愛こそはすべて ドラマ

長い夫婦生活に倦怠気味の陽子と尾野。福引で宿泊券を当てたことから24年振りに軽井沢にやって来る。万平ホテルの喫茶室に入った2人は、そこでジョン・レノンと相席となる。
kaz_fey 3 0 0 02/01
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第一稿

「愛こそはすべて」

 人 物

尾野陽子(47)薬局受付事務員
尾野丈治(48)会社員
ジョン・レノン(40)
老従業員


○白樺の木立(朝)

枝に一 ...続きを読む
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「愛こそはすべて」

 人 物

尾野陽子(47)薬局受付事務員
尾野丈治(48)会社員
ジョン・レノン(40)
老従業員


○白樺の木立(朝)

枝に一羽の小鳥が止まる。ダイアモンドの瞳。

薄い霧の向こうから流れてくる音楽に合わせ、その小鳥は歌い出す。

小鳥「愛こそはすべて。愛こそはすべてさ」

○尾野家・リビング(夜)

ソファに座る尾野丈治(48)。

窓際のチェストには写真立て。三角屋根の木造教会を背に微笑む若い新郎新婦の写真。

○同・キッチン(夜)

尾野陽子(47)が食器を洗う。

足元に擦り寄る猫を抱え上げて頬擦りをする。

陽子「夫婦は、こうやって会話もなく空気みたいになっていっちゃうんでしゅかね?」

猫は耳を平たく後ろに向けて迷惑そう。

○同・寝室(夜)

ナイトテーブルを挟んでベッドが2つ。陽子が寝ている。

尾野が暗い部屋にやって来て布団に入る。

猫が尾野の布団に飛び乗り、尾野の顔を覗き込む。

尾野「夫婦ってのは何なんだろうね?猫よ」

猫は向きを変え尾野の顔に尻を向ける。

○薬局受付

カウンター内で椅子に座っている陽子。隣に座っている同僚に話している。

陽子「何ていうのかなぁ。決して夫婦仲が悪いって訳ではないんだけど……」

○定食屋・中

スーツ姿の尾野が同僚に話している。

尾野「何がどうって訳じゃなくて、でも夫婦の間で何かがズレてるって感じてる訳よ」

○薬局受付

陽子、薬を受取に来た患者に番号札を渡しながら同僚に向かって話を続ける。

陽子「大切な何かを見失なってるって感じ?うん。何か、そんな気分」

○デパート・化粧品売場(夕)

会計を済ませる陽子。お釣り、レシートと一緒に福引券を手渡される。遠くからハンドベルの音が聞こえてくる。

○同・福引所(夕)

液晶画面のルーレットが回っている。陽子が停止ボタンを押す。

ルーレットが止まり二等を表示。壁には「二等 軽井沢万平ホテル宿泊券」の文字。

○尾野家・リビング(夜)

ソファでだらしない尾野。

陽子が話し掛けるが、尾野は気のない相槌を打つ。

陽子「そうだ。福引で軽井沢のホテル宿泊券が当たったんだけど」

尾野、初めて声に出して返事をする。

尾野「スゴイじゃん」

陽子「だから恵理ちゃんでも誘って行って来ようかなって思ってるんだけど」

尾野「えっ、何で?俺行きたいよ」

陽子「えっ、そうなの?誰と?」

尾野「誰とって……」

尾野、やれやれといった表情。

○万平ホテル・外観

白い漆喰の外壁。格子上に配置された炭色の柱がアクセントになっている。欧州の山々の由緒正しいロッジのようなクラシカルなデザインの洋風木造建築。車止めにせり出した屋根の下には『MANPEI HOTEL』の看板。

○同・正面入口前

車止めに1台のタクシーが停まる。

中から陽子と丈治が降りて来る。

尾野「軽井沢かぁ、久し振りだよなぁ」

陽子「結婚式以来だから24年振り?、でも当時の私達じゃ敷居が高すぎて、こんな老舗のホテルなんて来れなかったよね?」

ホテル入口を背に景色を見る陽子。

中庭に手入れの行き届いた赤松。

ダイアモンドの瞳を持つ小鳥が枝に止まる。

陽子「チェックインまで少し時間あるから、荷物預けて、そこでお茶飲んで休もうよ」

○同・喫茶室前・廊下

赤絨毯。高い天井。

落ち着きのある色味の椅子や調度品が品良く並ぶ。

陽子と尾野は汗をかいたガラスのショーケース前で従業員の案内を待つ。

老従業員「万平ホテルへようこそ」

老紳士の趣きを持つ従業員が2人を窓際の席に案内する。

誰もいない店内。

○同・喫茶室・中

窓越しに中庭を眺める陽子と尾野。

外は薄い霧が立ち込めている。

老従業員がトレーを持ってやって来る。

老従業員「お待たせ致しました。ロイヤルミルクティーでございます」

呆気に取られる陽子と尾野。

尾野「注文したっけ?」

陽子「私してないけど?」

テーブルに2客のティーカップを置き、老従業員が2人に告げる。

老従業員「こちらの方がご相席となります」

尾野「ご相席?俺達しか客がいないのに?」

陽子と尾野、怪訝そうな表情。

老従業員の背後からジョン・レノン(40)が姿を見せる。

銀色の丸縁眼鏡を高い鼻に引っ掛け、穏やかな笑顔。

ジョン「ハイ、ヨーコ、ジョージ。そのミルクティー僕がホテルにレシピを教えたんだ」

陽子、一瞬の間を空けて笑い出す。

陽子「すっごい!そっくりじゃん」

尾野「えっ?あぁー、そういうこと?」

陽子「本物そっくり!すごい!」

尾野「老舗ホテルも、最近はヤルもんだね!」

尾野も一緒になって笑い出す。

 ×   ×   ×

打ち解けて会話している3人。

陽子「じゃあ、ジョンに質問ね?」

ジョン「何だい?ヨーコ」

陽子「ジョンは、っていうかビートルズでも良いけど、何で愛に関する楽曲が多いの?」

尾野「彼女、ビートルズ大好きなんですよ」

陽子「(笑って)特にジョンが」

ジョン「そうなんだ、それは光栄だよ。そう、愛に関する歌が多い理由だっけ?単純な事さ。だって世界は愛で出来てるんだから。人の組み合わせの数だけ愛には種類があるんだ。それこそ無限だろ?だから愛を避けて歌うことの方が逆に難しいって訳さ」

陽子「すごい!本物のジョンが言いそう」

ジョンは笑みを絶やさずに話を続ける。

ジョン「全ての愛はオリジナルでハンドメイドなものなんだ。そこらの店で売ってたりはしない。そうだろ?だからこそ『愛はお金じゃ買えない』のさ」

陽子「上手いなー、ジョン。はい、『キャント・バイ・ミー・ラブ』頂きました!」

ジョン「僕が最後に愛した女性と出会ったのはロンドンでの彼女の個展だったんだよ。天井に梯子がかかっていて『何だろう?』って近付いてもまだ真っ白でね。ルーペで見たら『YES』って書いてあった。その瞬間、僕の中に彼女への愛が芽生えたんだ」

陽子「うんその話は知ってるよ、ジョン。私もね、彼が私の事好きだって言い寄ってきた時、彼女の真似して便箋に『YES』って小さく書いて返信したくらいだから」

陽子、笑う。尾野もつられて笑う。

尾野「マニアック過ぎて最初『何だこれは?』って思ったよ。だって当時の俺は、そんなエピソードなんて知らなかったんだから」

尾野が陽子を見る。ジョンが微笑む。

 ×   ×   ×

陽子「楽しかったー。じゃまたね、ジョン」

喫茶室を出ていく2人。見送るジョン。

彼の身体が砂時計の砂の様にサラサラと零れて消えていく。

全てが消える直前、一瞬キラっと光り、ダイアモンドの瞳をした小鳥が現れる。

小鳥は窓の外に飛び出す。

中庭を抜け、薄霧が煙る白樺の林を眼下に、空へと消えていく。

○同・128号客室・中

ドアが開き、陽子と尾野が入って来る。

陽子はバスルームへ。

尾野は部屋の窓辺で景色を眺める。

陽子、バスルームから尾野に話し掛ける。

陽子の声「それにしてもジョン。似てたよね」

尾野「あれはスゴイよ。ジョンそのものだよ」

陽子の声「来て来て。バスタブが猫足だよ!」

尾野がバスルームにやって来る。

尾野「老舗ホテルはこういう処がお洒落だね」

陽子「来て良かったねー」

無邪気に嬉しそうな陽子。

陽子を見ている尾野、しばらく間を空けて言う。

尾野「あのさぁ」

陽子「ん?」

尾野「久し振りに、お風呂一緒に入ろっか?」

陽子、尾野を見て思わず吹き出す。

尾野「(照れながら)えっ?そんなに笑う?」

陽子「(笑って)いや、違う違う」

尾野「あっ、別にエッチな気持ちから言ってる訳じゃないからなー」

陽子「(笑って)ゴメンゴメン。いや、そう来るのかって思って。全く予想外だったから」

尾野「さっきまでジョンと話してたからだよ」

陽子「(笑いながら)ソックリさんだけどね」

陽子、笑いを必至で抑え、尾野に言う。

陽子「その単純さも確かに『愛』だよ。うん」

陽子、息を整えて笑いを鎮め、改めて尾野を見つめる。

我慢するものの耐えきれずにまた吹き出し、笑い始める。

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