安藤「んくんくんく、ふぅ……なあんかすっきりしないな」
篠崎「わ、あ、安藤先輩もコーヒーブレイクですか?」
安藤「ん?あなたは……篠崎君。ええ、まあ」
篠崎「お、お疲れ様です。なんか、返事、歯切れ悪いですね」
安藤「なんか最近、疲れが取れなくてね」
篠崎「へえ、疲れ……ですか。今忙しいんですか?」
安藤「そんなことないんだけどね。寝つきが悪いのかしら」
篠崎「仕事は忙しくなく、でも疲れて、疲れがとれない。ですか」
安藤「まるでおばさんね」
篠崎「いや、そんなわきゃないでしょう」
安藤「あら、ありがと」
篠崎「……あの、先輩。呪い(まじない)って、信じます?」
安藤「まじない?って、ブレスレットとかパワースポットとか?ん~、あんまり」
篠崎「あちゃ。少し試してみたい事があるんです」
安藤「ていうと?」
篠崎「先輩の肩辺りになんかもやが見える気がするんですよ」
安藤「もや?……あ~、私には見えないんだ?」
篠崎「はい。オレの家系が魔術や呪術が扱える家系なんですけどね。おかげで昔っから人には見えないものが見えるんです」
安藤「ん~、でもねー」
篠崎「もちろん無理にとは言いません。少なくとも先輩に信じる気が無ければこの話も無かったことにしてもらって結構です」
安藤「でもさ、なんでそんな話を私にするの?人によっては、怖がらせる話だよね?」
篠崎「たはは、そうですね。オレが先輩とお近づきになりたかったから。ではダメですか?」
安藤「私と?えっと、それって」
篠崎「お互い、いい大人ですから、察してくれても良いですよ?」
安藤「あ、そうなんだ。……でもそれ、もやの話が嘘だったらタチが悪いよ?」
篠崎「本当は何も言わずに術を使って解決する手もあったんですけどね。でもそこは素通りするその他大勢になりたくなかったというか……」
安藤「ふ~ん。じゃあ試しにお願いしようかな」
篠崎「喜んで」
安藤「私はどうすれば良いの?」
篠崎「そうですね。あまり処置してるとこを見られたくないので、もうちょっと奥に行きましょうか、それでオレに背を向けてください」
安藤「私、襲われる?」
篠崎「全力で我慢します」
安藤「ふ~ん」
篠崎「それじゃ始めます。しばらくぶつぶつ言ってるので、そのままの姿勢でいてください」
安藤「は~い」
篠崎「(普段から持たされてる呪符がこんな形で役立つとはね。しっかし、いざ集中して見てみると、これ、怨念って言うより何だ?酷く歪んだ感情?いたずらとか悪意とか、そんなんじゃねえな。どっちかってーと本来なら尊い感情?……いや、まさか。じゃあなんで)先輩」
安藤「ん?あ、これって喋って大丈夫なの?」
篠崎「本来は集中が切れることはしない方が良いんですけど、今は必要な事判断したので」
安藤「うん、分かった」
篠崎「最近何か変ったことありませんでした?誰か知らない人と話した。とか」
安藤「ん?ん~。あ、あったよ。会社内でだけど」
篠崎「相手、どんな奴だったか覚えてますか?」
安藤「どんな?ん~。なんか、妙に背中丸めてた人だったかな」
篠崎「背中を丸めて……、他はなんかありますか?」
安藤「あ、なんかおもちゃみたいなの持ってた」
篠崎「おもちゃ、ですか?」
安藤「うん。なんか四角くて、白一色みたいな。ちっちゃくてカワイイねって言ったら喜んでたな」
篠崎「背中丸めて、白一色のちっさいおもちゃ持ってる、ウチの社員。か。なるほど、何となく見えてきた気がする」
安藤「その人がどうかしたの?」
篠崎「ちょっとムカツキました」
安藤「へ?何が?」
篠崎「何でもないです。くだらない嫉妬です。じゃ、もやを取り除きますよ」
安藤「は、はい」
篠崎「はあああああ(呪いと呼べる程のモノじゃない。まあ、だからこそ先輩への被害も疲れてるくらいで済んでるんだろう。とりあえず、これで)消えろ!」
安藤「……。終わったの?」
篠崎「はい。試しに両肩を動かしてみてください」
安藤「ん。あ、軽い」
篠崎「あ、ホントですか?」
安藤「うん、ホントホント。マンガやテレビで見たことあったけど、ホントに軽くなるんだ」
篠崎「まあ、例え見えなくても、体の方は何かを感じてるはずですよ。とりあえず、これでひと段落ですね。あとは、あっちの方か」
安藤「どうしたの?」
篠崎「根本原因と特定に行きます。ん?あ、結果が出たか」
安藤「結果?何の?」
篠崎「ロボットコンテストです。デザイン部門に出したんですよ。スマホに通知が来るようになってるんです」
安藤「へぇ~男の子だね~」
篠崎「あの、いくら何でも社会人相手に「の子」は止めてくれません?」
安藤「あはは。ごめん。それで?結果は?」
篠崎「えーと……、ぐはっ」
安藤「んん?その反応は……」
篠崎「落選です。か~~~佳作にすら届かねえ」
安藤「ありゃ~、それは残念だね」
篠崎「いや、もう諦めてます。俺はしょせん落選しかないんだって」
安藤「ええええええ、そんなことは無いんじゃないの?」
篠崎「いや、実感してることがあって、どうにも俺みたいに魔術やなんやら、超常に触れている人間は科学全般に致命的なほど弱いんです」
安藤「そういうもの、てこと?」
篠崎「知り合いの術者なんかは電化製品なんか苦手にしてる人多いです」
安藤「そ、そこまでなんだ」
篠崎「逆にこの最優秀賞取ったやつ。このコンテストの常連で、常に上位キープしてるんですよ。俺もこっちに生まれたかったな~なんて」
安藤「あ、あはは、人生思う通りには行かないもんだね」
篠崎「全くです。……さて、気を取り直して行くか」
安藤「て、今から?もう戻らないとまずくない?」
篠崎「終業の時間来ちゃったら、捕まえられないかもしれませんから」
安藤「は、はあ……」
古河「ふぅ、取れない。一体何なんだ、この手首のあざ」
篠崎「洗って取れるような代物じゃねえよ」
古河「!?誰!」
篠崎「お疲れーッス、名無しのごんべえさん?」
古河「な、名無し?」
篠崎「ああ、仮名だよ。お前の名前、知らねえからな」
古河「そういうあんたは?何だよ」
篠崎「お前の左手首にあるあざ、付けた本人だよ」
古河「!?……一体どうやって……」
篠崎「呪詛返しって、知ってるか?」
古河「じゅ? !?」
篠崎「ふん、思い当たるフシがあるみたいだな」
安藤「じゃあ、この人が?」
篠崎「ええ。先輩にもやを送った張本人です」
古河「先輩? !?」
篠崎「この短い時間で3回の驚き。頂きだな~」
古河「な、なんで、どうして?」
篠崎「たまたまだったけどな。休憩室でばったり。で、お前の呪いを見つけてオレが治した。ってわけだ」
古河「の、のろい?一体何の……」
安藤「一体何のって、キミねぇ……」
篠崎「あ、先輩ちょっと待った。やっぱそう言う反応か」
安藤「どういうこと?」
篠崎「核心を話す前にちょっと確かめたいことがあるんです」
安藤「う、うん」
篠崎「なあ、お前、あ~、名前何?」
古河「あんたこそ……」
篠崎「めんどくさ……。篠崎、篠崎俊哉(しのざきとしや)」
古河「……古河直人(こがなおと)」
篠崎「古河。お前今肌身離さず持ってるモノなんかあるだろ?言ってる意味、分かるよな?」
古河「……これだけど」
安藤「あ、それ」
篠崎「先輩も見覚えあるでしょ?」
安藤「あの時のおもちゃ……」
古河「おも……」
篠崎「そこは一旦スルーしろ。今傷つくのは不要だ」
安藤「あ、あれ?なんかダメだった?」
篠崎「あー、ロボットだと思います」
安藤「え!?あ!ご、ごめんなさい!」
篠崎「えっと、とにかく。それに先輩も触ってたんですね」
安藤「う、うん。ちょっとだけ、だけど」
篠崎「それで十分なんですよ。この古河と先輩の縁(えにし)を作る分には、その縁があれば古河の想いを先輩に届けることが出来る。そんな知恵をどっかから知ったんじゃないですか」
安藤「古河君の想い?」
古河「!?あ、あんた、まさか」
篠崎「どうする?お前の想い。解呪する時点でなんか歪みまくってて、でも感じたのは悪意じゃなかった。どっちかってーと……」
古河「わあああああああああああ!!」
安藤「うわ!?」
篠崎「……予想はしてたけど、あ~、耳いってー。お前さ、一つだけ言っとくぞ。どこでそんなやり方知ったか知らねえけど、使うもん間違えてんだよ」
古河「え?使うもの?」
篠崎「お前が使ったものは、人を呪い殺すための方法だ。お前が望んだはずのものじゃない」
古河「そ、そんな、じゃあ先輩は……」
篠崎「ま、お前に呪う才能が無かったお陰で、先輩は多少の疲労感を感じただけで済んだけどな」
安藤「え?その言い草。私危なかったの?」
篠崎「そうですね……。体が動かない、寝たきり。軽くてもそれぐらいはいってたんじゃないかと」
古河「そ、そんな、じゃあ先輩は僕の事……」
安藤「ん?君の事?」
篠崎「……。ま、推して知るべし……かな」
古河「そ、そんな~~~~~~」
篠崎「ま、一応事件としては片付いたし、呪詛は解呪してやるよ。おら、てぇ出せ。ったく。こんなもんに手ぇ出さずに、そっちの方で名声でも取れば良いだろうが」
古河「ふん、ロボットでどれだけやったところで、リアルが充実するわけじゃないんだよ」
篠崎「あ?」
古河「いくらコンテストで良い賞を取ったところで、現実の僕はネクラだなんだって、陰口叩かれるんだ。でも、先輩は違った。僕の目の前で、僕のロボットと僕を褒めてくれた。……僕がどれだけ救われたか」
篠崎「……。ン?待て、お前今なんつった?」
古河「は?先輩は違った?」
篠崎「いや、その前、賞がどうのって」
古河「コンテストのこと?それが何?」
篠崎「お前、何て名前でロボット出した?コンテストネーム」
古河「○○○○だけど」
篠崎「うっそだろ!お前が、あの!?」
古河「うるっさいな。いきなり何だよ」
篠崎「だってお前、あれだろ?コンテストに出せば上位ランク確定の」
安藤「ああ、篠崎君が羨ましがってた」
古河「え?僕を?」
篠崎「そうだよー。俺なんか万年落選だぜ~。良いなー。その才能欲しいぜ」
古河「な、何?どういうこと?」
安藤「篠崎君、さっきそのコンテストの結果見て当たって砕けたところなのよ」
古河「え?」
篠崎「なあ、教えてくれよ。あんなデザイン、どっから出てくるんだ?」
古河「は?……ふ、ふん。簡単に教えるわけにいかないね。僕だって、それなりに苦労してるんだ」
篠崎「あ~~~、ちくしょう。そうだよな~~企業秘密って奴だよな~~」
古河「ふ、ふん。まあせいぜい頑張るんだね。落選君」
篠崎「この野郎。調子に乗って来やがったな。だけどなあ」
安藤「きゃっ、な、なに?」
篠崎「すいません、先輩今だけ、腰の手許してください」
安藤「え?え?」
篠崎「お前にゃ先輩は渡さねえ!」
古河「な、ぐぬぬ。そんなわけにいくか、僕が奪い取ってやる!」
安藤「ちょ、どういうことよ~~~」
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