#27 梅ヶ丘代理戦争 ドラマ

憎しみをここで。自分で。終わらせる。 大切な人がいるから。
竹田行人 8 0 0 07/18
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第一稿

「梅ヶ丘代理戦争」


登場人物
沢木優(30)新聞記者
沢木灯(6)小学生
小山田賢斗(6)小学生
沢木薫(30)会社員
小山田秀一(30)議員秘書


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「梅ヶ丘代理戦争」


登場人物
沢木優(30)新聞記者
沢木灯(6)小学生
小山田賢斗(6)小学生
沢木薫(30)会社員
小山田秀一(30)議員秘書


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○並木道(夕)
   けやきの木が紅葉している。
   沢木優(30)、自転車を漕いでいる。

○梅ヶ丘小学校・校門前(夕)
   「梅ヶ丘小学校」の看板。
   チャイムが鳴っている。
   沢木、校門前に自転車を止める。
   黒いベンツ、校門の脇に止まる。
   沢木、ベンツに目をやる。

○同・校庭(夕)
   沢木灯(6)と小山田賢斗(6)、校庭を並んで歩いている。
賢斗「トモシ。こないだの50m何秒だった?」
灯「10秒53。ケントは?」
賢斗「勝った! オレ10秒48」
灯「速いなぁ。あ」
   灯と賢斗、校門に目をやる。
灯「父ちゃん!」
賢斗「パパ!」
   灯と賢斗、駆けだす。

○同・校門前(夕)
   灯、沢木に駆け寄る。
灯「今日父ちゃんの番だったっけ?」
沢木「いや。母ちゃん仕事だって」
   賢斗、ベンツに駆け寄る。
賢斗「パパ。お仕事終わったの?」
沢木「灯。友だちか?」
灯「うん。賢斗」
   賢斗、沢木に深々と頭を下げる。
賢斗「小山田賢斗です」
沢木「ご丁寧に。灯がいつも。小山田?」
   ベンツの窓が開く。
   小山田秀一(30)、顔を出す。
小山田「奇遇ですね。朝売新聞の沢木さん」
沢木「本当に。迎えにベンツなんてどこの成金かと思ったら。小山田義郎外交大臣の首席秘書官でしたか。納得です」
小山田「例の誤報記事でどこかに飛ばされたんじゃないかと心配していたんですが。まだ本社にいらっしゃったんですね」
沢木「誤報とは見当違いも甚だしいですね。私はあなたのお父様がどんな政治家か。真実を伝えただけです」
小山田「すべては秘書の宮澤がやったことです。一人で。勝手に」
   沢木、拳を握る。
小山田「宮澤の手帳にもそうあったはずです。結果には忸怩たるものがありますが」
沢木「いい加減にしろ! 宮澤さんは小山田義郎にころさ」
   沢木、自分の上着の袖を見る。
   灯、沢木の上着の袖を握っている。
小山田「そういえば運動会の一年生親子リレー。ウチの賢斗と沢木さんのご子息がアンカーを務めるそうですよ」
沢木「え? そうなのか?」
灯「そうだよ。言ったじゃん」
小山田「となると。その一つ前の走者は私と。あなたというわけだ」
   沢木と小山田、目を見合わせる。
小山田「賢斗。乗りなさい」
賢斗「はい。パパ」
   賢斗、ベンツに乗り込む。
   走り去るベンツ。
   沢木、ベンツを見送る。

○ライフパーク経堂・沢木家・ダイニング(夜)
   沢木と沢木薫(30)、テーブルを挟み、向かい合って座っている。
   灯、奥のソファで眠っている。
沢木「なんで黙ってた? 薫も知ってるよな? オレと小山田のこと」
薫「ごめん。でもね優くん。賢斗くんは灯の友だちだから。だから私たちのそういうのとは」
沢木「わかってるよ。当たり前だろ」
   沢木、立ち上がり、灯を起こす。
沢木「灯。ちゃんと布団で寝ろ」
灯「ん? んん」
沢木「灯。明日から運動会に向けて修行な」
灯「修行かぁ。かっこいい!」
沢木「よし! 寝よう!」
   沢木と灯、ダイニングを出ていく。
   薫、沢木の背中を見つめている。

○松原南公園・中
   子どもたちが遊んでいる。
   沢木と灯、タイヤを引いて走っている。

○ライフパーク経堂・沢木家・ダイニング(夜)
   沢木と灯と薫、テーブルについている。
   テーブルの中央にカレーの鍋がある。
   灯、カレーを掻き込んでいる。
灯「おかわり」
沢木「よし。いっぱい食え」
   沢木、灯のカレー皿を受け取り、カレーをよそう。
   薫、沢木を見守る。

○道(夕)
   沢木と灯、手をつないで歩いている。
   黒いベンツ、走って来て、止まる。
   小山田、ベンツの窓を開けて顔を出す。
小山田「よく会いますね。練習ですか?」
沢木「ええ。まぁ」
小山田「ウチもです。プラチナジムで専属トレーナーと肉体改造ですよ。では」
   ベンツ、去る。
沢木「わざわざ車止めて言うことかよ」
   沢木、ベンツを見送る。
沢木「あ。いいこと思い付いた」
灯「父ちゃん?」
   沢木、灯の手を引いて歩き出す。

○ライフパーク経堂・沢木家・ダイニング(夜)
   沢木、缶ビールを飲んでいる。
   薫、Tシャツを手に入ってくる。
薫「優くん。コレ。なに?」
   薫、沢木にTシャツを見せる。
   Tシャツに「打倒! 小山田」の文字。
沢木「気合入るかなと思って」
薫「本気で言ってる?」
沢木「だって悔しいだろ。勝ちたいだろ」
薫「優くん。これはさ。優くんはさ。バトンを渡しちゃったんだよ」
沢木「バトン? なんだよそれ」
薫「私たちで終わらせなくちゃいけないこと。止めなきゃいけないことのバトン」
沢木「薫。どうした?」
   薫、沢木の缶ビールを奪い、飲み干す。
薫「私。優くんが大事にしてる正義とか真実とか。正直どうでもいいんだ」
沢木「かおる」
薫「ただ。灯と優くんが幸せなら。後はどうでもいい」
   薫、沢木に倒れ込み、寝る。
沢木「薫。ホント酒弱いのな」
   沢木、薫を抱きしめる。

○同・沢木家・寝室(夜)
   灯、電気の消えた部屋で寝ている。
   沢木、入って来て、電気を付ける。
沢木「灯。起きろ! 今から父ちゃんが大事な話をする」
灯「ん? え? んん」
沢木「これから父ちゃんが言うことを、しっかりと記憶に記録するように」
   沢木と灯、目を見合わせる。

○梅ヶ丘小学校・校庭
   校舎の壁に「秋季大運動会」の横断幕。
   リレーが行われている。
   沢木と小山田、リレーゾーンに立つ。
   一瞬だけ目を合わせる沢木と小山田。
   沢木、バトンを受け取り、走り出す。
   小山田、遅れてバトンを受け取り、走り出す。
   沢木と小山田、灯と賢斗へのバトンパスはほぼ同時。
沢木「引き分けだ」
小山田「遅れてバトンを受けた私の勝ちです」
   灯と賢斗、走っている。
   灯、賢斗に差を付ける。
   賢斗、転ぶ。
   灯、賢斗の転倒に気付き、立ち止まる。
   賢斗、倒れている。
   差し出される灯の手。
   賢斗、灯の手を見る。
灯「ウチの父ちゃん言ってた。勝負で大事なのは、終わったあと笑えることだって」
   賢斗、灯の手を掴む。
賢斗「ウチのパパはいつも言ってる」
   賢斗、灯の手を引く。
   灯、転倒する。
   賢斗、立ち上がる。
賢斗「笑っていたいなら、勝ち続けろって」
   賢斗、走り出す。
   灯、立ち上がり、走る賢斗を見つめる。
   灯の足元に落ちているバトン。
   沢木と小山田、その様子を見ている。

○同・校門前(夕)
   黒いベンツが止まっている。

○ベンツ・車内(夕)
   小山田と賢斗、隣り合って座っている。
   賢斗、窓の外を見ている。
小山田「よくやった。賢斗。えらいぞ」
賢斗「パパのウソつき」
   小山田、窓の外に目をやる。
小山田「出してくれ」
   前に向き直る小山田。

○道(夕)
   黒いベンツ、走り去る。
   沢木と灯と薫、笑顔で手をつないで歩いている。

〈おわり〉

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