噛み締める)」
詩歌「意識すんな!私はあんたの友達だ!」
一華「……」
   少し泣きそうになりながらも歯を食いしばって詩歌を見る一華。
   手を差し出す詩歌。そして目を閉じる。
   差し出されたその手を握る一華。
詩歌「あち!……(目を開けて)くない」
一華「あ…あ…(嬉しい。そして泣きそう)」
   大喜びの2人。
   手を繋いだまま飛び跳ねる。
   袖が捲れて手首のリボンが見える。
一華M「ビームが出るようになって初めて手を繋げた友達が、しーちゃんだった」
   (これから一華は段々と手を隠さないようになる)

○小学校・教室(回想)
   修学旅行帰りの子達が写真を見ながら盛り上がっている。
   一人、ぼーっと外を見ている一華(12)
   するとそこに元気な女の子の声。
詩歌「一華ぁー」
   土産袋を抱えた詩歌(12)がやって来る。
詩歌「お土産買って来たよー」
一華「(笑顔)」
一華M「しーちゃんがいなかったら、きっと学校にも来れなかったと思う」
   笑っている一華。
   詩歌と一緒にワイワイと話し出す。
一華M「私にとってはお姉ちゃんみたいな。そんな、とっても大切な人」

○小学校の帰り道(回想)
一華M「そして、もう一人」
   同級生の男子達に囲まれている一華(7)と詩歌(7)
男子「おい!ビーム出してみろよ!」
一華「(怖い)」
   しつこく絡まれている2人。
   そこに高丘蒼志(8)がやって来る。
蒼志「何やってんだ!お前ら!」
男子「ヤベ!逃げろ」
   慌てて退散していく男子達。
蒼志「ったくアイツら(一華を見て)大丈夫か?」
一華「うん!」
   頼もしそうに蒼志を見ている一華。
一華M「そーしは一つ上の幼馴染で、頼れるお兄ちゃん。そんな感じ」

○小学校・教室(回想)
   一人で席に座っている一華。
   周りの子はよそよそしい感じで一華を避けている。
   廊下から蒼志が心配そうに見ている。

○公園(夕方)(回想)
   ブランコに座っている一華と蒼志。
   一華はしょんぼりとしていて元気がない。
   そんな一華を蒼志が気にしている。
蒼志「お前がやってる事はすっげえんだぞ」
一華「……」
蒼志「もっと胸張れ!遠慮すんな!」
   まだしょんぼりの一華。
蒼志「……」
   少し蒼志の表情が変わる。
蒼志「いいか、一華よく聞け!」
一華「?」
蒼志「何たってお前は…」
   ブランコからぴょんと飛び降りる。
蒼志「この町を守るスーパーヒーロー!(振り返って)一華ちゃんなのだ!」
   手を突き出して決めポーズ。
蒼志「くぅーカッコいい!」
   蒼志的にはたまらない様子。
   思わず、ぷっと吹き出す一華。
   蒼志の表情も緩む。
蒼志「行くぞ(手を差し出す)」
一華「あ」
   一華の手を握る蒼志。
蒼志「あち!(飛び跳ねる)」
一華「……」
   申し訳なさそうに蒼志を見る一華。
   その頬は少し赤い。
一華M「ちなみにそーしとは、手を繋ぐ事は出来なかった」

○八幡坂(回想戻り)
   自転車でやって来る一華。
   すると蒼志(19)と詩歌(18)に出くわす。
蒼志「おー、一華」
詩歌「おはよー」
一華「おっはよー」
   嬉しそうに手を振りながら近づいていく一華。
一華M「ビームがでるようになってからも、2人だけは変わらず友達でいてくれた」

○一華の日常(インサート)
   それからも神出鬼没の怪獣。
   朝の支度中に怪獣サイレン。
一華「もーまだ着替えてないのに!」
    ×     ×     ×
   夜。部屋で勉強中に怪獣サイレン。
一華「あー(うんざり)」
    ×     ×     ×
   朝。トイレから出て来る一華。
   お腹を抑えて調子悪そう。怪獣サイレン。
一華「マジか……」
    ×     ×     ×
   休日。ベッドに寝転んでいる一華。
   タブレットに釘付けになって恋愛リアリティショー(恋リア)を見ている。
   高校生達の恋愛模様にキュンキュンしてる。
   これから告白!のタイミングで怪獣サイレン。
一華「もぉー!(悶絶)」

○町の遠景
   遠くに見える怪獣。
   そこにビームが直撃し、やがて消えて行く。

○八幡坂(夕方)
   怪獣を倒して帰宅中の一華。
   自転車を押して坂道を登っていると、
   子供達がビームごっこをしているのが見える。
   と、子供達が一華に気づく。
子供1「あ、一華ちゃんだ!」
子供2「すっげえ本物だ!」
   一華に気づいて大喜びの子供達。
   一華が子供達に向かってビームのポーズ。
   喜ぶ子供達。一華も笑っている。
   が、その顔は少し寂しそうに見える。

○高校・体育館(日替り)
   全校集会。
   名前を呼ばれ壇上に上がる一華。
   校長から表彰状を受け取る(市民賞的な物)
   その様子を誇らしげに見ている詩歌。
   そんな詩歌とは違い、周りの生徒達は一華を見ながらヒソヒソと話をしている。
詩歌「……」
   そんな反応が気になる詩歌。
   詩歌が気にしている反対側に、とある女子生徒。
   大人びた容姿とスタイルで周りの生徒とは雰囲気からして異なる。
   万代茜(18)である。
   上着のポケットに手を突っ込んで退屈そうに欠伸をしている。

○海岸沿いの道
一華「ふー」
   怪獣を倒した一華。
   周りには多くの野次馬。その野次馬の中には親衛隊の姿も。
   みな『IBL』とロゴの入った、お揃いのTシャツを着ている。
   その中から一人抜け出して、一華の元に駆け寄って来る。
新入り「うわ、本当に一華ちゃんだ!スゲー本物だ!ファンクラブ、入ったばっかなんすよ!」
   一華に着ているTシャツをアピールする新入り(大学生くらい)
一華「はあ…(困惑)」
   興奮気味の新入り。
   引き気味の一華にもお構いなしで勝手に自撮りを撮り始める。
   それが終わると、ばっと手を差し出す。
新入り「握手して下さい!」
一華「あ、私、出来ないんです…」
新入り「え?なんで?」
一華「ビームでちゃうんで……」
   そこに親衛隊の隊長らしき男性(30代後半)がやって来て、
   新入りの頭をぽかっと殴ると、そのまま連れていく。
一華「……」
一閃「一華ぁー」
   車から一閃が呼んでいる。
   車に戻りながら親衛隊の方を見る一華。
   新入りが隊長に説教されている。
一華M「こんな私でも、ちょっとした恋愛の経験くらいはある」

○函館公園(回想)
   可愛らしい私服姿の一華(中学生)
   女友達2人と待っていると男が2人(少し年上)がやって来る。
男1「わ、本当に一華ちゃんだ。本物初めて見た」
男2「実物めっちゃ可愛いじゃん」
一華「(恥ずかしい)」
女友達「じゃ行こうか」
   さあ行こうとした所で怪獣サイレン。
   みなの視線が一華に集まる。
一華「あ、えっと、ちょっと行って来ます。すぐ戻って来るんで」
   必死に取り繕う一華。
   一人、出口に走っていく。
    ×     ×     ×
   怪獣を倒して、大急ぎで戻って来る一華。
   友人達を見つける。
   が、既にそれぞれいい感じ。
一華「……」
   合流せずに、そっと立ち去る。
一華M「まあ、こんな事はよくあった」

○中学校・校舎裏(回想)
一華M「告白した事だって」
   一華の前に爽やか男子。
   緊張した面持ちの一華。
   思い切って告白。ごめんと断られる。ショックな一華。
   物影で見ていた詩歌が駆け寄っていく。

○同・廊下(回想)
   別の日。
   一華が歩いていると教室から笑い声。
   中を見ると告白した男子。
   咄嗟に隠れる一華。
   男子達の話し声が聞こえてくる。
爽やか「だってさ、手からビームでるんだぜ?そんな奴嫌だろ」
一華「……」
   周りの男子は笑ってる。
爽やか「しかもさ、アイツ手も繋げないらしくて。そんなの付き合っても意味ないじゃん」
一華「(ショック)」
爽やか「まぁ顔は好みだったから、ビームでなきゃ付き合っても良かったんだけどな(笑)」
男子「お前、最悪(笑)」
   軽薄な笑い声は廊下にまで響いている。
   と、凄い勢いでドアが開く。
一華「!(驚いて中を見る)」
   見ると詩歌。
   ズンズンと男子達に詰め寄って行き、
   座っていた爽やかの胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。
詩歌「おいコラ」
爽やか「な、何だよお前(苦しい)」
詩歌「誰が好きでビームだすんだオイ?お前もだしてみるか?怪獣倒し行くか?」
   掴んでた手を離して突き飛ばす。
詩歌「あたり前だと思ってんじゃねーよ!」
   圧倒されてる男子達。
   廊下で一華が涙ぐんでいる。
一華M「しーちゃんには、本当に何度も助けてもらった」

○海岸沿いの道(回想戻り)
   一閃の車に乗り込む一華。
一閃「ご苦労さん」
一華「うん」
   走り出す車。
   一閃の横顔を見る一華。
一華M「お父さんともよくケンカした」

○一華の家・外観(夜)(回想)
   家から聞こえる怒鳴り声。

○同・リビング(夜)(回想)
   一華(14)と一閃が激しく言い合っている。
一華「もう嫌!何でこんな事しなきゃなんないの!」
一閃「お前がやらないで誰がこの町守るんだ!」
一華「知らない!どうでもいい!(出て行こうとする)」
一閃「一華!」
   ドアの所で立ち止まって。
一華「いっつもいっつもそんな事ばっか言って……私の気持ちなんて全然考えてくれた事ないじゃん!」
一閃「……(辛い)」
   そこに一太が起きて来る。
一太「いっちゃん?」
一華「……」
   一華の目には涙が一杯。
   そのままリビングを飛び出していく。
一閃「一華!」

○公園(夜)(回想)
   一人ブランコに座って泣いてる一華。
   と、怪獣サイレンが鳴る。
   が、一華は動こうとしない。電話も鳴っているが出ない。
一華「……(ずっと泣いている)」

○海岸沿いの道(夜)(回想)
   夜道にヘッドライトの小さな光が激しく揺れる。
   自転車に乗った一華が猛スピードでやって来る。
   止まって自転車を放り出す一華。
   目の前には怪獣。
   真っ赤な目をして怪獣を睨みつける一華。
   手を突き出してビーム。
   消えていく怪獣。
   夜道に立ち尽くす一華。涙が溢れる。
一華M「何で私だけ?は、もう100万回以上は思った」

○病院・病室(夜)(回想)
   周りを気にしながら一華が忍び込んでくる。
   『光愛華』と書かれた病室。
   眠っていた愛華(38)気配を察して起きると、
   一華に気づいて「おいで」と手招きする。
   涙ぐむ一華。愛華の胸に飛び込む。
   声を押し殺して泣く一華。
   優しく一華を抱きしめる愛華。
   病室の窓から函館の夜景が見える。

○函館山・漁火公園(夜)(回想戻り)
   夜景を見ている一華。
   目元が少し潤んでいる。
   そこにバーガー屋のエプロンを付けた蒼志がやって来る。
蒼志「よう」
一華「うん(慌てて目元を拭う)」
蒼志「オジさんとこか?」
一華「うん。さっきまで一緒だったから」
蒼志「そっか。どう?バーガー食ってくか?」
一華「いい。家で、いっちゃん待ってるから」
蒼志「そっか。ほんじゃまたな」
一華「うん」
   テナントに戻っていく蒼志。
蒼志「函館名物イカバーガーいかがっすかー」
   蒼志を見ている一華。
一華M「私は一度、そーしにビームした事がある」
    ×     ×     ×
   泣いている一華(14)フラッシュ
    ×     ×     ×
   泣いている蒼志(15)フラッシュ
    ×     ×     ×
   蒼志を見ている一華。
一華M「けど、私はもう誰にもビームしない。そう決めてる」

○一華の家・外(夜)
   帰って来る一華と一閃。
   一閃は先に家に入っていく。
   一華も入ろうとすると、庭に人の気配。
   見ると、エプロン姿の一太がビームを出す練習をしている。
一華「……」
   少しして声を掛ける。
一華「ただいまー」
一太「あ、いっちゃん。おかえりー」
   笑顔で出迎える一太。

○同・リビング(夜)
   テーブルにはレベル高めの料理。
一華「すごーい!本当上手になったね?」
一太「こんぐらい出来ないとね(得意気)いっちゃん、いっつも頑張ってんだし」
一華「(嬉しい)」
   一太も笑っているが、その顔付きが少し変わる。
一太「いっちゃん、もう少しだけ待っててよ」
一華「?」
一太「俺もさ、早く大きくなってビームだせるようにすっから」
一華「……」
一太「父ちゃんにも言ってんだ。俺が中学になったら、いっちゃんからビームして貰って…」
一華「(遮って)いいの。あんたはそんな事考えなくて」
一太「でも、それだといっちゃん…」
一華「はいはい。この話はこれでおしまい。早くご飯食べよ?冷めちゃう冷めちゃう」
   廊下で一閃が2人の会話を聞いている。
一華「お父さーん」
一閃「お、おう」
   テーブルに座ってご飯を食べ始める3人。
   一太の奥に、愛華の遺影が見える。
一華M「一太は優しい。そしてとても強い子だ」
    ×     ×     ×
   夜。トイレに起きる一華。
   一太の部屋を通りかかると中からすすり泣く声が聞こえる。
   微かに聞こえる「お母さん…」という声。
   一太の部屋の壁にもたれ掛かる一華。
一華M「本当は私が代わりにならないといけない」
    ×     ×     ×
   朝。爆睡中の一華。
   するとリビングから一太の声。
一太「いっちゃーん、そろそろ起きないと遅刻するよー」
一華M「けど、寧ろその逆。一太はそれを望んでない」
   寝ぼけ眼でリビングに降りて来る一華。
   台所で一太が、せっせとお弁当を準備している。
一太「お弁当、いっちゃんの好きなイカリング入れといたから」
一華「……」
   小さな背中が愛おしく見える。
   後ろから一華がガバっと抱きつく。
一太「なに?離せよー」
一華「へへへ」
   抱きしめながら。
一華「私、頑張るからね」
一太「……」
一華M「これぐらい、私がやんなきゃ」

○高校・グラウンド
   体育をしている女子のはしゃぎ声。

○同・保健室
   保健室でサボっている茜。
   美優(18)と亜美(18)もいる。
   養護教諭は不在でベッドに寝転んで悠々自適。
   窓から体育中の女子が見え、隅っこで見学している一華に気づく。
茜「ねえねえ、何であの子ってさ、いっつも見学なの?」
美優「(外を見て)光?さあ。2日目とかじゃん?」
亜美「違う違う(笑って)何か、手ぇ繋ごうとするとビームでちゃうんだって」
茜「ガキかよ?どんだけウブなんだよ」
美優「でもさ、繋いでる子いなかったっけ?」
亜美「ウソ?いたっけそんなの」
美優「いるいる。私、見た事あるもん。ほら、誰だっけ?あの、いっつも一緒にいる子。確かC組のさ(詩歌の事)」
茜「じゃあ何?繋げる子と繋げない子がいるって事?」
美優「さあ?わかんないけど」
茜「めんどくせー」
亜美「てか、ビームでるってウケるよね?」
美優「ヤバいよね(笑)今度出るトコ見せてもらおっか?」
亜美「あ、それ私も見たい。はー!って、やるトコ?どんな顔してやるのかな?」
美優「こんなんじゃない?はー!(思いっきり変顔)」
茜「それバケモンだから(笑)」
   笑っている3人。
   と、怪獣サイレンが鳴る。
美優「うるせー」
   グラウンドにいる一華の所に北美原がやって来て、一華と一緒に走っていく。
   そしてヘルメットを被りバイクに股がる。
   と、思いきやサイドカー。
   そこにちょこんと座る一華。
   そのまま走っていくサイドカー。
   一連を見ている茜。
茜「めんどくせー」

○テレビの画面(日替り)
   中継中のリポーターを一華のファン達が取り囲んでいる。
男1「一華ちゃーん!愛してるよ!」
男2「俺の嫁になってくれ!」
男3「いやいやいや、俺の嫁、俺の嫁、光一華は俺の嫁ぇー!」
リポーター「(カメラに向かって)す、凄まじい熱気です!」
   もみくちゃにされているリポーター。
   全員がカメラに向かって。
男達の野太い声「一華ちゃーん!誕生日おめでとー!」

○市内のホール
   『光一華 生誕祭』と書かれた垂れ幕。
   お姫様席に座らされている一華。
   壇上には子供達がいて歌を歌っている。
   一華も微笑ましく見ている。
   と、子供達の出番が終わると少し会場の雰囲気が変わる。
   法被を着た市民達が壇上に勢揃い。
   そして市の職員がマイクの前に立ち、大きく息を吸い込む。
職員(若)「光一華のぉー!前途を祝してー!」
   の声と共に陽気なイントロ。
音楽「函館名物いか踊り~♪」
   職員、町の人、親衛隊が歌って踊って盛り上げる。
   「いっか刺し、塩辛♪」の大合唱。
一華「……(心ここにあらず)」
   舞台袖に待機している市長の陣川勝見(65)
   一華の様子を見ながら、厳しい表情で職員に何か耳打ちしている。
職員(老)「続きまして、陣川市長からの祝辞を賜りたいと存じます」
   堅苦しい雰囲気で出て来る陣川。
   そのままマイクの前に立つと、突然スーツを脱ぎ捨てる。
   上着の下にはロックTシャツ。
   陽気なビートが流れ始める。
陣川「どこまで~も広が~る空に~光がさして~!」
   生誕祭は続く。

○茜の家(夕方)
   ソファに座ってスマホを弄っている茜。
   テレビから騒がしい声。
テレビの声「一華ちゃーん!誕生日おめでとー!」
   ローカル枠で一華の生誕祭が取り扱われている。
   ウザそうに顔をしかめるとチャンネルを変える。
弟「あーオレ見てたのに(後ろでご飯を食べながら見ていた)」
茜「(うぜえ)」

○市役所・会議室(日替り)
   会議中の職員達。
   会議室には生誕祭で使った法被や衣裳が積まれている。
職員(女)「一華ちゃんクスリともしてませんでしたね」
職員(若)「市長のGLAYがマズかったんじゃないですかね?やっぱり女の子にはYUKIじゃないと」
職員(老)「何言ってんだ!アレが一番ウケてたよ。ですよね市長?」
陣川「……(何とも言えない)」
   やいのやいのとやりあって。
陣川「とにかく、彼女はこの町を守るヒーローであって、町のシンボルでもある。これからも町に貢献して貰う為にも、我々が盛り上げてかなきゃならない。遊びじゃないという事だけは理解しておいてくれ」
   厳しい表情で語る陣川。
   職員達も真剣な様子で頷いている。
陣川「で、次は?」
職員(若)「はい。来月の一華ちゃん、ビームでちゃうようになった記念日についてですが…」
   会議は続く。

○函館山・漁火公園
   バイトに精を出している蒼志。
   そこに客で来ている一華。
   バーガーが出来るのを待っている。
   少し離れたベンチに詩歌が座っていて麻衣(18)と一緒にイカバーガーを食べている。
   麻衣がバイト中の蒼志を見ながら話す。
麻衣「ねえねえ、高丘先輩ってさ、何でずっとココでバイトしてんのかな?」
詩歌「ん?」
麻衣「確かさ、超頭良かったよね?北大余裕で入れるって聞いた事あるけど」
詩歌「……」
麻衣「何で行かなったのかな?こんなトコでバイトしてなくてもね」
詩歌「さあね……」
   蒼志を見る詩歌。
   蒼志は笑いながら一華と話している。

○海岸沿いの道(日替り)
   海岸沿いに砲台が設置されているのが見える。
   そこをサイドカー付きのバイクが駆け抜けていく。

○遺跡発掘所
   バイクから降りてヘルメットを脱ぐ蒼志。
   そこに戸倉(45)がやって来る。
戸倉「おー蒼志君」
蒼志「あ、お疲れさまです。今日も宜しくお願いします」
   発掘所の中に入って行く。

○一華の家・一華の部屋(夜)
   ベッドの上で枕を抱いている一華。
   ウキウキとした様子でタブレットを見ている。
   画面にはネットTVで配信されている恋リア。
   スピーカーホンにしたスマホから詩歌の声が聞こえる。
詩歌の声「このタクミ君って子さ、ちょっと優柔普段な感じするよね」
一華「うんうん。そんな感じする」
詩歌の声「ミクちゃんとリョウ君のカップル成立して欲しいな」
一華「だね」
   同じ番組を見ながら話している2人。
   高校生達の恋愛模様に、あーだこーだ言いあっている。
   デートシーンになり、ペアになった男女が手を繋いで歩く。
詩歌の声「あれ?この子、本命別の子って言ってなかったっけ?」
一華「あ。そうだよね」
   その子のインタビュー。
   男の子との手繋ぎデートの事を聞かれて。
女の子「好きとかそういうのはないですけど。手ぇ繋ぐぐらいならいいかなって。向こうから繋ごうって言われただけだし。手ぐらい誰だって繋ぎますよ(笑)」
   笑いながら話しているその子。
詩歌の声「まーこういう子もいるよね。私はあんま好きじゃないけど。こう何ての?リア充って感じ?苦手だわ」
   話しているが、一華の反応がない。
詩歌の声「あれ?一華?聞こえてる?」
一華「あ。うん。ゴメンゴメン」
詩歌の声「しかも、この子ってさ…」
   笑いながら詩歌に相槌を打つ一華。
   画面には容易く手を繋いで歩く男女が見える。

○町中(日替り)
   沿道に大勢の人。
   お祭りが行われている。
   一華も詩歌と蒼志と一緒に遊びに来ている。
蒼志「凄え人だな?」
詩歌「ね」
   会場にはカップルの姿も多く、
   みんな仲良さそうに手を繋いでいる。
一華「……」
   そんな姿が少し気になる一華。
   蒼志を見て、少し意識する。
   何となく察してる詩歌。
   今日は楽しもうよって感じで一華の手を引く。
詩歌「ねぇ一華、あっちの方行ってみようよ」
一華「うん」
   詩歌に手を引かれ人混みの中を進む一華。
   と、怪獣サイレンが鳴り響く。
蒼志「一華!」
一華「うん!」
   走り出していく一華と蒼志。
詩歌「気をつけてね!」
   走っていく二人の背中に向かって詩歌が叫ぶ。
   と、サイレンの鳴る中、会場にアナウンス。
アナウンス「それじゃあ盛り上がって行くよー!」
音楽「函館名物いか踊り~♪」
   陽気な音楽が鳴り始め、町の人が踊り始める。
   その様子を見て、少し呆然としている詩歌。
   先を走っていた蒼志。
   周りの様子を見て思わず立ち止まる。
蒼志「……」
   立ち止まる事なく走っていく一華。
   そんな一華を見て、蒼志もまた走り出す。
    ×     ×     ×
   祭に来ている茜達。
   と、走っていくサイドカーに気づく。
美優「あれ?光じゃん?サイレン鳴ったっけ?」
茜「さあ」
亜美「あ、見て」
   遠くに怪獣が見える。
美優「ちょっと待って、ちょっと待って」
   と言ってスマホを取り出す美優。
亜美「ほら、茜ぇー」
   手を引っ張られて強引にフレームイン。
   カシャ。
美優「ヤバ。怪獣超ウケんだけど(笑)」
   怪獣バックの自撮り写真。
茜「……」
   どこか気乗りしない様子の茜。
   周りを見ると、周りも同じようにして写真を撮っている。
   何事もなかったように進行する祭。

○町の遠景
   遠くに聞こえる怪獣の雄叫び。やがて聞こえなくなる。

○高校・廊下(日替り)
   放課後。廊下に学祭のポスターが貼られている。
   そのポスターの横に一華。
   窓から何か見ている。
   そこに詩歌がやって来る。
詩歌「いーちか」
一華「(振り向く)」
詩歌「何か見てたの?(外を見る)」
一華「ううん(首を振る)」
詩歌「そ。じゃ行こ(歩き出す)」
一華「うん」
   歩き出すが、まだ視線は窓の外。
   校門付近に仲良さげな男女の姿。
   彼氏と手を繋いで歩いて行く女の子。
   手を繋いで歩いていく姿が一華の視線に留まり続ける。

○デパート
   買い物客で賑わう店内。
   クレープを2つ持って詩歌が歩いてくる。
   キョロキョロとした後、一華を見つける。
詩歌「おまたー」
一華「うん。ありがとう」
   下着売り場にいた一華。
詩歌「新しいの?」
一華「うーん…(どっち付かずの返事)」
   見ているのは少し大人っぽい下着。
詩歌「そういうのもいいかもね。一華持ってるの可愛い系ばっかでしょ?」
一華「……」
   詩歌も何となく物色し始める。
一華「ねえ、しーちゃん」
詩歌「ん?」
一華「してる時にビームでちゃったらどうなるのかな?」
詩歌「(絶句)」
   突然の問いに思わず絶句する詩歌。
一華「そもそも無理か?手も繋げないんだもんね(笑)」
詩歌「一華……」
   寂しげな笑みを残したまま売り場を離れる一華。
   詩歌の持ってるクレープに目を付ける。
一華「もーらい」
   大きな口を開けて食べようとする……
   とした所で怪獣サイレン。
   ハハっと自虐的に笑う一華。電話が鳴って出る。
一華「わかった。うん。じゃ、そこで待ってるね」
   電話を切るとクレープを詩歌に返す。
一華「ゴメンね。ちょっと行って来る」
詩歌「うん。気をつけてね…」
   行こうとして、くるりと振り返る。
一華「怪獣退治、行って参ります!(敬礼)」
   飽くまで明るい一華。
   走って行く一華を心配そうに見ている詩歌。

○高校・外(日替り)
   放課後。下級生達が学祭の準備をしている。

○同・廊下~教室
   三階では三年生達が思い思いに過ごしている。
   参考書や大学の資料を見ていたりと進学を考えている者が多い。
   そんな同級生達を横目にしながら一華が廊下を歩いてくる。
   詩歌のクラスにやって来て、声を掛ける。
一華「しーちゃん」
詩歌「あ、ゴメン一華。今日補習なんだ」
   黒板には進学者を対象とした補習の案内が書かれてある。
詩歌「ゴメンね(手を合わせて)」
一華「ううん。じゃあね」
   手を振って出て行く一華。
   そんな一華を周りの子が見ている。
   隣りにいた麻衣が話しかける。
麻衣「ねえねえ、光ってさ進学とかすんのかな?」
詩歌「さあ。一華はその気ないみたいだけど」
麻衣「まぁしたくても出来ないのか?この町から出られないんだもんね」
詩歌「……」
   一華を見ていた周りの子が話に入って来る。
女1「じゃあさ、就職って事?」
詩歌「さあ。わかんないけど」
男1「って言ってもさドコ行くの?高卒だと大したトコ行けねえだろ?」
男2「でも、市役所は決まってんだろ?」
麻衣「そうなの?」
男2「だってさ、町としても光にいて貰わなくちゃなんない訳だし。今も何らかしらの形で関わってると思うけど。卒業したら正式な所属になんじゃないの?」
麻衣「そっかーそうだよね。じゃあもう決まってんだ」
男1「いいよなー楽で。市役所だったら安定じゃん」
女1「ある意味、イージーだよね」
   女1を詩歌が睨む。
女1「あ、ゴメン…」
詩歌「……」
   窓外を見る詩歌。
   一人で歩いていく一華が見える。

○町中(夕方)
   帰宅中の一華。
   自転車を漕いでいると怪獣サイレンが鳴る。
一華「……」
   が、一華は止まらずに、そのまま自転車を漕いで行く。
   電話も鳴るが出ない。やがて切れる。
   そのまま自転車を漕ぐ一華。町の人とすれ違う。
   世間話をしている主婦。元気な小学生。小さな子を連れて歩く家族連れ。
   何事もなかったように過ごす町の人。
   一華も何事もなかったかのように自転車を漕ぐ。
   誰もそれが一華だとは気づかない。
一華「……」
   手首に付けたリボンを見る一華。
   自転車を止めると、スマホを取り出して掛け直す。
一華「あ、ゴメン。自転車乗ってて気づかなかった。うん、わかった。すぐ行くね」
   自転車を逆方向に向けると、立ち漕ぎして猛スピードで漕いで行く。
   手首に付けたリボンが揺れている。

○高校・外(日替り)
   学祭の看板。多くの売店が出ていて賑わっている。

○同・廊下
   『案内係』と腕章を付けた一華が歩いている。
   そこにクラスTシャツ(模擬店の)を着た詩歌がやって来る。
詩歌「あ、いた!そろそろ始まるってさ。行こ!」
一華「うん!」
   笑顔で走っていく2人。

○同・体育館
   詩歌に手を引かれながらやって来る一華。
   体育館は既に大勢の生徒達でごった返している。
   ステージではメインイベントのライブが始まろうとしている。
詩歌「もっと前行こ、前」
一華「うん」
   人を掻き分けながらステージに近づいていく一華と詩歌。
   なるべく触れないように手はずっと胸の前。
   そして軽快なMCの後にバンドメンバーがステージに現れる。
   高まる熱気。一華と詩歌も楽しそう。
   と、怪獣サイレン。
詩歌「うそ……」
   一華を見る詩歌。
   一華は詩歌に笑顔を向けると、手を胸の前にやり自分を抱くようにして、
   人波に逆らって出口に向かう。
   茜が体育館に入って来て、出て行く一華とすれ違う。
茜「……」
   演奏が始まり生徒達から歓声が上がる。

○公園(夕方)
   一人ブランコに座っている一華。
   ぼんやりと町を眺めている。
一華「もう慣れたさ……」
   そのまま座っていると、おばあさんがやって来る。
   持っていた袋からりんごを取り出すと一華に手渡す。
   そして一華の手を優しく握る。
一華「ありがとうございます……」
   拝むようにして一華に向かって手を合わせると去っていくおばあさん。
一華「……」

○高校・グラウンド(日替り)
   学祭2日目。体育祭。
   グラウンドから生徒達の声援が聞こえる。
   教員用のテントに座っている制服姿の一華。
   同級生達が汗を流す中、一人だけ制服を着ている。
   同級生達を見ながら、昔の事を思い出す。
    ×     ×     ×
   小学校。
   一人、隅っこに座って運動会を見ている一華。
   見ている一華の顔が6年生に。
    ×     ×     ×
   校庭から修学旅行に行く子達を見送る一華。
    ×     ×     ×
   教室で帰って来た子達が盛り上がっている。
   一人席に座って、ぼーっと外を見ている一華。
   同ポジで中学校に。
    ×     ×     ×
   中学校の教室。
   ぼーっと外を見ている一華。
   教室ではクラスの子が修学旅行の写真を見ながら盛り上がっている。
   一華が見ているグラウンドが体育祭の日に。
    ×     ×     ×
   中学の体育祭。大縄跳び。
   一華が輪に入ろうとすると、周りの子が避けるようにして離れていく。
    ×     ×     ×
   一人テントに座り、体育祭を見ている一華
   (回想終わり)
    ×     ×     ×
   現在。一人テントに座り、体育祭を見ている一華。
   同級生達のはしゃぎ声が耳を通り抜けていく。
   そこに詩歌の声。
詩歌「一華ぁー」
   テントに駆け寄って来る詩歌。
   一華も小さく手を振る。
一華「しーちゃん走るの?」
詩歌「おう。足速い女はモテるからな」
一華「そうだっけ?(首を傾げて)」
   笑いあう2人。
   一華を気にしている詩歌。
詩歌「いいの?なーんも出なくて」
一華「うん」
詩歌「……」
   どこか遠慮しているように見える一華。
   すると詩歌が一華の手を取り、両手でギュッと握る。
一華「しーちゃん?」
詩歌「私は、あんたと一生付き合うからね」
一華「……」
詩歌「地獄の果てまで付きまとってやるから。覚悟しときな」
   握られた手から詩歌の体温が伝わってくる。
一華「……」
   と、リレーの開始を告げるアナウンス。
詩歌「応援しくよろ(ピース)」
   走っていく詩歌の背中を見送る一華。
    ×     ×     ×
   ピストルが鳴ってリレーが始まる。
    ×     ×     ×
   最下位でアンカーの詩歌にバトンが渡ると超人的なスピードで走り出す。
一華「しーちゃーん!」
   声援を送る一華。
   あっと言う間にごぼう抜き。そのまま一位でゴール。
   ゴールした詩歌が一華に向かってドヤ顔でピース。
   一華も喜んでいる。と、そこにアナウンス。
アナウンス「次は最終種目のフォークダンスです。生徒のみなさんは入場門に集まって下さい」
   入場門に生徒達が集まり出す。
   隣り合った男女がどちらからともなく手を出して手を繋ぐ。
   何となく感じる青春のそわそわ感。
一華「……」
   教師もみんな出て行って、テントの中には一華だけ。
   手首に付けたリボンをギュっと掴む。
   入場門にいる詩歌。こっちを見ている一華に気づく。
詩歌「……」
   生徒達の輪から抜け出して一華の元に駆け寄って行こうとする。
   と、怪獣サイレンが鳴りだす。
一華「……」
   テントに北美原がやって来る。
北美原「しょうがない、光。行くぞ」
一華「はい」
   立ち上がって行こうとする一華。
詩歌「一華ぁー!」
   大声で叫ぶ詩歌。
   茜も気づいて一華を見る。
   詩歌に向かって小さく手を振る一華。
詩歌「……」
茜「……」
   サイドカーにちょこんと座ると走っていくバイク。
   オクラホマミキサーの音楽が流れ始める。

○函館山・漁火公園(夜)
   バイト終わりの蒼志。
   片付けを終え帰ろうとしていると、ぼーっと景色を見ている一華に気づく。
蒼志「一華?」
一華「(気づく)」
蒼志「よう。今日もオジさんトコか?」
一華「うん…まあ……」
蒼志「そっか」
   一華の隣りにやって来て柵にもたれかかる。
蒼志「今日も綺麗だな」
   景色を眺めながらしみじみと呟く。
蒼志「これも全部、一華のおかげだな」
一華「……」
   光り輝く函館の夜景が一華の瞳に映っている。
蒼志「けど怪獣の野郎も本当懲りねーよな?何も学祭の時まで出なくたっていいのによ。ちったあ空気読めってんだよな?」
   そう言って一華を見る蒼志。
   俯いている一華。横顔に髪が掛かって表情が見えない。
蒼志「一華?」
   小さく嗚咽が漏れている。
蒼志「おい。一華……?」
   一華の頬を大粒の涙が伝う。
   顔を上げ、子供のように泣き出す一華。
蒼志「……」
   何も出来ない蒼志。暗転。

○一華の家・外(夜)(回想)
T「4年前」
蒼志の声「もう限界だ!」
   暗転開け。
   家の中から蒼志の怒号が聴こえる。

○同・一閃の部屋(夜)(回想)
   一閃の部屋に蒼志(15)が押し掛けている。
蒼志「もう見てらんねえ!一華をもう、あのままにしておけねえ!」
   詰め寄る蒼志に、一閃は腕組みをして険しい表情。
蒼志「光家の人間じゃなくてもビームが出せる方法があるって聞いた。光家じゃなくても能力が受け継げるって」
一閃「……」
   蒼志が一閃の前に古い書物を差し出す。
蒼志「この水を使えばそれが出来る。それって本当なのかオジさん?」
   開かれたページには『宇須岸(うすけし)の水』と書かれている。
一閃「……」   
   腕を組み黙ったままの一閃。
蒼志「教えてくれオジさん!コレが本当なら一華を救えるかもしれねえんだ!」
一閃「……(答えない)」
蒼志「頼むよオジさん。一華をもうあのままにしておけねえんだ……」
一閃「……」
   険しい表情のままの一閃。
   項垂れる蒼志を見て、ゆっくりと口を開く。
一閃「……確かに…宇須岸の水にはそんな言い伝えがある」
蒼志「(顔を上げる)」
一閃「宇須岸の水は函館に古くから伝わる神聖な水で、君の言う通り、ビームの能力伝承についての逸話が残っていると言われている」
蒼志「それ人の器なりし……」
一閃「(頷いて)そうだ。その言葉が、能力を受け継ぐ側の人間を表している。そう言ってる人もいる」
   書物に『それ人の器なりし』の記述が見える。
一閃「ただ何の保証もない。その言葉と能力伝承の言い伝えを都合よく解釈したに過ぎないんだ」
蒼志「……(唇を噛み締める)」
一閃「確かに能力の伝承については、光家以外の人間でも出来ると。そんな話を俺もガキの頃にじいさんから聞いた事はある。ただ、それは言い伝えに過ぎない。その方法を知っている者は誰もいない」
   唇を噛み締めている蒼志。
   拳を力強く握りしめる。
蒼志「じゃあどうすりゃいいんだ?どうすりゃ一華を解放してやれんだよ……」
   悔しそうに畳を叩き付ける蒼志。
   そんな蒼志を厳しく見据えながら。
一閃「蒼志君、君の気持ちはありがたい。俺だって、一華に不憫な思いをさせてる事は勿論わかってる。ただ、これは光家に生まれた宿命でもあるんだ。それは一華もわかってる」
蒼志「……」
一閃「光家の人間じゃない君には、わからん事もある」
蒼志「……」
   俯いている蒼志。その顔付きが変わる。
蒼志「能力受け継ぐのにビーム受けなきゃなんないなら俺がやってやる……俺が一華から食らってやる!」
   一閃の表情に険しさが増す。
蒼志「そもそもビーム食らったって、どうって事ないんだ(独白)」
   立ち上がって出て行こうとする蒼志。
一閃「待ちなさい!」
蒼志「(立ち止まる)」
一閃「確かに少し触れたぐらいなら熱を感じるくらいで済む。ただ、まともに食らえば話は別だ」
   睨みつけるようにして蒼志を見る一閃。
一閃「死ぬぞ」
蒼志「……」
   唇を噛み締めたまま部屋を出て行く蒼志。

○同・外(夜)(回想)
   一華の家から出て来る蒼志。
   悔しそうに地面を蹴る。
   そんな蒼志を二階の窓から一華(14)が見ている。

○神社(回想)
   神社を訪れている蒼志。
   宮司から古い書物を見せてもらう。
   そこには図解入りで宇須岸の水の作り方が書かれている。

○宇須岸の水作り(インサート)
   文献に書かれた記述と蒼志の行動をダブらせる。
   滝の絵(水)
   滝に行き、流れ落ちる水を汲む。
    ×     ×     ×
   海産物の絵(タンパク質などの栄養素)
   港にある市場に行き、イカや昆布などの海産物を集める。
    ×     ×     ×
   山、岩の絵(ミネラルなどの鉱物)
   恵山に行き、火山岩を採取する。

○蒼志の家・倉庫(回想)
   作業中の蒼志。
   文献を見ながらそれぞれの分量を計り、混ぜ合わせている。
   そこにやって来る詩歌(14)
   滝から汲んで来た、水の入ったポリタンクを運んでいる。
詩歌「ココでいいの?」
蒼志「おう。ありがとう」
   タンクを置く詩歌。不安そうに蒼志を見る。
詩歌「本当にやるの?」
蒼志「この水飲んでビーム受けりゃあ、能力が移動出来るかもしれねえんだ」
詩歌「でも、何の保証もないんでしょ?」
蒼志「だからって黙って見てられんのか?」
詩歌「……」
蒼志「一華を救ってやるにはコレしかねえんだ……」
   作業する手を止めない蒼志。
   詩歌は見守るしか出来ない。
   倉庫の片隅に郡司(72)の姿。じっと蒼志を見ている。

○裏山(回想)
蒼志「一華!俺にビームしろ!」
   蒼志の前に一華(14)。傍らには詩歌もいる。
一華「いや、嫌だよ」
   必死に首を振っている一華。
蒼志「いいのか?このままじゃ何にも変わんねえぞ!」
一華「……」
蒼志「また同じ事繰り返してぇのか!」
一華「(涙ぐむ)」
   蒼志が宇須岸の水の入った容器を取り、一気に飲み干す。
蒼志「一華!来い!」
一華「……」
   一華は目に涙を一杯溜めながら、震える手をゆっくりと蒼志に向かって翳す。
   構える蒼志。表情が強ばる。
   ギュッと目を閉じて蒼志にビームする一華。
   ビームが直撃し、蒼志の顔が苦痛に歪む。
蒼志「(声にならない)」
詩歌「!」
   見ていた詩歌が声を上げる。
詩歌「一華!」
   詩歌の声でビームを止める一華。
   気を失ってその場に倒れる蒼志。
一華「そーし?そーし!!!」

○病院(回想)
   医療機器に繋がれベッドに寝ている蒼志。
   傍に蒼志の父と母の恵子。郡司もいる。
   泣き腫らした目の恵子。
   崩れ落ちそうになるのを横で蒼志の父が支えている。
   廊下にいる一華と詩歌。2人共泣いている。
    ×     ×     ×
   数日後。目を覚ます蒼志。恵子が駆け寄る。
    ×     ×     ×
   廊下で医者と両親が話している。
医者「今回は何とか一命を取り留めましたが、あと少しでも長くビームを受けていたら、危なかったかもしれません……」
   その声は病室の蒼志にも聞こえている。
    ×     ×     ×
   病院の屋上にいる蒼志。
   悔しそうに泣きながら、何度も何度も柵に拳を打ち付けている。
   その様子を離れて見ている一華。
   声を掛けずにそっと去っていく。

○蒼志の家・倉庫(回想)
   宇須岸の水に使った材料が並ぶ倉庫。
   それらを見つめ考え込んでいる蒼志。
   家の縁側を通りかかる郡司。
   倉庫にいる蒼志に気づく。
郡司「……」

○同・郡司の部屋(回想)
   厳しい目をして座っている郡司。
   その前には蒼志。
   険しい表情をして話し始める。
郡司「あの能力を受け継ぐという事がどういう事か。お前は本当にわかってるか?」
蒼志「……」
郡司「並大抵の事じゃない。仮に受け継げたとして、そこから課される使命は、お前の想像してる以上だ」
   落ち窪んだ目から鋭い視線を向ける郡司。
   俯いていて、その顔が見れない蒼志。
郡司「蒼志、お前に本当にその覚悟があるか?」
蒼志「……」
   唇を噛み締める蒼志。
   俯きながらも口を開く。
蒼志「けど、一華はそれをずっと今までやって来た。今だけじゃない。それがこれからもずっと続くんだ。誰かが、誰かが代わりになってやんねえと……」
郡司「……」
   じっと蒼志を見据える郡司。
   引き出しから一枚の写真を取り出すと蒼志に見せる。
蒼志「?」
   写真には壁画のような物が写っている。
郡司「縄文時代からの遺跡が函館から発掘されている事は知ってるな?」
蒼志「うん。俺が産まれる前に発掘されて、それで有名になったって」
郡司「これはその遺跡から発見された物だ。その壁画に描かれている物は、古(いにしえ)の怪獣退治を表してると言われている」
蒼志「!」
   丸(○)が五角形の頂点に配してあり、その中心にも大きな丸。
   その中心の大きな丸に向かって、
   五角形に配された丸から波線のような模様が伸びている。
郡司「この五つの丸が人を。この中心の大きな丸が怪獣を表していると言われている」
蒼志「……」
郡司「ビームを出せた人間は一人じゃない。昔はみんなで力を合わせて倒していた。その伝説を証明する元になったのが、この壁画だ」
蒼志「(息を飲む)」
郡司「いいか蒼志。怪獣との戦いはこれまで延々と続けられてきた。悩み苦しんでいるのは今のお前達だけじゃない」
蒼志「(郡司を見る)」
郡司「この町の歴史は長い。今まで培って来た歴史の中に必ずヒントがある筈だ。その中に、お前が求めてる物もあるかもしれない」
蒼志「(顔つきが変わる)」
郡司「この町を信じろ」
   力強く頷く蒼志。
    ×     ×     ×
   郡司の遺影の前に座っている蒼志(高校生)
   郡司の遺影をじっと見つめ、やがて立ち上がると部屋を出て行く。
   (回想終わり)

○遺跡発掘所(夕方)
   現在。縄文時代の史跡跡。
   そこで蒼志が発掘作業をしている。
   そこに戸倉がやって来る。
戸倉「おーい蒼志君、今日はそろそろ終わりにしないか?」
蒼志「はーい。でも、もうちょっとだけ」
戸倉「……(やれやれな顔)」

○戸倉の家・玄関(夜)
   帰って来る戸倉。
   2階から降りて来た詩歌と出くわす。
詩歌「あ、おかえり」
戸倉「おう。ただいま」
   玄関に置いてある時計を見る詩歌。
   時間は10時を過ぎている。
詩歌「最近遅いんだね」
戸倉「ああ。ちょっと蒼志君に付き合わされててな」
詩歌「……そう」
戸倉「最近ちょっと様子が違うんだよな。何かあったのかな?」
詩歌「……」

○高校・教室(放課後)(日替り)
   HRが終わった一華のクラス。
   そこに詩歌がやって来る。
詩歌「一華ぁー帰ろう」
一華「あれ?補習はいいの?」
詩歌「うん。今日は休み」
一華「あ、ちょっと待って。コレ書いちゃうね」
   そう言うとパーッと何か書き出す。
   見ると進路希望の紙。詩歌の顔が少し歪む。
詩歌「いいの?そんな急いで出すもんじゃないでしょ?」
一華「うん。でも、もう決まってるから」
   笑って答える一華。
一華「あ、先生」
   出て行こうとする北美原を呼び止めて紙を渡す。
   一華と詩歌はそのまま教室を出て行く。
   紙を見る北美原。
   そこには『就職』と書かれている。
北美原「……」
    ×     ×     ×
   廊下を歩いている一華と詩歌。
   笑いながら話している一華。
   そんな一華を気にしている詩歌。

○函館山・駐車場(夜)
   バイト終わりの蒼志。
   バイクに股がってヘルメットを被ろうとすると詩歌がやって来る。
詩歌「お疲れー」
蒼志「おう」
詩歌「……」
蒼志「……」
   無言で向かい合う2人。
    ×     ×     ×
   バイクに座っている蒼志。
詩歌「そっか。そんな事あったんだ……」
   詩歌は柵に寄り掛かって景色を眺めている。
蒼志「学校ではどうなの?」
詩歌「別に。いつもと変わんないって感じ?いつも通り……無理してる?」
蒼志「(少し笑って)一華らしいな」
詩歌「ね」
   ぼんやりと景色を眺める詩歌。
詩歌「今日もさ、進路希望の紙書いてたんだけどさ。ソッコーで出してたよ」
蒼志「どっか進学すんの?」
詩歌「そう思う?」
蒼志「……」
詩歌「多分さ、将来の事なんて考えた事ないんだろうね。てか、考えさせてくれないのか……」
   蒼志も町の方を見る。
詩歌「いつまで続くんだろうね……」
蒼志「……」
   今日も函館の町は光り輝いている。

○遺跡発掘所(日替り)
   作業中の蒼志。
   汗だくになってやっているが手がかりになりそうな物は出て来ない。
   苛立ってきて手つきが乱暴になる。
   端で戸倉が気にして見ている。
    ×     ×     ×
   夕方。道具を片付けている蒼志。
   そこに戸倉がやって来る。
戸倉「お疲れさん」
蒼志「あ、お疲れさまです」
   片付けを手伝いながら話し出す。
戸倉「君がここに来だしてから、もうどれぐらいだ?」
蒼志「ああ。もう4年ぐらいですかね」
戸倉「もうそんな経つか……」
蒼志「はい……」
   表情の冴えない蒼志。
戸倉「一華ちゃんの事かい?」
   少しハッとする蒼志。そして静かに頷く。
蒼志「はい……」
   優しく微笑んだ後、戸倉が話し出す。
戸倉「確かに一華ちゃんについては不憫に思う事もある。この遺跡の発掘にしても怪獣退治に役立つ物が何か出ないかと、ずっとやってる訳だ」
蒼志「……」
戸倉「なかなか成果は出ないけどね」
   自虐的に笑ってみせる戸倉。
   蒼志は黙って片付けている。
戸倉「それに、何もやってるのはコレだけじゃない。他にもやろうとした事はあるんだ」
蒼志「?」
戸倉「ビーム砲って聞いた事ないかい?」
蒼志「ビーム砲?さあ…」
戸倉「海岸沿いに砲台が設置されてるだろ?あれがそうだ」
    ×     ×     ×
   海岸沿いに設置されている砲台(インサート)
    ×     ×     ×
戸倉「君達は知らないと思うが、まだ一閃さんが現役だった頃に、一閃さんのビームを再現しようとした事があってね。普通の銃火器じゃ怪獣に通用しない事もあって、それで作ったのがビーム砲なんだ」
蒼志「全然知りませんでした」
戸倉「って言っても出来たのは足止めくらいで、ほとんど使い物にはならなかったんだけどね」
蒼志「そうですか……」
戸倉「それでも、今も町の漁師さんが手入れしてるって話だ。何かあった時の為にってね」
蒼志「……」
戸倉「この町の人も何とかしたいとは思ってる。その気持ちは君と変わらないよ」
   そう言って蒼志の肩に手をやる戸倉。
   やるせない表情のままの蒼志。
    ×     ×     ×
   夕日に照らされて、海岸沿いに設置されているビーム砲が見える。

○遺跡発掘所(日替り)
   今日も作業している蒼志。
   すると、何やら周りが騒がしくなる。
調査隊「おーいみんな。ちょっと来てくれ」
   蒼志が見に行くと土壁が崩れていて、奥に壁画のような物が見えている。
   そこに記された記号を見てハッとする蒼志。
調査隊「誰か、戸倉さん呼んで来てくれないか?」
蒼志「あ、俺。すぐ呼んで来ます」
    ×     ×     ×
   壁画の周りに集まっている人達。
   そこに戸倉もいる。
戸倉「垣ノ島で出た壁画と良く似てるな」
   横にいる蒼志が頷く。
   出て来た壁画は郡司に見せられた壁画とほぼ同じ。
   五角形の頂点に丸(○)が配置されていて、その中心にも丸がある。
   そして中心の丸に向かうようにして波線が描かれている。
戸倉「この外側の5つの丸が人。中心の少し大きいのが怪獣。で、この中心に向かって伸びている波線がビームを表している」
蒼志「昔はこうやって倒してたんじゃないかって言われてるんですよね?」
戸倉「そうだ。昔はビームをだせる人間は一人じゃなかったと聞くし。怪獣も、もっとたくさん出たって話だからね」
調査隊「今は一華ちゃん一人でやっちまうってのにな」
蒼志「……(何か考えている)」
戸倉「けど何で同じような物が出てきたんだろう?こっちの遺跡から出て来たって事は、前に出て来た壁画とは描かれた時代は異なる筈だ……」
   考え込んでいる戸倉。そして蒼志を見る。
戸倉「蒼志君、一応写真を撮っておいてくれないか?で、それを事務所に届けておいてくれ」
蒼志「はい。わかりました」

○博物館・展示室
   函館で発掘された縄文時代の土器や石器が展示されている博物館。
   写真を届けた蒼志が事務所から出て来る。
   ふと展示されている土偶が目に入る。
   その土偶には『中空土偶』と表記されている。
   見入っていると学芸員がやってくる。
学芸員「綺麗な物でしょう」
蒼志「はい」
学芸員「函館で唯一の国宝ですからね」
   中空土偶の説明に目をやる蒼志。
   中が空洞になっていると書かれてある。
蒼志「何で中が空洞になってるんですかね?」
学芸員「うーん。諸説あるんですが、まだ明確な理由はわかってないんですよね」
蒼志「そうなんですね……ありがとうございます」
学芸員「いえいえ。ごゆっくりご覧になって下さい」
   学芸員が去ると、蒼志もその場を離れる。
   途中、土偶の方を振り返る蒼志。
   展示されている中空土偶は独特のオーラを放っている。

○遺跡発掘所(日替り)
   作業中の蒼志。
   そこに戸倉がやって来る。
戸倉「蒼志君、ちょっといいか?」
蒼志「はい」

○博物館・事務所
   壁画の写真を見ながら蒼志と戸倉が話している。
戸倉「前、出た壁画を見て、より確信を持った事があるんだ」
蒼志「はあ」
戸倉「一華ちゃんのビームじゃ、怪獣を倒せないんじゃないかな?」
蒼志「どういう事です?」
戸倉「前から思ってた事なんだけど、怪獣の出る頻度が多過ぎるんだよ。もし本当に一華ちゃんが倒してるなら、こんな頻繁には出ない筈だろ?」
蒼志「確かに。それは俺も思ってました。倒したって言っても消えていくだけでしたし」
戸倉「けど5人なら倒せる」
蒼志「!」
戸倉「あの壁画はその事を示してるんじゃないかな?」
蒼志「でも、だとしたら、今は一華一人しかいないから倒せないって事になりますよね?」
戸倉「そういう事になるな」
蒼志「……」
   表情が曇る蒼志。
戸倉「何もネガティブな事ばかりじゃない。逆に言えば倒す事が出来れば怪獣はいなくなるって事だ。一華ちゃんが怪獣を倒してないなら、今出ている怪獣が繰 り返し出てるって事になる。つまり、あの一体だけって事だ。なら、その怪獣を倒しさえすれば、怪獣はいなくなる。一華ちゃんを解放してやれるかもしれない」
   蒼志の顔つきが変わる。
戸倉「希望はあるさ」
蒼志「はい」
   力強く頷く蒼志。
   その目には光が射している。

○蒼志の家(夜)
   ノートに壁画の絵を書いて思案している蒼志。
   机には人体の本も見える。それらを見ながら頭を悩ましている。
   大きくため息をついて椅子にもたれた後、チラと横に目をやる。
   壁に貼られている写真。そこに幼い頃の一華と蒼志が写った写真がある。
蒼志「……」
   少し微笑むと、また机に向かう。

○博物館・事務所(日替り)
   事務所にいる蒼志。
   郡司に見せてもらった壁画と新たに出て来た壁画の写真を並べて見ている。
   ドアが開いて詩歌が入って来る。
詩歌「お疲れー」
蒼志「おう。戸倉さんトコか?」
詩歌「うん。ちょっと手伝いにね。私も力になりたいし」
蒼志「そっか」
詩歌「これ?前出てきたのって?」
蒼志「うん。何か手がかりになるといいんだけどな」
   壁画の写真を見る詩歌。
詩歌「この波線みたいなのがビームなんだよね?」
蒼志「そう。んで、この外側の丸が人で、この中心の大きいのが怪獣。みんなで囲んで怪獣にビームしてるんじゃないかって事」
詩歌「ふーん。そうなんだ」
   ビームに見立てられた波線を見ている詩歌。
詩歌「私さ、最初真ん中の丸の方から出てるのかと思ってた」
蒼志「そりゃないだろ?怪獣はビームださねえし」
詩歌「だよね」
   蒼志も改めて壁画の写真を見る。
   外側の丸から中心の丸へと波線が伸びている。
   顔付きが変わる。
蒼志「いや、待てよ……だとしたら……どういう事だ?」
詩歌「?」
   考えを巡らす蒼志。
   そしてハッとすると、慌てて事務所を飛び出して行く。
詩歌「ちょっと、蒼志?」
   詩歌も後を追う。

○同・展示室
   走って中空土偶の前にやって来た蒼志。
蒼志「……」
   蒼志の脳裏に今まで調べて来た事が思い浮かぶ。
    ×     ×     ×
   古文書の『それ人の器なりし』の記述。
    ×     ×     ×
   宇須岸の水。
    ×     ×     ×
   自宅で見ていた人体の本。
    ×     ×     ×
   壁画に刻まれた5つの丸。
    ×     ×     ×
   そして、目の前にある中空土偶。
   じっと中空土偶を見ている蒼志。詩歌がやって来る。
詩歌「ちょっと蒼志、どうしたの?」
蒼志「戸倉さん、戸倉さんはどこ?」
詩歌「お父さんなら、さっき外にいたけど」
   また走りだす蒼志。詩歌も後を追う。

○同・事務所
   壁画の写真を見ている蒼志、詩歌、戸倉。
戸倉「確かに中心からビームしてるようにも見えるな」
蒼志「そうです。周りの丸より少し大きい事で、中心の丸が怪獣じゃないかって思われてた。その先入観で、外側からビームしてるようにも見える。けど、方向が示されてる訳じゃない」
   外側の丸と、中心の丸の間に示されている波線。
蒼志「詩歌の話を聞いてて、もしかしたら同じ画でも意味が違うんじゃないかって思ったんです。例えばこっち(郡司の壁画)は中心、こっち(新たな壁画)は外側に向かってビームしてるんじゃないかって」
戸倉「怪獣じゃないとしたら、何に向かってビームしてるんだ?」
蒼志「中空土偶です」
戸倉「中空土偶?」
蒼志「そうです。中空土偶は中が空洞になってる。それは器だったからなんじゃないかって」
詩歌「どういう事?」
蒼志「俺、前に宇須岸の水について調べた事があるんです」
戸倉「ああ。あの祭事で奉られる水か」
蒼志「そうです。ただ宇須岸の水は言い伝えだけで、その用途は明確にはわかってない」
戸倉「確かにそうだ」
蒼志「その唯一の手がかりとなるのがこれです(古文書を見せる)」
戸倉「それ人の器なりし。か」
蒼志「そうです。俺はコレが人に対しての物だと思ってた。けど本当はそうじゃなくて、コレは中空土偶の事を言ってるんじゃないかって思ったんです」
戸倉「それはつまり、土偶の中に宇須岸の水を入れるって事か?」
蒼志「そうです」
詩歌「ちょっと待って。全然わかんない。それに何の意味があるの?」
蒼志「人に見立てる」
詩歌「どういう事?」
蒼志「宇須岸の水は、函館に縁のある物で作られている。俺、その成分を調べてみたんだ。何であの水に人とか器とかの意味があるんだろうって。で、その時気づいたんだ。人間に似てるって」
詩歌・戸倉「?」
蒼志「聞いた事ありませんか?人間のほとんどは水分で出来てるって」
詩歌・戸倉「!」
蒼志「人の成分は大雑把に見ると、水、タンパク質、アミノ酸、ミネラルで構成されてる。宇須岸の水の成分も、それに近いんです」
戸倉「ちょっと待ってくれ。だとすると…」
蒼志「はい。恐らく昔の人が、人をイメージして作ったのが宇須岸の水だったんです」
戸倉「そうか。ならそれを土偶に入れる事で…」
蒼志「人に見立てる。それが人の器っていう意味なんだと思います」
詩歌「ちょっと待ってよ。それだけでさ……」
戸倉「……確かに人の成分と同じといっても明確な物じゃないし、実際それで人間が作れる訳でもない。特に昔なんて専門的な知識もなかっただろうからな」
蒼志「……」
戸倉「ただ、人に見立てたそれにビームする事によって、何らかの化学反応が起きてもおかしくない」
詩歌「それで能力が土偶に移るって事?」
戸倉「可能性はないとは言い切れない」
詩歌「けど何で人じゃなくて土偶なの?わざわざ物に能力移動させようとしなくたって…」
蒼志「あんな頻繁に出て来る怪獣をその都度人が対処してたら何も出来ない。今の一華と同じだ。それを人以外の何かに託せないかって、昔の人が考えたとしても不思議じゃない。寧ろそう考える方が自然だ」
詩歌「……」
戸倉「その為の中空土偶だとしたら、人の形なのも頷ける…」
蒼志「はい。あと、これは推測なんですけど、今回出た壁画を描いた時代には、もうビームを出せる人間は一人だけになってたんじゃないですかね?それで、一人だと怪獣を倒せない事を知った」
   資料を調べ始める戸倉。
戸倉「最初に出た壁画は縄文時代前期。そして今回出たのは後期と推測されている」
蒼志「その間にビームが出せる人間が減った…」
詩歌「それで代わりになる方法を考えたって事?」
戸倉「それだけじゃない。今回出た壁画と中空土偶の作られた時代は、ほぼ同じだ。それを考えても、この絵が中空土偶を表してる可能性は高い」
蒼志「ビームを出せる人間の数が減って怪獣を倒せなくなった。それをどうにかしようとして作ったのが中空土偶だった」
戸倉「辻褄は合ってるな」
   詩歌が壁画にある五カ所に配された丸を指す。
詩歌「でも、この丸が土偶だとしたら全部で5つあるよね?確か能力を受け継げるのって一人だけじゃなかった?」
戸倉「確かにそうだ。ただ、それは人の場合で、物の場合は違うとか……」
蒼志「後は大きさですよね。人に見立てるならもっと大きくてもいい筈だ。けど中空土偶は人に比べて大分小さい。それも関係あるんじゃないんですか?」
戸倉「確かに。それにも意味はありそうだ」
詩歌「でもだとしたら、一体ずつの能力は弱まるって事にならない?」
戸倉「いや、そうとも限らない。元々土偶は守り神という意味で作られたとされている。地母神と言われるもので、つまり大地の神だ。土偶の元となる土には計り知れない力が宿っている。そこが人との違いとも言えるし、それがビームの力を増幅させたとしても不思議じゃない」
   改めて考える3人。
蒼志「人に見立てた土偶にビームして能力を移動させる。その土偶が人の代わりとなって怪獣を倒す……これが本当なら、一華を解放してやれるかもしれない」
詩歌「凄い……凄いよ蒼志!」
戸倉「可能性がある事はわかった。肝心なのはそれをどうするかだ。もう少し細部を詰めて考えてみよう」
蒼志「はい!」

○函館山の観測所(インサート)
   観測所を訪れている蒼志と戸倉。
   怪獣警備の職員と話をしている。
   蒼志が見ている資料には怪獣の現れた時間と場所が書かれてある。

○蒼志の家・蒼志の部屋(インサート)
   蒼志の部屋に一華と詩歌が来ている。
   床に函館市内の地図が拡げ、蒼志と3人で話をしている。
   そこに飲み物を持った恵子が入って来る。
   挨拶する一華と詩歌。
   一華は少し気を使っているように見える。

○山奥の家(インサート)
   山間にある一軒家。
   家の外には焼き物が幾つも置かれている。
   そこに蒼志がやって来る。
   手に中空土偶の写真を持っていて、その職人さんの家を尋ねる。

○蒼志の家・蒼志の部屋(インサート)
   夜。部屋に拡げられた市内の地図を見ている蒼志。
   地図上の五稜郭を見て、何か考えている。
    ×     ×     ×
   廊下。トイレに起きた恵子。
   蒼志の部屋から漏れている灯りに気づく。
   廊下にある時計は午前3時を過ぎている。
   心配そうに蒼志の部屋を見つめる恵子。

○町の遠景(時間経過)

○博物館・事務所
   話している蒼志と戸倉。
   机には壁画の写真と函館中心部の地図が拡げられている。
蒼志「一華のビームじゃ怪獣を倒せないとして、何で5人だと出来るのか?改めて考えてみたんです」
   蒼志が郡司の壁画の方を指しながら話す。
蒼志「この5つの丸から中心の丸、つまり怪獣に向かってビームする。これは、ほぼ同時に行う事だと思うんです。で、同時に行うとどうなるか?」
戸倉「逃げ場所がなくなる。つまり方角が関係してたって事か」
蒼志「はい。一華のビームは倒してたんじゃなくて、どこかに飛ばしてたって事です。それを裏付ける為に観測所のデータと一華に聞いて照らし合わせてみたら、わかったんです。怪獣に向かって東に向けてビームすれば東から。南に向ければ次は南から出ていました」
戸倉「なる程。ならその逃げ場所さえ無くせば…」
蒼志「はい。完全に倒せるって事です。5方向からビームを撃てば怪獣は行き場を失います」
戸倉「理屈はわかった。けど、それをどうやってやるかだな。5方向と言ってもどこでやるかも問題だ……」
蒼志「うってつけの場所はあります」
   蒼志が地図の一角を指す。
戸倉「なるほど。五稜郭か……」
蒼志「……」
戸倉「確かにこの5つの丸は五芒星の頂点を表しているようにも見える。やるには五稜郭が一番だろう。ただ、それだと……」
蒼志「はい。怪獣を五稜郭まで誘導する必要があります」
戸倉「町を歩かせるって事か?それは幾ら何でも無茶過ぎないか?」
   不安気に返す戸倉。蒼志の表情も険しい。
   だが、その目は諦めていない。

○漁港・事務所(日替り)
漁師の声「ビーム砲を使いたい?」
   蒼志が漁師の事務所を訪れている。
   事務所の机には蒼志の作った計画書。
蒼志「そうです。怪獣を五稜郭まで誘導するのにビーム砲が必要なんです」
   計画書には市内の地図にビーム砲が設置された図が書かれている。
漁師1「んな事出来る訳ねえべ!五稜郭着く前に町が壊されちまう!」
蒼志「それをさせない為にビーム砲を使うんです!ビーム砲を使って歩くルートを絞らせる」
漁師2「無茶言うんでねえ!この若造が!」
   蒼志の無茶な要求に思わず声を荒げる漁師達。
   そんな中、黙って計画書を見ている啄三(75)
漁師1「それにな坊主、ビーム砲つったってありゃほとんど効果ねーんだぞ?」
蒼志「けど足止めぐらいなら出来る。だから今でも手入れしてるんですよね?いつでも使えるようにって」
漁師2「そりゃ、そうだけんどもよ…」
   諦める様子のない蒼志に漁師達も呆れ気味。
漁師1「啄さん、コイツどうにかしてくれよ」
   計画書を見ていた啄三。
   鋭い視線を蒼志に向ける。
啄三「坊主、目的はなんだ?」
蒼志「怪獣を倒して一華を解放する。それだけです」
   啄三の鋭い視線に、負けじと蒼志も視線で返す。
   その目をじっと見据える啄三。
   ふっと笑って、少し口元を緩めると話し出す。
啄三「……確かに足止めくれえなら出来ねぇ事はねえ。ビーム砲自体も数はある。ただ、そんな一遍には使えねえぞ」
蒼志「?」
啄三「ビーム砲つったって元になるのは電気だ。威力こそ大した事ねえがバカみたいに電気食っちまう。せいぜい一遍に使えんのは2、3ってトコだろう。それでやれんのかい?」
   蒼志の作った計画書には大量のビーム砲が書かれている。
蒼志「これ、全部使うにはどれぐらい必要なんですか?」
啄三「詳しい事は数値出してみねえとわかんねえが……函館中の電気使ってようやくってとこだろう」
蒼志「……」
漁師1「電気もそうだけどよ、ビーム砲使うにしたって俺達だけじゃ無理な話だぞ」
漁師2「んだ。管理してんのは役所だからな。第一役所の人間がこんな話し飲む訳ねえよ」
漁師達「んだんだ」
   周りの漁師達も頷き、否定的なムードが漂う。
   ただ蒼志に諦める様子はない。
   そんな蒼志を啄三がじっと見据えている。

○市役所・外観(日替り)
蒼志の声「お願いします!」

○同・会議室
   職員達に向かって頭を下げている蒼志。
職員(若)「って言われてもね…」
   厳しい視線を向けている職員達。
   蒼志の横にあるボードには中空土偶の写真、
   ビーム砲を使って怪獣を五稜郭まで誘導する図が貼られている。
   (啄三ら漁師も部屋の隅にいる)
職員(老)「100歩譲って土偶まではいいよ。それを五稜郭に設置する事もね。ただ怪獣をそこまで誘導するってのは幾ら何でも…」
職員(女)「町を歩かせるなんてね」
職員(若)「それにビーム砲使うのに函館中の電気が必要ってさ。そんな無茶な事、出来る訳ないでしょ?」
職員(女)「一華ちゃんが不憫なのはわかるけど。一太君もいる訳だし、もう少し待ってればね」
職員(若)「そうですよね」
蒼志「……」
   職員の意見はみな否定的。
   そして、黙って聞いていた陣川が口を開く。
陣川「確かに君の気持ちはわかる。我々も光家に頼り切りになっている現状に何も思ってない訳じゃない。何か出来ないかと、今までもずっと考えて来た……だが、これは幾ら何でも無茶だ」
職員(女)「そうよ。失敗したらどうするつもり?」
   職員達の冷たい視線が蒼志に向けられる。
蒼志「……失敗したら、また一華一人に怪獣押し付けるだけです…」
職員(老)「いや、押し付けるって君ね。我々だって一華ちゃんの事についてはちゃんと考えてるよ!この町の人だってね…」
蒼志「(遮って)じゃあ、何で誰もサイレンに反応しねえんだ?」
   一瞬言葉に詰まる職員達。
蒼志「反応してんのは一華だけ。みんなサイレンがどんだけ鳴ろうがお構いなしだ。どうせ一華が倒すからいいってか?おべっか言って盛り上げてりゃそれでいいってか?」
陣川「……」
    ×     ×     ×
   町中。サイレンが鳴るが、何事もなかったような町の人。
    ×     ×     ×
   海岸沿いの道。怪獣を倒す一華に群がる野次馬達。
    ×     ×     ×
   商店街。一華に食べ物や飲み物を渡す人達。
    ×     ×     ×
   祭りの日。サイレンが鳴る中、一華だけが走って行く
   (以上フラッシュ)
   ×     ×     ×
   机を叩く蒼志。
蒼志「アイツが相手にしてんのは怪獣だぞ!」
陣川「……」
啄三「……」
   静まり返る会議室。
   蒼志が職員(女)を見る。
蒼志「一華は一太に能力譲る気はねえ。それがどういう事か、アイツが一番よくわかってる」
職員(女)「……」
蒼志「一華は7歳の頃から怪獣倒すようになって、周りに騒がれて、それ目当ての観光客がいる事も知ってる。一華使って町を盛り上げようとしてんのもだ」
   会議室には通常版の一華のポスター以外にも、
   一華を起用した町おこし的なイベントポスターが幾つも貼られている。
   その扱いはアイドルのようである。
蒼志「みんな一華だ!みんな一華に頼ってる!」
   何も言えない職員達。
   少し興奮している蒼志。
   啄三と目が合って少し落ち着きを取り戻す。
   そして改めて職員達を見る。
蒼志「何で怪獣は何度も出て来るのか?その疑問を解消してくれたのがあの壁画です。元から一人じゃ無理だった。けど5人なら倒せる。この方法ならそれが出来るかもしれない」
陣川「……」
蒼志「確かにリスクはあります。けど、これが成功すれば怪獣を倒せるかもしれない。一華を解放してやれるかもしれないんです」
職員(若)「や、やるにしたって君一人じゃ出来ないんだぞ?君が要に思ってるビーム砲だってそうだ。使える人間だって限られてるし、漁師の人達だって無茶だって言ってんだろ?誰がそんな危険な目に合ってまでやろうとするんだ!」
蒼志「……」
啄三「俺ら、やらねえとは一言も言ってねえぞ」
   ずっと黙っていた啄三。
   その鋭い眼光を職員達に向け話し出す。
啄三「俺ら漁師にとっても怪獣は厄介もんだ。ビーム砲が出来た時にゃ、一目散に使い方教わりに行ったよ。だから俺たちゃ漁師は全員がビーム砲使える。今でも月イチの訓練は欠かした事はねえ」
漁師1「んだ。まあ一華ちゃんのおかげで出番はねえけどな」
漁師2「この時の為に取っておいたってもんだよな」
啄三「俺ら漁師はこの坊主に乗るつもりだ。いつまでもあんな嬢ちゃん一人に頼ってる訳にはいかねえ」
   啄三が陣川に視線を向ける。
啄三「後は町がどうでるかだ。どの道、電気がねえ事には何もできねえ」
陣川「……」
   改めて職員達を見る蒼志。
蒼志「確かに今言ってる事は仮説に過ぎません。本当に怪獣に通用するかはやってみねえとわかんねえ。けど、この町が、函館の町が積み上げてきた歴史が、それが全ての可能性を示してるんです!」
職員達「……」
蒼志「じいちゃんは言ってた。怪獣倒そうとしてんのは今の俺達だけじゃねぇって。この町を信じろって」
啄三「……」
陣川「……」
蒼志「一華はこの町の為に人生捧げて来た。この町から出た事もねえ。普通の子がやれるほとんどの事を普通にやれた事がねえ」
   膝を付いて蒼志が頭を下げる。
蒼志「お願いします!アイツを、一華を、普通の女の子に戻してやって下さい!お願いします!お願いします!」
   頭を下げ続ける蒼志。
   懇願するその声が会議室に響く。

○同・外
   漁師達が励ますようにして蒼志の肩を叩きながら出て来る。
   頭を下げて歩いていく蒼志。
   蒼志と別れると啄三も漁師達と別れて歩いて行く。
   啄三の背中を見送りながら漁師達が話す。
漁師1「けど啄さんも思い切ったよな?俺らもつい吊られちまったけどよ」
漁師2「んだな。正直、啄さんが乗るとは思わなかったもんな」
    ×     ×     ×
   停めてあった軽トラに乗り込む啄三。
   雑多な車内に仲間達と撮った写真がダッシュボードに貼られている。
   その中の古ぼけた写真。
   そこに写った青年と啄三の顔が重なる。

○同・市長室
   市長室に飾られている写真。
   歴代の光家当主と町の人が写った写真が何枚も飾られており、
   その中の古い写真の一つに青年時代の啄三が写っている。
   その啄三の隣りに蒼志そっくりの青年。そして小さな少年が写っている。
   その少年の顔が現在の陣川と重なる。
陣川「……」
   その写真を見ている陣川。
   その目には覚悟めいた物が感じられる。

○軽トラの車内
   運転している啄三。
   ダッシュボードには市長室にあった写真と同じ写真。  
   その写真に目をやると少し笑う。
啄三「いい男になってたな、オメーさんの孫は。若え頃のあんたにそっくりだ」
   写真に写る蒼志そっくりの青年時代の郡司。
啄三「力貸してやってくれ。郡さんよ」
   仲良さそうに写っている啄三と郡司。

○市役所・議場(日替り)
   議場では怒号が飛び交っている。
議員1「こんな無茶苦茶な事、本気にするつもりじゃないでしょうね!」
   配布された資料を手に議員達が怒鳴っている。
   そんな怒号の中、発言台に立っている陣川。
陣川「私としても町を危険に晒す事は避けたい。ただ、反対しようとは思ってません」
議員2「は?何言ってんだあんた!」
議員3「正気か!?」
陣川「今まで光家に頼り切りになっていたのは事実です!我々もバカじゃない。その事について何も気に止めてなかった訳じゃない。ただ何も出来なかったのは、その方法を知らなかったからでもある」
   野次が飛び交う中、尚も陣川は話し続ける。
陣川「私も光のじいさんとは昔馴染みでね。ガキの頃によく怪獣退治も見物させてもらいました」
議員の声「そんな昔話聞いてんじゃないよ!」
陣川「まあ聞いて下さい。私も子供ながらに思いましたよ。何で自分には何も出来ないんだろうってね」
   議場の隅では職員(若)(老)(女)が固唾を飲んで見守っている。
陣川「今、ようやく一つの可能性が見えた。その可能性を潰すのか、潰さないのか。私が問いたいのはそこです」
議員の声「だからと言ってね!」
陣川「だからと言って強制はしません。怪獣に町を歩かせる事を不安に思う人もいる。当然です。ビーム砲を使うからと言って停電もしない。賛同を得られない場合は、今まで通り光家に怪獣を倒してもらう。何も変わらない。いつもと同じです。不安な事は何もない。ただ……」
   議員らに鋭い視線を向ける。
陣川「ただ、賛同を得られた場合も考え、しっかりと準備はする。私が言いたいのはそういう事です」
   困惑している議員達。また野次が飛び交う。
陣川「今、この町を守っているのは一人の少女だ!この町の人間でそれを知らない者は誰もいない!」
   声を張り上げる陣川。
   その声に圧倒され議員達の野次が止む。
陣川「いつまで一人の女の子に重荷を背負わせるのか。我々が動かなければ何も変わりません。やらなきゃ変わらないんです。動かないと。誰かがそれをやらないと。誰も、何も救えません」
   静まり返っている議場。
陣川「どうですか、みなさん?ここらで一度、腹を括ってみませんか」
議員達「……」
   すると職員(老)が立ち上がって拍手する。
   職員(若)と(女)が後に続く。
   それを手で制した後、陣川が続ける。
陣川「我々の町を我々で守る。私がしようとしているのはそれだけです」
   野次を言う者はもう誰もいない。

○町中(日替り)
   町中に新しいポスターが貼られている。
   『一華ちゃんを普通の女の子に!みんなで怪獣を倒そう!』
   町の人が立ち止まって、そのポスターを見ている。

○高校・保健室
   昼休みの保健室。
   人気はなく、ベッドのカーテンが閉まっていて、その下に上履きが見える。
   ドアが開き、ポスターを抱えた詩歌と麻衣が入って来る。
麻衣「ここにも貼っとこうか?」
詩歌「そうだね」
   ポスターを貼りだす2人。
   詩歌が貼って、麻衣がテープを渡す。
麻衣「でも光も可哀想だよね」
詩歌「ん?」
麻衣「だって手も繋げないってさ、ヤバいじゃん?彼氏とか出来たとしてもさ、どうすんのって話だし」
詩歌「(黙ってテープを貼っている)」
麻衣「手ぇ繋げるのって詩歌だけなんだよね?」
詩歌「ううん。違うよ」
   あっけらかんと答える詩歌。
麻衣「ウソだ?本当に?」
詩歌「最初は私だけだったんだけどね。中学の終わりくらいかな。一緒に特訓してさ、一華も段々コントロール出来るようになって。手ぐらいは繋げるようになったんだ」
麻衣「え?でもさ」
詩歌「うん。けど繋がない。ってか、そういう風にしてんだと思う」
麻衣「なんで?」
詩歌「理由は色々だろうけど、一番は遠慮してるからだろうね」
    ×     ×     ×
   中学の体育祭。
   一華が輪に入ろうとすると、周りの子が避けるようにして離れていく。
   (大縄跳びとか百足競走的な)
    ×     ×     ×
   教室。よそよそしい感じで一華を見ている周りの子
   (以上フラッシュ)
    ×     ×     ×
麻衣「でもさ、光に好意持ってる人もいっぱい居るじゃん?ほら、追っかけしてる人とかさ」
    ×     ×     ×
   一華と握手しようとして断られる新入り(フラッシュ)
    ×     ×     ×
詩歌「それはまた別だろうね。ただ手ぇ繋ぐにしても一華にとっては違うから」
麻衣「どういう事?」
詩歌「だって、誰とでもキスはしないでしょ?」
麻衣「……」
   保健室の窓からじゃれ合っている男女が見える。
詩歌「みんながやってる普通でも、一華にとっては普通じゃないから」
   男女の手が触れ合って、手を繋いだような格好になる。
詩歌「特別なんだよ」
   詩歌が最後のテープを貼りおえる。
麻衣「あ、じゃあさ、高丘先輩となら」
   そう麻衣が言いかけると詩歌が少し笑う。
詩歌「それは特訓だけじゃどうにもなんないんだなー。何とも思わない人なら平気なんだろうけどね。あ、でもそれだと一華が無理か」
   貼り終えたポスターを見ている詩歌。
詩歌「ね?可愛いでしょ?」
麻衣「(何とも言えない)」
詩歌「可愛いんだよ。一華は…」
   ポスターに写っている一華は、いつもの無表情ではなく少し微笑んでいる。
   『普通の女の子に』の言葉の通り、どこにでもいる普通の女の子である。
   ベッドのカーテンが揺れている。
    ×     ×     ×
   詩歌達が出て行った後の保健室。
   ベッドのカーテンが開いていて、一華のポスターの前に誰か立っている。
   茜の横顔が少しだけ見える。

○宇須岸の水と土偶作り(インサート)
   蒼志が中心となり町の人と協力して行う。
   滝に行っての水汲み。バケツリレーの要領で水を汲み出す。
    ×     ×     ×
   港の市場。漁師さんからイカや昆布等の海産物をもらう。
    ×     ×     ×
   恵山に登って火山岩の採取。
    ×     ×     ×
   函館山。
   地質を調査している戸倉。
   掘削して土を運び出す。
    ×     ×     ×
   職人さんの工房。
   中空土偶の見本を見ながら形作っている職人さん。
   一太が学校の友達を連れて来て、土偶に使う粘土作りを手伝っている。
    ×     ×     ×
   港に集まっている漁師達。
   ビーム砲を並べてみんなで手入れをしている。
   監督役となって入念にチェックしている啄三。

○駅前(日替り)
一華「……」
   ぼーっと駅前に貼られた『普通の女の子に』のポスターを見ている一華。
   その奥でビラ配りをしている詩歌。
   (『普通の女の子に』のチラシ)
詩歌「一華ぁー」
一華「うん」
   一華もビラを配り始める。
   好意的にチラシを受け取っていく町の人。
   一華も笑っているが、どこかぎこちない。
   そんな一華を気にしている詩歌。

○一華の家(夜)
   夕食を食べている一華、一太、一閃。
   みな黙々と食べているだけで口数は少ない。
   少し一華を気にしているような一閃。
一閃「蒼志君の方は順調なのか?」
一華「うん。多分」
一閃「そうか」
一太「……」
   黙々と食べ続ける一華と一閃。
   いつもと様子が違う2人に気が気ではない一太。

○一華の家・一華の部屋(夜)
   ベッドに寝転がって、ぼーっと天井を見ている一華。
   いつも楽しみにしている恋リアにも無関心。
   棚に生誕祭で撮った町の人との記念写真。
   一華を囲む大勢の町の人。
   それは今まで一華が守ってきた人達。
一華「……」
   布団にくるまり顔を埋める。

○蒼志の家・倉庫(日替り)
   倉庫は宇須岸の水作りの工房になっている。
   蒼志に一太、町の人がいる。
   テキパキと作業する蒼志を戸倉が感心して見ている。
戸倉「蒼志君は、元は工学部の志望だったんだよね?」
蒼志「ああ、まあ。昔の話ですけどね」
戸倉「……」
   そこに差し入れを持った詩歌と一華がやって来る。
詩歌「お疲れさまでーす。差し入れ持って来たよー」
一太「やったー」
   差し入れに群がり、やいのやいのと盛り上がる。
   その様子を見ている一華。
   一華の瞳に映る一太や詩歌、町の人。そして蒼志。
一華「……」
   そっと出て行く。

○ペリー広場
   原っぱに寝転んで、ぼーっと空を眺めている一華。
   そこに詩歌がやって来る。
詩歌「いーちか」
一華「しーちゃん…」
   一華に近づいていく詩歌。
一華「ゴメン。先に出て来ちゃった」
詩歌「ううん。いいよ」
   一華の隣りに寝転がる詩歌。同じように空を眺める。
詩歌「ねえ、小学校の頃さ、蒼志と3人で怪獣退治行った時の事覚えてる?一華と2人で裏山で特訓してたらさ急にサイレン鳴って」
一華「うんうん。覚えてる覚えてる」
詩歌「周りに大人の人誰もいなくてさ。一華も私もまだ自転車乗れない時で、どうしよって慌ててさ」
一華「うんうん。そしたら蒼志が来てくれたんだよね?」
詩歌「そうそう。蒼志はその頃もう自転車乗ってたから『一華、乗れ!』って言って。けどビームでちゃうから乗れないの」
一華「(笑ってる)」
詩歌「で、どうしよってなって。で、一華だけ自転車乗せてさ、蒼志と私で押してったんだよね」
一華「本当怖かったよ。あの時」
    ×     ×     ×
   (回想)
   川沿いの道。
   一華を乗せた自転車を後ろから蒼志と詩歌が押している。
   泣きそうになりながら必死でハンドルを握っている一華。
   3人の自転車が川沿いの道を走り抜けていく。
    ×     ×     ×
詩歌「それから自転車乗れるように猛特訓したんだよね。あとさ…」
   話は尽きない。

○蒼志の家・倉庫(夕方)
   中空土偶を運んでいる職人さん。
   出来上がった中空土偶が倉庫に並ぶ。
蒼志「凄い。完璧です!」
職人「蒼志君にそう言ってもらえると一安心だな」
   職人さんも満足気。戸倉も感心している。
   と、蒼志が早速何かやろうとする。
戸倉「まだやるのかい?」
蒼志「はい。実際の水が入る容量を確かめて、調整しないとなんで」
   空洞になった部分の計測を始める蒼志。
戸倉「大丈夫かい?壁画が出て来てからずっと掛かりきりだろ?」
蒼志「ありがとうございます。けど大丈夫です。多分チャンスは一回あるかないかだと思うんで。手抜く訳には行きませんから」
戸倉「……」
   休まず作業を続ける蒼志。心配そうな戸倉。

○ペリー広場(夕方)
   ずっと話している一華と詩歌。
一華「で、急いでしーちゃんの家行ったらさ、ストーブにビームしてって言うんだもん」
詩歌「そうそう。家のストーブ古くてさ、火の付き悪かったんだよね」
一華「早く来て!って言うから何かと思ったらさ。ヒドいよね?」
詩歌「でもビームって結構便利だからさ。よくさ、蒼志にも屋根に引っかかったボールとか取らされてたよね?」
一華「本当みんなヒドいよね」
   笑っている詩歌。一華も笑っている。
   茜色に染まった空を見る2人。
詩歌「色々あったよね」
一華「うん」
詩歌「……」
一華「……」
詩歌「悪い事ばっかじゃなかったよね?」
一華「……」
詩歌「楽しい事も、いっぱいあったよ」
一華「うん……」
   詩歌が一華の方に体を向けて。
詩歌「ねえねえ、怪獣いなくなったらさドコ行きたい?」
一華「え?ドコだろ?考えた事ないや(笑)」
詩歌「じゃあさ買い物しに行こうよ。札幌とか行ってさ。一華の好きそうな服一杯あるよ。あと動物園とかもいいよね?あと東京?ディズニーとかさ、めっちゃ楽しいよ」
一華「そうだね……」
詩歌「……」
   ぼーっと空を見ている一華。
   一華の手に詩歌が触れる。
詩歌「ちょっとくらい甘えたっていいじゃん」
一華「……」
詩歌「それだけの事やって来たでしょ?」
一華「……」
詩歌「今はさ、みんなに任せてみよう」
   涙ぐむ一華。
一華「うん……」
   しっかりと繋がれた一華と詩歌の手。

○蒼志の家・倉庫(夜)
   夜食を持って来る恵子。
   倉庫では蒼志が一人で作業を続けている。
   心配そうに見ている恵子。

○函館山・観測所(日替り)
   双眼鏡を覗いて監視している一閃。
   その横で戸倉が職員と話している。
戸倉「この間はありがとうございました」
職員1「いえいえ、とんでもない。一華ちゃん上手くいくといいですね」
戸倉「ええ」
職員2「けど反対してる人もいるって聞きますよね?」
職員1「まあ、町歩かせなきゃなんないからな」
   少し気まずそうな戸倉。チラと一閃を見る。
職員1「ポスターなんかも剥がされてる所があるらしいってな」
職員2「それ僕も聞きました。酷い事しますよね」
職員1「そこまでしなくてもな」
戸倉「……」
   何となく室内を見渡す戸倉。
戸倉「ここにはポスター貼ってないんですね?」
職員1「あれ?そんな筈ないんだけどな。どこやったっけ?」
職員2「前まで貼ってありましたよね?」
職員1「だよな。どこ行ったんだろ」
戸倉「……」
   そんな話を気にする様子もなく監視をしている一閃。
   そんな一閃を戸倉が見ている。

○駅前
   ビラ配りをしている蒼志達。
   好意的に話を聞く人や、ビラを受け取らない人など反応は様々。
   親衛隊もいて、お揃いの『IBL』のTシャツを着て協力を呼びかけている。
   と、親衛隊の新入りが大きくため息を付いて座り込む。
   気づいた隊長が近づいて来る。
隊長「どうした?」
新入り「なんかちょっと複雑で……」
隊長「何が?」
新入り「だって、コレが上手くいったら一華ちゃんもう怪獣倒さなくなるって事ですよね?」
隊長「まあ、そうなるだろうな」
   さらに深くため息を付いて。
新入り「そりゃ一華ちゃんにとっては良い事かもしんないですけど。俺、怪獣倒してる一華ちゃんが好きだったんですよね」
隊長「お前、それ本気で言ってんのか?」
新入り「え?まあ、はい」
隊長「バカ野郎!(思い切り殴る)」
新入り「イタい!(倒れる)」
隊長「俺も同じだよ!あんな可愛い子が怪獣倒してんだ!ゾクゾクするよ!」
   頬を抑えている新入り。じゃあ何で殴るの?の顔で隊長を見る。
隊長「けどな、それだけじゃねえだろ?ビーム出すだけが一華ちゃんじゃねえだろ!」
新入り「!?」
   隊長がシャツにプリントされた『IBL』のロゴを指す。
隊長「この意味何だか知ってるか?」
新入り「一華、ビーム、ラブ…」
隊長「バカ野郎!(強めに殴る)」
新入り「(とても痛い)」
隊長「それだけじゃねえ!この『B』にはな、ブリリアントって意味もあるんだ。輝くって意味だ。俺らが応援してんのは輝いている一華ちゃんだ!怪獣倒してるだけが一華ちゃんじゃねえ!」
新入り「……」
   頬を抑えている新入り。何も言えず呆然としている。
隊長「それがわかんねえなら、今すぐそれ脱いで消えろ」
新入り「……」
   気づいた蒼志が駆け寄って来る。
蒼志「隊長さん、もうそのぐらいで」
隊長「けど会長、わかってない奴には言ってやらないと」
蒼志「いや。俺、会長じゃねえから」
隊長「またまた」
   そんな蒼志達の横目に駅前を一閃が通りがかる。
   親衛隊からビラを渡される一閃。
   ビラを見ると握りつぶすようにしてポケットにしまって歩いて行く。

○五稜郭(日替り)
   奉行所の前に蒼志や一華、詩歌、戸倉、親衛隊や町の人が集まっている。
   中空土偶を模して作った土偶が5体並んでいる。
    ×     ×     ×
   土偶に宇須岸の水を注いでいく。
    ×     ×     ×
   稜堡に作った祭壇に土偶を設置する。
    ×     ×     ×
   一華が土偶にビームする。
    ×     ×     ×
   5体目の土偶にビームする一華。
   町の人が見守っているが特に反応は見られない。
戸倉「これで土偶に能力が移ったって事か……」
蒼志「どうだ、一華?」
一華「うん……(自分の手を見る)」
   手を翳してみる一華。するとビームが出る。
蒼志「!」
   見ている周りも戸惑っている。
戸倉「これだけじゃまだ何とも言えないな。もう少し様子を見てみよう」
一華「……」
詩歌「……」
蒼志「……」
   不安そうな面々。

○公園(夕方)
テロップ「3日後」
   ブランコに座っている一華と蒼志。
   表情の暗い蒼志。
蒼志「そっか。まだビーム出るのか……」
一華「うん」
蒼志「土偶も何も反応しねえし。何か方法間違ってたのかな……」
   頭を抱える蒼志。一華が心配そうに見ている。
一華「そーし」
蒼志「(見る)」
一華「このままでいいよ。私が怪獣倒す」
蒼志「……」
一華「みんな一生懸命やってくれてたの知ってるし。すっごい嬉しかった」
   笑顔を向ける一華。が、蒼志の表情は優れないまま。すると。
一華「大丈夫!何たって私は…」
   そう言うと一華がブランコからぴょんと飛び降りる。
一華「この町を守るスーパーヒーロー!(振り返って)一華ちゃんなのだ!」
   手を突き出して決めポーズ。
一華「でしょ?」
蒼志「……」
一華「ありがとう。蒼志」
   一華の顔をうまく見れない蒼志。
   2人だけの公園が夕日で寂しげに染まっている。

○市役所・外観(日替り)

○同・会議室
   職員、漁師、町の人が集まってる。
   (一華ら学生は不在)
職員(若)「今回は失敗って事ですかね…」
町の人「残念だけど、しょーがねえな」
蒼志「……」
   みな表情が暗く空気も重い。
   と、陣川が口を開く。
陣川「本当にそうなのかな?」
   みなの視線が陣川に集まる。
陣川「確かに一華ちゃんはまだビームが出る。土偶に能力を移す事は出来なかったのかもしれない。けど移ってないとも言い切れない。それは誰にもわからない」
   蒼志の方を見て。
陣川「確かに、最初この話を聞いた時は突拍子のない話だと思った。とても出来る訳がないと。だが一度動き出すと決めた後、町の雰囲気は変わった。どうにかしたいってみんなが思ってたって事だ。現に協力しようとしてくれた人は大勢いた」
   周りも頷いている。
陣川「私の記憶で、これだけ町が一つになった事はない」
   力強い視線で周りを見渡す陣川。
陣川「あと、こんな言い方すると無責任だと言われるかもしれないが、幸い一華ちゃんはまだビームが出せる。例え土偶が反応しなかったとしても、それで倒せばいい」
蒼志「(顔付きが変わる)」
陣川「今見えてる少しの可能性に、もう少し掛けてみないか?」
   聞いていた周りも顔付きが変わって。
啄三「そうだ。やろう。まだ終わった訳じゃねえ。五稜郭まで引っぱり込んでみて、初めて結果がわかんだ」
町の人「んだな。せっかく町が一つになろうとしてんだ。この機械を逃す手はねえ」
   陣川の意見でみなが活気付き、蒼志の顔にも笑顔が戻る。
   そんな中、一人浮かない表情でいる一閃。
   そんな一閃を戸倉が見ている。

○町中(夜)
   帰宅中の戸倉。
   と、一華のポスターの前に立つ人影。
   男が一華のポスターに手を掛けようとしている。
戸倉「ちょっと!」
   男の手が止まる。
   顔が見えて一閃だとわかる。気まずい沈黙。
    ×     ×     ×
   暗がりで話している戸倉と一閃。
一閃「軽蔑するならすりゃあいい。けどな、コレは光家のプライドでもあるんだ」
戸倉「……」
一閃「この町を守ってきたのは光家だ。なのに、一華の為に、光家の為に町を危険に晒すなんて…そんな事、絶対あっちゃならねえ」
戸倉「……」
一閃「あんたにはわからん事だ……」
   吐き捨てるように言い放つ一閃。
   固く口を結んでいた戸倉。ゆっくりと話し出す。
戸倉「勿論私にはわかりません。光家が背負って来た物の重さ、そのプライドも。到底検討も付きません」
一閃「フン」
戸倉「ただ、娘を思う父親の気持ちなら、痛い程わかります」
一閃「(顔色が変わる)」
戸倉「反対なら声を上げればいい。さっきの会議でも出来た筈です。何で何も言わないんですか?」
   一閃を見る戸倉。その視線は鋭い。
戸倉「わざわざあんな事しなくても、この計画に不安を持ってる人は他にもいる。その人達と一緒に言えばいいんだ」
一閃「……」
戸倉「何でそうしないんですか?」
   唇を噛み締める一閃。
戸倉「ずっと見て来たからじゃないんですか?」
一閃「……」
戸倉「今、この町を守っているのはあなたじゃない」
   俯いている一閃。その肩が少し震えている。
戸倉「この町は変わろうとしている。人は変わっていくんです」
一閃「……」
戸倉「普通の父親に、もうなってもいいんじゃないですか?」
   震えている一閃の肩。その肩に手をやる戸倉。
   夜道に小さな嗚咽が響いている。

○市役所・会議室(日替り)
陣川「改めて今回の作戦を説明する」
   会議室には一華、蒼志、陣川を含む市の職員、町の人が勢揃い。
   机には函館の市街図と、怪獣とビーム砲の模型が置かれている。
陣川「まず怪獣を五稜郭まで誘導する訳だが、町の被害を最小限に留めるには、大森橋から亀田川を北上させ、公園線を通って直進させるルートが最も適していると考えられる」
   南の海側に面している大森橋。
啄三「なら怪獣の野郎には南から出てもらわなきゃなんねえって事だな」
陣川「蒼志君」
蒼志「はい。なので前に怪獣が出た時、一華には南に向かってビームして貰いました。なんで次は必ず南の海から出ます」
啄三「やるじゃねえか坊主」
蒼志「(笑み)」
陣川「よし。で、その南から出た怪獣を、このルートに沿って誘導させる訳だが、その時に使うのがビーム砲だ」
   地図上に配置されているビーム砲の模型。
陣川「まず海岸沿いに設置し、南の海から出た怪獣を待ち受け大森橋まで誘導。そして亀田川の左右にも配置し、川に沿って公園線まで北上させる。その分岐点となるのが、この中の橋だ」
   亀田川と公園線が交差する場所にある中の橋。
陣川「ここが第一の山場となる。北と西からの一斉ビームで方向転換。怪獣の向きを東に変え、公園線に沿って直進させ五稜郭に向かわせる。公園線の左右にもビーム砲を設置し、ルートから逸れないように怪獣を誘導。そして五稜郭の中央まで追い込む」
   怪獣の模型を五稜郭中央に置く。
陣川「稜堡に設置した土偶が反応し、ビームが発射。怪獣は消滅する」
   固唾を飲んで聞いている面々。
陣川「一華ちゃんには土偶が反応しなかった場合を考え、五稜郭で待機してもらう」
一華「はい」
陣川「蒼志君には、そのフォローを頼む」
蒼志「わかりました」
   改めて作戦図を見て。
陣川「この作戦での鍵は何と言っても、このビーム砲だ。このビーム砲の中核は漁師さん、地元有志、そして我々市の職員も参加して行う。職員には函館山に設置する作戦本部との連携役として機能して貰う」
職員(若)「はい!」
陣川「そして一番の問題は、これだけのビーム砲を使うには函館中の電気が必要という事だ」
   地図上には数多くのビーム砲が並べられている。
陣川「前も言ったが強制は出来ない。停電という措置は取れないという事だ。ただ企業や商店は協力的な所も多くて、病院なんかも自家発電で対応してくれると言ってくれている。だが一般の市民はそうはいかない。現にこの作戦に不安を持ってる人もいる」
   厳しい表情で語る陣川。少し場の空気が重くなる。
陣川「これからまた寒くなる。やるなら今しかない」
   少しの沈黙の後、声が上がる。
町の人「出来るだけ声掛けてみるよ」
漁師「んだ。俺らも仲間や近所の連中に声掛けっべ」
親衛隊「僕らもやります!」
   次々と声が出て来て活気づく。
啄三「でもよ、これだけ規模が大きくなると、何か作戦名があってもいい気がするよな?」
漁師「んだな。何かあってもいいよな」
戸倉「函館……いや宇須岸(うすけし)か」
町の人「あー宇須岸か。確か函館の古い名称だったよな?」
戸倉「ええ。函館の地名の由来ともなった、言わば、この地の始まりとも言える名称です」
啄三「いいかもしんねえな。ここまで来れたのは、この町の歴史があってこそだ」
   陣川が大きく頷いて。
陣川「それで行こう。作戦名はウスケシ作戦だ!」
   みなに一体感。闘志が溢れる。
   と、後ろにいた親衛隊の隊長がしゃしゃり出て来て。
隊長「じゃあ戦闘服か何かあった方がいいですよね?それなら僕らに任せて下さい!」
蒼志「戦闘服?」

○テレビのニュース
アナウンサー「今日、函館市長はウスケシ作戦を行う意向を示しました。但し、これを行うには住民のみなさんの協力が必要です」

○茜の家
   会見をしている陣川がテレビに映っている。
   そのニュースを見ている茜。
茜「……」

○町中(日替り)
   ウスケシ作戦のポスターが貼られている。

○高校・体育館
   全校集会が開かれている体育館。
   校長がウスケシ作戦の協力を呼びかけている
   (一華は本部に行っていて不在)
生徒1「なんでウチらまで?」
生徒2「てか、怪獣に町歩かせるってありえねーだろ?」
生徒3「光がやってりゃいいじゃんね?」
生徒4「やってりゃ、ちやほやされんだしな」
   熱弁している校長とは対照的に生徒達の反応は否定的。
詩歌「……」
   周りの声に苛立つ詩歌。ただ、何も出来ないでいる。
   と、生徒達のざわつく声。
   見ると茜が生徒達をかき分け壇上に向かっている。
詩歌「?」
   壇上に上がる茜。校長からマイクをぶん取る。
茜「あー…ムカつく」
   怒りを抑えるように呟いた後、顔を上げる。
茜「あんたらさ、言いたい事あんならハッキリ言いなよ」
   ざわついている生徒達。詩歌も驚いて見ている。
茜「知ってる?あんだけ怪獣出てさ、今までドコも壊されたとかないんだって。てか、私も最近まで知らなかったんだけど(笑)」
   自虐的に笑う茜。
茜「ちょっとぐらい壊されたからってさ、それが何だっての?電気ぐらい消してやりゃいいじゃん」
詩歌「……」
茜「この町住んでてさ、誰かアイツに文句言える奴いんの?」
   生徒達を睨みつけるように見る茜。
   マイクを掴んだ手に力が入る。
茜「あたり前だと思ってんじゃねーよ!」
   館内に響く茜の声。生徒達は静まり返っている。
   茜はマイクを置くと校長に軽く頭を下げ、壇上を降りて体育館を出て行く。
   またざわつき始める生徒達。出て行く茜を見ている詩歌。

○駅前(夕方)
   ビラ配りをしている蒼志、詩歌、一閃、一太、親衛隊。
   ビラには『ウスケシ作戦』の文字が見える。
男性「あの、もっと貰ってもいいですか?会社の人間にも渡したいんで」
一閃「ええ、勿論。ありがとうございます」
   何枚もビラを持っていく男性。
   ランドセルを背負った男の子もやって来て。
男の子「もっと頂戴。学校のみんなにも配るからさ」
一太「うん。ありがと」
   他にも多めにビラを貰って行く人や熱心に話を聞く人がいる。
   ビラを配っている詩歌。と、通りがかった茜に気づく。
詩歌「リア充!」
   少し驚いて振り返る茜。
   すると、ぽいとビラの束を渡される。
詩歌「暇なら手伝ってよ」
茜「……(困惑)」
    ×     ×     ×
   戸惑いながらもビラを配っている茜。
   おばあさんに話しかけられている。
おばあさん「これはどうすればいいんかね?」
茜「ああ、えっとね。怪獣出て、そしたらサイレン鳴るでしょ?その時、電気消して貰いたいんだ」
   それなりに対応している茜。
   詩歌が見ていて、少し笑っている。
    ×     ×     ×
   配り終えた茜。
   ベンチに腰掛けていると、ぽいっと飲み物を渡される。
詩歌「お疲れ」
茜「……(警戒)」
   茜の隣に座る詩歌。ジュースを飲む2人。暫く無言。
   2人の視線の先に蒼志がいて、町の人に熱心に話している。
茜「何で、あんな一生懸命なの?」
詩歌「まあ、ずっとやってきたからね」
茜「ふーん」
   チラと茜を見る詩歌。
   茜の横顔を見ると、また蒼志に視線を戻す。
詩歌「アイツさ、中学の時、一華から能力受け継ごうとした事があるんだ」
茜「マジ?そんなの出来るの?」
詩歌「うん。一華にビームさせてさ。で、それで一回死にかけてんだよ?バカでしょ?」
茜「わかんないけど(苦笑)」
詩歌「けどさ、そうでもしないと収まらなかったんだよね…」
茜「?」
   詩歌を見る茜。
   少し遠い目をしている詩歌。
   そして、話し出す。
詩歌「一華、お母さん亡くなる時に立ち会えなかったんだ……」
茜「……」

○海岸沿いの道(回想)
   ビームして怪獣を倒す一華(14)
詩歌「一華、早く!」
   車から詩歌(14)が叫んでいる。
   急いで車に乗り込む一華。戸倉が車を走らせる。

○病院(回想)
   病室に駆け込んで来る一華。病室には一閃と一太。
   愛華は既に息を引き取っている。崩れ落ちる一華。
   ベッドにすがりついて泣きじゃくる。
詩歌の声「それから一華、ちょっとおかしくなっちゃったんだ」

○一華の家(回想)
   一華の部屋の前に蒼志と詩歌がいる。
   ノックするが反応はない。不安気な2人。
   と、怪獣サイレンが鳴る。すると扉が開いて一華が出て来る。
   その顔に表情はなく、涙の跡だけが頬に残っている。
   声を掛けるが無反応で、無言で階段を降りていく。
詩歌の声「ずっと部屋に引きこもってんのにさ、サイレン鳴った時だけ律儀に出て来るんだよ」

○海岸沿いの道(回想)
   怪獣の前に立つ一華。怪獣に向かってビームする。
   怪獣が消えると振り向いて帰っていく。
   その間もずっと涙が流れている。
詩歌の声「もう見てらんなくてさ。それから何か出来ないかって調べ始めたんだ」

○インサート(回想)
   古い書物が並ぶ倉庫にいる蒼志と詩歌。
   古ぼけた書物の中に『宇須岸の水』の記述を見つける。
    ×     ×     ×
   一閃に詰め寄る蒼志。
    ×     ×     ×
   一華にビームを食らって倒れる蒼志。詩歌が駆け寄る。
    ×     ×     ×
   病院のベッドで目を覚ます蒼志。
    ×     ×     ×
   病院の屋上で悔し泣きしている蒼志。
詩歌の声「でも結局、何も出来なかった」
    ×     ×     ×
   遺跡で発掘作業をする蒼志。
詩歌の声「けど、諦めなかった。遺跡の事を知って、ずっとそこに通ったり」
    ×     ×     ×
   バイト中の蒼志。
詩歌の声「その遺跡に通う為にバイトしてバイク買ってさ」
    ×     ×     ×
   海岸沿いを走る蒼志のバイク(サイドカー付き)
詩歌の声「そのバイクもさ、普通の奴だと一華が乗れないからって、わざわざサイドカー付きのにしたりさ」
    ×     ×     ×
   函館山でバイト中の蒼志。
詩歌の声「頭いいのに大学にも行かないでさ」
   蒼志の視線の先には一華がいる。
詩歌の声「ずっと一華の側から離れようとしなかった」

○駅前(夕方)(回想戻り)
   ビラ配りをしている蒼志。
詩歌「で、ようやく今って訳」
茜「……」
   と、蒼志の所に自転車に乗った一華がやって来る。
   仲良さげに話し出す一華と蒼志。
   そんな2人を見ている詩歌と茜。
茜「あの2人って付き合ってんの?」
詩歌「(少し笑って)ううん」
茜「何で?付き合えばいいじゃん」
詩歌「手も繋げないんだよ?」
   少し鋭い視線を茜に向ける。
茜「……」
詩歌「って、一華は思ってる」
   蒼志と話しながら笑っている一華。
詩歌「全部引っ括めて受け止められないんだよ」
   蒼志を見ている詩歌。
   その表情は何となく切なく見える。
茜「……」
   少しして視線を戻す詩歌。茜を見て。
詩歌「ありがとね」
茜「え?」
詩歌「私なんて、なーんも出来なかったから」
茜「……別に。ただムカついただけだし」
    少し笑う詩歌。
詩歌「私、リア充ってずっと苦手だったんだけどさ。リア充の中にもアンタみたいな人いるんだね」
茜「……リア充って言うのやめてくれる?」
    ×     ×     ×
   ビラ配りが終わって。
   茜と一緒に帰っていく詩歌。ちょっと仲良くなっている2人。
   そんな2人を不思議そうに見ている一華。
   そのまま自転車に乗って帰ろうとする。
蒼志「一華ぁー」
一華「(振り返る)」
蒼志「お前、卒業したらどうすんだ?」
一華「え?ああ、就職。お父さんトコ」
蒼志「……」
   あっけらかんと答える一華に蒼志の表情は険しい。
蒼志「大学行く気あんなら、ちゃんと勉強しとけ」
一華「どうしたの急に?」
蒼志「お前、この町出ろ」
一華「……」
蒼志「絶対成功させっから。だからちゃんと考えとけ」
一華「……」
   それだけ言って行ってしまう蒼志。
   一人立ち尽くしている一華。
   ぼんやりと走っていく蒼志のバイクを見ている。

○高校(日替り)
   HRが終わり席を立つ一華。
   残っている生徒達を横目に一番先に教室を出て行く。
北美原「(一華を見ている)」
    ×     ×     ×
   廊下を歩いていると他のクラスの様子が見える。
   進学希望の生徒が残って勉強している。
一華「……」
   詩歌のクラスの前を通りかかる一華。
   黒板に補習の案内が見え、詩歌はクラスメイトと話をしている。
   その手元には大学の資料が見える。
   声を掛けず、そのまま通り過ぎていく一華。
    ×     ×     ×
   一華が下駄箱で靴を履いていると、そこに北美原がやって来る。
北美原「あ、光」
一華「(振り向く)」
北美原「今度さ、まだ進路決まってない奴で面談やるんだけど。良かったらお前も参加してみないか?」
   少し戸惑った様子の一華。
北美原「お前の場合、もう就職で決めてるんだろうけどさ。お前、勉強出来ない訳じゃないだろ?」
一華「……」
   どう答えたらいいかわからない。
北美原「まあ、気が向いたらでいいから」
   そう言って行こうとする北美原。
一華「あ、先生」
北美原「ん?」
一華「正直、進路って言われてもよくわからなくて。自分の将来の事とか、あんまり考えた事ないんです……」
北美原「……」
一華「変ですよね?すいません…」
   自虐的に笑う一華。そのまま行こうとする。
北美原「光!」
一華「(立ち止まる)」
北美原「お前は、自分のこと普通じゃないって思ってるかもしれないけど、それは違うぞ」
一華「……」
北美原「確かにちょっとは違うかもしれない。けどな、それは寄り道してるだけだ。ちょっと道草してさ。元の道には、いつか戻れる」
一華「(ゆっくりと振り向く)」
   一華と目が合うと、北美原が優しく微笑む。
北美原「コレでも、ちょっとはお前の事わかってるつもりなんだ。頼りないかもしんないけどさ。伊達に毎回バイク乗っけて怪獣退治に付き合ってた訳じゃないからな」
    ×     ×     ×
   バイクに乗って怪獣退治に向かう一華と北美原(フラッシュ)
    ×     ×     ×
北美原「俺が保証する。お前は普通だ。普通の高校生だ」
一華「……」
北美原「何も変じゃない。お前はコレからだ」
   口元を緩ませる一華。自虐的なソレとは違う微笑み。
   一華は北美原に向かってお辞儀をすると振り向いて歩いて行く。
   目元を拭う仕草が見える。

○函館山・作戦本部(夕方)
   観測所にはウスケシ作戦の作戦本部が置かれている。
陣川「前、怪獣が出てからどれくらいです?」
一閃「今日で一週間ですね。いつ出て来てもおかしくありません」
   厳しい表情をした後、窓外を見る陣川
陣川「夜に出なきゃいいが…」
   町並みが見え、家の灯りが、ぽつぽつと点き始める。

○隊員達のインサート(夕方)
   海岸沿いの道。
   設置したビーム砲の周りに漁師らビーム隊員が待機している。
    ×     ×     ×
   五稜郭入り口付近。
   ビーム砲の周りに待機している隊員達。
   そこに啄三の姿。
啄三「……」
   目を閉じて座っており、その時を静かに待ち構えている。

○函館山・作戦本部(夜)
   日が暮れて夜。
   本部には一華と蒼志もいる。
   と、レーダーが反応。
一閃「怪獣出現!海岸南、10km付近に現れました!」
陣川「とうとう来たか……」
   作戦本部に緊張が走る。
   怪獣サイレンのスイッチが押される。

○町の遠景(夜)
   怪獣サイレンが町中に鳴り響く。

○町の様子(インサート)
   商店街で世間話をしている店員と主婦。
   すると、サイレンの音。
   慌てて店の中に走る店員。
   主婦もスカートをたくし上げるとダッシュして走って行く。
    ×     ×     ×
   駅前でたむろしている親衛隊。
   するとサイレンが鳴り出す。
   隊長が指示を出し、隊員達が四方八方へと散らばっていく。
    ×     ×     ×
   ベイエリアの道。
   美優達と歩いている茜。そこに詩歌もいる。
   話しているとサイレンの音。
   真っ先に走り出す詩歌と茜。
美優「あ、ちょっと」
詩歌「あんたたちも早く!」
茜「急いで!」
   美優と亜美も吊られて走り出す。

○函館山・作戦本部(夜)
   町の様子を見ている陣川。表情からは焦りが伺える。
陣川「上陸まで、後どのくらいです?」
一閃「およそ30分後です」
陣川「30分か……」
蒼志・一華「……」
   函館の町は、まだ煌々と輝いている。

○隊員達のインサート(夜)
   海岸沿いの道。
   慌ただしく準備している隊員達。
海岸A隊員1「慌てんじゃねえ!ゆっくりでいい!確実にやれ!」
海岸A隊員2「はい!」
    ×     ×     ×
   五稜郭入り口付近。
   目を閉じて座っている啄三。
   その前を五稜郭の隊員達が慌ただしく動いている。

○函館山・作戦本部(夜)
   20分経過。まだ町は明るい。
蒼志「……(町を見ている)」
   作戦本部にも諦めムードが漂う。
陣川「上陸地点はどこです?」
隊員「今のルートからすると、啄木小公園になりそうです」
陣川「……」
   一閃を見る陣川。その目を見て一閃が頷く。
一閃「しょうがない一華。啄木小公園に行って来れ」
一華「うん……」
   一華が出て行こうとした時、町の方を見ていた蒼志が何か気づく。
蒼志「ちょっと待って下さい!あれ!」
   町を指出す蒼志。みなが窓外に目をやる。

○町の様子(インサート)
   大急ぎで家に帰って来た主婦。
   俊敏な動きでブレーカーに辿り着くとブレーカーを落とす。
    ×     ×     ×
   背伸びしてブレーカーに必死に手を伸ばすしている男の子。
   (ビラを貰っていた子・茜の弟)
   が、届かない。
   そこに茜が帰って来て、変わりにブレーカーを落とす。
    ×     ×     ×
   住宅街を親衛隊が走り抜ける。
親衛隊「みなさーん!電気消して下さーい!」
    ×     ×     ×
   分割画面。
   ブレーカーを落とす一太、美優、亜美、麻衣、北美原。
   他にも多くの町の人。
    ×     ×     ×
   真っ暗になった家にいる詩歌。窓から町の様子が見える。
詩歌「すごい……」
   窓外に見える家の灯りが次々と消えて行く。
    ×     ×     ×
   おばあさんの家。
   真っ暗になった家の中で、町の方を向いて静かに手を合わせている。

○函館山・作戦本部(夜)
蒼志「すげえ……すげえ!」
   町の光が消えていき……そして、全てが消える。
   真っ暗になった函館の町。
   一瞬の間があった後…作戦本部に歓声が上がる。
本部隊員1「よっしゃ!」
本部隊員2「やったぞ!」
   みなが声を上げるその横で涙ぐんでいる一閃。
一閃「函館の夜景が消えちまったっていうのによ……何で泣けてくんだよ……」
   隣りにいた戸倉が一閃の肩に手をやる。
蒼志「市長さん!」
陣川「電力切り替え!函館中の電気を集めろ!」
    ×     ×     ×
   変電所のスイッチが切り替わる。
    ×     ×     ×
   真っ暗な函館の町。
   そこに光が灯り、大森橋から五稜郭に通じる道がライトアップされる。
一閃「よし、合図だ!鐘鳴らせ!」
   作戦開始を告げる鐘の音が町中に鳴り響く。
   飛び出していく一華と蒼志。
    ×     ×     ×
   目を閉じていた啄三の目がカっと見開く。
    ×     ×     ×
   無線のマイクに向かって陣川が叫ぶ。
陣川「ウスケシ作戦、作戦開始!!!」

○ウスケシ作戦(夜)
   ビーム砲は移動式で後方には長いケーブル。
   ビーム砲の操作は漁師。地元有志と新鋭隊がケーブルを捌く。 

   ※ここからは、それぞれの場所からカットバック。

   啄木小公園に到着する海岸A(アルファ)
   班長(市の職員)が無線に向かって叫ぶ。
海岸A班長「こちら海岸アルファ!啄木小公園到着!目標確認次第、大森橋へ誘導する!ソーレ!」
海岸B班長「海岸ブラボー了解!ソーレ!」
   隊員達にも激が飛ぶ。
海岸A隊員1「もっと広がれ!もっとだ!ええい、しゃらくせえ!」
   隊員1が着ていた上着を脱ぎ捨てる。
   すると『IBL』と胸に刻まれたTシャツ。
   そこには『一華ブリリアントラブ』の文字と部隊名。
   そして背面には、怪獣と対峙する一華の勇ましい後ろ姿がプリントされている。
   『親衛隊Tシャツ・ver ウスケシ』である。
   (隊員達はみんなそのTシャツを着ている。
    このシーンまではみんな上着を着ていたりしてよく見えない)
   ライトアップされた海岸に怪獣が姿を現す。
海岸A班長「こちら海岸アルファ!目標確認!これより大森橋へ誘導する!」
海岸A隊員1「もっと前出ろ!前!」
海岸A隊員2「いか刺しぃー!」
海岸A隊員1「バカ野郎!まだ早え!もっと引きつけてからだ!」
   怪獣の胴体が見えて来る。
海岸A隊員1「今だー!」
   ビーム砲からビームが発射。
   一華のビームに比べるととても細やか。
   だが、怪獣は嫌がっている。
海岸A隊員1「いいぞ!もっと行け!もっと!」
   ビームを撃たれ、怪獣は大森橋のある西へ西へと逸れていく。
   大森橋の海岸B(ブラボー)
海岸B班長「こちら海岸ブラボー目標確認!これより大森橋から亀田川へ誘導する。ソーレ!」
亀田A班長「亀田アルファ了解!亀田川両脇で待機中。ソーレ!」
海岸B班長「こちら海岸ブラボー!目標止まりません!通過していきます!」
   西へと逸れて来た怪獣が大森橋を通り過ぎて行こうとする。
海岸B隊員1「バラバラに撃つんじゃねえ!タイミング合わせろ!」
海岸B隊員2「声出てねーぞ、お前ら!掛け声どうした!」
海岸B全員「セイヤ!」
海岸B隊員1「行くぞ!函館名物ー!ソーレ!いっか刺し!塩辛!」
海岸B全員「いっかソーメーン!」
   「メーン」のタイミングでの一斉ビーム。
   撃たれた怪獣の向きが変わり、大森橋を跨いで亀田川に入っていく。
海岸B班長「こちら海岸ブラボー!誘導成功!目標、亀田川を北上中!」
陣川「よぉーし!」
   亀田川両脇で亀田ABが待ち構える。
亀田A班長「こちら亀田アルファ目標確認!ブラボー隊と共に中の橋へ誘導する。ソーレ!」
   川沿いをビーム砲と共に亀田隊が走る。
亀田隊(親衛隊・新入り)「来た来た来た来た来たぁー!」
亀田A隊員1「バカ野郎!ビビってんじゃねえ!」
亀田隊(親衛隊・新入り)「(半泣き)」
亀田A隊員2「てめーら!もっと上手くケーブル捌けねぇのか!」
亀田隊(親衛隊・隊長)「はいぃ!」
亀田B班長「こちら亀田ブラボー!キャー!目標制御出来ません!」
   怪獣が川沿いからハミ出そうとしている。
亀田B隊員1「死守だー!死守しろー!」
亀田B隊員2「行くぞー!ソーレ!いっか刺し!塩辛!」
亀田B全員「いっかソーメーン!」
   修羅場をくぐり抜けながら何とか怪獣を北上させる。
   そして亀田川と公園通りの分岐点である、中の橋に差し掛かる。
イカ刺し班長「こちらイカ刺しアルファ!目標確認!これよりIS(アイエス)作戦を開始する!ソーレ!」
塩辛班長「塩辛ブラボーIS作戦了解!ソーレ!」
   見守る作戦本部にも緊張が走る。
陣川「ここからが正念場だ」
   陣川の脳裏に会議室での作戦会議が思い浮かぶ。
    ×      ×     ×
   市役所での作戦会議。
陣川「亀田側を北上して来た怪獣を、中の橋でくい止めるにはビーム砲による一斉攻撃しかないでしょうね」
啄三「ただ一斉つっても、中途半端じゃ意味ねえぞ?」
蒼志「横一列に隊列を組むのはどうです?綺麗に並べて隙間なく撃ち込むんです。そうすれば壁みたいになって、止められるんじゃないですかね?」
啄三「なる程な。確かに隙間なく並べりゃあ壁の役割になる。どうせやるならイカ刺しぐれえ綺麗に揃ってねえとな?」
漁師1「ああ。それぐらい訳ねえ。任せとけ!」
陣川「いいでしょう。そのイカ刺し隊列で北上してきた怪獣を食い止める。で、その怪獣を今度は五稜郭に向かって押し出す訳ですが、コレをやるには相当強力な攻撃が必要でしょうね」
啄三「つっても、ビーム砲は貧弱だからな……」
蒼志「……」
漁師2「前後に配置して撃つってのはどうでい?ビームが重なるように撃ち込めば威力も増すんじゃねえか?」
蒼志「いいかもしれませんね。攻撃に厚みを持たせられれば濃厚な攻撃が出来る」
漁師2「ああ。怪獣の野郎にしちゃあ、塩辛並のインパクトだろうよ」
   地図に配置された中の橋の布陣。
陣川「イカ刺し並の隊列。そして塩辛級のインパクト…」
啄三「コレ以上の組み合わせはねえだろうよ」
   陣川が大きく頷いて。
陣川「コレで行こう!イカ刺し塩辛包囲網、IS(アイエス)作戦だ!」
   (回想終わり)
    ×     ×     ×
   川を横切るようにして綺麗に隊列を組んでいるイカ刺し隊。
イカ刺し隊長「行くぞ、イカ刺しぃ!」
   隊員達の「メーン!」の声と共にビーム砲が発射。
   怪獣に向かって伸びて行く閃光はイカ刺しのように綺麗に揃っている。
   怪獣に直撃し、動きが止まる。
塩辛隊長「今だ!塩辛ぁ!」
   「メーン!」の声と共に道路側(西)から一斉ビーム。
   前後に重なった厚みのある閃光が伸びていき、
   塩辛級のインパクトが怪獣を襲う。
怪獣「グギョォォッッ!!!」
   雄叫びを上げる怪獣。
塩辛隊長「よぉーし!」
   が、怪獣は頭に来たようで興奮して暴れ出す。
イカ刺し班長「うわー!目標、突進して来ます!」
   イカ刺し隊に向かって来る怪獣。
   イカ刺し隊の隊列が乱れる。
イカ刺し隊長「バカ野郎!隊列乱すんじゃねえ!」
   川に沿って北へ北へと向かっていこうとする怪獣。
塩辛隊長「何やってんだイカ刺しは!」
   塩辛隊が配置を移動して救援に入る。
塩辛隊長「しっかりしやがれ!イカ刺しぃ!」
イカ刺し隊長「うるせえ!やってるよ!」
   隣り合った隊員達が罵り合う。
   尚も怪獣に押されていると、怪獣の後方からビーム砲が撃ち込まれる。
イカ刺し・塩辛隊長「!?」
亀田A隊員1「何やってんだお前ら!同じイカ同士揉めてどうすんだ!」
イカ刺し・塩辛隊長「……」
   救援に駆けつけた亀田隊。
   後方からビーム砲を撃ち怪獣を引きつける。
イカ刺し隊長「今の内に隊列組み直すぞ!」
塩辛隊長「おめーらも配置に戻れ!」
   隊列を組み直すイカ刺し隊と塩辛隊。
   隊長同士が無線で話す。
イカ刺し隊長「いいか、別々に撃ってもダメだ。イカ刺しと塩辛、同時に撃つんだ」
塩辛隊長「それしかねえだろうな。タイミングはそっちに合わせる。掛け声は任せたぞ」
イカ刺し隊長「おうよ、任せとけ!」
   隊長が隊員達に向かって激を飛ばす。
イカ刺し隊長「お前ら!腹から声だせよ!」
イカ刺し全員「セイヤ!」
   両隊員が迫り来る怪獣に照準を合わせる。
イカ刺し隊長「行くぞー!いっか刺し!塩辛!」
塩辛隊長「いっかソーメーン!」
   イカ刺し、塩辛隊からの一斉放射。
   しかし怪獣は少しよろけるだけで向きは変わらない。
塩辛隊長「お前ら!ちゃんとタイミング合わせろ!」
塩辛隊員「セイヤ!」
イカ刺し隊長「行くぞー!いっか刺し!塩辛!」
塩辛隊長「いっかソーメーン!」
   結果は同じ。
   隊長が無線を取る。
イカ刺し隊長「ダメだ!連続してやんねえと!一発ずつじゃ意味がねえ」
塩辛隊長「んな事言って、出来んのか?」
イカ刺し隊長「出来る!何の為に今まで訓練してきたと思ってんだ!」
塩辛隊長「……しゃあねえ。やってやろうじゃねえか!」
   隊員達に向かって塩辛隊長が叫ぶ。
塩辛隊長「おめーら!出力限界まで上げろー!」
塩辛全員「セイヤ!」
   出力最大限。ビーム砲が熱を上げる。
陣川「頑張れ、頑張れ(祈る)」
イカ刺し隊長「行くぞー!函館名物ぅー!ソーレ!」
塩辛隊長「いっか刺し!塩辛!」
イカ刺し・塩辛全員「いっかソーメーン!」
イカ刺し隊長「ソーレ!」
塩辛隊長「もう一つおまけに!」
イカ刺し・塩辛全員「いかぽっぽー!!!」
   イカ刺し・塩辛隊による連続一斉放射。
   雄叫びを上げる怪獣。向きが変わる。
イカ刺し班長「こちらイカ刺しアルファ!IS作戦、作戦成功!目標、五稜郭に向かって進んで行きます!」
陣川「よぉーし!」
   歓声が上がる作戦本部。
   公園通りの両脇に公園隊が待ち構える。
公園A班長「こちら公園アルファ!これよりブラボー隊と共に五稜郭に誘導する!ソーレ!」
公園A隊員1「いけー!ぶっ放せ!」
公園A隊員2「ソレソレソレソレーイ!」
公園B隊員「道路以外歩かせんな!」
公園B全員「セイヤ!」
公園A隊員「行くぞー!ソーレ!いっか刺し!塩辛!」
公園A・B全員「いっかソーメーン!」
   被害を最小限に留めながら怪獣を五稜郭に誘導していく。
    ×     ×     ×
   蒼志のバイク(サイドカー付き)で五稜郭にやって来た一華と蒼志。
   バイクから降りると橋を渡って、土偶を設置した稜堡へと走って行く。
   一華と蒼志の耳には交信セット。
   そこに一閃から無線が入る。
一閃「一華、もうすぐ怪獣が五稜郭に入る」
一華「うん(走りながら)」
一閃「土偶が反応して、ビームが出そうならお前ならわかる筈だ」
一華「うん」
一閃「もし何も反応がなかったら、その時はお前がやれ。いいな?」
一華「うん。わかった!」
   そして五稜郭に怪獣が差し掛かる。
五稜郭班長「こちら五稜郭!目標、入り口に差し掛かりました!」
五稜郭隊員1「いいか!中央まで追い込むんだ!行くぞぉー!!!」
   「メーン」の声と共に五稜郭を囲んだビーム砲からビームが発射。
   怪獣を中央へと追い込んでいく。
    ×     ×     ×
   土偶の前に着いた一華と蒼志。
一閃「どうだ一華!反応してるか?」
   土偶を見る一華。
蒼志「どうだ?」
一華「ダメ(首を振って)」
   ドンっと机を叩く陣川。
   暗雲立ちこめる作戦本部。陣川が一閃を見る。
一閃「しょうがない……一華、お前がやれ」
一華「わかった」
   走り出す一華。
蒼志「クソ!」
   蒼志も後を追う。
    ×     ×     ×
   中央で暴れている怪獣。
   そこに一華がやって来る。構えを取って集中。
   そして手からビーム!
   が、怪獣は消えていかない。
一華「あれ?あれ?」
   何度もビームするが怪獣はビクともしない。
   作戦本部も異変に気づく。
一閃「どうした一華?」
一華「効かない……ビームが効かないよ!」
蒼志・陣川・一閃「!!!」
   間近で聞こえる怪獣の雄叫び。
蒼志「一華!ここにいちゃマズい!」
   その場を離れ、入り口に向かって走って行く一華と蒼志。
五稜郭班長「目標!五稜郭から出ようとしてます!」
五稜郭隊員1「行かせるな!食い止めろ!」
   怪獣は雄叫びを上げながら町に向かって出て行こうとする。
   作戦本部でも慌て出す。
本部隊員1「どうしますか?このままじゃ……」
陣川「……」
本部隊員1「市長!」
   黙ったままの陣川。そして。
陣川「退避命令を出すしかない……」
本部隊員2「え?でも、それだと町が……」
陣川「町が壊れても、また建て直せばいい!だが、命はそうは行かない……」
一同「……」
陣川「ウスケシ作戦は失敗だ……」
    ×     ×     ×
   現場に作戦本部から無線が入る。
本部隊員1「こちら作戦本部!作戦本部より全隊員に告ぐ!ウスケシ作戦失敗!総員退避せよ!繰り返す!ウスケシ作戦失敗!」
   唖然としている五稜郭の隊員達。
五稜郭隊員1「作戦失敗って……」
五稜郭隊員2「でもこのままじゃ町が」
   雄叫びを上げて暴れている怪獣。
五稜郭隊員3「俺たちが逃げちまったら誰が町守るんだ?」
五稜郭隊員4「けど残ってたら、俺たちも危ねーべ」
   隊員達のビーム砲を操作していた手が止まる。するとそこに。
啄三の声「バカ野郎!!!」
   突然の啄三の怒号。
陣川「!?」
   その声は無線を通して作戦本部にも届く。
   啄三が班長から無線をぶんどって話している。
啄三「市長さんよ、戦ってるのは俺らだけかい?ちげーだろ!」
    ×     ×     ×
   真っ暗の中、外に出て固唾を飲んで見守っている人達がいる。
   一太、詩歌や茜達、北美原、おばあさん、そして町の人。
   みんな、みんながいる。
    ×     ×     ×
啄三「俺らは町の魂しょってココにいるんじゃねえのか?シッポ巻いて逃げるには、ちと早過ぎやしねえか?」
陣川「……」
   と、無線から隊員達の声が聞こえる。
海岸隊班長「こちら海岸隊!今、五稜郭に向かってます!諦めないで下さい!」
亀田隊班長「同じく亀田隊!すぐ行くから待ってて!」
イカ刺し隊長「こちらイカ刺し!俺達はまだ負けちゃいねえぞ!」
塩辛隊長「俺らの塩辛根性見せてやろうぜ!」
   次々と入って来る隊員達の声。
   その声を聞いて五稜郭の隊員達に闘志が湧いている。
啄三「(笑ってる)」
   と、啄三の視線の先に、橋の上を走る一華と蒼志が見える。
   啄三が無線を取る。
啄三「元はオメーさんが言い出した事じゃねえか。消えかけた光をまた付けたのはオメーさんだ。そうだろ?陣坊」
陣川「啄さん……」
啄三「なーに心配はいらねえさ。この町の光はまだ消えちゃいねえ。最後まで見届けてやろうじゃねえか、せっかく宿った光をよ」
   啄三の視線に映る一華と蒼志。
   その目は、まだ光を失っていない。
陣川「(その目に覚悟が宿る)」
   無線を返す啄三。そして隊員達の方を見る。
啄三「せっかく町中の電気が集まってんだ。函館の夜をよう、いつも以上に景気よく照らしてやろうじゃねーか!」
五稜郭隊員「(闘志がみなぎる)」
啄三「行くぞお前ら!俺らのイカ魂見せてやれ!」
陣川「ウ、ウスケシ作戦、作戦続行!!!」
全隊員「ソーレ!!!」
    ×     ×     ×
   五稜郭の入り口まで戻って来た一華と蒼志。
蒼志「考えろ考えろ……何でだ?何でビームが効かねえんだ…」
   頭を抱えている蒼志。
   怪獣を見ると、ビーム砲に押されながらも町に向かおうとしている。
蒼志「一華、ダメだ!逃げよう!」
   が、一華は蒼志に背を向けたままで怪獣の方を向いて動こうとしない。
蒼志「一華!何やってんだ急げ!」
一華「逃げて。蒼志……」
蒼志「は?何言ってんだ?お前も!」
   首を振る一華。
一華「私が、倒す」
蒼志「んな事言ってもお前……」
一華「私の町は……私が守る!」
   蒼志に向かって少し微笑む一華。
   手首のリボンをギュっと握ると、怪獣に向かって走りだす。
蒼志「……」
   呆然としている蒼志。そしてハッとする。
蒼志「そうか……そういう事だったんだ」
   怪獣に向かって走っていく一華。
蒼志「一華!一華ぁー!」
   一華の後を追いかける。
    ×     ×     ×
   五稜郭に合流した隊員達。男達の野太い声が響く。
合流隊A「函館名物いか踊りー!」
合流隊B「いっか刺し、塩辛、いっかソーメン!」
合流隊C「もう一つおまけにイカぽっぽー!」
合流隊D「いっか、いっか、いっか、いっかー!」
合流隊E(主に親衛隊)「一華ちゃーん!!!」
   怪獣にも効果あり。どんどんと五稜郭中央へと押し戻されて行く。
   歌声に合わせて次々と発射されるビーム砲。
   四面楚歌ならぬ、四面いか踊りの歌声が五稜郭全体を包み込む。
    ×     ×     ×
   離れて見守っている町の人にもその歌声が届き、
   共に戦うようにして力強くいか踊りを踊っている。
    ×     ×     ×
   橋の上(二の橋)で、一華に追いついた蒼志。
蒼志「一華、俺にビームしろ!」
一華「?」
蒼志「いいか、よく聞け。お前の能力はちゃんと土偶に移ってたんだ。だからビームが効かないんだ」
一華「……(困惑)」
蒼志「土偶が反応しないのはきっかけだ。それがないからビームが出ない」
一華「わかんない。それで何でそーしにビームしなきゃなんないの?」
蒼志「きっかけは心だ。この町を守りたいって思う、その覚悟だ。土偶に心はねえ。人がその役割をやんなきゃダメなんだ!」
一華「なら私が…」
蒼志「(遮って)お前じゃダメなんだ!だから土偶も反応しない。いいか?これ自体が能力を受け継ぐ方法だったんだよ!」
一華「!!!」
蒼志「オバさんが亡くなった時、俺は能力受け継ごうとして失敗した。それは何でか?やり方が間違ってたってのもある。けどそれだけじゃねえ。俺には端から、その覚悟がなかったんだ……」
一華「……」
蒼志「この町は好きだ。守りたいって思う。けど、どっかで迷いがあった」
一華「そんな、私だって…」
蒼志「いいや、お前は違う!そりゃ色々思う事はあるよ。けどそれはお前の本心じゃない。だってそうだろ?今までずっとやって来たじゃねえか。ずっと…どんな時だって」
一華「……」(怪獣と対峙する一華のフラッシュ)
蒼志「お前には、この町を守ろうっていう誰よりも強い心が備わってる。その魂を血として受け継いでる。それが光家だ!」
一華「……」
   一華の目から涙。その涙が頬を伝う。
   後ろで怪獣の雄叫びが聞こえる。
蒼志「時間がねえ!とにかく俺にビームしろ!それで能力が移動する!」
一華「でも…でも…そんな事したらまた」
蒼志「大丈夫だ。あの時とは違う」
   自分の胸に手をやり。
蒼志「覚悟は出来てる」
一華「……」
隊員の声「止めろー!行かせるなー!」
   怪獣の雄叫びが大きくなり、隊員達が押され始める。
蒼志「時間がない!一華!」
一華「やだ……絶対いや……」
   一華は首を振り続ける。
蒼志「町が壊されちまうぞ!それでもいいのか!」
一華「いい……蒼志がいなくなるよりいい!」
蒼志「……」
   自分の胸を抱くようにして固く手を閉ざす一華。
   蒼志がその手を引きはがし、自分の元に引き寄せる。
一華「(驚いて声が出ない)」
   引き寄せた手をしっかりと握ると、そのまま一華を抱きしめる。
一華「ダメ…離して……」
   離さない蒼志。
   一華の手が反応しだす。
一華「やだ…でちゃう……ビームでちゃう!」
   一華を抱きしめたまま目を閉じる蒼志。
一華「いやぁー!!!そぉしぃぃー!!!」
   叫び声と共に一華の手からビームが発射。
   一瞬の静寂の後、二の橋から光が放たれる。
   その光が五稜郭全体を包み込むように拡がり、稜堡に設置された土偶が反応。
   土偶からビームが放たれる。
   土偶から発射された5方向からのビームが怪獣に直撃。
   雄叫びを上げながら宙に浮く怪獣。そして眩い光。
   真っ暗だった町が昼間のように照らされる。
   そして……静寂。
啄三「や、やりやがった……」
陣川「消えた……怪獣が消えたぞ!」
隊員達「倒した!倒したんだ!!!」
   隊員達から歓喜の声。函館山も同様。町の人も抱き合って喜ぶ。
    ×     ×     ×
   一方、橋の上の一華。頬には涙の跡。
   蒼志を抱きかかえたまま固まっている。
一華「そう……し?」
   寄りかかるようにして、一華に抱きかかえられている蒼志。
   目を閉じていて反応はない。
一華「いやぁぁぁーーーーー!!!」
   絶望の咆哮と共に暗転。

○高校(放課後)
T「一ヶ月後」
   雪かきしたグラウンドで部活をしている運動部。
   三階の窓に補習中の三年生が見える。

○同・教室(放課後)
   黒板に『補習』の文字。教卓には北美原。
   補習を受けている生徒の中に詩歌。その隣りに一華がいる。

○同・昇降口(放課後)
   白い息を吐きながらマフラーをした一華と詩歌が外に出て来る。
詩歌「今日も行くの?」
一華「うん」
詩歌「そっか…」
   と、後ろから麻衣が追いかけて来る。
麻衣「詩歌、予備校遅れるよ」
詩歌「あ、うん(一華に向かって)ゴメンね、週末には顔出すから」
一華「うん」
   行ってしまう詩歌。その背中を少し寂しそうに見ている一華。

○病院・廊下(夕方)
   歩いている一華。『高丘蒼志』と書かれた病室。
   ゆっくりと中を覗くと、中に恵子がいる。咄嗟に隠れる一華。
   どうしようかと迷っていると物音を立ててしまう。
恵子「一華ちゃん?」
一華「……(おずおずと顔を出す)」
    ×     ×     ×
   並んで座っている一華と恵子。
   蒼志はベッドの上で医療器具に繋がれ眠っている。
   気まずい沈黙。
恵子「あの時と一緒ね。また無茶な事して」
一華「……」
    ×     ×     ×
   中学時代。ビームを受けて病院に担ぎ込まれる蒼志。
   恵子が泣きながら呼びかけている(フラッシュ)
    ×     ×     ×
恵子「おばさんね、いつも思うんだ。一華ちゃんが幼馴染じゃなかったらって。そしたらこんな無茶な事しなかっただろうになって…」
一華「……」
恵子「この子じゃなくても、一華ちゃんなら心配してくれる人たくさんいるでしょ?」
   何も答えられない一華。
   口を固く結んで少し俯いている。
恵子「一華ちゃんの事になるとご飯も食べないで没頭するし。心配通り越して呆れちゃうわ。本当……」
   少し冗談っぽく言った後、顔付きが変わる。
恵子「この町を守ってくれてる事は感謝してる。私もこの町の生まれだからよくわかってる。けど、私はあなたが憎い」
一華「(スカートをギュッと掴む)」
恵子「嫌い。大っ嫌いよ…あなたなんて」
一華「……」
   蒼志の顔を見る恵子。その目が少し優しくなる。
恵子「けど、何でかな。この子が目を覚ました時、一番側にいてやって欲しいと思うのはあなたなの……」
   手で顔を覆って俯く恵子。
恵子「ごめんね一華ちゃん。おばさんを許して……」
一華「……」
   眠っている蒼志を見つめている一華。その頬を涙が伝っている。

○病室の窓から見える雪
   空から降る雪。その空が晴れた空に変わる。
   (回想へ)

○小学校(回想)
   いつかの運動会。
   運動会が終わった後、落ち込んだ様子で一華(7)が昇降口から出て来る。
   そこに愛華の声。
愛華「一華」
   一華は振り向くが、またすぐに俯いてしまう。
   愛華が一華の所にやって来てしゃがんで話しかける。
愛華「よく頑張ったね」
一華「何も頑張ってない……」
愛華「……」
   俯いたままの一華。
   袖口で隠した手が見え、顔にかいた汗を拭う一華。
愛華「ほらもう。暑がりなのに長袖なんか着てるから」
   そう言って一華の手を取ろうとするが、一華はさっと手を引っ込める。
一華「ダメ。ビームでちゃうから」
愛華「……」
   少し微笑んだ後、ポニーテールにしていた髪を解く愛華。
一華「?」
愛華「手ぇ出してみて」
一華「……」
   仕方なく袖口から手を出す一華。
   愛華が、髪を留めていたリボンを一華の手首に巻き始める。
一華「?」
愛華「これね、結婚する前にお父さんがプレゼントしてくれたの」
一華「……」
   2人の後ろにいる一閃。少し離れて2人を見守っている。
   昇降口から出て来た詩歌(7)も一華と愛華に気づく。
   リボンを巻き終わる愛華。
愛華「ね?こうすると可愛いでしょ。みんなにも見せてあげなきゃだね」
   ニッコリと微笑む愛華。
一華「……」
   まだ俯いたままの一華。愛華が一華の手を見つめる。
愛華「凄いね、一華の手は。この手で、みんなのこと守ってるんだもんね」
一華「……」
愛華「でもね、お母さんだって凄いんだよ?ビームは出せないけど、ちゃんと守ってあげられるの」
   そう言うと、一華の手を取って握りしめる。
一華「あ」
   一華の手が反応。
   熱を感じて愛華の顔が少し歪む。
   が、愛華は手を離さない。
愛華「こうやってね、手を繋ぐと力が沸くの。誰かを助けてあげたり、助けられたりするんだよ」
一華「……」
   手を握ったまま一華を抱きしめる愛華。
愛華「みんなを守ってくれる一華を守るのが、お母さんの役目だから」
一華「うん……(泣いている)」
   2人を見ている一閃と詩歌。
   一華の手はもう反応していない。

○病院・病室(回想戻り)
   蒼志の手を握っている手(両手)
   その手首には少し色あせた可愛らしいリボンが巻かれている。
   蒼志のベッドの横にいる一華。(恵子の姿はない)
   蒼志の手を祈るようにして握っている。

○病院・病室(日替り)
   一華と詩歌が蒼志の病室にやって来る。
   と、ベッドに蒼志の姿がなく、看護師が片付けをしている。
詩歌「あの、すいません…」
   詩歌が声を掛けると看護師は慌てたようにして病室を出て行く。
   その顔は泣いてるように見える。顔を見合わせる一華と詩歌。
   慌てて病室を出て、通りがかった看護師に尋ねる。
詩歌「あの、ここの病室の高丘蒼志なんですけど……」
   が、その看護師も顔を伏せて行ってしまう。
   何が何だかわからない一華と詩歌。
   と、廊下の先に恵子を見つける。
一華「おばさん!」
   思わず大声を出す一華。
   恵子は一華に気づくと泣き崩れるようにして座り込む。
一華「……(呆然)」
詩歌「やだ…嘘でしょ……?」
   呼吸が浅くなり時間の流れが遅くなる。
   と、後ろから声。
蒼志の声「一華!」
   一華の目に涙が溢れる。
   見なくとも、その声の主が誰かがわかる。
   振り返る一華。
蒼志「よう(笑顔)」
一華「(泣き崩れた顔)」
   意識を取り戻した蒼志が立っている。
   嬉し泣きしている恵子や看護師達。
   力が抜けその場に座り込んでしまう一華。そして子供のように泣き出す。  
   慌てて駆け寄る蒼志。その顔は少し笑っている。

○高校(数ヶ月後)
   まだ雪が残るグラウンド。
   小さな桜の蕾に唯一春の気配。
   体育館から生徒達の歌声が聞こえる。

○同・体育館
   卒業式が行われている。
   卒業生の中にいる詩歌と茜。目にはうっすらと涙。
   そして一華。一華の目も潤んでいる。

○函館山・漁火公園
バイトの声「函館名物いかバーガーいかがっすかー」
   バイトしているのは知らない誰か。
   ベンチに一華がいて、ぼーっと一人で座っている。
蒼志「一華ぁー」
一華「(振り返る)」
蒼志「ほい。卒業祝い」
   買って来たクレープを差し出す。
一華「ありがと(笑)」
   大きな口を開け、いざ食べようとして思わず止まる。
一華「(周りを警戒)」
蒼志「どうした?」
一華「ううん(首を降る)」
   鳴らないサイレン。安心してクレープに齧り付く。
一華「(おいしい)」
   柵にもたれ掛かって町を眺める蒼志。
蒼志「あれから本当に出なくなったんだな」
一華「うん」
蒼志「(町を眺めている)」
一華「知ってる?あの土偶さん」
蒼志「ああ。新しい観光名所になってるってな」
    ×     ×     ×
   五稜郭。土偶の前にたくさんの観光客。
    ×     ×     ×
一華「怪獣もさ、あんなに暴れたのに、ほとんど壊されたトコなかったんだって」
蒼志「啄三さんやみんなのおかげだ。すげえよ、あの人達」
    ×     ×     ×
   漁港を訪れる退院後の蒼志。啄三や漁師達から荒い歓迎を受ける。
    ×     ×     ×
一華「でもさ、あの時よく気づいたよね」
蒼志「ん?」
一華「ほら、ビームしろって言い出した時」
蒼志「ああ。元から能力受け継ぐ方法はあるって話だったからな。それで気づいたんだ。土偶が反応しないのは一番大切な物が欠けてたからだって。器だけじゃダメだった。最後のパーツが必要なんだって」
一華「……」
蒼志「それが人の心だった。覚悟を持った人間の、その心が必要だったんだ」
一華「けどさ、それなら壁画にも残しといて欲しかったよね?」
蒼志「まーな。けど残すっつってもどうやって残すんだって話だけどな」
一華「?」
蒼志「だってさ、心は描けねーだろ?それに言われてやっても意味ねえよ。自分で気づかねえとさ」
一華「そっか。そうだね」
蒼志「俺もさ、あの時の一華を見て、それに気づいたんだ」
    ×     ×     ×
   怪獣と対峙する一華の背中(フラッシュ)
    ×     ×     ×
一華「でも、何で私じゃダメだったのかな?」
蒼志「あの方法考えたのはビームだせる奴じゃねえ。それを見てた違う誰かだ。頼り切りになってたのを、どうにかしようって考えた別の誰か。だから一華じゃダメだったんだ」
一華「そっか。そういう事だったんだ……」
蒼志「昔はみんなで倒してた。みんなでやれば完全に倒せる。けど一人でも何とかなる。で、いつの間にか一人になっちまった。何でそうなったかはわかんねえ。けど、それじゃダメだって、どうにかしようって思って、あの方法考えて壁画にして残したんだと思う」
   少し遠い目をして話す蒼志。
   一華も黙って聞いている。
蒼志「これは俺の想像なんだけどさ、それが光家の祖先なんじゃねえかな?」
一華「ウソ?(驚き)」
蒼志「どうにかしようってあの方法考えて、能力受け継いで。それで壁画にして残した。けど、そっから代わりになろうとする奴は現れなかった……」
一華「……」
蒼志「お前の祖先は、格好いい人だったと思うぜ」
一華「(少し微笑む)」
蒼志「でもようやくだ。この町が導いてくれた」
   町を眺める蒼志。そして一華を見る。
蒼志「待たせちまったな」
一華「……」
   嬉しいような寂しいような。
   そんな複雑な心情が一華の表情に漂っている。
蒼志「けど本当なら俺に能力移ってる筈なんだけどな。あれ以来ビームもでねえし」
   自分の手を見ている蒼志。
蒼志「あの時だってさ、土偶に能力行ってるから、それで一華のビームも弱まってる筈だから大丈夫だと思ったんだけどな……」
    ×     ×     ×
   橋の上で蒼志を抱えたまま大泣きしてる一華。
   啄三達が駆け寄って来て必死に蒼志に呼びかける。
    ×     ×     ×
   思い出して少し目が潤んでいる一華。
蒼志「やっぱ俺じゃダメだったのかな……」
一華「(目元を拭って)そんな事ない。だって出せたじゃん?ビーム。それは、そーしにちゃんと心があったからでしょ?あれが最後だから、もう出る必要がないだけだよ」
蒼志「そっか。そうだな」
一華「それに、あの時ほとんど休んでなかったでしょ?なのにビームなんて受けるから…」
蒼志「まあ……(気まずい)」
一華「もうあんな無茶な事しないで」
蒼志「……おう。わかった」
   ちょっとしんみりする2人。
   蒼志が話題を変える。
蒼志「そういや今月だろ?引っ越すの」
一華「うん」
蒼志「楽しみか札幌?」
一華「まーね」
   蒼志が提げているバッグに『北大』と書かれた冊子が見える。
一華「そーしも、ようやくだね?」
蒼志「俺は別に…」
一華「(笑ってる)」
蒼志「けど、本当ようやくだ。ようやくこの町から解放されんだな」
一華「うん」
   一華も立ち上がる。そして町を見る。
一華「でも、帰って来るよ」
蒼志「(一華を見る)」
一華「私が守ってきた町だもん。これからも私が守る」
蒼志「(微笑む)」
一華「って言っても、さすがにもう一人じゃ無理だけどねー」
蒼志「だな」
   2人して笑う。
   体を正して蒼志の方を向く一華。
一華「蒼志」
蒼志「ん?」
一華「ありがとう」
   しっかりと頭を下げる一華。
蒼志「バカ。礼言うのはこっちだよ」
一華「(笑ってる)」
   照れ合う2人。そして、
蒼志「じゃあ行くか」
   手を差し出す蒼志。
一華「え?なに?」
蒼志「だって、もうビームでねーんだろ?」
一華「そうだけど…」
蒼志「いいから」
   一華の手を握る蒼志。照れて嫌がっている一華。
   冬服のコートの袖から手首に巻いた母の形見のリボンが見える。
   歩いて行く2人の背景に見える函館の町。穏やかな空と町並。
   しっかりと繋がれた手。

   終わり

   (大団円のエンドロールへ)


補足
いか踊り、中空土偶、遺跡発掘所は実在。
「宇須岸」という名称は存在しますが「宇須岸の水」は実在しません。

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