RISE~unit of brand new choose~江戸試衛館編 舞台

そんじょそこらの新撰組と思ってたら怪我しますぜぃ! 号泣!号笑!号感動!心に刻まれる滅びの美学をとくと味わっておくんなせぃ!! 女だてらに新撰組入りした沖田総司?? そんな甘っちょろい色恋じゃすまねぃぜ! 女の姿で生まれちまった男の中の男・沖田総司!! 近藤勇の背中を追いかけ続け、荒波の幕末に剣を振る!! 新説・新撰組「RISE!!」 昇るお天道さんと共にいざ出陣!!!
快賊船 96 0 0 08/22
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第一稿

登場人物

近藤勇
沖田司(つかさ)…後の沖田総司
土方歳三
井上源三郎
山南敬助
永倉新八
斉藤一
藤堂平助
原田左之助
鈴木泰之進(たいのしん)
佐々井 ...続きを読む
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登場人物

近藤勇
沖田司(つかさ)…後の沖田総司
土方歳三
井上源三郎
山南敬助
永倉新八
斉藤一
藤堂平助
原田左之助
鈴木泰之進(たいのしん)
佐々井半兵衛
佐野正造
福田金時
高木彦一
松村進次郎
伊東大蔵(おおくら)…後の伊東甲子太郎
鈴木三樹三郎(みきさぶろう)…伊東の弟
近藤ツネ
沖田ミツ
近藤周平…鈴木泰之進と瓜二つの新選組隊士

―プロローグ―
 とある民家。布団に寝ている、沖田総司。そのそばで話をしているのは、 近藤勇の妻・ツネと、沖田の姉・ミツ。そして新選組隊士の近藤周平。

ツネ それじゃ…周平さん、私はミツさんをお送りして家に戻りますんで、 植木屋さんによろしくお伝え下さいね。
周平 後はお任せ下さい。
ミツ いつもありがとうございます…奥方様、周平さん。
ツネ 何言ってるんですか!
周平 そうですよ。師匠の面倒を見るのは、弟子の役目ですから!
ツネ 私だって!うちにいた時から、総司ちゃんは旦那様が一番可愛がってた弟みたいな子ですもの。娘の面倒もよく見てくれてたし…当然ですよ。それに単純に私が総司ちゃんに会いたくて押しかけてるようなものだもの。お気になさらないで下さい。
ミツ 総司は幸せ者ですね。皆様方にそんなに思って頂いて…。
周平 …姉上殿!私はこの先どんな事が起きようと、新選組一番隊隊長であった沖田先生の事は、命を賭してでも守り抜きます!ですから、どうぞご心配なさらずに…。
ツネ …もう少しゆっくりして行かれます?ミツさん…。
ミツ いいえ…こんな泣いてばかりいたら、総司がくたびれてしまいますもの。周平さん、総司をお願いします…。
周平 はい!失礼します…。

 ツネ・ミツ、帰って行く。

周平 …沖田先生、今姉上殿と局長の奥方様がお帰りになりました。ゆっくり休んで下さい!そして再び元気を取り戻せたら…くっ…また再び、局長や副長達に合流し…その時は私も一緒に…うっ…くっ…失礼します…!(と、奥の部屋へ)
沖田 ……周平君?ごほごほっ…。

 春よ来い…もう三月だと言うのに、一向に暖かくなって行かないのはどうしてだろう?春よ来い…だから自分の病気もよくならないのか…病気のせいで春の訪れに気づかないのか…どちらでも構わない。風に舞い踊る物が華やかであれば、それが桜の花びらであろうと粉雪であろうと、喜び走り回る体力は残されていないのだから…諦めかけ目をとじようとしたその時、燕がくるりと飛んで来た。春か…?
じゃ、私も…陽のあたる縁側に出ようと布団から立ち上がった。行かなきゃ…どこへ?考えた時にはもうたどり着いていた。幾度となく踏み込まれた、黒光りのする道場の床板が眼前に広がる。

 江戸牛込、天然理心流剣術道場・試衛館。待ちわびた懐かしい呼び声に、体中の血が湧き上がる。まるで時が戻ったみたいに身体が軽い…。
 声の主は、近藤勇。

近藤 司ー!帰ったぞ、司ー!!
沖田 は、はい!!若先生、お帰りなさい!今行きます!!

 道場の入口に向かって走り出す、沖田。が、先にやって来たのは土方歳三
 勢い余って、土方とぶつかりそうになる、沖田。

土方 あっ…危ねぇな!
沖田 すいません!
近藤 (続けて来る)おお、道場にいたのか?
沖田 お…お帰りなさい、若先生!に…歳三さんも…?
土方 来ちゃいけねぇのか?てめぇこそ水まきは済ませたのかよ!?何やってんだよ、こんな所で!!
沖田 中庭は終わりました。
土方 裏口と玄関口は!?
沖田 …すぐやりますよ。
土方 あ?てめぇ…下働きが仕事もしねぇで道場に上がり込むたぁ、どういった了見だ!
近藤 まぁいいじゃねぇかよ、歳。司もやっと剣振らせてもらえるようになったんだ。嬉しくて仕方がねぇのさ。
沖田 はい!!
土方 まぁた!そうやってさ…勝っちゃんが甘やかすから、こいつは仕事手ぇ抜いて…
沖田 手を抜いた事なんかありませんよ!
土方 口答えすんじゃねぇ!また女将さんの機嫌が悪くなんだろうがよ!
沖田 …。
土方 いいか、小僧!どんないきさつがあれ、てめぇは元は下働きでここにおいてもらえるようになった人間だ。内弟子じゃねぇ。それがちょっと腕認められたくれぇでてめぇのやりてぇ事にかまけてるなんて事になったら、国のお袋さんにも…てめぇを連れて来た源さんにも、迷惑がかかるんじゃねぇのか!?
沖田 …。
土方 何だよ?
沖田 嫌いでしょうがない。
土方 !?おい!独り言を口に出すんじゃねぇ、バカヤロウ!
近藤 ははは…ま、その腕認めさせたのは、歳から一本取らせてもらったおかげなんだけどな。下働き中のホウキで。
土方 いいよ、勝っちゃん!助け舟渡さねぇで。
近藤 ははは…いつまでも我流でやってっから、コロッと遅れを取っちまうんだよ。早くうちの門下に入っちまえよ。
土方 冗談じゃねぇ。俺は…いいんだよ。
近藤 知ってんだぜ。薬売りながら、行く先々の道場でうちの名前出して喧嘩売って回ってるらしいじゃねぇか。素直になれよ、そろそろよぉ!
土方 勝ってんだから文句はねぇでしょうが!大体どこ行っても知らねぇって言われるよ、こんな流派は。ハッタリが利かねぇなぁ、相変わらず…勝っちゃんとこは。
近藤 ははは…ああ、これからだ。司鍛え上げて、俺とお前ぇと三人ででっかくして行こうじゃねぇか。なぁ?
沖田 はい!!
土方 いいっての、俺は…ってか、てめぇは早く水撒きして来やがれ!何いつまでも犬っころみてぇに…
沖田 若先生!!歳三さん!!天然理心流にハッタリなんざ必要ねぇですよ。やりゃぁ勝つ!!
近藤 その通りさ!
沖田 はい!!
土方 バカヤロウ!てめぇごときが理心流語ってんじゃねぇ!
沖田 残念でした。私は門下に入れて頂いてるんで、何語ろうが後は勝ち続けるだけでさ!天然理心流でね。我流の歳三さんなんざ、するりと追い抜かして差し上げますよ。
土方 口の減らねぇガキだな、ったく…もういい。俺は帰ぇる。後よろしく、勝っちゃん!
沖田 えぇ!?帰っちまうんですかい?
土方 …今日見た黒船の話なら、勝っちゃんから聞かせてもらえ!(と、帰って行く)
沖田 え?あ…、
近藤 何だよ?それで待ってたのか?
沖田 …。
土方 (戻って来る)裏庭と玄関口の水撒き、終わらせた後にな!(と、再び行く)
沖田 分かってますよ!!…失礼します…(と、行こうとする)
近藤 司、
沖田 …、
近藤 可哀想だが、歳の言う事も道理だ。けじめはけじめ。仕事終わらせた後で道場来いよ。ついでに稽古もつけてやるから。
沖田 はい!!

 と、そこへやって来る、井上源三郎。風呂敷包みを背負っている。

井上 失礼しまっちゅ!いけね、しまっちゅって言っちゃった。
近藤 おお、源さん!久しぶり!
沖田 あ、源さんだ。どうしたんですか?わざわざ江戸まで…
井上 この一大事に日野の田舎でのんびりしてらんねぇよ、司坊!…元気にしてたか~?
沖田 へへへ…はい!
近藤 何だい、大荷物持って。
井上 勝っちゃん!いや、近藤勝太バカ先生!!
近藤 待て待て!誰がバカ先生だ!?
沖田 ぷぷ…駄目でしょ、源さん!ぷぷ…!
近藤 水撒きして来いよ、お前ぇは!
井上 すまねぇ!若先生、いても立ってもいられねぇんだ。わしを内弟子にしてくれ!
近藤 何だい、藪から棒に…?
井上 勝っちゃん!今日歳ちゃんと二人で、浦賀に噂の黒船見に行って来たんだろ?
沖田 !
近藤 しっ!(沖田を追っ払う)ほら!
沖田 …(行こうとする)
井上 どうだった?夷人の奴ら船から大砲撃って、この日の本を明け渡せって公方様を脅してるらしいじゃねぇか!!
沖田 …(立ち止まり、聞いている)
井上 剣の腕前は勝っちゃんや歳ちゃんの足元にも及ばねぇが、わしだって皆と同じ天領の農家の生まれだ。公方様に対する忠義心に賭けちゃ、その辺の武士なんかよりよっぽど持ち合わせてるつもりだぜ。いざとなりゃ、わしだって!そう思ったら、もう我慢出来なくなってよぉ…家おん出て来ちまったよ。ここにおいてくれ!お願いしまっちゅ!
近藤 しまっちゅっつってるよ、だから!
井上 いけねぇ…。
沖田 …日本はどうなるんでしょう…?
近藤 司、男がどうなるんでしょうなんざ口に出すんじゃねぇ。男はどうするのかのみよ!
沖田 はい!!
近藤 いやな、源さん…俺はただ黒船見に行ったんじゃねぇ。てめぇの事を確かめに行って来たのよ。今世の中を騒がしてる出来事ってのが、どれくれぇのもんなのか?それを目の当たりにしても俺は俺のままでいられるのか?
沖田 …。
近藤 でかかったなぁ、憎たらしいくれぇに。ドーン!ドーン!って威嚇して来やがるんだよ、あいつら。視察に来てた奉行所の役人達ゃ腰抜かして逃げ惑いやがってよぉ。それ見て歳は馬鹿にしてたが、俺は腹が決まったよ。うん…俺は俺のままだった。
井上 どういう事だ…?
近藤 この国は俺が守る!公方様も帝様も、俺がこの腕で!
沖田 へへへ…。
近藤 俺はこれを機に更に腕を磨き精進するつもりだ。頼りになんねぇ役人には任せちゃらんねぇ!
井上 わしも!わしもだ!!
沖田 凄いなぁ、若先生は…!
近藤 司、強くなれよ。誰もがお前ぇの事を、男の中の男だと認めるくれぇ。で、いつか立ち合いを挑んで来い。何年先でもいい。
沖田 はい!!必ず!!
近藤 うん。
井上 そりゃそうと…若先生!飯を…食わしちゃくんねぇかな?
近藤 来て早々か?相変わらずだな、全く…源さん。
井上 頼むよ。すっ飛んで来ちまったもんで、腹ペコペコなんだ。
近藤 おう…司、仕事終わらせておけよ。(と、台所へ)
井上 ありがてぇ!(近藤について行く)
沖田 男の中の男か…。

 一人残される、沖田。ふと振り返ると、さっきの燕が別の燕とクチバシでつつき合っている。

沖田 ごほっ…ふふ…夢か…こほこほっ…けんっけんっ…周平君…周平君!
周平 (走って来る)はーい!!どうしまし…!?何やってんですか、起き上がったりなんかして!!
沖田 沖田だから起きてるんだよ。ふふふ…。
周平 またそんなくだらない事言って。
沖田 ああ、今日は調子がいいよ。
周平 そうなんですか?いや…でも、駄目駄目!そういう時はいつも動き回って、次の日もっと具合が悪くなるんですから。
沖田 よく知ってるね。
周平 もう長いですからね、沖田先生と一緒にいるのは…(と、沖田の手に握られてる木刀に気付く)ほら!木刀なんか持ち出して、何やってたんですか?もう…!

 …なぜ木刀なんか握っていたのか?寝ている間に勝手に動いて持って来てしまったのか?それとも近々決別するこの世での忘れ形見か…。
 木刀を取ろうとする、周平。それをスッとかわし、横から力ない面を入れる沖田。

周平 痛ぁ!!沖田先生!!
沖田 ははは…よし!今日は昔話を聞かせてあげよう。
周平 へ?
沖田 まだ江戸にいた頃。まだ皆京に登って新選組になる前の話さ。ほら、見た目が君にそっくりの人がいたと聞いた事があるだろう?
周平 え、ええ…確か長州の人間で…
沖田 そう。とても物知りでね。優しくて情熱的で、でも少し間が抜けてるというか…親友のようで兄のようで…うーん…会った時は全然思わなかったんだが、こうしてよく顔を見ると、何となく似てるかもしれないな、君は…こんっこんっ…ごほっ…
周平 先生!!沖田先生!!やはり今日はよしときましょう。ほら、お布団に!
沖田 静かにしねぇかい。
周平 先生…、
沖田 …師匠の話は聞くもんさ…あれはいつだったかな?そうだ…私が近藤先生に無理を言って、朝早くに立ち合いを求めた年。その年の話だ…まだ春が来たとは言い難い、底冷えのする…ちょうど今と同じような季節でね。道場の床が冷たくて…あんなに緊張したのは、後にも先にもあれが最後だ…。
周平 はい…沖田先生でも緊張するんですね。
沖田 ええ、もちろん。相手が相手ですから。
周平 それで、その立ち合いはどうなったんですか?
沖田 ああ…。

 ―暗転―

 江戸牛込柳町・試衛館道場。星の残る朝…立ち合いが行われている。朝方の道場に気が張り詰め、春先とはいえ道場の床は凍りついたような冷たさである…にも関わらず、二匹の狼は互いに向き合いピクリともしない。狼…嶋崎勇と沖田司…後の近藤勇と沖田総司。そして立ち合い人は、山南敬助。

近藤 でやぁぁ!!

 近藤の咆哮に、益々前のめりに構える沖田。「品がねぇ…」以前土方に言われた事がある。「うるせぇですよ!」沖田の言い分…。

沖田 やぁぁぁっ!!

 打って出る、沖田。「カカンッ!」剣先が触れ合い、力で勝る近藤の剣が沖田の剣をねじ伏せる。その瞬間、剣先を下げ肩透かしを食らわす沖田。
 重心がずれバランスを崩した近藤に、突きを繰り出す沖田。その剣先を巻き込み、再び正眼に戻す近藤。

近藤 えいやぁぁ!!

 打ち込んだ近藤の剣を僅かに受け、次の瞬間空いた胴を打つ沖田。

沖田 はぁっ!
近藤 !!

 電光石火

山南 一本!

 一本勝負。二匹の狼は互いに礼を交わし、二人の人間に戻って行く。

沖田 はぁー…はぁー…。
近藤 やるじゃねぇかよ。だいぶ腕上げたみてぇだな。
沖田 あ…はい…。
山南 これでこの道場にゃ、司より強ぇのはいねぇって事だねぇ。参った参った…。
沖田 …。
近藤 んだよ…不満かよ?うちゃ、強ぇぞ!
沖田 はい!あ、いや…不満とかそんな…うちは強いです!
近藤 ははは!ま、確かにうちは武士の出じゃねぇからな。同じ江戸にありながら、玄武館や練兵館ほど知られちゃいねぇけどよ…そこの奴らよりこの試衛館の方が強ぇよって思ってるよ、俺は。な、山南さん!
山南 はは…まぁ、あたしゃその玄武館から来て勇さんに負けた口だからねぇ。何とも…はは…。
近藤 それ見ろ!な?この山南さんですら、北辰一刀流からうちに再入門するくれぇの道場なんだぜ。この天然理心流ってのは。
沖田 へへへ。
近藤 おう!ともあれ…お前ぇみてぇのが俺の脇固めてくれてんだから、これからも試衛館は安泰だよ。良かった良かった!な、山南さん!
山南 そうだねぇ。ふふ…。
近藤 じゃ、俺は飯食って来るわ!(と、出ていく)
沖田 …。
山南 どうしたい?念願だった勇さんとの試合が出来たってのに、浮かねぇ顔して…。
沖田 私の負けです…。
山南 …。
沖田 本当に勝ったのは若先生でした。若先生は一撃必殺で打って来られた。しかし私はそれを受け、二の太刀で決めました。実践ならば…もしも複数の敵に囲まれていたならば、横合いから私が斬られていた…。
山南 ふふ…。
沖田 それに若先生は本気を出されていませんでした。
山南 うーん…。
沖田 ほら!その証拠に私は汗グッショリに関わらず、若先生は平然と出て行かれた…私は若先生の事は尊敬しておりますが…今日のあれは…
山南 気に入らないかい?
沖田 私は本気でとお願いしたのに…私を馬鹿にしてます!
山南 まぁ、しょうがねぇんじゃねぇかな?勇さんは木刀じゃ本気を出せねぇ性質なんでしょうよ。
沖田 …。
山南 かと言って、司が本気で試合を申し込んでんのに、それに答えねぇような男じゃねぇだろうし…多分勇さんは勇さんなりに木刀での本気で打ち合ったんじゃねぇかな?ま、自分じゃ手ぇ抜いてるなんてこれっぽっちも気付いてねぇだろうけど…
沖田 その割には悔しがる素振りの一つも見せずに…!
土方 ったく…ブチブチうるせぇ野郎だな、てめぇはよー!

 と、町人風に着物を帯に引っ掛け、飯を食いながら道場に入って来るのは、土方歳三。

山南 歳!
沖田 歳さん!!
土方 おう…いつまでも敬助兄ぃ困らせてんじゃねぇよ、てめぇはよー。
沖田 だってさぁ…!
山南 何だよ、歳!いつから来てたんだよ?
土方 半刻ほど前かな?おい、司!
沖田 …はい、
土方 強さにもいろいろあんの。確かにてめぇは強ぇよ。木刀持たせたらここはおろか、江戸中でも結構いい線行くんじゃねぇか?パリポリ…(たくあんを食べてる)
沖田 いやぁ!歳さんも、なかなかやる方ですよ。
土方 ありがとう…うるせぇよ!

 土方、たくあんを沖田に投げつける。が、当たらない。

山南 おいおい、道場が汚れるよ。
沖田 奥方様ー!歳さんがたくあん投げますよ。まずいってー!
土方 なっ!?
山南 おい、司!

 沖田の声に、その様子を見に来るツネ。

ツネ …。
男達 …。
山南 拾え!拾え、歳!!

 山南の言葉に、たくあんを茶碗に戻す沖田。

土方 あ!てめぇ…!
ツネ ちっ…(舌打ちして帰って行く)
土方 !
沖田 おっかねぇ、奥方様…!
山南 誰のせいだい…!
沖田 歳さん。
山南 いやいや!
土方 あのなぁ、司!言っといてやるよ。てめぇが強ぇのは道場の中だけだ。何でか教えてやろうか?てめぇ、技ばっか磨いてっだろ?今日勝っちゃんはてめぇに技では負けたけど、人間で負けたと思っちゃいねぇんだよ。だから平然と出て行ったの。ま、技も大事だけどよ、少しゃ男磨けよ。そうしねぇと勝っちゃんにゃ、一生勝てねぇよ。
沖田 …うるせぇですよ。
土方 んだとぉ!?
沖田 歳さんこそぱっぱと薬置いて日野に戻りゃいいじゃないですか!油ばっか売って薬売らねぇって、彦五郎さん嘆いてましたよ!
土方 おお、分かってるよ…今そんな話してねぇだろ!
沖田 飯食って来ます!!(と、出て行く)
土方 おい、司!この野郎…弱虫、こらぁ!!
山南 バッサリ行くねぇ…。
土方 気ぃ使いすぎなんだよ、敬助兄ぃは…あれくれぇ言わねぇと分かんねぇんだよ、あいつは…兄貴の名前出しゃ、ひるむと思いやがって…!
山南 とは言えねぇ、あの若さで…しかも女だてらにあそこまでやれりゃ…
土方 おっとっと!あいつは女じゃねぇよ。
山南 …。
土方 だからあそこまでやれる。見てくれは女でも、魂は武士だっつって言ってたよ。っつぅ事ぁ、俺や勝っちゃんと一緒なんだよ。俺達も百姓の小倅風情にしか生まれて来てねぇけど、心の中は士道で一杯よ。強くなって…ビックリするくれぇ強くなって、いつか武名を天下に轟かせてよ。俺らぁ侍だっつって生きて行きてぇわけよ。
山南 強くなる事が、周りが男として見てくれる唯一の方法って訳かい…。
土方 ま、男に見られてぇだけじゃねぇだろうがな、あいつの場合は。何しろてめぇじゃ、女だなんてこれっぽっちも思ってねぇんだから。勝っちゃんもそれで納得してるみてぇだし、俺も何の問題もねぇ。現にその辺の武士気取った野郎共より強ぇんだから。

 と、そこへ再びツネが来る。手には雑巾。

土方 あ…、
ツネ …。

 ツネ、黙って先程たくあんがあった場所を念入りに雑巾で拭く。

土方 もう…!
ツネ ちっ…。
山南 歳…!
土方 …あの…すまねぇ…

 と、今度は、謝る土方の持ってる茶碗を奪おうとする、ツネ。

土方 あ!いや、ちょっと!まだ食べる、食べる!(死守)
ツネ ちっ…!(去る)
土方 …何だよ…?
山南 随分ご立腹みてぇだねぇ…。
土方 いつもの事だよ…ったく、大奥勤めだったか何だか知んねぇけどさ…いつも俺達を蔑むような目で見やがる…何だって勝っちゃん、あんなのと…
山南 あたしにゃ、そんな事ねぇんだがねぇ…。
土方 そりゃ、敬助兄ぃは武士の出だからさ。区別してやがんのよ。俺や勝っちゃんは農民の出だっつってよ。
山南 自分の旦那、区別したりしねぇでしょうよ。
土方 ああ…じゃ、俺だけだよ!
山南 司は?
土方 あいつは元々白河藩士の子だもんよ。
山南 まぁまぁ…そんなにひねくれるもんじゃないよ。
土方 どうせ俺ぁひねくれもんだよ。敬助兄ぃには一生分かんねぇよ。
山南 はは…参ったねぇ、こりゃ。じゃ、あたしも飯戴いて来るかねぇ。放っとくと勇さんと司に皆食われちまうからねぇ。
土方 ああ、はいはい。どうぞどうぞ。
山南 何だい?お前ぇさんはもういいのかい?
土方 ええ?食いますよ。何言ってやがる…ただし敬助兄ぃと一緒はごめんだね。後で食うよ、俺は。
山南 そんな事言ってっと、なくなっちまうよ。
土方 じゃぁ、なくなんねぇように見張っててくれりゃいいでしょうが!
山南 ははは…あたしゃいつだってお前さん方の見張り役だねぇ。あたしの言う事なんざ、ちっとも聞きゃしないってのに…ふふ…(と、行く)
土方 へっ…俺は誰の言う事も聞かねぇっつうんだよ…パリポリ…何だよ、年上ぶりやがって…!

 そこへ、飯を食い終えた井上源三郎が来る。

井上 おはようございます!
土方 お…おはよう、源さん…。
井上 おお、歳ちゃん!ここいたのかよ?何だよ、こんな道場で飯食っちゃ駄目だろ?
土方 …ちょっと来ねぇ間に礼儀正しくなっちゃって。えぇ?日野の道場ん時ゃ、そんな事しなかったじゃない。
井上 ああ…それがな、流石は江戸の道場だけあって、いろんな人が出入りするわけさ。やっぱりそこでわしがちゃんとしとかねぇと、日野の仲間がバカにされちまうだろ?ここに住まわせてもらうようになってからの習慣さ、わしの。
土方 立派なこった。
井上 歳ちゃん!こっちは凄ぇよ!やっぱり強ぇ人がゴロゴロいる。歳ちゃんも出て来りゃいいんだよ。そうすりゃわしの、その形だけでもちゃんとしなきゃっての分かるよ、本当に。
土方 へっ…俺は源さんと違って強ぇからよ。んな、形だけの作法なんざしやしねぇよ。
井上 またぁ!そういうのを井の中の蛙って言うんだよ。
土方 あ?何だって!?
井上 ほらほら!そうやって年上脅すもんじゃないよ、ったく…何つったかな?2,3日前から稽古に来てる、里村…だったかな?彼なんか素晴しいよ。ひょいひょい木刀振って、礼儀もしっかりしてるし。
土方 …。
井上 司なんかもうすっかり懐いちゃって、毎日稽古つけてもらってるよ。
土方 …勝っちゃんは?
井上 先生も可愛がってるよ。ああ、歳ちゃん!もう、勝っちゃんなんて呼んじゃいけねぇんだよ。もうじきここ継いで四代目になんだから。先生って言わねぇとな。司も若先生っつってるもんな、直さねぇと…まともなのは山南だけだよ。早速改名したばっかの勇さんっつって呼んでるもんな。まともはわしと山南だけ。
土方 何言ってやがるよ。
井上 ははは…さぁさぁ!飯食ったら一丁稽古つけようじゃねぇか、歳ちゃん!わしも少しは腕ぇ上がったぜ。
土方 いいよ。俺ぁ、そろそろ戻らねぇといけねぇからさ。もう一杯くらい飯もらってけぇるよ。
井上 何だよ、つれないなぁ…えい!やぁ!

 と、木刀を振り始める、井上。眺めながら飯を食う、土方。

土方 …源さん、
井上 何だよ?えい!
土方 いや…随分腕ぇ上がったんじゃねぇの?
井上 そうか!?はは…えい!やぁ!!
土方 …。
井上 司にも褒められたんだよ。わしはまだまだ伸びるってさ。えい!!

 土方は不器用な井上を知っている。近藤や自分よりも歳は上で、天然理心流では兄弟子に当たる井上だが、他人が一年で習得する技が三年はかかる。
 そんな不器用な井上が、数年前一人の子供を連れて道場へやって来た。その子供は背が伸びるよりも早く、剣の腕をすくすくと伸ばして行った。子供の名は沖田司…彼はあっと言う間に井上を抜き、道場主になるであろう嶋崎勇にまで今朝一本勝ちを修めている。沖田の剣は井上の剣とは正反対だと思う。だが、そんな不器用な井上の事も、井上の剣の事も、強さこそ全てのこの道場の皆から愛されているのは、不思議な事でも何でもない事だ…。

 と、そこへやって来る、永倉新八。

永倉 おはようございまーす!!
土方 わぁ!何だよ、うるせぇなぁ…。
井上 おお、おはようございまーす!!
永倉 今日も早いですね、井上さん。またボコボコにしちまいますよ?はは…えい!
井上 ああ、ボコボコにしてくれよ。ボッコボコに、うん!
土方 何笑いながら言ってんだよ、源さん!
永倉 てめぇこそ何道場で飯食ってんだよ?町人風情が賭ける命ほど安くねぇぞ、ここは。

 と、永倉、準備運動をしながら横目で土方を見やり、言う。

土方 ああ!?今何つった、このやろう!!
井上 ちょっと、歳ちゃん!
土方 …誰だよ、ありゃ?気に入らねぇ…!
井上 さっき話した…ほら!礼儀の出来た里村っていう…
土方 どこが礼儀出来てんだよ?初対面の俺に向かって…
永倉 井上さん、そいつぁ門下生かい?道場で飯食うなんざ言語道断だよ。俺がしごいてやろうか?木刀持て!
土方 てめぇ…里村っつったっけか?
永倉 永倉だ。誰だ、里村って?
土方 「ら」しか合ってねぇじゃねぇかよ!!
井上 すまん…。
永倉 永倉新八だよ。一昨日からこの試衛館に通わせてもらってる。木刀持てよ。稽古つけてやらぁ!
土方 …源さん、木刀貸せ!
井上 何言ってんだよ、歳ちゃん!またそんなおっかねぇ面して…稽古になんかなんねぇよ、それじゃ!
土方 貸せっつってんだよ!!
井上 貸さねぇ!駄目だよ、歳ちゃん!!
土方 …。
永倉 …使えよ…(と、土方に木刀を渡す)
土方 …。
永倉 井上さん、(と、井上に手を出す)
井上 (永倉に木刀を渡す)…知らねぇぞ、二人共…先生に見つかったら…

 井上の言葉を遮るように、いきなり打ち込んで行く土方。

永倉 !?
井上 うわぁ!!危ねぇなぁ!!

 「カカンッ!」井上を庇いながら、受け流す永倉。

永倉 めちゃくちゃだな…品がねぇ。
土方 そりゃ、いつも俺が司に言ってんだよ!やぁ!!

 土方、更に打ち込む。それをスラスラとかわす、永倉。

永倉 へっ…その割にゃ、沖田の方が腕は立ちそうだけどな。
土方 …んだと、この…!

 永倉、言うが早いか、土方の間合いに踏み込み、袈裟に打ち込む。

土方 ぐっ…!(沈み込む)
井上 一本!!

 決まった…かのように思えたが…。

土方 …痛ぇなぁ!!

 土方、起き上がるなり永倉に掴みかかり殴りつける。永倉、殴られながらも反転し応戦する。更にやり返す、土方。

土方 はは…俺はあんなじゃ、死なねぇんだよ…この野郎!
永倉 ぐっ…この卑怯者が!!
土方 殺し合いに卑怯もクソもあるか!
井上 おい!やめねぇかよ、二人共!こらぁ!!

 転がり回る、土方と永倉。そこに満腹の沖田が戻って来る。

沖田 いやぁ、食べた食べた!
井上 おお、司坊!いいところに来た!
沖田 あー、永倉さんじゃないですか。来てたんですか?
井上 そうなん…だけどよ…歳ちゃんと喧嘩になっちゃって…止めんの手伝ってくれよ!
沖田 大丈夫ですよ、放っておいて。どうせ歳さんが負けますから。
井上 いや、でも放っておくわけにゃ…
土方 (上になり)誰が負けるかよ!!
永倉 ぐ…くく…

 と、沖田、喧嘩している二人に近付いて行く。

沖田 永倉さん!歳さんなんて放っておいて、私と稽古しましょうよ。
井上 おい、司坊!?
永倉 くっ…くく…
土方 くっ…
沖田 いやぁ、実は対永倉さん用に必殺技を編み出したんですよ。へへ!
土方 うるせぇ!向こう行って…
沖田 やぁ!!

 いきなり突きを見せる、沖田。飛び退く、土方。

土方 危ねぇなぁ!お前ぇはよぉ!!
沖田 さぁ、永倉さん!やりましょう!!
永倉 う、うう…ありがとう、沖田…(と、立ち上がる)

 永倉に向かい正眼に構える、沖田。その沖田を掴み上げる、土方。

土方 なぁにやってんだよ、てめぇ!他人の喧嘩に割り込んで来やがって、クソ小僧が…やりましょうじゃねぇよ!
沖田 …。
井上 まぁまぁ、歳ちゃん!司坊は喧嘩を止めようとして…

 そこへ戻って来る、近藤と山南。

近藤 何やってんだよ、お前ら?
土方 こっちの台詞だよ!
井上 おお…先生!山南も。来てたんだ。
山南 ああ…(チラッと永倉を見て、土方を叱る)はぁ…歳!
土方 何で、俺が…!
沖田 いやぁ、稽古ですよ。歳さんが体動かしたいみたいだったから、試衛館流の稽古をつけてやってたんです。
近藤 へぇ…そりゃ立派なこった。
土方 何言ってやがんだよ…。
永倉 おはようございます!
山南 ああ、おはよう。本当早いねぇ、永倉君は。
近藤 おお…今日も来たのかよ。気に入ったか、ここ?
永倉 はい!ここの道場にゃ実がある。ちょくちょく寄らしてもらっていいですか?
近藤 おお、もちろんだよ。
土方 誰彼構わず入れてんじゃねぇよ、勝っちゃん!(と、出て行こうとする)
永倉 そりゃ、どういう意味だよ?
土方 …(立ち止まる)
井上 まぁまぁまぁ!
土方 …真剣の殺し合いだったら、てめぇなんかにゃ負けやしねぇよ。
永倉 へっ!面白ぇ…やってみるか?
沖田 …(刀を取りに行こうとする)
井上 ちょっと!何言ってんだよ、お前ぇら!いいよ、司坊!刀取りに行かなくても!
沖田 …。
近藤 バカヤロウ…んな事されたら俺が困るよ。仲良くしろよ。
沖田 永倉さん、稽古しましょう!稽古!
永倉 あ、ああ…。

 沖田、永倉を促し、土方から離す。

土方 …(黙って出て行こうとする)
山南 おい、歳!
土方 おかわりだよ、うるせぇな。
山南 ねぇよ、もう…司と勇さんが、皆食っちまったよ。
土方 見張っててくれっつったじゃねぇかよ、敬助兄ぃ!
山南 いやぁ!あたしが行った頃にゃ、もう一膳分もなかったよ。
井上 あんなにいっぱいあったじゃねぇかよ!
沖田 山南さんが来そうだったから、最後の追い込みをかけました。9杯!!
近藤 16杯!!
山南 腹の虫が鳴り止まねぇよ…。
土方 俺、帰るわ…。
近藤 何だよ?稽古して行かねぇのか、歳?
土方 ああ、疲れた…。
井上 だらしねぇなぁ、歳ちゃん。
土方 うるせぇ…。
山南 ああ…だったら途中まで一緒に行こう。あたしもちょっくら玄武館に用事があってねぇ。
土方 はいはい…。
沖田 山南さん!
山南 何だい?
沖田 今日、朝から付き合ってくれてありがとうございました!
山南 ああ、いいって事よ。じゃ、勇さん…行って来ますよ。
近藤 おお、よろしく。歳、彦五郎さんによろしくな。
土方 おう!あ、勝っちゃん!司、出稽古来させなくていいってよ。あいつじゃ厳しすぎて、うちの奴らぶっ壊されちまうって。勝っちゃん、来てくれってよ。
近藤 ははは…分かった。
沖田 日野の連中がだらしなさすぎるんですよ!
土方 うるせぇ、バーカ…(去る)
山南 …(続いて、去る)
永倉 …(土方の後ろ姿をジッと見てる)
近藤 新八っつったよな?
永倉 へ?
近藤 下の名前。
永倉 あ、ああ…はい!
近藤 さっきのガラの悪いのが土方歳三っつって、俺がまだ日野の道場にいた頃からの馴染みでよ。一つ違いの兄弟みてぇなもんだよ。面白ぇだろ?
永倉 …。
近藤 よろしくな?
永倉 あんまり立ち合いたくねぇ人ですね。正直しつけぇったら、ありゃしねぇ…。
近藤 はは…そういうのの集まりだよ、ここは。なぁ、司?はは…。
沖田 はい!ふふ…よろしくお願いします、永倉さん!
永倉 よし…来やがれ!

 沖田は思った。そういう試衛館が好きだ…そして先程土方に言われた言葉を思い出し、今朝の近藤との試合を振り返った。沖田は思った…いつかこの大好きな試衛館の主に勝ちたいなと…。

近藤 源さん、俺達も一丁やるか!
井上 はい!

 「カカコン!カカコン!」道場に木刀の音が鳴り響く。

 ―暗転―

 試衛館は順風満帆といってよかった。田舎道場と呼ばれながらも、近藤・沖田・井上の他に、北辰一刀流皆伝までいった山南や、新道無念流目録の永倉…新たに、剣は一刀流を使いこれといって切紙も目録も免許も取っていないが、恐ろしく腕が立つ斎藤一を客分に迎え、ひたすら剣に打ち込んだ。日野の道場に席を置く土方も、近藤が天然理心流四代目を襲名した後は、頻繁に試衛館に顔を出すようになり、とうとう皆と同じように寝泊りするようになった。近藤の人柄と、剣は荒いが実戦向きという天然理心流に惹かれ、道場生達も増え、忙しいながらも充実した日々を過ごしていた。

 そんなある夜の事…。
 リーンリーン…虫の音が聞こえる。道場の真ん中に布団が敷かれてあり、近藤とツネが寝ている。

近藤 …まだまだぁー!!

 近藤、寝言と同時にツネを布団から蹴り出す。

ツネ ちょっと!?
近藤 ぐぅ~ぐご~…ぴるるる~…。
ツネ …。
近藤 ぐぅ…ツネぇ~ぴるるる~…。
ツネ もう…♥

 愛しい近藤に名を呼ばれ、機嫌を直し布団に入るツネ。そこへ現れる三つの影。影の一つが布団に近寄る。影の主は沖田。

沖田 …。
永倉 どうだ?沖田。

 離れたところから声をかける、永倉。残りの二つの影は、永倉と斎藤。

ツネ …(また来た)
近藤 ぐぅぐぅ…。
沖田 寝てます、完全に。
ツネ …(寝てません)

斎藤 よし!

 二人、道場の中へ入って来る。三人共手には木刀。

沖田 じゃ、先ずは私と斎藤さんからだ。
斎藤 おう、望むところだ。新八っつぁん、よく見ててくれよ?
永倉 ああ、任せろ。

 斎藤・沖田、布団をはさんで礼をする。

ツネ !(ちょっとちょっと!)
永倉 始め!
斎藤 来い!
沖田 えやぁ!

 沖田、打ち込んで行く。「カカン!」剣先がぶつかり合う。その拍子に斎藤、ツネを踏む。飛び起きる、ツネ。

ツネ 痛い!ちょっと、もう…起きて下さい!!(近藤を起こす)
近藤 うーん…。
沖田 何だ、奥方様!起きてらしたんですか?
ツネ 寝れるわけないでしょ!?
永倉 一ちゃんが踏むからだよ。
斎藤 こんなところで寝てるから…。
ツネ 誰のせいでこんなところで…ちょっと、旦那様!起きて下さいませ!!
近藤 うーん…何だよ…?
永倉 ヤバい!
沖田 逃げましょう!

 三人、寝床に戻って行く。その頃やっと起きる、近藤。

ツネ …。
近藤 何だ、あいつら…また来やがったのか?
ツネ …(背中を向け、むくれてる)
近藤 ったく、しょうがねぇなぁ…こんな夜中に…ツネ?
ツネ 知りません!
近藤 何だよ?怒ってんのか?
ツネ 当たり前です!!
近藤 …あいつら稽古熱心でな。昼間あの一ってのが、司に二本取られちまったんだよ。一って、ほら!最近うちに住み込むようになった…
ツネ もう結構です!
近藤 何だよ?
ツネ そのような事で怒ってるのではありません。ツネも武家の出の娘。将軍様の為、一心に剣の稽古に励む皆様方のお気持ち、分かってるつもりです。
近藤 ああ、だからうちゃうめぇ事回ってんだよ。
ツネ …山南さんや永倉さん、斎藤さんといった立派な武士の方々がこの試衛館に集まって来られたのも、旦那様のお人柄だとツネは大変嬉しく思っております。
近藤 ああ…だったら、何をそんなにむくれてんだよ?
ツネ だからと言って…
近藤 うん?

 と、そこへふらりと井上が入って来る。

井上 …。
ツネ もう…!
近藤 おお、源さん…どうした?

 井上、おもむろに着物をまくり、小便をしようとする。寝ぼけているようだ。

ツネ ギャー!
近藤 待て待て待て、源さん!違う違う!厠はあっちだ!おい!
井上 うーん…。

 近藤、井上を連れて出て行く。

ツネ …。
近藤 (すぐに戻って来る)すまん、すまん。源さん寝ぼけてて、手に小便がかかっちまったよ。
ツネ …。
近藤 ツネ、続き…(と、肩を叩こうとする)
ツネ ギャー!(と、近藤の手をはねのける)ちょっと、その手で触らないで下さい!
近藤 ははは…すまんすまん。
ツネ 旦那様!!
近藤 お、おう…、
ツネ ツネは心配です。
近藤 …すまねぇな…。

 近藤、謝りながらもツネに笑いかける。ツネはこのニッコリと笑う近藤の顔に弱い。二人の馴れ初めである見合いの席で、元々無口なツネはやっと口を開いたと思えば、徳川御三卿の一つである一橋家の祐筆を勤めている父の影響からか、攘夷がどうのこうのと男が話すような事ばかりまくし立てた。本来ならば女の癖にと嫌われて当然なのだが、近藤は違った。面白い人だとニッコリと笑って、彼女の話を真剣に聞いてくれたのだ。いつも無愛想だと多くの男連中から敬遠されていた自分を面白いと言ってくれる、近藤の笑顔にツネは惚れていた。

ツネ …旦那様は卑怯です。
近藤 おいおい、何だよ?突然。
ツネ いつもそうやって、その顔で…。
近藤 ああ…なぁ、ツネ…
ツネ はい、
近藤 俺ぁここに集まって来る連中が可愛くってよ。
ツネ 可愛がるにも限度があります。私達の寝床まで貸し与えて…おかげでこんな道場で寝起きしなければならないのですよ。可愛がるって…井上さんも山南さんも年上なのに…。
近藤 まぁ、聞いてくれよ。俺ぁガキの頃からガキ大将でな。年上やら年下やら、周りにいっぱい人がいてよ…親分親分っつって、ちょっとしたもんだったんだよ。
ツネ …。
近藤 皆、俺よか力が弱くてさ。守ってやんねぇとって…俺はべっこなんだからって…ガキながらに孤独を感じたりしてたわけよ。
ツネ …歳さんもその中におられたのですか?
近藤 いやぁ、あいつは特別だよ。そ!あいつと出会った頃くれぇからかな?その特別ばっかのとこでガキ大将出来りゃぁなって思ってな…俺よか凄ぇ奴らがいっぱいいて…じゃ、俺も凄くなってよ!まさに今の試衛館みたいな感じよ。あいつら皆道場主の俺よか強ぇかもしんねぇし。うーん、そうだな…まぁ、見た目はあんなだし性格もどうしようもねぇような奴らばっかりだけど、心の中の真の真はもう天晴れなくれぇ士道で出来てて…歳もやっとここに住み込むようになったし…多分天然理心流ももっともっとでかくなって、今いるような奴らももっと増えちまうだろうけど…それが俺の望みなんだよ。
ツネ …分かりました。
近藤 おう。
ツネ 実家に帰らせてもらいます。
近藤 本当に!?
ツネ うふふ…嘘です…うふふ…。
近藤 何だよ、そりゃ?
ツネ ツネもそんな旦那様を好いております。
近藤 おう…。
ツネ ただしこれ以上ここに住み込む方を増やすのであれば、お父様に言って増築して頂かないと、私達はそのうちこの庭に布団を敷かなければならなくなります。
近藤 はは…おう、結構結構!
ツネ 後、旦那様は天然理心流四代目を襲名なされたのですから、軽々しく門下生の方が強いなどと口走らぬ方がよろしいかと思われます。
近藤 ああ、鍛えねぇとな。
ツネ それともう一つ!
近藤 うん?
ツネ ツネは早く旦那様のお子が欲しゅうございます…。
近藤 うほ!鍛えねぇとな。

 ツネ、ニッコリと微笑み、床に入る。

ツネ 旦那様…
近藤 おう…誰もいねぇ。ちゃんと寝てるみてぇだ…(と、外を確認)
ツネ おいであそばせ♥
近藤 ツネ~!(布団に滑り込む)
ツネ あ~れ~♥
近藤 ツネをつねって御座候~!
ツネ あ~れ~♥

 と、そこへ入って来る、土方。

土方 えへん!!(咳払い)勝っちゃん、ごめん…ごめん、勝っちゃん…
夫婦 わー!!
ツネ …(百姓がよ…)
近藤 な、何だよ?
土方 ごめん、あの…表に誰か来てるみてぇなんだけどよ…。
近藤 こんな夜中にか?
土方 本当ごめん、やってる最中に…。
近藤 おお…言うなよ、はっきり…ツネ、ちょっと見て来てくんねぇか?
ツネ はい…。
土方 悪ぃな、奥方。
ツネ ちっ!(と、見に行く)
土方 また怒らせちまったよ…。
近藤 てめぇらのせいでいつまで経っても子供が出来やしねぇよ、俺は…。
土方 いねぇ時やりゃいいじゃねぇか。
近藤 いつもいるじゃねぇかよ。
土方 いてもやる時あんだからいいじゃねぇかよ。源さん覗いてたよ、この間。
近藤 あの野郎…明日稽古だっつって、頭かち割ってやろうかな?
土方 ま、気をつけなよ。
近藤 てめぇらが気をつけろよ、俺ん家なんだから。
土方 ああ、ごめんなさいよ。ふふ…しかし、勝っちゃん…ふふ…たいしたもんだよ。
近藤 ええ?何が?
土方 いや…あんなムスっとしたのと、よくやれるなと思ってさ。ふふ…。
近藤 失礼な事を平気で言うな、てめぇは…ムスっとしてんのは歳にだけだよ。
土方 俺ぁごめんだなぁ。何か、こう…見下されてるような感じで…

 と、ツネ、帰って来る。

ツネ …。
土方 抱いてる時もムスっとしてんの?
近藤 いや、だからしてねぇよ、俺には。
土方 またまたぁ!ムスっとして寝っ転がってんだろ、こうやって。ムッツリムスコさんだよ、ありゃぁ…ははは!
ツネ すみませんね、ムスっとしてて…。
土方 うわぁ!!
近藤 よ!お帰り、ツネ。
土方 だ、誰か来てた?外…。
ツネ 旦那様!ツネはムスっとしてますか?抱かれながらムスっとしておりますか?
近藤 いや…、
ツネ ムスって刺してやろうか?包丁でムスって!!
土方 いえ、あの…すいません…じゃ、俺の気のせいかなぁ?あはは…すまねぇ、すまねぇ…お二方、お休みなさい!(去る)
ツネ 日野に帰れよ…!
近藤 悪気はねぇんだけどな、あいつも…はは…。
ツネ キッ!
近藤 いや、すまねぇ…。
ツネ (スタスタと寝床へ)こんな恥ずかしい思いはもうごめんです。旦那様は庭に寝て下さいませ!
近藤 おいおい…、

 近藤、布団へ行くが、入れてもらえない。

近藤 参ったな…ったく…歳の野郎…。

 ボヤきながら、ふと庭に目を移した近藤。その先に一つの人影を見つける。

近藤 うん?

 人影は怪我をしてるらしく、頭に巻いた手ぬぐいにはべっとりと血が滲んでいた。手には槍を持ち、槍の先にはまだ固まっていない血が、月明かりに照らされヌラヌラと不気味な光を放っている。雲が切れ、目が合った…。

原田 …何を見よるんなら…。
近藤 誰だ、てめぇは?

 とっさに動く、影。名は、原田左之助。松山藩脱藩の浪士である。「ビュッ!」…槍で突いて来る。寸での所でかわす、近藤。尚も突く、原田。

原田 こなくそ!!
近藤 ツネ!!
ツネ (布団をかぶったまま)嫌でございます!
近藤 バカ、そうじゃねぇ…司達呼んで来い!
ツネ へ?

 ツネ、布団を上げると目の前には原田の姿が…。

ツネ ひっ!?

 ツネ、急いで門下生達を呼びに行く。

原田 何じゃ…仲間呼ぶんか?
近藤 …。
原田 江戸者はだらしないのぉ…こげん手傷負うちょる者一人相手に出来んのか!?
近藤 …言われてみりゃ、そうだな…よし、来い!!(と、構える)
原田 何じゃ、こなくそ!!

 原田、近藤に打ち込みに行く。と、そこへ、「カカン!」疾風の如くやって来て、槍をはじき近藤の前に立つ、沖田。

原田 何なら、もう来たん…!?…女子か!?
沖田 !…私は男だ!!

 沖田、打ち込む。「カカン!」

原田 何じゃと!?
沖田 …なかなか強そうですね、先生。
原田 …。
近藤 ああ、面白ぇ…一と新八はよ?
沖田 二人して吉原へ…。

 原田、打ち込む。「カカン!」

原田 強うて当たり前ぞな。わしを誰じゃと思うとるんなら?
近藤 何者だよ?
原田 原田左之助…武士(もののふ)じゃぁ!!

 原田、近藤に向かう。すかさず反対方向から沖田が打ちに行く。

沖田 はぁっ!

 沖田の振り下ろす剣先を、槍の尻で受け反撃する、原田。かわす、沖田。

原田 くっ…(ふらつく)
近藤 血の流しすぎだよ。もう、やめときな。
原田 やかましいんじゃ!

 沖田を突く、原田。沖田、槍の先を引き込み斬り上げる。再び槍の尻ではじく、原田。ふらつく足元を気力で押さえ込んでいる。

沖田 天然理心流、沖田司…同じく武士です。
原田 はぁはぁ…
近藤 面白ぇ槍の使い方しやがる。流派はどこだよ?
原田 はぁ…は、原田流じゃぁ!!

 と、再び近藤に斬りかかる、原田。とっさに間に入り、近藤を守る沖田。「カカン!」

原田 くそぉ…くそぉ…!
沖田 そろそろ倒しますよ…原田流の原田さん。
原田 …。
近藤 司、
沖田 はい!
近藤 木刀貸せ。俺がやる…。
沖田 …ふふ…はい。

 沖田、近藤に木刀を渡す。近藤、原田の正面に向かいゆったりと下段に構える。

原田 な、何なら…?
近藤 天然理心流当主、近藤勇!

 ジリジリと迫る、近藤。と、原田が動いた…。

原田 えいやぁ!!

 原田、ありったけの力でもって槍を振り下ろす。

近藤 えいぃぃっ!!

 打ち込まれた原田の槍を、下からすり上げた近藤の木刀が跳ね返す。更に近藤の剣は一回転し、そのまま袈裟斬り一閃!

近藤 おうぅっ!!
沖田 !?
原田 ぐっ…!(崩れ落ちる)
近藤 …。
沖田 …今のは!?
近藤 うん?
沖田 今のも天然理心流ですか?私はまだ教わっておりません!
近藤 バカヤロウ。こいつの手当てのが先だよ。ツネー!

 近藤、奥へ呼びかけ、原田を起こそうとする。それを制する、沖田。近藤の手から原田が転げ落ちる。

原田 ぐっ…!
近藤 !
沖田 いいえ!今の剣をご教授頂く方が先です!先生、今の…
近藤 ったく、しょうがねぇなぁ…龍尾の剣っつって、天然理心流だよ。
沖田 明日教えて下さい!明日!!
近藤 駄目だよ。順序ってもんがあらぁ。お前はまだ免許だろ?印可になったら教えてやるよ。
沖田 お願いします!明日!明日!!
近藤 …。

 そこへ来る、ツネ。

ツネ だ、大丈夫ですか?旦那様…。
近藤 ああ、こいつ手当てしてぇから湯を用意してくれ。
ツネ そ、その人をですか?
近藤 ああ、うちがもらう。
ツネ …はい…(と、用意をしに行く)
沖田 …。
近藤 ほら、司!手伝えよ。
沖田 …(ぶすーっとして寝っ転がる)
近藤 おい!…たく…。

 近藤、原田を抱えて連れて行こうとする。と、原田、息を吹き返す。そして近藤をはねのける。

沖田 !(飛び起きる)
近藤 むっ!
原田 だ、誰がお前ぇらなんぞに…!

 原田、庭先に下りて逃げようとする。そこへ土方が現れる。手には木刀。

土方 …(チラリと近藤を見る)
原田 何なら…のけぇ!!

 原田、土方にかかって行く。土方、その原田の懐に飛び込み、胴打ち一閃。

原田 ぐっ!!(再び倒れ込む)

 沖田・近藤・土方、三人顔を見合わせ、倒れた原田をかついで道場へ戻る。

 ―暗転―

 チュンチュンチュン…道場。土方監修の中、朝一練習組みの沖田・永倉・井上が一汗かいたところ。

土方 ふぁ~あ…。
井上 三本中二本は確実に取られるもんなぁ。
永倉 いやいや…源さんもなかなか鋭くなって来たぜ。二本目ん時の…

 井上と永倉の会話の中、一人黙々と剣を振る、沖田。昨日見た近藤の龍尾の剣を早速練習中。

土方 おい、司!てめぇもそろそろ立ち合えよ。何ずーっと同じ型ばっか繰り返して…
沖田 うるせぇです。放ってて下さい。
土方 んだと?
沖田 …じゃ、歳さん相手して下さいよ。
土方 俺はいいよ。永倉にでもしてもらえよ。てめぇら似たもん同士、稽古バカがよ。ケケケ…。
永倉 …(チラっと土方を見やる)
井上 歳ちゃん!
土方 んだよ?
井上 稽古しねぇんなら何も朝から道場来なくてもいいだろ?それにそこは先生の座敷だよ。何で歳ちゃんが座ってんだよ?
土方 だって…勝っちゃん日野に行っちまっていねぇから、代わりに俺がこうやって眠い目をこすりながら皆の朝稽古に付き合ってやってんじゃねぇかよ。勝っちゃんの代わりに、ここ座ってな。
井上 また勝っちゃんっつって…先生だよ。近藤先生!
土方 何だよ、うるせぇなぁ。
沖田 眠いならまだ寝てて結構ですよ。誰も頼んでないですから。
土方 はいはい、分かりましたよ。じゃ。また打ち身だ何だって薬くれっつっても、てめぇらにゃこれっぽっちも分けてやんねぇよ。お休み!(と、出て行く)
沖田 ふふ…。

 沖田は、土方のこのあからさまな優しさが好きなのである。他人からは全く気付いてもらえない優しさでも、沖田は、朝っぱらからもしもの為の薬を隠し持って道場に来て座ってる土方の、このあからさまな優しさが好きなのである。

井上 このバラガキー!本当にいくつになっても…何しに来てんだよ、全く。
永倉 てめぇで言ってたじゃねぇかよ。薬持って待ってたんだろ?万が一のために。
沖田 え?
永倉 別に怪我なんかしねぇっつうんだよ…。
沖田 …(ジッと永倉を見ている)
永倉 な、何だよ?
沖田 いや、驚いたなと思って…先生や私以外で、歳さんの優しい所に気付く人がいるなんて…しかもそれが永倉さんって…!
永倉 変かよ?
沖田 いや…永倉さん、歳さんといても全然喋らないし…嫌ってるのかと思ってたから。
永倉 そうか?
井上 そうだそうだ、言われてみりゃ。ま、歳ちゃんも悪い奴じゃねぇんだけど…口がな。
永倉 いやいや…別に、んなのは気にしてねぇけど…ところでよ、沖田!その、それ、何だよ?その型…朝からずっとそればっかじゃねぇか。天然理心流にそんな型あったか?
沖田 はい。
永倉 ?(と、井上を見る)
井上 いや、わしは全然まだまだ教わってねぇ型がいっぱいあるから…。
永倉 沖田、ちょっと立ち合えよ。見てみてぇよ、それ。
沖田 …ご飯行って来まーす!(と、逃げる)
永倉 おい、沖田ー!

 そこへやって来る、原田と斎藤。

原田 何じゃ、まだやりよるんか?早よいかんと食うもんなくなるぞな。
井上 お前らが食い過ぎなきゃなくなんねぇよ。ちゃんと残しててくれりゃいいじゃねぇか。
斎藤 断る…(と、先に行く)
原田 あ!こりゃぁ!!(と、続いて行く)
井上 全く…左之助の野郎はもうすっかりうちに溶け込んでやがる。
永倉 水があってたんだろうよ。俺達と同類さ。さぁ、源さん!飯、飯!
井上 全く…奥方もたまったもんじゃねぇな…。
ツネ ええ、全く…(と、いつの間にいる)
永倉 !…ああ…こりゃ、奥方…、
井上 すまないねぇ、いつも…はは…。

 永倉と井上、逃げるように走り去る。入れ替わりに戻って来るのは、茶碗を持った土方。食事をしている間に、一人増え二人増え、追い出された様子…。

土方 …何だよ、次から次に…何でもかんでも入れやがって…。
ツネ ええ、本当に…食費は増えるわ洗濯物は増えるわ部屋は汚すわ…一つもいいところが見当たりませんね!

 と、ツネ、土方の茶碗を奪い、去って行く。

土方 あ!俺まだ食うのに…うん?

 そこへ山南が、一人の小奇麗な男を連れてやって来る。男の名は、藤堂平助。

山南 おお…歳、一人かい?
土方 皆飯食ってるよ。
藤堂 山南さん、
山南 ああ…歳、勇さんけぇってねぇよなぁ、まだ。
土方 いや、けぇってるよ。飯食ってる。何か今日はご隠居と一緒だったらしくて、先けぇって来たって。
山南 ああ、そうかい。そりゃよかった!じゃ、ちょっくら待っててくんな。今呼んで来るから。
藤堂 助かります!

 山南、近藤を呼びに行こうとする。その山南を捕まえる、土方。

土方 ちょっとちょっと、敬助兄ぃ!その鼻持ちならなそうなガキは何だよ?
山南 ああ、歳にも紹介しとくか。藤堂君、ちょっとこっちに来てくんねぇかい?
藤堂 いえ!まだ近藤先生のお目通りもすませてねぇのに、勝手に道場に上がるなんざ、俺には出来ませんよ。話ならここで伺います。苦しゅうない、近う寄れ。
土方 ああ!?
山南 若ぇのに律儀だねぇ。
土方 最後偉そうだったじゃねぇか!
山南 藤堂君、彼もここの門人で土方歳三ってんだ。口は悪いが、根はいい奴だよ。腕も立つし。な?目録だっけ?
土方 ああ…。
藤堂 目録止まりですか。
土方 あ?
山南 ああ…歳の場合腕前は皆伝なんだが…どうも理心流の型から外れたのを独自に繰り出しやがるもんで、免許はもらえねぇんだよ。藤堂君は北辰一刀流、免許皆伝かい?
藤堂 いえ、目録です。
土方 てめぇも目録じゃねぇかよ!俺は形だけの免許なんざ更々興味がねぇのよ。要は強けりゃいいんだろ?実戦なら俺ぁ負けやしねぇ。
山南 おい、歳…!
藤堂 山南さん!
山南 何だい?
藤堂 ここ、天然理心流試衛館は実践を想定した気組みでやる荒稽古の道場だと聞いてます。そこで免許もらえねぇって事ぁ…実戦向きじゃねぇって事なんじゃねぇのか?そちは。
土方 何だ、てめぇ…人が大人しく聞いてりゃぁ!!
山南 歳!!
藤堂 山南さん、よいよい。良きに計らえ。
土方 敬助兄ぃ、ちょっと!!
山南 あ、うん…ちょっと待っててくんねぇか?
藤堂 うむ。

 土方、藤堂から距離を置いて山南に話しかける。

土方 何だ、あのガキは…人を小馬鹿にしやがって…しかも何か要所要所で偉そうに!
山南 ああ…あたしも聞いた話しなんで定かじゃねぇんだが…何でも伊勢国津藩の藤堂候の落し胤だっつって、玄武館の奴らは言ってるみてぇなんだよ。それでちょいと気品があるっていうか…
土方 津藩の藤堂候っつったら、藩主じゃねぇか!その方の妾の子?何でこんな所にいんだよ?
山南 さぁ…何でもその母君が亡くなられたとかで、今は深川佐賀町の伊東道場に身を置いてるらしいんだが…とにかくあたしゃ勇さん呼んで来るから、滅多な事するもんじゃないよ?
土方 別にあのガキが絡まなきゃ、俺ぁ何もしねぇよ…。
山南 じゃ、藤堂君!ちょっと待っててくれ!(と、行く)
土方 …。
藤堂 いい道場ですね。随分使い込まれてて…床板見るだけで、ここの人達がどれだけ熱心に稽古してるか分かる。
土方 …藤堂、何ていうんだよ?
藤堂 へ?
土方 名前だよ。俺ぁ何となくお前ぇに似た口の知らねぇガキをもう一人知ってんだよ。もし名前まで同じだったら、二度とお前ぇとは口きかねぇ。
藤堂 平助です!藤堂平助。近藤先生に気に入ってもらえりゃ、ここに置いてもらいてぇと思ってんで、口きかねぇなんて言わねぇで下さいよ。
土方 通いじゃねぇのかよ?深川の伊東って所に身ぃ置いてるって、さっき敬助兄ぃが…
藤堂 …ちょっと環境を変えようかと思って…伊東さんにゃ、もう断りを入れてますから。
土方 …ま、いろいろあらぁな…人それぞれ。
藤堂 …。
土方 ここは頭の悪いのばっかだから、余計な事ぁ考えねぇですむんじゃねぇか?
藤堂 ありがとうございます!褒美を取らせようぞ。
土方 おお…今度その喋り方したら、ぶん殴るから。
藤堂 はい!!

 そこへ、沖田がオヒツを抱えて走って来る。それを追って来る、原田と井上。

沖田 もぐもぐ…(手で食ってる)
原田 こりゃぁ!お前はもう散々食ったじゃろうが。それ、寄越せ!
井上 司坊、もうちょっともらえるか?わし、もうちょっとだけ欲しいんだな…。
沖田 もぐもぐ…。
原田 おい、寄越せぇ!!(オヒツを奪う)
井上 おい、原田!わしにもちょっとくれ。もうちょっとでいいから!
原田 …空じゃぁ!何で全部食うんなら!
沖田 ああ、お腹一杯になった。さぁ、稽古だ。あ、歳さんだ。相手してあげましょうか?
藤堂 …。
土方 ったく…てめぇら、客が来てんだろ?もうちょっと品良く出来ねぇのかよ?
井上 客?
原田 誰なら?そのチビ助は。
藤堂 お…お名前をお聞かせ願いたく候!!
原田 は?原田じゃ。
藤堂 下がれ、下郎!
原田 何じゃと!?
井上 わしは井上源三郎。皆から、源さんって呼ばれてるよ。

 藤堂、挨拶する井上に構わず、沖田に話しかける。

藤堂 某、藤堂平助と申す者。一目で恋に落ちもうした!是非、お名前をお聞かせ頂きたい!!
沖田 はぁ!?
土方 ぷっ…くっ…ははは…こいつぁ、いいや!
沖田 歳さん!!
藤堂 何がおかしい!?
土方 いや、ごめんごめん。
原田 何じゃ…衆道ぞな?
井上 いかん!いかんぞ、司坊!一時の気の迷いで、そのような…わしゃ、お前の姉さんに合わす顔がなくなる!
沖田 何バカな事言ってんですか、源さん。やめて下さいよ。
藤堂 突然の申し出、ご迷惑とは存じております。しかしそなたのその飾らぬ美しさに心を奪われてしまいました。某、生まれてこの方そのような女性に出会った事はありもしません。どうか…
沖田  藤堂さんとやら!
藤堂 何か?
沖田…私は男です。
藤堂 !?
土方 うひゃひゃひゃ…ガビーン!
原田 ほわっほわっほわっほわ…
井上 ぽわわわ~ん!
藤堂 …(ガックリ)
沖田 バカにするな!!
土方 …。
原田 …。
井上 …。
沖田 …失礼します!
藤堂 …。
原田 …偉い剣幕じゃったのう…。
井上 司坊は昔から女子扱いされるのを嫌っていたからなぁ…見た目がああだから、どうしても…
土方 見た目だけじゃねぇ。あいつぁ、体全部女なんだよ。何でだか分かんねぇけど…。
藤堂 …。
原田 何じゃ?ほんならやっぱし女子か、あいつ?
井上 んな、バカな…女子があんなに強ぇわけねぇよ。
土方 男のくせに女の体で生まれて来たんだとよ。
藤堂 そんな事があるはずないだろう!?
土方 おお…勝手に入って来るんじゃねぇよ、ホモ太郎侍。
藤堂 何だと!?
井上 どういう事だよ、歳ちゃん!んな話、俺ぁ司坊の身内からも聞いた事ねぇぞ?
土方 ったりめぇだよ…んなの聞かされても、誰も信用しちゃくれねぇだろ。ただ、そのせいであいつは白河藩士の子なのに、藩士になれなかった…強くなって…武士より強ぇ侍になって、見返してやるんだっつって泣いてたよ…あの涙は女のそれじゃねぇ。男が流す意地の涙よ。
藤堂 …。
井上 同じなんだな、わしらと…。
土方 ああ…。
井上 いくら将軍家の為、剣の腕を磨いてても…将軍様の一大事には、いの一番に駆けつけるっつっても…わしらが百姓の身分だって事ぁ決して変わらねぇもんな…武士になる事は出来ねぇ…。
土方 …。
原田 わしも同じじゃ。
井上 何だよ、左之助…百姓の倅か?
原田 いや…わしの家は松山藩の中間じゃが、その親父様がほんまの親父様かどうか分からんのじゃ。
藤堂 …どういう事です?
原田 お袋がまだ嫁ぐ前…松山藩の女中をしとった時に、殿様の御用人に手ぇつけられて、わしを孕んだらしいんじゃ。
井上 原田を孕んだんだな?
原田 おお、やかましい。
藤堂 …らしいとは?
原田 わしが生まれたんは嫁いだ後なんじゃが、どうにもわしがその御用人にそっくりらしゅうての。親父様にも疎まがられるし、周りの人間も変なもん見る目で見やがる。嫌な噂流す輩もようけおったし…荒れっぱなしじゃ、わしゃ。腹ん中で何べんも思うたぞな。何が違うんなら?そういう境遇に生まれただけじゃないか!いうて…で、そがな反骨心が顔や態度に出とったんじゃろうの。大人にまでしょっちゅう苛められて小突き回されちょったわ。わしの周りにおった大人は皆武家の人間じゃ。それがたかがそがいなしょうもない理由で、子供のわしをバカにしやがる。小突きやがる…。
土方 武士に生まれりゃ、どんな野郎でも武士名乗れるからな。特に今の武士なんざ、格好だけ刀二本差してりゃ、どいつもこいつも偉そうに振る舞い放題だよ。
原田 そがなもんは武士じゃないぞな!わしゃずーっと見とけ見とけ!立派な侍になって見返しちゃる!って、思うちょった。じゃけ、沖田の気持ちもよう分かるぞな。
藤堂 …俺もだ…。
井上 衆道か?
原田 イチモツが好きな気持ちはわしらにゃ分からんぞな。
土方 侍っつってもホモ太郎侍だもんな、てめぇは。
藤堂 うるせぇ!
原田 最初は痛いんじゃろ?
藤堂 知らねぇよ!何で俺の時ゃ聞いてくれないんだよ!?
井上 何だよ?言いてぇ事があんのか?
藤堂 …別に言いてぇわけじゃないけど…あんたらはまだいいじゃないですか。俺なんか、その身分すらない。
原田 何なら、そりゃ?
土方 …。
藤堂 俺は津藩・藩主の妾に出来た子…母は俺を産み落としてすぐ亡くなられた。誰からも引き取ってもらえず、必死で生きて来た。ただそれだけだ。何も…誰からも認めてもらえない。相手にもされない。ただ一人…今日まで籍を置かしてもらってた道場主の伊東さんを除いては…俺は侍になり、武名を天下に轟かせたい!!そうすればやっと生まれた事に意味がある!
井上 …俺達ゃ皆同じだな…皆悔しい思いして…俺達ゃ何で生きてんだろう…そんな思いまでして…。
近藤 てめぇの武士道の為だろう!

 と、入って来る、近藤と山南。

藤堂 !?
土方 勝っちゃん…!
山南 すまないねぇ…聞いちまったよ。
井上 何だよ…いたんですか?照れくせぇ…。
近藤 道の途中でほっぽり出して腹切るなんざ、一番楽な事だって分かってるから…わざわざ、んな思いしてまで終点まで行こうとしてんだろ?真っ直ぐな一本道の。
原田 生…すなわち、武士道!!おぉぉ…たまらんぞな!!
土方 …勝っちゃんらしいな。
近藤 藤堂平助っつったか?
藤堂 はい!
近藤 司と立ち合ってみろよ。うちじゃあいつが一番強ぇ。
山南 いるんだろ?司…。

 山南の声に、木刀を持って現れる、沖田。

沖田 はい。

 沖田、藤堂に木刀を渡す。

藤堂 …。
沖田 勝ちますよ、先生。
近藤 ったりめぇだ…平助!
藤堂 はい…、
近藤 司が勝ったら、てめぇはうちが預かる。文句ねぇな?
藤堂 ふふ…はい!
土方 へっ…また人入れんのかよ。
井上 食い扶持が減ってかなわねぇや。
山南 本気でやれよ、藤堂君!
原田 ここにおりたいからゆうて、わざと負けちゃいかんぞな。
藤堂 舐めないで下さい。近藤さん、俺が勝っても好きにさせてもらいます。
山南 礼!

 沖田・藤堂、礼をし構える。

山南 始め!
沖田 たぁ!!
藤堂 えやぁ!!

 二人、同時に動く。「カカン!」幾度も触れ合う、剣先。そして沖田、下段から藤堂の剣を跳ね上げ、龍尾の…いや、三段突き…崩れ落ちる藤堂。崩れながらも必死で突きを放つ、藤堂。それを寸でて止める、沖田。そのまま前のめりに倒れる、藤堂。

山南 一本!
沖田 …(礼をする)
藤堂 …(同じように黙って礼をする)
近藤 平助!
藤堂 (座を正す)突然に参上致しました失礼の段、平にお許し下さいますよう…是非、今後共稽古をつけて戴きとうございます!!
近藤 おう。
土方 ったく…面倒くせぇのが、また一人だよ…。
沖田 …よろしく。沖田司です…。
藤堂 ああ…お前、強いな。
沖田 へへへ…。
原田 うおぉぉ!血がたぎってかなわんぞな!誰でもええ!わしと立ち合え!!(と、素振り)
井上 わしだ!!わしがやる!!(と、立ち上がる)
近藤 山南さんもどうだよ?たまには。
山南 そうですねぇ。

 山南、井上の元へ。そして礼をし、声を荒げて稽古を始める。

沖田 平助!もう一本行くぞ。
藤堂 望む所だ!
近藤 歳はよ?
土方 俺ぁ見てるよ。
原田 何じゃぁ!?誰かかかって来んかぁ!!
近藤 じゃ、俺が行く…(と、立ち上がる)
原田 おお!?近藤さんか?ええぞな!!
近藤 おう!!
原田 おりゃぁ!!

 皆、それぞれ稽古を始める。試衛館名物、荒稽古だ。そこへ戻って来る、永倉と斎藤。永倉、すぐに沖田と藤堂の立ち合いに加わる。その姿を見ている土方と、斎藤。

 ―暗転―

 場面は変わり、とある日の試衛館道場。洗い桶を持って洗濯に向かう、藤堂。そこへ走り込んで来る、沖田。

藤堂 あ!おい、司!!
沖田 よう、平助!奥方様の手伝いか?立派、立派。
藤堂 何だよ、お前もう稽古済ませたのか?洗濯終わるまで待っててくれっつって言っただろ?
沖田 ご飯だよ。稽古の後はご飯が美味い!ご飯、行って来まーす!
藤堂 おい!手伝ってくれても…

 と、そこを走り抜ける、斎藤。

斎藤 お先に。
沖田 あ、斎藤さん!!あの人意外と食べるんだよ。急がなきゃ…じゃぁな!ご飯行って来まーす!(と、走り去る)
藤堂 何だよ!!…食うか剣振るしかねぇのかよ、ここの人達は…

 と、続けて原田が走り抜ける。

原田 こりゃ、待てぇ!!
藤堂 !?…。

 続けてやって来るのは、永倉。その後ろを、山南が来る。

藤堂 あ、永倉さん!
永倉 おう、どけどけ!!
山南 おい、藤堂!永倉、捕まえてくれ!!
藤堂 え?無茶言わねぇで下さいよ。俺は洗濯物山ほど…
永倉 俺だって腹減ってんだ。おい、小僧!随分ここに慣れたみてぇだが、てめぇの食い扶持はてめぇで何とかしねぇと、どんどん痩せて行くぜ。以上!先輩からの忠告だ。これもよろしく!

 永倉、藤堂の持ってる桶に稽古着を乗せ、去る。

藤堂 うわぁ!くせぇな!!
山南 随分ここにも慣れたみたいだねぇ。洗濯なんて奥方のご機嫌を伺うような真似までするようになって。
藤堂 ご機嫌取りだなんて、失礼な。俺は綺麗好きなだけでさ!それに住まわしてもらってんだから、これくれぇ当然の事でしょうよ。奥方は身重なんだから。
山南 じゃ、こいつも頼むよ。

 と、更に洗濯物を乗せる。

藤堂 ちょっと、山南さん!!
山南 試衛館名物、飯の奪い合いだ。のんびりしてるとまた今日も飯抜きだよ!(と、去る)
藤堂 …何でぇ、ちくしょぉ!どいつもこいつも格下扱いしやがって…俺は飯より修行…(腹が鳴る)はぁ…今に見ておれよ…!

 一人残された藤堂。そこへ現れる、長州藩士・鈴木泰之進。

鈴木 やぁ、藤堂君!お一人ですか?
藤堂 おお…あんたは練兵館の…!
鈴木 はい、鈴木です。一丁、稽古つけてもらおうかと…、
藤堂 皆今飯食ってるよ。俺でよけりゃぁ、立ち合うぜ!
鈴木 沖田先生は…?
藤堂 …どいつもこいつも…俺じゃ不足だってのか!?
鈴木 いや、そうは言うとらんのですが…確か藤堂君、こちらに住み込む際、沖田先生と立ち合ってますよね?
藤堂 ああ、そうですよ。ガッツリ一本取られましたよ、俺は。ただお宅と違って紙一重の差だったけどねぇ!
鈴木 で、その借りを返すまでここを離れんと決めたと…。
藤堂 あんただって負けてたじゃねぇか!先週司に三段突き食らわされて!
鈴木 藤堂君は二段じゃろ?僕は三段目の突きで仕留められたが、君は軽く二段目で仕留める事が出来たという事じゃ。
藤堂 軽くじゃねぇよ!!何言っちゃってんの?ったく…長州の人間は嫌味な奴が多くていけねぇ。いいか?突きってのはそもそも一撃必殺であって…
鈴木 あの、はい…北辰一刀流の屁理屈話を聞きに、ここに来たわけじゃなくて…
藤堂 屁理屈話って!!

 そこへまたもオヒツを抱えて走り込んで来る、沖田。その後を追って来る、原田・井上・近藤・山南・土方・永倉・斉藤。

原田 こりゃ!待て、司ー!!
鈴木 おお!!
藤堂 おい、まだ話は…
鈴木 また今度って事で。
沖田 もう駄目ですよ!原田さんと若先生はたらふく食ったでしょうが!後は私が!
原田 まだご馳走様しとらんぞなー!!
井上 おい、司坊!わしゃまだ全然食ってねぇんだ、実は。左之助と先生がこれっぽっちも分けてくんなくて…。
近藤 何言ってやがる、食ってたよ!司!それ寄越せ。持って逃げんのは反則だろ!!
原田 見ちょれよ!!(と、槍を取りに行く)
山南 なぁ…少しでいいんだよ、司!あたしゃ、一杯もらえりゃ構わねぇんでさ。
土方 バカヤロウ!てめえ…後からのっそり食いに来といて、何のつもりだ!?ほら!大好きな歳さんに飯よそいやがれ。おい!!

 永倉、オヒツを取ろうとする。が、沖田。全然放さない。

沖田 むぐむぐむぐ。
鈴木 楽しい道場ですね、ここは!
藤堂 あん?ああ、そうですね。
永倉 おい、一ちゃん!木刀持って来い、木刀!
斉藤 …(黙って頷き、取りに行く)

 入れ替わりに原田、槍を持って戻って来る。

原田 こなくそー!!(槍を振り回す)
井上 うわぁ!!
近藤 危ねぇな、左之!バカヤロウ!
土方 痛ぇな…足踏んだよ、源さん!
井上 うわぁ…ご免、歳ちゃん。
土方 うん?(泰之進に気付く)
原田 がぁ!!
山南 おや!
鈴木 どうも、お邪魔しております。
土方 何だ、てめぇ…また来たのか?

 その頃、斎藤が木刀を持って戻って来ている。

永倉 回れ、回れ、一ちゃん!そっちから突け!
斉藤 (沖田に突き)ふんっ!ふんっ!

 ひょいひょいとよける、沖田。鈴木の前まで行き、オヒツを近藤に渡す。

沖田 はい、どうぞ!

 近藤、オヒツを持って逃げる。それに群がる、原田・斉藤・永倉・井上。

沖田 やぁ、泰之進さん!来てたんですか?
鈴木 ええ、沖田先生。今日もよろしくお願いします!

 挨拶と同時に木刀を取りに行く、沖田。

原田 空じゃぁ!!
近藤 司!!てめぇ、全部食っちまってんじゃねぇか!!
斉藤 …。
近藤 うん?泰之進か?
鈴木 はい!おはようございます、近藤先生。今日は朝から寄らせてもらいました。相変わらず楽しそうで。
近藤 いや…恥ずかしい所を見せちまって、すまねぇな。ま、上がれよ…(と、奥に袴をはきに戻って行く)
土方 飯ならねぇぞ…(と、去る)
鈴木 はい…。
井上 ムグムグ…(オヒツにへばりついた飯を食ってる)
永倉 みっともねぇ真似してんじゃねぇよ、源さん!
藤堂 何だよ、司の奴…全部食っちまったのか?
原田 腹が減って死にそうぞな…。
永倉 てめぇは先に少し食ってたんだろ?俺達なんか…なぁ、一ちゃん?
斉藤 …。
藤堂 仕方ねぇ、しるこでも食いに行くか!
山南 いいねぇ。あたしも付き合うかねぇ。(奥へ呼び掛ける)ちょっくら出かけて来るよ、勇さーん!
近藤 (声)おう!
山南 すまないねぇ、鈴木君。腹ペコペコで…戻って来たら相手するよ。
鈴木 いやぁ、お気遣いなく。

 山南・藤堂、出て行く。入れ違いに木刀を持って戻って来る、沖田。

沖田 山南さんなんかじゃつまんないですもんね?へへへ…。
原田 のう、井上氏…近所に丸々太った鶏を飼うちょる家を見つけたんじゃが…2,3羽拝借しちゃまずいかのう?
井上 当たり前ぇだろ。泥棒だよ、それじゃ!
原田 絶対にバレん自信があるんじゃがのう…。
斉藤 …(頷く)
井上 駄目だよ、バカヤロウ。うちの看板に関わるよ。人様の家のもんを勝手に…なぁ、先生?(と、奥へ)

 井上の呼び掛けに、戻って来る近藤。

近藤 お前ぇらも俺ん家のもん勝手に食ってるよ。
永倉 よぉ…あんただったのかい?先週練兵館から来た道場破りってのは。
鈴木 参ったのう…道場破りなんかじゃありませんよ。ご無沙汰しております、永倉さん!
井上 顔見知りか?あ、そっか!永倉は練兵館にいた事があんだもんな。
永倉 ええ。長州藩士の鈴木泰之進…で、よかったっけ?
鈴木 はい。
斉藤 長州…?
原田 長州って、長州ぞな?
近藤 おお、お前達ちょうど出かけてたもんな。なかなか礼儀の出来たいい男だぜ。なぁ?
鈴木 ありがとうございます!
沖田 剣の腕前もなかなかでしたよ。
近藤 司に立ち合いを求めて来てな。練兵館にまでその名が轟いてるたぁ、司もたいしたもんだよ。
井上 全くだ。
原田 じゃ、あれかの?お前も流行りの尊王攘夷じゃ何じゃと…
鈴木 鈴木泰之進…僕の名じゃ。君達は?
原田 カチーン。
沖田 …どうしたんですか、皆?んな、おっかねぇ顔して…。
近藤 おお、こりゃすまねぇな。こいつらうちの客分で、原田佐之助に斉藤一ってんだ。
斉藤 斉藤一と申す。明石で一刀流を少々…。
原田 …。
鈴木 …原田君は槍を使うのか?流派は…
原田 さぁの。原田流じゃ!(と、出て行く)
沖田 あ、原田さん!
井上 左之助!!何だよ、その態度は!
鈴木 …。
斉藤 失礼する…(続いて、去る)
井上 おい!斉藤まで…
近藤 まぁ…口や態度は悪ぃが、根はいいのが揃ってんのが試衛館だ。
井上 先週お前が来た日の司坊との立ち合いを見てりゃ、楽だったんだがな…あいつら、剣の腕でしか人を図れねぇもんでな。ちょうど吉原でこれと、な…。
永倉 余計な事言わねぇでいいよ、源さん。
鈴木 異国の敵が攻め入ろうとしとるこの天下国家の大事な時期に、女遊びにうつつを抜かしとるなんぞ、あまり感心出来ませんね…永倉さん。
永倉 言うじゃねぇか…その騒ぎに乗じて三百年も昔に関ヶ原で負けた恨みつらみ持ち出して、何やら京で悪巧みしてるあんたら長州の人間は、真っ当だと言えんのかい?
近藤 新八!!
永倉 …。
近藤 うちの道場の中にゃ関係ねぇ話だよ。
永倉 すいません…ちょっと出て来ます。
鈴木 …。
沖田 さぁ、泰之進さん!立ち合え、立ち合え!
井上 どこ行くんだよ?朝っぱらから。
永倉 ああ、悪ぃな。ちょっくら吉原まで女買いにな。(出て行く)
鈴木 …。(永倉を気にしてる)
井上 全く、もう…!
沖田 …。
近藤 泰之進!お前ぇも、んな面しねぇでよ。
鈴木 !
近藤 司と稽古しに来たんだろ?見ろ!お前ぇがほったらかしにするから、ひねくれちまったよ。
沖田 …(奥で丸まってる)
鈴木 あ!!すいません、沖田先生!
沖田 ふん!
鈴木 あ…、
近藤 なぁ、泰之進…思想だ何だってのは、人それぞれあんだろうよ。ただうちに顔出すんなら、コソコソせずに向き合って、己の剣で語り合えよ。俺達ゃ剣客なんだから。
井上 ああ、その通りだ!
鈴木 申し訳ありませんでした!
近藤 いいって事よ。じゃ、俺はちょっくら奥で歳と将棋指してるから、司との立ち合いに飽きたら呼んでくれよ。おい!いつまでも転がってんじゃねぇよ、司!とっとと相手してやれ。
沖田 よーっし!ケッチョンケッチョンにしてやろう!!
鈴木 ありがとうございます!
井上 ケチョンケチョンはありがたくねぇぞ、泰之進。
近藤 行こうぜ、源さん。
井上 へ?わし、ついてなくていいのか?
近藤 大丈夫だろ。
沖田 ええ。邪魔になるだけですよ。
井上 つれねぇな、司坊。じゃ、泰之進…気にするなよ。

 近藤・井上、行こうとする。それを呼び止める、鈴木。

鈴木 あ、あの、近藤先生!!
近藤 何だい?
鈴木 …やはり一度出直して来ます。
沖田 えー!?
井上 何だよ、やっぱり気にしてんじゃねぇか…ったく、あいつら…。
鈴木 いえ…ま、気にしてないと言えば嘘になりますが…この程度の事で動揺し心が乱されてしまった己に腹が立ってるというか…このような気持ちのまま沖田先生と剣を交えるのも失礼じゃし…。
近藤 そうかい?
沖田 残念だな。せっかくいい稽古相手が見つかったと思ったのに…。
井上 そそ!司坊、加減を知らねぇからな。やっといい当て馬が出来たと思ったのに。
沖田 しょうがない。源さんをボコボコにして、憂さを晴らそう!
井上 ほらほら!な?
近藤 はははは…!
鈴木 本当は最後の近藤先生の仰られた言葉が一番効いたんじゃが…剣客はコソコソせず向き合って堂々と語れと…まさしくその通りじゃ!次来る時はもっと堂々と皆さんの前で、剣で…ええ、出来るものなら沖田先生に一本入れて、腕を認めてもらった上で仲間に入れて頂ければと…。
近藤 おう!
井上 言われてるぞ、司坊!
沖田 ええ、出来るものなら。この先私から一本取るのは容易くありませんぜ。私はまた一段上がりましたから!
鈴木 何じゃと!?
沖田 まだまだ登り続けます。安心してて下さい、近藤先生!!
井上 いい弟子持ったな、勝っちゃ…近藤先生!
近藤 ああ、負けてらんねぇ。
鈴木 勘弁してほしいもんじゃ。これ以上手強くなられたら、さっきのお三方に認めてもらうのに手間がかかってしょうがない。
近藤 ははは…。

 そこへ入って来る、近藤の妻・ツネ。

ツネ 失礼します。
近藤 おお、何だい?
鈴木 あ、それじゃ私はこの辺で…。
近藤 おう、またな。
ツネ あら、お帰りになるのですか?
鈴木 はい、失礼致します。沖田先生、また!
沖田 ええ。
井上 気をつけてな。何があるか分からねぇから…近頃じゃ、辻斬りなんてもんまで流行ってるらしいじゃねぇか。一体ぇどうなっちまうんだろうな、世の中ってやつぁ…。
ツネ ええ、全くですわ!
鈴木 平気ですよ。剣で分からせてやりますから。失礼します!(と、去る)
ツネ 残念ね。うちでは珍しくまともなお侍様がいるところを紹介出来たのに…。
井上 まぁ、まともなのはわしと山南くらいだもんな。
沖田 …。
近藤 誰か来てんのかい?
ツネ ええ、ミツさんが。
沖田 姉様が!?
井上 おお、ミッちゃん?
近藤 何だよ、上がってもらえよ。
ツネ よろしいのですか?道場に。
井上 構うもんかよ、こんなボロ道場。
近藤 おい…いい加減にしとけよ、あんた!
井上 すまね…すいません。
沖田 ふふ…久しぶりだなぁ!

 ツネ、玄関口に呼びに行く。

ツネ どうぞ、
ミツ (来る)ご無沙汰しております、近藤先生。源三郎様。
近藤 はい。
井上 おお、ミッちゃんも!
沖田 お久しぶりです、姉様!兄様は元気にしてますか?(ペタリ座り込む)
ミツ ええ、司も元気そうで何よりです。
沖田 へへへ…今日は何をしにいらしたんですか?
ミツ お母様の薬をもらいに近くまで来たものですから、ちょっと顔を見せて行こうと思って。皆様方にご迷惑をおかけしておりませんか?司。
沖田 まぁた…子供扱いしねぇで下さいよ。迷惑をかけてるのは、ここの人達ですよ。ねぇ、先生?
ミツ これ、はしたない!
ツネ まぁまぁ…。
近藤 ま、少しずつですが立派な男に成長して行っております。心配なさらず長い目で見てやって下さい。
ミツ 本当にお世話になります。司、近藤先生や歳様・源三郎様を兄と思い、師と思い、仰る事をよく聞いてお仕えするのですよ!
沖田 はい!
近藤 じゃ、源さん!俺達は…
井上 そうだな。
近藤 ミツさん、ゆっくりしてって下さい。
沖田 あ!先生、
近藤 ああ、一段上がったんだろ?いずれもう一本!(と、行く)
沖田 はい!!
井上 …(近藤に続き、行く)
ツネ ねぇ、司ちゃん!せっかく江戸までミツさんがお越しになってるんだし、三人であんみつでも食べに行きましょうよ!
沖田 え、本当ですか?
ミツ ええ。近藤先生も仰ってた通り、少しは立派になったご褒美におごって差し上げます。
沖田 嬉しいな、あんみつ。
ツネ ささ!着替えて着替えて。
沖田 はい!(すっ飛んで行く)
ミツ …(沖田の行った方をジッと見ている)
ツネ …何か変な感じですね。道場に女が二人だけでいるというのも…。
ミツ はい…。
ツネ ミツさん、司ちゃんは頑張ってますよ。ここの人達は皆…旦那様も、道場の床板と同じ。稽古に明け暮れて、来る日も来る日も踏みつけられて…でもゆっくりゆっくり艶が出て、黒く重く…汗をかいた分だけ輝いて行く。時間はかかるけど、それは本物の証です。
ミツ …はい。ありがとうございます、奥方様。あの子は…あの子が幸せならば、家督を継げなかった事なぞ…
ツネ ええ!今では沖田司様は立派な男子ですもの。ねぇ、ミツさん…男の方達は堂々とした土台の床板を作ってくれる。私達女は柱となって、家を支えて行きましょう!この道場の柱みたいに、逞しく。
ミツ ええ…!

 ―暗転―

 場面は変わり、江戸のとある神社。たまっているのは、長州藩士の佐野正造・松村進次郎・佐々井半兵衛・高木彦一・福田金時。そして深川で剣術道場を営む伊東大蔵と、その実弟の鈴木三樹三郎の計7名。

三樹 …(酒を飲んでいる)
松村 やっ!とぉ!てやぁ!!(必死に三段突きの練習)
三樹 遅いなぁ…何やってんだよ、あいつは。
伊東 三樹三郎、少し酒を控えぬか。
三樹 なぁに、兄上!この程度、私にとっちゃ水のようなものですよ。それも力士の飲む力水でさ。飲めば飲む程、力が湧いて来る!
高木 …俺にも少し分けてくれんかの?喉が渇いていかん。
福田 わしにも!…いいですかのう?
三樹 おう!飲め、飲め!
佐野 福田!彦一!やめとれ…。
高木 …。
福田 …。
佐々井 …進次郎、さっきから何をしよるんじゃ?何度も何度も三本突いて。そんなやり方じゃと、一本もまともに当たらんぞ。
松村 いや、泰之進さんが言うとったから、どんなもんかと思うて…。
高木 おお!電光石火の如く、一度の挙動で三本の突きを繰り出す男に出会うたという、あの話か?
福田 ははは…それのどこが電光石火じゃ!
佐々井 何じゃ、それは?そんな男がいるんか?わしゃ、聞いとらんぞ。
高木 物凄い男じゃと、大騒ぎしとったぞ。
佐野 ありゃぁ、泰之進の作り話じゃ。どこぞの道場で負けて来た言い訳に、大層な男にやられたと吹いて回っとるだけじゃろう。
高木 じゃが、今日もそこに顔を出しとるんじゃろ?
松村 泰之進さんは、そがな嘘つきませんよ。私も会ってみたいな!
三樹 こいつぁ驚きだなぁ!どうであれ…練兵館の人間が、名もない道場の誰とも知れん者に負けたというのは本当なんだろう?大丈夫なのかい?その程度の腕前で我らの仲間に加わるなんざ。
松村 !(殺気立つ)
三樹 何だい、坊や?やるのかい?さっきの突きで。ははは…!
伊東 いい加減にしないか、三樹三郎。我々が探しているのは、共に夷人を打ち払い、命を賭してこの国を建て直そうと考える同志だ。お前がそのような態度だと仲間なぞ出来ん。邪魔をするのならば、いくら実の弟といえどもお前を外さねばならんぞ。
三樹 …すいません。
福田 泰之進は弱くないですよ。
三樹 !
松村 福さん!
高木 そうじゃ。俺達の知っとる中じゃ、先輩方に次いで一番強いじゃろう。国を想う熱い魂も持っとる。初めて会うた君に馬鹿にされる筋合いはない。
佐野 ま、一番強いかどうかは分からんが…あんたよりは強いじゃろうの。我が練兵館ものう!
三樹 へっ…抜かしやがれ…(酒をあおる)
佐々井 …伊東先生、今日会う事になっとる男というのは、どういったお知り合いで?
伊東 ああ…彼が来てから話そうと思ったんだが…私の同門に清河君という男がいる。皆、名は聞いた事があるだろう?
佐野 清河!?…さん…?
高木 あの清河八郎先生の事ですか!?
伊東 ああ。
松村 有名人なんですか、そのお方は?
福田 知らんのか、進次郎!?よぉ、そんなで尊王攘夷の志士じゃと言えたもんじゃ!
松村 いや…まだ私は来て間もないし、教わっとらん事がようけあるから…
佐々井 脱藩してまで日本中を渡り歩き、尊王攘夷の志を世に広めようとなさっとるお方じゃ。腕も口も一流の切れ者じゃと聞いております。
福田 倒幕の先駆けじゃ。
佐野 桂先生はあまり好いておらんようじゃがの。口や頭が回りすぎて、行動が過激じゃと言うとった。
佐々井 つい最近京で起きた、薩摩の攘夷志士が殺し合うた件も、その方が発端になっとると…。
伊東 ああ…いろいろと言われてる事も多いが、それだけ他人の目につく場に出向いている証拠だ。その行動力は馬鹿に出来ん。その御仁が今、江戸に戻って来られているらしい。
高木 …それでは、今日会う男というのは…!
伊東 いや、彼じゃない。が、彼の同志だと言っていた。
佐々井 同士と申されますと?

 と、その時、三樹が人の気配に気付く。

三樹 !…兄上、誰か来る!
福田 隠れよう!!

 長州勢の福田・高木・松村が急ぎ隠れる。が、佐野は動かない。共に隠れようとしていた、佐々井、佐野の態度に声をかける。

佐野 …。
佐々井 何をしとる、正造!!
佐野 隠れにゃならん事はまだしとらん。
佐々井 何か起きてからじゃ遅い。藩に迷惑がかかるじゃろうが!
佐野 長州の人間がいつでも隠れ回っとると思うたら、大間違いじゃ!
佐々井 今そんな事は言うとらんじゃろうが!

 と、そこにやって来たのは、おしるこ帰りの山南と藤堂。

藤堂 あら?伊東先生に、三樹さんじゃねぇですか。お久しぶりです。
三樹 何だ、平助か。驚かすんじゃねぇよ。
藤堂 驚いたのはこっちでさ。人がおしるこ食ってまったり散歩してたら、何やら妙な雰囲気の浪士が集まってんのが見えたから…
伊東 元気にしてたか、藤堂?最近顔を出さないじゃないか。
藤堂 ええ、すいません…。
山南 あなたが、藤堂が以前通っていたという深川の伊東先生ですか?お名前はかねがね。
伊東 伊東大蔵と申します。こいつは実弟の三樹三郎。彼らはうちの門人です。
山南 こりゃ丁寧に。あたしは山南と申します。以前はお玉が池で伊東先生と同門の一刀流を学んでおりましたが、現在は藤堂と小日向にある試衛館という道場で、天然理心流を学んでおります。以後、お見知りおきを。
藤堂 はい…硬いねぇ、相変わらず…山南さんは。
山南 大人は当たり前の事だよ。
三樹 天然理心流なんか聞いた事もねぇよ。腕の立つ奴ぁいんのかい?その…試練館?
山南 試衛館道場です。
三樹 ああ…そこには。
藤堂 ええ!強いですよ、皆。真剣を持たせりゃ、江戸随一でしょう。この間も練兵館から腕試しに来た男を、コテンパンにしてやった所でさ!
佐野 なっ!?
山南 おいおい…お前ぇさんじゃないだろ?やったのは、司だ。
伊東 ほう、練兵館の?
三樹 そこでもやられてんのか?練兵館。

 と、飛び出して来る、隠れていた三人。

藤堂 !?…何だ、あんたら?
佐々井 その男は、鈴木…鈴木泰之進という名じゃなかったですか?
山南 おや、知ってのかい?って事ぁ…
佐々井 はい。私を含め、彼らも皆同じ長州藩士で、練兵館に席をおいております。塾頭の桂先生より見聞を広めよと、時折伊東先生の道場にも顔を出させて頂いている次第で…。
山南 そうかい。こいつぁ偶然だ。
藤堂 それにしてもこんな人気のねぇ神社で、何をしてたんですかい?こんな大勢集まって。
伊東 散歩だよ。天気がよろしいので、外で日に当たりながら延々時勢を説いておりました。
山南 伊東先生は、この乱世…どう読まれる?
伊東 そうですね。お国の為とはよく聞くが、国とは何であろうか?幕府を指す人もいれば天朝方を指す人もいる。ご公儀は天朝様の命を受け国を治めるが、一口にご公儀と申されても、それは徳川家の事なのか…幕府を動かすその組織幕閣連なのか…?
藤堂 む、難しいな…。
伊東 自分の国の問題だ。剣術に拘らず、少しは勉強しろよ?藤堂。
藤堂 はぁ…。
山南 つまりは尊王の心は全ての人間が持っている。後はその政治を行う側を倒すかどうか、行き着く所まで行くと…。
伊東 ええ。今はまだ自分達が何を考えているのかすら知らない者が多すぎる。無知の輩ほど騒ぎ立て、事を大きくし、その責任の重さも知らないままこの世を去る。私が動くのは、もう少し世が形を成してから…かな。
山南 こいつは手厳しい…。
藤堂 じゃ、俺達はそろそろ…
山南 ああ。
伊東 藤堂!山南君も…かつて一刀流を学んだ者ならば、もう耳にしてるんじゃないのかね?同門の清河君が江戸に戻って来ていると。
藤堂 さぁ…俺は元々人付き合いがいい方じゃねぇんで。ましてやその清河八郎さんってのは、あまりいい噂を聞いた事がねぇ…仮に何かあったとしても、遠慮しときますよ。
伊東 …今度は幕府の力を借りて京に登り、再び乱世に一石投じようとしているらしい。
山南 清河さんは熱心な尊王の志士と伺ってますが…その方が幕府の力を借りて、一体何を?
伊東 さてね。せっかちな方ですから。一体何が見えているのか、我々には…。
山南 近々お玉が池の方に顔出してみますよ。それじゃ、長話失礼した。

 山南・藤堂、去って行く。

佐々井 …。
佐野 …。
高木 今の方達は…?
三樹 小さい方は、伊勢の藤堂侯のご落胤だ。
佐々井 藩主の!?
松村 え?ご落胤って事は、つまり…
三樹 殿の妾の子らしいぜ。ははは!
伊東 三樹三郎、くだらな事で他人を見下すのはよせ。己の価値を知らす事になるぞ。
三樹 どうって事ありませんよ。
佐野 …冗談に決まっとる…。
福田 伊東先生…先程、清川先生が幕府の力を通じて、何やら事を成そうとしておられると話してましたが…今日来られる方というのは、その同志という事でしょうか?
佐々井 更に言えば、私共もその力になって働けと?
高木 それは無理じゃ。過激な行動は桂さんに止められとる。京に登るなんぞ言うたら、それこそ…
佐野 内容によるかのう。京は尊皇の志士のたまり場じゃ。京と聞いただけで胸が躍る。じゃが、幕府の手先になるのはご免じゃ!

 と、どこにいて何を聞いていたのか…ご神木をすり抜け現れる、斉藤一。

斉藤 内容は京の町の警備だ。
福田 だ、誰じゃ!?

 いきり立つ長州勢。それを制し、斎藤に話しかける伊東。

伊東 やっと来たか。
三樹 遅ぇんだよ…もう酔っ払っちまったぜ。
斉藤 お主達は?
伊東 ああ、私の…

 答えようとする伊東を遮って、自ら名乗りを上げる長州勢。

佐野 長州藩士、佐野正造じゃ!
佐々井 !?
福田 同じく長州藩士の福田金時と申す!
松村 松村進次郎!!
高木 やめんか!無礼じゃぞ!!
佐々井 …私は佐々井半兵衛と申す。縁あって、伊東先生の道場に顔を出しているうちに話を頂いた。詳しく話してもらえるかの?
斉藤 長州と言えば練兵館か。
佐野 当然じゃ。腕なら皆自信がある。
斉藤 …ならばその腕をふるい、国の為、京で暴れる不逞の浪士共を駆除して頂きたい。
佐野 何を!?
斉藤 京にて悪戯に世間を騒がす尊皇の浪士共を斬り伏せ、乱れた世の中を正す。例えそれがお主らと同じ、長州の人間であっても…。
福田 同士を斬れと!?
松村 …国とは!?
斉藤 !
松村 国とは何でしょう?幕府か!?それとも朝廷を示す言葉か!?
伊東 …。
高木 進次郎、やめぇ!
斉藤 …若いのに、痛い所をつくな。そのような事を口にしてると長生き出来んぞ。
松村 ぐっ…!
伊東 やめなさい!続きは私が聞いておこう。君達にはまだ早すぎたようだ…行こう、斉藤君。
佐々井 伊東先生!!
佐野 止めてみせるぞ、そがな計画!!仲間斬られて、たまるか!!

 と、「スッ」…斎藤の抜いた剣が、佐野の首筋にピタリと吸い付く。

斉藤 殺すぞ…。
佐野 ぐっ…!
福田 何じゃ、こりゃぁ!!(抜刀)
松村 !?(続いて、抜刀)
佐々井 やめぇ、福田!!
高木 そうじゃ!落ち着け!!
伊東 佐々井君…京にいるのは尊皇の志士だけじゃない。何より彼らや、君達の奉るべき帝のおわす所だ。清河君は何を考えておられるのか…?
佐々井 …。
斉藤 さて…今回はなかなか慎重に事を進めているようですから。
伊東 行こうか…。
三樹 地に落ちたもんだよ、練兵館も…。

 斉藤・伊東・三樹、去る。

高木 …大丈夫か?佐野君。
佐野 わしは京に登るぞ。すぐにでも!
高木 何を言うとるんじゃ!桂さんが許すわけないじゃろ。
佐野 そん時ゃ仕方がない…藩を抜ける。
福田 おお!こんな計画止めんと、同志が殺されてしまう。わしも行く!
佐々井 わしも行こう。何となくじゃが…清河八郎の考えとる事が見えたような気がする。やはりあの人は討幕の先駆けじゃ…!
松村 わ、私は…、

 と、そこへやって来る、鈴木泰之進。

鈴木 おう、皆!遅うなってすまんかった。あら?伊東先生は、まだ来とらんのか?
福田 もうとっくにお帰りになったわ。何をしよったんじゃ、泰之進?
鈴木 お世話になっとる道場で、少し長居をしてしもうた。で、何の話じゃった?
佐野 遅いわ、ボケ!わしらは京に登る!この身を火の玉に変え、腐り切った幕府の枯れ木を燃やし尽くしてくれるわ!お前も手伝え!!
福田 そうじゃ!わしらが時代を変える!!
高木 …。
鈴木 おお、皆興奮しとるの。何事じゃ?
松村 私は泰之進さんが行くのなら、喜んでお供しますよ!
佐々井 彦一、桂さんにはわしから話そう。本当はお前も血がたぎって我慢出来んはずじゃ。
高木 そうじゃのう…行くか、京へ!!
福田 おぉよ!!
鈴木 面白そうじゃのう。佐々井、詳しゅう教えてくれるか!

 ―暗転―

 場面は変わって、試衛館。「リーン…リーン…」鈴虫の音。近藤とツネ。傍らにたまこを横にならせ、縁側で月を見ている。

近藤 なぁ、ツネ…今晩は月が随分綺麗に昇ってんな。
ツネ そうですわね。
たまこ おぎゃぁ…おぎゃぁ…。
近藤 おお、泣いた泣いた…(と、抱きかかえる)なぁ、月が綺麗だな?たまこ。まるでお前ぇのようだぜ、まん丸で。
ツネ まぁ、旦那様…そんなだと、親バカだと皆様から笑われますよ。
近藤 いいよな、たまこ?ほら、月が近いぞー!(と、たまこを持ち上げる)
たまこ おぎゃぁ…おぎゃぁ…
ツネ あらあら!嫌でしたねぇ…。
近藤 ああ…すまねぇな…(と、たまこをツネに)
ツネ (たまこを抱き、あやす)はいはい…。
近藤 道場で汗流して、曲りなりにも飯が食えて…夜はこうやってたまことお前ぇの三人で月眺めてる…。
ツネ ええ、旦那様…私は幸せ者ですよ。
近藤 分相応ってやつだな…。
ツネ (たまこを寝かす)…残念でございましたね。講武所の指南役の件…。
近藤 ふっ…幕府の旗本に剣を教える指南役が、百姓生まれってのは身分違いだとよ…。
ツネ …それでも、ツネは…!
近藤 なぁ、ツネ…俺は気弱になってる幕府が見てらんねぇのさ。この動乱に紛れ、尊王攘夷叫びゃ刀振り回しても許されると思ってやがる不逞浪士共に、武家の棟梁たる将軍家が脅かされ…挙げ句の果てにゃ、討幕だなんて抜かしやがる!!
ツネ 旦那様…、
近藤 情けのねぇ話だよ…俺は今日までの平和の礎を築いた大恩ある徳川家を支える為…その為にただひたすらに剣の腕だけを磨いて来た…
ツネ …。
近藤 身分はなくとも武士として、誰にも劣らぬ心技体を磨き抜けば、必ずやその誠は天に通ずると…!
ツネ 存じております。ただ、ツネは…旦那様のお気持ちは重々承知の上、一言申し上げさせて頂いてよろしいでしょうか?
近藤 …。
ツネ ツネは旦那様の笑い顔が何よりも好いております。旦那様が笑顔でたまこを抱きかかえる際、我が子ながら羨ましくも思いもします。女の考えと笑われましょうが、ツネは今の暮らしに満足しております故…。
近藤 ああ、分かってるよ…(たまこの所へ「分相応か…」)

 そこへ走り込んで来る、原田・沖田・藤堂。

原田 逃げるぞなぁ!!
沖田 ははは…!
藤堂 来た来た来た!!

 走って来た三人に、立て続けに踏まれるたまこ。

たまこ ぎゃっ!!
近藤 あっ!
ツネ こらぁ!!

 ツネ、たまこを救出しよとする。その瞬間、着物をまくり上げられて頭の上で縛られた巾着みたいな井上が、下半身丸出しで走り込んで来る。

ツネ きゃー!!
近藤 ツネ!

 近藤、とっさにツネを庇う。たまこ、変な巾着袋に再び踏みつけられる。

たまこ ぐっ…!
井上 誰だぁ!!こんな事したのはー!!
三人 (沖田・藤堂・原田)はははは!
近藤 足!バカヤロウ!!

 近藤、井上をどかす。その間にツネ、たまこを救出。

ツネ たまこ!たまこ!
井上 いてて…はっ!近藤先生!?こりゃ、すまねぇ!!
三人 はははは!
近藤 何やってんだよ、てめぇら!
藤堂 いや…ちょっと源さんに悪戯を…。
近藤 んなもん、見りゃ分かるよ!たまこ踏んでったよ、お前達!!
沖田 あー、たまちゃんだ!可愛いなぁ!
藤堂 本当だ。まだ起きてたのか、たまちゃん。
近藤 起こしたんだよ、お前ぇらが蹴っ飛ばして!
原田 じゃがのう、近藤さん…井上氏も悪いぞな。寝ながらずーっと屁をたれやがる。近くにおるわしらはたまったもんじゃないぞな。
藤堂 俺なんてちょうど顔の前ですぜ?ぷっぷっぷっぷっ…ずーっと…どうなってやがんだ?
井上 すまねぇ…晩飯の芋がまずかったかなぁ?
原田 芋っぺじゃ、芋っぺ。
沖田 ははは!
藤堂 ははは!
近藤 うるせぇ。とにかく大人しく寝てろよ。ほら!部屋に戻れ。
沖田 えー!?せっかくたまちゃんに会ったんだから、ちょっとくれぇ抱っこさせて下さいよ!
ツネ 嫌です!
井上 まぁ…そう言わねぇで、奥方。
原田 赤ん坊の時にいろんな奴の顔を見せとくのは、ええらしいぞな。
近藤 …お前ぇら、自分達がやった事分かってんのか?
藤堂 海よりも深く反省しております!
近藤 ったく…。

 近藤、ツネに目配せ。ツネ、恐る恐る沖田にたまこを渡す。

藤堂 やったぁ!!次は俺だぜ、司!
沖田 可愛いなぁ!
ツネ あ、司ちゃん!もう少し優しく…!
原田 よかったのう、司。
井上 いやな、先生…世間じゃ天誅だ攘夷だっつって騒がしい世の中で、わしらみたいにただ剣に没頭するくれぇしか能のねぇ暮らしをしてると歯がゆくてなぁ…この磨き上げた腕の奮い所が、わしらにゃ与えられねぇってのは…。
近藤 …。
沖田 高い高~い!
原田 おお、喜んでるぞな。
ツネ …。
井上 だけどよう…こうやってたまちゃんの顔見てっと、フッと気が安らぐっていうか…その苛立ちを忘れさされるって言うか…。
原田 ほうじゃのう。赤ん坊の笑顔には勝るものはなしぞな。近藤さんに似なんでよかったの。
近藤 バカヤロウ!目なんかそっくりだよ。
藤堂 俺なんざ、まだまだ修行中の身の上。妻を娶り子を授かるなんざ以ての外。お二人の幸せを、ほんの少し分けてもらってるだけでさ。
ツネ まぁ!ふふ…でも、もう踏みつけたりはなさらないで下さいませ。
藤堂 ええ、もちろん!たまちゃんの為にも、俺達ゃ立派な大人になりやすぜ。な、司!
沖田 高い高~い!
たまこ きゃっきゃっ!
井上 大喜びじゃねぇか。
原田 司、もっと上げじゃれ!
ツネ いや、そんなに…
藤堂 大丈夫、大丈夫。たまちゃ~ん!
沖田 高~い!
近藤 おい、司!

 宙高く舞い上がったたまこは、ふわりと舞い降り…

原田 おりゃぁ!!

 原田、槍でたまこを叩き落とす。

たまこ ぐっ!
ツネ あー!!!(飛んで行ったたまこに走り寄る)
近藤 何やってんだよ、てめぇ!!

 近藤、原田の頭を叩き、逃げ遅れた沖田を捕まえる。

沖田 !…つ、つい調子に乗って…
原田 ぞな!

 そのすきに逃げ出す、藤堂と井上。

沖田 あ!逃げた!!

 その声に振り返った、近藤。その近藤の向こう脛を槍で打つ、原田。

近藤 いって…左之!!

 沖・原はははは!(その隙に笑いながら逃げ出す)

ツネ 出て行けー!!
近藤 待て!この野郎!!(追い掛けて行く)
ツネ もう、本当に…痛かったね、たまこ。ごめんね?

 と、そこへ土方がやって来る。

ツネ ひっ!!(たまこを隠す)
土方 何だよ…あれ?勝っちゃんは?
ツネ 知りません!!(と、行く)
土方 何だよな、ったく…奥方、俺にきついんだよな…どこがいいんだかよぉ、あんながっちりとした…勝っちゃんの趣味はわかんねぇ…。

 と、今度はそこへ山南がやって来る。

山南 おお、歳!勇さんはいるかい?
土方 ああ…いるだろうけど、見ての通りここにゃいねぇよ。
山南 くだらない事言ってんじゃないよ。聞いたかい?講武所の指南役の話。
土方 ああ…。
山南 随分と落ち込んでたと、永倉から聞いたが…。
土方 そりゃ落ち込みもするだろうよ。俺達ゃ敬助兄ぃや永倉なんぞと違って、出世出来る場所なんざ一つっきゃねぇんだ。ひたすら腕を磨いて道場主に目ぇかけられて養子にしてもらい、やっと跡継いで…またひたすら血を吐くような修行して、腕上げて腕上げて…で、やっと剣術師範って身分をもらえる。だが、それも武士じゃねぇ。そんなに努力してるのに、天下に認めてもらうたった一つの道を、生まれが百姓ってだけで断ち切られちまうんだ。なまじ夢なんざ持つ方がいけねぇのさ…。
山南 …本気で言ってんのかい?
土方 俺達ゃ…司も含めて皆末っ子だ。せめて親が生きてる間に家督が継げる最初の息子だったら、今頃はのんびり百姓継いで幸せだったかもしんねぇのにな…。
山南 歳!!それがお前ぇさんの本心なのかい!?勇さんは…
土方 あの人は!!勝っちゃんはいつだって大真面目なんだぜ!!…そりゃ大喜びだったよ。やっと徳川家の為に働けるって…武家が何だってんだよ。黒船の空砲一つで腰抜かして逃げ惑いやがるくせに!!何だってんだよ…ちくしょぉ!!
山南 …歳…、
土方 …それでもあの人は磨き続けるんだよ、腕を…面白ぇ男だろ…。
山南 ああ!お前やあたし達が惹かれるのも仕方がねぇ…よし!たまにゃ飲みに行くか、歳!勇さん連れて、三人で思う存分悪態をつこう!奥方には、あたしから伝えておくよ。
土方 …変な男だな、敬助兄ぃは…。
山南 じゃなきゃ、お前ぇさんらと一緒にいねぇよ。さ、行こう行こう!おーい、奥方ぁ!!

 二人、行く。入れ替わりにのっそりと顔を出す、沖田・原田・藤堂・井上。

沖田 …。
井上 ずっ…歳ちゃんの野郎…!
藤堂 よし、原田さん!!俺達も先回りして一緒に…
原田 阿呆!三人でと言うとったじゃろうが。放っといちゃれ。
沖田 ま…私はこの体じゃ、元々家督は継げなかったでしょうがね…。
藤堂 ちくしょぉ!じゃ、原田さん!俺に付き合え!やけ酒だ!俺を慰めろ!!
原田 金はお前持ちぞな…(と、歩いて行く)
藤堂 え?そんな!そこは仲良く、二人で…(と、後に続く)
沖田 …。
井上 司坊、
沖田 はい!
井上 腕磨け。わしも磨く。
沖田 当たり前ぇでしょうが!
井上 ふふふ…。

 そこへやって来る、鈴木泰之進。

沖田 うん?…泰之進さん!?
井上 何だ、泰之進…お前、こんな夜中に庭から入って来るなんざ…
鈴木 すいません!沖田先生に用事があって…
井上 泥棒と間違えられても文句言えねぇぞ?
鈴木 すいません、すぐ帰りますから!
井上 何だよ、用事ってのは?
鈴木 それが…その…、
沖田 源さん、泰之進さんは私に用事があって来たんですよ。私が伺いましょう!さ、行った行った!
井上 そうは言っても、司坊!先生達も出かけるみたいだし…
沖田 大丈夫、大丈夫。
井上 騒がしくするんじゃないぞ?(と、席を外す)
鈴木 申し訳ありません…。
沖田 分かってますって…ひひひ…ちょっと待ってて下さい、泰之進さん!(と、行こうとする)
鈴木 あ、ちょっと!どこに行くんじゃ?沖田先生。
沖田 まぁた、しらばっくれちゃって!私と稽古つけに来たんでしょ?やはり我慢が出来なくなって。今泰之進さんの木刀取って来ますよ。
鈴木 いやいや、ちょっと待った!待ってくれ、沖田先生!
沖田 何だ?怖気づいたのか?
鈴木 いや、怖気づいてなどおらん。ちょっと、沖田先生に聞いてみたい事があっての。それで来たんじゃ…。
沖田 な…何でしょう?
鈴木 沖田先生は、その…いや、沖田先生はどう思うとるんか…
沖田 だから何をですか!?あ、司でいいよ。くすぐったくてかなわねぇ。
鈴木 司!…君は今の暮らしに満足しとるんかのう?
沖田 …ええ…そりゃもちろん。今朝若先生も言ってた通り、原田さん達も根はいい人達なんですよ。皆ひたすら強くなる為、真剣に剣に打ち込み…
鈴木 その磨いた剣は、何に対しいつ披露するんかのう。
沖田 …。
鈴木 君は…僕から言わせりゃ、ぬるま湯に浸り、易きに流れようとしている。確かに近藤先生は立派な方じゃろう…しかし君という男が、僕には惜しく思えてならん。それだけの剣の腕を持ちながら…!
沖田 泰之進さん…、
鈴木 なぁ、司よ!今は乱世じゃろ?君はこの世間の騒ぎに、何か少しでも感じる事はないんかのう?男じゃったら、ジッとはしとれんはずじゃ。
沖田 男だったら…ですか…?
鈴木 そうじゃ!君は幕府が夷敵に結ばされた条約をどう思う?夷人がこの日の本で騒動を起こしても裁く事も出来ず、今後の我が国の資金源である貿易も異国が監修するという…外国の言いなりになり屈辱を飲まされた、あの条約じゃ!!
沖田 …私はそういったものに関心が薄いというか…
鈴木 幕府のやってる事は先見性も計画性もまるでない。自らの足で立つ術を奪い取られ、誇りを失ったこの日の本に、明るい将来など見えるものか!!冗談じゃない!!このままではいずれ清国のように、異国にとって扱いやすい奴隷国家が出来上がるだけだ!
沖田 困ったな…。
鈴木 司!!何とも思わんか!?もっと危機感を持て!僕の生まれ故郷である長州は、清国とは目と鼻の先じゃ。海を隔ててはいても、悲惨な生活をしとる空気がひしひしと伝わって来る。将来僕や君の子供達が、夷敵に牛や馬のごとく扱われてもいいんか!?
沖田 …う、うーん…。
鈴木 その原因を作った幕府を…そのままにしとって…いいんかのう…。
沖田 !…泰之進さん…?
鈴木 僕は、京に向かう…京でこの日の本に夜明けをもたらす志士になる…君も…!
沖田 (首を振る)断る…。
鈴木 …すまんのう…聞かんかった事にしてくれ。
沖田 泰之進さん、剣で語ろう!さっき若先生がそう仰ってたじゃないか。

 二人、礼を交わし打ち合う。鈴木、「やぁやぁやぁ!」と、三つ突く。

沖田 ふふ…。
鈴木 どうだ?先週やられた君の三段突きを真似て、自分なりに修練を積んでみたんだが…。
沖田 ああ…それじゃ三本突いただけさ。踏み込みを直したらいい。一度目を繰り出した時、踏み込んだ足が既に着地してないと、次の突きが遅れるだろ?泰之進さんのは、足が宙に残ってる。
鈴木 おお…じゃ、ついでにもう一つご教示願いたい!君は、常に三本目に相手を仕留めるつもりで突きを打つのか?先程、藤堂君と揉めたんだが…。
沖田 ははは…一発で決まりゃ、それが一番楽ですよ。
鈴木 じゃ、何か?三本とも本意気で突いて、その速さじゃと言うんか?…君には何が見えてるんじゃ…!
沖田 さぁ?そのうち泰之進さんにも出来るようになりますよ。
鈴木 …面白い男じゃ。せっかく編み出した必殺技を容易く人に教え、常人がたどり着けそうもない領域にまるで気付いとらん。
沖田 いいよ。じゃぁ、京から戻って来たら徹底的に教えて差し上げましょう!
鈴木 戻って来たらか…君はいい奴だな。
沖田 何だ?今頃気付いたのか?私は先週あなたと立ち合った時に気付いてましたよ。泰之進さんはいい奴だと。

 二人、ふっと笑いあう。

鈴木 司…やはり一緒に京へは行っちゃくれんか?
沖田 ええ…私は泰之進さんに比べると、多分知らない事が多すぎる。ただ今己にとって一番重きにおいてるのは、近藤先生や歳さん達と共に、天然理心流を磨き広める事。その為にも剣士としての腕を上げ、何者にも勝る強さを持つ…私は男なのだから…。
鈴木 ああ、そうじゃが…、
沖田 ねぇ、泰之進さん!…あなたは私が男に見えるのか?
鈴木 おお…綺麗な女子のような顔をしてはおるが、剣の腕もさる事ながら、中身も立派ないい男じゃ。
沖田 その通りさ…私は女子の体で生まれて来ちまった、出来損ないの男なんだ。
鈴木 !?…そのような…いや、すまない!全く気付かなかった…。
沖田 泰之進さんは鈍いんだ。平助なんか私に求婚して来やがった!もちろんはっきり分からせてやったが。
鈴木 仮にそうであっても…
沖田 仮にじゃない!本当にそうなんだ。私はいつもその事に劣等感を抱き生きて来た。さっき泰之進さんに聞きたい事があると言われた時も、またその事かとヒヤリとしてたんだ。
鈴木 …。
沖田 私は自分の体が恨めしい…男として生まれて来たのに、周りは私を女子を見る目で確かめ、女子のように扱う。
鈴木 …見知らぬ土地で見知らぬ者達にそう思われるのが嫌だから、ここに留まるのか?ならば、僕が…
沖田 (首を振る)違う、自分の問題なんだ!…月に一度必ずこういった事でどうしようもなく落ち込み、苛つく日がある…自分の生き様で手一杯さ。私は男として、剣士として一生を過ごして行く。試衛館に集まって来る仲間達と…それで全部ですよ、私は。へへへ…だから泰之進さんと京へは行かない。
鈴木 そうか…。
沖田 そうだ…。
鈴木 司…僕は沖田司に出会い、君という男が好きになった。その男と一緒に世の中を正そうと紛争したいと思っただけじゃ。
沖田 分かってるよ。
鈴木 君の名は司じゃ。いい名じゃ。世の中総てを司れ。己自身にひそむ物も、何もかも!
沖田 ありがとう、泰之進さん!
鈴木 じゃ、僕はもう帰るとしよう。これで京に行く踏ん切りがついた。今日は楽しかった!ここに来るといつも楽しい思いをする。
沖田 もう少しいればいいのに!先生達も呼んで来ましょうか?
鈴木 いや…実は一緒に京に行く同志の目を盗んで君に会いに来たんだ。そろそろ準備に取り掛からないと、彼らに迷惑がかかる。先生達に会うとまた長居してしまいそうじゃし…よろしく伝えておいてくれ。
沖田 分かりました。
鈴木 それじゃ、司!総てを司れ!
沖田 承知した!!
鈴木 …(頷き、帰って行く)
沖田 …総てを司れか…総司とでも改名しようかな?
土方 (来る)いいんじゃねぇの。少しゃ弱虫が治るかもな。
沖田 歳さん!
土方 来いよ、司。相手してやるよ…。
沖田 …ぐっ…だー!(打ち込みに行く)
土方 何だ、そりゃ?んなもんで、上等な口利いてんじゃねぇ、犬っころ!!
沖田 何だと!?ぐっ…たぁ!!何が女子だー!!ちくしょぉ!!男が何だ?女がどうしたぁ!!私は武士だー!!私は…私は…沖田総司だー!!くそぉ!
土方 ぐぁ…!
沖田 …。
近藤 (来る)次は俺だ!かかって来やがれ、司…総司か?
土方 勝っちゃん…、
沖田 …へへへ…ぐっ…だぁりゃぁ!!
近藤 おう!歳!お前ぇもなまっちまってんじゃねぇか?簡単に司から取られてんじゃねぇよ。お前ぇもかかって来い!
土方 よく言うぜ…ついさっき勝っちゃんだって一本いかれたばっかじゃねぇかよ!!
近藤 つべこべ抜かしてんじゃねぇ!
沖田 へへへ…ぐず…へへ…。
土方 ぺっ…上等だ!この野郎!!

 三人、打ち合う。沖田、土方の剣を弾き飛ばし、近藤の剣を叩き落とす。

沖田 あ…はぁはぁ…。
土方 …。
近藤 まだまだぁ!!天然理心流にゃ、組み手だってあらぁ!打って来ーい!!
土方 へっ…終わりだ、終わり。やってられっかよ…。
沖田 …。
近藤 おい…待て、歳!俺はまだ一本取られちゃいねぇよ!来い、司!!総司!!
沖田 (剣を下げる)…若先生は素敵だなぁ…私もいつか…そんな風に、男に惚れられる男に…何で私はこんな体に生まれて来たんだろう…こんな体じゃなけれんば、立派に家督を継ぎ…母上も姉上も楽させてあげられたのに…こんな惨めな体じゃなきゃ…。
土方 ……ポロポロポロポロ、男が泣いてんじゃねぇよ…。
沖田 ぐっ…ぐっ…。
近藤 …。
土方 んな体じゃなきゃ、あの鈴木についてのこのこ京に世の中乱しに参戦したってのか?
沖田 違います!!泰之進さんは、そんなつもりで京に行くんじゃない!
近藤 …。
土方 ああ?口答えかましてんじゃねぇ、弱虫。
沖田 ぐっ…。
近藤 総司…泣くほど悔しいか?
沖田 …はい…。
近藤 どうにもなんねぇ事にぶつかってよぉ…だーれも助けちゃくんなくてよぉ…泣くほど悔しい思いして…それでも何クソって乗り越えようと足掻いてからが、男の始まりよ。
沖田 はい…!
近藤 武家に生まれてりゃ…百姓の末っ子風情に生まれてなきゃ…でっけぇ道場で門下生が何百人もいる大金持ちだったら…何にも比べる事ぁねぇんだよ。よそはよそだ。お前ぇはお前ぇだよ。それだけは変わりようがねぇ。いいじゃねぇかよ。やりゃぁ勝つ!!
沖田 はい!!ぐっ…へへへ…。
土方 ったく…いつまでガキのままでいるつもりだ、てめぇ…とっとと追い付いて来やがれ。
沖田 …はい…。
近藤 うほんっ!歳、総司…木刀、上に掲げろ。
土方 またかよ、勝っちゃん!いいよ、もう…そりゃ。
沖田 三国志!劉備達の義兄弟の誓いですね、先生!!
近藤 おぉよ!歳、掲げろ。
土方 ったく…はいはい、もう…。
近藤 何だよ、その態度は。お前ぇ、あの時劉備玄徳や関羽雲長はな…
土方 分かったよ、もう…やるならやろうぜ、もう!
近藤 我ら三人、天に誓う!!
沖田 生まれ落ちた月日は違おうとも!!
土方 ふぅ…。
近藤 歳、
土方 …願わくば、同年同月に死なん事を!!
近藤 おお!
三人 我ら三人、天に誓う!!生まれ落ちた月日は違おうとも…

 そこへやって来る、山南・藤堂・井上の三人。

近藤 !
沖田 …。
土方 …。

 山南達三人、後を引き継ぐ。

三人 (山南・藤堂・井上)願わくば!同年同月に死なん事を!!

 と、今度は原田・永倉・斉藤が来る。

近藤 何だ、お前ぇらもいたのか?
原田 三人だけじゃ、ずるいぞな。
永倉 ああ…俺達も混ぜてもらいたいもんだなぁ!
藤堂 ったりめぇでしょうが!!
斉藤 …(頷く)
山南 ここは一つ…勇さん!な、総司?
沖田 …ええ、もちろんでさぁ!!

 全員、木刀を掲げる。

近藤 我ら試衛館!!天に誓う!!
全員 生まれ落ちた月日は違おうとも!!願わくば!!同年!同月に死なん事を!!
近藤 ここに義兄弟の契を交わす!!
全員 おおー!!!

 トブガコトク、トブガゴトク…この時試衛館の面子が放った咆哮は、熱を帯び、大空高く舞い上がって行った。それはまるで、一匹の大きな竜のようでした…。

 ―暗転―

 試衛館道場、夕暮れ時。沖田・藤堂・永倉・原田・山南・斉藤がいる。

原田 がー!!疲れたぞなぁ…阿呆か、ここの道場は!!
沖田 やっ!はっ!(一人、木刀を振り続けている)
藤堂 俺なんか腕も上がんねぇよ…。
永倉 ああ、今日の近藤さんは熱が入ってたな。へとへとだ…。
山南 おい、総司!もうやめねぇかい!!
沖田 そりゃぁ!!どうりゃぁぁ!!
永倉 …。
斉藤 だらしないな、皆。沖田を見ろ。一向にやめる気配がない。
原田 そがいなんと一緒にすな。そいつは頭がどうにかなっとるぞな。
沖田 でや!!たぁ!!
永倉 …。
斉藤 毎日これくらいやってりゃ、強くもなる。
藤堂 全くだ…最近あいつ凄ぇ気迫で、俺なんて今日何発もいいのもらっちまったもんな。
山南 強くなりたいんだよ、もっともっと…ふふ。
藤堂 んなのは、俺だって!

 と、永倉がふらりと沖田の元へ。

原田 おお…どこ行くんなら?永倉氏!
永倉 どうりゃぁ!!(と、いきなり沖田にかかって行く)
藤堂 あ!!
山南 ほら!やめなって、永倉も!!
原田 どうなっとるんな、ここの道場は…?
斉藤 参る!!(飛び込んで行く)
藤堂 負けるかぁ!!(同じく飛びかかって行く)
山南 いいって、もう…暑苦しいから!
原田 何じゃ、こなくそー!!(山南に木刀を振り下ろす)
山南 危ねぇなぁ!!何やってんだよ、いきなり…お前ぇさん達は!疲れてたんじゃねぇのかい?
沖田 いや、別に。
原田 そうなんじゃが…見よったら、血がたぎるぞな。
斉藤 全く…稽古好きにも程がある。
永倉 人の事ぁ言えねぇよ、一ちゃんも。
藤堂 まぁ、確かに一刀流にも世話になったが…面白れぇんだよな、ここの稽古は。実があるっていうか…全てが実践を想定してやるでしょ?
原田 ほうじゃのう。洗練はされとらんが、人を斬れる剣じゃ。そこがええ。わしにピッタリじゃ!
永倉 小せぇ町道場によくありがちな、精神論だけじゃねぇ。昔ながらの剣術ってのかな?武士道ってのが、ここにゃあるよ。皆それに魅せられちまったみてぇだ。
斉藤 何より、素性の知れぬ俺達のような浪人を住まわせてくれるってのは有難い。
沖田 ははは…皆飯食って剣振ってるだけですもんね。何の役にも立ってない。
原田 言われてみりゃそうじゃの。何しよんじゃろ?わしら…。
沖田 ははは…!
永倉 それを言っちゃおしめぇだよ、原田。
藤堂 ね?世の中じゃ、攘夷だ討幕だ尊皇だ…俺達と同じ年くれぇの連中は大騒ぎだってのにな。
原田 京の都なんぞは、石投げりゃ勤王の志士に当たるゆうほど、いろんな藩から浪人共が集まって来とるらしいぞな。だいぶあからさまになって来とるみちょうじゃ。
永倉 そんだけ世の中が動いてて…で、俺達ゃ何してんだろうな…?
沖田 …。
斉藤 …。
山南 よし!じゃ、あたしゃちょっくら出かけて来るかね。
藤堂 どこ行くんです?
山南 少しゃ、勇さんの役に立とうと思ってね。上手くすりゃ大出世だ!
永倉 また、そんな根拠のねぇ話で…逆に困らせねぇで下さいよ?
山南 いやいや…ま、お前ぇさん達も楽しみにしてな。夜にゃ戻るよ!(と、出かけて行く)
沖田 何だろう?ニヤついて…。
藤堂 あ!まさか!?
原田 何ぞな?
藤堂 いや…そりゃねぇだろ、うん…何でもねぇです。
原田 何じゃ、そりゃぁ?
斉藤 …お主達はどう思う?
沖田 何がですか?
斉藤 どう思う?今のこの乱世を。

 沖田・原田・藤堂・永倉、頭を抱え込む。

斉藤 いや、すまんかった!お主達に聞く方が間違ってたな。何でもない。忘れてくれ。
永倉 そういや、沖田!長州ってぇと…鈴木泰之進はどうしてるんだ?あれ以来顔出さねぇじゃねぇか。元気にしてんのかい?
原田 鈴木?誰なら?…あ、あいつか!?練兵館から来たじゃ、何じゃの…
沖田 それが京に行ってからは、めっきり…
永倉 京に!?あいつぁ、今京にいんのか!?
斉藤 …。
原田 どいつもこいつも…こりゃ、ほんまに石投げたら当たるぞな。
沖田 またそのうちひょっこり顔を出しますよ。そん時ゃ、もうちょっかい出さねぇで下さいよ?泰之進さん、気にしてたんですから。
永倉 京に何しに行ってんだ?あいつは。
沖田 知りませんよ!言わなきゃよかった…。

 そこへ、ツネが顔を出す。

ツネ 失礼します。斎藤様はいらっしゃいますか?
沖田 あ、奥方!
斉藤 はい、
ツネ お客様がお見えになってますが…中にお通ししますか?
斉藤 いや、行きます。俺も用事を思い出した。少し抜けるぞ、沖田。
沖田 はいはい、どこへでも行っちゃって下さい。何だったら戻ってこなくて結構ですぜ。斉藤さんも泰之進さんに冷たく当たってましたから。永倉さんと原田さんは出禁だ!
永倉 おい、ちょっと待てよ!
原田 そりゃないぞな!
斉藤 ふふ…。
藤堂 早く帰って来ねぇと、飯全部食っちまいますよ。

 そこへ来る、近藤。

近藤 おう、ツネ…何やってんだよ?道場で。
ツネ いえ…斎藤様にお客様がいらしたので、呼びに…。
近藤 出かけんのか?一。
斉藤 はい。すぐ戻ります。
近藤 おう。

 斉藤・ツネ、行く。

近藤 お前ぇらもいつまでもだべってねぇで、風呂入ぇれ。いいお湯だったぜ。
永倉 俺はまだいいです。一杯やって来ようと思ってんで。
近藤 じゃ、総司…
沖田 私は最後で。
原田 たまにはわしと一緒に入るか?総司!
沖田 目玉を突きますよ。
藤堂 じゃ、俺が先駆けるかな。平助が風呂に平助。
近藤 何だよ、そりゃ。今歳が入ぇってるから、その後でな。
藤堂 え!?土方さん入ってんすか?じゃ、やめとこ。
近藤 何で誰も入んねぇんだよ!?
藤堂 いえ…俺、今日土方さんに二本入れちまいましてね。あのお方一本以上入れちまうと、怒るんですよ。あそこが痛ぇここが痛ぇって…しつけぇったら、ありゃしねぇ!
沖田 歳さんは負けず嫌いですから。
近藤 火ぃ炊いてる源さんの身にもなりやがれ。誰でもいいから順番に入ってやれよ。
永倉 源さんっていやぁ…俺は源さんの後だけは嫌だな。何か変なもんがいっぱい浮いてて、体が綺麗になった気がしねぇ。
沖田 私は上の方全部捨てて入ってますから、平気です。
永倉 いやいや…何か変な匂いがすんだよ、あの人の後は。
藤堂 何か出ちゃってんだろうな、穴から。
近藤 いいよ…んなとこ、広げねぇで。
原田 よし!じゃ、もうわしが行くぞな!!
近藤 おい、左之!歳が入ぇってるよ、今は。
原田 一緒に入るぞな。土方氏は侍好きじゃからの。頭の上にわしのイチモツを乗っけてやって、立派な侍マゲを作っちゃる。だははは!
永倉 嫌だねぇ~!下品な野郎だねぇ~!ははは!
沖田 喜びますよ、歳さん!
原田 ぞな?ぞな?
藤堂 むしり取られますぜ、そのマゲ。
原田 だははは!
近藤 分かったから、行けよ!もう…。
原田 ♪いっちもっつちょんまげ~♪いっちもっつちょんまげ~(と、行く)
永倉 狂っちまってんじゃねぇかよ…大丈夫か、原田は?
沖田 今日の稽古でも、結構頭に木刀くらってましたからね。
藤堂 絶対ぇ怒られるぜ!土方さんに、絶対ぇ怒られる。そんな事したらただじゃすまねぇ!
永倉 じゃ、俺はとばっちり食う前に出かけようかな?
近藤 新八!この間吉原の、何だっつったっけかな?お雪さん、だったかな…が、うちに来て、お礼
言ってたよ。
永倉 !
近藤 暴れてる浪人を退治してやったんだろ?
藤堂 え?何ですかい、そりゃ?
沖田 …。
近藤 気をつけんだぜ。
永倉 …どうって事ねぇですよ。この道場の奴らより手強ぇのは、そういねぇですから。それじゃ!(と、出て行く)
沖田 …永倉さんは、しょっちゅう吉原行ってるもんな?
藤堂 ああ…あの人の女好きは、俺もかなわねぇ。
近藤 ばーか…あいつは偉ぇんだぜ。あの辺の花街を警備して回ってんだよ。最近特に性質の悪ぃ浪人風情が増えたからな。揉め事が起こんねぇようにっつってな。何か訳ありらしいが…ま、たいしたもんだよ。
沖田 そうなんですか?
藤堂 永倉さんがねぇ…。

 と、そこへ、カンカンの土方が来る。

近藤 おう、出たのか?
土方 総司!!藤堂!!お前ぇらいつまで年上に風呂焚きさせてるつもりだ?とっとと代わってやれ!!
藤堂 カンカンだよ…。
沖田 原田さん、来ました?
土方 勝っちゃん!原田の野郎、ここからつまみ出せ!!
近藤 ちょんまげされたか?
土方 人が風呂上がって体拭いてる所に入って来て、残念だ残念だって言いながら、背中にイチモツをこすりつけて来やがった!素っ裸でだ!!
沖田 あははは!
土方 笑い事じゃねぇ!ほら…行って、源さんと代わって来い。
沖田 いいんですよ。源さん、好きでやってんだから。
土方 気ぃ利かせてくれてんだよ、そりゃ。
藤堂 いやいや!代わってくんないんですよ。火を焚きながら、皆の裸を見てるんだって言ってました。
沖田 私は嫌だから、毎回頭を木刀で叩いて気絶させてから入ってます。
土方 何かそういうのばっかじゃねぇか、ここ…大丈夫か、勝っちゃん?追い出しちまえよ、もう…皆!
藤堂 えー!?そんな…
近藤 そうもいかねぇよ。誓い合った仲じゃねぇか。
土方 男同士でそんな事するのまで誓い合っちゃいねぇよ、ったく…敬助兄ぃは?
藤堂 出かけて来るって言ってました。夜には戻ると。
土方 何だよ、それ!?風呂から出たら将棋する約束してたのによ。
近藤 お!じゃ、俺とするか?
土方 いいよ。勝っちゃん、将棋弱ぇからつまんねぇ。
近藤 いいじゃねぇかよ、たまにゃ。
沖田 先生、将棋弱ぇですもんね!
藤堂 勝ったの見た事ねぇよ。
近藤 強ぇよ!いざとなりゃ、将棋の駒で歳の横っ面、ボーンって!
土方 将棋じゃなくなってるよ、それじゃ…。
近藤 よし、決めた!今から将棋大会だ!!
藤堂 え?俺達もですかい?
沖田 先生、私将棋知らないです。
近藤 見てていいよ、お前。
土方 本気で言ってんの?勝っちゃん。俺、手ぇ抜かねぇぞ!
近藤 ったりめぇだ!歳、お前ぇ達の部屋行こう。ほら、立て立て!
土方 ったく、もう…どこ行きやがったんだよ、敬助兄ぃの野郎…!

 4人、連れ立って行く。

 ―暗転―

 場面は変わり、とある神社・夜。フクロウの鳴き声がする。鈴木泰之進・佐野正造・福田金時・鈴木三樹三郎がいる。佐野、足を負傷している。

鈴木 懐かしいのぅ…まさか生きてこの江戸の地を踏めるとは思わんかった。
佐野 全くじゃ…。
三樹 何だ?お前、前会った時と随分感じが変わったじゃねぇか。京で生気を吸われちまったか?
佐野 …。
福田 長旅で疲れとるだけじゃ!あんたも変わっとらんみたいで、何よりですのう!
鈴木 福さん!
三樹 …。
鈴木 皆京で地獄を見て気が立っとる。言葉に気をつけてもらいたい。それと…江戸に残しとった連中は、まだ来んのですか?
三樹 今兄上を呼びに行ってる。落ち着けよ!飲むか?(と、酒を差し出す)
鈴木 …。
佐野 (三樹から酒を奪い、飲む)ふー…ふー…。
鈴木 正造…!
三樹 お前はいいのか?
福田 ゴク…頂く…!
鈴木 やめぇ!!
佐野 泰之進…、
鈴木 そがな酒を飲むな!僕達が飲むのは、時代を変えた時に飲む勝利の美酒じゃ。そうじゃったはずじゃ…!
福田 …。
鈴木 気をしっかり持て、福さん!正造!もうすぐ同志が来るぞ。僕達の代わりに涙を飲んで江戸に残った仲間に、こがな姿を見せちゃいかん!
佐野 …すまん、泰之進…。
三樹 泣かせるねぇ…。

 と、そこに来る、伊東大蔵・佐々井半兵衛・松村進次郎。佐々井、伊東に食ってかかっている。

佐々井 一体どういう事じゃ、伊東先生!?
伊東 …。
松村 泰之進さん!お久しぶりでございます!!
鈴木 元気にしとったか、進次郎!
佐々井 おお…待っとったぞ、お前達!正造、よう帰って来てくれた!
佐野 何とか生きながらえたわい、半兵衛。
松村 足!足引きずって…どうしたんですか!?
福田 名誉の負傷じゃ!向こうで知り合うた仲間を助ける為に、死地に飛び込んで守ったんじゃ。
佐野 …。
佐々井 相変わらずな男じゃのう…。
伊東 三樹三郎、帰るぞ。
三樹 へ?帰る…のですかい?
伊東 私は少し清河君とは距離を取ろうと思ってね。尊王攘夷の志は同じなれど、どうも彼は表舞台に立ちたがりすぎる。急いては事を仕損じるというだろ?まだ時期じゃない…が、彼のような人間がその時期を早めて行ってはくれる。江戸から彼らを応援しようじゃないか。
佐々井 どういう事ですか!?清河先生の命で我々は本日横浜に攘夷を決行しに行くと!!伊東先生も共に行動すると仰ってたではないですか!?
鈴木 …。
松村 話が違います!!何とか言って下さいよ、あなたも!(と、三樹に)
三樹 うるせぇな…その清河と距離を置くと言ってんじゃねぇか。お前ぇらとはここでお別れだよ。出来る限り多くの夷人を斬って来いよ。
福田 何を勝手な!!
佐野 しょうがない。伊東先生ともあろうお方が怖気づいたんじゃろ?清河先生の所へ行こう。彦一はまだ来んのか?
佐々井 …清河先生は我らと一緒には動かん。命令を下すだけじゃ。何の世話もしてくれんかった…。
佐野 何じゃ、そりゃ!?
松村 藩邸から追い出された私達は、この方の馬小屋に住まわせてもらってたんです…ご好意で…。
福田 !!
佐野 !?
鈴木 …。
三樹 そりゃそうだろ。脱藩した人間かくまってちゃ、こっちも罪を問われる。うちの道場にゃ、長州藩の奴も来るしな。見つからねぇとこと言ったら…ふふ…優しいな、俺は!
鈴木 …ここでも…捨て駒か…?
佐野 何じゃ、そりゃぁ!!

 佐野、怒りに任せ抜刀する。瞬間、「ズバン!」伊東に斬り捨てられる。

佐野 …。
松村 !?
鈴木 !!
福田 正造!!
佐々井 …長州藩士を舐めるなー!!

 抜刀する、佐々井。と、今度はそれを三樹が斬り捨てる。「ズンッ!」転がる、佐々井。

福田 あー!!(抜刀)
松村 あー!!あー!!(抜刀)
鈴木 待てぇ!!待てぇ!!しまえ!!
伊東 …行くぞ、三樹三郎…(と、行く)
三樹 …(血をぬぐい、後に続く)
鈴木 わしらは人間じゃ…何が捨て駒か…わしらは時代の…礎に…
松村 この死に様の…どこが礎だぁ!!
福田 ぐっ…ぐぐ…ぐっ…!

 そこへ来る、高木彦一。と、後ろに、斉藤。

高木 !?…どういう事じゃ、これは?
鈴木 …。
高木 どういう事じゃ、これは!泰之進!!
鈴木 伊東に殺された…。
高木 そがなわけがあるか!?進次郎、説明せぇ!!福田君!!

 と、鈴木、高木の後ろにいる斉藤に気付く。

鈴木 …そいつは?
斉藤 …。
鈴木 (高木に)何で彼が、君と一緒におるんじゃ!?
福田 知っとるんか、泰之進?
松村 斉藤さん、いつの間に…
高木 おお…この方が僕達を清河先生に紹介して下さった方じゃが…。
斉藤 久しぶりだな、長州藩士・鈴木泰之進。
鈴木 …貴様も清河の下僕か…?
斉藤 いや…俺はあの男が私利私欲の為に集めようとしている男達の中から、本物を選抜させてもらおうと思ってる、一介の浪人さ。
福田 一介の浪人が何の為に…?
鈴木 裏の裏…幕府の犬か!?
福田 !?
斉藤 賢いな。だが、そうとは限らん…。
鈴木 …僕達は本物ではなかったと…?
斉藤 伊東のように乱世に乗っかるだけならまだしも、乱世を引き起こそうとする輩に、本物などいるはずがないだろう…。
高木 何じゃ!?何の話をしとるんじゃ、泰之進!?
福田 …同士の敵じゃぁ!!
松村 !

 福田・鈴木・松村、斉藤に斬りかかって行く。

斉藤 !
高木 …何がどうなっとるんじゃ…くそぉ!!

 高木も抜刀。4対1。斉藤、福田・松村・高木を斬り伏せる。その斉藤を、鈴木が斬る。「ズバン!!」

斉藤ぐあぁ!

 斉藤、致命傷を逃れるが、重傷を追う。

鈴木 …皆…ぐっ…!
斉藤 …。

 そこへ現れる、永倉。

永倉 こらぁ!そこで何やってやがる!!
鈴木 はっ!?
永倉 !?てめぇ…!
鈴木 !( 逃げ去る)
永倉 今のは…(斉藤に気付く)あ!?一ちゃんじゃねぇか!どうしたんだよ!?
斉藤 ぐっ…ぐ…不覚…(気を失う)
永倉 冗談じゃねぇぞ、おい!!

 ―暗転―

 場面は変わって、試衛館。傷を負った斉藤を連れ帰った永倉に、一同騒然となる。井上と山南は斉藤を寝かしに行き、藤堂は医者を呼びに…。残っているのは、近藤・土方・沖田・原田と、斎藤を連れ
帰った永倉。

土方 何事だよ?
永倉 ああ…ちょうど吉原の帰り道の神社で、一ちゃんがあの傷で転がってて…周りに5つ程浪人の死体もあったよ。一人追っ手がいたみてぇなんだが、俺の声聞いて逃げちまった。
近藤 辻斬りに追われるなんざ…何かあんのか?あいつか。
原田 喧嘩でもしたんかの?ほりゃ!長州じゃ土佐じゃの、藩邸も目と鼻の先じゃし。
沖田 …。
土方 尊王攘夷の志士共か…お前ぇ、後付けられてねぇだろうな?
永倉 それどころじゃねぇよ…ずっと一ちゃん背負ってここまでやっとたどり着いたんだから…もう、ヘトヘトだ…。
沖田 …ちょっと表見て来ます!(と、行く)
原田 おお、わしも行くぞな!(一緒に行く)
土方 おかしいな、勝っちゃん。いくら尊王の奴らでも…んな、手当たり次第に一介の浪人風情に斬りかかって来るはずがねぇ。んな事してたら、てめぇらの方が分が悪くなるだろうよ。
近藤 …一に原因があるって事か?
永倉 もしくは原田の言うように、ただの喧嘩か…。
土方 ただの喧嘩にしてもよ…斉藤から吹っ掛けて行かねぇ限り、向こうから斬りかかって来りゃし
ねぇだろ。んな大事になっちまったら、すぐに足がついて自分達の藩にお咎めがかかるだろうし…。
近藤 あの一が喧嘩吹っ掛けたりはしねぇと思うんだけどな…それにあれだけの腕持ってるあいつがあそこまで手傷負わされるって事は…よっぽどの相手だぜ。新八、顔は見えなかったのかよ?
永倉 それが、その…確かじゃねぇんですが…以前ここに何度か顔出してた、練兵館の鈴木って覚えてやすかね?
近藤 !?
土方 …。
近藤 泰之進か…?
土方 長州のな。でもあいつは京に行ったんだろ?総司が残念がってたじゃねぇか。
近藤 …。
永倉 いや…多分間違いねぇ!目つきは変わってたが…ありゃ、鈴木だろう。京に行ってたとは言うが、帰って来たんだろうよ。最近この辺りでも、見た事のねぇ面の浪人が増えて来てるし…京で潜んでた尊皇の志士が、江戸で何やら一悶着起こそうと企んでる可能性はありますね。
近藤 …。

 そこへ、玄関口と裏口を見に行っていた沖田と原田が、それぞれ戻って来る。

沖田 表は誰もいませんでした!
原田 裏口の方も大丈夫ぞな。
近藤 新八…その話はちょっと置いとこうぜ。今は一が何で襲われたかの方が先だ。
土方 ああ…。

 そこへ、医者を呼びに行った藤堂が戻って来る。

藤堂 医者呼んどきました。すぐ来てくれるって!
沖田 …何の話ですか?
土方 何でもねぇよ、うるせぇな。
永倉 …。
近藤 …。

 と、続けて来る、井上と山南。

近藤 どうだい、一の様子は?
山南 一応横にはなってるよ。今奥方が見てくれててね。
井上 何を聞いてもすいませんの一点張りでさぁ!何があったんだよ?永倉!
永倉 …(沖田を見てる)
沖田 !…何ですか?
土方 辻斬りにあったんだとよ。
井上 辻斬り?…そういや増えたもんな、最近。町中目の薄汚ねぇ浪士がウヨウヨといやがる。
原田 尊皇派の奴らぞな。自分達の事、志士じゃ何じゃと抜かして世の中乱して回っとる阿呆共じゃ。斬り殺しちゃれ、そがなもん!行くぞな、近藤さん!長州藩邸に勝ち込みくらわしちゃろう。斉藤氏の敵討ちぞな!(と、行こうとする)
永倉 …(黙って後に続こうとする)
近藤 おう!ちょっと、待てよ。まだそうと決まったわけじゃねだろ?落ち着けよ。
原田 それしか考えられんぞな!
永倉 …。
沖田 私は…尊王派の人達全てが、ただ悪戯に世の中を乱そうとしてるとは思えません…泰之進さんのような人もいるし!あの人は、必死で私に何かを伝えようとしてた…。
井上 うーん…そうだよな。あいつは悪ぃ奴じゃなさそうだよな…しっかりしてるし。
原田 じゃが、あいつも長州ぞな。わしゃ、偉そうに自分とこの藩名さらして武士気取っとる奴は好かんのじゃ。
沖田 原田さんの好き嫌いで人斬っちゃ駄目でしょ?
永倉 何だよ、沖田…てめぇ、あいつにくだらねぇ知恵吹き込まれたのか?
沖田 くだらないとは思いません!
永倉 そうかい。てめぇが尊王を支持するってんなら、俺はてめぇの事も斬るぜ。
沖田 永倉さん…!
井上 おい!ちょっと待てよ、永倉!何言ってんだ、お前!?
藤堂 そうですよ。そりゃぁねぇでしょ、永倉さん!天子様を奉る事が、悪いわけじゃねぇはずだ。
山南 あたしもそう思うよ、新八。今起きてる辻斬りの全てが、尊王派の仕業とは思わないねぇ。あたし達だって皆、公方様の事も天子様の事も敬ってるはずだろ?
原田 そりゃそうじゃが…現に長州の奴らは…
土方 いい加減にしやがれ、てめぇら!今、んな話しててもしょうがねぇだろ?永倉、総司斬るだぁ?誓いを忘れたのか、てめぇ…やってみろよ。俺がてめぇを叩っ斬ってやるよ!(と、立ち上がる)
井上 おい、歳ちゃん!待て、待て!
永倉 …すまねぇ、沖田…近藤さん。
近藤 …。
土方 俺にはなしかよ…!
沖田 …。
山南 …誰か、一の身の上を詳しく聞いてる奴はいねぇのかい…?
土方 そこだよ、敬助兄ぃ!いい事言うじゃねぇか。家に住み込んでる斉藤一に別の顔があったとす
りゃ、辻斬りに遭う理由も出て来んだろ。それ知ってる奴ぁいねぇのかって言ってんだよ!
藤堂 親父様が明石の生まれだって事くれぇしか、俺は…
原田 元々が無口な男じゃからのう…。

 と、そこへ斎藤とツネが来る。

斉藤 …失礼します。
井上 斉藤!?
藤堂 斉藤さん!
ツネ …止めたんですが…。
近藤 ああ…(と、ツネに頷く)
ツネ …(戻って行く)
原田 斉藤氏、寝ちょれ。まだ動かん方がええぞな。
斉藤 近藤さんに、お話したい事が…
近藤 …何だよ?
斉藤 俺は…実は…ある仕事の為に幕府から会津藩を通して遣わされた、密偵です。
土方 幕府の密偵…?
近藤 どういう事だよ?
斉藤 腕が立ち…尚且つ徳川家の為だけに命を張れる、忠義心の強い男を探しておりました…。

 皆、一斉に近藤を見る。

近藤 ……ああ、それで?
斉藤 俺はあなたに決めました。京まで足を運んじゃもらえないでしょうか?無論、この試衛館の皆
揃って…。
藤堂 何だ何だ!?話が見えねぇぞ。
永倉 どういう事だよ、一ちゃん?
山南 …浪士組の事かい?清河八郎の。
斉藤 !
原田 浪士組?
藤堂 何だか胸に響く名だ…けど、清河八郎ですかい…?
山南 ああ…。
井上 何だよ、浪士組って?
斉藤 流石は山南殿…ご存知でしたか…。
近藤 …何だい、そりゃ?
山南 ああ…さっき勇さんに伝えようと思ってた矢先に、一が転がり込んで来て言い出せなかったんだが…来春の三月に、将軍・家茂公が京に上洛する事が決まったらしいんだ。天子様の妹君とご成婚なさるといった名目でね。
土方 ほう…成程な。そうなりゃ、天子様を祭り上げて討幕を掲げる尊王の奴らは、手も足も出ねぇって事だな…その実は、今の乱世を鎮める為の徳川家の奥の手ってとこか。
藤堂 じゃ、その浪士組ってのは?
斉藤 将軍様が上洛なされる前に、京の町に潜む危険な過激派の浪士達を取り締まる為、新しく京都守護職といったものが置かれる事になりました。その下部組織が、浪士組です。先程山南殿が言っていた、清河八郎が幕府に持ち込んだ案なのですが…俺はその隊を取り締まる人を探してました。
井上 随分と突飛な話じゃねぇか。こんなボロ道場にまで顔出すなんて…。
近藤 おい、待て!誰が、ボロ道場だ!
土方 そりゃそうだよな。まだ何か裏があるんだろ、てめぇ…全部話しやがれ!
山南 理由は、その清河さんだろ?
斉藤 …。
山南 勇さん、この話にゃ一つ難点があってね…元同門のあたしが言うのも何だが…その清河八郎、相当の策士というか頭が切れるというか…この浪士組の話を幕臣に売り込んだのは、何か裏があるんじゃねぇかと。
藤堂 そうですね…俺も同門だけど、あまりいい噂は聞いてねぇなぁ。あの人は根っからの尊皇思想でしたからね。京に尊王の志士を取り締まりに行く為の浪士を集めるなんてな…腑に落ちねぇな…。
斉藤 はい…それは幕臣であり、この隊の目付でもある佐々木只三郎殿も危惧しており…我がおん殿・松平容保様を通じて、俺が…
近藤 ああ…分かったよ、一。だとすりゃ、お前が長州の人間に狙われるのも合点が行く。
沖田 まだ長州だとは!
近藤 総司…もう一つ一に聞きてぇ事があるんだよ。いいか?
沖田 …すいません…。
斉藤 何でしょうか?
近藤 その浪士組ってのは…俺や歳のような、武士の身分を持たねぇ輩も入れてもらえるのかい?
土方 …。
斉藤 今はこんな時代…家柄身分に拘らず、実力のある者は積極的に取り立てたいと仰っております!
近藤 !(立ち上がる)
土方 勝っちゃん!
沖田 …。
斉藤 清河には任せてられない。誰か代わりをと容保様は仰っておりました。俺は、近藤さんならば真っ直ぐ日の本の為、この浪士組を率いて行ってくれると信じてます。皆も…頼む!京に…俺達の…この試衛館の名前、知らしめてやろうぜ!…ぐっ…はぁはぁ…。
井上 おい、斉藤!大丈夫かよ?
斉藤 近藤さん、
山南 一、横になりな。後はあたし達で…
斉藤 返事を頂戴するまでは動かん!
藤堂 斉藤さん…!
永倉 …行こうぜ、近藤さん!
原田 おお、決まりじゃ!日頃鍛えた腕を奮えるわ、幕府に召し抱えてもらえるわ…至れり尽せりじゃわい。こがにええ話はないぞな!!
藤堂 行きやしょう!!武名を天下に轟かす絶好の機会です。この仲間で!近藤さん!!
近藤 …。
斉藤 近藤さん…、
土方 勝手な事ばっか言ってんじゃねぇよ、てめぇら!てめぇらはいいけどな、勝っちゃんはここの道場主だぞ。一緒に行くってんなら、この試衛館の門を閉めなきゃなんねぇ…奥方だって、娘さん生まれたばっかで…年取ったご隠居の面倒も見ねぇといけねぇんだぞ?簡単に誘ってんじゃねぇよ。
沖田 …。

 と、そこへツネが呼び掛ける。

ツネ 失礼します…。
全員 …(静まり返る)
近藤 おう、何だよ?
ツネ お医者様がご到着なさいました…。
近藤 分かった。源さん…一、連れてってやってくれ。
井上 あ、ああ…。
斉藤 …(首を振る)
近藤 悪いようにゃしねぇよ。
斉藤 …。
井上 ほら、斉藤…怪我が悪化して何も出来なくなっちまったらどうすんだ?悪いようにゃしねぇって言ってんじゃねぇか。
斉藤 ……失礼します…(と、立ち上がった瞬間、気を失う)
永倉 一ちゃん!
藤堂 俺、手伝いますよ!
井上 おお…。

 井上・藤堂、斎藤を抱えて行く。後に続く、ツネ。

ツネ …。
近藤 …。
原田 奥方に聞かれたかの?さっきの話。
近藤 お前ぇ達の気にする事じゃねぇよ。
山南 さて、どうしたもんかねぇ?
原田 どうもこうもないじゃろが。のう、近藤さん!
永倉 山南さん…清河ってのは、そんなに信用のならねぇ男なのかい?
土方 んな奴ぁ、どうだっていいのよ。とにかく幕府の賛同を得てなされる集団って所に意義がある。後は知ったこっちゃねぇよ。どんな奴が集まって来ようが、俺達が負けるわけがねぇ…って事ぁ、必ず公方様の目ん止まるって事だろ。
山南 歳にしちゃ、随分とはっきりした物言いじゃねぇか!
原田 土方氏はどうすんなら?
土方 さぁな…勝っちゃん次第だよ。ま、俺の人生もやっと面白くなって来やがった!
沖田 へぇ…歳さんは行くんですか。
永倉 お前は行かないのか?
原田 そういや、お前ジーッと大人しかったの。どうかしたんか?
土方 いいんだよ、そいつは。頭ん中生まれっぱなしで、時勢の事ぁチンプンカンプンなんだから。犬っころみてぇなもんだ。こいつも俺と同じ。勝っちゃんが行くなら行く。行かねぇなら行かねぇよ。
沖田 ふぅ…もちろんでさ。私が先生や歳さんと離れる事はありえません。ただ…
永倉 沖田、
沖田 はい、
永倉 …俺は昔長州の浪士に、てめぇの女を殺させちまった事があってな…俺にお似合いの花街で働いていたような女だったが、結構気に入っててよ…今だに長州の藩名を耳にすると、頭に血が昇っちまう…。
沖田 はい…。
永倉 ただ俺達が京に登り浪士組になる以上、鈴木泰之進は敵だ。練兵館にいた時もかなりの尊皇思想だったから、京で仲間の過激浪士共と接触してりゃ、磨きがかかってるだろうよ。行くんなら覚悟して行けよ。
沖田 …。
永倉 近藤さん!俺の腹は決まってるぜ。
近藤 …。
永倉 …(頭を下げ、出て行く)
原田 ま、わしも長州じゃ土佐じゃの尊王思想は賛成出来んのう。何でも土方氏や近藤さんに任せんと、お前で決めぇ。どういう結果になっても許してくれるじゃろうで。
沖田 …。
原田 わしゃぁ望みとしちゃ、お前と京で大暴れしてみたいがの。土方氏!わしゃ、ちと永倉氏見て来るわ。決まったら教えてくれぇ!(と、行く)
土方 ああ…。

 そこへ戻って来る、井上と藤堂。

井上 やっと寝付いたよ。
藤堂 総司!血がたぎるなぁ!!近藤さん、行く時ゃ一声かけて下さいよ?微力ながら、この藤堂平助!一命を賭けてお供しやすんで!!
山南 格好つけてんじゃないよ。じゃ、源さん…将棋でも指しながら気長に 待とうかね。
井上 お、おう…そうするか?
藤堂 じゃ、俺も!
土方 俺も行くかな。
井上 え?歳ちゃんは、だって…。
土方 うるせぇのがいねぇ方がいい時もあんだよ。
近藤 …。
土方 勝っちゃん…俺覚えてんだぜ。二人で黒船見に行ったろ?俺はどうでもいいって言ってんのに、無理やり引きずられてよぉ…敵の戦力を分析するんだっつって。
山南 そんな事があったのかい?
土方 ああ…ドンドコドンドコやかましい空砲鳴らしてるだけだってのに、視察に来てた奉行所の役人は腰抜かしちまってオロオロ這いずり回っててよぉ!んな、腐っちまった三河武士の成れの果てを鬼みてぇな面で睨みつけてさ…勝っちゃん、言ってたじゃねぇか。この国は自分が守るっつって…将軍様も帝も、自分がその腕で守ってやるっつってよぉ…黒船の夷人共に、本物の武士を見せつけてやるって…大それた事言いやがるって内心思いながらも…格好よかったぜ…。
近藤 …。
土方 じゃ…まぁ、そういう事だ。行こうか!
井上 あ、ああ…。
山南 ふふ…。

 近藤と沖田を残し、皆去る。

沖田 …。
近藤 総司、気が乗らねぇか?
沖田 いえ!私は先生が行く所はどこまでだってついて行きますよ。
近藤 …。
沖田 ですから、先生のお好きなように…
近藤 ああ…分相応か…。

 と、沖田、人の気配を感じる。

沖田 誰だ!?
近藤 うん?

 その声に、植木の陰からひょっこり顔を出したのは、京へ行ってるはずの鈴木泰之進だった。

鈴木 司か!?近藤先生も!
沖田 泰之進さん!!どうして?京に行ったはずじゃ…
近藤 …。
鈴木 久しぶりじゃのう、司!!
近藤 帰ぇって来たのか?
鈴木 はい、一昨日の晩に。すぐ来ようと思ったんですが、バタバタしてて…。
近藤 何だって、こんな裏口から…お前ぇ…、
鈴木 すいません!玄関口で声はかけたんですが…。
近藤 そうかい…。
沖田 懐かしいなぁ!何ヶ月ぶりだろう?
鈴木 まだそんなに経っとらんじゃろ。
近藤 積もる話もあんだろ。ゆっくりしてけよ。
鈴木 あ、はい!…すいません、手ぶらで…慌ててて…。
近藤 いいって事よ!(と、席を外そうとする)
沖田 先生、
近藤 でぇじょうぶさ。お前ぇが見極めな。俺は一を見て来る…。
沖田 はい…。
鈴木 お邪魔します!
近藤 …京はどうだ?
鈴木 はい!忙しいけど、毎日充実しております。
近藤 そりゃよかった。腕は落ちてねぇだろうな?
鈴木 はい!また稽古つけて頂く為、日々精進してるつもりです。
近藤 おう!(と、行く)
沖田 …。
鈴木 元気にしとったか?司!
沖田 ふふ…。
鈴木 何じゃ?
沖田 泰之進さん、私はもう司ではないのだよ。
鈴木 何じゃ、それは?司は司じゃろ?
沖田 それはそうなんだけど…改名したんだ。今は沖田総司さ!
鈴木 総司?
沖田 ああ!もうすぐ京に行くと最後に立ち寄った際、言ってくれたじゃないか。剣だけじゃなく、総てを司れと。己に潜む何もかも総て…だから、総司さ。
鈴木 おお、いい名じゃ!
沖田 何だ、もう忘れたのか?
鈴木 いや、忘れとらん忘れとらん!あの時はすまんかったの。僕もよく分かってもおらんかったくせに、随分と偉そうに君に意見してしもうた。
沖田 …。
鈴木 何だ?
沖田 いや…木刀を持って来ようか?またあの時のように剣で語り合おう!
鈴木 ああ…もう夜も遅いし、今日はよしとくよ。
沖田 そうか…仲間には会えましたか?京で。
鈴木 ああ、皆必死だ。一緒にいると常に緊張感があって、一日一日生きてる事を実感させられる。
沖田 それは命のやり取りをしてるという事ですか…?
鈴木 …それに近い事もある…。
沖田 だと思った。
鈴木 総司…僕は何か変わったか?
沖田 目が…少し…
鈴木 …。
沖田 …泰之進さん、人を斬っただろ?
鈴木 …君はまだか?
沖田 ああ…まだだ。
鈴木 なぁ、総司…僕は近日中に死ぬかもしれん。
沖田 !…何を言い出すんですか、いきなり!?
鈴木 実は今日それを君に伝えに来た。僕達はこの度、攘夷を決行する!
沖田 …夷人を斬るのか?
鈴木 ああ…どういう計画かは詳しく話せないが、近いうちに江戸中…もちろん君も知る事になるだろう。
沖田 …。
鈴木 仮に攘夷が成されようとも、失敗に終わろうとも…君の耳に入る頃には、僕はこの世にはおらんかもしれん。それくらいの覚悟を持ってるよ。
沖田 …やめた方がいい。過激浪士の真似事なんか!
鈴木 真似事なんかじゃない!!
沖田 …。
鈴木 そりゃ…僕達が夷人を斬ったからといって、すぐにどうなるわけじゃない事くらい分かってる。けど、この国の行く末に一石くらいは投じられるつもりじゃ!
沖田 駄目だよ、泰之進さん!すぐにその仲間とは別れるんだ!そして…試衛館に戻って来い!
鈴木 それは…もう出来ん。
沖田 何でだよ!?
鈴木 それは!
沖田 …。
鈴木 なぁ、総司…このままでは日本国は駄目になる。このままでは夷敵にやられるぞ!じゃのに君は何も知ろうとせず、好きな剣術にばかり熱中しとる。歯がゆいよ…君さえ一緒に京に来てくれとったら…
沖田 ほら!後悔してる。京に行った事を!
鈴木 違う!!まさか…いや、愚痴はよしとく。とにかく君は広い視野を持ってくれ。総てを司る為に…これが僕に出来る最後の忠告じゃ!
沖田 …。
鈴木 君の方こそこの試衛館を離れ、自分の足で立ってみろ。京に出て来い!そうすりゃ…
沖田 出ますよ。
鈴木 !?
沖田 ええ、多分…皆で。
鈴木 本当か!?何じゃ…何でそれを早よう言わんのじゃ?
沖田 …言うと、泰之進さん嫌がるだろうから…。
鈴木 嫌がるわけないだろ?そうか…やっと決心をしてくれたか…皆というのは、近藤さんを始め試衛館の皆か?客分の…斉藤君だったっけ?永倉さんとか…彼らも一緒か?
沖田 多分…。
鈴木 そうか…彼等はあまり僕をいいように思うとらんかったみたいじゃからの…複雑じゃが…そうか、そうか!こりゃ、何が何でも生き抜かんとな。京でまた君や近藤さん達と会えるように!
沖田 …ああ…。
鈴木 どうした?共に日の本の為…天子様の為に、紛争しようぞ!!

 と、そこへ現れる、永倉と原田。

永倉 いつまでシラ切り通すつもりだ?鈴木…。
鈴木 !?
沖田 永倉さん!!
原田 何でそいつがここにおるんなら、総司!そいつは京へ悪さしに出かけたんじゃないんか!?
沖田 やめて下さい、原田さん!失礼でしょ?
永倉 お前こそ何ではっきり言ってやらねぇんだ、沖田?
沖田 …。
鈴木 …いたんですか、永倉さん…に、原田君だったかな?
永倉 今帰って来た所さ。頭冷やしに出かけたのに、てめぇの面見てまた血が昇って来ちまったよ…。
鈴木 …総司から京へ来る事を聞きましたよ。
原田 お前、京で人斬ったじゃろうが?顔つきが変わったぞな。
鈴木 …。
沖田 ほら!もう、二人共…せっかく忙しい中わざわざ私に会いに来てくれたっていうのに…
原田 飛んで火にいる夏の虫じゃのう…総司から聞いとらんのか?
沖田 …泰之進さん!もう遅いから、そろそろ帰った方がいいんじゃないですか?
鈴木 総司…京へ行く話を持ちかけたのは、近藤さんじゃないのか?
沖田 …。

 と、「ビュンッ!」いきなり抜刀し、鈴木に斬りかかる永倉。その剣を引き込み流す、沖田。鈴木の盾になる。原田は槍を振り回し、永倉と反対方向へ回り込む。

鈴木 何のつもりだ、永倉さん!?
永倉 てめぇ達こそ江戸に何しに来やがった!?騒ぎを起こそうとしてんのが見え見えなんだよ。町中長州人だらけじゃねぇか!
原田 そこのけぇ、総司!!
沖田 嫌だ!!二人共何考えてるんだ!道場ですよ!!
永倉 鈴木…てめぇんとこにももう情報は入ってるだろう。俺達は将軍様の保護の為、京の警備をする浪士組に加わる。
鈴木 やはりそうか…。
沖田 まだ決まってないでしょ!?まだ先生が…
永倉 俺は行くぜ。罪のねぇ町人巻き込んで暴れ回ってるてめぇら、斬り殺しになぁ!!
原田 わしもぞな!!

 永倉・原田、鈴木にかかって行く。その鈴木を守りながら、二人を相手に翻弄する沖田。

原田 こりゃ、総司!邪魔するな!!
沖田 原田さんこそ!泰之進さんは試衛館の仲間じゃないですか!!
鈴木 …。
永倉 どけよ、沖田…!
沖田 …剣を納めてくれるなら…言っときますが…私は強いですよ、お二方。
永倉 …。
原田 …。
鈴木 総司…すまん!(走り去ろうとする)
原田 待て、こりゃ!!
永倉 逃げんのか!?貴様、武士だろう!!
鈴木 逃げますとも…僕は志を持った武士じゃからのう…(と、去る)
永倉 待やがれ!!(追おうとする)
沖田 !(立ち塞がる)
永倉 ……分かったよ、もう…!(と、納刀)
原田 降参じゃ、降参。ほんまに、お前は…!
沖田 …すいません…。
原田 永倉氏、飲み直しじゃ。総司!近藤さんにゃ、朝方帰るゆうとってくれぇ!(出かけようとする)
沖田 原田さん!!
原田 分かっとるわい。追いかけたりせんぞな。続きは京に登ってからじゃ。
沖田 …ありがとう!
永倉 沖田…辛ぇだろうが心して聞け。一ちゃん手にかけたのはあの鈴木だ。
沖田 !?
原田 何じゃと!?
永倉 逃げようとして月明かりに照らされた、その面…しっかり拝ませてもらったよ。あいつは俺達の仲間に傷を負わせやがった。
沖田 そう…だったんですか…。
永倉 長州にしてもあいつにしても、一ちゃんは邪魔者だろうからな。辻褄は合う。
沖田 …そうですね…。
永倉 …次は止めるなよ…(と、出て行く)
原田 ……早よ、寝ぇ!(行く)
沖田 …。

 一人残される、沖田。そこへやって来る、井上。

井上 うん?何だ、司坊一人か?
沖田 ああ、源さん…司坊じゃないですよ。子供扱いして。
井上 そっか、そっか!総司だったな。すまねぇ、すまねぇ。
沖田 ま、子供扱いされても仕方ねぇですけど…。
井上 …何かあったのか?
沖田 いいえ。何でもないですよ。へへへ…。
井上 なぁ、司坊!お前は京に行く事、どう思う?
沖田 …よく分からないな…。
井上 そっか。
沖田 しかし先生や歳さんがたけってんのは、分かりますよ。それを感じると私も胸が高鳴ります!
井上 わしもだ!やっとわしら武士気取りの百姓風情から抜け出せる機会が来たかと思うと、血がたぎる。
沖田 源さんが?
井上 ああ、おかしいだろ?だがな、わしのが司坊よりも歳ちゃんよりも勝っちゃんよりも長ぇ事生きてんだから、そりゃ武士に憧れて来た年月もひとしおだ…。
沖田 そうか…。
井上 なぁ、総司!
沖田 へへへ…はい!
井上 よかったな、ここにいて。
沖田 はい!もちろん!!
井上 ふふ…ああ、たまたまなんだよ。生まれて来てたまたま近藤先生や歳ちゃんと出会って、この試衛館に入った。たまたまの巡り合わせで、山南や永倉、原田に藤堂に斉藤みてぇなのも来て…たまたまこんな凄ぇ機会が巡って来た。世の中は思いもよらねぇ事だらけだ。
沖田 そうですね、本当に。後はそれを受け止めて…乗り越えるのみ…あるがままに…私は、私の誠を貫きましょう。
井上 …元気が一番さ。京についたらバッチバチに働こうな!
沖田 源さん、京に行くんですか?
井上 あたぼうよ。お前ぇも行くさ!
沖田 ええ。私は自分の足で、先生や歳さん…この試衛館の皆の横に立ってるんでさ!
井上 何だよ、そりゃ?
沖田 へへへ…何でもありませんよ。ありがとう、源さん。
井上 なぁんだよ、そりゃぁ…ははは…。
沖田 うん…へへへ…。

 ―暗転―

 場面は変わり、近藤とツネの部屋。たまこに子守唄を歌ってる、ツネ。そこへ来る、近藤。

近藤 …月が翳って来やがってよ。一雨降りそうだな…。
ツネ …もう皆様方は横になられたのですか?
近藤 ああ、もう寝てるんじゃねぇか?一もやっと寝付いたみてぇだし。
ツネ とんだ災難でございましたね、斉藤様も。
近藤 ああ…。
ツネ そんなに気性の荒い風には見えませんのに。
近藤 …たまこはもう寝たか?
ツネ 旦那様…まだご決心がつきませぬか?
近藤 …何の事だ?
ツネ 失礼ながら、先程皆様方と話してらした内容を、つい耳に入れてしまいましたの。
近藤 聞いてたのかい?

 と、雨が降り始める。その空を見に行く、近藤。

ツネ はい…申し訳ありません。ただ旦那様はお人がよろしいので、このまま放っておくと皆様方だけ京に行かせて、自分はここに残ると言い兼ねませんゆえ、口に出させてもらいました。
近藤 …お前ぇは俺に京に行けと?
ツネ ツネの心は決まっておりまする。
近藤 俺もさ!
ツネ ならば…常日頃旦那様の仰ってる通り、将軍家の為にその剣術を持ってお働き下さいませ。
近藤 何だよ…はは…。
ツネ 笑うのは失礼です、旦那様。これでもツネは、身を切るような思いで…
近藤 ああ、分かってるよ…ありがとうよ、ツネ。
ツネ ツネは待っております。たまこと二人で…ご隠居様の事もご心配なさらずとも、しっかりお世話をさせて頂きますゆえ…思う存分、ご自分をお試しになって来て下さいませ。
近藤 嬉しいなぁ…こんな嬉しい事はねぇ。血がたぎってかなわねぇや。やっと…やっとこの動乱の最中、腕を奮える時が来た。
ツネ …(微笑んでいる)
近藤 (空を見上げる)…天の神さんも祝福してくれてらぁ…。

 そこへ、部屋の外から声をかける鈴木。

鈴木 (声)失礼します。近藤先生はここへおいででしょうか?
ツネ ヒッ!
近藤 ……泰之進か?
鈴木 はい…中へ入れてもらえませんでしょうか?
近藤 …ツネ、たまこ連れて歳の部屋へ行ってろ…。
ツネ はい…。
近藤 おう、入っていいぜ。
ツネ 失礼します…(と、出ていく)

 ツネと入れ替わりにぬらりと入って来る、鈴木。手には抜き身の刀。

鈴木 …。
近藤 おう…そんな物騒なもんしまって、ここ来て座れよ。
鈴木 …。
近藤 お前ぇ、総司と喋ってたんじゃねぇのか?どこ行ったんだよ、あいつは?
鈴木 …。
近藤 黙ってちゃわかんねぇよ。泰之進…刀しまって、こっちに来い。

 そこへ来る、土方。

土方 駄目だぜ、勝っちゃん!
近藤 …。
鈴木 くっ…。
土方 いい加減にしとけよ、クソガキ。誰に刀抜いてんだよ!?
近藤 総司は?
土方 さぁな…見てねぇ。
鈴木 だぁー!!

 「ブンッ!」二人の間に割って入る、鈴木。二人、転がるようによける。

土方 やりやがったな、てめぇ!!(抜刀)
近藤 やめろ、歳!
土方 馬鹿言ってんじゃねぇよ…言葉が通じる面かよ!?
鈴木 だりゃぁ!!

 再び斬りかかる、鈴木。「キンッ!キンッ!」土方、応戦するも剣を落とされ、更に切っ先をつきつけられる。

鈴木 …。
土方 てめぇ…!
鈴木 近藤さん!京に我々尊王の志士の邪魔をしに来ると聞きました。本当ですか?
近藤 …。

 土方、隙をつき鞘で剣を弾き、逃れる。それを追う、鈴木。その隙に土方の剣を拾う、近藤。

土方 てめぇこそ何しでかしてんのか、分かってんのか!?殺すぞ!!
近藤 …てめぇらが世の中乱すってんなら…邪魔になるだろうよ。
鈴木 …ぐぐっ…!
近藤 ちょうどいいや。剣で語ってみろよ…泰之進。

 「ブンッ!ブンッ!」空を切る、鈴木の剣。

土方 気をつけろよ、勝っちゃん!
近藤 おお、分かってら!
鈴木 なぜ僕達のしようとしとる事が分からんのじゃ!!
土方 ちっ…大声出すんじゃねぇ。総司に聞こえんだろ!
鈴木 近藤さん!今の幕府を見ろ!守る価値がどこにある!?ぬくぬくと泰平の世に溺れ、派閥だ賄賂だと他人から得られる事に慣れきって自分の意志を持てない輩で回っている政府を!!外国の言われるまま奴隷国になるのを怯えて待ってるだけの、この見るも無残な我が国を…なぜ建て直そうとするのが、いけない事だと言うんじゃー!!
土方 それでてめぇらは何したってんだ?罪もねぇ人間まで巻き込んで殺して騒ぎ立てて…馬鹿じゃねぇのか?礎ってのは、んな軽ぃもんじゃねぇだろ。世の中ひっくり返して、その馬鹿ばっかで、どんな国にしようってんだよ?そっちのが安心出来ねぇよ!
鈴木 貴様…言うに事欠いて…!
近藤 泰之進…理屈は何だっていいやな。徳川家を無下にするって事はよ、昨日まで飯食わせて面倒見てくれてた人間に対する裏切りにしか取れねぇんだよ、俺は…。
鈴木 分かってくれんのか…。
土方 分かってねぇのは、てめぇの方だろうが!てめぇ、勝っちゃんに可愛がられてたんじゃねぇのかよ!?
鈴木 僕だって!!僕にだって、もうどうにもならんのじゃ…時代が動いとる…敵に君達がおるのは厄介な事じゃ。総司も皆…死んでもらう…。
近藤 …させるかよ…!
鈴木 でりゃぁ!!

 鈴木、近藤に斬りかかる。一本、二本、三本目の突きを近藤がかわした刹那…「ドスッ!」正面から飛び込んで来た沖田の突きが、鈴木の腹を貫いた。

近藤 !?
鈴木 がっ…がはっ…が…
沖田 …くっ…くっ…
土方 総司…、
鈴木 …(転がり、這いずり回る)
沖田 馬鹿だなぁ、泰之進さん。教えたでしょ?それじゃ…三本突いただけだと…。
鈴木 司…、
沖田 泰之進!!
鈴木 ぐはっ…はぁ…
沖田 どんな理由や思想があったとしても…私の見てる前で近藤先生を襲っちゃいけないよ…。
鈴木 くっ…殺せぇ!殺せ…殺…せ…殺…
沖田 …。
近藤 バカヤロウ…。

 「ズバン!」振り下ろした近藤の剣に、崩れ落ちる鈴木。ますます雨は激しくなる。雷鳴轟く中…。

近藤 総司…すまねぇな。
沖田 大丈夫ですよ。へへ…。
近藤 行けるか、京へ?
沖田 行きます!
土方 喜んでついて来りゃいいんだよ。犬っころなんだから。
沖田 歳さんこそ!
近藤 走るぞ、京で!!
土方 ったりめぇだー!!
沖田 (何度も何度も頷く)はい!!

 ―暗転―

―エピローグ―
 とある民家。布団に寝ている、沖田総司。そばに座り、看病している姉のミツ。

沖田 !…姉様…?
ミツ はぁ…よかった。目を覚ましてくれましたね、総司!
沖田 なぜ姉様が?周平君は?私は周平君に泰之進さんの事を…
ミツ 驚きましたよ。奥方様と帰り道にあんみつを戴いてたら、周平さんが顔をくしゃくしゃにしてお店に走り込んでいらして…。
沖田 なぜでしょう?
ミツ ふふ…あなたが話の途中でパタリと倒れ込んで、そのまま眠ってしまったのを勘違いして、私を呼びに戻ってくれたのですよ。お侍様が大粒の涙を流して町中走り回るなんて…いい弟子を持ちましたね。
沖田 そうだったんですか?悪い事したな…本当は恥をかくのが大嫌いだったんです、周平君は…あんみつを食べてたんですか?いいなぁ…奥方様は?
ミツ 帰られましたよ。さっきまで一緒に連れ添って頂いてたんですよ。
沖田 寝ちゃったのか…こんこんっ…。
ミツ 今白湯を入れて参ります。
沖田 あんみつがいいな。
ミツ 元気になったらおごって差し上げますよ…(と、奥へ)
沖田 こんっこんっ…寒いな…こんっ…。

 沖田、立ち上がり剣を振る。が、すっ転んでしまう。

沖田 ごほごほっ…大丈夫…今日は調子がいいんだ…何だ、桜か…雪でも降りゃぁいいのにな…今頃皆どうしてんのかな?近藤先生!!歳さん!!永倉さんに原田さん…斉藤さん…皆今甲府にいるんですよね…私は…山南さん、源さん、平助…皆京に残して来ちまったな…京か…私は…ケンケンッ…私はまだ生きてますよ…泰之進さん…。

 FIN

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