エレベーターボーイ その他

朗読戯曲、10分程度の短編、障がい者が登場。 上記の設定で書きました。 交通事故に遭い、車いす生活になった会社員が久しぶりに出社した“杉山”。 以前の部下“だいすけ”と遭遇し、思いもよらぬことを言われた。
ひとつ はじめ 14 0 0 11/10
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第一稿

 『エレベーターボーイ』
 
    ひとつはじめ作
 
 登場人物
 杉山 : 四十歳、男、清掃会社の営業課長、今どき珍しく、障がい者に対してきつくあたり理解を示さない ...続きを読む
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 『エレベーターボーイ』
 
    ひとつはじめ作
 
 登場人物
 杉山 : 四十歳、男、清掃会社の営業課長、今どき珍しく、障がい者に対してきつくあたり理解を示さない。交通事故に遭い下半身付随となる

 陽子 : 杉山の妻、三十八歳
 
 だいすけ : 男、二十五歳、小さい頃に事故で左腕を失った、元々器用なタイプではない、障がい者枠で採用され事務員として勤務している

 
救急車のサイレンの音、救急隊員の声、医師や看護師からの呼びかけの声、その後麻酔によりブラックアウト

……一年後、久々に車椅子で出社する杉山
妻の陽子が運転する車に乗って会社の玄関に降りる
 
 杉山 「やっと戻れたな〜、長かった」
 陽子 「これからが大変なんじゃないんですか?」
 杉山 「いや、今まで俺がいなくてみんな困ってたはずだから、これからは俺がみんなのフォローをしていくよ」
 陽子 「だと良いですけどね、皆さんに迷惑をかけないようにして下さいね」
 杉山 「なに言ってんだ?どんだけみんなが俺を頼っていたか知らないんだからいい加減なこと言うなよ」
 陽子 「はいはいそうですか、じゃあ皆さんに挨拶して帰りますね、あなたの職場は何階ですか?」
 杉山 「挨拶なんかしなくていい、エレベーターに乗ったら帰っていい」
 陽子 「いいんですかね〜、これからの事ちゃんと話しておいた方がいいと思うんですけど」
 杉山 「そんなのは俺が話すから気にするなって」
 
エレベーターホールに車椅子で入ろうとする二人

 陽子 「どこから入りましょうか?この段差だと車椅子で入れないですね」
 杉山 「今まで気にもしてなかったけど確かにそうだな、押せるか?」
 陽子 「無理ですよ、二段もあるじゃないですか」
 杉山 「あとで総務に言っておく、入り口にスロープを付けろって」
 陽子 「そんなわがまま通るんですか?これから皆さんにお世話になるんですよ」
 杉山 「俺が言えば大丈夫なんだって、それよりビルの裏に搬入口があるから今日はそこから入るぞ、廻してくれ」
 陽子 「はいはい、ここを右に廻ればいいんですね、明日からはその搬入口に車を着けますよ」
 杉山 「スロープが出来るまでは、そうするしかないな、この会社は車椅子の事も考えないでビル建てたのか、まったく」
 陽子 「その会社の課長さんなんでしょ、あなた」
 杉山 「……」

搬入口、警備員に声をかけビルに入る
貨物用エレベーターの前で待つ二人、奥から
男性が一人歩いてくる、
長袖のシャツの片方は布だけが揺れ腕がない
もう一方の右手は空(から)の台車を押している

 だいすけ 「杉山さん?」
 杉山 「あーだいすけか、こんなところで何やってるんだ?」
 だいすけ 「段ボールの廃棄でゴミ捨て場に行ってました、お久しぶりです」
 陽子 「杉山がいつもお世話になっています、これからも色々ご迷惑をおかけすると思いますがよろしくお願いいたします」
 杉山 「だいすけに世話にはなってないよ、こっちが世話してたんだって、なーだいすけ」
 
ピクっと反応し、一瞬不快感を示し、すぐに元の表情に戻るだいすけ
 
 だいすけ 「はー、杉山さんは今日から復帰ですか?」
 杉山 「そうだよ、だから来てるんだろ、早くエレベーターのボタン押してくれ」
 陽子 「あなた、失礼ですよ」
 杉山 「大丈夫だって、入社以来ずっと俺が世話してたんだから」
 陽子 「だったらなおさらいけません、ご自分の状況わかってますか?一人で正面から入ることも出来ないしエレベーターのボタンにさえ手が届かないんですよ、このまま会社の皆さんに迷惑をかけながら働かせて頂くんですよ」

視線を落とし黙り込む杉山、だいすけがエレベーターのボタンを押しランプ表示を見上げる

 陽子 「じゃああなた、私はこれで帰りますよ、夕方に迎えに来ますからね、えっとだいすけ、さんでしたか、よろしくお願いいたします」
 だいすけ 「はい、ちゃんと職場までお連れします」
 杉山 「じゃあだいすけ、よろしく頼む」
 だいすけ 「はい」

貨物専用のエレベーターの扉が開き薄汚れた内部が見える

 杉山 「こんな汚かったのかここ、だいすけよくこんなのでゴミ出し出来るな」
 だいすけ 「仕事ですから、さ、押しますよ」

だいすけは車椅子の後ろに立ち、片手で上手に杉山をエレベーター内に押し入れた

 杉山 「おい、前を向かせてくれ、そのまま入ったら扉が後ろになるだろ」
 だいすけ 「あ、この中だとUターン出来ないです、すいませんこのままで上がります」

扉寄り、杉山の真後ろに立つだいすけ
視線を感じ振り返る杉山、ほぼ真上からだいすけが見つめていた

 杉山 「…おい、...なんだよ、言いたい事でもあるのか?」
 だいすけ 「それは色々ありますけど」

振り返った杉山に粘ついた視線を送りながら淡々と話し続けるだいすけ

 だいすけ 「それにしてもよく無事でしたよね、杉山さん、あんな事故だったら普通は死んじゃうと思うんだけど」

 だいすけ 「たまたま数分後にタクシーが通ったからよかったけど、普通は死んじゃってるはずなんだけど、よく助かりましたね、轢き逃げで犯人はまだ捕まってないんですって?」

 杉山 「え、あぁ、まあそうだな、ついてたんだろうよ、犯人もすぐ捕まる」
 だいすけ 「あそこは夜、あんまり人が通らない所だから、ほんとついてたんですね」
 杉山 「……ずいぶん詳しいんだな」
 だいすけ 「そりゃ会社の人が事故に合ったら色々耳にしますよ」
 杉山 「なぁ、だいすけ、そろそろ着くんじゃないのか?」
 だいすけ 「……押してなかったですね、すいません」
 
動き出すエレベーター

 だいすけ 「でもこれから大変ですよね、車椅子じゃトイレも行けないし、事務所の中も通路狭いし」
 杉山 「え、そういうの改修してくれたんじゃないのか?」
 だいすけ 「この会社にそんなお金ないですよ、営業課長だったのに知らないんですか」
 杉山 「そうか、じゃあ俺が直接言わないとだめか」
 だいすけ 「止めたほうがいいですよ、今は僕と同じ障がい者枠なんだから、おいてもらえるだけありがたいと思わないと」
 杉山 「なんだと、お前と一緒にするな」
 だいすけ 「だって前みたく働けないじゃないですか、なのに偉そうにしてたら誰からも相手にされなくなりますよ」
 杉山 「だからお前と一緒にするなって言ってるだろ」
 だいすけ 「そうですかね〜、だといいですけど」
 杉山 「なぁ、みんなはなんか言ってたのか?」
 だいすけ 「なんか、とは?」
 杉山 「だから俺の事だよ」

エレベーターが止まり扉が開く

 だいすけ 「あれ、地下に来ちゃいました、すいません」
 杉山 「おいおいしっかりしろよ、何やってんだ」
 だいすけ 「一回出て向き変えましょうか」
 杉山 「そうしてくれ、ずっと後ろ向きじゃ気分悪い」
 だいすけ 「これからはずっとこの生活なんでほんとは慣れた方がいいんですけどね、じゃあ出ますね」

薄暗い地下室に出る杉山とだいすけ、周りに人はいない、非常灯がチラチラと点滅している
 
 だいすけ 「片手だと車椅子を押すの難しいですね、うまく回れるかな」
 杉山 「いいよ、自分でやる」

 だいすけ 「……あの日の事覚えてます?事故の日の事」
 杉山 「さっき言ったろ」
 だいすけ 「じゃなくて、その前の会社での事です」

エレベーターが閉まり上に上がっていく、二人は乗っていない

 だいすけ 「あ、エレベーター行っちゃいました」
 杉山 「何やってんだよ、本当にお前は何も出来ないんだな」

 だいすけ 「あの日も同じようにあなたから馬鹿にされたんですよ、しかも丸めた紙で僕の左腕のあった所叩いて言ったじゃないですか、早く新しい腕をつけろよって、覚えてないですか、あ〜、しょっちゅう言ってるから覚えてないか」
 杉山 「そうだったか?いちいち覚えてないけどそりゃお前のせいだろ」
 だいすけ 「そうなんですよ、あなたにとっては僕を馬鹿にして貶めるのは日常だったんですよ」
 杉山 「……あ?」
 だいすけ 「それであの日、帰りにあなたを追いかけたんです、もう止めて下さいって言いたくて」
 杉山 「追いかけた?」
 だいすけ 「そうです、駅まであんな路地の抜け道あったんですね、知らなかったです、でももう通れませんね、車椅子じゃ」
 杉山 「……」
 だいすけ 「もうすぐ声かけられるっていうくらいの距離まで追いついて、そしたら杉山さんが角を曲がって、同時に僕の後ろからデリバリーの自転車がすごいスピードで追い越して行って、同じ所を曲がってすぐ車のクラクションが聞こえて、一、二秒したら車の急ブレーキの音が聞こえて、僕は自転車が轢かれたのかと思ったんですよ、それで慌てて走って見に行ったら自転車はすでに遠くに走って行ってて」
 杉山 「え、あの時あそこにいたのか?」
 だいすけ 「轢かれる瞬間は見てないから、厳密にはいませんでした、で、赤い車が道路を塞ぐように止まっていて、そのそばにあなたが倒れていたんです」
 杉山 「え、、、で、、、」
 だいすけ 「少し離れた所から見ていたら、車の運転手が飛び出してきて、血だらけのあなたを恐る恐る見てて、でも動いていたんで、あ〜生きてるのかと思って、そうしたら運転手は車に乗り込んで行っちゃって……」
 杉山 「お前、見てたのか?」
 だいすけ 「はい、そういってるじゃないですか」
 杉山 「何ですぐ警察に言わないんだ、いやそれより救急車を呼ぶとかしろよ」
 だいすけ 「何でですか?」
 杉山 「んあ?何でもなにもないだろうが、人が轢かれたんだぞ、俺が轢かれたんだぞ」
 だいすけ 「だからですよ、あなたが轢かれたから見てたんですよ、ホントなら僕がやりたかったけど、運転免許はハードルが高いから」
 杉山 「お、お前、何言ってるのかわかってるのか?」
 だいすけ 「分ってますよ、でも誰も聞いてないし、録音もしてないし、証拠はないので」
 杉山 「だいすけ、あの日、俺を殺そうとしてつけてきたのか?」
 だいすけ 「もう過ぎた事ですよ、それに殺そうとまでは考えてなかったですよ、ほら片手だと逆襲されかねないし。これからは僕があなたの面倒を見てあげますからね、もう悪口いったりしたらだめですよ、うっかり階段から落ちちゃうかもしれないんだから」
 杉山 「……だいすけ、何がしたいんだ……」

 だいすけ 「障がい者がみんな素直で愚直で真面目でいい奴だとでも思ってました?障がい者もあなた達も同じですよ、いい人もいれば悪い人もいる、それだけです、いい人でも責められて、責められ続けたら悪い人になるんですよ、あなたみたいに下半身付随の障がいを持っていて嫌な奴もいますから」
 杉山 「すまん」
 だいすけ 「今さら何を言ってるんですか、本番はこれからなんですから、家のローンも残ってるんですよね、優しい奥さんのためにもあまり早く居なくならないで下さいね、それと、僕の事誰に言っても信用されないですよ、前のあなたのイジメとかみんな見てたし、僕のことを疑う人なんていませんよ、だってほら、ぼく片手しか無いんだから、誰かをどうこう出来ないじゃないですか、それにこの一年、皆さん親切で僕も頑張って働いたんですから」
 杉山 「……許してくれ」
 だいすけ 「じゃ、エレベーター呼びますよ、上へまいります、ちゃんと後ろ向きで入りますけど、見えないから逆に怖くないですか?杉山課長さん」
 
     終わり

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