ショートストーリー スポーツ

「ピッチャーこそが野球の主役」と息巻く結城禄太郎(16)が、ノーコンを理由にピッチャーをクビになり、ショートとして輝くまでの物語。
マヤマ 山本 3 0 0 06/23
本棚のご利用には ログイン が必要です。

第一稿

<登場人物>
結城 禄太郎(16)倉橋高校野球部1年。投手、遊撃手。
相本 堅(17)同2年。二塁手。
西島 大翔(17)同2年。主将。遊撃手、三塁手。
秋山 誠一(17) ...続きを読む
この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
 

<登場人物>
結城 禄太郎(16)倉橋高校野球部1年。投手、遊撃手。
相本 堅(17)同2年。二塁手。
西島 大翔(17)同2年。主将。遊撃手、三塁手。
秋山 誠一(17)同2年。投手。
益田 利彦(45)同監督。
須藤 祥(17)明舞学園高校野球部2年。遊撃手。
コーチ(30)
部員A
部員B
明舞学園の選手
釜瀬の選手
審判
実況
ウグイス嬢



<本編>
○明舞学園・野球部グラウンド
   倉橋高校と明舞学園の練習試合が行われている。
   スコアボード。現在四回裏、一対四で倉橋高校が負けている。
結城M「野球というスポーツにおいて、主役のポジションといえば?」
   捕手のミットに収まるボール。
審判「フォアボール」
結城M「そう聞かれたら、俺は迷わずこう答える」
   悔しがる結城禄太郎(16)。
   T「結城禄太郎(ロク) 一年 控えピッチャー」
結城「くそっ」
結城M「ピッチャー!」
   明舞学園側ベンチ。
明舞学園の選手「ヘイ、ピッチャーノーコンだよ〜」
結城M「黙れ、雑魚どもが」
   打席に向かう須藤祥(17)。
結城M「次のアイツさえ抑えりゃいいんだよ」
   打席に立つ須藤。
結城M「県内ナンバーワンスラッガー、四番ショート須藤」
   振りかぶる結城。
結城M「初球のサインは、外角のストレートか」
   投げる結城。
結城「打てるもんなら打ってみろ!」
   打球音。レフト方向に大きく飛んで行く打球。

○河川敷(夜)
   星空が広がっている。
結城の声「ピッチャー失格なんて、あんまりっスよ〜」
   泣きながら川に石を投げる結城と後ろで座っている相本堅(17)。
結城「今日の練習試合だって、たかだか4回8失点っスよ?」
相本「いや、十分だろ」
   T「相本堅(もっさん) 二年 2番セカンド」
相本「実際、ロクは球速いけど、コントロールが悪いからな」

○(フラッシュ)明舞学園・野球部グラウンド
   マウンドに立つ結城。塁を埋めるランナー達。
相本の声「フォアボールでランナーためるし、だからリズムも悪くなる」

○河川敷(夜)
   並んで座っている結城と相本。
   結城の表情を確認する相本。
相本「正直、お前の後ろは守りづら……」
   目に涙をためている結城。
相本「あ……」
   大泣きする結城。
結城「もっざんまで〜」
相本「わかったから、泣くなって」
    ×     ×     ×
   並んで座っている結城と相本。
相本「で、監督は何だって?」
結城「明日からショートやれ、って言うんスよ」
相本「へぇ、いいじゃん」
結城「どこがっスか」
   立ち上がる結城。
結城「俺は主役になりたいんスよ」
   目に涙を浮かべる結城。それを見上げる相本。
結城「それがよりによってショートなんて」
相本「おいおい、ロクはショートを何だと思ってんだよ」
   再び座る結城。
結城「だって、野球漫画でも一番活躍しないポジションじゃないっスか」
相本「確かに漫画じゃそうかもしんないけどさ、実際は違うぜ?」
結城「え?」
   次に名前の挙がった選手達の映像が浮かぶ。
相本「デレク・ジーターやアレックス・ロドリゲス、日本なら坂本勇人、川崎宗則、松井稼頭央……むしろ名プレイヤーの宝庫だ」
結城「確かに」
   得意げな顔の相本。
相本「それは何でか」
   守備をする遊撃手の絵が浮かぶ。
相本「ショートってのは、一番打球の飛んできやすいポジションだ。だから、一番センスのある選手に任される場合が多い」
   向かい合って座る結城と相本。
相本「いわば、花形ポジションだ」
結城「花形か……」
相本「ロクなら、ショートでも主役になれるさ」
結城「もっさん……」
相本「だからさ、ロク。ショートやってみろよ。……それでさ」
   結城の肩に手を置く相本。
相本「俺と、鉄壁の二遊間コンビを組もうぜ!」
   星空が広がっている。
結城の声「はい!」

○倉橋高校・校門
   「倉橋高等学校」と書かれた看板がある。
結城の声「という訳で」

○同・野球部グラウンド
   結城と西島大翔(17)が並んで立っている。
結城「今日からショートなんで、よろしくお願いします」
西島「おう」
   T「西島大翔(主将) 二年 5番ショート」
西島「まぁ、ロクは足も速いし肩も強い。ショートで化けるかもな。ガッハッハ」
結城M「俺がレギュラーになるためには……」
   ノックするコーチ(30)。打球音。
コーチ「ショート、行くぞ」
結城M「西島先輩との競争に勝たなきゃいけない訳か」
   正面で捕球し送球する西島。
結城M「投打の要であるこの人に」
コーチの声「オッケー」
   自信なさそうな表情の結城。
結城「はっきり言って、自信なし」
   ノックするコーチ。
コーチ「次、結城」
結城「は、はい」
   構える結城。打球音。
結城M「とりあえず、今の西島先輩の動きを参考にして……」
   半身で捕球し、送球する結城。
   捕球する一塁手。
コーチ「オッケー!」
   安堵する結城。
結城M「あれで良かったのかな……?」
西島の声「おう、ロク」
   結城の肩を叩く西島。
西島「初めての割に、いい動きじゃねぇか」
結城「あ、ありがとうございます」
西島「こりゃ、今度の紅白戦で早速出番ありそうだな。ガッハッハ」
結城「いや、そんな無理っスよ……」
    ×     ×     ×
   打球音。
   紅白戦が行われている。ショートの守備に就く結城。打球に飛びつくも届かない。
部員Aの声「三遊間抜けた〜」
   一塁上で笑う西島。
部員Aの声「ナイスバッティング、西島!」
西島「ガッハッハ」
   頭を掻く結城。
結城M「だから、いきなり試合なんて無理だって言ったのに……」

○(フラッシュ)同・同
   打球に飛びつくも届かない結城。
結城M「やっぱり、実戦だと違うな……」

○同・同
   ネクストバッターズサークルに立つ結城。
結城M「守備はまだ課題が多い、か」
   右打席に立つ結城。
結城M「となると、打撃で挽回しないといけないんだけど……」
   マウンドから投げ込む秋山誠一(17)。
   T「秋山誠一 二年 6番ピッチャー」
結城M「さすがウチのエース。簡単には打たせてくれないね」
   結城に近づくボール。
結城M「内角のシュートだ」
   打った結城。打球音。
結城M「捕らえた!」
   走る結城。
結城「やった、三遊間抜けて……」
   正面で捕る西島。
結城「え?」
   捕球する一塁手。駆け込む結城。
審判「アウト」
結城M「だめか……」
   ベンチに戻る結城。
部員Bの声「ドンマイ、結城」
結城「抜けたと思ったんだけどな」

○(フラッシュ)同・同
   正面で捕球する西島。
結城M「まさか正面で捕られるとはね……」

○同・同
   ベンチに座る結城。
結城「一体どうして……ん?」
   三塁側にポジションを移動する西島。
結城M「西島先輩、三塁寄りにポジションを変えた……?」
   打球音。
   正面で捕球する西島。
結城M「どうして西島先輩には、打球の飛んでくるコースがわかったんだ……?」

○河川敷(夜)
   星空が広がっている。
結城の声「四打数ノーヒット、エラーも二つ」
   並んで座っている結城と相本。泣いている結城。
結城「エラーにならない守備のミスもいっぱいあったし……」
相本「最初はそんなもんだよ。だから泣くなって」
   結城の肩に手を置く相本。
相本「これからどんどん練習すれば……」
結城「それじゃ西島先輩に勝てないっスよ」
   涙を拭う結城。
結城「ずっとショートをやってきた西島先輩と、今更始めた俺とじゃ、勝負になんないっスよ」
相本「それは違うぜ?」
結城「え?」
相本「西島は元々サード。ショートに転向したのは、去年の今頃だよ」
結城「……って事は、まだ一年って事っスか?」
相本「そういう事だな」
   立ち上がる相本。
相本「つまり、ロクにもチャンスがあるって事だ。……特に守備」
結城「守備……」
   川に石を投げ込む相本。
相本「西島は、ショートの割にはそんなに足が速い訳じゃないからな。守備範囲の広さならロクに分があると俺は思う」
結城「いや、でも……」

○(フラッシュ)倉橋高校・野球部グラウンド
   正面で捕球する西島。
結城の声「俺、今日いい当たりを捕られたんスけど」
相本の声「あぁ」

○河川敷(夜)
   向かい合って座る結城と相本。
相本「それは、からくりがあるんだよ」
結城「からくり?」
   結城の隣に座る相本。
相本「その時打った球、覚えてるか?」
結城「えっと……」

○(フラッシュ)倉橋高校・野球部グラウンド
   打つ結城。
結城の声「確か、内角のシュートっスね」

○河川敷(夜)
   並んで座っている結城と相本。
相本「ロクさ、その球をライト方向に打てるか?」
結城「無理っスよ」
   打つ仕草をする結城。
結城「上手く打ってもセンター返し。でも大抵は、引っ張って三遊間っスよ」
相本「だろ?」
   得意げな表情の相本。
相本「西島はそう読んで、最初から三塁ベース寄りの位置にいた。だからあの球を捕れたんだよ」

○(フラッシュ)倉橋高校・野球部グラウンド
   三塁側にポジションを移動する西島。
結城の声「あれは、そういう事だったんだ……」

○河川敷(夜)
   並んで座っている結城と相本。
結城「じゃあどうやって対抗したら……」
相本「なに、簡単な事だよ」
相本「ロクも、同じ事をすればいい」
結城「え?」
   守備をする遊撃手の絵が浮かぶ。
相本「配球だけじゃなく、打者の性格や癖、状況などを考え、打球の行き先を読む」
   並んで座っている結城と相本。
相本「西島より足の速いロクに同じ事ができれば、鬼に金棒だろ?」
結城「確かに、そうっスね」
相本「来週の紅白戦で、早速試してみろよ」

○倉橋高校・野球部グラウンド
   T「一週間後」
   守備につく結城。
結城M「一死ランナーなし、バッターはもっさん」
   打席に立つ相本。
結城M「もっさんは基本的にセンターから右方向に打ってくる」
   三塁側にポジションを移動する結城。
結城M「って事は、ある程度三遊間は空けといても大丈夫」
   打つ相本。二遊間を抜けそうなライナーをダイビングキャッチする結城。
結城M「やった、読み通り」
審判の声「アウト!」
   悔しそうな表情の相本。
部員Bの声「ナイス、ショート!」
相本「ロクの奴、恩を仇で返しやがって」
   笑顔の結城。
結城M「この試合で自信をつけた俺は」
    ×     ×     ×
   トスバッティングや守備練習をする結城。
結城M「秋が終わり」
    ×     ×     ×
   ランニングやウエイトトレーニングをする結城。
結城M「冬を越え」

○同・校門
   「入学式」の看板がある。
結城M「春になる頃には」

○同・野球部グラウンド
   倉橋高校と釜瀬高校の練習試合が行われている。打球音。
部員Aの声「三遊間!」
   捕球する結城。
部員Aの声「捕った〜」
   走る釜瀬の選手。
釜瀬の選手「一塁間に合え〜」
   送球する結城。
結城「なめんな〜!」
   捕球する一塁手。一塁に駆け込む釜瀬の選手。
審判「アウト!」
   ガッツポーズをする結城。
結城M「ショートというポジションもすっかり板につき」
結城「俺から内野安打なんて、百年早いぜ!」
   スコアボード。現在四回裏、三対〇で倉橋高校がリードしている。
ウグイス嬢の声「七番ショート結城君」
   打つ結城。打球音。 
結城「もらった〜!」
   一二塁間を抜ける打球。
部員Aの声「ライト前ヒット!」
   一塁上でガッツポーズをする結城。
結城M「打撃も絶好調」
部員Aの声「いいぞ、結城〜」
結城「楽勝!」
   ベンチに座る相本と西島。
西島「あいつ、打撃も良くなったな」
相本「守備の負担が減って、打撃ものびのびしてきたって事か」
結城M「レギュラー獲得に近づいていた」
西島「こりゃ、俺のレギュラーの座も危ういな、ガッハッハ」
結城M「のだけれど……」
結城の声「え、ピッチャーっスか?」
    ×     ×     ×
   ベンチに座る益田利彦(45)。
   T「益田利彦 監督」
益田「あぁ、秋山がヒジに違和感があるらしくてな」
   益田の前に立つ結城。
益田「他のピッチャーは午前中の試合で使っちまってるし、次の回からお前が投げてくれないか?」
結城「……わかりました」
結城M「ピッチャーか……」
   マウンドに立つ結城。
結城「久々だと緊張するな……」
   サインを出す捕手。
結城M「初球のサインは、内角のストレートか……」
   投げる結城。
結城「いけっ」
   外角に大きく外れるボール。
審判「ボール」
結城M「うわ、逆球だ」
   返球を受け取る結城。
結城M「サインと違うコースに投げちゃうと、打球の行方も変わる」
   守備に付く相本と西島。
結城M「そしたら読みもなにもないから、内野手には大迷惑だ」

○(フラッシュ)河川敷(夜)
   結城の表情を確認する相本。
相本「正直、お前の後ろは守りづら……」
結城M「あの時もっさんが言ってたのも、そういう意味だったんだろうな……」

○倉橋高校・野球部グラウンド
   マウンドに立つ結城。
結城「やばい、涙が……」
   サインを出す捕手。
結城M「さて、気を取り直して」
   振りかぶる結城。
結城M「次も内角に、今度はシュートか」
   投げる結城。
結城M「コントロール重視、コントロール重視」
   打つ釜瀬の選手。
結城「よし」
   捕球する西島。一塁に送球し、アウト。
審判の声「アウト」
結城「やった」

○河川敷(夜)
   星空が広がっている。
相本の声「どうしたロク、元気ねぇぞ?」
   並んで寝転がる結城と相本。
相本「今日はナイスピッチングだったじゃねぇか。もっと元気出せよ」
結城「はい、実は……」
   飛び起きる相本。
結城「監督から『ピッチャーに戻らないか?』って言われたんスよ……」
相本「マジかよ!?」
   起き上がる結城。
相本「で、何て返事したんだ?」
結城「一晩考えますって」
相本「戻ればいいじゃねぇか、ピッチャー」
結城「もっさん……」
   目に涙を溜めている結城。
結城「そんなに俺との二遊間コンビを解消したいんスか?」
相本「違うから、泣くなって」
   並んで座っている結城と相本。
相本「でも秋山がケガして、他のピッチャーも不調なのは事実だし」
結城「そうっスけど……」
相本「何迷ってんだよ。主役に戻るチャンスじゃねぇか」
結城「主役か……」

○結城家・外観(夜)

○同・結城の部屋(夜)
   ベッドに寝転がる結城。
結城「ピッチャーか……」

○(夢の中)野球場・グラウンド
   マウンドに立つ結城。
実況の声「さぁ、決勝戦もいよいよ大詰め。9回裏ツーアウト」
   打席に立つ須藤。
実況の声「バッターは四番、須藤君」
   投げる結城。
実況の声「ピッチャー投げた」
   打つ須藤。
実況の声「打った〜、いい当たり!」
   ショートの守備に就くもう一人の結城。捕球する。
実況の声「ショート結城、追いついた〜!」
   捕球する一塁手。駆け込む須藤。
審判の声「アウト」
   ガッツポーズをするショートの結城。
実況の声「倉橋高校、優勝〜!」

○結城家・結城の部屋(朝)
   目覚まし時計が鳴る。
   目を覚ます結城。
結城「……夢か」
   目覚まし時計を止める結城。
結城「……よし」

○倉橋高校・外観
相本の声「断った〜!?」

○同・野球部グラウンド
   野球部員が練習をしている。
   並んで歩く結城と相本。
結城「断ったって言うか、このままショートやらせて欲しいって言っただけっスよ」
相本「何でだよ、もったいねぇ」
結城「俺、ピッチャーやってた時は、投げてる時しか輝いてなかったんスよ」

○イメージ
   打つ結城、走る結城、守る結城の絵が浮かぶ。
結城の声「でも今は、打って走って守って、全部で輝いていられるんス」

○倉橋高校・野球部グラウンド
   並んで歩く結城と相本。
結城「だから、決めたんス。俺、ショートで主役になるっス!」
相本「ロク……」
結城「という訳で、これからも鉄壁の二遊間コンビ組みましょうね、もっさん」
相本「おう」
   結城と相本の後ろに立つ西島。
西島「おいおい、俺の事を忘れちゃいないか?」
結城「西島先輩」
西島「そういう事は、俺からレギュラーを奪ってから言えよ。ガッハッハ」
結城M「こうして季節は流れ……」

○河川敷(夜)
   星空が広がっている。
結城M「夏を迎えた」
相本の声「明日だな、レギュラー発表」
   並んで座っている結城と相本。
相本「秋山も間に合ったし、今年はいい所まで行けるかもな〜」
結城「俺は心配っスよ」
相本「え?」
結城「もっさんはレギュラー確定でも、俺はまだどうなるかわからないんスから……」
相本「何言ってんだよ」
   空を見上げる相本。
相本「実際、ロクは良く頑張ったし、成績も残した。もう、どこに出しても恥ずかしくないショートになったよ」
   結城の表情を確認する相本。目に涙を溜めている結城。
相本「だから自信持って……」
結城「もっざ〜ん」
相本「泣くなって」

○倉橋高校・野球部グラウンド
   益田の下に集まる部員達。
益田「それでは、レギュラーを発表する」
   部員達の前に立つ益田。
益田「ウチは毎年、ベスト8に甘んじているが、今年はベスト4の壁を突破し」
   緊張した面持ちの部員達。
益田「甲子園出場も狙えるメンバーだと思っている。選ばれた者は自信を持ってプレーして欲しい」
   メンバー表を読み上げる益田。
益田「ピッチャー、秋山。キャッチャー、松村。ファースト、大友……」
   自信満々の表情の相本。
益田「セカンド、相本」
   笑っている西島。
益田「サード、西島」
   結城を見る相本。
相本M「西島がサード、って事は……?」
   メンバー表を読み上げる益田。
益田「ショート、結城」
結城「はい!」

○野球場・グラウンド
   盛り上がる観客席。
結城M「ついに始まった、夏の県予選」
   打つ対戦相手の打者。
結城M「俺たちは快進撃を続け」
相本の声「ショート」
   捕球する結城。
結城「オーライ」
実況の声「ショートフライ」
   喜ぶ倉橋ナイン。
結城M「ベスト8まで勝ち残っていた」
実況の声「倉橋高校、快勝です!」
西島「ガッハッハ」

○野球場・倉橋ベンチ
   新聞記事。「明舞学園 大差で勝利」「準々決勝は倉橋と対戦」「今大会の主役・須藤は2HR」と書いてある。
結城M「そして、次の相手は……」
   新聞を読む結城と相本。
結城「くそっ、主役は俺だっつーの」
相本「だったら須藤に勝つしかねぇな」
   部員達の前に立つ益田。
益田「相手は優勝候補筆頭だ。不足はない」
   笑っている西島。
西島「よし、勝ってベスト4だ。秋の借りを返すぞ!」
   気合いの入った表情の結城ら部員達。
部員達「おう!」

○同・グラウンド
   スコアボード。現在五回表、一対一。打球音。
実況の声「打った〜」
   ホームインする相本。
実況の声「三塁ランナー相本、ホームイン」
   一塁上で笑っている西島。
西島「ガッハッハ」
実況の声「五番西島のタイムリーで倉橋高校が勝ち越し!」
   打席に立つ結城。
結城「よし、来い!」
実況の声「なおもツーアウトランナー一、二塁で、バッターは六番結城」
   打つ結城。打球音。
結城「俺が主役だ〜!」
   左中間を破る打球。
実況の声「左中間を破った〜、これは長打コースだ!」
   ホームインする西島。
実況の声「二塁ランナーに続いて、一塁ランナーの西島もホームイン!」
   二塁上に立つ結城。
実況の声「結城のタイムリーで、さらに二点を追加〜!」
結城「秋山先輩、任せたっス」
   打つ秋山。打球音。
実況の声「七番秋山君、ピッチャー返し!」
   走る結城。
結城M「よし、これで四点差……」
   ダイビングキャッチをする須藤。
実況の声「捕った〜! ショート須藤君のファインプレー!」
   ヘルメットを脱ぐ結城。
結城「あれを捕るか……。この試合、まだまだ終わりそうにないな……」
    ×     ×     ×
   バックスクリーンを直撃する打球。
   悠々と走る須藤。
実況の声「四番須藤君のツーランホームラン! 明舞学園、一点差まで追い上げました!」
   マウンドに集まる倉橋の内野陣。
秋山「すまん……」
西島「何言ってんだ、まだ俺たちが勝ってるんだぞ」
結城「そうっスよ」
   秋山をはげます結城と相本。
結城「俺らを信じて、どんどん打たせていいっスからね」
相本「そういう事」
秋山「あぁ、頼りにしてるぜ」
結城「うっス」
   投げる秋山。
結城M「この後、両投手が踏ん張り」
   ゴロをさばく結城。
結城M「一点差のまま」
   外角に外れるボール。
結城M「最終回を迎えた」
審判「フォアボール」
   塁を埋める明舞の選手。
実況の声「満塁、満塁です!」
   汗を拭う秋山。
実況の声「倉橋高校の一点リードで迎えた九回裏、ツーアウト満塁。ここで迎えるバッターは……」
   打席に立つ須藤。
実況の声「四番ショート須藤!」
   守備に付く結城。
結城M「あと一人だってのに、よりによってこいつかよ……」
   サインを出す捕手。
結城M「初球のサインは、外角低めのストレート」
   一塁側にポジションを移動する相本。
結城M「もっさんも一塁寄りにポジションを移動した」
   二塁側にポジションを移動する結城。
結城M「だから俺は、二塁寄りの位置にいればいいはず」
   打席に立つ須藤。
結城M「……なんだけど、何か引っかかるな」
   何かを思い出す結城。
結城M「そういえば、あの時……」

○(フラッシュ)明舞学園・野球部グラウンド
   投げる結城。
結城M「ツーアウト満塁、バッター須藤、初球は外角のストレート」
   レフト方向に大きく飛んで行く打球。
結城M「あの時、須藤は強引に引っ張って、打球はレフトスタンド……」

○野球場・グラウンド
   何かに気付いた表情の結城。
結城M「……強引に引っ張って」
   投げる秋山。
結城M「もしかしたら、今回も」
   打つ須藤。
結城M「須藤が狙ってるのは……」
   打球音。低い弾道の打球。
実況の声「三遊間!」
   走る結城。
結城「くそっ」
実況の声「抜けるか〜!?」
   走る須藤。
須藤「抜けろ!」
   グラブをつけた腕を伸ばす結城。
結城「届け〜!」
   捕球する結城。
実況の声「ショート、追いついた〜!」
   一塁を指差す西島。
西島「ファースト!」
   走る須藤。
須藤「くっ」
実況の声「一塁、間に合うか〜!?」
   楽しんでいる表情の相本。
相本「見せ場だぞ、ロク!」
   送球する結城。
結城「いっけ〜!」
   捕球する一塁手。駆け込む須藤。
   右手を高々と挙げる審判。
審判「アウト〜!」
   盛り上がる応援団。
   ベンチを飛び出す倉橋の選手達。
   うなだれる明舞の選手達。
   天を仰ぐ須藤。
   喜ぶ相本。
   喜ぶ西島。
   ベンチの中で喜ぶ益田。
   喜ぶ結城。
   マウンドに集まる倉橋ナイン。
実況の声「倉橋高校、ベスト4進出〜!」

○同・外観
   看板に「準決勝 第一試合 市井学園― 倉橋」と書いてある。打球音。

○同・グラウンド
   捕球する相本。
結城M「野球の主役のポジションと言えば?」
   軽く手を挙げる結城。
結城「もっさん」
   トスをする相本。
相本「ロク」
   二塁ベースを踏む結城。
結城M「そう聞かれたら、俺は迷わずこう答える」
審判「アウト」
   一塁へ送球する結城。
結城M「ショート!」
結城「よっしゃ〜」
                  (完)

この脚本を購入・交渉したいなら
buyするには会員登録・ログインが必要です。
※ ライターにメールを送ります。
※ buyしても購入確定ではありません。
本棚のご利用には ログイン が必要です。

コメント

  • まだコメントが投稿されていません。
コメントを投稿するには会員登録・ログインが必要です。