着ぐるみの町 ドラマ

元教師の森和樹(32)は、百貨店の屋上で昔の教え子である真鍋燈子(27)に再会する。その日の夜。現在の職場であるキャバクラで、ナンバーワンの桃谷琴美(28)から、店を辞めるという話を聞かされた後、キスをされる。店じまいした後の早朝、裏口から外に出ると、酔い潰れた桃谷がしゃがみ込んでいた。桃谷は、自分がいるこの町が、みんな嘘をついてばかりの、着ぐるみの町だ、という愚痴を森に聞かせ、言いたいことを言えてよかった、と言って去っていく。
高川理晴 6 0 0 05/24
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第一稿

    着ぐるみの町
        2020.05.23









⚪︎南山百貨店屋上(昼)
   幾人かの親子連れが、遊具で遊んでいる。
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    着ぐるみの町
        2020.05.23









⚪︎南山百貨店屋上(昼)
   幾人かの親子連れが、遊具で遊んでいる。
   私服姿の森和樹(32)がベンチに座り、無表情でタバコを吸っている。
   子供の手を引いた真鍋燈子(27)が、森に近づき声をかける。
真鍋「ここ、禁煙なんですが」
森「ああ、すみません」
   真鍋の顔も見ずに、森は立ち去ろうとする。
真鍋「あの」
森「なんでしょうか」
   森、ようやく真鍋の顔を見る。
真鍋「やっぱり」
   森、少しだけ表情が顔に現れる。
森「真鍋か」
   それから、真鍋と手を繋いだ子供を見る。
真鍋「久しぶり、森先生」
   × × ×
   同じベンチに、森と真鍋が座っている。
   森、ポケット灰皿にタバコをねじ込んでいる。
   真鍋は、一人で遊んでいる子供の方へ視線を向けている。
真鍋「私の子」
森「そりゃそうだろ」
真鍋「聞きたいけど、聞けないって顔してたから」
   二人の間に、束の間の沈黙。
真鍋「仕事、順調なの?」
森「まあな。忙しいよ、昔より」
真鍋「そっか」
森「お前はどうなんだ」
真鍋「幸せよ」
   森、驚いた顔で真鍋を見る。
   真鍋が笑い出す。
真鍋「今度は信じられないって顔?」
森「いや、嘘が下手になったなって」
   真鍋の視線の先に、遊んでいる子供の姿。
真鍋「親になったから、かもね」
森「それは違うだろ。お前の親、嘘ばっかりだっただろ」
真鍋「ううん。でも、今なら分かるよ。嘘をついていた理由も、その時の気持ちも」
   子供が真鍋のとこに戻ってくる。
真鍋「そろそろ帰ろっか」
   子供がうなずく。
真鍋「それじゃ」
森「ああ」
   子供の頭を撫でる真鍋の手を見つめる森。左手の薬指には指輪がない。
森「なんかあったら電話しろよ。連絡先、知ってるだろ」
   真鍋、笑顔でうなずく。
   立ち去っていく真鍋と子供。
   ベンチに座ったままの森。
   それを少し離れたところから見つめる女性の姿。

⚪︎キャバクラDELUX
   ホステスが接客をしている。
   その中を、ボーイ姿の森がワゴンを引いて歩いている。
   × × ×
   空いたグラスを片付けている。
   × × ×
   閉店後のレジの片付けをしている。
   桃谷美琴(28)が近づいてくる。
   少し酔っているようで、顔が赤い。
桃谷「お疲れ様でぇす」
森「お疲れ様です」
桃谷「何やってるんですかぁ」
森「レジ締めですよ」
桃谷「へぇ」
   桃谷、電卓を覗き込んでいる。
   0がいくつも並んでいる。
桃谷「私はいくら?」
森「ランキングならそこです」
   森の視線の先、ランキングのパネルがある。
   順番に並んでおり、一番上に、桃谷の写真と、桃谷琴音の文字。
森「別に、嬉しいって感じはしない、で合ってますか」
桃谷「そんなわけないでしょ。おじさまたちが私に会って話をするためだけに払ってくれたお金なんだから」
   森は無言で、パチパチと電卓を叩いている。
桃谷「ただ」
森「後悔しないですか?」
桃谷「は?」
森「その先の言葉、言って、言ったあと後悔しないですか?」
   桃谷、虚をつかれたような顔になる。
桃谷「森さんって、怖がりだよね、いや違うな、逃げてるだけか」
   後ろの扉から、別のキャストが数人、ゾロゾロと出てくる。
桃谷「今はね」
   伊藤公香(24)と・前田ひかる(22)が桃谷に近づいてくる。
伊藤「お疲れ様でぇす。あれ、琴美さん今日はアフターじゃないんですかぁ」
桃谷「たまにはお休みしないとねぇ」
伊藤「いいなぁ、私もお休みしたぁい、でも今日もアフターなんですぅ、ね? 」
   伊藤が前田に同意を求める。
前田「そうだねー」
   ランキングの二番と三番に、伊藤と前田の写真が飾られている。
伊藤「それじゃ、私たちもう行かないとー」
伊藤・前田「お疲れ様でしたぁ」
森「お疲れ様でした」
桃谷「お疲れー」
   桃谷、はぁ、と小さくため息をつく。
森「店の方はもう大丈夫ですから、琴美さんも」
桃谷「さっきの続き、だけど」
   言いながら、桃谷がランキングの方に近づいていき、自分の写真を思いきり引き剥がす。
森「何してるんですか」
桃「見てわかんない? 辞めるの」
森「わかりました。店長には明日伝えておきます。退店の日取りもその時に」
   桃谷、握っていた写真を床に落とす。
桃谷「いいんだね」
森「何がです」
桃谷「私がいなくなっても」
森「売り上げは落ちるでしょうが、仕方がないことです。それに、決断したんでしょう」
   桃谷、ツカツカと森に近づき、ネクタイを掴んで引き寄せ、口付ける。
桃谷「罰金100万円。これで穴埋めすれば? 」
森「こんなので手を出したことにはなりませんよ」
   森、手を止めずに金を数えている。
   × × ×
   店内の電気を消す森。
   店内には誰もいない。
   × × ×

⚪︎キャバクラDELUX裏口(早朝)
   雑居ビルの間の扉から、私服姿の森が出てくる。
   鍵を閉め、空を見上げると、空がしらんで来ている。
   壁際にしゃがみ込んでいる桃谷。足元には、タバコの吸殻と、スミノフの瓶が3本転がっている。
森「お金盗まれますよ、こんなところで寝たら」
   顔を上げる桃谷。
   涙で溶けたマスカラの筋が頬についている。
桃谷「どうすればいい? 」
森「何がですか?」
桃谷「辞めて、どうすればいい? 」
森「何も考えてなかったんですか? 」
   うなずく桃谷。
桃谷「なんか、もういっぱいいっぱいなんだ、もう疲れた。って、今日、思った」
森「それで、あんなことしたんですか」
   うなずく桃谷。
森「店長には私から言っておきますから、とりあえず少し休んで、辞めるのは、辞めるってことにしますか? 」
   桃谷、首を横に振る。
桃谷「ここには戻らない。もう戻りたくない。この店も、この街も、もう好きじゃないから」
   × × ×
   早朝の繁華街の風景。酔い潰れた人が横たわり、ネズミとカラスがゴミを漁っている。
   × × ×
森「この街が嫌いになれたのなら、それはいいことだと思いますよ」
   森が手を伸ばし、桃谷がそれを取る。
桃谷「最近、最初に来た時のことをよく思い出すんだ。すごい楽しかった。夜なのに明るくて、笑い声と叫び声がずっと聞こえてて、お酒は苦かったけど、ずっとここにいたいと思った。でも今は全然、いいと思えない。嘘ばっかりついて、みんな、取り繕って生きてるって、みんな着ぐるみ着てるだけだって」
   桃谷、立ち上がる。足元の瓶が転がっていく。
桃谷「森さんは、でも、着ぐるみ着てないって感じ。だから、本当に言いたいことを言いたかった」
   桃谷、森の手を離す。
桃谷「じゃあね」

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