青春の消耗 恋愛

水泳部のエースだった室井が事故で泳げなくなってから自分の居場所をなくし、消耗する日々を送ることになり・・・。
林檎の木(PM) 12 0 0 08/17
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第一稿

◯××高校・屋外プール
  真夏の太陽が照りつける中、五人程の水  
  泳部員がホイッスルが鳴ると同時にプー
  ルへ飛び込む。
  飛び上がる水しぶきと、蝉にも負けない ...続きを読む
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◯××高校・屋外プール
  真夏の太陽が照りつける中、五人程の水  
  泳部員がホイッスルが鳴ると同時にプー
  ルへ飛び込む。
  飛び上がる水しぶきと、蝉にも負けない
  程の応援の掛け声。

◯そのフェンス越し
  室井健(17)が水泳部の練習風景を流れ  
  る汗もそのままに、食い入るように見て
  いる。その隣には自転車に跨ったまま、
  アイスの棒を口に突っ込んで興味なさそ
  うにぼーっと見ている小竹祐真(17)。
  小竹、室井の横顔をチラと見て、
小竹「タケちゃんさあ」
室井「(正面を向いたまま)あ?」
小竹「もう泳がないのかあ」
室井「まあ辞めたね」
小竹「もったいないねえ」
室井「何が」
小竹「都大会優勝のエースがさ」
室井「過去じゃん。それにこれが(と目線を
 足元移して)使い物にならないんじゃ、ど
 うにもなんないしね」
小竹「けどもったいないねえ。ほら、去年は
 校舎に『優勝』の横断幕が(手を広げて)
 どどーんと」
室井「勝手に周りがしただけじゃん」
小竹「そうかもだけど」
  室井、再びプールの方へ目を向ける。
  プールから上がった高峰将暉(17)。加
  藤梓(17)が駆け付けて来てタオルを渡
  す。二人は楽しげに会話している。
室井「︙︙」
小竹「あいつらやっぱデキてんのかな?」
室井「(二人から目を逸らし)どうでもいい」
小竹「青春謳歌してんなー。俺らと正反対」
室井「帰るぞ」
    室井、鞄を肩に提げる。
小竹「もし夏休み暇ならさあ、俺の先輩から
 バイト紹介して貰う?」
室井「んー考えとく」
  室井、歩き出す。
小竹「オッケー。(とプールの方を見て)う
 お、ちょ待って。タケちゃん!」
室井「(振り返り)何だよ」
小竹「めっちゃ睨まれてる。あ、こっち来る」
  高峰が室井に気づいてこちらへ来る。
  無言で対面する室井と高峰。
  高峰の方が少し高い位置にいるので、室
  井は見下ろされる形になる。
  小竹、その微妙に重い空気を察して、
小竹「俺、先行ってるね~」
  小竹、ガニ股で自転車を漕いで、蛇行
  運転しながらグラウンドを横切って行く。  
  (練習中の野球部を邪魔しながら)
  高峰、室井を見下ろして、
高峰「そんなところで見てんなら部活来いよ」
室井「辞めたし、それにアレがアレだし」
高峰「泳がなくてもマネージャーとかあるじ
 ゃん」
室井「は? やるわけないじゃん。何でお前
 らの世話しなきゃなんないの。しかも︙︙」
  室井、梓の方を見る。
  梓は部員にドリンクを配っている。
高峰「プライドあるのは分かるけどさ、あん
 なの(と小竹の方を顎でしゃくって)とつ
 るんでても馬鹿になるだけだろ」
室井「それ小竹、可愛そうすぎじゃね? 結
 構いい奴だよ」
高峰「馬鹿は馬鹿だろ」
室井「いいよ俺も馬鹿だし。それにこれから
 は不毛な青春を送るって決めたし」
高峰「何それ」
室井「酒飲んだり、煙草吸ったり、挙句の果
 てに彼女の名前腕に彫ったり」
高峰「逃げるのかよ」
室井「逃げて悪いかよ」
高峰「︙︙」
  そこへ梓がやって来て、
梓「ねえ、さっきから誰としゃべって︙︙」
  梓、室井と目が合う。
梓「健︙︙?」
室井「(逃げるように)じゃーな」
  室井、痛む右足を庇うように足を引きず
  りながら歩き去る。
 タイトルイン『青春の消耗』。

◯室井家・部屋の前(夜)
  パジャマ姿の室井光一(48)が缶ビール  
  を片手に、ドア越しに呼び掛けている。
光一「健く~ん、お風呂入れば~? 健く~ 
 ん?」

◯同・DK(夜)
  ソファーで新聞を読む室井美奈子(45)。
  光一、缶ビールを片手にがやって来る。
光一「ねえ、健のやつ、さっきからお風呂っ
 て言っても下りて来ないんだけど」
美奈子「ほっとけば? 色々考えることがあ
 るんだろうから」
光一「大丈夫かな。あの事故で水泳やれなく
 なってから元気ないみたいだし。それにや
 っぱり歩くと痛むって」
美奈子「鎮痛剤飲んでるんでしょう?」
  光一、ダイニングテーブルの前に腰を下
  ろして、
光一「身体的な痛みはそれでいいかもしれな
 いけど、精神的な方がさ」
美奈子「大丈夫よ。明日から夏休みなんだし、
 ゆっくり休めば時間が解決してくれるって」
光一「また適当な事言うよなあ」
美奈子「心配しすぎなのよパパは」
光一「そうかなあ」
美奈子「思春期は放って置くのが一番」
  光一、うーんと納得いかない様子でビー
  ルをごくりと飲む。

◯同・部屋(夜)
  薄暗い部屋。銀ラックに飾られた優勝ト
  ロフィー。
  室井、勉強机の前に座って水泳ゴーグル  
  を指に引っ掛けてブンブン回しながら、  
  ぼーっとしている。その勢いでゴーグル  
  が飛び、優勝トロフィーにカンと当って
  ゴミ箱に落ちる。
室井「︙︙」

◯かき氷屋兼スナック『まちあわせ』・表
  『スナックまちあわせ』の看板。
  ドアに『かき氷はじめました』と手書き
  の張り紙。

◯同・中
  昼は売れないかき氷屋だが、夜はスナッ
  クをしているため、夜の匂いが強い店内。
  バーカウンターで煙草を吸っている小竹
  香織(40)と、そのバーカウンターに置
  かれた手動のかき氷機で、かき氷を作る
  小竹。
小竹「(回しながら)こういう機械ってノス
 タルジー感じるわあ」
香織「でしょう? 古き良き時代のやつ」
小竹「本音を言うと自動がいい」
香織「それくらい自分でやれ」
小竹「それでも客商売かよババア」
香織「うるせーガキんちょ。宿題しろ。馬鹿
 がもっと馬鹿になる前にな」
小竹「(後ろを向いて)ねえ、どう思う? 
 こんな母親」
  室井、かき氷のスプーンを口に運ぶ手前  
  のまま、動きが止まっている。
  小竹、室井の前に座って、
小竹「聞いてる?」
室井「(動き出し)え?」
小竹「聞いてなかったのかよ。俺たちの心温
 まる親子の会話を」
  と、かき氷にいちごシロップをどばどば
  かける。
室井「まあ、いんじゃね? 聞いてなかった
 けど」
小竹「(食べながら)やっぱ昨日、高峰にな
 んか言われた?」
室井「別に」
小竹「そんなの気にすんなよ、あいつってさ
 弱い奴の気持ちとかまったく理解出来いと
 思うんだわ」
室井「(ぴくり)弱い奴?」
小竹「(慌てて)いやいやなんつーの、心を
 痛めたって意味でのね」
室井「ああ︙︙(と、やっと一口食べる)」
小竹「挫折を知らないんだよ高峰は。今や水
 泳部のエースで、あのマネージャーの加藤
 梓と付き合ってるみたいだし」
  室井、手が止まる。
小竹「可愛いよなあ、加藤梓。乳でかそうだ
 し」
室井「そうかあ? よく見たら太腿も太いし、
 なのに腕は細すぎててアンバランスってい
 うか︙︙、胸も思ったよりでかくない」
  と、ガツガツかき氷を食べる。
小竹「タケちゃん、なんでそんな詳しく知っ
 てんの?」
室井「いや︙︙、何となくシルエットで」
小竹「ああああー!」
  小竹、大声で叫ぶ。
室井「(耳を塞いで)うるせーな」
小竹「そういや一年の時、二人付き合ってる
 って噂あったよな! それほんとだったん
 だ?」
室井「は、なわけないじゃん」
小竹「(じーと疑いの眼差しを向ける)」
室井「ほんとほんと。俺のタイプはもっとグ
 ラマーな年上だから」
  香織、露骨に咳き込む。
小竹「(香織と室井を交互に見て)え?」
室井「(真顔で)マジで違う」
小竹「(ほっとして)あっぶねー」
室井「全然危なくねーよ」
  香織、煙草をもみ消しカウンターから出  
  て来て、
香織「お前ら、こんなところで何時までもだ
 らだらだらだらしてないで、なんかしたら
 どうなんだよ。特に勉強!」
小竹「まだ夏休み始まったばっかでしょ」
香織「すぐだよすぐ。夏休みが無限にあると
 思うな――(と説教は続く)」
  小竹、小声で室井に話す。
小竹「出よう」
室井「(こくこく頷く)」
  香織、二人の前まで来て、
香織「聞いてんのか?」
  小竹、席を立ち、
小竹「ごちそうさまー」
室井「(も立って)さまー」
  二人、足早に店を出て行く。
香織「まーた逃げた」

◯ゲームセンター(夕)
  レースゲーム、ユーホーキャッチャー、  
  格闘ゲームなどで遊ぶ室井と小竹。
  二人は小銭を次々と消費して行く。
  ゲーム中、小竹が「あっ」と誰かに気付
  いて片手を上げる。
  新田歩夢(18)、矢野琉成(18)、谷口
  光輝(18)、白戸彩乃(18)がだらだら
  やって来て合流。
  小竹、ぺこりと頭を下げて、新田に室井
  を紹介。室井も軽く会釈する。

◯カラオケ(夕)
  六人でカラオケを楽しんでいる。
  小竹はラブソングを熱唱中。
  室井だけ居づらそうにしている。
  そんな室井に新田が煙草を勧める。
  室井は逡巡するが、新田に煙草を押し出  
  されて一本貰う。新田が火をつけてやる。
  室井、煙草を吸うが咳き込む。
  笑う新田ら。場が和む。

◯カラオケ・表(夕)
  六人、ぞろぞろ出てくる。
新田「また遊びましょー健くん」
  と、手を差し出す。
室井「あ、はい」
  がっしり握手を交わす二人。
新田「小竹くん、また店貸してねー」
小竹「はい! どぞどぞ」
  彩乃、室井の耳元で、
彩乃「名前彩乃、覚えといてね」
  と、新田らと去って行く。
室井「︙︙」

◯コンビニ・店内(夕)
  室井と小竹が一つのカゴに菓子やパン、
  カップ麺を次々と入れていく。
小竹「いい先輩でしょ? 俺の中学の先輩」
室井「てかあの人達、学校行ってないの?」
小竹「一年で退学したらしい」
室井「へえ。よく辞められたな」
小竹「かっこいいよなあ。俺は学校辞めても
 母ちゃんうるさいから家に居場所ないし、
 だからってこのまま通っててもなあ」
室井「そんなん俺だって同じだし。父さんは
 腫れ物にでも触るように接して来てさ、風
 呂入ったか? 調子はどうだ? プリン食
 べるか? っていちいち。事故の前は無関
 心だったのにうぜえ」
小竹「色々と気を使ってんでしょ」
室井「それが逆に居心地悪くしてんだよ」
小竹「おとっつあんに悪気はないってー」
  室井、財布の中身を確認して、
室井「つかまずい」
小竹「何よ?」
室井「今日で殆ど小遣い使い果たした」
  小竹も財布を出して確認し、
小竹「あ、俺もない」
  二人、顔を見合わせ、無言でカゴの中の
  商品を棚に戻していく。

◯公園(夕)
  ブランコを漕ぐ室井と小竹。
小竹「あーあ、明日から夏休みなのに、遊ぶ
 金ないんじゃなあ」
室井「やっぱバイト紹介して。なるべく家に
 も居なくて済むし、金も稼げるし」
小竹「いいよ。新田さんに言ってみる」
室井「てか何のバイト?」
小竹「俺も前にちょっとやってた事あるやつ」
室井「だから何の?」
小竹「簡単だよ。テッシュ配りより簡単かも。
 それなのに高収入」
室井「いいじゃんそれ。早く言えよ」
小竹「まあでも、失敗したら殺されるけどね」
室井「(止まって)え」
小竹「冗談だよ冗談」
  ケラケラ笑う小竹。
室井「(訝しげに)マジで大丈夫なの?」
小竹「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
室井「︙︙よくわかんねーけど、頼むわ」
小竹「オッケー。(とブランコから飛び降り
 て見事に着地し)また連絡する」
室井「︙︙おう、よろしく」
  小竹、足早に去って行く。
  その軽快な後ろ姿を見送り、室井も帰ろ
  うとブランコからゆっくり降りる。
  すると、公園の入り口で梓がこちらをじ  
  っと見ているのに気付く。
  室井、気まずくて、梓の横を知らんふり
  して通り過ぎようとしたところ。
梓「ねえ」
室井「(ちらっと)︙︙?」
梓「少し時間ある?」
室井「何で」
梓「話がある」

◯近くの道~マンション前(夕)
  無言で歩く室井と梓。
  梓、引きずる室井の右足を一瞥し、
梓「︙︙足、大丈夫?」
室井「歩ける程度にはね」
梓「そう」
  沈黙が続く。
  二人、マンションの前で足を止める。
梓「私ここ」
室井「知ってる」
梓「︙︙」
室井「話、それだけならもう帰る」
梓「まだあるよ」
室井「(行きかけて)?」
梓「なんで︙︙、約束した日来なかったの? 
 待ってたんだよ私、北口で」
室井「別に。気が変わっただけ、風呂入った
 らめんどくさくなって」
梓「ふざけないでよ。真面目に言ってよ」
室井「何が」
梓「あの日、事故に遭ったから来れなかった
 んだよね? だから連絡も出来なかったん
 でしょ?」
室井「それで」
梓「え」
室井「正直に話してどうなんの。俺があの日、
 行っても行かなくても、最終的に梓は俺じ
 ゃなくて高峰を選んだ」
梓「︙︙」
室井「ずっと好きだったんでしょ高峰のこと。
 やっと願い叶ったじゃん。てか俺が二人を
 邪魔してた?」
  梓、ムッとして室井の前まで来る。
室井「?」
  梓、室井の太腿に蹴りを入れる。
室井「イッテ︙︙! 怪我人に何すんだよ!」
梓「元気じゃん」
室井「はあ? どんだけ辛いリハビリ耐えた
 と思ってんだよ!」
梓「知らないよ。何も教えてくれないんだか
 ら。知るわけないじゃん」
室井「(目を逸らし)それはまあ、そうか」
梓「︙︙」
室井「とにかくさ、高峰ならきっと幸せにし
 てくれるんじゃない? 俺よりもずっと」
梓「何それ」
室井「祝辞?」
梓「(ムッ)かっこつけんな、かっこわるっ」
  梓、怒って去って行く。
室井「なんなんだよ︙︙」

◯ある団地・外階段
  階段を上って行く小竹。後ろから室井が
  続く。

◯同・屋上
  何処から拾って来たのか、色褪せたビー
  チパラソルの下、破れたキャンプ用の椅
  子に凭れている新田とミニスカートの女。
  矢野、谷口、彩乃は離れたところでビー
  チボールでキャッキャと遊んでいる。
  小竹、室井を連れて来る。
小竹「こんちわっす」
室井「ちわ」
  新田、サングラスをずらして、
新田「小竹くんと健くんか」
彩乃「あ、健だ~」
  彩乃、ビーチボールを投げ捨てて室井の  
  そばへ駆けつける。
室井「あ、この前はども」
彩乃「ども~」
新田「(小竹に)で、今日からいいの?」
小竹「どぞ。母ちゃん、男と温泉行ったんで
 暫く店にいませんから」
  ビーチボールを持って来る矢野と谷口。
谷口「小竹の母ちゃん、まだハゲたオヤジと
 付き合ってたのかよ。きもちわりぃ」
小竹「いや、ハゲてますけど金はそこそこ持
 ってますんで」
矢野「知らねえよ、きもちわりぃ」
  「ですよね~」とヘラヘラする小竹。
室井「小竹、例の件」
小竹「あ、そうそう。(新田に)あの~バイ
 トの件なんですけどタケちゃんにも手伝わ
 せていいですかね」
新田「あーそれな」
  新田、立ち上がる。
小竹「?」
新田「とりあえず小竹んチ行こう。ここあち
 ぃよ」
  ギラギラした太陽を見上げる。

◯スナック『まちあわせ』・中
  室井が矢野に酒を注がれている。
  新田とミニスカートの女の姿はない。
矢野「まあ、飲んで」
室井「これ、店のっすよね」
矢野「いいんだろ? 小竹」
小竹「はい。後で水入れとけば減ったの分か
 んないんで」
室井「いいんですかね、無断で」
彩乃「(笑って)健、真面目なんだね」
室井「真面目じゃないですよ全然」
彩乃「(おちょくるように)へえ~」
  室井、ムッとして一気に飲む。
矢野・谷口「おお~!」
室井「(噎せて)まずっ」
彩乃「ははははっ! もっともっと」
  彩乃、室井に注ぐ。
小竹「それにしても新田さん遅いっすね~」
谷口「二回目突入してんじゃね?」
小竹「はあ~二回かあ~」
  小竹、椅子に凭れて天井を仰ぐ。
谷口「ムラムラしてんなよ、小竹」
小竹「してないっすよ、してない」
矢野「てか例の件どうなってんだろ」
谷口「そりゃあの女にやって貰うんじゃね」
矢野「つか誰なのあの女」
谷口「どっかでナンパして来たっぽい」
矢野「今度はちゃんと使いもんになんのかよ」
谷口「どーだろ期待してないけど」
室井「(少し酔って)あの、何の話っすか?」
彩乃「ビジネスだよビジネス」
室井「バイトなら俺らも頼んでるんですけど」
谷口「彩乃が紹介してくれるよ。な」
彩乃「私?」
矢野「必要でしょ、男手が」
小竹「タケちゃんなら何でもやりますよ。暇
 を持て余してますから」
室井「何でもとは言ってないって」
彩乃「本当に何でもしてくれるなら助かるん
 だけどなあ」
  彩乃、室井の袖をちょんと引っ張る。
室井「︙︙俺で良ければ」
彩乃「じゃあ、新田が下りて来たらうちらも
 二階行こう?」
室井「二階?」
矢野「(にやにや)彩乃~、いいのかよ新田
 に怒られても」
彩乃「いいじゃん、新田も好き放題してるん
 だし。(小竹に)ね?」
小竹「え、あ、はい。いいと︙︙思います」
  二階から新田とミニスカートの女が服装  
  を整えながら下りてくる。
谷口「あ、噂をすれば来た」
新田「何の噂よ?」
  新田と女が椅子に座る。
矢野「今何発目かって」
新田「馬鹿じゃね」
  彩乃、室井の腕を引っ張ってやって来て。
彩乃「次、うちら使うから。いいでしょ」
新田「(目も合わせず)お好きにどーぞー」
彩乃「(室井に)じゃ行こ」
  彩乃が室井の腕を引っ張る。
室井「(戸惑い)え」
  小竹、室井のもう片方の腕を掴んで、
小竹「(小声で)タケちゃん、枕の下にアレ
 置いてあるから」
室井「何?」
彩乃「行くよ」
  ぐいっと室井を引っ張って連れて行く。

◯小竹の部屋
  室井がベッドに座り、彩乃はカーテンを
  閉めている。
室井「(においを嗅いで)何か小竹の部屋臭
 いっすね。香水と汗が入り混じったような」
  と、言いながら枕を退かす。
  コンドームが隠してある。
室井「!」
  室井、枕を被せて再び隠す。
  彩乃、Tシャツを脱いで下着姿になる。
室井「え、あ、あの」
彩乃「え?」
室井「これがバイトですか︙︙?」
彩乃「違うよ」
室井「じゃあ何故にそんな事を」
彩乃「面接の代わり?」
  と、室井の隣に座る。
室井「面接って︙︙」
彩乃「何? こういう事するのに正当な理由
 とか求めるタイプ?」
室井「いや︙︙正当かは別として、普通は理
 由あるんじゃないですかね」
彩乃「めんどくさいのは苦手だな」
室井「︙︙でも、普通はありますよ。きっと」
彩乃「ふーん。例えば?」
室井「好きだから︙︙とか」
  彩乃、ハッハッハと大笑い。
室井「真面目に言ってるんですけど」
彩乃「そっか。でもまあいいじゃん。今日の
 ところは暇だし好き嫌いなしで」
  彩乃、室井に顔を近づける。
室井「(仰け反って)ちょ、ちょっと待って
 下さい!」
彩乃「え、もしかして初めて?」
室井「じゃないですけど」
彩乃「じゃあ何で」
室井「何ででもというか、何というか︙︙」
彩乃「ああ、分かった! 好きな子いるん
 だ?」
室井「(俯く)︙︙」
彩乃「当たったね」
室井「違います!」
彩乃「当たりだよ。なーんだ。いるのか」
  彩乃、離れてTシャツを着る。
室井「︙︙」
彩乃「(服や髪を整えながら)脱いで損した」
室井「すいません︙︙」
  申し訳なさそうに俯く室井。
彩乃「そんなに好きなんだね。その子のこと」
室井「いや、全然もう終わった過去の話で」
彩乃「元カノか」
室井「(観念して)元カノです……」
彩乃「別れた理由は、『他に好きな男が出来
 ました』って?」
室井「その、直接聞いたわけじゃないですけ
 ど、らしいです」
彩乃「どういうこと?」
室井「他の男が好きらしいって噂があって
 ︙︙。それだったら、振られる前にこっち
 から振ってやろうって感じで一回別れたん
 です」
彩乃「でも忘れられなかったと」
室井「︙︙はい。それで言ったんです。もし、
 そいつじゃなくて俺とやり直してくれるな
 ら、駅の北口で待ってて欲しいって」
彩乃「うわ、青春だね~」
室井「でもその日、自分の不注意で事故に遭
 って行けなかった」
彩乃「げ、災難だね~」
室井「それから入院してる間にその二人、付
 き合ったらしくて」
彩乃「何か、さっきから『らしい』が多いけ
 どそれ事実なの?」
室井「直接は聞いてないですけど」
彩乃「ダメじゃん。聞かないの?」
室井「聞けないですよ。もし違ったとしても
 今の俺じゃちょっと……」
  と、怪我した方の足に目を落とす。
彩乃「そんなの気にする程じゃないよ」
室井「俺が気にするんですよ」
  彩乃、くすっと笑う。
室井「ダサイですよね……」
彩乃「全然。おかげで健のこと知れて、もっ
 と信用出来たかも」
室井「え?」
  彩乃、窓の方へ行くとカーテンを開けて、
彩乃「うちらビジネスパートナーにならなれ
 そうじゃない?」
室井「ビジネスパートナー?」
彩乃「そう。ビジネスは信頼関係が大事って
 言うしね」
室井「……何するんですか」
彩乃「簡単だよ。まず私がオヤジをホテルに
 誘って、ホテルに二人で入ったところに健
 が来て、そのオヤジからお金貰う。これだ
 け」
室井「それってつまり援交ですよね?」
彩乃「援交じゃないよ。ヤッてないから」
室井「けどお金ちゃっかり貰ってますよね」
彩乃「まあ、貰うっていうか脅して盗るんだ
 けどね」
室井「脅した上に盗るんすか︙︙」
彩乃「どう?」
室井「どうって言われても、ダメでしょ普通
 に」
彩乃「(隣に座って)ね、お願い! 健しか
 信用出来る人いないんだよ」
室井「新田さんとか矢野さんとか谷口さんと
 か︙︙」
彩乃「新田はサイトで釣ったオヤジと会う場
 所を指示するだけだし、矢野と谷口はダメ。
 助けてくれないもん。前に親父から逆上さ
 れて襲われそうになった時にね、私を置い
 て財布だけ持って逃げたんだよ。ひどくな
 い?」
室井「まあ︙︙」
彩乃「あ、いいんだ。私殺されても。別に好
 きな女じゃないし、いいもんね、消えても」
室井「(慌てて)そんな、言ってないですよ」
彩乃「じゃあやってくれる? 私を守ると思
 ってさ」
室井「それはそのぉ︙︙」
彩乃「頼れるの健だけなんだって、お願い!」
  手を合わせてお願いする彩乃。
室井「︙︙」

◯ラブホテル街(夕)
  彩乃とオヤジが歩いている。
  その後をついていく室井。
  あるラブホテルへと入る彩乃とオヤジ。
  彩乃、横目で室井をちらと確認。
室井「(頷いて、スマホを構える)」

◯ラブホテル・ロビー(夕)
  彩乃がオヤジと腕を組んでエレベーター
  前で待っている。
  室井、足を引きずってやって来て、
室井「ちょっとあんた、俺の妹と何してるん
 ですか」
彩乃「お兄ちゃん!?」
オヤジ「ふえっ? ふえっ?」
  脂汗をハンカチで拭きながら焦るオヤジ。
室井「あんたとうちの妹がホテル入るところ
 動画で撮りました」
  と、スマホで彩乃とオヤジがラブホテル  
  へ入いるところの動画を見せる。
室井「妹はまだ高校生です。警察行きましょ
 うか」
  オヤジ、あわあわして財布を取り出す。

◯河川敷(夕)
  彩乃が腹を抱えて笑っている。
  室井は浮かない表情。
彩乃「ね、見た? あのオヤジの焦った顔!」
室井「まあ︙︙」
  彩乃、笑い終えるとはあ~と一息ついて、
彩乃「健、心配してたけどちゃんと台本通り
 言えてたじゃん」
室井「一応、練習したんで」
彩乃「やっぱ真面目だね~」
室井「︙︙」
彩乃「はい、これ」
  彩乃、しわくしゃの札を数枚渡す。
室井「……これ、受け取れません」
彩乃「いいから、ビジネスパートナーでしょ」
  彩乃、室井に札を握らせる。
  室井、受け取って、
室井「︙︙」
彩乃「なんかお腹空いたね。今から食べに行
 く? ハンバーグかオムライスがいいな」
室井「あの」
彩乃「?」
室井「俺、このバイト辞めます」
  と、札を返す。
彩乃「(受け取らず)え、何で? こんな簡
 単なの他にないよ?」
室井「けど……向いてないんです」
彩乃「まだ一回しかやってないじゃん。分か
 んなくない?」
室井「けど……分かります。足、ガクガクし
 て声も震えてたし」
彩乃「嘘? 分かんなかったよ。大丈夫だっ
 てそれくらい」
室井「いや、俺みたいな根が真面目な人間に
 はもう無理じゃないかと。心がこう、グサ
 グサしてしまって」
彩乃「何それ、私が根が不真面目で心がない
 みたいじゃん」
室井「そうじゃないです。ただ、俺に度胸が
 ないっていうかチキンなだけで」
彩乃「何か、残念だね」
室井「すいません。残念な奴で」
彩乃「ふーん。認めちゃうんだ」
室井「今更カッコつけてもしょうがないんで」
彩乃「ふぅーん」
  彩乃、前に出された札を受け取る。
室井「……」
  彩乃、札を数えながら、
彩乃「でもさ、これやめて、これからどうす
 んの?」
室井「え」
彩乃「何か他にする事あるの?」
室井「それはその︙︙」
彩乃「なーんにもないからこっち来たんでし
 ょ?」
室井「︙︙」
彩乃「居場所も、ないんじゃないの。何処に
 も、ないんじゃないの?」

○(回想)屋外プールのフェンス越し
  水泳部の練習をじっと見ている室井。

○(戻って)河川敷~橋の真下(夕)
  対峙する室井と彩乃。
彩乃「だから逃げて来た」
  室井、ぎゅっと拳を握って、
室井「……逃げたら、悪いですか?」
彩乃「一般的にはそうなんじゃない」
  言うと、彩乃は川沿いを歩いて行く。
  室井、付いて行く。
室井「でも! 彩乃さんには責められたくな
 いです︙︙(と段々小声になる)」
彩乃「(笑い)なにそれ」
室井「だって挫折知らないでしょ彩乃さんは。
 知らない癖に逃げたとか責められてもムカ
 ツクっていうか」
彩乃「(立ち止まり)知ってるよ」
室井「?(と背中を見る)」
彩乃「挫折。知ってる。私もこう見えて優等
 生だったから」
室井「え」
彩乃「(振り向いて)こんな見た目してるか
 ら嘘だと思ってるでしょ」
室井「そんなことは︙︙(目が泳ぐ)」
彩乃「健って分かりやすいね」
室井「……」
  彩乃、歩き出す。室井も付いて行く。
彩乃「せっかくさ、進学校入ったのに勉強つ
 いていけなくて。一年で落ちこぼれ組」
室井「(歩く)︙︙」
彩乃「でもね、休み時間もガリガリ勉強して
 る周りを見て思ったんだよね。何に、何を、
 何のために頑張ってんのかって。将来のた
 めに犠牲にしてる今って何なんだろうって」
室井「……」
彩乃「そんなこと周りに言ったら笑われたよ。
 変な奴って、勉強出来ない言い訳だろって。
 何か、私の居場所ないって感じた」
  二人、橋の真下まで来て足を止める。
室井「それで︙︙」
彩乃「逃げた。分かんない奴らにも親にもム
 シャクシャしてたのもあったと思う」
室井「︙︙」
彩乃「(振り返り)家出してから丁度ね、新
 田から連絡あって、JKビジネスってやつ
 があるって紹介されてさ、流れに流されて
 今に至るって感じで」
室井「そうだったんすね︙︙」
彩乃「でも結局、逃げた先でも今を犠牲にし
 てるのは変わんないんだけどね」
  彩乃、悲しげに笑う。
室井「家に、帰らないんですか?」
彩乃「親にキレまくって出て来たからな。帰
 りづらい」
室井「︙︙」
彩乃「ほんとはね。このままじゃダメなの分
 かってるけど、新田には私がいないとさ。
 あんなの一人にしたら何するか分かんない
 し」
室井「(聞きづらそうに)気になってたんで
 すけど、新田さんと彩乃さんの関係って」
彩乃「うん。付き合ったり別れたりって関係。
 お互いガキだから。どっちかが大人になら
 ないと恋愛って上手くいかないよね」
室井「なんとなく分かります︙︙」
彩乃「(遠くを見ていて)ね、見てあれ」
  彩乃がまっすぐ指を差す。
室井「(ん? と指差す方を見る)」
彩乃「『迷える羊』だって」
  橋脚にカラースプレーで『stray sheep』  
  の落書き。
室井「ストレイシープ︙︙」
彩乃「うちらのことじゃん」
  二人、ぼんやり落書きを眺めている。

◯団地・屋上
  ミニスカートの女、新田に突き飛ばされ
  る。
  怯える目をして新田を見上げる女。
新田「ちゃんと言ったことやってくれなきゃ
 困るなあ」
女「でも︙︙怖くて」
新田「俺に殴られるのと、オヤジと寝るの、
 どっち怖いの?」
女「︙︙」
新田「ヤッて来いって言ったららちゃんとヤ
 ッて来いよ」
  女、泣いて走って出て行く。
  新田、苛立ちを抑えきれず、パラソルを
  蹴ってなぎ倒す。そしてどかっと椅子に
  座り、イライラしながら彩乃宛にスマホ
  でメッセージを打つ。
  『今どこいる』――。既読にならない。
  矢野と谷口がやって来る。
矢野「新田」
新田「何だよ」
矢野「また小竹の奴がさ︙︙」
新田「それより彩乃は」
谷口「さあ、健と一緒じゃね」
矢野「今頃ヤりまくってるかもな」
  新田、矢野をぎろりと睨む。
  矢野、まずいと目が泳ぐ。
新田「︙︙で、小竹がなんだって?」

◯河川敷(夕)
  『遊泳禁止』の看板。
  川の中で小竹が手足をバタつかせ、溺れ  
  そうになりながらも立ち泳ぎしている。
小竹「す︙︙すいませんしたっ︙︙」
  その様子をスマホで撮影している矢野と
  谷口。新田は石に座ってスマホに夢中。
矢野「何? 聞こえな~い」
谷口「ちゃんと反省してんのかよー」
小竹「す、すびませんっ」
  バシャバシャもがいている小竹。
  彩乃がやって来る。
彩乃「何やってんの?」
谷口「小竹がオヤジ逃してヘマした罰」
矢野「あいつこれで三回目だからな」
彩乃「これいつから?」
  新田、スマホを弄りながら、
新田「まだ一時間しか経ってない」
彩乃「一時間︙︙? 十分でしょ? 溺れち
 ゃうじゃん」
  新田、無視してスマホを弄る。
彩乃「ねえ、新田!」
新田「うるせーな。彩乃も一緒に泳ぎたい?」
彩乃「︙︙」
  と、橋の上を歩いてくる室井を見つける。
  彩乃、走って行く。

◯橋の上(夕)
  室井、橋の下を覗き込んでいる。
室井「小竹?」
  彩乃が前から走ってくる。
室井「彩乃さん、あれ小竹じゃ︙︙」
彩乃「すぐ来て!」

◯河川敷(夕)
  矢野と谷口が動画撮影している。
  室井と彩乃がやって来て、
室井「このままじゃ死にますよ小竹」
彩乃「そうだよ。ヤバイって」
新田「まあ、死んだら死んだでいいんじゃね」
  と平然と言って、新田は立ち上がり、ん
  あ~と背伸びする。
彩乃「それ本気で言ってんの?」
新田「見てみたいんだよ。人が溺れ死ぬとこ。
 面白いよきっと」
彩乃「あんた︙︙マジ狂ってるよ」
新田「(ぎろり)お前も同じだろ。一人だけ
 純情ぶってんなよ」
彩乃「︙︙」
  室井、靴を脱ぎ捨てる。
  矢野、スマホを室井に向ける。
矢野「お、友情だねえ」
谷口「泳げんのかよその足で」
  室井、右足に手を添えて怪我を気にする。
室井「︙︙」
  小竹、手足をばたつかせて叫ぶ。
小竹「タケちゃああああん、来るな~~~! 
 お前はもう、エースじゃなああああい!」
  室井、自分に言い聞かせるように呟く。
室井「そんなもん、気にしてる場合かよ」
  Tシャツを脱ぎ捨て、川へ飛び込む。
新田「(ぽつりと)つまんねえ」
  彩乃、新田等に気付かれないように一歩
  一歩後ずさって、何処かへ走り出す。

◯川(夕)
  室井、右足を庇っているせいで体が硬く  
  なって上手く泳げない。
  小竹、今にも沈みそう。
  室井、泳ぐ、泳ぐ。
  それは名前もないような不格好な泳ぎ。

◯河原(夕)
  動画を撮っている矢野。
矢野「何だあれ、かっこわりぃ」

◯川(夕)
  室井が必死に泳ぐ。
  小竹、水を呑んでブクブク沈む。
室井「小竹ッ!」
  室井、潜る。

◯水中(夕)
  小竹が沈んでいく。
  室井、小竹に手を伸ばす。
  右足がズキッと痛む。
  それでももがいて手を伸ばす。

◯川縁(夕)
  川から浮上する室井と小竹。
  小竹、水を吐く。
室井「(息切れし)だいじょーぶか」
小竹「う、うん……」
  動画を撮影しながら矢野と谷口が来る。
矢野「もう友情物語終了?」
新田「(来て)死なないなら撮っても意味ね
 ーよ」
矢野「そか。ざんねーん」
  矢野がスマホをしまう。
新田「帰ろ」
  新田、矢野等を連れて行こうとする。
室井「(砂利を掴んで)……待って下さいよ」
新田「?」
室井「死ぬとこだったんですよ、小竹」
小竹「タケちゃんいいよ。俺が悪いから」
室井「悪くねーよ! あんたら人の命なんだ
 と思ってんだよ!」
新田「(溜息し)何かさー、アツイやつって
 目障りだねー」
  と新田が室井の右足を踏みつける。
室井「ッ!(痛みを耐える)」
新田「(見下し)いいねその顔。苦しむ顔」
小竹「(あわあわ)新田さん、やめて下さい」
新田「誰に言ってんの。いじめられっ子が」
小竹「(俯く)︙︙」
  遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。
谷口「何か騒がしくね?」
  サイレンが近づいてくる。
矢野「やべ、こっち来るじゃん」
  新田、パッと足を退かす。
  室井、「うっ」と右足を抑える。
小竹「(心配で)タケちゃん︙︙」
新田「ほんとつまんねえな」
矢野「新田、行こう」
新田「(辺りを見回し)彩乃は?」
谷口「いいじゃんほっといて」
新田「ダメだ。あいつは俺がいないと」
  と言って、「彩乃~!」と叫んで捜しに
  川沿いを歩いて行く。
矢野「(新田に)おい、逃げないと捕まる
 って!」
  新田は無視して行ってしまう。
矢野「(谷口に)俺らだけで行こうぜ」
谷口「おう」
  そこへパトカーが到着。
  二人の警官が降りて来る。
  「やべっ」と逃げ出す矢野と谷口。
  警官1が追いかける。

◯橋の真下(夕)
  彩乃を捜しに来た新田。
新田「彩乃~、戻って来いよ~」
  と、橋脚の『stray sheep』の落書きを見
  つけ、その前で立ち止まる。
  落書きに重なって映る自分の影。  
  新田、じっと見ている。
  警官2、やって来る。
警官2「君、ここで何してるの?」
新田「……」
警官2「……聞こえてる?」
新田「何って……。自分でも分からない」
警官2「少し車の中で話聞かせてくれるかな」
新田「……」
   ×   ×   ×
  パトカーから彩乃が出て来る。
  そこへ丁度、矢野と谷口が警官1に腕を
  引っ張られてやって来る。
  矢野と谷口、彩乃を見て吠える。
矢野「彩乃! てめえ、裏切ったのかよ!」
谷口「あの女も捕まえろよ!」
  新田、警官2に捕まえられて歩いて来る。
  彩乃の前まで来て、二人は目が合う。
彩乃「もう終わりだね。うちら」
警官2「この子も君らの仲間?」
新田「知らない。誰こいつ」
彩乃「︙︙」
新田「通行人は消えろ」
  新田、警官2に腕を引っ張られて、パト  
  カーに乗せられる。

◯病院・大部屋
  ベッドに室井。右足に包帯が巻かれてい
  る。見舞いに来た小竹と彩乃。
小竹「もう痛くない?」
室井「うん。ちょっと無理したから怪我のと
 ころが傷んだだけ」
小竹「ごめんなタケちゃん。俺のせいで」
彩乃「ほんとだよ。小竹がヘマしなきゃこん
 な事にならなかったのに」
小竹「それはほんとすんません︙︙」
室井「あの後、新田さん達は?」
小竹「ああ、うん」
彩乃「色々ヤバイ事してたのスマホのデータ
 で分かったみたいでさ、もしかしたら少年
 院送りかもって」
室井「そっか……」
彩乃「まあでもこれで良かったのかもね」
小竹「いいんですかね、これで」
彩乃「あのままじゃもっとヤバイことなって
 たと思うし、良かったんだよ」
室井「︙︙」
彩乃「あーあ、こうなったら家に帰ろっかな」
小竹「え、家出少女やめるんすか」
彩乃「今時流行んないしね」
室井「流行るとか流行らないの問題ですか、
 それ」
彩乃「真面目な話、飽きたんだよね。逃げる
 ことに。向き合いたくなったんだよ。大事
 なこと色々と」
室井「︙︙」
小竹「(椅子に凭れて)大事なことかあ~。
 俺は何だろなあ」
彩乃「健も向き合ってみれば? 例の子と」
室井「え」
彩乃「かっこわるさ全開でさ」
室井「︙︙」
  そこへ「あの~」と梓が訪ねてくる。
小竹「お、来たな、加藤梓」
室井「え」
彩乃「んじゃ、うちらは退散しますか」
小竹「タケちゃん。頑張れよ」
  小竹と彩乃がそそくさと出て行く。
  入れ違いに梓が椅子に座る。
梓「久しぶり」
室井「(気まずそうに)何で?」
梓「小竹くんが教えてくれた」
室井「あいつ勝手に」
梓「(右足を見て)随分と無茶したもんだね」
室井「無茶もたまにはしたいんだよ」
梓「最近は無茶しかしてないんじゃない?」
室井「うっさい」
  梓が笑う。
室井「︙︙あのさ。前からちゃんと聞こうと
 思ってたんだけど」
梓「ん?」
室井「やっぱその、梓は高峰のこと好きな
 の?」
梓「ああ、それか(と笑う)」
室井「?」
梓「何か健さ、勘違いしてるよ」
室井「勘違い?」
梓「好きだったのは小学生の頃の話」
室井「でも噂では今付き合ってるって」
梓「誰かが面白がって流したんでしょ。うち
 らが付き合ってるのよく思ってない人いた
 みたいだし」
室井「……そんなこと?」
梓「そんなことだよ真実は」
室井「……マジかよ。今まで一人で空回りし
 て馬鹿みたいじゃん」
  室井、がっくりと肩を下ろす。
梓「ね、健さ」
健「(顔を上げて)?」
梓「暇ならまた部活来なよ」
室井「行ってもやることないって」
梓「あるよたくさん。マネージャーなら」
室井「やっぱそうなるのか︙︙」
梓「人をサポートするっていいもんだよ。選
 手だけがチームじゃないんだし」
室井「︙︙」
  梓、にっこり笑う。

◯高校・屋外プール(日替わって)
  ホースの巻取り作業をしている室井。
  プールから上がった高峰が来る。
高峰「よ」
室井「(立って)よう」
高峰「帰って来たか」
室井「まあな」
  小竹、ドリンクを腕いっぱいに抱えてや
  って来る。
小竹「みなさ~ん、ドリンク作って来ました
 ~~~!」
  と、水泳部員に「小竹です!」と選挙活
  動のようにドリンクを配る。
高峰「あれも新入りか」
室井「うん」
高峰「これから騒がしくなるな」
室井「いいじゃん賑やかで」
  室井、小竹を見て笑う。
高峰「そういや、もう入れ墨彫ったのか?」
室井「入れ墨?」
高峰「腕に彼女の名前」
室井「彫らねーよ、てか彫るかよ」
高峰「加藤、喜ぶと思うよ」
室井「ふざけんな」
  高峰、ニヤニヤして去って行く。
梓「男子マネージャー集合!」
小竹「はいッ!」
  小竹、ダッシュで来ると、梓の前に背筋
  を伸ばして整列。
  室井も少し遅れて整列する。
  梓、室井の前まで来て、
梓「健、戻って来てくれて良かった」
室井「あ、うん」
小竹「(ため息し)なんだよお」
  不貞腐れて何処かへ消える小竹。
室井「俺にやれることはやるつもりだから」
梓「そうだよ。今まで無駄な時間過ごした分、
 これからは頑張らないとね」
室井「……無駄じゃなかったと思う」
梓「?」
室井「必要だった。遠回りでもあの時の俺に
 は」
梓「(微笑み)そっか」
室井「(少し照れて)そう」
梓「じゃあ、さっそくだけどこれお願いね」
  梓、室井にホイッスルを渡す。
  ×   ×   ×
  飛び込み台に並ぶ、高峰を含む水泳部員。
  室井がホイッスルを首からぶら下げ、プ
  ールサイドに立つ。
高峰「(茶化して)頼んだぞ、新入り」
室井「うるせー。前だけ見とけ」
  高峰、笑って、水泳ゴーグルをつける。
室井「位置について、よーい」
  ピーッ、甲高いホイッスルが鳴り響き、
  今スタートを切った。      (了)

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