アイムア召し使い ドラマ

ホテルでバイトする青年の話
15 1 0 08/12
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第一稿

〇ホテルカンザキ・外観( 夜)
『ホテルカンザキ』の看板がある。

〇同・フロント( 夜)
谷正博( 45) と照井優( 25) が入る。
従業員達が谷らをVIP ...続きを読む
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〇ホテルカンザキ・外観( 夜)
『ホテルカンザキ』の看板がある。

〇同・フロント( 夜)
谷正博( 45) と照井優( 25) が入る。
従業員達が谷らをVIPのような扱いをす る。そして神崎士( 55) が歩み寄り

神崎「これはこれは谷様と照井様。この度は 当ホテルをご利用頂き誠にありがとうござい ます( と頭を下げる) 」 谷と照井、フロントに向かう。
フロントに立つ舞川卯月( 18) 、挨拶と 会釈を済ませチェックインの手続きをする
照井「凄いね、ここ。VIPって感じ」
谷、答えず、舞川を見る。
照井「どうしたの」
谷「いや、なんでもない」 と手続きが終わり谷と照井、去る。 舞川、去る谷の後ろ姿を鋭く見つめる。

〇同・外( 日替わり・早朝)
『関係者以外立ち入り禁止』とある扉を開 く村上紘汰( 18) 。

〇同・従業員通路( 早朝)

ホテルの従業員の制服を着た紘汰。 その周りを他の従業員たちが囲む。
総支配人の神崎が紘汰の肩をたたき、

神崎「今日からフロントで働いてもらう村上 紘汰君だ」
紘汰「よろしくお願いします」 と頭を下げる。従業員達が拍手する。

神崎「村上君は高校生だ。社会経験が少ない から皆でサポートしてやってくれ」
ざわめく従業員達。その中の一人の最上敏 明( 29) が二人に近づき、

最上「え、子供にフロント任せるんですか」
神崎「バイトとはいえ数少ない我がホテルの 貴重な従業員だ。即、戦力にしたい。一応フロント関係の勉強は事前にしてくれたしね」

最上「うーん、まあ俺はいいですけど」 とさらに村上に近づき

最上「客室係を担当してる最上敏明だ、よろ しく」 村上「よろしくお願いします」

神崎「じゃ、そろそろ持ち場についてくれ」 従業員達、「はい」と言い、去る。

最上「じゃ、俺たちも行くか」 紘汰、「はい」と言い最上についていく。

〇同・フロント( 早朝)

客やベルマン等の従業員達がいる。 緊張してフロントに立つ紘汰。 そこへ外国人の客a が現れる。

紘汰「( 慌てて) いらっしゃいませ。当ホテ ルのご予約はされてますか」 客a 、外国語を話し始める。
紘汰M「初っ端から外国人かよ」

と固まってしまう。 そこへ二人の間に入るように舞川が入る。 そして外国語で応対し始める。

紘汰「( 圧倒され) すげえ」

舞川、客a の応対を済ませる
紘汰「あ、ありがとうございます」

舞川「ネクタイ」
紘汰、ネクタイが緩んでることに気づき、 直す。

舞川「靴紐も緩みかけてます」

紘汰「あ、( すいませんと言いかける) 」

舞川「後ろ髪も規則の0・3㎝程長いですし 何より接客の際の表情が硬すぎます」
紘汰、怒涛の注意に圧倒される。
舞川「外国語を話せないのは目を瞑ります。 ですが、せめて人としてのマナーは守ってく ださい」 と不愛想に言い、去る。
紘汰、ぽかんとし舞川の背中を見る。

〇ホテルカンザキ・従業員通路( 夕方)
フロントの仕事が終わった紘汰。 そこへ最上が寄ってくる。
最上「お、新人。どうだった」

紘汰「うーん、なんとか上司の方に助けて頂 いて切り抜けたんですけど」
最上「( 察して) あー、舞川卯月のことか」
紘汰「舞川?」
最上「名札見なかったのか、あの口うるさい 奴のことだよ」
紘汰「あー、って口うるさいって」
最上「事実だろあいつに俺も散々言われた」 紘汰「まぁ、確かに……」

( フラッシュ) 〇同・一階フロント( 紘汰の回想) 予約の手続きを終わらせる紘汰。
紘汰M「結構スムーズに進められたな」

舞川「( 紘汰の耳元に) もう少しスムーズにお願いできますか」

紘汰「……はい」

×××
意識して姿勢よく歩く紘汰。
舞川「もう少し奇麗に歩けませんか」
紘汰「え?歩き方汚いですか?」
舞川「赤ん坊の歩き方の方が奇麗ですよ」
紘汰「( 悲しそうに) はい」 ( 回想終わり)

〇同・従業員通路( 夕方)
最上「( 大笑いし) そりゃキツイな」
紘汰「僕の為に言ってくれていますけどね」
最上「ホントにそうか」
紘汰「え?」
最上「舞川はよく支配人直々に新人の世話を 頼まれてるんだがあいつの抱える仕事が多すぎて新人に八つ当たりしてるんじゃって言わ れてるんだ」
紘汰「ホントですか、それ」
最上「あいつ、ホテルで働いてまだ一年も経 ってないんだ。でもその働きぶりは他のホテ ルでも評判になるほどでな」

紘汰「( 驚き) そうなんですか」
最上「以前、都内のデカい高級ホテルに引き 抜きの話をもちかけられたらしい。なぜか蹴 ったそうだが」
紘汰「……スゲえ」
最上「じゃあ俺ミーティングあるから」
紘汰「分かりました。お先に失礼します」
×××
歩いてる紘汰の向かいから舞川が歩く。
紘汰「( 気づき) 舞川さん今日はご迷惑をお かけしました」
舞川「( 歩みを止めて) 村上君は何でここで 働こうと思ったの」

紘汰「家が貧乏な母子家庭でこれ以上、母に 迷惑をかけれないと思いまして。ここ、給料 もいいですし」
舞川「別にその考え方を否定するつもりはな いけどそのいい給料に見合った働きをしてく ださい」

紘汰「……善処します」
舞川「私とそんな歳変わらないんですから。 もっとできるはずです」

紘汰「( 驚き) え、おいくつでしたっけ」
舞川「18の高3です」
紘汰「嘘!えっ、ちなみにどこ高ですか」
舞川「○×高校( 架空) です」
紘汰「あのメッチャ賢いとこですか」
舞川「とにかく明日からは勤務内容を充実さ せたものにできるよう、努力してください」

紘汰「りょ、了解しました」
舞川「では私は夜勤があるので」

紘汰「え、舞川さん朝から働いてましたよね ここって八時間交代の筈じゃ」
舞川「土日は夜勤も担当しているので」
紘汰「高校生なのにいいんですか」
舞川「私の高校はもう春休みで私は大学も決まったのでお気になさらず」

紘汰「はぁ……」
舞川「ではまた明日」 と去る。 その時、紘汰のスマホが鳴り、取り出す
紘汰「真司か」
着信先は羽生真司( 18) から
紘汰「もしもし、どうした」

真司の声「どう?バイトは」
紘汰「いやー1人の先輩が厳しくてさ」
真司の声「そうなん」
紘汰「歩き方から指導されてさ、赤ん坊のが 上手いって」

真司の声「( 吹き出し) ボロクソ言うやん」

紘汰「で、何の用」
真司の声「卒業間際のお別れパーティーがあ るらしくて。お前来る?」
紘汰「結構シフト入ってるから厳しいかな」
真司の声「分かった」
紘汰「なんかごめんな」
真司の声「いいよ。お前が頑張って働いてんのは母さんの為って分かってるから」

紘汰「……ありがとな」
真司の声「でも無理すんなよ。ホテルマンっ て特にストレス溜まるらしいし。じゃあまた いつか遊ぼうな」 と電話が切れる。
真司、クラスのグループLINEを見る。 内容はパーティーの詳細で、見て溜息をつ く。

〇同・玄関付近( 夜)
仕事終わりで歩く紘汰。 紘汰、ホテルの玄関の外で舞川と父の順一 郎( 54) が言い争うのを目撃する。

順一郎「俺はお前と久しぶりに会いたくて」

舞川「迷惑です。泊りもしないくせに」
順一郎「( はぐらかすように) ちゃんとでき てんのか、仕事は」

舞川「関係ないでしょ、あなたには」 と睨む。 順一郎「わかったよ」 と言い、去る。

紘汰、舞川に声をかけ近づく。

紘汰「どなたですか、あの人」
舞川「……知りません」
紘汰「……そうですか」

舞川「( 取り繕うように) あ、探してたんで すよこれ渡すの忘れてましたから」
差し出したのは少しボロボロの本。
舞川「私がいつも新人に渡してるものです」
紘汰、本を受け取り、開く。 そこにはホテルマンの仕事の仕方や礼儀作 法などが載っている。 中には付箋が貼ってあるページもあり拙い 字で注意点が書いてある。

紘汰M「ありがたいけども、思ったより字が あんま上手くないな」

舞川「どうかしました」

紘汰「( 我に返り) いえ何でも」
舞川「この本に基づいて働ければ、ある程度 のマナーや作法は身に付く筈です」
紘汰、じっくり読んでいる。

舞川「別にあなたに期待してないわけじゃな いんですよ。まだ18歳なのに一日ホテルで 働ききれたって時点で凄いと思います」
紘汰「( 感激し) 舞川さん」
舞川「明日はもっと頑張ってください」
紘汰「( 笑顔で) はい」

〇同・一階フロント( 日替わり)
端で客の目に付かないように舞川に叱責さ れる紘汰。

舞川「宿泊カードの記載にあまり時間をかけ ないでください」
紘汰「すいませんでした」
舞川「分かったのなら持ち場に戻ってくださ い」

紘汰、謝り、フロントに戻る。 フロントへ派手な女装をした男の客が来る。
紘汰「( 驚き) いらっしゃいませ」
男「一泊泊まりたいんだけど」
紘汰「ご予約の方は」

男「してないわ」
紘汰「ではこちらのカードにご記入の方を」 と宿泊カードを手渡し、男が記入する。
紘汰M「すげえのが来たな……」
男、書き終わり、紘汰に手渡す。
紘汰「( 読み上げ) 新田徹様でよろしかった でしょうか」 男の名は新田徹( 35) 。
新田「アンタ、歳はいくつ」
紘汰「( 少し驚き) 18です」

新田「18?なんだか手際が悪いと思ったら 道理でそういうわけね」
紘汰「すいません」
新田「あのね、私らお客様はアンタの練習台 じゃないの、分かってんの?( と怒る) 」

紘汰「重々承知しています。あの、お部屋の 方でご希望などはありますか」
新田、スマホを取り出し、
新田「こんな感じの景色を見たいんだけど」
と絶景の夜景の画像を見せる。
紘汰「でしたらこの×××室がお勧めです」
新田「じゃ、そこで」
紘汰「かしこまりました。お呼びしますので 少々お待ちください。」
新田、不機嫌そうにソファーに座る。 紘汰、新田の方を見る。

〇同・従業員通路( 夜)
舞川に怒られる紘汰。
舞川「あの本読みました?宿泊の手続きに関 して細かくメモをした付箋が貼ってあった筈 なんです。使わないのなら返してください」
紘汰「すいません。もう少し勉強します」
最上の声「( 大声で) お一い、×××室の 新田様を担当したフロント係はいるか」
紘汰と舞川、最上に振り向く。

紘汰「( 最上に駆け寄り) 僕ですけど」

最上「何でも新田様があんまり部屋を気にい てないみたいでこの部屋を選んだフロントの 小僧を連れてきなさい!って」
舞川「謝りにいきますよ。私も一緒にいきま す」
紘汰「……はい、すいません」

〇同・×××室・中( 夜)
新田「ここの景色全然よくないじゃないの。 これみたいなのを期待してたのってのに」 とスマホの画像を見せる。

紘汰「ですが当ホテルからの見晴らしはここ が一番いいと他のお客様からも評判で」 と反論する紘汰を舞川が遮り、
舞川「申し訳ございません」 と頭を下げる。

紘汰「( 舞川に小声で) ちょっと舞川さん」
舞川「( 紘汰に) 新田様のご期待に沿えなか ったこちら側の責任です」
紘汰「しかし、いくらなんでも」
新田「ああ、その娘の言う通りだわ。出張の 癒しをここのホテルの景色に求めた私がバカ だったわ」
紘汰「……申し訳ございません」 と渋々頭を下げる。

舞川「新田様にはこの部屋1ランク上のお部 屋を用意させていただきます」
新田、ニヤッと笑う。
紘汰、その新田の笑顔を見逃さなった。

〇同・従業員通路( 夜)
歩いている紘汰と舞川
紘汰「あのオカマ、絶対部屋のランクを上げ るためだけにこんな難癖つけたんですよ」
舞川「その根拠はどこにあるんですか」

紘汰「だって1ランク上の部屋を用意するっ て言ったときニヤッとしてましたよ。こーん な顔で」 と新田の顔真似をする。

舞川「もしそうだとしても新田様のご期待に 沿えなかった我々の責任です」

紘汰「なんでもかんでも客の言うこと聞いて ればいいってもんじゃないでしょう」

舞川「あなたに何がわかるの」

紘汰「それは( 言葉に詰まる) 」

舞川「たった一人の言動でホテルそのものの 評価が落ちてしまう事だってあるんです」 と、怒りを露わにする。 周囲の人、怒る舞川に反応する。 紘汰、呆気にとられる。

舞川「( 正気になり) とにかくホテルで働く 以上はお客様の召使いになりきってください それが我々の仕事です」
黙り込んでしまう紘汰。 そこへ遠くから最上が紘汰に

最上「紘汰、また新田様から」

紘汰M「……またかよ」

〇同・△△△室・中( 夜)

お菓子を置く紘汰。

舞川「何度も何度もご迷惑をおかけして本当 にすいませんでした。お代は結構ですので」

新田「当然でしょ。上のクラスの部屋の癖に さっきの部屋より客室用のお菓子が少ないっ てどういうことなのよ、全く」
紘汰、新田のポケットからお菓子の袋が入 ってるのを見る。
紘汰M「やっぱり」
舞川「本当に申し訳ございません」

新田「新人育成が上手くいってないようね。 この小僧の部屋割りのせいでこんな目にあっ たんだから」 と菓子を頬張る。
舞川、「謝れ」と紘汰に合図する

紘汰「( 怒りを頑張って隠し、頭を下げなが ら) 申し訳ございません」

新田「あ、後小僧、これからなんかあったと きアンタを呼び出すから帰らないでよ」

紘汰、「えっ」という表情をする。

新田「なによその顔。そりゃアンタのせいで こうなったんだからね」 紘汰、黙る。
新田「返事!」
紘汰「( 怒りを隠しながら) 承知しました」

〇同・廊下( 夜)

歩く紘汰と舞川、気まずい雰囲気。 そこへ谷が声をかける。
谷「ここに、舞川という職員いるか」

紘汰「舞川ならここに( と舞川を見て) 」

谷「あー違う。男だ、中年の」
紘汰「恐らく、いないかと」
谷「そうか、すまなかったな」
谷に舞川が強い視線を送る。

谷「( 気づき) 何だその顔、もう少し愛想よ くできんのか( と舞川の顔を掴む) 」

紘汰「ちょっと!お客様」

舞川「( 谷の手をどかし) 申し訳ございませ ん」
谷「( ハッとし) ……すまなかった」 とそそくさと去る。

紘汰「ここのホテルには嫌な客が多いな」
舞川、谷の背中を睨む 紘汰、そんな舞川を見るが、雰囲気が悪く 声をかけれない。

〇従業員休憩室・中( 夜)

時計は23時頃。 軽食を食べる紘汰、表情が暗い。 そこへ舞川が部屋に入り、近づく。
舞川「お母さんに今日は帰れないって連絡は しましたか」

紘汰「( 小声で) まぁ、はい」

舞川「ちゃんと今日の深夜分のお金は渡すよ うに上に言っておきます。それか明日の8時 からのシフトを休みますか?」

紘汰「休みません。なのでお給料を増やして ください」
舞川「分かりました」

紘汰「……ありがとうございます」
舞川「少し、昔の話をしていいですか」
紘汰「……どうぞ」

舞川「私には尊敬してたホテルマンがいまし た。しかしある日著名なお客様が彼に無茶な 要望や言葉で当たったりしました」

紘汰「どうなったんです」

舞川「彼はつい言い返してしまい、その責任 を取ってそのホテルをクビになりました」

紘汰「そんなバカな」

舞川「さらにそのホテルの評判をそのお客様 が地に落としたんです」 紘汰、言葉が出ない。

舞川「私が異常なまでにお客様第一に考える のはスタッフ一人の行動、言動でホテルの評 判が決まると知ってるからです」

紘汰「……そうだったんですか」

舞川「その話のように私や村上君のクビが切 れてもおかしくはありません。私はあなたに 辞めてほしくはないですしあなたもお金のこ とを考えたら辞めるのは辛いはずです」

紘汰「……確かにそうです」
舞川「あなたの足元を見るような発言なのは 承知しています」

紘汰「いやありがとうございます、気にかけ てくれて」
舞川「では私もシフトがあるので頑張ってく ださい( と去る) 」

〇同・△△△室( 日替わり・夜) 時計は午前2時ごろ ベッドにうつぶせで倒れる新田と新田にマッサージをする紘汰。

紘汰「それでご用件は何でしょうか」

新田「アンタが逃げてないか確かめるためっ てだけよ」
紘汰「……そうですか」
新田「アンタはマッサージに集中すればいい の。私の心と体を癒して頂戴」

紘汰「心って……元気そうですけど」

新田「あら、知らないの?私らの世界の厳し さを。私はもう足を洗ったんだけどね」

紘汰「想像もできないです」

新田「ホテル業界と同じよ。客の満足度を得 られなきゃ即、競争からハブられる。まぁ私 らの客は男だけだけどね。恋愛に発展した客 もいたわ。でも彼は、あいつはすぐに私のこ とを捨てやがった。( と泣き始める) 」 紘汰、何を言えばよいかわからない。

新田「よく見たらアンタあいつに似てるわ」
紘汰「え」 新田、紘汰を押し倒し顔を密着させる。
紘汰「ちょ、ちょっと」

新田「意外とかわいい顔してるじゃない」
新田、さらに紘汰に体を密着させる。

ホテル中に紘汰の叫び声が響き渡る。

〇同・フロント( 夜)

フロントに立つ舞川に谷が近づく。
舞川「どうされました」

谷「つかぬことをお聞きするが君の父がここ で働いてた、なんてことはないか」

舞川「このホテルに私以外に舞川という従業 員はいません」
谷「以前私がここを使った時、私に暴言を吐 いた舞川という男がいてね」
舞川、押し黙る。
谷「もしかして君は舞川の娘じゃ」
舞川「( 遮り) 人違いです」
谷「……そうか、すまなかった( と去る) 」

〇同・フロント 最上がフロントの紘汰に近づく。 最上「( 小声で) そろそろ飯食わねえか」

紘汰「昼休みですね、わかりました」
最上「ところで昨日のオカマどうなった」
紘汰「割と穏便に済みました」
最上「え!すげえなお前」
紘汰「あー実はあの人は( と言いだそうとする) 」 付近で神崎と舞川が客に謝っている。
紘汰「( 客を見て) あれって」
その客は遠山凛( 29) 。 紘汰「( 遠山に) 遠山先生」 と歩み寄る。
遠山「村上君」
紘汰「何でここに。ってかなんで支配人と舞 川さんが謝ってるんですか」
舞川、答えづらそうな表情。
神崎「ちょっと来てくれ」
とフロントの端に紘汰を連れだす。

神崎「君の先生なのか?遠山様は」
紘汰「僕の学校の担任です」
神崎「実はな遠山様がここで挙式するご予定 の筈だったんだが、こちら側に事情ができて 見送って頂くことにしたんだ」

紘汰「事情ってなんですか」
神崎「( 言いにくそうに) それは……」
遠山「村上君、ここで働いてたんだ」 と近寄る。 紘汰「あ、はい」

遠山「仕事はしっかり出来てるの?勉強の方 はあれだけど」 と笑う。
紘汰「ちょっと!やめてくださいよ」 と慌てる。
遠山「( 神崎に向かって) ちょっとこの子と 話させてくれませんか」

〇同・玄関付近・外

遠山「ここで挙式するの諦めることにする」
紘汰「いいんですか」

遠山「しょうがないよ」

紘汰「申し訳ございません。我々の事情のせ いでこんなことに」 と頭を下げる。 遠山、笑い始める。
紘汰「どうかしましたか」

遠山「いや、なんか変な感じだなって」 と笑い続ける。
紘汰「確かにそうですけど」
遠山「教師が生徒に頭下げられたら許すしか ないよ」
紘汰「……ありがとうございます」
遠山「でも村上君、大学が決まってからすぐ ここで働くなんて凄いね」
紘汰「そんなことないですよ」
遠山「18で家族の為にホテルで働くって凄 いよ」

紘汰「ところで結婚式どうするんです」

遠山「当分は無理かな」
紘汰「なんでですか」

遠山「この時期どこの式場も予約一杯で。し かもそれが終わっても私が新年度から忙しい し。一か月前に予約できたんだけどなぁ」
紘汰「……そうなんですか」
遠山「気にしないで、じゃあ頑張って」 と去る。

〇同・フロント

悲しげにフロントに戻る紘汰、目にしたの は従業員達に良待遇を受ける谷と照井。 神崎と舞川、谷に接客する。
神崎「谷様の結婚式を当ホテルで挙げさせて 頂くなんて身に余る光栄です」
谷「昨日予約して一週間後に式を用意してく れるとは準備が早くて助かるよ」
照川「( 谷にくっつき) 楽しみだね」

紘汰、谷の声が聞こえエッと声を漏らす

〇同・関係者休憩室・中( 夕方)
時計は17時頃を指している。 軽食を食べる舞川、顔色が浮かばない。 そこへ紘汰が入ってくる。

紘汰「どういうことです舞川さん」
舞川「どういうこととは」

紘汰「なんであのお客様よりも早く予約して た遠山さんが式を挙げれないんですか」
舞川「あのお客様、谷正博様は政治家の方で 次の選挙にご出馬されるそうでその選挙の前 に挙式したいというご希望に基づいて」
紘汰「( 遮り) おかしいでしょ。なんでその 為に遠山さんが式を挙げられないんですか」
舞川「それは( と言葉が続かない) 」 とそこへ神崎が来る。
神崎「村上君、分かってくれ」
紘汰「支配人まで」

神崎「ここのホテルは谷様とはあまりよくな い過去がある。今回結婚式のご予約をされた だけでも御の字だ」
紘汰「何故昨日と今日でここに泊まって」
神崎「結婚式の下見だそうだ」
紘汰「先生も同じように下見に来たのに」
神崎「とにかく理解してくれ」 と去る。
舞川、何も言えず、気まずそうに去る。 紘汰、怒りで部屋の壁を殴る。

〇同・玄関付近( 夜)
無気力そうに歩く紘汰、目前に順一郎が。 順一郎、何やらソワソワしている

紘汰「( 気づき) 何をされてるんですか」
順一郎、「わッ」と声を上げる
順一郎「君には関係ない」
紘汰「舞川さんと前喋ってましたよね」
順一郎「なんで卯月のことを」
紘汰「僕の上司だからです」 順一郎「何?」

×××
付近の端で座る二人。
紘汰「じゃああなたが舞川さんのお父さん」
順一郎「って言っていいのかな」
紘汰「え」
順一郎「離婚したんだ、数年前に」

紘汰「……そうでしたか」
順一郎「数か月前からあいつがここで働いて るって聞いてさ。一目あいつが働くとこを見 てみたくて」

紘汰「でも以前もいらしてましたよね。あま り、その雰囲気はよくなさそうでしたけど」

順一郎「……見てたのか」
紘汰「( 口を滑らしたと思い) すいません」
順一郎「俺も実はここで働いてたんだ」
紘汰「( 驚き) そうなんですか」

順一郎「卯月もガキの頃からホテルマンにな りたがっててさ。それが俺の影響かどうかは わからないがな。で俺はあいつに色んなこと を教えた。特にホテルマンの仕事はお客の召 使いって何度も言った」 紘汰「召使い、ですか」
順一郎「だが俺は召使いをクビになった」
紘汰「なんでですか」

順一郎「何年か前に谷っていう政治家がやっ てきてさ、これまた横暴な奴でよ。政界では 実力者らしいが人柄は最悪でな。俺が関わっ た客の中でもぶっちぎりのNO1屑だった。 で、俺は耐えかねて口喧嘩してしまった」

紘汰「それで、クビになるんですか」
順一郎「政治家パワーってやつだ。うちの評 判を下げに下げやがった」
と乾いた笑いをこぼす。
順一郎「同僚や妻、娘とありとあらゆる人間 に見放された。特に卯月は嫌われてるだろな ( と笑う) 」 紘汰「( 何と返していいかわからず) どうで しょうね」

順一郎「自分語りにつきあってくれてありが とな」 紘汰、「いえいえ」と返す。

順一郎「じゃ、娘に嫌われてくるよ」 と笑い、去る。
紘汰M「( ハッとし) 谷ってまさか」
×××( フラッシュ・紘汰の回想)
ホテルのフロントで良待遇を受ける谷。
×××( 回想終わり)

〇繁華街( 夜)
思い更けている紘汰、歩いている。 そこへ「紘汰」と声をかけ真司が近づく。
紘汰「真司」
真司「バイト帰りか」
紘汰「( 顔が浮かばず) まぁ、うん」
真司「楽しかったよ卒業パーティー。 厳密に言えば卒業前だけど」
紘汰「( 顔が浮かばず) そうか」
真司「( 気づき) なんかあったの」

紘汰「いや別に( とはぐらかす) 」

真司「そうか。しかしクラスの連中お前のこ と気にかけてたよ」
紘汰「そうなん」

真司「ま、俺を除いてだけど( と笑う) 」

紘汰「おい( と突っ込む) 」
紘汰、目が疲れている様子
真司「お前疲れてんのか」
紘汰「( 強がり) ……そんなことないよ」

真司「これやるよ」 とガムを手渡す。
紘汰「ああ、サンキュ」 とガムを貰い一枚引き出す。 それはドッキリガムで紘汰、ひっかかる。
真司「どうだ、痛さで目、覚めただろ」
紘汰「高3にもなると痛くなくなるんだよな これ。だからそんなに」
真司「でもお前、絶対疲れてるよ」
紘汰「なんでだよ」

真司「今日、クラス全員にこれやったけど引 っかかったのお前だけだもん」
紘汰、何も言えない。
真司「少しは俺を頼れ。お前が思ってるより 俺は頼もしいよ( と笑う) 」

紘汰「……ありがとう」
真司「お前が苦労してんのは知ってるからさ。 俺に出来ることなら助けるよ」
紘汰、ハッと何かを思いつき

紘汰「じゃあ、早速頼みがある」

真司「ああ、なんでも来い( と笑う) 」

〇ホテルカンザキ・関係者通路( 日替わり)
T「一週間後」

結婚式の準備で慌ただしい。 紘汰と舞川、すれ違い、足を止める。
紘汰「どうしても、やるんですね」
舞川「あなたには申し訳ないと思ってる」
紘汰「先生に言ってくださいよ、それ」
舞川「……本当にごめんなさい」

紘汰「ホテルマンはお客の召使い、だから仕 方ないのは知ってますよ」

舞川「……ありがとう」
紘汰「あ、後以前言ったとおりそろそろ用事 で帰宅します」

舞川「前に言ってましたね、そういえば」
紘汰「はい、申し訳ないです」
舞川「仕方ないですよ。ではそろそろ谷様と 照井様の手続きがあるので」 と去る。 紘汰、携帯取り出し真司に電話をする。
紘汰「( 携帯を耳にかざし) 言った通り12 時過ぎから。そっちはどう」

〇広場
真司、携帯で通話している。
真司「それなりに集まってきたよ」 周りには十数名ほどのクラスメートが。
真司「あ、今来たよ、今日の主役が」 遠山と婚約者の男がやってくる。

〇同・玄関
時計の秒針が12時を指す。 谷と照井がホテルに入り、従業員達にVI Pのような待遇をされる。 神崎「( 近づき) 谷様、照井様、この度のご 結婚、誠におめでとうございます」
谷「( 神崎に) ありがとう、少しフロントに 寄ってもいいかい」

〇同・従業員通路
従業員らが「谷様がいらしたぞ」「早く会 場の準備を終わらせるぞ」と言い、持ち場 に向かいほとんどが去る。
紘汰「( 無線で) 最上さん、会議室の方はど うですか」

〇同・従業員会議室・中
数名の従業員が作業している。 まるで式場のような準備がされている。
最上「( 無線で) ああ、確保できてるよ」
紘汰の声「ありがとうございます」
最上「しっかし思い切ったことやるなぁ」

〇同・従業員休憩室・中( 最上の回想)
最上「( 驚き) 空いてる部屋で結婚式を」
紘汰「今回の結婚式の件、明らかにおかしい と思いませんか」
最上「まぁ、そうだけどさ」
紘汰「正直お客様を差別するなんておかしい と思うんですよ」
最上「でも俺一人だけじゃなぁ」
紘汰「最上さんだけじゃないです」
最上「え」
紘汰「遠山さんを担当してたコンシェルジュ の方や式場設営されてる方、他にもたくさん、僕に協力してくれる人を見つけました」
最上「……俺は何をすればいい」
紘汰「会場の確保を」
最上「いつも使ってるミーティングの会議室 なら昼空いてるかもしれない」
紘汰「( 感激し) ありがとうございます( と 頭を下げる) 」 ( 回想終わり)

〇同・表
「関係者以外立ち入り禁止」の扉から紘汰 が顔を出す。 付近には真司含む十数名のクラスメートと 遠山と婚約者の男がいる。
紘汰「今なら他のスタッフいないから早く」

〇同・従業員道路
紘汰「( 真司達を率いて) こっちが更衣室で あっちがトイレです」

遠山「紘汰君、私たちちょっと式用の服に着 替えていいかな」
紘汰「もちろん、どうぞ」 遠山と婚約者の男、更衣室へ行く。
男生徒a 「俺トイレ行きてえ」
紘汰「トイレぐらい先いっとけよ」
男生徒a 「わりぃわりぃ( とトイレへ) 」
紘汰「( 真司に) ありがとな、こんなに人集 めてくれて」
真司「( 格好つけて) 礼には及ばねえよ。後 いねえやつはビデオ通話で参加するらしい」
紘汰「ホントにありがとう」

〇同・フロント
フロントに立つ舞川に神崎や従業員をつれた谷と照井が近づく。
舞川「どうされました」
谷「しつこい男だと思われても構わない。だ がもし君が舞川順一郎の娘だったら聞いてく れ」
舞川「……今更何なんですか」
神崎「( 止めるように) 舞川君」
舞川「ここのホテルの評判下げて、間接的と はいえ父さんをクビにして、今更何なんです か、何しにきたんですか?」

神崎「( 怒り) 止めろ舞川」
人々の間に数秒の沈黙が流れる。 数人の従業員が神崎に近づく。
従業員a 「支配人ちょっといいですか」
神崎「なんだ」
従業員a 「それが式の準備にあたるスタッフ の数が少し少なくて」
神崎「なに( と驚き従業員通路へ向かう) 」

〇同・従業員会議室・中
数名の従業員やクラスメイト達でパーティ の準備をしている。
真司「( 準備をし) しっかし飯代だったりケ ーキ代だったりみんなで出し合えばなんとか なるもんだな」
紘汰「ああ」
真司「でもなんでここで結婚式をやろうと思 ったんだ。他のとこでもいいだろ」
紘汰「俺の我がままだよ」
真司「我がままってどういうことだよ」

紘汰「どうしても先生にはここでやってほし いんだ。こんな部屋でやるのもおかしいかも しれないけど、ホテルのスタッフとして先生 にはこのホテルで楽しんでもらいたいだ」
真司「( 笑い) なんかそれっぽいな」
紘汰「え」
真司「なんかホテルマンっぽいよお前」
紘汰「( 少し照れ) ありがとよ」
クラスメートの女子数名が部屋に入り
女生徒a 「先生の服の方準備できたよ」
女生徒数名が「じゃーん」と言い奇麗な服 を来た遠山が照れながら部屋に入る。 部屋内の生徒達「おーっ」と声を上げ、遠山の周りに近づく。

神崎の声「君たち、何をしてるんですか」
開いた扉から神崎が入る。
紘汰「支配人」
真司「支配人?あの人が」
神崎「村上君、どういうことだ、これは」
紘汰「ここの会議室を借りるための了承は得 ました」
神崎「そういうことを聞いてるんじゃない」 と怒り、クラスメート達がヒソヒソと神崎 について話し始める。
神崎「大体なんだ、この人たちは」
紘汰「以前、結婚式を取り消された遠山さん の生徒達です。僕もその一人です」
神崎「……こんな勝手なことを」
紘汰「勝手なことをしたのは謝ります」
神崎「謝ります、じゃないんだよ。( 最上ら 他の従業員に向かい) お前らもなんだ。谷様 の結婚式の準備はどうした、ただでさえ人手 が足らないっていうのに」

最上「あんたのやり方がおかしいって思うや つがいるってことだよ」 と喧嘩口調で言い始める。 紘汰「( 驚き) 最上さん」
最上「昔、谷正博とここのスタッフとのいざこざで、ここの評判が下げられたのは俺たちスタッ フの中でも有名な話だ。だからあんたは先に 予約してた遠山様より谷正博の結婚式を優先 させたんだろ。ここの変な因縁のせいで遠山 様が挙式できないのはおかしいんだよ」 と吐き捨てる。

神崎「……とにかくここを撤収しろ」
そこへ谷、照井が現れる。
神崎「( 驚き) 谷様」
谷「……そういうことだったのか」
神崎、黙る。
谷「( 頭を下げ) 申し訳ない」 周囲の人間が驚く。 谷「私のせいでそちらにいる方が結婚式を挙 げれなくなったとか( 遠山を見る) 」

神崎「それは( 言葉につまる) 」
照井「( 神崎を見て) その様子マジって事」
谷「( 遠山に近づき) すまなかった。今日の 結婚式を貴方に譲りたい」
遠山「いいんですよ」
婚約者の男「僕も大丈夫です」
照井「なんで?私らのせいで結婚式できなく なったのに」
遠山「私教師やってて今日集まってくれたの は私の生徒達なんですよ。数日前にそこにい る村上君に事情は聞かせて貰いました。最初 はびっくりしましたけど、でもそのお陰で生 徒たちにこんなに祝って貰うのはスゴイ嬉し くて」

婚約者の男「僕はこのパーティーで凛が教師 として積み上げたものを見れてるような気が して、なので今日は大丈夫です」
照井「ホントにいいの?」
遠山「結婚式はまた今度します。二回目の結 婚式を。ここでやる今日が一回目です」

谷「ありがとう( と頭を下げる) 」
紘汰「ていうかなんでこの場所を」
そこへ舞川が思い詰めた顔で入る。
紘汰「舞川さん」 時刻は13時を指す。

〇同・フロント( 舞川の回想)
時計の時刻は12時半。 神崎が会議室に向かう。 谷「……やっぱり君が舞川の娘なのか」
舞川「……そんなに父と話したいんですか」
谷「ああ。だが彼はここにはもういないそう じゃないか。だから君に」
順一郎の声「いますよ、ここに」
谷、照井、振り返る。
谷「( 順一郎を見て) なんでここに」
順一郎「それより何ですか、言いたいことっ て。またクレームですか( と皮肉る) 」
谷「( 頭を下げ) 申し訳なかった」

順一郎ら、驚く。
谷「あの時、選挙にボロ負け、敗戦処理に 時間を費やしてた。そのストレスからここの スタッフにこのホテルにケチをつけてた」
順一郎「そんなん知ってますよ。そのぼろ糞 言ってたアンタに反抗してここクビにさせら れたんだから」

谷「あの時以降も以前も私は人に怒られてこ なかった」
順一郎「どういう意味です」
谷「私が政治家として強くなってく一方で私 の周りは次第に私の事を全て肯定するように なった。そこで私は天狗になってた。誰から も注意を受けないことが普通だと思ってた。 だが君は違った。ホテルマンという立場にも 関わらず、私を叱ってくれた。そのことにつ いて礼と謝罪がしたかった」
舞川「今更すぎませんか、それ。貴方のせい で父さんがどれだけ被害を被ったか」
順一郎「( 怒る舞川を制し) やめろ」


舞川、黙る。
順一郎「俺は嬉しいですよ。このホテルを見 直してくれて。何年越しにお客様に気に入っ てくれて」 谷「( 周囲を見て) ああ、いいホテルだ」

舞川「( 切り出すように) あの、実は谷様の 今回の結婚式をあげるに当たって実は一人の 先客の方の挙式を断ってしまいました」
照井「( 困惑し) どういうこと」
谷「まさか、私の為に」 舞川、こくんと頷く。
舞川「総支配人の判断です。私を含む多くの スタッフがそれに従ってしまいました。申し 訳ございません」
谷「支配人は今どこへ」
舞川「恐らく従業員会議室かと。そこの扉か ら行けます」
谷「ありがとう( と扉に向かう) 」
照井「ちょっと待ってよ( と追う) 」
順一郎「ありがとな。谷さんがここに来るって俺に伝えてくれて」
舞川「お客様の要望に応えたまでです」
順一郎「後、お前にも謝らないとな」
舞川「別に謝ることなんて」
順一郎「俺のお客様の召使いになれっていう 精神をお前に押し付けていたことだ」
舞川「その精神は正しいことです」

順一郎「正しいよ。でも俺は召使いになりき れなかった。しかし谷さんに反抗したお陰で ここのホテルを気に入る客が一人増えた」
舞川「谷様がここを気に入ってくださったの は結果論じゃ」
順一郎「でも俺は良かったと思ってる」
舞川、黙る。
順一郎「なんで谷さんに結婚式の先客の件を 伝えたんだ」
舞川「それは( と途切れる) 」
順一郎「お前が谷さんをよく思ってなかった のはさっきお前が怒ったことでよくわかった よ。でもその良く思わない客に先客のことを言えたのは谷さんに対して本音で言い合えた から、お互いの気持ちを理解できた、そうじ ゃないか?」
舞川「……そうかもしれません」

順一郎「無理やり仮面を被ってまで召使いに なることなんてないんだよ」 ( 回想終わり)

〇同・従業員会議室・中
神崎「舞川、村上君に言ってやってくれ。今 すぐやめろって」
舞川、村上に近づき
舞川「私は大事なことを忘れていました。ご めんなさい( と頭を下げる) 」
紘汰「舞川さん」
神崎「どういうつもりだ。自分をお客様の召 使いだという考えで働いてるだろ。新人教育 の時、君や君の父さんがよく言ってた」
舞川「ええ。ホテルマンはお客様の召使いで す。でも仕える主人は自分で選ばさせてもらいます 」
神崎「舞川、お前( と遮られ) 」

舞川「先に予約をとってた遠山さんが先に挙 式するべきです。そんな簡単なことを新人の 村上君より気づけない時点で私はホテルマン 失格です」
紘汰「( 感激して) 舞川さん」
神崎「( 嘲笑して) ここのホテルを壊すつも りか。谷様の信頼を取り戻して昔のようなホ テルカンザキに戻そうとしたのに」
新田の声「壊そうとしてるのはアンタよ」 と女装した新田が現れる。
神崎「ゲッ!新田」
新田の登場にざわめく周囲。
最上「( 紘汰に) どういうことだよ、これ」
紘汰「その、実は」

〇同・△△△室・中( 夜・紘汰の回想)
新田に押し倒され悲鳴をあげる紘汰。
新田「( 紘汰の身体と遠ざけ) 冗談よ」

紘汰、ほっとする。
新田「今日は悪かったわね、こんなことさせ て( と名刺を差し出す) 」
その名刺は「ホテルレビュアー新田徹」
紘汰「( 読み上げ) ホテルレビュアー?」
新田、ホテルの専門雑誌を数冊取り出し、 自分のレビューのページを開く。
新田「それなりに名は知れててね。ここ数週 間色んなホテル周ってたわ。ここは一応周る 最後のとこ」 紘汰「なんでこんな小さいホテルに」

新田「昔はここ隠れた名ホテルだったのよ。 いつのまにかどっと評価が下がってたけど。 あと私の元カレが支配人やってるから」

紘汰「( 驚き) 神崎さんが」
新田「また今度ここの雑誌掲載許可を貰いに ここに来る。久々にあいつに会えるわ」
紘汰「はぁ……」
新田「良い夜景だったわよ、アンタが選んで くれた部屋」

とスマホの×××室の夜景の写真を見せる。
紘汰「……ありがとうございます」
新田「ごめんなさいね、18のフロント係な んて珍しかったから演技とはいえつい悪いこ としちゃって、お代はちゃんと払うわ」
紘汰「わかりました」
新田「アンタ、部屋割りといい客への向き合 い方といい結構良い線いってると思うわよ。 18でここまでできるなら大したもんよ」
紘汰「( 微笑し) ありがとうございます」 ( 回想終わり)

〇同・従業員会議室・中
新田「雑誌の掲載許可のためにここにやって きたけど、部屋の外でアンタのしょうもない 話を聞かせて貰ったわ。アンタがしようとし たことは客を選ぶっていう一番ホテルマンが しちゃいけないことよ」 神崎「時と場合によるだろ」
新田「そんな時と場合なんてアンタが勝手に 決めたことよ。客には関係ない」
神崎、言い返せず押し黙る。
新田「アンタへの不満がこんな形になって現 れてしまったのよ」
谷「私からもお願いするよ。彼女の結婚式を 続けさせてくれ。元はと言えば私との因縁の せいだから( 頭を下げる) 」
照井「一応、私からも( と頭を下げる) 」
神崎「……わかりました、許可します」
紘汰「ありがとうございます( と頭を下げ る」) 」 紘汰等の生徒達、喜ぶ。
×××
パーティーの準備をする生徒達やスタッフ 照井や谷も準備を手伝っている。
紘汰「( 二人に) 大丈夫なんですか、結婚式 の方に行かなくて」
照井「まぁ全然時間あるし」
谷「何より君たちが作る結婚式を見てみたい んだ」

紘汰「そういやなんでこの場所に僕たちがい るって分かったんです?支配人ならともかく 外部の人がこの場所にたどり着けるなんて」
照井「フロントの女の子が教えてくれたの」
谷「ああ。会議室にいるだろうって」
紘汰「……舞川さんが?」

〇同・従業員休憩室・中
飲料ゼリーを飲む舞川。 紘汰が部屋に入ってきて 舞川「今回のことは私にも非があります」
紘汰「確かにそうかもしれません。けど、同 時に僕たちを見逃してくれてましたよね」

舞川「……どういう意味です」
紘汰「知ってたんでしょ、僕たちが支配人た ちに秘密でパーティーしようとしてた事」
舞川「なんでそう思うんです」
紘汰「谷様と照井様が従業員会議室まで行け けたのは舞川さんがここだって教えたから。少なくともそこで何かしてるってのは分かっ てたからでしょ」

舞川「……ええ、そうです。知ってましたよ」
紘汰「秘密にしててくれてありがとうござい ます( と頭を下げる) 」
舞川「そういって貰えると救われます」
紘汰「後、伝えたいことがあります」
舞川「なんですか」
紘汰「先週の夜に舞川さんのお父さんにたま たま会って話しました」
舞川「( 少し驚きながらも) そうですか」
紘汰「前に新田さんのクレームで家に帰れな くなった時、ここで舞川さん言ってましたよ ね尊敬した方の話を」

舞川「……そうでしたね」
紘汰「あの話、お父さんのことですよね」 舞川、目が泳ぐ。
紘汰「( 舞川を見て) そうなんですね」
舞川「……だとしたら何なんですか」
紘汰「舞川さんのお父さんが言ってました。 今は娘に嫌われてるって」
舞川「……否定はしません」
紘汰「ホントにそうですか?」
舞川「え?」
紘汰「最上さんから聞きました。舞川さん、 前に他の大きいホテルに引き抜きの話を持ち 掛けられたけど断ったそうじゃないですか」
舞川「それがどうかしましたか」
紘汰「お父さんも昔ここで働いてたと聞きま した。……ホントはお父さんと同じ職場で働き たかったんじゃないですか?」

舞川「それは( と言葉が続かない) 」
紘汰、舞川に借りたホテルの本を取り出す
舞川「( 本を見て) それって」
紘汰「この本、お父さんから貰ったものです よね」
舞川「……なんでそう思うんです」

紘汰「この本のメモ見てましたけどなんだか いつもの宿泊カードを書いてる舞川さんの字 じゃないと思いましてね」

舞川「確かにそれは父から貰ったものです。 ホテルの勉強をするために」
紘汰「この本のカバー外してみました?」

舞川「カバー?( と本のカバーを外す) 」
「卯月なら良いホテルマンになれる!俺が 保障する!ガンバレ」と書かれてある。

舞川「( 見て笑いながら) なんでこんな回り くどいことを」
紘汰「こんな形でも伝えたかったんじゃない ですかね」
舞川「ホント、不器用な人」 と笑いつつも少し涙が出ている。
紘汰「そろそろパーティー始まるんで見に行 きませんか?お昼休みの間だけでも」
舞川「……そうさせてもらおうかな」
紘汰「分かりました。待ってます」 紘汰、部屋から出ていく。

舞川「( 本を抱いて泣き) ごめん。ごめんね、 父さん」

〇同・従業員会議室・中

生徒達や谷、照井が椅子に座る。 壇上には牧師のような恰好をした真司と遠 山と婚約者の男が立つ。 真司、紙のメモを読みながら誓いの言葉を、遠山と男に問いかける

真司「では、誓いのキスを」
遠山と婚約者の男、キスをする。 生徒たちの歓声やスマホのシャッター音が 鳴り響く。

〇同・従業員会議室・表
ドアを少し開け、隙間から結婚式の様子を のぞく神崎。
新田「何してんのよ」
神崎「( 驚きコケて) ……別に何も」
新田「アンタの気持ちも分らんでもないけど ね。ホテルの信用を取り戻さなきゃっていう 思いは」 神崎「……俺は、ここから頑張れるかな」

新田「大丈夫よ、だってあんな素晴らしいス タッフ達が揃ってるんだから」
神崎、部屋内の紘汰や舞川、最上を見る。
神崎「……気づけてなかったんだな、俺」
新田「気持ちは晴れた?」
神崎「ああ、ありがとな」
新田「私は晴れてないけどね」
神崎「え?」

新田「なんであの時、連絡もせず私を置いて ったのよ( と怒る) 」
神崎「( 慌てて) いや違うんだあれは」

新田「問答無用じゃあ!( と神崎に掴みかか る) 」 二人が言い合いながらじゃれつく。

〇同・従業員休憩室・中

数個のテーブルに食事や小さなホールケー キが何個置いてあり、喋りながら楽しむ生 徒達。
最上「( 紘汰に近づき) やったな」
紘汰「こんな上手くいくとは自分でも思って ませんでした」
最上「いやすげーよ、ここまでできるなんて ホントにさ」
紘汰「最上さん達の協力のお陰です」
最上「ま、それもあるけどな( と笑う) 」 紘汰も笑う。
そこへ遠山が近づく。

遠山「ありがとね、村上君」

紘汰「いえ、こちらこそこんなささやかなパ ーティーですいません」

遠山「( 首を横に振り) こんな素敵な結婚式、 二度と味わえないよ」

紘汰「( 感激し) ありがとうございます」
紘汰の視線が前方の少し遠くの舞川と合う。

紘汰N「最初は不安だったり不満もあったけ ど 舞 」

舞川、笑顔を紘汰に向ける。 紘汰も笑顔を向ける。 紘汰N「召使いも悪くないな、そう思えまし た」
〇タイトル

終わり

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