安らぐ死を ドラマ

少女が末期の癌(余命半年)で闘病していたが、闘病生活が苦しく、体調も死にそうなぐらい辛い。その彼女が楽になりたいと主人公に懇願する。最初はそれを素直に対応できないでいるが、彼女の闘病生活を見て、辛い姿も何度も見ていると楽にさせてあげたいと思い始める。両親も彼女がそう望むならば、尊重してあげたいと告げる。主人公は実行するかどうか悩む。
こたろう 3 1 0 02/01
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第一稿

 人 物
野田幸雄(45)福知山病院医者
雪城春(17)末期の癌患者
春の父
春の母
近所の人
近所の人達
看護師

○福知山病院・医局室前(夜)
   扉の隣 ...続きを読む
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 人 物
野田幸雄(45)福知山病院医者
雪城春(17)末期の癌患者
春の父
春の母
近所の人
近所の人達
看護師

○福知山病院・医局室前(夜)
   扉の隣に「野田」と記載の名札がある。

○同・医局室内(夜)
   暗闇の中、ポツンとデスク周りに明かりがついている。
   机上に日めくりカレンダー。九月十九日と記載。
   野田幸雄(45)、席に座りながら、手に持った注射器の針の先を見つめている。注射器には
   薬液が入っている。
   野田、虚ろな目で、
野田「これを腕に刺して、薬剤を注入するだけで人は簡単に死んでしまう。なんて、脆いんだ」

○(回想)同・個室内(昼)
   点滴が一滴一滴落ちていく。
   ベッドに雪城春(17)。春の腕を手に持つ野田。右手には注射器。
野田「モルヒネを打つから、じっとしとていてね」
   春、虚ろな目で野田を見つめ、小さく頷く。
   野田、春の腕に注射針を刺し、薬剤を注入する。
春「先生、その中のものが致死性の毒薬だったら、私、楽になれるのかな?」
   野田、驚く。注射針を抜いて、ガーゼで患部を押さえる。
野田「な、何を血迷ったこと言っているんだ。まだ諦めたらいかんよ」
春「知っているんだよ、私長くないんでしょう?」
   野田、歯を噛みしめる。
春「言わなくてもいいですよ。ずっと前から死ぬ覚悟はできていますから」
   野田、落ち着きが戻る。
野田「安楽死を望んでいるということかい?なら、私は反対だ」
春「なぜ?」
野田「医者は神ではない。人の生死を決めることはおこがましい。そのため、安楽死はするべき
 ではない」
   静かな時間が過ぎる。
   春、目を閉じる。ひと呼吸を入れ、
春「死ぬのは怖いですよ。でも、生きているのが辛くて、楽になれないとわかったとき、生きる
 のが怖くなるんです。死ぬことよりも。だから、死を受け入れてしまう。でも、これは悪いこ
 とではない。自然な感情だと思う。だって、死ぬことは、次の命の礎なんだから」
   (回想終了)

○同・医局室内(夜)
   野田、目を閉じ、注射器を腕に刺す真似をする。
   野田、ハッと目を開け、注射器を後ろに投げ捨てる。ハァハァと息を上げる。
   野田、両手で髪をぐしゃぐしゃとする。

○同・廊下(昼)
   父と母、暗い顔でとぼとぼと歩く。

○同・応接室前(昼)
   父と母、野田の前で止まる。
   野田、会釈する。
野田「お忙しいところ、恐れ入ります」
   父と母、会釈する。
父「とんでもない。急な話とは?」
野田「話は中で」
   野田、扉を開ける。
   野田、父と母を中へ先に行かし、その後に入る。

○同・応接室内(昼)
   父と母、隣通しに座り、向かいに野田が座っている。
父「お話というのは?」
野田「実は…昨日春さんが私にお願いをしてきたんです」
母「お願いとは?」
野田「(口籠る)それは…春さんが安楽死を望んでいるようです。私としては反対ですが、お父
 様お母様のご意見も伺いたいですが…いかがでしょうか?」
   母、涙を流し、口元をハンカチで押さえる。
   父、母の肩をそっと抱く。
   ☓   ☓   ☓
母、静かに口を開く。
母「私は春がこれ以上、苦しむ姿を見るのは辛いです。春が望んでいるのであれば、尊重しま
 す」
父「私も同意見です」
   野田、俯き、苦い顔。
野田「(顔を上げ)そうですか…。先程も春さんにも伝えましたが、私は反対です。病気を治せ
 たらどんなにいいだろうか。医者は万能ではない。ただ、これだけは言えます、医者は生死を
 簡単に操っては人の道理から外れてしまいます。道理を外れてまで、人に笑顔を与えてはいけ
 ないんです」
母「そうでしょうか?私はそうは思いません。安楽死という選択肢は春にとって、それだけで希
 望なのです。一瞬でも明るい未来が待っていると思います。だから、安楽死は希望を持つこと
 ができるので、道理から外れていないと思いますよ。それに春は死ぬのではなく、笑顔で私達
 の中で生き続けますので」
   野田、何度も唸るように小さく唸る。
野田「一晩考えさせてください…」
父「(小さく)わかりました」

○同・医局室内(夜)
   暗闇の中、ポツンとデスク周りに明かりがついている。
   机上に日めくりカレンダー。九月二十日と記載。
   野田、席に座りながら、手に持った注射器の針の先を見つめている。机の上に笑顔の春と
   微笑む野田の写真がある。
   野田、注射針と写真をゆっくり交互に目線を移す。そして、天井を見上げる。

○同・春の個室前(朝)
   父と母、歩いてくる。
   父、扉を開こうとしたとき、野田が話しかける。
野田「お父様、お母様」
   父と母、振り返る。
父と母「先生、おはようございます」
野田「おはようございます。昨日の事なんですが…」
   父と母、固唾を飲んで見守る。
野田「聞かれては行けない話なので、中で」
   野田、中へ誘導するように腕の先を中へ向ける。
父「はい…」

○同・春の個室内(朝)
   春、苦しい表情で寝息を立てている。
   野田、決心した表情で、
野田「春さんの選択肢を尊重して、安楽死の選択肢を受け入れましょう」
   母、涙を流す。
父と母「(深くお辞儀)はい…お願いします」

○同・春の個室前(朝)
   おばちゃん、取手を握ろうとする。
野田の声「…安楽死の選択肢を受け入れましょう」
おばちゃん「安楽死?」
   おばちゃん、聞き耳を立てる。

○同・春の個室内(朝)
母「(深くお辞儀)辛いご決断をさせてしまい、申し訳ございません」
野田「私は春さんの担当です。春さんを新しい場所に送り届ける義務があります。今まで拒んで
 きましたが、人の死はマイナスのイメージでしたが、そうではありません。新しい道へ送る意
 味もあると気づきました」
   母、ハンカチで涙を拭き、
母「良い考えだと思います」
野田「ありがとうございます。では、準備をしますので、今すぐはできません。明日、処置致し
 ます。春さんと最後の挨拶を」
   父と母、深くお辞儀。

○同・春の個室前(朝)
   おばちゃん、驚き、扉から離れる。
おばちゃん「ま、まずい…春ちゃんが…」
   おばちゃん、走り出す。

○同・医局室内(朝)
   野田、机上の日めくりカレンダーを一枚破り捨てる。九月二三日と記載。そして、机のケ
   ースに薬剤が入った注射器を置く。
   強く、扉が開かれる。看護師、慌てて入ってくる。
看護師「先生、大変です、外で町の人達が…」
野田「どうしましたか?」
看護師「兎に角、こちらへ来てください」
   野田、駆け足で看護師の後を向かう。

○同・玄関前(朝)
   「野田は殺人者」「悪徳医者を追放」と記載の立て看板を手に持つ町の人達。
   おばちゃんの後ろに町の人達がドシッと構えている。
おばちゃん「(大声)春ちゃんを殺すな」
町の人達「(大声)そうだ、そうだ」
おばちゃん「(大声)野田は犯罪者だ」
   野田と看護師、自動ドアから飛び出す。
野田「な、なんだ!?」

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