バーニングポテトライダー ドラマ

かつてはバンドマンとしてボーカル兼ギターを担当し、華々しいミュージックライフを送っていた岩淵。 今はコンビニの夜勤で生計を立てるうだつの上がらない日々を送っている。 そんな折、長年疎遠だった元バイト仲間の富ヶ谷がコンタクトを取ってくる。 怪しげなビジネスに誘われる岩淵だったが……。
富ヶ谷 菅太郎 9 0 0 07/24
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第一稿

【登場人物】
岩淵勇人(30)
富ヶ谷菅太郎(30)

コンビニ店長(40)
高野(22)

宍戸桃花(28)
宍戸エリカ(5)

河西(50)
菊池(45) ...続きを読む
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【登場人物】
岩淵勇人(30)
富ヶ谷菅太郎(30)

コンビニ店長(40)
高野(22)

宍戸桃花(28)
宍戸エリカ(5)

河西(50)
菊池(45)
佐久間(25)

ホームレスのオッサン

○街路(夜)
華麗なドライビングテクニックで道路を颯爽と走り抜ける焼き芋屋の軽トラ。
軽トラのスピードに煽られて枯れ葉が紙吹雪のように宙を舞い、備え付けのスピーカーから爽快なロックミュージックが生音で演奏されて活気と躍動を大放出している。
スピーカーから炸裂するロックでシャウトな歌声「ホカホカ~焼き芋~!  甘くて~おいしい~!  ショクモツセンイ~とってもほーふ~!!  チョーナイカンキョー整える~!  夜食に~いかがすか~!?」
町行く人々がその奇抜な焼き芋屋スタイルに目と耳を奪われ、思わず立ち尽くしている。

タイトル『バーニングポテトライダー』

○コンビニ・外観(夜)
T「3ヶ月前」
どこにでもある平凡なコンビニ。

○同・店内(夜)
ほとんど客がいない空いている店内。
この緊張感のない空間でのびのびと品出しをしている店員の岩淵勇人(30)。
岩淵、店内に鳴り響くBGMに思わず身体が揺れ、ビートを刻みながら菓子袋を棚に陳列していく。
岩淵「(鼻歌)ヘヘイヘィ!  ウ~、アッ!」
岩淵の背後にいるオッサンの客、岩淵の奇行に不快感MAX120%の視線を投げかけている。
レジカウンターから「すいませ~ん」と岩淵を手招きする女性客。
岩淵、瞬時にスタイリッシュな動きでレジに向かう。
岩淵「(演技がかった必要以上な美声)いらっしゃいませ~」
女性客「(困惑)……」
岩淵、商品のバーコードを読み取りながら
岩淵「(演技がかった必要以上な美声)ありがとうございま~す」
女性客「(嫌悪)……」
岩淵、機敏な動きで商品を袋に詰めて渡す。
岩淵「(美声)789円のお会計になりま~す」
女性客、トレーに千円札を置く。
岩淵「(ネイティブな発音)ワンサウザンドイェン、お預かりしま~す」
女性客「……」
岩淵「219イェンのお返しで~す」
手を差し出す女性客。
岩淵、プリンセスをエスコートする王子のような紳士的ジェスチャーで女性客にお釣りを手渡す。
女性客の手、ガッツリ握られている。
女性客「きゃ!」
女性客、思わず手を振り払う。
お釣りがカウンターにばらまかれる。
女性客、お釣りをそのままにしてプイっと逃げるように行ってしまう。
岩淵「……」
岩淵、カウンターに散らばったお釣りを眺めて
岩淵「(美声)募金のご協力、ありがとうございま~す」

○街路(早朝)
大量の廃棄弁当の詰まったコンビニ袋を手にぶら下げて家路に向かっている岩淵。
ゴミ捨て場を通りかかるとホームレスのオッサンがなにやらゴソゴソしている。
岩淵「(軽蔑の眼差し)……」
ホームレスのオッサン、ゴミの山の中を殺気立った眼光で朝飯的な物がないか漁っている。
岩淵「うっわ~……」
と、岩淵の視線に気付いて振り返るホームレスのオッサン。
岩淵「!」
岩淵、思わず立ち止まった瞬間、コンビニ袋を落とす。
中から廃棄弁当が顔を出す。
ホームレスのオッサン、その廃棄弁当に物欲しげな視線を送っている。
バツの悪いムードが漂う。
廃棄弁当を凝視したまま生唾を飲み込むホームレスのオッサン。
アチャーやっちまった感丸出しの岩淵。
ホームレスのオッサン、おぼつかない足どりで岩淵に近づいてくる。
岩淵「げ!」
ホームレスのオッサン、歯が無いらしく口をモヌモヌさせながら舌舐めずりして迫ってくる。
岩淵「ぎょえ~!」
岩淵、廃棄弁当をそのままにしてスタコラさっさと退散する。
ホームレスのオッサン、取り残された廃棄弁当を見つめて満面の笑み。

○岩淵が住むアパート・外観(朝)
独身者御用達といった辛気くさい雰囲気漂うアパート。

○同・室内(朝)
1Kタイプの小汚い室内には、バンドマン御用達といった雰囲気のミキサーやアンプ等の音楽機器、CD、音楽雑誌が所狭しと鎮座している。その中で一際存在感を放つベッド上に枕代わりに置いてあるバスタオルが巻かれたギターケース。
と、室内に入って来る岩淵。
服を脱ぎ捨てて下着姿になるとベッドに寝転ぶ。
岩淵「今日は飯抜きかツイてね~ぜ~」
と、岩淵の腹が『ギュルルルル~』と鳴る。
岩淵「……」
岩淵の腹『ギュルルルル~』
いつまでも鳴り止まない腹の音。
岩淵、何か思い付いた表情で枕代わりのギターケースを開け、中からギターを引っ張り出す。
己の腹の虫の音色とギターセッションを始める岩淵。
岩淵の腹の音『ギュルルルル~!』
岩淵、巧みなギターテクニックで己の腹の音を真似る。
空腹のギターリフがより空腹を加速させ、苦悶の表情の岩淵。
岩淵「アイムハングリー!!!」
と、隣の部屋から「うるせー!」の怒号と共に力一杯の蹴りで壁が『ドンっ!』と鳴り響く。
岩淵「う!」
ピタっと止まる岩淵。
静まり返る室内。
岩淵、渋々ギターをしまい、就寝する。

○コンビニ・外観(早朝)

○同・休憩室・内(早朝)
面談をしている店長(40)と岩淵。
店長、仏頂面で
店長「あのね、言いたかないんだけどね、実際にクレームがちょいちょい来てる訳よ」
岩淵「はあ……」
店長「こんな下らない事でわざわざ面談の時間設けて嫌々説教しなきゃいけない俺の身にもなってよ」
岩淵「……」
店長「君さあ、黙ってばっかだけど、何か反省の言葉はないの?  誠意の籠った反省の言葉だよ」
岩淵「……」
店長「黙秘なの?  はぁ、まったく……。こうやってる内にも時給は発生してんだよ?  分かる?」
岩淵「……」
と、ドアが開き、爽やかイケメンの高野(22)が出勤してくる。
高野「店長、岩淵さん。おはようございます!」
店長、仏頂面が一瞬で笑顔に変わり
店長「おはよう!」
岩淵「(小さく会釈)……」
高野、スピーディー且つスタイリッシュに支度を整えて売場へ向かう。
物思いに独りごちる店長。
店長「高野はすげーよなあ。まったく誠意の塊みてーな奴だぜ。元気ハツラツで抜群の接客態度だしよお。品出しもすげーはえーしよお。おまけに男前だしよお」
店長、どこか乙女な照れ笑いを溢して
店長「ホントすげーよ高野はよお……」
恍惚の表情で物思いに耽る店長を見てゾッとする岩淵。
店長、岩淵をギロリと睨み
店長「君も高野を見習って真面目に業務に取り組んでくれよなホントによお」
岩淵「……」

○岩淵が住むアパート・外観(朝)

○同・室内(朝)
ギターを抱えてベッドに寝そべる岩淵。
怒りのギターリフを掻き鳴らすと共に己の胸のうちをシャウトする。
岩淵「糞テンチョーコンプラ違反の圧迫面談ご満悦~!  糞テンチョー高野に首ったけ~高野を持ち上げ俺を扱き下ろす~ファッキュテンチョ、ファコーフテンチョ
、ゲラートテンチョ!!!」
己の世界に没入し過ぎてヒートアップする爆音ギタープレイ。
と、隣の部屋から「うるせー!」の怒号と共に力一杯の蹴りで壁が『ドンっ!』と鳴り響く。
岩淵「う!」
ピタっと止まる岩淵。
静まり返る室内。
岩淵、渋々ギターを仕舞って就寝する。
×   ×   ×
真っ昼間。
カーテンは閉め切られているが隙間から微かに陽光が差し込んでいる室内。
就寝中の岩淵。
と、スマホが鳴る。
岩淵「!?」
見慣れない着信番号に一瞬戸惑い、怪訝ながらも出る岩淵。
岩淵「……はい」
電話の声「よっ!  久しぶり」
岩淵「……ん?」
電話の声「元気?」
岩淵「……」
電話の声「お~い、俺だよ俺」
岩淵「誰だよ誰?」
電話の声「トミーだ」
岩淵「トミー?  ……富ヶ谷か?」
電話の声「ブッチよ、久しぶり。元気か?」
岩淵「ん、あぁ……まあ、ボチボチ……」
電話の声「ブッチの元気レベルはボッチボッチかい。そーかいそーかい」
岩淵「で、何か用?」
電話の声「急に真面目で深刻な話になるけど、いいかい?」
岩淵「は?  何だよ?」
電話の声「俺はブッチに聞きたい。今が思い描いてた未来になってんのかって」
岩淵「はぁ?」
電話の声「どうよ?」
岩淵「……」
電話の声「ブッチよ。二度もこんな恥ずかしいセリフ言わせる気か?  酷な奴だねぇ、わかった。もう一度聞く。今が思い描いてた未来になってんのかい?」
岩淵「……なってねーよ」
電話の声「だよなぁ、分かる分かる。中々物事上手くいかねえもんだよなぁ~」
岩淵「で?」
電話の声「そこでよ、一発逆転の新規ビジネスを俺とおっ始めて現状打破しようぜってお誘いな訳なのよ」
岩淵「あ、結構です。そーゆー胡散クセーのは」
電話の声「ちょ待てよ!  ちゃんと勝算があんだって」
岩淵「なんだそれ?  言ってみろよ」
電話の声「お堅いビジネスの話で長~くなるからさ、後日オフィス街にある喫茶店でミーティングしようぜ」
岩淵「おめー、うまい話で釣って俺を怪しい宗教だか何かに入会させようとしてんだろ?」
電話の声「ちょ待てよ!  んな訳ねーから安心しろって。むしろ俺達がその界隈の教祖になっちまおうってくらいの壮大なビジネスモデルを熱く語ってやっからよ!」
岩淵「分かった、分かったからもうねみーから電話切るよ」
電話の声「何だ夜勤明けか?」
岩淵「そーだよ、文句あっか?」
電話の声「いやご苦労さん。あ、切る前にちょっと確認してーんだけど、まだバンドやってるよな?」
岩淵「んなもん遠の昔に方向性の違いで解散したわ」
電話の声「そっか……あ、でもまだギターは弾けんだろ?」
岩淵「あたぼうよ。ギターだけが従順な俺のバンドパートナーさ」
電話の声「そうかい!  それを聞いて安心したぜ!  場所と日時は追って連絡するわ!」
岩淵「あ~い、わがりやんした~」
電話の声「オヤスミ!」
通話が切れる。
デカデカと溜息をついて寝落ちする岩淵。

○(岩淵の夢)満員のライブ会場内
気心の知れたバンド仲間と演奏を楽しんでいる岩淵。
岩淵「サンキュー!  サンキュー!」

○(岩淵の夢、終わり)コンビニ・店内(夜)
はっと我に帰る接客中の岩淵。
目の前には客が困惑の表情でつっ立ってる。
岩淵「あ、ありがとうございました!」

○喫茶店・外観
オフィス街にある喫茶店。

○同・店内
賑わう店内。多種多様な老若男女がそれぞれの時間を満喫している。
その中でコーヒーを啜りながら対面して座っているスーツ姿の岩淵とスーツ姿の富ヶ谷菅太郎(30)。
岩淵の傍らにはギターケースが置いてある。
富ヶ谷「さすがだぜ。ブッチもビジネスシーンに見合った格好で来てくれるとはな。御主もまんざらでもない意気込みと見たぜ」
岩淵「ちゃうちゃう、たまたまよ。俺店長に業務態度が気に食わねーとかで愛想つかされてっからさ、転職面接の帰りなだけだよ」
富ヶ谷、懐からサングラスを取り出してクールにかける。
岩淵「?」
富ヶ谷「ま、その転職面接、無駄足だったようだね」
岩淵「は?」
富ヶ谷「なぜなら俺が語るビジネスモデルでブッチをその気にさせちまうからさ」
富ヶ谷、サングラスの角度を指でクイっと整えてドヤ顔。
岩淵、富ヶ谷に冷ややかな視線を投げかけている。
富ヶ谷「でもアレだね。やっぱね、ビジネストークの場には格好から入ったほーがいーよね。テンションが変わってくるからさ」
岩淵「あっそ」
富ヶ谷、岩淵のギターケースを指差して
富ヶ谷「そのギター、面接に持ってったの?」
岩淵「うん」
富ヶ谷「てことは音楽関係の就職先行って来たんだ?」
岩淵「いや全然違うとこ」
富ヶ谷「へ?  どゆこと?」
岩淵、ギターケースを開けて中から履歴書のコピーを取り出す。
岩淵「見た目のインパクト重視よ。趣味も同時にアピールできるしな」
富ヶ谷「なるへそね。御主、中々の策士やね」
岩淵「で、何だよ?  さっさと話せよ。ご自慢のビジネスモデルとやらをよ」
富ヶ谷「はぁ~、おめーって奴は……気が早いね~早漏だね~甲斐性なしだね~」
岩淵「うっせ!」
と、急に鋭い眼光で岩淵を指差す富ヶ谷。
岩淵「!」
富ヶ谷、指先をゆっくりと岩淵の背後の女性客に向ける。富ヶ谷の指の動きと共に岩淵の首が女性客に向けられる。
女性客はスイートポテトを優雅に食べている。
富ヶ谷「何食ってる?」
岩淵「スイートポテト」
富ヶ谷、指先を他の女性客へ向ける。
富ヶ谷「あの客は?」
岩淵「スイートポテト食ってる」
富ヶ谷、また指先を他の女性客へ向ける。
岩淵「スイートポテト……」
富ヶ谷「その通り。辺りを見渡してみな。スイートポテト祭りだぜ」
岩淵「だから何だよ?」
富ヶ谷「女性は甘いもんに目がねーって訳よ」
岩淵「そりゃそーだろ」
富ヶ谷「そこでだ。俺と一緒に石焼き芋の移動販売やろうぜ」
岩淵「は?  ……あの的屋的なヤツか?」
富ヶ谷「その的屋的なヤツさ」
岩淵「焼き芋屋か~……」
富ヶ谷「女子は甘い芋が大好きなんだ。俺はこの揺るぎない事実にビジネスチャンスを見いだした訳よ」
岩淵「焼き芋屋ね~……で、軽トラとかサツマイモ焼く機械はどーすんの?」
富ヶ谷「ない」
岩淵「え?」
富ヶ谷「これから買う」
岩淵「ふーん」
富ヶ谷「そこで相談なんだけど…」
岩淵「え?」
富ヶ谷「金、貸してくんない?」
岩淵「ああ?」
富ヶ谷「俺、金ないのよ。壊滅的に」
岩淵「知らねーよ!俺だってねーよ。 銀行で借りるとかして自分で調達しろよ、そんくらい!」
富ヶ谷「自慢じゃないけどね。俺、多重債務者なのよ。審査が通る訳ないのよ」
岩淵「はぁ~? てめー、そんな身で一緒にビジネスしようだ?  よくもつらつらとペテンを言えたもんだな?」
富ヶ谷「(カチンときて絶叫)ペテンじゃねい!」
岩淵「う!」
静まり返る店内。だがすぐに賑わいを取り戻す。
深刻な表情で思案に耽る富ヶ谷。
岩淵「……」
富ヶ谷、独り言のように
富ヶ谷「俺の人生、もう頭打ちかもしんねーんだ……」
岩淵「……」
富ヶ谷「俺はこの商機にかけてんだ!  俺は本気だ。 俺らもう良い歳なのにこんなにもみすぼらしい生活送っててよ、情けねーったらありゃしねーよ。もう日雇い派遣のクソバイトで日銭を凌ぐ日々にゃ金輪際戻りたくねーしよ。この絶望の人生を前にいち早く終活の準備始めちゃいそーなくらい切羽つまってる訳だからさ」
岩淵「いやいや、俺はそこまで行ってねーよ」
富ヶ谷「そーかそーか、ま、そーだな人それぞれだな……でいくらぐらいなら金工面できる?」
岩淵「は?  だからねーって」
富ヶ谷「いやいや、あるでしょ?」
岩淵「ねーって! ましてや転職中の身だぞ。余裕なんてある訳ねーだろ!」
富ヶ谷「俺、知ってんだよね」
岩淵「?」
富ヶ谷、岩淵のギターケースを指差す。
岩淵「あああ!?」
富ヶ谷「そのギター、スゲーたけーんだろ?」
岩淵「おめー、まさか……売る訳ねーだろ!  俺と一緒に辛い人生を歩んできた親友なんだぞ!?」
富ヶ谷「そら知ってる。痛い程分かる。けど、元手がない事には前に進めんぞ」
岩淵「うっせー! てめー、やっぱ俺を陥れようとしてるな!?」
富ヶ谷「いやいや、何を言いますかい、人聞きの悪い……」
岩淵「ったく、てめー」
富ヶ谷「ならさ、金銭的支援を望めそうなバンド仲間とかいねーのかい?」
岩淵「前にも言ったけど音楽性の違いで空中分解して音信不通状態だよ」
富ヶ谷「そっか~、まいったな~……」
岩淵「おめー、もしかして金借りる為だけの理由で俺のこと呼び出したのかよ?」
富ヶ谷「ちょ待てよ!  俺がそんなゲス野郎に見えるか?」
岩淵「……見える」
富ヶ谷「って、おい!」
岩淵「見えるわ。わりーけど」
富ヶ谷「はぁ~、おめーってヤツは情け容赦ないね~」
岩淵「まあね」
富ヶ谷「ちょっとさ、ギター爪弾きながら石焼き芋のテーマ歌ってみてよ」
岩淵「は?」
富ヶ谷「ご自慢のギターテク見せてくれよ」
岩淵「ここで?」
富ヶ谷「そーだよ。これ、アレなんだよ。これに商機がかかってるって言っても過言じゃないんだよ」
岩淵「こっぱずかしーじゃねーかよ」
富ヶ谷「気にすんなって。この光景、端から見たらミュージシャンとプロデューサーの意識高い系のミーティングとかに見えて俺達とびきりクールだぜ」
岩淵「(まんざらでもない)そ、そっか……」
富ヶ谷「経済回すって意味合い込めてロックンロールなやつ頼むよ」
岩淵、ギターケースからギターを取り出して構える。
富ヶ谷「じゃ、ニューアルバムから一曲いってみるか!」
岩淵、深呼吸して精神統一。巧みなギターテクニックで石焼き芋のテーマを爪弾き出す。
岩淵「(ロックな美声)いしや~きいも~、おいもおいも~」
周囲の客ら、チラチラと岩淵を覗き見ている。
富ヶ谷「いいぞ!  バツグンだ!」
岩淵、演奏を止めて
岩淵「で……?」
富ヶ谷「ブッチのボーカル&ギターソロのライブ演奏に乗せて焼き芋を軽トラで売り走ればインパクト効果大でバカ売れ間違いなしだと俺は見てる!」
岩淵「う、う~む……」
富ヶ谷「今も感じたろ?  隠しきれない客の熱い視線を」
岩淵「ま、まあな」
富ヶ谷「てことで、金貸してくれい!」
岩淵「はぁ?」
富ヶ谷「すまん、言い方が悪かった。事業資金の融資、たのんます!」
岩淵「……分かったよ」
富ヶ谷「さすがブッチ!  サンキューブッチ!」
岩淵「……俺は今、とんでもない決断を下してしまったのではないか……?」
自信に満ち溢れた富ヶ谷、謎の説得力で
富ヶ谷「安心せい!  経営ノウハウは俺に任せろ!  ブッチは俺の傍でロックなシャウトを奏でてくれりゃいいだけさ!  商売繁盛頑張ろうぜ!!!」
岩淵、圧倒されて
岩淵「お、おう……」

○リサイクルショップ・外観
業務用機器に特化した品揃えが自慢のリサイクルショップ。

○同・店内
様々な業務用機器が立ち並ぶ店内。
飲食コーナーで石焼き釜を台車に乗せて店内を物色している富ヶ谷。
後に続いてトングや紙袋、『やきいも』と書かれた幟等を入れたカートを押している岩淵。
富ヶ谷、立ち止まり
富ヶ谷「お、そこの棚のデニムエプロンも買っとこうぜ」
岩淵「あ~い、わがりやんした~」
棚からデニムエプロンを取ってカートに入れる岩淵。
音響コーナーに立ち寄る二人。
富ヶ谷「スピーカー選びはブッチに任せるわ」
岩淵「よっしゃ!」
ショーウィンドウ内の様々なスピーカー機器を吟味する岩淵。
と、併設されたギターコーナーで一際存在感を放つエレキギターに目を奪われる岩淵。
岩淵「マジかよ!」
富ヶ谷「ん、どした?」
岩淵「ピート・タウンゼントモデルのストラトキャスターがあんだよ!  これ、限定生産の超レアもんなんだよ!」
富ヶ谷「へ~」
目を輝かせてギターの前でずっと突っ立ってる岩淵。
岩淵「すげー……」
富ヶ谷、岩淵を小突き
富ヶ谷「スピーカーは?」
岩淵「あ、ああ……分かったよ」
名残惜しそうにギターから離れてスピーカーに目星を付ける岩淵。

○同・店外の駐車場
中古の軽トラの荷台に購入した資材が山積みされている。
その横で渋い表情で缶コーヒーを飲みながら煙草を吸っている富ヶ谷。同様に渋い表情で一服に付き合う岩淵。
岩淵「どーすんだよ?  事業資金、底ついちまったぞ」
富ヶ谷「予想外だな」
岩淵「やべーよ」
富ヶ谷「マジか~」
岩淵「残すは芋の調達だけだってのに……」
立ち往生して思案に耽る二人。
富ヶ谷「……ナイスアイデアがあるぞ!」
岩淵「何だよ?」
富ヶ谷「長旅になるから早く出発しようぜ」
岩淵「?  分かった……」
軽トラに乗り込む二人。
アクセル全快で出発する軽トラ。

○サツマイモ畑(夜~早朝)
人里離れた農村地帯にある一面に広がるサツマイモ畑。その片隅に軽トラが停めてある。
身を屈めて畑周辺の様子を伺っている富ヶ谷。
ただならぬ雰囲気に不安と怖じ気を隠せないでいる岩淵。
岩淵「大丈夫なのかよ?  これ窃盗なんじゃ……」
富ヶ谷「安心しろ。親戚の畑だから」
岩淵「じゃあ何で夜にコソコソ採りに来てんだよ?  昼にしろよ。これじゃまるで芋泥棒だろ」
富ヶ谷「夜の方が涼しいじゃん」
岩淵「いや、これ……涼しいを通り越してちょっとばかし肌寒いぞ」
富ヶ谷「そーかね?」
岩淵「つーか、親戚いるんなら事業資金の融資頼めば良かったじゃん。何で俺なんだよ?」
富ヶ谷「まーな、そーかもな……だがな……ほんのちょっぴり確執があってだな……あっ!!」
岩淵「!?」
地面に這いつくばって身を隠す富ヶ谷と岩淵。
二人の目前を狸が走り抜けて行ってしまう。
富ヶ谷「なんだ……」
岩淵「あ~ビビった~」
富ヶ谷「よし、人っこ一人いなさそうだ。いくか」
富ヶ谷、懐から目出し帽を出して被る。
岩淵「おいおい、何だよソレ?」
富ヶ谷、岩淵にも目出し帽を渡す。
富ヶ谷「ブッチも被りな」
岩淵「何でだよ?  親戚の畑だから顔見知りだろ?」
富ヶ谷「遠い遠い親戚のな」
岩淵「って、おい!  それは赤の他人って事だろ!」
富ヶ谷「人類みな兄弟って言うじゃないか。困った時はお互い様だぜ。ま、商売が軌道に乗って安定してきたら目一杯の感謝の気持ちをお返しさせて貰う予定だぜ」
岩淵「うっわ、究極の自己中心的理論だわ。犯罪の片棒担がせる気か?  カンベンしろよ!」
富ヶ谷「これはまだ犯罪じゃない。借りてるだけ、ただ借りてるだけなのさ。言い聞かせろ、これはただ一定期間借りてるだけなんだって」
岩淵「うっわ~(軽蔑)」
×   ×   ×
辺りは薄明かるくなっている。
地べたに山盛りのサツマイモが詰まった袋がいくつも置いてある。
その袋を軽トラの荷台に積み込む額に汗した富ヶ谷と岩淵。
富ヶ谷「なあ、ブッチよ」
岩淵「何だよ?」
富ヶ谷「この作業、何だか日雇い派遣の糞バイト思い出すよな」
岩淵「俺らの黒歴史じゃん」
富ヶ谷「内装現場のガラ出しみてーだよなこれマジで」
岩淵「うわ~、思い出したくね~」
富ヶ谷「藤田って現場監督いたじゃん?」
岩淵「ん……ああ、あの糞野郎」
富ヶ谷「アイツここぞとばかりに俺らバイトの下っぱをコキ使いやがってマジでぶっ殺してやりたかったよなぁ」
岩淵「いやいや、何も俺はそこまで……」
富ヶ谷「でもあーゆーヤツだからその内誰かにぶっ殺されんだろうな……つーか、もうすでにヤラれてっかもしんねーな」
岩淵「怖っ……」
と、サツマイモ畑周辺に警報音が鳴る。
富ヶ谷・岩淵「げ!!!」
富ヶ谷と岩淵、軽トラに飛び乗って猛スピードで逃走する。
サツマイモ畑一帯が土埃で見えなくなる。

○住宅街(夜)
T「3ヶ月後」
軽快なロックミュージックをライブ演奏しながら安全運転で住宅街を走る『石焼き芋』の幟を天高く掲げた焼き芋屋スタイルの軽トラ。
岩淵「(ロックなシャウト)いしやき~イモイモ~!  スウィート~デリシャス~オイモオイモ~!」
思わず立ち止まり、軽トラを二度見三度見する通行人。
○同・軽トラ・車内(夜)
運転席でハンドルを握るねじり鉢巻をした富ヶ谷。
助手席でギターを弾きながらマイクに向かってロックなシャウトする岩淵。
富ヶ谷「お!  客らしき主婦が玄関から出てきたぞ!」
岩淵「(シャウト)レッツゴージョコー!」

○住宅街(夜)
洒落た一軒家の玄関から財布を持った綺麗な主婦が出てくる。
主婦の前を可能な限り徐行する軽トラ。
運転席に向かって手招きをする主婦。軽トラ、一時停止。
主婦「すいませ~ん。焼き芋くださ~い」
富ヶ谷「ヘイらっしゃい!」
岩淵「(ロックなシャウト)サンキュー!」
軽トラを降りる富ヶ谷とギターを肩にかけた岩淵。
富ヶ谷、荷台の釜から熱々の焼き芋をトングで取り出して紙袋に次々と入れる。その傍らで感謝感激BGMを爪弾く岩淵。
岩淵「(しなやかな美声)キレイな~シュフさん~、ヤキイモ~お買い上げ~、ビヨーとケンコー、バツグン~、モアビューティホ~、なっちゃう~!」
ポッと顔を赤らめる主婦。
と、ご近所さん達がぞろぞろと軽トラの前に集まってくる。
富ヶ谷、紙袋を主婦に渡す。
お会計する主婦。
富ヶ谷「これ、よかったらどうぞ。ポイントカードです」
富ヶ谷、スタンプカードならぬ『スカンぷカード(芋一本購入ごとにスカンクが放屁を一発かますスタイル)』を差し出す。
カードを受け取る主婦、内容を見てプッと吹き出し、口元をお上品に押さえる。中々の好評。
いつしか主婦の後方には主婦に次ぐ主婦の主婦行列ができている。
×   ×   ×
軽トラの荷台の釜の中、一面石だけのスッカラカン状態。
まだ主婦行列が続いてる中、泣く泣く店仕舞いを始める富ヶ谷。
富ヶ谷「すんません!  今夜はもう完売しちゃいました」
残念がる主婦行列。
富ヶ谷「また明日、とびきりのイモを仕入れてやってきますんで、宜しくお願いしま~す!」
希望を胸に散り散りになる主婦行列。
岩淵「(感謝感激雨あられのシャウト)サンキュー!!!」

○道路(夜)
店仕舞い後の軽トラが走っている。

○同・軽トラ・車内(夜)
運転席の富ヶ谷と助手席の岩淵、共にやりきった感溢れる満足気な表情である。
富ヶ谷「今夜も完売だぜ~ありがたや~」
売上金を手提げ金庫内に整理してる岩淵。
岩淵「こんなトントン拍子で上手く行くなんてビックリだわ」
富ヶ谷「まるで順風満帆を絵に描いたみてーだよな」
岩淵「俺、トミーの事見くびってたわ。謝るわ」
富ヶ谷「へっ、気にすんなって。ここまでこれたのもブッチのギターテクとボーカルセンスのおかげな訳だからよ」
岩淵「(まんざらでもない笑み)へへ……」

○道路(夜)
かつて岩淵が勤務していたコンビニを通りかかる軽トラ。

○同・軽トラ・車内(夜)
ハンドル片手でコンビニを指差す富ヶ谷。
富ヶ谷「ちょっくら寄ってこうぜ。煙草が切れちまったからよ」
岩淵「え、 マジで!?」
富ヶ谷「どした?」
岩淵「……前のバイト先なんだよ」
富ヶ谷「へー」
岩淵「俺が辞めた後、どーやってもシフトが埋まんねーから糞店長自らカバーしてるらしいのよ」
富ヶ谷「もう関係ねーだろ。俺らは一般客だ」
岩淵「ちょっぴり気まじーじゃんかよ」
富ヶ谷「過去は気にすんなって。大事なのは今だ。順風満帆オーラ全快で売上に貢献してやろうぜ!」
岩淵「……」

○コンビニ・店内(夜)
空いている店内。
品出しをしている目の下にクマをつくった店長。
入って来る富ヶ谷。後に続く岩淵、警戒しながらよそよそしく顔を伏せている。
店長「いらっしゃいませ~」
ビクつく岩淵。
富ヶ谷、レジカウンター横のホットドリンクコーナーを指差し
富ヶ谷「気の利いたホットドリンク、チョイスしといてくれ」
岩淵「……オーケー」
富ヶ谷、品出し中の店長に聞こえるように
富ヶ谷「すんませ~ん」
店長「はい~」
岩淵「うぅ……」
品出しを中断してレジへ向かう店長。
ホットドリンクコーナーで甘酒とお汁粉の缶を取る岩淵。
岩淵を横切る店長。
岩淵「(顔を反らし)うっわ……」
レジで富ヶ谷を接客する店長。
富ヶ谷「ラッキーストライクのソフト1つ下さい」
店長「かしこまりました~」
レジへ甘酒とお汁粉を持ってくる岩淵。
富ヶ谷「お、肌寒い夜にピッタリの中々のセンスだな」
岩淵「……」
会計作業をする店長。
富ヶ谷の背後で気が気じゃない様子で身を隠している岩淵。
商品を受け取り支払いを済ます富ヶ谷。
店長「ありがとうございま……ん?」
俯いた岩淵に気付く店長。
店長「おま……岩淵か?」
岩淵「……あ、久しぶりっす」
店長、みるみる鬼の形相になり
店長「何で電話に出ないんだよ?  俺はな、お前に言いたい事が山程あったんだよ」
岩淵「……そーだったんすね」
傍観してる富ヶ谷。
店長「この際この場を借りて言わせて貰うけど、何なんだあの退職の仕方は?  社会人としておかしいって思わなかったのか?」
岩淵「……」
店長「へっ……お得意のだんまりだけは変わってないなあ」
ムッとして不貞腐れる岩淵。
店長「高野とは大違いだな。ああホントこんな時、高野がいてくれたらよお」
カチンとくる岩淵。
岩淵「……高野高野うっせーな」
店長「あ?」
岩淵「俺は客だぞ。いつまで昔の関係引きずってやがんだ、このタコ!」
店長「え?」
富ヶ谷、『いいぞもっとヤレ!』の表情で岩淵を後押しする。
岩淵「客に暴言吐くとは良い度胸してんな。信じらんねー店長だわ。フランチャイズが聞いて呆れるわ」
店長「え……?」
ドヤ顔で威嚇する岩淵。
岩淵「今や俺もイッパシの経営者なんだぞ!」
圧倒されて萎縮する店長。
岩淵「あー最悪の気分だわ~こいつは本部にクレーム直訴案件だわ~」
店長「ええ!?」
岩淵、レジカウンター前に置いてあるお客様アンケートハガキをシュッと抜き取り
岩淵「覚えてろよ」
店長「(泣きそうな表情)……」
意気盛んに退散する岩淵と富ヶ谷。

○同・店外の駐車場(夜)
出てくる岩淵と富ヶ谷。
富ヶ谷「言ってやったな。さすがだぜ、ブッチ」
岩淵「あースッキリした」
岩淵、お客様アンケートハガキをグシャグシャに握り潰して路上に投げ捨てる。
富ヶ谷「あれ?  クレーム入れんじゃなかったの?」
岩淵「ただのパフォーマンス。俺、須佐さんじゃねーし」
富ヶ谷「須佐さんって誰だよ?」
岩淵「日雇い糞バイトの事務転現場ん時の監督だよ。覚えてねーか?  角刈りの」
富ヶ谷「……ああ、いたなそんなヤツ」
岩淵「アイツに昼飯恩着せがましく奢ってもらったじゃん?」
富ヶ谷「ああ」
岩淵「あん時飯が来る順番がおせーとか何とかで店員にすげーゴーマンかましてたじゃん?」
富ヶ谷「そーいやそーだな……その場でクレームの内容店員に見せつけるように書いてたよな。あれは飯は不味くなるし、究極的にダセー醜態だったな」
岩淵「あんなダセー大人になりたくねーからね俺は」
富ヶ谷「なるほどね~」
軽トラに乗り込む岩淵と富ヶ谷。間もなく発進する軽トラ。

○目まぐるしく変化する街の日常・点描

○住宅街(夜)
快活なロックミュージックをライブ演奏しながら安全運転で住宅街を走る『石焼き芋』の幟を天高く掲げた焼き芋屋スタイルの軽トラ。
ぞくぞくと主婦が寄って来る。
×   ×   ×
主婦行列を接客する富ヶ谷。
傍らで美味しい焼き芋ソングを弾き語りながら購買意欲を掻き立てる岩淵。
徐々に娘連れの主婦の順番がやってくる。
富ヶ谷「いらっさーぃ」
岩淵「!!!」
演奏を止める岩淵。
富ヶ谷「……ん、どした?」
娘連れの主婦、宍戸桃花(28)は人妻特有の妖艶な魅了を溢れんばかりに放ち、娘のエリカ(5)と仲睦まじく手を繋いでいる。
桃花を見つめたまま、複雑な表情で立ち尽くす岩淵。
桃花、岩淵を見つめて
桃花「あれ?  ……ピクミン?」
岩淵「(動揺)……」
富ヶ谷「おやおやお二人さん、知り合いかね?」
岩淵「……」
桃花「すごい久しぶりだね……」
岩淵「う、うん」
桃花「ピクミン、今は焼き芋屋さんやってるんだ」
富ヶ谷、岩淵の『ピクミン』の別称にプッと吹き出す。
富ヶ谷「ピ、ピクミン……」
岩淵「……」
桃花「元気そうで良かった」
岩淵「……うん」
富ヶ谷「お二人さん、ただならぬカンケーと見た。こいつぁーサービスしねー訳にゃいかねー」
富ヶ谷、他の主婦に悟られないように紙袋に焼き芋を大量に詰め込み、押印され尽くしたスタンプカードと一緒に桃花に渡す。
桃花「わあ、いいんですか?」
富ヶ谷、茶目っ気たっぷりに
富ヶ谷「もってけドロボウ!」
桃花「ありがとうございま~す」
桃花、エリカに向かって
桃花「エリカちゃん、やったねえよかったねえ」
微笑ましい親子の光景を前に虚しさを抑えきれないでいる岩淵。
桃花、富ヶ谷と岩淵に手を振り
桃花「どうも~。ピクミン、元気でね~」
行ってしまう桃花とエリカ。
岩淵「……」
再来する主婦行列。
傷心を胸に物思いに耽る岩淵。
主婦行列捌きに大忙しの富ヶ谷。
富ヶ谷「……なあ、ピクミンよ。何があったのかよく分かんねーけど、そろそろミュージックスタートしてくんねーかな?」
岩淵「……あ、ああ。そうだな……」
岩淵、無理やり活気を奮い起こしてギターを掻き鳴らす。
岩淵「(ヤケクソ)アイアマ、バーニングポテトライダー!  マイハートイズ、ベリーブロークン!!  ゴーゴーヒァウィゴー!!!」
主婦行列はまだまだ続く。

○公園(夜)
寂れた公園。
ベンチに座っている富ヶ谷と岩淵。
お汁粉を啜る富ヶ谷。
甘酒片手にギターを我が子のように包容している岩淵。
背後の道路脇に店仕舞いした軽トラが路駐してある。
煙草を食わえる富ヶ谷、ジッポーライターをスタイリッシュに点火させて火を点ける。
岩淵「高そうなジッポーだな。ブランドもん?」
富ヶ谷、煙草を深く一服し、ジッポーの蓋を開閉させてその心地好い音色に聞き入っている。
富ヶ谷「まあな」
ジッポーを点火させたまま炎をまどろんだ眼差しで見つめる富ヶ谷。
富ヶ谷「こいつは過酷な日々を俺と一緒に歩んできたかけがえのない相棒みてーなもんさ」
岩淵「へー」
ジッポーの蓋を閉めて炎を消す富ヶ谷。
富ヶ谷「だけど今じゃピクミンが俺の心強い相棒だぜ」
岩淵「やめてくれよ、その呼び名」
富ヶ谷「何でピクミンなんて呼ばれてたんだよ?」
岩淵「メイド喫茶なんて初めてだったからよ。緊張し過ぎて挙動不審だったからだろ」
富ヶ谷「ははっ」
岩淵「ようやく俺の猛アピールが実を結ぶかって時に……情けねえよ……」
富ヶ谷「家まで連れ込んどいて一発もブチかましてねーなんて世間一般的には勿体ねーとか意気地無しとか言われるだろうけど、ブッチの感覚、俺には良く分かるぜ」
岩淵「そうか……?  墓場まで忌々しく付いてくる人生最大の後悔だな、ありゃ」
富ヶ谷「しかも子供もいると来た」
岩淵「あの娘、一歩間違えれば俺の娘だったんだなって……すげー複雑な心境だよ……」
富ヶ谷「その気持ち、よう分かるわ……俺もよ、昔オキニの風俗嬢が体験動画出てんの見ちゃってよ、キモいオッサンの男優と濃厚に絡んでんの見せつけられてすげー嫉妬と絶望の気持ちが入り乱れて精神がぶっ壊れそうになったからよ」
岩淵「うっわ……ゲスを極め過ぎだぞ」
よく分からない共感じみたモノを噛みしめ合う二人。
富ヶ谷、すっくと立ち上がり
富ヶ谷「一足早く『春』でも買いにいくか?  気晴らしに!」
岩淵「……俺はいいや」
富ヶ谷「なんだよ、奢るぜ」
岩淵「いや、いいわ」
キョトンとした富ヶ谷を尻目に唐突にギターを爪弾きだす岩淵。
青春のラブソングチックな哀愁の音色が公園一帯に木霊する。
何とも言えないセンチメンタルなムードに包まれ、人生の儚さを分かち合う二人。

○目まぐるしく変化する街の日常・点描

○住宅街(夜)
今夜もまた、活発なロックミュージックをライブ演奏しながら安全運転で住宅街を走る『石焼き芋』の幟を天高く掲げた焼き芋屋スタイルの軽トラ。
どこからともなくちっさいオッサンの菊池(45)が現れる。軽トラに向かって不気味な笑顔で手招きをしている。

○同・軽トラ・車内(夜)
運転席でハンドルを握る富ヶ谷。助手席でギターを掻き鳴らしながらロックなシャウトで購買意欲を掻き立てる岩淵。
富ヶ谷、菊池に気付いて
富ヶ谷「お、珍しくオッサンの客じゃねえか」

○住宅街(夜)
菊池の側で停車する軽トラ。
近寄ってくる菊池。
軽トラから降りて接客する富ヶ谷。富ヶ谷に倣って傍らで活気出しのライブ演奏をする岩淵。
富ヶ谷「いらっさーぃ」
菊池「はえー、こりゃハイカラな焼き芋屋はんでんな~」
じろじろと軽トラやライブ中の岩淵を見やる菊池。
富ヶ谷「どーもっす。不景気な世の中、工夫が大事っすから」
菊池、石焼き釜の中の一番デカい芋を指差し
菊池「そこのでっかいの1本ちょーだい」
富ヶ谷「かしこまりました!」
トングでデカい芋を取って紙袋に入れる富ヶ谷。
富ヶ谷「300円になります」
菊池、支払いを済ませて紙袋を受け取ると、その場で芋を二つに割ってかぶりつく。
富ヶ谷・岩淵「?」
モグモグとじっくり味わいながらテイスティングする菊池。
菊池「うめえ!」
富ヶ谷「ありがとうございます」
菊池、ギロリと鬼の形相で富ヶ谷を睨み付ける。
菊池「あたりめーだろ!!」
富ヶ谷・岩淵「!?」
菊池「こいつは俺が手塩にかけて育てた芋だ。間違いねえ……」
狼狽する富ヶ谷。
緊張のビートを刻む岩淵。
菊池、両手に握った芋を振りかぶって富ヶ谷と岩淵を思い切り殴り付ける。
気を失って倒れ込む富ヶ谷と岩淵。

○廃工場・外観(夜)
廃墟地帯で不穏なムードを放つ廃工場。

○同・内(夜)
殺風景で荒廃した工場内。
使用用途不明の錆び付いて故障した機械や器具が床に生首のように転がっている。
柱に拘束されて気を失っている富ヶ谷と岩淵。柱を軸に背中合わせで両腕を後ろ手に結束バンドで繋がれている。
と、富ヶ谷と岩淵の頭目掛けて小石が投げ付けられる。
意識を取り戻す富ヶ谷と岩淵。
富ヶ谷・岩淵「……?」
菊池が強奪した軽トラから石焼き釜の中の小石を拾い上げて投げ付けている。
菊池「お、起きやしたぜ。河西のダンナ」
菊池の横で冷酷な表情で仁王立ちしている長身の河西(50)。
河西の横の佐久間(25)、机上で工具箱を広げて黙々と痛恨の1本を吟味している。
河西「おめえら、誰に断ってこの町で商売してやがんだ?」
恐怖におののく富ヶ谷と岩淵。
富ヶ谷「いやそのあの……」
岩淵「やべーよやべーよ……」
手持ち無沙汰の菊池、岩淵のギターを抱えてエアギターをしている。
河西、ドスの利いた低い声で
河西「それよりも許せねーのが芋泥棒の件だ……」
ビクつく富ヶ谷。
岩淵「(小声)おいトミー、出世払がどーたらこーたらで上手い事手を打ったんじゃなかったのかよ?」
富ヶ谷「最近忙しくてな。それどころじゃなかったんだよ……」
岩淵「うっわ~……自業自得じゃねえかよ」
河西「おい、菊池!  あれ見せろ!」
菊池、ギターを置いてスマホの防犯カメラアプリを起動させる。
菊池「へい、ただいま!」
スマホを河西へ渡す菊池。
河西「最近提携してる芋農家の畑が荒らされてるってんでよ、監視カメラ仕掛けといたんだ」
スマホの画面には富ヶ谷と岩淵がサツマイモ畑で芋をせっせと収穫している映像が流れている。
スマホ映像を富ヶ谷と岩淵に見せ付ける河西。
河西「おめえら、良い度胸してんな」
富ヶ谷・岩淵「げ!」
万事休すの富ヶ谷と岩淵。
河西「ぶっとばすを通り越して、ぶっ殺してやりてーぜ!」
河西、佐久間が並べた工具類が乗った机に向かい、1つ1つ手に取っては壁を殴り付けて威力をじっくりと吟味している。
戦慄する富ヶ谷と岩淵。
岩淵「やべーよやべーよ……殺されちまうよ……」
今にもチビりそうな岩淵。
富ヶ谷「すまねえブッチ……俺のせいで巻き込んぢまってよ」
岩淵「今さら謝られてもどーしよーもねーよコレ……」
無理やり男気を捻り出す富ヶ谷。
富ヶ谷「ブッチ、俺に良い案がある」
岩淵「話かけんな、これから報いを受ける心の準備に取りかかんだから!」
富ヶ谷「まだ諦めんじゃねーよ。俺、こういう修羅場を潜り抜けんのは得意なんだ」
岩淵「は……?」
『よし、これだ!』といった物腰で工具類からバールのようなモノをチョイスする河西。河西に倣ってモンキーレンチをチョイスする菊池。菊池に倣ってプラスドライバーをチョイスする佐久間。
河西ら、お気に入りの拷問器具を手にジリジリと富ヶ谷と岩淵に歩み寄る。
絶体絶命の大ピンチ。
怨念たっぷりにほくそ笑みながらバールのようなモノの頭をポンポンと弄んでいる河西。
河西「ぶっ殺してやる……」
岩淵「お、終わった……」
富ヶ谷「その前に最後の一服だ!」
富ヶ谷、ケツポケットからジッポーライターを取り出して結束バンドを焼き切る。
バールのようなモノを富ヶ谷の頭上で大きく振りかぶって力強く降り下ろす河西。
富ヶ谷と岩淵の両腕の結束が外れて身動きが自由になる。
頭上のバールのようなモノを果敢に白羽取りする富ヶ谷。
河西「!」
河西に金的蹴りを食らわす富ヶ谷。
菊池・佐久間「!?」
苦悶の表情でうずくまる河西。
富ヶ谷「いくぞブッチ!」
岩淵「ちょ待てよトミー!」
富ヶ谷と岩淵、全力疾走で菊池と佐久間を振り切って軽トラに乗り込む。
追いかけてくる菊池と佐久間。
軽トラのエンジンが中々かからないでいる。
富ヶ谷「なんてこった、これじゃまるでB級アクション映画じゃねーか!」
岩淵、床にほったらかしてあるマイギターに目をやる。
岩淵「やべっ」
軽トラを降りる岩淵。
富ヶ谷「ちょ待てよブッチ!」
岩淵、ギターを無事回収するとすかさず軽トラに戻る。
運転席で菊池と佐久間に羽交い締めにされている富ヶ谷。
岩淵「トミー!!」
富ヶ谷「うお~……」
菊池「ぶっ殺すぞワレ!!」
モンキーレンチで富ヶ谷に殴りかかる菊池。
富ヶ谷「!」
岩淵「トミー!」
岩淵、咄嗟にギターをバット代わりにしてモンキーレンチを払い除ける。
菊池「!」
ギターのボディにえげつない傷が付いているのを見た岩淵、気が動転してヤケクソになる。
岩淵「ちょ待てよーーー!!!」
菊池と佐久間をギターで力一杯タコ殴りにする岩淵。
軽トラの外へ倒れ込む菊池と佐久間。
岩淵、ネックが折れてボディがブラついたギターを抱えて軽トラに乗り込む。
やっと軽トラのエンジンがかかる。
富ヶ谷「よっしゃ、行くぞ!」
岩淵「……」
猛スピードでシャッターをブチ破って逃走する軽トラ。

○道路(未明)
疾走する軽トラ。

○同・軽トラ・車内(未明~早朝)
運転席でハンドルを握る富ヶ谷。煙草を食わえてジッポーで火を点ける。ジッポーをダッシュボードの上に御守りの如く大事そうに置き、深く一服する。
助手席の岩淵、憔悴しきってブッ壊れたギターを呆然と抱えている。
富ヶ谷「ブッチの火事場の馬鹿力、見事だったぜ」
岩淵「し、親友が……死んじまった……」
富ヶ谷、ドヤ顔で
富ヶ谷「くよくよすんな、俺がいるだろ」
岩淵「……」
富ヶ谷「お~い……」
岩淵「……これからどうすんだよ?  もうこの町に居られそーにねーだろ?」
富ヶ谷「ほとぼりが冷めるまで町を出るしかないだろうな」
沈黙に包まれる車内。
岩淵、項垂れて
岩淵「1つ得ると1つ減る。俺の人生これの繰り返しだ……」
富ヶ谷「……」
燃える朝焼けの陽光が二人を照り付ける。
富ヶ谷「いや、逆さ」
岩淵「ん?」
富ヶ谷「ちょっと寄り道してくけどいいか?」
岩淵「ああ……」

○リサイクルショップ・外観
開店直後の駐車場にポツンと軽トラが駐車してある。

○同・軽トラ・車内
空の運転席。
助手席の岩淵、壊れたギターを胸に抱えてうたた寝している。
運転席に乗り込む富ヶ谷。
起きる岩淵。
富ヶ谷「便所とか大丈夫か?」
岩淵「ん、ああ」
発進する軽トラ。

○道路
広大なハイウェイを疾走する軽トラ。

○同・軽トラ・車内
運転席でハンドルを握る富ヶ谷。
いつまでも意気消沈している助手席の岩淵。
富ヶ谷「なあ、ブッチよ」
岩淵「……なんだよ?」
富ヶ谷「さっき1つ得ると1つ減るって言ったじゃん?」
岩淵「ああ……」
富ヶ谷「こう考えるといい。1つ減ると1つ得るんだ。物理的にも精神的にもな」
岩淵「どーだかね」
富ヶ谷「ようは気の持ちようだぜ」
岩淵「俺、もうダメかも分からんね……」
富ヶ谷「荷台にプレゼントがあるからよ。元気だせって」
岩淵「?」

○同・路肩
アイドリングしている軽トラ。
助手席から降りてくる岩淵。欠伸をしながら不承不承に荷台のシートをまさぐる。
岩淵「!!!」
荷台には激レアギターの『ピート・タウンゼントモデルストラトキャスター』が置いてある。
歓喜乱舞して運転席にすっ飛んで行く岩淵。
岩淵「マジかよ!?」
富ヶ谷、助手席のぶっ壊れたギターを見つめて
富ヶ谷「1つ減ると1つ得る!」
岩淵「どっひゃ~!」
富ヶ谷「それを繰り返して転がって行くのが人生!」
岩淵「クッセー!」
富ヶ谷「こんな臭いセリフ言わせた罰だ。ノリノリのロックナンバー頼むぜ」
岩淵「ヨッシャー!」
荷台に飛び乗る岩淵。アンプ等のセッティングをスピーディーに済ませると、気合いを入れてストラトキャスターを肩にかける。
運転席の窓から顔を出す富ヶ谷。
富ヶ谷「ロックンロール、オーケー?」
ロックスターのようにスタイリッシュ且つクールに身構える岩淵。
岩淵「ロックンロール、オーケー!」
軽トラの発進と共に躍動感溢れる猛烈なロックンロールを爆演する岩淵。
バツグンのBGMをバックに、
ハイウェイの彼方へ100万馬力で疾走する軽トラ。

(完) 

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