【人物一覧表】
ルチェリールタ(20)(30)…騎士団長
クレーディー(19)(29)…ルチェリールタの妹
チビィ(年齢不詳)…魔族
エシャロット(32)…騎士団副団長
シャーザベスラ(年齢不詳)…皇女
カイン(25)…皇太子
ギル皇帝(50)…皇帝
ゲドーナ…ゲドン族首領
〇宇宙空間
N「むかーしむかし。英雄エカイッシュが人類最高峰の騎士団を先導し、迫り来る脅威ゲドン族を打ち倒した。それから、大戦争は英雄の伝記、予言となって後世に伝えられた……しかし、平和が続いていた五王国に、再び災厄が訪れようとしていたのだった……」
宇宙空間を漂う、1000体あまりの未確認飛行物体の大軍。
〇飛行物体・司令室
椅子に座ってにやりと笑うゲドーナ。
〇キペル・シャレイア
T「キペル・シャレイア」
〇ラフドナ城城下町・正門付近
城下町各地で、祭りや催しが行われている。
民衆たちは祭りの店番をしたり踊ったり、騎士団の凱旋を騒ぎながら見守ったりしている。
男A「ルチェリールタ様のご結婚を祝って!カンパーーイ!!」
民衆「うおおお!!」
男の掛け声を皮切りに、杯を掲げる民衆。
男B「来たぞ!」
正門をくぐり、入ってくる騎士団。
男C「うおおおお!ルチェリールタ様!」
女A「ルチェリールタ様〜!!」
民衆「うおおおおおお!!!!」
民衆の視線が、騎士団の先頭のルチェリールタ(30)に注がれる。
エシャロット(32)「団長、大人気ですね。皇太子様とご結婚されるから、みんなルチェリールタ様を祝福されていますよ」
と、ルチェリールタにひそひそ声で話しかける。
T「エシャロット」
ルチェリールタ「(微妙な表情で)まあ、ね」
〇ラフドナ城・王室
シャーザベスラとカイン(25)、王室の窓からルチェリールタを見ている。
シャーザベスラ「カイン、どうだい?」
と、窓からルチェリールタを見ながらカインに話しかける。
カイン「俺の妃には申し分ない。実力と実績を鑑みると、英雄になれていないことが不思議だがな」
T「シャーザベスラ カイン」
シャーザベスラ「(乾いた笑いで)ははっ」
カイン「……」
カイン、ベッドに座り込む。
シャーザベスラ「確かに。平和だから忘れがちだけど、僕はルチェリールタがエカイッシュくらい強いんじゃないかと思ってるよ。彼女が英雄になれないのは、僕の……僕が無能なせいさ」
シャーザベスラの瞳の奥に、ルチェリールタが映る。
〇同・騎士団本部団長室
ルチェリールタ、机で作業をしている。
エシャロット「しかし、ゲドン族の出現報告が増えてきていますね……今回の遠征先でも出現報告がありましたし」
エシャロット、資料を机に置く。
ルチェリールタ、資料整理をしている。
※※※
(フラッシュ)
ゲドン族を剣で斬り伏せる、ラフドナ騎士団の騎士たち。
ルチェリールタ、ゲドン族の死体を見つめる。
※※※
ルチェリールタ「まさか、今まさにエカイッシュの予言通りに……?」
ルチェリールタ、顎に手を当てて考える。
作業をして、しばらくの時間が過ぎる。
ルチェリールタ「それじゃまたね。やっと休暇だよ……」
ルチェリールタ、ため息のように深呼吸をする。
〇自宅・居間
ルチェリールタ「ただいま……」
クレーディー(29)「おかえりバカ姉貴。また、散らかした部屋片付けといたよ。ほんっと、姉貴は騎士の能力以外ポンコツだよねぇ」
ルチェリールタ「(苦笑いのように)あーまた?あはは、ごめんねポンコツで」
T「クレーディー ルチェリールタの妹」
クレーディー、居間のキッチンで昼食を作りながらルチェリールタの方を向く。
ジュウジュウと鳴る音、香ばしい匂いがする。
チビィ(年齢不詳)「おう! 帰ってきたのか!」
T「チビィ ぷるぷるまんまる魔族」
ルチェリールタ、机に座る。
チビィ「明日はルチェリールタの結婚式だよな!」
チビィ、ルチェリールタに抱きしめられる。
クレーディー「そうだよ! 平民生まれのあたしたちが皇族と結婚できるなんてすごいんだから! 絶対結婚してよね! あたしもこんなすごい姉貴を持てて嬉しいからさ!」
クレーディー、料理の手を止めてルチェリールタの方を向く。
ルチェリールタ「……」
料理完成、クレーディーが食卓に並べる。
ルチェリールタ「……本当は……」
ルチェリールタ、料理をじっと見つめる。
ルチェリールタ「結婚したくない」
チビィとクレーディー、静まり返る。
クレーディー「……は?」
クレーディー、ナイフとフォークを机に落とす。
クレーディー「バカ姉貴! 自分が何言ってるかわかってる!?」
ルチェリールタ「わかってるよ!」
クレーディー「なんでよ! あたしがなれなかった騎士に姉貴はなれたんだからさ……そんなこと言わないでよ!」
〇同・居間(回想)
ルチェリールタ(21)「やっと2人で騎士になれるね!」
と、笑顔でクレーディーの方を向く。
クレーディー(20)「お姉ちゃんと違って魔法使えないけど……」
クレーディー、俯く。
ルチェリールタ「大丈夫だって!」
〇ラフドナ城下町・正門付近
クレーディーN「それでも結局、あたしは騎士になれなかった。あたしは、大好きな姉貴に置いていかれることに焦りと喪失感を感じていた」
騎士団部隊、正門をくぐろうとする。
男騎士「あ、こらきみ! 勝手に近づいちゃダメだろ!」
別人に見えるほどひどくやつれた顔のクレーディー、民衆を押しのけてルチェリールタの傍に駆け寄ろうとするも、騎士に止められる。
隊長「この子は誰だ?」
と、首を傾げる隊長。
ルチェリールタ「わたしの妹です」
その声を聞き、クレーディーの瞳に輝きが戻る。
(回想終わり)
〇自宅・居間
クレーディー「あの時、限界であんなだったあたしに気づいてくれたからさ……あたしは救われたんだよ」
ぽろぽろと涙を流すクレーディー。
クレーディー「大好きだよ……お姉ちゃん。ここらへんの家賃は高くて両親も共働きだけど、あたしはお姉ちゃんといれて幸せ」
チビィ真ん中で、3人(2人と1匹)がベッドで川の字になる。
3人、就寝。
〇同・玄関(朝)
ルチェリールタ「行こっか」
2人、玄関で靴を履き替える。
クレーディー「いいの?」
ルチェリールタ「うん」
〇結婚式場・内部
ウエディングドレスを着ているルチェリールタ。カインと並びバージンロードを歩く。
クレーディーは関係者席に座っている。クレーディーの肩にチビィが乗っている。
チビィ「ボクもここにいていいんだな」
クレーディー「昔と違って魔族差別もなくなってるからね」
話すチビィとクレーディー。
ルチェリールタとカインが向かい合う。
ギル皇帝(50)「ラフドナ聖騎士団団長、ルチェリールタよ。わしの息子、カインに永遠の愛を誓うか?」
ギル皇帝、ルチェリールタを見つめる。
ルチェリールタ「はい……誓います」
クレーディーM「姉貴……」
ギル皇帝「それでは、誓いのキスをするのじゃ」
クレーディー「っ……!」
固唾を飲むクレーディー。
ルチェリールタM「これでいいんだ……」
唇が近づく。
クレーディー「待て!」
男勝りな口調で声を張るクレーディー。
一同「え?」
参列者など、全員の視線がクレーディーに集まる。
クレーディー「なぜここに魔族がいる?」
と、チビィに鋭い視線を向ける。チビィ、ゆっくりクレーディーから離れる。
ルチェリールタ、何かに気づいたようにはっとする。
ルチェリールタ「危ない!」
ルチェリールタ、チビィとクレーディーに向かって飛び出す。
辺りに爆音が響き渡り、土煙があがる。
土煙が晴れ、ルチェリールタの姿が現れる。
チビィに覆いかぶさっているルチェリールタ。背中には防御魔法陣。
ルチェリールタ、参列者全員の無事を確認。
チビィ「なんでクレーディーが魔法使えんだよ?」
ルチェリールタ「わかんないよ! とにかく──」
ルチェリールタ、叫ぶ。
距離を置き、ルチェリールタとクレーディー向かい合う。それをじっと見る周囲の人間。
シャーザベスラ「その行為は捨て置けないね、クレーディーくん。誰に向かって牙を向けてるんだい?」
と、クレーディーに歩き迫るシャーザベスラ。綺麗な長い髪が少し揺れる。
ルチェリールタ「皇女様!?何を──」
ルチェリールタの言葉を遮り、勢いよく開けられる扉。そこに女騎士が立っている。
女騎士「式中申し訳ありません! 伝令です! 未確認飛行物体が……王都を襲っています!」
クレーディー「……来たか」
クレーディーは舌打ちをし、一目散に外へ走る。
女騎士A「わっ」
女騎士A、クレーディーをよける。
ルチェリールタ「未確認飛行物体……まさか!」
ルチェリールタとチビィも、クレーディーに続く。
ギル皇帝「まさか……予言の時が来たというのか?」
〇ラフドナ城下町A
ルチェリールタ、空を見上げる。
空に浮かぶ未確認飛行物体の大軍。その数は1000を超える。
そこから放たれるエネルギー弾が、城下町を襲う。
2頭身の人型、人面蝙蝠、浮遊人面海月などのゲドン族が地上で人々を襲っている。
騎士団がゲドン族と闘っている。剣や魔法の音、化け物の咆哮が鳴り響く。
チビィ「なあ、これ一体なんなんだよ!」
ルチェリールタ「ゲドン族……エカイッシュの予言にある、かつて人類と大戦争を起こしたやつらだよ」
チビィ「そんな! どうすんだよあれ!」
慌てふためくチビィ。
ルチェリールタ「騎士団のみんな! わたしは向こうに行く! ここをお願い!」
ルチェリールタ、クレーディーの飛んでいった方向を指差す。
女騎士B「わかりました!」
ルチェリールタ、チビィを抱えて飛び去る。
〇ラフドナ城下町B
ルチェリールタ「見つけた……」
向かい合うルチェリールタとクレーディー。チビィはルチェリールタの後ろでぷるぷる震えている。
周囲では騎士団とゲドン族が戦闘中。
クレーディー「何故、騎士団が魔族に与する」
ルチェリールタ「何言ってんの? わけわかんない!」
クレーディーに向かって叫ぶ。
ルチェリールタ「クレーディー?誰……なの?」
呆然とするルチェリールタ。
クレーディー「魔族に与するなら……死ね」
クレーディー、ルチェリールタに向かって手をかざす。魔力のエネルギー弾が放たれる。
ルチェリールタ「!!」
爆音が響き渡る。
ルチェリールタM「……え、無傷?」
無傷のルチェリールタとチビィ。目の前に大量の水が浮かんでいる。
ルチェリールタ「これは……」
クレーディー「ちっ……勝ち目は薄いか」
クレーディー、逃げる。
〇城下町・自宅付近(夕方)
ルチェリールタ「そんな……」
見渡す限りの、壊滅させられたラフドナ王都。建物はボロボロで壊滅している。
転がる騎士団とゲドン族の死体。生き残ったゲドン族は、未確認飛行物体と共に退却済み。
ルチェリールタ「パパ……ママ……」
目の前には、崩れた自宅と血だらけで事切れている両親。
チビィ「嘘だろ……戦争ってこんなにむごいのかよ……!」
チビィはぷるぷると震えている。
ルチェリールタ、立ったまま拳を握り、歯を食いしばり泣く。
〇ラフドナ王都付近の平原
ルチェリールタ「みんなだめだった……くそっ!」
ルチェリールタ、唇をぎりっと噛む。
ルチェリールタ「行かないと。クレーディーを探しに……今はそれしか……」
と、虚ろな表情でつぶやく。
シャーザベスラ「それなら、僕もそれに同行させてくれないかい?」
後ろからシャーザベスラの声。振り向くルチェリールタとチビィ。
ルチェリールタ「皇女様?」
シャーザベスラ「ラフドナ聖騎士団団長、ルチェリールタ。どうか、僕を旅のお供に連れていってほしい」
真剣な表情で跪くシャーザベスラ。
ルチェリールタ「……」
静かに頷くルチェリールタ。
ルチェリールタたちは、ゆっくりと、歩き出す。
N「ラフドナ王都は壊滅し、全てを失ったルチェリールタ。果たして、残されたクレーディーを見つけ出すことはできるのか!?騎士団長の冒険譚が、いま始まる──!」
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