ドラゴン・マリリコ アクション

カルト的人気ドラマ「龍門少女」の大ファンである理子は、大学で麻里と出会う。麻里は龍門少女で主演をつとめるも、スキャンダルで芸能界を引退していたのだ。さっそく理子は麻里に話しかけるが……。
八木辰 10 0 0 07/20
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第一稿

○屋敷内
   豪華な調度品の並ぶ広い部屋。
   ところどころで銅像や花瓶が壊れてい
   る。
   チャイナドレス姿の龍門少女(12)がカ
   ンフーの構えで目の ...続きを読む
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○屋敷内
   豪華な調度品の並ぶ広い部屋。
   ところどころで銅像や花瓶が壊れてい
   る。
   チャイナドレス姿の龍門少女(12)がカ
   ンフーの構えで目の前を睨んでいる。
   龍門少女の目線の先ではチャン(45)が
   膝をついて口から血を流している。顔
   には不敵な笑みを浮かべている。
龍門「父の仇……討たせてもらいまし
 た……」
チャン「やはり……龍門拳の使い手は子供まで始末しておく必要があったようだな」
龍門「……今更後悔しても遅いわ……」
   チャン、急に大声で笑いだす。
龍門「……何がおかしいの?」
チャン「……黒星拳の使い手は、私が最後で
 はない」
龍門「え?」
チャン「私の娘が……いずれお前を倒しに現
 れるだろう……お前の言う運命の選択を終
 らせる為に……」
龍門「私は……自分の運命を選び続ける為
 に、戦い続ける……当然あなたの娘にも勝
 つわ」
チャン「それはどうかな……いずれ……娘と
 お前が対峙した時、答えは自ずと出るだろ
 うが……」
   チャン、吐血。
チャン「さらばだ……龍門少女……運命に呪
 われた少女よ……」
   チャン、倒れる。
龍門「……」
   龍門少女、チャンをじっと見下ろして
 いる。

○佐久間家・リビング(夜)
   佐久間理子(18)がDVDデッキから「龍
   門少女」を取り出すと、しばし眺め
   る。
   その後ケースにDVDをしまっている
   と、佐久間晴子(46)が髪をタオルで拭
   きながらやってくる。
晴子「お風呂入っちゃいなよ」
理子「あ、うん」
晴子「また龍門少女観てたの?」
理子「うん」
晴子「好きねー、ホント」
理子「好きなものはしょうがない」
晴子「そういうとこはパパにそっくりよね、
 どーゆーわけだか……」
理子「最近よくそれ言うよね」
晴子「うん……大学生になったんだから、少
 しは色気も身につけてね。母のように」
   晴子、身をくねらす。
理子「自分で言う?」
晴子「言うよ」
理子「はいはい……風呂入ろーっと」
   理子、立ち上がりリビングを出て行
   く。
   晴子、それを見送って。
晴子「ホント、あなたにそっくりだわ、どー
 ゆーわけだか」
   晴子視線を移す。その先には若い頃の
   晴子と男性が赤ん坊を抱いている写
   真。

○高田大学・正門(朝)
   授業に向かう沢山の学生達。
   その中で何人かが囁きあったり指差し   
   たりしている。
   彼らの視線の先では日高麻理(18)が無
   表情で歩いている。
   どこからかスマートフォンのシャッタ
   ー音。
   麻理、シャッターの方へ鋭い目線を向
   けると、ヘラヘラとした男子学生がス
   マートフォンを向けている。
   男子学生、麻理の視線に気づくと気不
   味くなり足早に立ち去ろうとする。
   麻理、男子学生に近寄りその肩を掴ん
   で。
麻理「今撮ったの、消して」

○同・小教室(朝)
   40人ほどが収容できる教室。生徒達が
   まばらに着席している。
   理子、教室最後方の席に着き、ヘッド
   ホンで音楽を聴きながら机の上のリュ
   ックに顔面をめり込ませて突っ伏し、
   いびきをかいている。
   そこへ眼鏡をかけた溝口夏実(18)が近
   づいてくる。
   依子、理子のヘッドホンをはずして。
夏実「寝てんのかー」
   理子、飛び起きる。表情は寝ぼけてい
   る。
理子「うわあ!」
夏実「あ、起きた」
理子「お、起きるよそりゃ!」
夏実「授業初日から耳塞いじゃってさー。友
 達出来ないよ?」
理子「そうかもしれないけど……あの、あな
 た誰?」
夏実「あ、名乗ってなかったわね。私、溝口
   夏実、少し視力の悪い女の子です」
   夏実、理子の隣に座る。
理子「ああ……面白い子なのね」
夏実「そりゃどうも。あなたは?」
理子「あ、私、佐久間理子……朝が弱い女の
  子です」
夏実「あーそりゃ見りゃわかるわ……あなた
 もなんだか面白そうな子よね」
理子「あ、はあ……そりゃどうも」
   教室前方のドアが開き、麻理が無表情
   で入って来る。
   麻理、教室前方の席に着く。すると周
   囲の生徒達が「え、もしかして……」
  「ヒダマリ?」などと小声で囁き合う。
   依子も麻理に視線を奪われている。
夏実「(理子に囁くように)うわー、なにあ
 れー、スッゴイ綺麗な子じゃない?ひくわ
 ー、綺麗すぎて……」
   理子、依子に促され麻理の方を見る。
   すると、理子の表情がみるみる興奮し
   たものになっていく。
理子「ヒダマリちゃん……」
夏実「ん、え!どしたのあなた急に!そんな
 顔して……」
   理子、ガバッと席を立つと、他の席に
   ぶつかったりしながら勢い良く麻理の
   元へ駆け寄っていく。
夏実「うわうわー何だー……」
   理子、麻理の席の前に立つが、緊張し
   て言葉が出ない様子。
   麻理、しばらく理子を無視していた
   が、やがて口を開く。
麻理「……何?」
   理子、激しく動揺するが、意を決する
   ように息を一つ吐いて。
理子「あの、ヒダマリ……日高まりさん……
 ですよね!?」
麻理「そうだけど」
理子「う、う、う、うわー!やっぱりそうで
 すよね?てか絶対見間違うわけないです
 私……あの、だ、大ファンなんです!」
麻理「……」
理子「あの、私、まりさんの演技を見
 て……」
麻理「私、もう引退してるんで」
理子「あ、あ、あの、そう、とても私、悲し
 かったんです!まりさんの引退……でも今
 でもファンなんです!デビュー作の……」
麻理「私、もう一般人なんで。静かにしても
   らって良いですか?」
   教室シーンとなる。
理子「……あ、あの、すみませんでした」
麻理「……」
理子「……ごめんなさい」
   理子、元の席へ戻る。

○同・学食
   理子と夏実、席で向かい合い、コーヒ
   ーを飲んでいる。
夏実「まあー、そんなに気を落とすことない   
 って」
理子「うん……そうだね……いや、そんなこ
 とないなぁ」
   理子、力無くうつむく。
夏実「相手は元・天才子役よ。元、とはいえ
 芸能人なんだから、私たちとは感覚違うの
 よ……」
理子「うん……」
夏実「いやーしかし外国語のクラス一緒と
 はねー。昔から可愛い子だなとは思って見
 てたけど、実物はあれ、えげつない美人
 ね」
理子「……ヒダマリは……本当に天才なん
 だよ」
夏実「へ?」
理子「天才っていうか、超特別っていうか、
 この世が原始時代だったらヒダマリだけは
 SFなんだよ!」
夏実「はい落ち着いて。日本語が独特になっ
 てるぞー」
理子「ヒダマリの才能は言葉じゃ言い尽くせ
 ないの!……それに、ヒダマリがいなかっ
 たら私……ここにいないもん」
夏実「おやおや……どゆこと?」
理子「……私……『龍門少女』がめちゃくち
 ゃ好きなのね」
夏実「あー、懐かしー!小学生の頃流行った
 流行った!」
理子「当時さ、まだ子供だし、自分じゃ何に
 も出来ないって思ってた頃にだよ?同い年
 の女の子がでっかい大人達をバンバン素手
 で倒してさ……いや、私は自分の修行不足
 を嘆いたよね」
夏実「修行不足って……」
理子「当時12歳だよ?っていうか大人にだっ
 てあんなにできる人未だにいないでしょ」
夏実「末はハリウッド女優か?って騒がれま
 くってたもんね」
理子「今も映像見返すけどあれは本当に凄い
 って」
夏実「未だに見てるの?」
理子「うん」
夏実「そりゃ、本物なんて見たらたまらん 
 ね」
理子「そうなの!そもそも私がここの文学部
 を選んだのも、『龍門少女』の脚本家さん
 の出身学部だからだし」
夏実「ええ……そこまで……」
理子「そう……その脚本家さん、良くヒダマ
 リの出るドラマ書いてたから……いつか、
 ヒダマリと一緒にお仕事できるように勉強
 しよう!って決心して、はや7年」
夏実「入学早々憧れの日高まりが同じクラス
 にって……いやー、そりゃ卒倒してもおか 
 しくないわね。奇跡だわ」
理子「でしょ?」
夏実「うん……実に劇的だわ」
理子「そうなんだよ」
夏実「……ていうか、あなたってサクライタ
 ダヒコの出身校だからここに来たのね?」
理子「へ?……あ、うん。そんな感じ……」
夏実「わー、あなた、私との出会いも相当奇
 跡ね!奇跡は二つ起きていたのでした」
理子「え、なになになになに?」
夏実「よし、行こう」
   夏実、コーヒーを一気に飲み干す。
理子「え、いや、ちょっと、行くってな
 に?」
夏実「ぼやっとしてないで!『五感よりも速
 く拳を打ち込むの』」
理子「あ、それ龍門少女の決め台詞!」
夏実「ほら、さっさとコーヒー飲んじゃ
 え!」
理子「うわ、はい」
   理子、コーヒーを一気に飲み干す。
夏実「ほら、行こ!」
   二人、カップを持って席を立つ。
   そのまま二人、席を離れかけるが、夏
   実が不意に立ち止まる。
夏実「あ、そだそだ」
理子「うあわ!急に止まらないでよ……」
夏実「私のこと、夏実って呼んで良いから  
 さ、私あなたのこと理子って……呼ん
 でも良い?」
   理子、始めキョトンとした表情だが、
   次第に笑顔になって。
理子「もー、良いに決まってるじゃーん!」
夏実「やったー!じゃ、理子行こー!」
理子「夏実行こー!」
   二人、席を離れる。

○同・正門前
   麻理がベンチに座ってスマートフォン
   を眺めている。
   画面ではメッセージアプリに受信を告
   げるバッチが付いている。
   アプリを開くと「あかり」からの「こ
   の後久々にお茶しない?」というメッ
   セージ。
   麻理、「いいですよ、是非!」という
   メッセージを打ち、送信しようとする
   と、理子と夏実の声が聞こえて一旦手
   を止める。見ると、二人とも麻理には
   気づいていない様子で正門の方へ歩い
   て行く。
理子「ねえ、だからどこ行くの?」
夏実「大講堂の裏の方ー」
   理子と夏実、正門の外へ出て行く。
   麻理、しばらく二人の行った方を眺め
   ている。
   すると、少し離れた場所で学生数名が
   麻理を見てひそひそ話をしている。
学生1「あれ、日高麻理だろ?」
学生2「うわ、まじかよ」
学生3「日高麻理ってあれだろ、俳優といる
 の写真に撮られて芸能界やめた……」
   麻理、学生たちの方をキッと睨む。
   学生たち、気まずそうに目線をそら
   す。
   麻理、スマートフォンに目を戻すと、
   先ほどのメッセージを送信して立ち上
   がり、歩き出す。

○旧部室棟(外観)
   コンクリートで出来た、古びた二階建
   てくらいの建物。各部室の入り口前に
   は木で出来た看板の他、折れたギタ
   ー、バネの飛び出たソファーなど、サ
   ークル活動で邪魔になったと思われる
   ものが雑多に放置されている。壁には
   剥がれかかったポスターやスプレーの
   落書きなどが所々に見られ、とても足
   を踏み入れづらい雰囲気。
   理子と夏実、並んで部室棟を眺めてい
   る。
理子「……え?」
夏実「行こう!」
   夏実歩き出す。
   理子、行こうとする夏実の手をすぐに
   引いて
理子「いやいやいやいや……待って夏実、冷 
 静になって!」
夏実「どしたの理子?」
理子「おかしいって!ここ絶対危ない所だっ
 て」
夏実「そんなことないよ、ちゃんとした公認
 サークルの部室棟だもん」
   突如、部室棟の扉が勢い良く開く。五
   十嵐武雄(24)と男子学生の罵り合いと
   共に、すごい勢いのギター音が部室の   
   中から聞こえててくる。
武雄「てめー音楽なめてんのか!?出てけ
 よ!」
学生「だってここ、サークルなんでしょ!? 
 楽しめれば……うわ!」
   男子学生、カバンを抱えて部室から吹
   っ飛んでくる。
   武雄、ギターをバットの様に構えて出
   てくる。
武雄「ウチはな……音楽と死ねるヤツ以外お
 断りなんだよ!」
学生「は!?ばかじゃねえの?」
武雄「楽しみてえなら来世で楽しめよおお
 お!」
   武雄、ギターを思いっきり振りかぶ
   る。
学生「う……うわああああああ!」
   男子学生、必死に逃げ出す。途中、理
   子と夏実の目の前で派手に転ぶ。
理子「あの……大丈夫で……」
   男子学生、立ち上がって武雄の方を睨
   みつける。
学生「二度と来るかバーカ!」
武雄「ああ!!??」
   武雄、攻撃的なギターリフを奏でる。
学生「ひいいいいいいいい!」
   男子学生、逃げ去る。
武雄「魂見せろよポップソングの豚野郎!」
   武雄、部室の中へ入り勢い良くドアを
   閉める。
   しばし沈黙する理子と夏実。
夏実「……んじゃ、行こか」
理子「ええ!ちょっと待って!?夏実今の見
 た!?見えてた!?見えてたよね!?」
夏実「ほら、この大学、サークルいっぱいあ 
 るからさ」
理子「あるから何!?これまじでヤバイよ!
 ぱっと見で!」
夏実「私たちが行くのは第二演劇部の部室だ
 から。あんな物騒な人はいないと思うよ」
理子「……え、第二演劇部って、二劇の
 事?」
夏実「そう、あのサクライタダヒコも所属し
 てた、あの二劇よ」
理子「え、マジで!こんな物騒なところに部
 室あるの?」
夏実「そう。ここは元々芸術関係のサークル
 が集められていた部室棟らしいんだけど、
 十年前に新部室棟が出来た時に、大方のサ
 ークルは全部そっちに移ったらしいのね。
 で、本当はここ取り壊される予定だったん 
 だけど、サクライタダヒコとかここ出身
 の著名人達が反対の声明を出したおかげで
 いまだ健在、二劇も移動しなかったという
 わけ」
理子「へえ……詳しいね」
夏実「そりゃそうよ、高校生の頃からここに
 入部するのが目標だったんだもん」
理子「あ、そうだったんだ」
夏実「ほら、こんなとこに女二人突っ立って
 たって、王子さまも蕎麦屋さんも来ちゃく
 れないさ。行くよ!」
   夏実、部室棟に向けて歩き出す。
理子「ん?そ、そうだけど……」
   理子も歩き出す。

○同・第二演劇部室入口前
   ドアの表札に手書きで「第二演劇部」
   と書かれている。
   夏実がドアをノックする、が、誰も出
   て来ない。
理子「……誰もいないのかなぁ……?」
   夏実、ドアノブに手をかけてみる。
   すると、ドアが開く。
夏実「あら、でも開いてるみたい。中入って
 みよっか?」
理子「ちょっと夏実、ダメだよそんなの」
夏実「ダイジョブダイジョブ、いつでも見学 
 可ってもらったビラに書いてあったもん」
理子「あ!」
   夏実、ドアを開ける。
   すると部室内で北川リーナ(21)と王
   子隆晴(20)が熱いキスを交わしてい
   る。
   理子と夏実、絶句する。
   リーナ、ドアが開いたことに気づき、
   王子から離れようとする、が、王子は
   夢中になっており気づかない。
   リーナ、ドアの方を指差すがそれでも
   王子、気づかない。
   リーナ、王子を思いっきりビンタし床
   に放り投げる。
王子「うが!」
リーナ「もう!」
   リーナ、理子と夏実の方を見る。
   理子と夏実、慌てて視線を逸らして見
   てなかったふりをする。
   リーナ、特に動じずに話し出す。
リーナ「いらっしゃい、二人とも見学か 
 な?」
   理子と夏実、二人揃ってビクッとし、
   リーナに視線を戻す。
理子、夏実「……は、はい」

○喫茶店(夕)
   それほど込み合っていない静かな店   
   内。
   コーヒーとケーキの乗ったテーブルを
   挟んで沖田あかり(34)と麻理が座って
   いる。
沖田「いや、でも、麻理ちゃんがもう大学生
 か……そりゃ私もおばさんになるわ」
麻理「あかりさんは全然おばさんじゃない 
 よ」
沖田「全国民が認めた美少女にそう言われる
 とは……この上ない光栄だわ」
麻理「元・美少女ね」
沖田「いやいやあなた……毎朝ちゃんと鏡見 
 てる……?もんのすごい綺麗よ。昔から可
 愛かったけど、今はちょっと……凄いわ 
 よ……」
麻理「ネットでは劣化したとか書かれまくっ
 てたけどね」
沖田「あれはあなたの事をあくまで子役とし
 て見続けたい熱列なロリコン共の意見
 よ……」
麻理「そうかしら?」
沖田「そうよ。そりゃ、年頃だったし、ちょ
 っとした体型の変化とかもあった時期だと
 は思うけど、あなたの本質的な魅力に目が
 向いている人たちはずっと麻理ちゃんの味
 方だったのよ」
麻理「……私、復帰はしないよ?」
沖田「あ……違うわ、そういう事が言いたい
 んじゃなくて……」
麻理「……ごめんなさい。少し意地悪な事言
 いたくなっちゃったの……」
沖田「麻理ちゃん……」
   しばし沈黙。
沖田「……あれ以来、涼介君とは連絡取った
 りしてるの?」
   麻理、黙って首を振る。
沖田「そりゃ、そっか……ごめんね、変な事 
 聞いちゃった」
麻理「……ううん、いいの。その事に関して
 は沖田さんにいっぱい迷惑かけちゃった
 し……」
   しばし沈黙。
麻理「……お芝居したい」
沖田「……麻理ちゃん?」
麻理「自分の為に、お芝居したい……」
沖田「……そうね。あなた、お芝居はホント
 に好きだもんね。やったほうが良いわ」
麻理「そうかな?」
沖田「そうよ……それに、私も観たい。あな
 たが自分の為にやってるお芝居」
麻理「……ありがとう、沖田さん」

○高田大学・第二演劇部部室(夜)
   漫画やゲーム機に混じって戯曲や小説
   が散乱している八畳程の室内。
   低いテーブルにお菓子が広げられてお
   り、それを囲むように理子、夏実、王
   子と美園玲子(19)、赤羽一(20)、会田 
   勇(22)が座って盛り上がっている。
   それぞれ紙コップにジュースや缶酎ハ
   イなどを注いで飲んでいる。
会田「しかし、今年は授業初日から見学者が
 来るとは、いやはや伝統の二劇、今年こそ
 再ブレイクの年か?」
美園「ほとんど演劇の話するだけの飲みサー
 状態ですもんね」
会田「玲子ちゃんは正直に物を言い過ぎない
 でね!」
赤羽「ついに俺達も先輩だなあ、やった
 ね!」
   赤羽、王子と肩を組む。
   王子、あまり乗り気でない。
王子「え!?……あ、おう……」
赤羽「なんだよ!?まさか、早速お前、なん
 か恥ずかしいところでも見られたんじゃな
 いだろうなー?」
   赤羽、一人で大爆笑。
   王子、理子、夏実、互いに目をそらし
   つつ少し気まずい表情。
   そこへドアが開きリーナがコンビニの
   袋を提げて入って来る。
リーナ「追加の飲み物買ってきたよー!……
 アルコールもありまーす!」
赤羽「イエーイ!リーナさんサイコーっ
 す!」
   赤羽、リーナの方へ駆け寄って行く。
   王子もぎこちない笑顔でそれに続く。
会田「盛り上がりすぎだぞ親衛隊!」
理子「親衛隊?」
   美園、口に手を当てて理子と夏実に小
   声で話しかける。
美園「……あのね、赤羽くんと王子くんは二
 人でリーナ先輩の親衛隊……ということに
 なっているの」
理子「え!でも王子先輩と……」
   夏実と美園、理子の口を慌てて塞ぐ。
理子「うわ!」
美園「(小声で)理子ちゃん、それ以上
 は……無慈悲よ」
夏実「(小声で)そうよ……ほら見なさい」
   理子、夏実に促されてリーナ達の方へ
   視線を向ける。
リーナ「ほら、さっさとこれ持って!あと冷
  凍庫のトレーに氷まだ入ってるから出し
  といて!」
赤羽「はい!」
   赤羽嬉しそうにリーナからコンビニ袋
   を受け取る。
リーナ「ほら、あんたも!」
王子「あ、は、はい……」
赤羽「どうした王子ー、元気ねえぞー?うぃ
 ー!」
   赤羽、王子の脇腹をつつく。
   王子、生気無く笑う。
リーナ「そうよ、赤羽君見習ってシャキッと
 しなさいよ!」
王子「……は、はい!」
   王子、冷蔵庫のある方へ向かう。
理子「(小声で)地獄じゃないですか!てか
 なんで赤羽さんあんなに楽しそうなんで
 すか!?」
美園「(小声で)それが彼の……良いところ
 だからよ」
理子「(小声で)リーナ先輩もよく平然とし
 ていられるなー」
美園「(小声)高校までハワイ育ちだから、
 ちょっと感覚がね……リーナさんはね……
 火薬庫なのよ」
   赤羽、ジュースを持ってやってくる。
赤羽「はい未成年の皆さんはこれねー」
美園・理子・夏実「ありがとうございます
 ー!」
赤羽「良いんよ良いんよ……あ、リーナさん
 も注ぎます?」
   赤羽、リーナの元へ行く。
夏実「あの、そういえば」
美園「うん?」
夏実「落合先輩っていますよね?」
美園「進さん?うん、いるよ。そのうち来る
 と思うけど……え、知り合い?」
夏実「はい、高校の演劇部の先輩で……被っ
 てはないんですけど」
美園「……もしかして、追いかけてきた
 とか?」
夏実「はい……何度かOBとして部活に顔を
 出してくれて、それで……」
   夏実、もじもじしだす。
美園「くぅーーーー!」
   美園、スマートフォンを取り出しもじ
   もじする夏実の写真を撮りまくる。
夏実「あ、ちょっと!……もー」
理子「だからやたらと二劇に詳しかったんだ
 ね」
夏実「う……うん」
理子「へー」
夏実「あー理子まで面白がってー」
理子「くぅーーーーー!」
  理子もスマートフォンで夏実を撮りま
  くる。
夏実「あ、こら!二人とも趣味悪い!」
  夏実、カメラのレンズを手で被おうとす
  るが、二人、かわしながら撮り続ける。

○麻理のアパート・外観(夜)
   麻理がアパートに入っていく。

○麻理のアパート・室内(夜)
   十畳ほどの室内。
   棚には本やCDがぎっしり詰まってい
   る。
   麻理、電気もつけずに荷物を机の上に
   置くと、そのままベッドに倒れ込む。
麻理「五感よりも早く拳を打ち込むの……」
   麻理、しばらく天井を見つめた後、た
   め息をつく。

○旧部室棟・第二演劇部室内(夜)
   お菓子の袋や空き缶がテーブルの上に
   増えている。
   会田と理子が熱心に話し込んでいる。
   その周りではリーナに王子と赤羽が説
   教を食らっていたり、夏実が園田に質
   問攻めにされていたりしている。
会田「いやー、龍門少女の事こんなに語れる
 女の子がこの世に存在するなんて!」
理子「やっぱりあれは傑作中の傑作です
 よ!」
会田「そうなんだよなー!いやーほんと、続
 編の予定がなくなったのが悔やまれる!」
理子「ついに龍門少女の前に黒星拳の少女が
 現れる!って、見れずに死ねるかって話で
 すよね!?」
会田「そう!……五感よりも早く拳を打ち込
 むの」
理子「出た!名台詞!」
会田「まあ実際、黒星拳の少女のキャスティ
 ングは不可能だろって言われてたけどな。
 あれ実現してたらマジで名作だったの
 に……」
理子「ええ」
会田「スキャンダルであんだけメディアとか
 ファンとかにごちゃごちゃ言われちゃメン
 タルもたないよな。十代の女の子だもん」
理子「そう、ですよね……」
会田「結構エグい噂も流れてたしな……」
   ドアが開き、落合進(21)が入って来
   る。
落合「遅くなってごめんねー」
リーナ「あ、進ー!」
   夏実、急に緊張しだす。
会田「お、出た、主役は遅れてやってくるパ
 ターン?」
落合「そんなんじゃないっすよ」
赤羽「あ、落合さん、高校の後輩って子、こ
 の子ですよ」
   赤羽、夏実を指差す。
夏実「あ、あの、初めまして……」
落合「あ、君かー!覚えてる覚えてる!」
夏実「溝口夏実です……覚えてくれていて、
 嬉しいです」
落合「君は、初めましてだよね?」
理子「あ、ども、佐久間理子です」
落合「よろしく」
理子「あ、はい、よろしくお願いします」
   理子、軽く会釈する。

○高田大学・外観
  
○高田大学・大教室
   二百人ほどが収容出来る大教室。
   授業が終わり、生徒が机の上を片付け
   たり移動したりしている。
   片付けを終えた理子が顔を上げると、
   夏実が手を振っている。
理子「あ、夏実もこの授業取ってたんだ?」
夏実「うん、奇遇だねー」
理子「え、この後部室行くでしょ?」
夏実「うん……あ!」
   夏実、目線の先に何か見つける。
   理子、夏実の目線の先を見ると、麻理
   が歩いている。
理子「ヒダマリも同じ授業取ってたのか」
夏実「ねえ、ちょっとついてってみない?」
理子「え!ダメだよそれは!プライバシーの
 侵害だよ!?」
夏実「いいじゃんいいじゃんちょっとくら
 い」
理子「夏実ー……」
夏実「またそうやっってー。理子の方が本当
 はついていきたいくせに」
理子「そんなことは……」
夏実「あるよね?」
理子「脅迫だよこんなのー」
夏実「じゃ、私だけ行ってきます」
   夏実歩き出す。
   理子、夏実が出て行くのを見送ってい
   たが、やがて教科書等などを慌てて片
   付け出す。
理子「待ってよ!」
 
○同・大教室前廊下
   理子、教室から飛び出してくると、キ
   ョロキョロと辺りを見渡す。
   しかし、夏実も麻理も見当たらない。
   理子、しばらくオロオロしているが、
   意を決したように一つ息を吐き、キリ
   ッとした表情になる。
理子「(小声で)五感よりも早く、拳を打ち
 込むの」
   理子、駆け出す。

○廃工場(夜)
   灯りの無い、鉄骨と廃材だらけの廃工
   場に非現実的な、幻想的な色味の月明
   かりが差し込んでいる。
   チャイナドレスを着た龍門少女(11)が
   足音も立てずに駆けている。
   龍門少女、何かを察知して、壁に隠れ
   る。
   龍門少女、警戒しつつ壁際から少し顔
   を出し、先の様子を窺う。

○龍門少女主観
   暗い廃工場の中で、暗視ゴーグルのよ
   うに複数の大男の影が浮かぶ。

○廃工場(夜)
   龍門少女、一気に壁から飛び出る。
   すると、大男が次々と、もの凄い勢い
   でかぎ爪のような武器を振るい襲いか
   かってくる。

○龍門少女主観
   大男たちの黒い影がスローモーション
   で近づいてくる。
   そのうち黒い影の一つが明るく光る。

○廃工場(夜)
   龍門少女、すごいスピードで大男の攻
   撃を一つかわしつつ別の一人を倒す。

○龍門少女主観
   大男たちの黒い影がスローモーション
   で襲ってくる。
   光った影に次々と技を繰り出す龍門少
   女。

○廃工場(夜)
   大男たちをすごいスピードで次々と倒
   していく龍門少女。
   最後の大男、龍門少女の拳を腹にめり
   込ませて悶絶しながら話す。
大男「……龍門少女……なぜ……こんなにも
 強い……!?」
   龍門少女、ゆっくりと大男を見上げ
   る。
龍門「……五感よりも早く、拳を打ち込む
 の」
   龍門少女、大男から拳を抜き取る。
   大男倒れる。
   龍門少女、振り返り倒した男たちを眺
   める。
   倒れた大男たち、まだ息がある。
龍門「……これを最後に……幸せになり
 な……」
   龍門少女、視線を戻して走り去る。

○高田大学・キャンパス屋外(朝)
   授業に向かう学生たちが群れのように
   歩いている。
   理子、学生たちの間を縫うように駆け
   抜ける。
理子「ちょ……ちょっとすみません……」
   
○理子・主観
   理子、学生の群れを掻いくぐるも中々
   進めない。
   ふと目の前が開けて駆け出すも、横か
   ら駆け込んできた学生とぶつかりそう
   になり急いで立ち止まる。
理子「うわあ!……す、すみません!」

○旧部室棟・第二演劇部部室内
   会田がテーブルの前に座り、パソコン
   で戯曲を書いている。
   パチパチと快調にキーボードを叩いて
   いたが、すぐに手が止まる。
   腕組みをして何やら考え込む。
会田「んんー」
   会田、苦しい表情。
会田「あ」
   会田、何やら閃いた顔でキーボードを
   打ちかける。
   すると、ドアをノックする音がする。
会田「ん?はい」
   会田、少し不機嫌に立ち上がりドアを
   開ける。
   ドアの前には麻理がいる。
   会田、不機嫌な表情から一転、無表情
   になり、力なく麻理を指差す。
会田「ヒ、ヒダマリ?」
   麻理、少し嫌そうな顔をする。
麻理「……はい」
会田「あ……いらっしゃいませー」

○同・外観
   麻理が第二演劇部の部室に入っていく
   のを、遠くから夏実が見ている。
   そこへ理子走ってやってくる。
理子「あ、夏実もこっち来てたんだ……もう
 、ヒダマリどこいっちゃったんだろう」
夏実「意外なところよ」
理子「え、夏実知ってるの?」
夏実「ええ、まあ」

○同・第二演劇部室内
   テーブルを挟んで理子、会田、夏実と
   麻理が対面している。
   理子と会田、ガチガチに固まってい 
   る。
夏実「要するに、二劇に入りたいってことよ
 ね?」
麻理「まずは見学から、ってことにしたい
 のだけど」
夏実「ああ、そうだったね……会田さんも何
 か言ってくださいよ」
会田「……、えっと、僕が幹事長なんですけ
 ど……」
麻理「先ほど聞きました」
会田「うん、そうだったね……いやあ、まさ
 か本物の龍門少女が現れるとは」
麻理「龍門少女は役名ですから。私には日高
 麻理という名前がちゃんとあります」
会田「ス、スンマセン、ミーハーなもん
 で……」
理子「私、日高さんとお芝居、したいです、
 凄く」
麻理「……それはありがとう」
理子「うん」
夏実「んじゃ、とりあえず6月の本公演を観
 るまでは体験入部みたいな感じで、しばら
 く一緒に活動するってことで良いですか
 ね?」
会田「うん、賛成」
夏実「賛成、じゃなくて……まいいや、麻理
 ちゃんよろしくね」
麻理「はい。よろしく」
理子「あ!私も麻理ちゃんって呼んで良
 い?」
麻理「どうぞ。ご自由に」
理子「やった……麻理ちゃん、よろしく」
麻理「……よろしく」
会田「よし、まさかこんな出会いがあるとは
 思ってなかったけど、執筆に気合がはいる
 なあ!」
夏実「そうですよ、公演の出来次第じゃ麻理
 ちゃんの気分も変わっちゃうわよね?」
麻理「そうね」
会田「……がんばります」

○佐久間家・リビング(夜)
   理子、部屋着でテレビの前にあぐらを
   かき、「龍門少女」のDVDを見てい
   る。
   ※映像は廃工場で大男を倒すシーン
   晴子、パジャマ姿で歯を磨きながら入
   ってくる。
晴子「また見てんの……?小ちゃい頃から飽
 きないねーあんたも」
理子「だって名作だもん」
晴子「確かにテレビドラマにしては凝ってた
 わよねーこれ」
理子「なんとね……私、龍門少女と友達にな
 っちゃった」
晴子「え、うっそ?」
理子「ホントホント」
晴子「へー!やっぱり普通の人とは違う?」
理子「見た目はとんでもない美人だし、頭も
 凄く良さそうだけど……どうなんだろ」
晴子「十分普通じゃないわね……」
理子「しかも同じサークルなの」
晴子「え、じゃあ一緒にお芝居するの?」
理子「かも」
晴子「うわー、そりゃお父さんが生きてたら
 大興奮だわ……」
理子「……私、お父さんの事全然覚えてない
 のに」
晴子「ん?」
理子「お父さんみたいに大学で演劇始めちゃ
 った」
晴子「親子ってそんなもんなのよ、きっと」
理子「ふーん……そっかなー?」
晴子「うん……あんまり夜更かしせずに寝な
 さいよ」
   晴子、出て行く。
理子「はーい」
   理子再び画面に目を戻す。
   ちょうど龍門少女が大男を見上げてい
   るシーン。
理子「(龍門少女のセリフに被せるように)
 五感よりも早く、拳を打ち込むの……か」

○新部室棟・タタキ場(時間経過)
   コンクリート打ちっ放しの空間に、舞
   台用のパネルや資材などが置いてあ
   る。
   赤羽に仕切られて、麻理、理子、夏
   実、王子が舞台セットを作っている様
   子。

○旧部室棟・稽古場(時間経過)
   コンクリート打ちっ放しの広い空間に
   平台で基礎舞台が組まれている。
   その上で話しながらストレッチをして
   いる理子、夏実、美園。
   麻理は一人離れてストレッチをしてい
   る。
   すると、目の下にくまの出来た会田
   が、完本した台本を持ってやってく
   る。
   美園、夏実、拍手。 
   会田、倒れる。
   慌てる一同。
   
○高田大学・学食(時間経過)
   理子、一人で食事をしていると、遠く
   で夏実と落合が仲良さそうに歩いてい
   くのが目に入る。
   嬉しそうに微笑む理子。

○佐久間家・理子の部屋(夜)(時間経過)
   棚にCDや本がぎっしり詰まってい
   る。
   理子、台本の自分のセリフにマーカー
   を引いている。

○高田大学・小教室
   授業終了直後。
   最前列で麻理、理子、夏実が並んで座
   り、授業道具を片付けている。
理子「作業も稽古も無いの久しぶりだしさ、
 どっかでお茶しない?」
夏実「あ……ごめん」
理子「夏実は……デートだね?さては?」
夏実「てへ」
理子「はいはい、人の幸せの邪魔はしません
 よー……」
    理子、麻理の顔をじっと見る。
麻理「何よ?」
理子「麻理ちゃんは……お茶し……ないよ
 ね」
麻理「するわよ」
理子「え、ほんと!?」
麻理「別に今までだって一緒に学食行ったり
 してたじゃん」
理子「ほらでも、二人っきりってなかったか
 ら」
麻理「……嫌なわけ?」
理子「ないないないない!そんなことない!
 ていうか、なんだろう、光栄!」
麻理「光栄って……私別にそんなんじ
 ゃ……」
夏実「それじゃ、二人でお茶楽しんできて
 ね!私は私で、楽しんできまーす」
   夏実、教室を出て行く。
   しばし沈黙する麻理と理子。
麻理「……行きましょ」
   麻理、立ち上がって教室を出て行こう
   とする。
理子「あ、う、うん!」
   理子もついていく。

○喫茶店
   静かな店内。  
   麻理と理子、コーヒーを飲んでいる。
理子「静かで良いねここ」
麻理「うん」
理子「前にもここ来たの?」
麻理「そう」
理子「へー」
   しばし沈黙が流れる。
理子「……コーヒーも、美味しいね」
麻理「ええ」
   再び沈黙。
理子「……お値段は少し高いけど……」
麻理「ごめんね」
理子「あ、いや、そういうことじゃなくっ
 て!ええと……」
麻理「声が大きいよ」
理子「あ、ごめん!」
   理子「あ!」という顔で口を塞ぎ、コ
 ーヒーを飲む。
麻理「なんでさ、そんなに気を使うの?」
理子「え?」
麻理「夏実はさ、元々の図々しさとかもある
 って、普通に接してくるから話しやすいん
 だけどさ、あなたは、なんか話してて疲れ
 る」
理子「え、あ、そ、そっか……ごめん……」
麻理「……いや、ごめん。多分私も悪いんだ
 と思うんだけどさ、話し方きついし。でも
 あなたのその変に恭しい感じ、ちょっと辛
 いんだよね……なんか、昔の事思い出し
 て」
理子「あ……」
   しばし沈黙。
麻理「もう、帰ろっか」
   麻理、立ち上がろうとする。
理子「待って!」
麻理「……何?」
理子「……よく考えたら、私たちライバルじ
 ゃん」
麻理「……は?」
理子「だってそうじゃん!同い年で同じ演劇
 サークルで、ゆくゆくはポジションを奪い
 合うかもしれない間柄じゃん!」
麻理「そ、そうね……一応そういう間柄ね」
理子「今まではさ……私、あなたのファンだ
 った」
麻理「……」
理子「でもさ、私、よく考えたら、あなたの
 ファンじゃなかった!」
麻理「ん、え、そうなの?」
理子「うん。私、あなたじゃなくて、女優の
 日高麻理ちゃんのファンだった。今目の前
 にいるのは、そうじゃない日高麻理ちゃん
 だった。だから、友達だし、ライバル……
 って言える」
麻理「……」
理子「だから私、普通にあなたとお喋りがし
 たい!……え!?」
   麻理、いつの間にかうつむいて震えて
   いる。
理子「あ、ご、ごめん……私、麻理ちゃんの
 ファンで、あれ?あれ、うわ、あれ……」
   麻理、ゆっくり顔を上げると、顔を真
   っ赤にして笑いをこらえている。
理子「ん?麻理ちゃん?」
   麻理、大爆笑。
理子「麻理ちゃん!ダメだよ大きな声出しち
 ゃ!」
麻理「あなた、いい度胸ね!」
理子「ええ!?」
麻理「いいわ、喋りましょう。なんだか知ら
 ないけど私、ワクワクしてきた」
理子「は……はあ……」

○公園(夕)
   池の前にあるベンチで、夏実と落合が
   寄り添って座っている。
落合「ちょっと寒くなってきたね」
夏実「うん……まだ、この時間は冷えるね」
落合「高校生の頃から追っかけてきてくれる
 なんて、何だか申し訳なくなるなあ……
 俺、そんな大したことないのに」
夏実「大会の映像とか見たら、落合さんメッ
 チャかっこいいですよ!……絶対、一緒に
 お芝居したいなーって思ったし、それ
 に……」
落合「それに?」
   落合、夏実を抱き寄せる。
夏実「それに……」
   落合、そのまま夏実を抱きしめて耳元
   に何か囁く。
   夏実、頷く。
   落合と夏実、見つめ合う。
   夏実と落合、キスをする。

○喫茶店(夕)
   麻理と理子の前には空になったパフェ
   グラスとコーヒーカップ。
   理子、驚いた表情で麻理を見ている。
   麻理、店員に呼びかける。
麻理「すみません」
店員「はい」
麻理「コーヒーのお代わりください。理子は
 どうする?」
理子「あ、じゃあ私も」
麻理「二つお願いします」
店員「かしこまりました」
   店員去る。
麻理「……何処まで話したっけ?」
理子「スキャンダルが発覚して両親がギクシ
 ャクしたところ」
麻理「あ、そうそう!あれだってさ、相手は
 人気のイケメンなんだけどさ、中身はバリ
 バリのオネエなのよ!?そりゃ、世間から
 みたら十個くらい年下の、しかも未成年の
 女の子とイケメンがいちゃいちゃしててや
 ましい感じに見えるかもしんないけどさ、
 私からしたら、女友達みたいなもんんだっ
 たわけよ!」
理子「なるほどね。そうだったらそうかも
 ね」
麻理「……ちゃんと聞いてる?」
理子「聞いてる聞いてる!」
麻理「あそ……でさ、写真が出回ったら今度は枕営業がどうたらこうたらって噂も流れてさ、両親がお互いに責任転嫁しだして!」
理子「うわあ、それは萎えるなあ!」
   麻理、前のめりになって。
麻理「でしょ!でしょ!」
理子「麻理ちゃん声大きい!」
麻理「あ、ごめん……とにかくさ、マスコミ
 だって真田涼介がオネエだって知ってるく
 せにそこはひた隠しにして、とにかく盛り
 上がるように話作っちゃってさ、親は親で
 何にも考えずにそんな奴らの言うこと間に
 受けて、ほんとこの世に失望したわけ、私
 は」
理子「なるほどね……でも芝居はやりたいん
 だ?」
麻理「うん……私、気付いたら赤ちゃんの頃
 からタレント事務所にいて、お父さんが格
 闘技好きだからアクションも見たり習った
 りして、私の気持ちとは無関係に環境が整
 ってたの。で、それがずっと嫌だったんだ
 けど、いざ芸能界やめてみると、あ、お芝
 居は私自身が好きなものだったんだなーっ
 て、今更のように気付いたの」
理子「それで二劇に来たんだね」
麻理「うん。サクライ先生の脚本ってやっぱ
 り素晴らしいと思うし、たまたまとはい 
 え、サクライ先生と同じ大学に通うように
 なったのは何かのご縁だなと思って」
   店員、コーヒーを持ってやってくる。
店員「お待たせしました」
麻理「ありがとう」
   店員、去る。
理子「……それはきっと素敵なご縁だよ……
 あーあ、そのご縁の先で、龍門少女の完結
 も実現して欲しいなあ……」
麻理「私も、それは心残りなのよねえ」
理子「龍門少女見て、私ほんとに勇気をもら
 ったもん……アクションも真似して練習し
 まくったなあ」
麻理「えー、理子って動けなさそうよね」
理子「うわ!麻理ちゃん失礼!私以外と運動
 神経良いんだからね!」
麻理「へー」
理子「うわ、全く信じてない!」
麻理「うーん信じ難いけど……黒星少女の第
 一候補として覚えておくわ」
理子「わーい光栄光栄!」
   二人、笑う。

○ビル・外観(夜)

○ビル・オフィス内(夜)
   沖田と斎藤琢磨(28)がデスクワークを
   している。
   沖田のスマートフォンが麻理からのメ
   ッセージを受信する。
   沖田、仕事の手を止めてスマートフォ
   ンをチェックすると「最近演劇サーク
   ルに入りました」というメッセージ。
   沖田、微笑む。
   斎藤、沖田の様子に気づき手を止め
   る。
斎藤「沖田さん、何か良いことでもあったん
 ですか?」
沖田「え?ああ、麻理ちゃんがね、大学で演
 劇を始めたみたいなの」
斎藤「え、麻理ちゃんて、ヒダマリですよ
 ね?」
沖田「うん」
斎藤「大事件じゃないですか……学生の中に
 ヒダマリが混じったら浮くでしょうねー、 
 あの見た目とあの性格じゃ」
沖田「性格は割合素直なもんよ」
斎藤「お、さすが元マネージャー」
沖田「別に……マネージャーじゃなくたって 
 あの子のことを見てみればそれ位の事は分
 かるわよ。挨拶はちゃんとするし、言葉遣
 いは丁寧だし」
斎藤「スキャンダルさえなければ、ですね」
沖田「……」
斎藤「あ、すみません」
沖田「……大人の都合の良い宣伝材料になっ
 て、それで才能がすり潰されるんだった
 ら、何が芸能界よ。広告屋さんに人の青春
 勝手に売り飛ばしてるだけじゃない」
斎藤「現実ってのは、シビアですよね」
沖田「そう言って事を済ませるのもこちらの
 都合だと思うけど」
斎藤「……すみません」
沖田「……とは言え結局、私もその一味に過
 ぎないんだけどね……なんか熱くなっちゃ
 った……ごめんね」
斎藤「いや、良いんですよ……私も軽率でし
 た」
沖田「……そろそろ仕事切り上げて、飲み行っちゃおっか?」
斎藤「あ、良いですねー。こっちもぼちぼちなんで」
沖田「一杯おごるよ」
斎藤「あ、ありがとうございます!」
   斎藤、仕事に戻る。
   沖田、スマートフォンに「お!遂に麻
   理ちゃんの第二章が始まったね!おめ
   でとう!記念に一杯飲みに行ってきま
   す!笑」と打ち込み、麻理に送信す
   る。

○高田大学・旧部室棟・外観
   美園が部室に向かって歩いている。す
   ると、部室に入っていく落合とリーナ
   を目撃する。
美園「……おっとお!?」
   美園、しめしめといった表情でうなず
   きながら引き返そうとすると、今度は
   夏実がやってくるのが目に入る。
美園「……なんとお!」
   美園、打って変わって緊迫した表情に
   なる。
   すると後ろから赤羽と王子がやってく
   る。
赤羽「冴子ちゃん!」
美園「うわああ!」
   美園、驚愕の表情で後ろを振り向く。
赤羽「うええええ!?」
王子「どうしたんだよ?」
美園「いや、その」
   夏実いつの間にか美園たちの近くにい
   る。
夏実「おはようございまーす!」
美園「ぎゃああああああ!」
   美園、再び驚愕の表情。
夏実「え?え?え?」
赤羽「どうしちゃったんだよ……」
美園「いやーいやーいやー」
王子「お前、大丈夫か?」
美園「大丈夫じゃないです!」
   夏実、赤羽、王子、驚いて固まる。
   美園、困った表情。
美園「うわ!えっと……」
   美園、しばしの沈黙の後に何かひらめ
   き笑顔になる。
美園「実は昨日の作業終りに、パネルに
 一つ穴あけちゃて!」
赤羽「ええ、マジか?」
王子「で、なんでそんなに笑顔なんだ?」
美園「すみません!だからあの……今からタ
 タキ場見に行きません?」
王子「え、今から?」
赤羽「ああ、だったら俺部室に工具取り
 に……」
美園「あーーーーーーー」
   美園、赤羽の股間を蹴る。
赤羽「むご!」
   赤羽、悶絶してうずくまる。
美園「あー、罪悪感で蹴りが!罪の意識で余
 計に罪を重ねてしまって!あー!」
王子「分かった、分かったから落ち着いて」
夏実「そうですよ、みんなで作業すればパネ
 ルなんてあっという間ですから!」
美園「じゃあ、見に行ってくれます?」
王子「行くよ……蹴られたくねーもん」
美園「行きましょう」
   美園、夏実の手を引いて道を強引に引
   き返して行く。
夏実「うわわ」
王子「待てよー」
   王子、美園たちを追いかけようとす
   る。
赤羽「王子……手を貸してくれ」
   王子、振り返ると、赤羽が辛そうに手
   を差し出している。
王子「赤羽……不幸、だったな」
   王子、赤羽に肩を貸して立ち上がり、
   美園たちを追いかける。

同・正門前
   理子が正門から出てくる。
   すると前から美園が夏実の手を引っ張
   りつつやってくる。
理子「あ、冴子さん……と夏実」
美園「あら、理子ちゃん」
夏実「あ、理子!」
   美園たち立ち止まる。
理子「どうしたんですか?」
美園「おとしまえをつけに行くのよ」
理子「え、指でも詰めるんですか?」
美園「いや……色々とね。それじゃ!」
   美園、再び夏実を引っ張り歩き出す。
夏実「うわあ、理子、またねー」
   美園、夏実去る。
理子「行っちゃった」
   後ろから赤羽に肩を貸しながら王子や
   ってくる。赤羽は具合悪そうにうつむ
   いている。
王子「げ、君は」
理子「あ、王子先輩……と赤羽先輩?」
王子「ああ、これはな……」
   赤羽、顔を上げる。
赤羽「王子、それ以上は、俺の名誉のために
 言わんといてくれ……」
   赤羽、ガクッとうなだれる。
王子「……そういう事だ。じゃあな」
   王子、赤羽、去る。
理子「……大変なんだな」

○同・新部室棟・タタキ場
   コンクリートの床の上に舞台セットや
   材木、塗料の缶などが置いてある。
   会田が一人、頭にタオルを巻いて腕を
   組み、壁に立てかけてあるパネルニヤ
   ニヤと眺めている。
   その足元には金槌が一つ放置してあ
   る。
   美園、夏実の腕を引っ張りながらやっ
   てくる。
美園「げ!会田さん!授業じゃなかったんで
 すか?」
会田「ああ!さぼった!」
美園「(小声で)だから留年すんだよ」
会田「どうした?」
美園「なんでもありません」
夏実「お疲れ様です」
会田「おお夏実も!どうした?」
夏実「え、あ、いやー、その……」
   夏実、美園を見る。
美園「へ?……あー実は、昨日パネルに穴を
 開けてしまいまして……」
会田「穴?おかしいな、そんなものは無かっ
 たけどな……」
   美園、静かに金槌を拾うと、突然後方
   に振り返って遠くを指差す。
美園「あ!あれすごい!あれ!」
   夏実、会田、後ろを振り向く。
美園「うわー!!」
   美園、その隙にパネルに金槌を投げつ
   けて、穴を開ける。
   夏実、会田、向き直る。
会田「……て、何がどうしたってんだよ……
 美園!?」
   美園、非常に落ち着きのない様子。
   会田、パネルに近寄り、穴を凝視す
 る。
美園「あ、銀行でお金おろさなきゃだー、夏
 実もおろす?」
夏実「冴子さん?」
会田「穴ーーーー!」
美園「え?あれー、おかしいなー、なんだ 
 ろう、私が私でいられないこの感じ?」
夏実「はあ?……もういいです、私工具持っ
 てきます」
   夏実、出て行く。
美園「あ、ダメ……」
会田「美園、辛いことがあったんなら打ち明
 けてくれれば……」
美園「地獄の門が開かれます……」
会田「へ?」

○高田大学・旧部室棟
   武雄が壊れたソファーに座り、静かに
   涙を流しながら激しくギターを弾いて
   いる(プラグは繋がっていない)。
   夏実、その前を通りかかると、武雄の
   涙に気づき、そーっと行き過ぎようと
   する。
   武雄、急に演奏を止める。
武雄「……ああ、二劇の新人ちゃん、こんち
 は」
   夏実、ビクッとする。
夏実「あ、五十嵐さん、こんにちは……」
武雄「今日は溢れるよね」
夏実「え?」
武雄「春の終りってさ……世界から魂への声
 が……溢れるよね」
夏実「はあ……そうですね、溢れますね」
武雄「君も耳を澄まして……頑張ってね」
夏実「はーい」
   夏実、ホッとして再び歩き出そうとす
   ると、くしゃみが出る。
武雄「ブレッシュー」
   夏実、武雄にお辞儀して歩き出す。

○同・第二演劇部部室入り口
   夏実が歩いてきて、ドアを開けようと
   する。すると中から落合とリーナが笑
   顔で出てくる。
   夏実、動揺する。
   落合とリーナ、夏実に気づく。
   落合は気まずそうだが、リーナは平然
   としている。
落合「お、夏実、どした?」
夏実「え、あ、いや、タタキの道具部室に忘
 れちゃったから……」
落合「お、そか」
リーナ「じゃ、私たち先にタタキ場いってる
 ね」
夏実「あ、はい」
   落合、リーナ、去る。
   夏実、二人の後ろ姿を見ている。

○同・第二演劇部部室
   夏実、勢いよくドアを閉めて目を瞑
   る。

○同・第二演劇部入り口(回想)
   リーナと王子の濃厚なキスシーン。

○同・第二演劇部部室
   夏実、パッと目を開けると、呼吸が浅
   くなっている。
   夏実、一つ大きく息を吸うと、頭を横
   に激しく振り、棚から工具一式の収ま
   った腰袋を手に取る。すると、折りた
   たみ式の鋸が床に落ちる。
   夏実、鋸を拾って急いで出て行こうと
   するが、立ち止まって鋸の刃を出し眺
   める。
   夏実、再び頭を横に激しく振り、深呼
   吸する。
夏実「バカか私」
   夏実、鋸をたたむと、腰袋に引っ掛け
   て外に出て行く。

○同・小教室(朝)
   イタリア語の授業中。
   前方の席に麻理と理子が並んでおり、
   理子の後ろの席に夏実が座っている。
   麻理と理子は真剣に授業を聞いてる。
   夏実はウトウトしている。
  

○同・小教室(朝)
   授業終了後。
   生徒が教室から出て行っている。   
   麻理と理子、授業道具の片付けを既に  
   終えている。
   夏実、疲れた表情でまだ片付けてい
   る。
理子「夏実……疲れてる?」
夏実「……え?なんで?」
麻理「なんでっていうか、見た目がさ」
理子「うん……沈んでる……」
夏実「そう!?いつも通りよ!?」
   夏実、笑うが、やはり少し疲れてい 
   る。
理子「今日は舞台作業休んだら?」
夏実「平気平気!二人も授業終わったらすぐ
 来てね!」
   夏実、ガッツポーズしながら教室を出
   て行く。
理子「大丈夫……だと思う?」
麻理「いや……怪しい……」

○同・旧部室棟前
  夏実、工具の詰まった腰袋を巻いて旧部
  室棟を眺めている。折りたたみ式の鋸も
  ぶら下がっている。
  夏実、やがて歩き出す。

○同・部室棟・タタキ場
   王子、美園、会田が舞台作業をしてい
   る。
   そこへ麻理と理子、やってくる。
理子「おつかれさまです!」
   舞台作業止まる。
会田「あ!お疲れさま!……って、あれ!?
 今日は二人夕方から合流じゃなかたっ
 け?」
理子「あ、あの!夏実来てませんか?」
美園「夏実?まだ来てないよ」
理子「え」
麻理「やっぱり……」
会田「ん?ん?どうしちゃった?」

○同・旧部室棟・第二演劇部室内
   落合とリーナ、扇風機にあたりながら
   床に寝転び激しくキスをしている。
   すると、勢い良く扉が開く。
   夏実、無表情で入ってくる。
   落合、動揺するが、リーナは澄ました
   顔をしている。
落合「ああ夏実……これは……」
リーナ「どうしちゃったの?」
   リーナ、悠然と立ち上がり、夏実の目
   の前までやってくる。
リーナ「らしくないじゃん、その顔」
    そこへ赤羽が入ってくる。
赤羽「おつかれさ……おや」
   夏実、腰袋にぶら下がっていた折りた
   たみ式の鋸を手に取り、刃を伸ばす。
  
○同・旧部室棟前
   理子、麻里、王子、美園、会田、走っ
   てくる。
美園「嫌な予感しかしないわー」
理子「そうなんですか」
美園「まあ、予感、なんだけどね」
赤羽「ぎゃああああああ!」
   第二演劇部室の中から赤羽が吹っ飛ん
   でくるのが見える。
美園「やばいわ!」
   一同駆け出す。

○同・旧部室棟・第二演劇部室前
   麻里、理子、美園、会田、王子が駆け
   つける。
   赤羽が腹を抱えてうずくまっている。
王子「大丈夫か?」
赤羽「……死人が出る……」
理子「え?」
赤羽「早く夏実を止めなきゃ!」
  
○同・旧部室棟・第二演劇部室内
   腕を組んで立っているリーナと対峙す
   るように、夏実が鋸を構えている。
   夏実、呼吸が浅く、今にも斬りかから
   ん様子。
   落合、床にへたり込んだまま、リーナ
   と夏実をなだめようとしている。
落合「やめよう……やめようよねえ……」
   ドアから麻理、理子、美園、会田、王
   子、赤羽が入ってくる。
   赤羽は王子に抱えられている。
理子「え、夏実?」
夏実「おらあああ!」
   夏実いきなりリーナに斬りかかる。
   が、リーナかわす。
   すかさず夏実、もう一度切り掛かる
   が、リーナ再びかわす。
   夏実、今度は腰袋から金槌を取り出し
   投げつける。
   リーナ、それを扇風機を盾にしてかわ
   す。
   金槌、落合の目の前をかすめる。
落合「ひいい!」
   夏実、再び斬りかかろうとしたところ
   を会田と美園に止められる。
美園「夏実!」
会田「落ち着け!」
   夏実、興奮収まらず抵抗するが、動け
   ない。
夏実「うあああああ!」
   夏実、号泣しだし、鋸で棚を切り出 
   す。
美園「きゃあああああ!」
   理子、恐る恐るリーナに歩み寄る。
理子「リーナさんも……落ち着いてくださ
 い」
   リーナ、爆笑。
理子「へ?」
   麻里、何かを察知する。
麻理「理子、危ない!」
リーナ「落ち着けるかよ!」
   リーナ扇風機を振り上げて理子に投げ
   つけようとする。
   が、麻理が扇風機をハイキックで蹴り
   飛ばす。
   扇風機、部屋の隅に吹っ飛んでコード
   が切れる。コードの切れ端から火花が
   散る。
麻理「あんたふざけんなよ!」
リーナ「……あんたもね!」
   二人、カンフー映画のような格闘戦を
   繰り広げる。
   理子、呆然とする。
   夏実、麻里とリーナに目を奪われて棚
   の切断をやめる。
美園「二人とも……強い」
会田「ヒダマリは元・天才アクション子役、
 そして」
美園「そして?」
会田「リーナはハワイ州で空手のハイスクー
 ルチャンピオンだ」
美園「なんですって!」
   リーナ、ハイキックを繰り出す。
   麻里、それをガードするが、少しきい
   てふらつく。
   リーナ、勝ち誇った表情で、麻理の顔
   面に向かって後ろ回し蹴りを放つ。
   麻理、目をカッと見開く。
理子「あ!」

○同・旧部室棟・第二演劇部室内・理子主観
   龍門少女が目をカッと見開いて構え
   る。

○同・旧部室棟・第二演劇部室内
   麻理、わずかに身をそらす。
   リーナの蹴り、ものすごい勢いで空振
   りする。
   麻里、鋭い突きをリーナの顔面スレス
   レに放つ。すると、リーナの髪が千切
   れてパラパラと床に落ちる。
   リーナ、床にへたり込む。
理子「麻理……」

○同・旧部室棟・第二演劇部室内・理子主観
   龍門少女と同じチャイナドレスを着た
   麻理が、理子の方へと振り向く。

○同・旧部室棟・第二演劇部室内
   麻理と理子、目が合う。
麻理「理子……」
   麻理、その場にへたり込む。

○同・旧部室棟・稽古場
   二劇のサークル員が集まり、舞台上で
   車座になっている。
   重い空気が漂っている。
落合「……俺は、今日を以ってこのサークル
 を辞めたいと思います」
   しばしの沈黙。
会田「そうか……残念だ。次回公演の主演は
 お前しかいないと思っていた……」
落合「すみません」
リーナ「……別に、謝る必要無くね?」
夏実「あんたね!」
理子「夏実……」
   理子、夏実を抑える。
リーナ「つかさ、人の恋愛ごとじゃん、なん
 でこんな風にサークル会議みたいにならな 
 きゃなんないわけ?」
会田「そうなんだけどさ」
リーナ「結果としてここに迷惑かかちゃった
 のは確かに申し訳ないけどさ、だからつっ 
 てなんで進がみんなの前で謝ってサークル
 辞めますとか言わなきゃいけないわけ?当
 事者同士で話合えば良いじゃんまじキモい
 んだけど」
会田「そうかもしれないね」
美園「あの、会田さん、どうしたいんです
 か?」
会田「えーっとねー」
赤羽「会田さん」
   会田、しばらく苦悶の表情を浮かべて
   いたが、急に無表情になって。
会田「……もう、好きにしてくれ……」
   会田、放心状態になる。
落合「す、すみませんでした!うあああああ
 ああ!」
   落合、泣きながら駆け出して、そのま
   ま稽古場を後にする。
園田「……ってことで、次回公演どうしまし
 ょうか。舞台セット結構作っちゃったけ
 ど、役者も足りなくなったし、会田さんこ
 んなんなっちゃったし……」
麻理「理子……書いてみてよ」
園田「え?」
理子「……私!?」
園田「え、理子ちゃん、書いたことある
 の?」
理子「小説とか脚本モドキみたいのは趣味で
 書きためてましたけど……演劇はないで
 す」
美園「なるほどね……」
麻理「私、理子の作品なら出たい」
赤羽「うっそマジ?ヒダマリが出るの?そり
 ゃすごいぞ」
王子「校内中の話題になるだろうな!」
夏実「……二人とも、理子を無視して話を進
 めないでよ」
   王子、赤羽、「あ」という表情で黙り
   込む。
理子「……いやいや、やっぱり無茶だよ麻理
 ちゃん……」
麻理「なんでそう決め付けるの?」
理子「決め付けるっていうか……気が進まな
 いの。すごく」
麻理「でも、ほら、書けそうなのは理子くら
 いよ」
理子「だったら尚更責任負えないよ……」
王子「……責任とかは大丈夫だよ」
理子「え?」
赤羽「そうそう、こんな事態だし、書いても
 らえるだけでもありがたいよ」
麻理「理子、お願い、私、あなたの作品なら出てみたいの」
   麻理立ち上がり、頭をさげる。
麻理「おねがい」
園田「え、ちょっと麻理ちゃん!?」
理子「麻理……」
   麻理、顔を上げて。
リーナ「……やってみたらいいんじゃん?」
夏実「もー、あなたは……」
美園「はい、ストーップ、ストップ!……理
 子ちゃん、どうかな?」
理子「……」
   理子、その場で考え込む。

○電車内(夕)
   王子と赤羽、席に座って考え込んでい
   る。
王子「なんだか、今日は色々あったな」
赤羽「ああ」
王子「落合さん、自業自得とはいえさすがに
 可哀想だったな」
赤羽「ああ」
王子「理子ちゃんも、急に辛いだろうな」
赤羽「うん」
王子「……お前、さっきから話聞いてるの
 か?」
赤羽「聞いてるともさ」
王子「おお、そっか」
   しばし沈黙。
赤羽「王子よ」
王子「おお……どうした急に仰々しい呼び方
 で」
赤羽「俺は知ってるぞ。リーナさんと王子の
 間にも何やらあったってこと」
王子「……げ!」
   しばし沈黙。
王子「誰から聞いたの……?」
赤羽「やっぱりそうか」
王子「カマかけられたー」
赤羽「だけどな、俺は気にしないぞ」
王子「へ?」
赤羽「俺はリーナさんの見た目だけにベタ惚
 れして今まで親衛隊を名乗ってきた、し、
 これからもやはりそうだ」
王子「ん?あ……おう……」
赤羽「しかしそれと同時に、俺はちゃんとし
 た恋を見つける」
王子「……お、おう」
   電車、駅に着く。
   赤羽、立ち上がる。
赤羽「じゃ、そういうことだから、これから
 も宜しく」
    赤羽電車を降りる。
王子「ああ、宜しく……」
   電車動きだす。
   ホームで赤羽が手を振っている。
   王子、手を振り返す。
王子「……ガチのいいやつ」

○佐久間家・リビング(夜)
   晴子と理子、テーブルを挟んで向かい
   合わせに座っている。
晴子「で、結局書くの?」
理子「うん」
晴子「麻理ちゃんも強引ねえ」
理子「……」
晴子「……なんか、他に思うことがありそう
 ね」
理子「うん……」
   しばし沈黙。
理子「……私さ、結局、お父さんの子供だか
 ら、これから戯曲を書くのかな?」
晴子「え?」
理子「私お父さんの記憶なんて全然ないし、
 作品だって観たことないし、家に残ってた
 本は読んだりしたけど、別に趣味が合わな
 いなって思ったし……なのに、気付いたら
 お芝居書くことになってて……なんだか
 さ、癪なのよ。私のこといちいち先回りさ
 れてるみたいで」
晴子「癪ねえ……きっと生きてたとしても、
 あなたに同じこと言われたんだろうな、あ
 の人。人が良かったから」
理子「ねえ、やっぱり私、お母さんにお父さ
 んの話聞いて育ったから、今こうなってる
 のかな?それとも遺伝子的な何かかな?」
晴子「んー、どっちもじゃない?」
理子「じゃあ、私って、私の人生なのに、私
 で何にも決められずになんとなく生きてる
 の?」
晴子「それは、嫌なの?」
理子「普段は感じないけど、そう思うと、
 嫌。私……自分で決めたい」
晴子「……だったら、大丈夫よ」
理子「……」
晴子「あなたが今まで、ここで育ってきて、
 もちろんお父さんの影響も受けたと思う。
 私の影響も受けただろうし、他にも色々、
 沢山のものを見てあなたはここまで変化し
 続けてきたと思う。それが、成長っていう
 ことの意味だと思うの」
理子「……そうかな」
晴子「私も、聖人君子って訳じゃないからそ
 こらへん確信はないんだけどね。でも、あ
 なたが成長する姿を見ていたら、少しは自
 信を持てるわ」
理子「……」
晴子「私も、お父さんの話をし過ぎて、あな
 たを不安にしちゃったのかもしれない。だ
 けど、あなたの魂は、あなたの体の中にし
 かないのよ。あなたはあなた。遺伝子だっ
 て記憶だって、あなたを多少誰かに似せる
 ことがあっても、あなたを完全に操れたり
 しないわ」
理子「……なるほど」
晴子「ご納得頂けたかしら?」
理子「なんとなく……でも、とっても納得し
 た気もする」
晴子「どもども」
理子「良い事言うなあ」
晴子「ま、あくまで参考程度にしといてね」
理子「……うん!」

○佐久間家・理子の部屋(夜)
   理子、机に座って何やら考え込んでい
   る。
   机の上にはノートが開かれている。
   「テーマ」とかかれており、その下の
   カッコ内が空白になっている。
理子「うーん」

○佐久間家・理子の部屋(朝)
   理子、机で寝ている。
   ノートにはテーマの下に「五感より早
   く拳を打つ(仮)」と書かれている。

○高田大学・旧部室棟・稽古場内
   基礎舞台の前にある演出席で、会田が
   ボーっと座っている。
   すると、会田が突如人影に覆われる。
   会田ボーっとした表情で影に主を見る
   が、その姿を認めるや否や、みるみる
   興奮した面持ちになっていく。
会田「き……君は……!」

○同・旧部室棟・稽古場入り口前
   麻理がスマートフォン片手にやってく
   る。
   画面には理子からの「稽古場で待って
   る」というメッセージ。
   麻理、一度メッセージを確認すると、
   稽古場のドアを開けて中に入る

○同・旧部室棟・稽古場内
   麻理、入ってくる。
   演出席には会田が座っている。
   麻理、基礎舞台の上に何か見つける。
麻理「あ!」
   麻理の目線の先には、黒いチャイナド
   レスを着て腕を組む理子の後ろ姿。足
   元にはデパートの袋が置いてある。
理子「待っていたわ……」
麻理「理子?」
   理子、ゆっくり振り向く。
麻理「理子、あなた何やって……」
理子「待っていたわ、龍門少女!」
麻理「……は!?」
   理子。足元にあった袋を麻理に放り投
   げる。
   麻理それを受け止める。
麻理「うわ!何よこれ……?」
   麻理、袋の中を見る。すると、龍門少
   女のチャイナドレスが入っている。
麻理「え、これ……」
理子「それ、私がコスプレ用に作った大人用
 の龍門ドレス」
麻理「これを……わたしが着るの?」
理子「そう」
麻理「で、どうするの?」
   理子、いきなりバク転して拳法の構
   え。
麻理「え!?」
理子「決着をつけるの」

○同・大教室
   美園がスマートフォンを見る。する   
   と、会田からの「二劇サークル員、稽
   古場集合!」のメッセージ。
美園「……ニュースな予感!」
   美園、カバンを持って教室から駆け出
   す。

○同・旧部室棟・稽古場内。
   美園、王子、赤羽、リーナ、夏実、
   次々と稽古場に入ってくる。
   リーナと夏実、一瞬目があって険悪な
   ムードになるが基礎舞台の上を見てす
   ぐに呆然とする。
   基礎舞台の上には龍門少女の格好をし
   た麻理と、黒いチャイナドレスを着た
   理子が対角線で対峙している。
   演出席には会田が目を潤ませながら立
   ち尽くしており、その横では武雄がギ
   ターのチューニングをしている。
王子「おいおい……なにが始まるってんだ
 よ」
   会田、振り向く。もう既に泣いてい   
   る。
会田「……龍門少女の、最終章だよ」
赤羽「へ?」
会田「これが幻の、最終対決なんだよ!」
   武雄、いきなり激しくギターを奏で
   る。
   すると、舞台上の二人、一気に近づ
   き、カンフー映画のようなものすごい
   攻防を繰り広げる。
リーナ「何これ……」
夏実「まるで……映画みたい」
美園「……ブラボー!ブラボー!」
   美園、拍手しだす。
   すると、理子の技が麻理の方をかす
   め、チャイナドレスが破ける。かすか
   に血も滲む。
夏実「え、ガチ!?」
美園「何これ、次の公演のネタ見せとかじゃ
 ないの?」
   麻理と理子、じりじりとお互いの間を
   読み合う。
理子「私、ずっと龍門少女の続きが見たかっ
 たの。なんでか分かる?」
麻理「……ファンだから、じゃないの?」
理子「半分正しいわ……でも、それだけじゃ
 ない」
麻理「え?」
  理子、麻理に強烈な蹴りを繰り出す。
  麻理かわすものの、体勢を崩す。
  理子、すかさず手刀を打ち込むが、麻
  理、それを掴む。
  そのまま二人、組合う形になる。
理子「私、黒星少女に、龍門少女を倒して欲
 しかったのよ」
麻里「……え!?」 
   麻理、理子に壁際へ押し込まれてい
   く。
麻理「どういうことよ!」
   麻理、踏み止まる。
理子「龍門少女には……私はなれないと思っ
 た。それはなんとなく、生まれ持っての資
 質の違いでね。自分の運命を切り開いてい
 くセンスが……そんな自信が、私には無か
 った!」
   理子、麻理を思いっきり押し込む。 
   が、麻理、うまく脱出する。
   理子、すぐに追いかけて麻理を再び追
   い詰める。
理子「私はせいぜい、人に与えられた運命の
 中でうまく生きていく位のセンスしかない
 って思ってた。でも……、本当はそうじゃ
 ないって……黒星少女が証明してくれるっ
 て、願ってた!」
   理子の猛攻。
   麻理、チャイナドレスの腹の部分が裂
   ける。薄く血が滲む。
理子「でもね、主人公は絶対負けないの!黒
 星少女は、登場しないで正解なの!だか
 ら、戦っちゃダメなのよ、龍門少女と黒星
 少女は!永遠に結果が出ないまま、私の空
 想の中だけに二人の戦いがあれば良い!そ
 う……思いたかった!」
   麻理と理子、再び激しい攻防。
   やがて、理子が麻理の首を絞める。
美園「ああ……ちょっとそれは」
   美園、夏実、王子、赤羽、理子を止め
   ようと駆け出そうとする。
   そこに会田、立ち塞がる。
会田「ダメだ!」
夏実「何言ってるんですかか!こんなのもう
 シャレになんないですよ!」
会田「止めたら!失礼だろーが!」
   会田、興奮して下を噛んでいたらし
   く、口から血が出ている。
理子「でも、ダメなんだよ。戦わなきゃ。戦
 えるなら……戦わなきゃ!」
   理子、一層強く麻理の首を絞める。
   麻理、苦悶の表情を浮かべていたが
   一変、微笑む。
   理子、しばらく麻理を見つめていた
   が、やがて微笑む。
   すると突然、麻理が自分の首を絞めて
   いる理子の腕を掴み、理子を放り投げ
   る。
   理子、舞台上に叩きつけられる。
   理子、すかさず立ち上がろうとする
   が、今度は麻理の蹴りが顔面に直撃
   し、舞台上から武雄に向かって吹っ飛   
   び、共に倒れこむ。
   武雄のギター折れる。
   稽古場内、沈黙。
   理子、武雄の上でうつ伏せに倒れてい
   たが、ややあって麻理の方を向いて立
   ち上がる。顔面が血まみれである。
   理子そのままニコッと微笑み、プッと
   何かを吐き出す。
   武雄がそれを見ると、奥歯である。
   武雄、理子を見上げて微笑む。
武雄「……すげー、良い音楽だった」
   理子、武雄に振り向き、笑顔になる。
理子「ありがとう」
   理子、意識を失って倒れる。

○高田大学・正門前(外観)
   生徒たちが出入りしている。

○新部室棟・地下学生劇場入口
   第二演劇部六月公演「黒い星」の張り
   紙。

○新部室棟・地下学生劇場内
   開場中。客入れ曲が流れている。
   客席はほぼ満席状態。
   沖田や晴子、サクライタダヒコ(58)が
   席に座っている。
   続けて会田が入ってきて、サクライの
   隣に座る。
会田「サクライ先生!お久しぶりです!」
サクライ「あー、君か。まだ学生だったんだ
 ねえ」
会田「はあ、おかげさまで……」
サクライ「まあ、僕も卒業に六年かかったか
 ら人のことは言えないんだがね。お互い親
 泣かせだなあ」
会田「そんな、サクライ先生と比べたら僕な
 んて……それよりも、いやー良かった、今
 回この作品を見て頂く事が出来て!」
サクライ「びっくりしたよー、まさか麻理ち
 ゃんが二劇に入ってるなんて」
会田「しかも今回、脚本と演出やった女の
 子、サクライ先生の影響をかなり強く受け
 てまして」
サクライ「申し訳ないな、こんな荒削りな脚
 本家の影響なんて受けさせちゃって」
会田「何をおっしゃってるんですか……おか
 げさまで……っていうとなんか変ですが、
 今回の芝居、二劇の歴史に残る大評判です
 よ」
サクライ「おお、それはますます楽しみだね
 え」
会田「はい」
   沖田、スマートフォンで麻里からの  
  「超、自信作です!」のメッセージを確
   認し微笑むと、電源を切る。
   晴子、劇場を見回して感慨深げな表
   情。
   ふと客入れ曲が落ちて、M0が流れ
   る。
   やがてM0が煽って、劇場内が暗転す
   る。
                  完

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