pro コメディ

どうしても就職先が決まらない大学生の手塚聡太(22)は、ある日「プロハンドボールリーグ設立」のチラシを目にする。「ハンドボールなんてどうせ誰もやっていないスポーツだ」と高をくくった手塚は仲間たちに声をかけ、ハンドボール選手を目指し始める。
マヤマ 山本 6 0 0 02/25
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第一稿

<登場人物>
手塚 聡太(22)大学生
飯島 紀博(22)同
桑田 力(22)同
田中 武士(22)同
後藤 公一(21)同

仙人
ガラの悪そうな男
面接官A~ ...続きを読む
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<登場人物>
手塚 聡太(22)大学生
飯島 紀博(22)同
桑田 力(22)同
田中 武士(22)同
後藤 公一(21)同

仙人
ガラの悪そうな男
面接官A~C



<本編>
○商社・面接室
   ガチガチに緊張した面持ちで椅子に座るスーツ姿の手塚聡太(22)。
   手塚の正面に座る面接官二人。
面接官A「では、志望理由をお願いします」
手塚「(うわずった声で)は、はい、手塚聡太、22歳です!」
面接官B「弊社を志望した理由をお聞きしていますよ」
手塚「い、いえ、と、特にスポーツの経験はございません!」
面接官A「落ち着いて下さい、手塚さん。志望理由ですよ」
手塚「と、得意な料理は、す、スクランブルエッグです!」
   「ダメだこりゃ」と言わんばかりの表情で顔を見合う面接官A、B。
手塚「わ、私が学生時代に取り組んだ事は……」

○オフィス街
   うなだれながら歩くスーツ姿の手塚。
手塚「またダメだった……」
   ため息を付く。風で飛ばされてきたチラシが手塚の足に引っかかる。チラシを手に取る手塚。表情がみるみる明るくなる。
手塚「コレだ!」
   走り出す手塚。

○メインタイトル『pro』

○大学・外観

○同・教室
   笑顔で駆け込んでくる手塚。
手塚「ちょっとコレ見てくれよ〜!」
   席に座っている飯島紀博(22)、桑田力(22)、田中武士(22)、後藤公一(21)。揃って手塚へ顔を向ける。
飯島「どうした聡太。ついに内定出たか?」
後藤「そうなんスか? 手塚先輩、おめでとうございます!」
手塚「そんなもん出る訳ねぇだろって」
桑田「そりゃ、今日面接で今日内定出る訳ねぇよな」
田中「だな」
後藤「あれ、でもこの間、最終まで残ったとか言ってませんでしたっけ?」
手塚「あ〜、アレは結局ダメだった。そんな事より、コレだよコレ」
   持っていたチラシを机に置く手塚。チラシには「関東プロハンドボールリーグ設立!」の文字。
飯島「ハンドボール?」
手塚「そう、ハンドボール」
後藤「それが、どうかしたんスか?」
手塚「ココだよ、ココ」
   チラシを指差す手塚。「埼玉ハリケーンラビッツ プロ選手公募テスト開催決定!」の文字。
飯島「プロ選手の公募テスト?」
桑田「話が見えねぇな」
田中「だな」
手塚「だから、この公募テストを受けて、プロのハンドボール選手になろう、って言ってんだよ」
飯島&桑田&後藤「はぁ〜!?」
桑田「訳わかんない事言ってんじゃねぇよ」
手塚「だって俺たち、未だに一つも内定貰えてないんだぜ?」
後藤「だからって、何でハンドボールなんスか?」
手塚「こんなどマイナーなスポーツ、やってるヤツなんていねぇだろ? 今から練習すれば余裕だって」
飯島「くだらないな、パスパス。俺だってそんなに暇じゃないんだよ」
手塚「そんな事言っていいのか、ノリ? コレを見てみろ!」
   チラシを指差す手塚。「年俸500万   円 契約金1000万円」の文字。
飯島「年俸五百万!?」
後藤「契約金一千万!?」
桑田「随分待遇いいな」
田中「だな」
手塚「どうだ、ノリ? これでもまだ『くだらない』って言えるのか?」
飯島「何言ってんだ、俺はやるぜ! 俺の中に流れるハンドボーラーの血がうずいてるんだよ!」
後藤「自分もやります! 何か楽しそう」
手塚「よし、決まりだな」
桑田「おいおい。後藤はともかく、聡太とノリはちゃんと就職活動しろって」
手塚「だから、プロのハンドボールチームに就職するための活動なんだって」
飯島「そうそう、立派な就職活動!」
桑田「……まったく、付き合ってらんねぇよな、田中」
田中「……」
桑田「おい、田中?」
飯島「お、田中もハンドボールやる気か?」
田中「だな」
手塚「よし、4人目!」
桑田「……おいおい」
手塚「じゃあ明日、早速練習だ! 朝九時にグラウンド集合、いいな?」
飯島&後藤「おう!」

○同・グラウンド
   ジャージ姿で並ぶ飯島、後藤、田中、桑田の前で演説する手塚。
手塚「いよいよ今日から、ハンドボールの練習を開始する。みんなの内に秘めた熱い思いを、ぜひともぶつけて欲しい。目標はもちろん、プロテストに合格する事だ」
   右腕を突き上げる手塚。
手塚「頑張るぞ〜!」
飯島&後藤「お〜!」
手塚「さっそくだがみんな、ボールは持って きたか?」
飯島&後藤「お〜!」
   サッカーボールを持つ飯島。
   卓球のボールを持つ後藤。
   調理器具のボウルを持つ田中。
桑田「何じゃこりゃ……」
手塚「おいおい、そんなボールで出来る訳ねぇだろうが」
飯島「じゃあ、どんなボール使うんだよ?」
   ソフトテニス用のボールを持つ手塚。
手塚「コレだよ、コレ」
    ×     ×     ×
   ハンドベースボールをする手塚達。打者が手塚、投手が飯島、捕手が後藤、外野手が田中で、ネクストバッターズサークルに桑田がいる。
後藤「しまっていきましょう!」
   投げる飯島。
飯島「ピッチャー、ノリ。第一球投げた!」
   打つ手塚。
手塚「カキーン!」
   田中の頭上を越える打球。
手塚「よっしゃ〜!」
   三塁を回ってホームインする手塚。
手塚「手塚聡太、第一号ホームラン!」
   桑田とハイタッチする手塚。
桑田「なぁ、聡太。一つ言っていいか?」
手塚「何だ?」
桑田「これ、ハンドボールじゃねぇぞ?」
手塚「……え?」
桑田「これはハンドベースボール。ハンドボールとは、別物」
飯島「嘘!?」
後藤「マジっスか?」
手塚「え、じゃあ、ハンドボールって、何すんの?」
   ため息をつく桑田。
桑田「お前ら、よくそれでプロになろうとか思えるよな……」

○同・教室
   黒板に書かれたハンドボールコートの絵。
   教壇に立つ桑田。教師風の姿。
   席に座ってノートをとる手塚、後藤、田中。突っ伏して寝ている飯島。他にも数名の生徒がいる。
桑田「ハンドボールは一チーム七人で行うスポーツだ。攻撃では、バスケに似たルールでボールを運び、ゴールキーパーの守るゴールへシュートを打つ。シュートがゴールに決まれば一点。試合終了までにより多くの点数を取ったチームの勝ちとなる」
手塚「なるほど……」
   チャイムが鳴る。
   机の上に置いてあるプリント類を片付け始める桑田。
桑田「今日の授業はここまで。来週は復習テストをやるから、そのつもりで」
生徒の声「え〜!?」

○同・廊下
   教室から出てくる飯島、後藤、田中。
後藤「あ〜、疲れましたね」
飯島「え、来週テストやんの?」
田中「だな」
飯島「後藤、ノートコピーさせてくれよ〜」
後藤「いいっスけど、その代わり、今度昼飯奢って下さいよ〜」
   教室から出てくる手塚、桑田。飯島達を追い越して歩いて行く。
手塚「先生。ハンドボールにおいて、相手選手を殴る行為はファウルになりますか?」
桑田「なるよ。当たり前だろう」
手塚「では、蹴る行為は?」
桑田「ファウルだよ。君はハンドボールを何だと思っているんだい?」
手塚「では、スティファームアームタックルはどうでしょう?」
桑田「何だね、そのすてぃふぁーむ何ちゃらってのは」
手塚「スティファームアームタックルというのは……」
   そのまま去って行く手塚と桑田。その後ろ姿を見届けている飯島達。
後藤「……どうします?」
飯島「置いていこうぜ」
田中「だな」

○同・グラウンド
   ハンドボール用のボールを持っている手塚。ボールを囲むように立つ飯島、後藤、桑田、田中。
手塚「という訳で、これがハンドボール用のボールらしい」
飯島「へ~、初めて見た」
後藤「触ってもいいんスか?」
桑田「誰が持ってきたんだ?」
手塚「田中が」
田中「だな」
飯島「さすが金持ち、買ったのか?」
   首を横に振る田中。
後藤「誰かにもらったんスか?」
   首を横に振る田中。
桑田「家にあったのか?」
   首を横に振る田中。
手塚「自分で作ったのか?」
田中「だな」
飯島「まさか、盗んだのか?」
   首を横に振る田中。
後藤「……って、え!? 田中先輩が作ったんスか!?」
田中「だな」
飯島「凄っ! お前凄いな!」
手塚「こんなん作れるもんなのか?」
桑田「こりゃ、かなり完成度高いな……」
飯島「どうやって作ったんだよ」
手塚「作り方教えてくれ」
田中「だな」

○田中邸・キッチン
   料理番組のスタジオのような大きなキッチン。
   エプロン姿で立つ田中と後藤。
後藤「今日はハンドボールの作り方をご紹介します」
   卵を割り、ボウルに入れる田中。
後藤「まずボウルに卵一個と」
   謎の粉をボウルに入れる田中。
後藤「田中家秘伝の粉を加え、混ぜます」
   混ぜる田中。
後藤「この混ぜ方が重要なんですか?」
田中「だな」
   ボウルを冷蔵庫にしまう田中。
後藤「混ぜた物を今度は冷やします。三時間ほどでしょうか?」
田中「だな」
   下からハンドボール用のボールを取り出す後藤。
後藤「そして、三時間冷やした物がコチラです」

○大学・グラウンド
   後藤と田中が持つハンドボール用のボールを見つめる手塚、飯島、桑田。
手塚「意外と簡単にできるんだな」
飯島「今日、家帰ったらやってみるわ」
桑田「秘伝の粉って何なんだよ」
手塚「とにかく、ボールもある事だし、紅白戦でもやってみるか」
後藤「いいっスね」
田中「だな」
手塚「じゃあ、このチームでいっか」
   田中の脇に立つ手塚。
飯島「望む所だ」
   桑田の肩に手を回す飯島。
手塚「後藤は両方のキーパーな」
後藤「両方のキーパーっスか?」

○(イメージ)同・同
   オールコートで紅白戦をしている手塚達。手塚と田中がディフェンス、飯島と桑田がオフェンス。後藤は手塚チーム側のゴール前に立つ。シュートを打つ飯島。
飯島「これでもくらえ〜!」
   シュートを止める後藤。
後藤「よっ」
   リバウンドを拾う手塚。
手塚「今度はこっちの番だぜ」
   ドリブルする手塚を追い越す後藤。今度は飯島チーム側のゴール前に立つ。シュートを打つ手塚。
手塚「とりゃ〜!」
   シュートを止める後藤。
後藤「はっ」
   リバウンドを拾う桑田。
桑田「よし、速攻」
   ドリブルする桑田を追い越す後藤。今度は手塚チーム側のゴール前に立つ。
   シュートを打つ桑田。
桑田「えい」
   シュートを止める後藤。
後藤「とうっ」

○同・同
   妄想する後藤の脇に立つ桑田。
桑田「んな訳ねぇだろ」
後藤「あ、違うんスか?」
    ×     ×     ×
   ハーフコートで二対二の練習をする手塚、飯島、後藤、桑田、田中。お世辞にも上手いとは言えないレベル。
   シュートを打つ飯島。ゴールから大きく外す。
飯島「ああ、惜しい」
桑田「全然惜しくねぇだろ」
手塚「いいから、さっさとボール取ってこいって」
飯島「わかったよ」
   ボールを取りに行く飯島。

○走る電車

○大学・グラウンド
   ボールを拾う飯島。
飯島「ほい、見っけ」

○走る電車

○大学・グラウンド
   コートで待つ手塚、後藤、桑田、田中の元にボールを持って戻る飯島。
飯島「待たせたな」
手塚「よし、じゃあ続き始めるぞ」
    ×     ×     ×
   ハーフコートで二対二の練習をしている五人。シュートを打つ田中。ゴールから大きく外す。
飯島「惜しくもなんともないからな。自分でボール取ってこいよ」
田中「だな」
   ボールを取りに行く田中。

○離陸する飛行機

○大学・グラウンド
   ボールを拾う田中。
田中「だな」

○着陸する飛行機

○大学・グラウンド
   コートで待つ手塚、飯島、後藤、桑田の元にボールを持って戻る田中。
後藤「随分遠くまで飛んで行ったっスね」
田中「だな」
手塚「はい、続き続き」
    ×     ×     ×
   ハーフコートで二対二の練習をしている五人。シュートを打つ手塚。ゴールから大きく外す。
手塚「悪ぃ、取ってくる」
   ボールを取りに行く手塚。

○発射するスペースシャトル

○大学・グラウンド
   ボールを拾う手塚。
手塚「よし、あった」

○パラシュートで降りてくる人

○大学・グラウンド
   戻ってくる手塚を止める桑田。その周囲には飯島、後藤、田中。
手塚「ただいま」
桑田「って、おかしいだろさっきから」
手塚「何が?」
後藤「確かに、もうちょっと基礎練習をガッツリやった方がいいかもしれないっスね」
田中「だな」
桑田「いや、そこじゃなくて。ちょいちょい挟まれる映像が……」
飯島「おう、聡太。このままで本当にプロになれんのか?」
手塚「何かやり方考えねぇとな……」
桑田「おい、俺は無視かよ……」

○同・教室
   飯島、後藤、桑田、田中の前に立つ手塚。
飯島&後藤&桑田「(驚いて)合宿〜!?」
手塚「俺の親戚が、山の上でペンションをやっててな。格安で借りられる事になった」
飯島「やるじゃん、聡太」
後藤「合宿か〜、何かワクワクしますね」
田中「だな」
手塚「ただし、あくまでも練習のための合宿である。だから今回は、おやつの持ち込みを一切禁止する」
飯島「え〜!?」
後藤「何でですか〜」
桑田「まぁ、仕方ねぇだろ」
田中「だな」
手塚「これは決定事項」
   ブーイングする飯島。
後藤「あの〜、バナナっておやつに入りますか?」
手塚「入らない」
後藤「(小声で)やった」
飯島「じゃあリンゴは?」
手塚「入らない」
桑田「ミカンは?」
手塚「入る」
桑田「何でだよ」
後藤「ポテチはおやつに入りますか?」
手塚「入らない」
桑田「入んねぇのかよ」
飯島「じゃあチョコは?」
手塚「入らない」
桑田「せんべいは?」
手塚「入る」
桑田「何でだよ」
飯島「じゃあ、ミカンは?」
手塚「入らない」
桑田「さっき『入る』って言ってたじゃねぇかよ」
手塚「それでは今週の土曜日、朝九時に駅集合だぞ!」

○山道
   整備された道を上る手塚達。
飯島「うわ〜、本当に山って感じだな」
田中「だな」
桑田「結構いい所じゃねぇか」
後藤「合宿所って、この上なんですか?」
手塚「あぁ、ここ上りきったらすぐだって」
後藤「楽しみっスね〜」
飯島「よし、じゃあ、ここ上りきるのがビリだった奴が、全員に昼飯おごるって事で。よ〜い、スタート!」
   走り出す飯島。
手塚「あ、ずりぃ」
田中「だな」
桑田「負けるか」
後藤「待って下さいよ〜」
   飯島を追って走り出す四人。

○浜辺
   海が広がっている。
   座っている手塚、後藤、田中、桑田。いじけている手塚。
後藤「どこで道間違えちゃったんスかね?」
桑田「どう間違えたら、海に出るんだよ」
田中「だな」
手塚「だから、悪かったって。何度も謝っただろ」
   海を眺める四人。
後藤「で、どうするんスか?」
桑田「どうしようもねぇだろ」
田中「だな」
   立ち上がる手塚。
手塚「えぇい、こうなったら仕方ねぇ。ここでハンドボールの練習やるぞ!」
桑田「あ、開き直りやがった」
後藤「最低っスね」
田中「だな」
手塚「……えぇい、何とでも言え! さっさとボール出して練習だ!」
後藤「ボールって、誰が持ってきたんでしたっけ?」
桑田「確か、ノリだったよな」
田中「だな」
手塚「……で、ノリはどこ行った?」
   周囲を見回す四人。
後藤「いないっスね」
手塚「いつからだ?」
後藤「わかんないっス」
手塚「最後にノリを見たのって、いつだ?」
桑田「昼飯のかかった競争の時に、追い抜いたのが最後かな」
後藤「自分もそうっスね」
田中「だな」
手塚「俺もだ。……って事は、昼飯おごるのが嫌で逃げやがったな、ノリの奴」
後藤「あり得ますね」
桑田「いや、もしかしたら、一人だけペンションに着いたのかもしれねぇぞ?」
田中「だな」

○オフィス街
   くしゃみをする飯島。
飯島「誰か俺の事褒めてるな? それにしても……」
   多くのビルを見上げる飯島。
飯島「どこで道間違えちまったんだろうな」

○浜辺
   座っている手塚、後藤、桑田、田中。潮の満ち引きを眺めている。
後藤「癒されますねぇ」
桑田「癒されるな~」
田中「だな」
   かけ声が聞こえてくる。
手塚「? 何だ?」
   遠くから走ってくる高校生の一団。皆背中に「田所高校 送球部」と書かれたジャージを着ている。
後藤「送球部……って何スかね?」
手塚「知らねぇし、興味もねぇよ」
田中「だな」
桑田「おいおい。送球ってのは、ハンドボールの和名だぞ?」
後藤「そうなんスか? 初耳っス」
田中「だな」
手塚「え……ハンドボールやる高校生なんて居んのか?」
桑田「聡太にとってハンドボールってどんな扱いなんだよ」
手塚「ふふふ、ライバルか。ならば仕方あるまい。少々不本意だが、若い芽は早いうちに潰させてもらおう。野郎ども、殴り込みだ!」
後藤「はい!」
田中「だな」
桑田「……あ〜あ、知らねぇぞ?」

○田所高校・ハンドボールコート
   「40 ー 0」と表記されたスコアボード。

○浜辺(夕)
   座っている手塚、後藤、桑田、田中。涙を流す手塚。
手塚「……アイツら、アレか? 全国屈指のハンドボールエリートって奴らか?」
桑田「いや、県でベストエイトにも残らないって言ってたぞ?」
手塚「……。じゃあ、試合経験の差か。さすがレギュラー選手は試合慣れして……」
後藤「あれ、全員一年生だって言ってませんでしたっけ?」
田中「だな」
手塚「……」
桑田「まぁ、現実なんてそんなもんさ」
田中「だな」
後藤「ですね」
   おもむろに立ち上がる手塚。
手塚「おいおい、何でそんな冷静なんだよお前らは。こんな負け方して、悔しくねぇのか? 焦りはねぇのか?」
後藤「ないっスね」
田中「だな」
桑田「俺らなんて、遊びに毛が生えたようなもんだからな」
手塚「そんな事言ってたら、プロになれねぇぞ? 就職できねぇぞ? 就職浪人になっちまうぞ?」
桑田「……あれ、言ってなかったっけ?」
手塚「何を?」
桑田「俺と田中は、もう内定貰ってんだよ」
手塚「……は? いつ?」
桑田「ハンドボールの練習始めて、すぐだったよな?」
田中「だな」
手塚「何で言わねぇんだよ」
桑田「悪ぃ悪ぃ、言ったと思ってた」
手塚「……後藤。お前は内定まだだよな?」
後藤「当たり前じゃないっスか。自分の就職活動は来年からっスよ」
手塚「そうだった……。でも、さすがにノリはまだだよな?」
田中「だな」
手塚「良かった〜」
桑田「だってアイツ、留年すんだろ?」
手塚「え?」
桑田「単位が絶望的に足りなくて、もう決定なんだってよ」
後藤「だから来年は、自分と同学年っス」
手塚「……じゃあさ、後がねぇのって、ひょっとして俺だけなのか?」
田中「だな」
後藤「まぁ、何とかなりますって」
桑田「真面目に就職活動した方が早いと思うけどな」
手塚「……うわぁぁぁぁぁぁ!」
   走り出す手塚。
後藤「青春っスねぇ」
田中「だな」
桑田「放っといて、帰ろうぜ」
   立ち上がる後藤、桑田、田中。

○大学・グラウンド
   誰もいない。

○同・廊下
   歩いている飯島。周囲に人がいない事を確認し、ジャンプシュートの動きをする。しかしジャンプした所で人が歩いてきたため、頭を掻いてごまかす。
   T「(LINEの文字で)結局、ハンドボールってどうなったん?」

○同・教室
   他の生徒らとともに講義を受けている後藤。教科書の内側にハンドボールの本を挟んで読んでいる後藤。
   T「(LINEの文字で)何か自然に解散してる雰囲気っスよね」

○田中邸・キッチン
   料理をしている田中。冷蔵庫を開けると、ボウルに入ったハンドボール用ボールが入っている。取り出し、部屋の隅に持っていくと、そこにはカゴいっぱいのハンドボール用ボールがある。
   T「(LINEの文字で)だな」

○アパート・外観
   ボロアパート

○アパート・手塚の部屋・前
   ドアをノックする桑田。反応はない。
表札に書かれた「手塚」の文字。
   T「(LINEの文字で)言い出しっぺの聡太がいねぇしな」

○大学・グラウンド
   ジャージ姿でやってくる桑田。
   T「(LINEの文字で)……で、どうする? 俺たちだけでもやる?」
   ジャージ姿でやってくる飯島、後藤、田中。
   T「(LINEの文字で)自分はやりたいっス」
   T「(LINEの文字で)やるか」
   T「(LINEの文字で)だな」
    ×     ×     ×
   キャッチボールをする飯島、後藤、田中、桑田。
飯島「聡太、家にもいなかったのか?」
桑田「あれ以来、大学にも来てねぇし……」
後藤「スマホも繋がらないんスよね」
田中「だな」
飯島「自分だけ後が無いからって、そんなにショック受けるか?」
桑田「まぁ、世の中には留年するのに全くショックを感じない奴も居るけどな」
後藤「大丈夫っスかね? 手塚先輩は結構メンタル弱いっスよ?」
田中「だな」
飯島「放っとけ放っとけ。そのうちケロっとして出てくるって」
桑田「いや、わかんねぇぞ。案外……」

○(イメージ)アパート・手塚の部屋・中
   電気の付いていない部屋。ゴミ箱に捨てられたスーツ。破かれた「目指せプロハンドボーラー」と書かれた紙。
   ベッドに横になる手塚。抜け殻のような雰囲気。
   インターホンが鳴るが動かない手塚。
   電話が鳴るが動かない手塚。
   無視するように毛布をかぶる。

○大学・グラウンド
   キャッチボールをする飯島、桑田、後藤、田中。
桑田「……ってな感じだったりして」
飯島「何て言うか、無難な予想だよな」
後藤「一次で落とされそうな感じっスよね」
田中「だな」
桑田「一次、って何のだよ」
飯島「よし、後藤。手本を見せてやれ」
後藤「そうっスねぇ、例えば……」

○(イメージ)神社
   参拝する手塚の元に現れる仙人(60)。
仙人「我が名はハンドボール仙人である」
手塚「仙人様!」
    ×     ×     ×
   階段をダッシュで駆け上がる手塚と、それを見守る仙人。
    ×     ×     ×
   懸垂をする手塚と、それを見守る仙人。
    ×     ×     ×
   木にくくりつけたゴムチューブで腕力を鍛える手塚と、それを見守る仙人。
    ×     ×     ×
   杖を手塚に渡す仙人。
仙人「頑張った其方には、この伝説の杖を託そう」
手塚「ありがとうございます、仙人様!」

○大学・グラウンド
   キャッチボールをする飯島、桑田、後藤、田中。
後藤「……こんな感じでどうっスか?」
桑田「誰だよ、その仙人。何だよ、あの杖」
後藤「あれ、でも募集要項にファンタジーがダメとは書いてなかったっスよね?」
田中「だな」
桑田「募集要項、って何のだよ」
飯島「よし、次は田中の予想だな」
田中「……」

○(イメージ)キャバクラ(夜)
   多数のキャバクラ嬢に囲まれる手塚。
手塚「へへっ、もうどうともなれってんだ。(キャバクラ嬢達に)ほれほれ、みんな飲め、遊べ、踊れ〜!」
   盛り上がる一同。

○大学・グラウンド
   キャッチボールをする飯島、桑田、後藤、田中。
田中「……だな」
飯島「何か……羨ましいな」
後藤「自分も、アッチの役が良かったっス」
桑田「役、って何のだよ」
飯島「ただ確かに、ハメ外した時のあいつはそれくらいやりかねないよな」
後藤「でも田中先輩と違って、手塚先輩ってかなり貧乏生活してましたよね」
田中「だな」
飯島「よし。じゃあ、最後は俺の番だな」

○(イメージ)アパート・手塚の部屋・中(夜)
   わら人形に五寸釘を打ち込む手塚。わら人形には桑田の写真が貼ってある。

○大学・グラウンド
   キャッチボールをする飯島、桑田、後藤、田中。
飯島「こんな所かな」
後藤「いや~、コレは……BPO的にマズいんじゃないっスかね?」
田中「だなあ」
桑田「BPOって何の関係が……もういいや。っていうか、何で俺だけ恨まれてんだよ」
後藤「まぁ、それは仕方ないっスよね」
田中「だな」
桑田「え、そうなの?」
飯島「それはそれとして、だ。一番予想が近かった奴がみんなに昼飯奢ってもらえるって事で、どうだ?」
後藤「いいっスね」
田中「だな」
桑田「どうやって確かめんだよ」
飯島「行くんだよ。聡太ん家に」

○アパート・外観

○同・手塚の部屋・前
   ドアの前に立つ飯島、桑田、後藤、田中。
   ドアをノックする飯島。
飯島「おい、聡太。出てこいよ」
   反応がない。
桑田「だから、居ねぇって言ってんだろ」
飯島「仕方ないな。中入るぞ」
後藤「どうやるんスか?」
飯島「頼むぞ、田中」
田中「だな」
   鍵を取り出し、ドアを開ける田中。
桑田「何で鍵持ってんだよ」
飯島「作ったからだよな」
田中「だな」
後藤「さすがっスね、田中先輩」
飯島「田中家秘伝の粉、なめんなよ」
   部屋の中に入って行く飯島、後藤、田中。
桑田「……田中家って、何者なんだ?」
   部屋の中に入って行く桑田。

○同・同・中
   部屋に入ってくる飯島、後藤、田中、桑田。室内には他に誰もいない。
後藤「いないっスね」
田中「だな」
桑田「どっかに隠れてんじゃねぇか?」
飯島「いや、それはない。(玄関を指して)聡太がいつも履いてた靴がないからな」
田中「だな」
飯島「加えて室内のホコリの量。おそらく一週間以上、誰もここを通ってねぇだろう」
後藤「さすがノリ先輩。鋭いっスね」
飯島「つまり聡太は一週間以上、この部屋に戻っていないって事になる」
桑田「ノリって、そんなキャラだったか?」
飯島「あるいは……もうこの世にはいねぇのかも……」
後藤「え、そんな……」
桑田「まぁ、覚悟はしておいた方がいいかもしれないな」
田中「だな」
   玄関に立つ長髪&無精髭姿の手塚。
手塚「勝手に殺すな」
飯島&桑田&後藤「出た〜〜〜!?」
    ×     ×     ×
   テーブルを囲んで座る手塚、飯島、後藤、田中、桑田。手塚の姿は元通り。
飯島「で、聡太。今まで何してたんだ?」
桑田「大学にも来ねぇで」
後藤「そうっスよ。心配したんスよ?」
田中「だな」
手塚「……お前らのせいだろうが」
桑田&後藤「え?」

○(回想)浜辺
   走っている手塚。
手塚「うわぁぁぁぁ!」
   立ち止まり、息を整える手塚。
手塚「……あれ、みんなは?」
   周囲を見回す手塚。誰もいない。
手塚「っていうか、ここどこ?」

○アパート・手塚の部屋・中
   テーブルを囲んで座る手塚、飯島、後藤、田中、桑田。
手塚「スマホもバッテリー切れちまったから、連絡とれねぇし、現在地もわかんねぇし、そもそもあの場所にどうやって行ったかもよくわかってなかったし……」
桑田「ちょ、ちょっと待って。じゃあ聡太はあれからずっと道に迷ってただけって事なのか?」
手塚「悪ぃかよ」
飯島「何だ、全員はずれか」
田中「だな」
手塚「何だよ、はずれって」
後藤「自分たち、手塚先輩が落ち込んじゃったのかと思って心配してたんスよ。ほら、後がないのって先輩だけじゃないっスか」
手塚「まぁ、そう考えてた時もあったな」

○(回想)山道
   無精髭姿でトボトボと歩く手塚。
手塚の声「でも、道に迷ってた数日間、俺は一人で考えた」
   風で飛ばされてきたチラシが手塚の足に引っかかる。チラシを手に取る手塚。表情がみるみる明るくなる。
手塚の声「そして、俺は気付いたんだ」

○アパート・手塚の部屋・中
   テーブルを囲む手塚、飯島、桑田、後藤、田中。立ち上がる手塚。
手塚「俺はハンドボールが好きだ!」
   立ち上がった拍子に手塚のズボンのポケットから落ちるチラシ。チラシに気付き、拾ってテーブルの上に広げる桑田。
桑田「ん?」
手塚「就職できればどんな仕事でもいい訳じゃねぇ。ハンドボールがやりたいんだ!」
   かわいらしいアイドルが全面に写り、「頑張れハンドボーラー」「埼玉ハリケーンラビッツ公式サポーター」等と書いてあるチラシ。
手塚「お前らがどうとか知ったこっちゃない。俺がなりたいんだ、ハンドボーラーに!」
桑田「……動機がどんどん不純になっていってねぇか?」
   立ち上がる飯島、後藤、田中。
飯島「俺もやるぜ、ハンドボール!」
後藤「自分だって、別に辞めるなんて一言も言ってないっスからね!」
田中「だな!」
桑田「どいつもこいつも」
手塚「よ〜し、早速練習だ〜!」
飯島&後藤「おう!」
   部屋から出て行く手塚、飯島、後藤、田中。
桑田「(チラシを見ながら)でもまぁ、確かに、かわいいな」
   手塚たちに続く桑田。

○神社
   参拝する手塚、飯島、桑田、後藤、田中。
手塚「プロテストに合格できますように!」
    ×     ×     ×
   階段を駆け上がる手塚、飯島、桑田、後藤、田中。
手塚「うおおおお!」

○(夢の中)同
   杖を飯島に渡す仙人。
仙人「頑張った其方には、この伝説の杖を託そう」
手塚「ありがとうございます」

○大学・教室
   立ち上がる手塚。
手塚「ハンドボール仙人様!」
   講義中の教室。手塚の周囲に飯島、桑田、田中が座り、他の生徒も多数いる。笑われる手塚。
手塚「……すみません」
   恥ずかしそうに席に座る手塚。

○大学・グラウンド
   集まる手塚、飯島、後藤。
手塚「あれ、今日はこれだけか?」
飯島「本当だ、田中達がいないな」
後藤「二人とも今日は内定者研修って言ってましたよ」
手塚「何!? くそっ、アイツら!」

○アパート・手塚の部屋・中(夜)
   わら人形に五寸釘を打ち込む手塚。わら人形には桑田の写真が貼ってある。

○大学・グラウンド
   集まる手塚、飯島、後藤、桑田、田中。体調の悪そうな桑田。
後藤「先輩、どうしたんスか?」
桑田「いや、何か腹の調子が……」
飯島「じゃあ、今日は練習止めてパーッと息抜きでもするか」
田中「だな」
手塚「息抜きって何だよ」
飯島「そりゃ……」

○キャバクラ(夜)
   多数のキャバクラ嬢に囲まれる手塚、飯島、後藤、田中。
手塚「(キャバクラ嬢達に)ほれほれ、みんな飲め、遊べ、踊れ〜!」
   盛り上がる一同。

○アパート・手塚の部屋・前
   ドアの前に立つ柄の悪そうな男。
柄の悪そうな男「おい、手塚さんよう。借りたもんは返すんが礼儀だろ?」

○同・同・中
   電気の付いていない部屋。
   ベッドに横になる手塚。
柄の悪そうな男の声「おい、居るんだろう? 出てこいよ!」
   インターホンが鳴っても電話が鳴っても動かない手塚。
手塚「もう少しの辛抱だ。明日のプロテストにさえ合格すれば、合格すれば〜!」
   毛布をかぶる手塚。

○体育館・外観
   「埼玉ハリケーンラビッツ プロテスト会場」と書いてある。

○同・駐車場
   ジャージ姿で立つ手塚。体育館を見上げる。
手塚「やるだけの事はやった。後は運を天に任すのみ」
飯島の声「お〜い、聡太〜」
   手塚の元にやってくる飯島、桑田、後藤、田中。全員スーツ姿。
飯島「いよいよだな。血湧き肉踊るぜ」
後藤「自分も緊張して、昨日は一睡も出来ませんでしたよ」
田中「だな」
桑田「まぁ、なんだかんだ言って、こんなバカできんのも最後だしな」
手塚「最後じゃねぇよ。絶対に合格してみせる。合格すれば、晴れて就職だ!」
後藤「年俸五百万、契約金一千万っスね!」
飯島「おまけにあのアイドルと付き合える!」
田中「だな」
桑田「いや、それは無理だろ」
手塚「絶対合格するぞ〜!」
飯島&後藤&桑田「おう!」
飯島「よっしゃ、行くぜ!」
   体育館に向かって歩き出す飯島、桑田、後藤、田中。立ち止まり、四人の服装を見る手塚。
手塚「ところでお前らさ、何でスーツ着てる訳?」
飯島「そういう聡太こそ、何でジャージなんだよ」
後藤「確かに、服装については書いてありませんでしたけど、基本はスーツっスよね」
田中「だな」
手塚「話が見えねぇな」
桑田「……まさかとは思うけど、知らねぇ訳じゃねえよな? これ」
   手塚が最初に持ってきたチラシを見せる桑田。「一次テスト 面接」と書いてある。
手塚「め、め、め、面接〜!?」

○体育館・面接室
   ガチガチに緊張した面持ちで椅子に座るスーツ姿の手塚。
   手塚の正面に座る面接官二人。
面接官C「では、志望理由をお願いします」
手塚「(うわずった声で)は、はい、手塚聡太、22歳です!」

○オフィス街
   並んで歩く飯島、桑田、後藤、田中。
   その後ろをうなだれながら歩く手塚。
手塚「終わった……就職が……プロが……借金が……アイドルが……」
飯島「まぁ、そう落ち込むなって」
後藤「そうっスよ。全員ダメだったんだから仕方ないじゃないっスか」
田中「だな」
桑田「まぁ、今度はちゃんと真面目に就活するんだな」
   ため息をつく手塚。風で飛ばされてきたチラシが手塚の足に引っかかる。チラシを手に取る手塚。表情がみるみる明るくなる。
手塚「これだ!」
   走り出す手塚。
手塚「お〜い、みんな〜!」
   地面に落ちているチラシ。「埼玉県プロハンドベースボールリーグ設立!」
   「プロ選手公募テスト開催決定!」の文字。
                  (完)

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